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#navi(狂蛇の使い魔)
第四話
目の前で一体何が起こったのか、ギーシュには理解できなかった。
マジックアイテムらしき箱を使い、奇妙な鎧を身に纏ったルイズの使い魔の平民。
不思議な形をした剣をどこからともなく呼び出すと、ワルキューレに向かって駆け出したのだ。
「でやあぁぁぁ!!」
そしてワルキューレが攻撃の体勢に入るよりも早く、順手に持ち変えた剣を上から振り降ろしてきた。
ワルキューレは青銅でできている。
たとえ相手が武器を持っていようと、並みの攻撃ではびくともしないはずだ。
攻撃を受け止め、その隙をついて攻撃を仕掛ければいい。
そう、僕はふんでいた。
しかし、やつが二度三度と剣を振るっただけで、その考えは脆くも崩れ去った。
やつの斬撃に、自慢の防御力が意味をなさないどころか、攻撃を受けた箇所にヒビが入り、ついには砕け始めた。
「ハァッ!」
トドメとばかりに下から放たれたその一撃で、ワルキューレの体が宙を舞い、僕の目の前に落ちてきた。
もはや戦える状態にない。
「ふん……もう終わりか? つまらんな」
剣で肩をトントンと叩きながら、『平民だったもの』が呟いた。
「ま、まだだ! 勝負はこれからだ!」
正直、侮りすぎていた。
あのパワーとスピードでは、ワルキューレ一体だけだと相手にならないだろう。
(だが、複数ならば此方にも分がある!)
そう思うと、すぐに二体のワルキューレを出現させ、指示をだす。
「いけ!」
青銅の長剣で武装した二体が、同時に走り出す。
「ほう。もうしばらくは楽しめそうだな」
そう言って、手にした剣を放り投げる。
再び紫の杖を取り出すと、箱からカードを引き、杖に差し込んだ。
『SWING VENT』
杖から声がすると、鏡から赤色の鞭が飛び出し、先ほどの剣と同じように王蛇の手に収まる。
エビルウィップと呼ばれるこの鞭は、剣よりも広い攻撃範囲と、自在な動きで敵を翻弄する。
王蛇は鞭を地面に一振りすると、近づいてきた二体の人形に向けて、上下左右あらゆる方向に何度も振り抜いた。
その攻撃に、ワルキューレたちは思うように近づけず、ついには二体とも武器が弾き飛ばされてしまった。
今は二体とも両腕で守りを固めているが、体のあちこちに傷や破損が目立つ。
頃合いを見計らって、王蛇はワルキューレたちに猛スピードで近づくと、その場で勢いよく回転し、右から回し蹴りを叩き込む。
蹴り飛ばされた一体がもう一体を巻き込み、観衆がいる方向へと飛んでいった。
見物人たちが悲鳴をあげてそれを避ける。
王蛇に傷一つつけることができぬまま、またしてもワルキューレたちはその機能を停止した。
(くそっ、こうなったら……!)
ギーシュは残る四体のワルキューレを呼び出し、突撃の指示を出す。
各々が剣や槍で武装されている。
「ほう……」
王蛇は手にした鞭を投げ捨て、紫の杖を取り出す。
箱からカードを引き、杖に差し込んだ。
『STRIKE VENT』
杖から声がし、鏡から鉄の盾のような物体が飛び出すと、王蛇の右腕に装着された。
メタルホーンと呼ばれるそれは、腕に着ける灰色の盾のような部分と、先端部分から伸びる黄色い角のような突起物でできている。
その形状から、攻撃と防御を両方ともこなすことのできる武器なのである。
突撃してきた四体のワルキューレに向かって、王蛇はメタルホーンを構えた。
王蛇は一体目と二体目の攻撃を避けると、残る二体の攻撃を両方とも盾の部分で受け止め、そのまま横になぎはらった。
二体のワルキューレが地面に転がる。
攻撃を避けられた一体が、再び攻撃を仕掛けた。
が、攻撃が届くよりも前に、王蛇によって上から振り降ろされた一撃を顔面にくらい、地面に叩きつけられる。
その顔には、縦に大きな亀裂が走っていた。
もう一体も王蛇に攻撃を仕掛けたが、盾の部分で攻撃を受け止められると、蹴りで武器を叩き落とされた。
そして、無防備になったその胴体に、王蛇はメタルホーンを勢いよく突き出す。
ワルキューレは咄嗟に避けようとしたが、間に合わず脇腹に攻撃をくらい、弾き飛ばされた。
脇腹の一部が砕け散る。
地面へ倒れたところに、王蛇はすかさず追撃を仕掛ける。
「ダァァッ!!」
メタルホーンの角がワルキューレの首元を砕き、首から上が吹き飛ばされた。
なぎはらわれ、地面に倒れていた二体が起き上がるのを見ると、王蛇は言った
「今日はなぜか調子がいい。……だが、そろそろ雑魚の相手も飽きてきたな」
王蛇はメタルホーンを腕から外すと、そのまま地面に振り落とし、紫の杖を取り出す。
紫の箱から、それと同じ模様が描かれたカードを引くと、杖に差し込んだ。
『FINAL VENT』
杖から声がし、その直後手鏡から巨大な紫の蛇が現れた。
観客たちが悲鳴をあげる。
顔の周りに無数の鋭い刃を持つその大蛇―名をベノスネーカーという―は、シューという声をあげながら、王蛇の方に向かって地を這い進む。
王蛇はその場で構えると、後ろに向かって大きくバック宙をした。
そして、王蛇の背後にまで迫ったベノスネーカーが、口から毒液を吐き出す。
その勢いに乗り、王蛇が二体のワルキューレたちに向かって、両足を交互に上下させる、奇妙な形式の蹴りを放った。
「ウオオオォォ!!!」
(避けられない!!)
獲物を何度も噛み砕く、蛇の牙を彷彿とさせるその攻撃は、身構えるワルキューレたちをものともせずに蹴り砕いていき、そして――爆発した。
二体のワルキューレは木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「そん……な……」
ギーシュが、崩れるようにして膝をつき、うつむく。
いくら奇妙な鎧を纏ったとはいえ、ワルキューレたちが平民を相手に、全く手も足も出なかった。
それどころか、戦いにすらなっていなかった。
あったのは、圧倒的な力による、破壊。
一方的な暴力のみだ。
「この感覚……! やっぱり戦いは最っ高だ……!!」
しばらく愕然としていると、王蛇がギーシュに近づいてきた。
「おい。……ギーシュとかいったか」
「ひぃっ!!」
殺される!と思ったギーシュであったが。
「時々、俺の相手をしろ。……モンスター以下だが、少しはイライラも収まる」
返ってきたのは、予想もできない言葉であった。
一方で、ルイズもまた、愕然としていた。
ただの乱暴者だと思っていた男が、何かとてつもない力を秘めていた。
しかも、この上なく強い。
(あんなのを使い魔にしちゃったのか、私……)
頼れる使い魔だったという喜びよりも、もしあいつが牙をむいたら、という恐怖が、ルイズの胸の中に広がっていく。
ルイズは思わず身震いした。
――これからどう接すればいいんだろう。
そんな疑問を抱えながら、ルイズは広場を立ち去った浅倉の後を追うのであった。
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