「LEVEL JUSTICE」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「LEVEL JUSTICE」(2010/07/30 (金) 05:47:05) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*LEVEL JUSTICE
正義とは、なにか?
ありとあらゆる人間が考え、ありとあらゆる人間が名乗った言葉。
その明確な答えは主として「正義の反対はまた別の正義」などと言われる。
だが、それは賢者と思われたい人間のお茶を濁した、今以上の探求を諦めた愚者の負け惜しみに過ぎない。
正義と定められたそれが本当に正義なのか。悪と定められたそれは本当に悪なのか。
天使とは神の命により生けるものを無慈悲に選別する存在であり、悪魔とは迫害された異教の神々の総称である。
混沌の時代は有史以来途切れることなく、未だに続いている。
世界には全ての犯罪者へと死の裁きを与える殺人鬼・キラが暗躍する。
キラの存在は犯罪者の減少と治安の向上を促す劇薬となっている。
そのキラの影響による犯罪者の減少からか、アメリカでは政府非公認のヒーローを犯罪者とするキーン条例が可決。
だが、それでも悪の姿は減ることはなく、ヒーローたちは姿を再び見せることとなる。
ヒーローにして悪という、ダークヒーローという言葉が明確に生まれるようになる。
ヨーロッパに於いてもキラの裁きにより犯罪者の減少のため、イギリスの全体主義を強める結果となった。
政府の基板に逆らうものは死に、イギリス・ロンドンでは全体主義の名のもとに人々が自分をなくした顔で歩き廻っている。
魔術組織の総本山であるロンドン時計塔は全体主義から抜け出し、神秘の秘匿のため静かに外部との交流を絶ち、ただ真理の探求を続ける。
それに倣うようにローマの聖堂教会も信者以外の介入を拒絶するように門を閉じた。
門を閉ざしたのは、ショッカーを追うように現れた仮面ライダーとショッカー・ヨーロッパ支部の戦いの影響もあるのだろう。
結果としてエジプトの錬金術士集団・アトラス院とも疎遠になり、現代に蘇った吸血鬼・DIOへの対応を遅らせることとなった。
ドイツにおいても忌まわしい壁を取り払おうとも、怪物的頭脳にカリスマを持つ少年の業は消えるどころか強まるばかりである。
また錬金術士の成果の大きな一つとなる、武装錬金とホムンクルスもまた世界の問題の火種となっている。
魔術師にとって倫理など存在しないも同然であるが、ホムンクルスの創造者はその魔術師の間でもさらに飛び抜けていた。
まるで破壊衝動に目覚めたばかりの幼児のように、より強いホムンクルスの創造だけに努める。
結果、尻拭いとして武装錬金を持った錬金術士の集団・錬金戦団が創立されることになる。
穏やかな国と呼ばれる、日本。
だが、それはあまりにも混沌の極地であるヨーロッパとアメリカを比した上での言葉である。
この国にもヒーローは存在し、世界征服を目論む組織が至る所に支部を作っている。
突如復活した笑いながら人を殺す価値観の違いすぎる、古代からの人間の天敵・グロンギ。
穏やかな片田舎の杜王町を舞台に繰り広げられるスタンド使いたちの日常と、正体不明の殺人鬼との戦い。
ある街では次の『神』を決める、未来を見通す日記を武器にしてバトル・ロワイアルが繰り広げられる。
どこかで一人の美青年が少年時代のトラウマと毒ガスの影響で世界に通用する大ピカレスクへと成長していった。
どれだけ危険が増そうとも決して衰えない、キレた若者たちのための眠らない街・池袋。
箱庭学園では天才が何故天才であるか、天才を生み出すことが出来るかを調べる実験が行われる。
冬木市には聖杯戦争と呼ばれる、真理を求める魔術師たちの戦いが一定の周期で行われている。
さらにヒーローも悪も関係なく、ただの人間が持つ恨みと怒りと欲望によって殺人事件は行われている。
これらの問題は今日に突然現れたものではない。
ジョーカー、V、キラ、グロンギ、ショッカー、冥闘士、そして、ただの人間の負の感情。
人の敵として呼ばれたこれらの存在と、ヒーローの戦い。
ありとあらゆる時代に、ありとあらゆる世界に、ありとあらゆる闘争が行われている。
知恵と戦術の女神<アテーナー>と冥府の王<ハーデス>の神々の争いにしても決着のつかないまま未来永劫続いていくだろう。
魔法という科学技術が発達していてもなお、人々は手を取り合うことはせずに【ここではないどこか】へと犯罪の場所を移すだけだ。
人々は定かでない何かを求め母なる星を旅立つ、入れ替わるように現れた外宇宙からの来訪者の存在を置いたままに。
異界・パルミエ王国に伝わる、国に侵略者が現れ危機が訪れたときに現れる五人の伝説の戦士・プリキュアは戦い続ける。
霊長を名乗る人間の横暴に怒りを覚え現れた海からの侵略者の存在も確認されている。
いつだって世界を回すのは破滅的な才能を持つものであり、努力とは才能を持つものだけに許されたトレーニングである。
才能を持たない、選ばれなかった人間はただ舞台装置のように使い捨てにされていく。
ありとあらゆる場所で世界の危機が溢れかえり、結局のところ世界は無事を保っている。
世界はいつも崖っぷちで、才能持つ者同士が血を血で洗う死闘を繰り広げ、それでも人々は街と共に眠ることなく騒ぎ続ける。
眠らない街では、華やかにコーティングされた眩しすぎる夢が空を舞い、絶望は陽の当たらない闇から誘うような声をあげる。
————希望と絶望が一つの陽だまりに同居し、それを人々が傍から眺める混沌の時代。
————今、現在、正義の定義は何一つとして定まっていない。
◆ ◆ ◆
.
黒のスーツに緑のネクタイをつけた中年の男、ブンビーは満面の笑みを浮かべながら歩いていた。
いつもより丁寧にセットした金髪のオールバックもガラスから当たる陽の光で輝いているように見える。
転職後の初仕事で久々の雑務以外の会議への出席だ。
ブンビーは今にもスキップをしだしそうな軽い足取りで、腕には先日渡されたファイルを抱えている。
実を言うとブンビーも転職を果たしたこの会社の詳しい実情は知り得ていない。
新しく発足したイベント企画を立てる会社、ということだけだ。
ただ、給金の良さにとにかく惹かれてしまった、待遇に関してはこの際どうでもいい。
(いやぁ、このご時世に簡単に転職が成功して良かったなぁ。これも日頃の行いのおかげか)
ニコニコとした笑顔を崩さずにブンビーは会議室へと向かう。
段取りは既に渡されたマニュアルで察している、実に面白い企画だと思った。
面接官が言っていた、『正義』やら『悪』やらも関係しているのかも知れない。
まあ、一社員に過ぎないブンビーにとってその真意などどうでもよく、ただ企画が成功すればいいだけだ。
恐らくこの企画は入社試験か、もしくは規模の割に会社としては大した企画ではないかのどちらかだろう。
この狂った世界の壊れた時代にはそれほど物珍しい企画ではない。
ランランと擬音がつきそうな軽い足取り、もはやスキップしてしまったブンビーは勢いよく会議室の扉を開ける。
「みぃなぁさぁーん! 大変ながらくお待たせいたしましたー!
今回のイベントの司会・進行を務めさせていただきますブンビーでーす!」
ブンビーの開いた会議室の中には六十人の人影と、人数と同数の席を持つ巨大すぎる円卓があった。
そして、その上座にはブンビーのために用意された懐かしきふかふかの座椅子。
ブンビーはゆっくりと座椅子まで歩いて行き、笑顔のまま『参加者』の顔を眺める。
『参加者』の顔つきは様々だ。
不機嫌そうに顔をしかめているものも居れば、楽しそうにブンビーを値踏みする目で見るものも居る。
だが、ブンビーにとって見ていて気持ちいいのはこちらに縋るような目を向けてくる参加者たちの存在だ。
(自分で言うのもなんだけど、やっぱり私は見下される方よりこーいうのを眺める方が性にあってるんだよねぇ)
やはり風上に立つのは楽しいなぁ、と思いつつブンビーは手元のファイルを開く。
段取りは既に頭に入っているが、なんとなく偉そうなポーズを取りたかっただけだ。
そして、チラリと中身を一瞥すると直ぐに顔を上げて口を開いた。
「えー、皆さんにお集まりいただきましたのは……あらー!? これはこれはプリキュアさんではないですかー!」
わざわざ自分が指定して円卓の上座、つまりブンビーに最も近い席においた少女へと芝居がかった声をかける。
肩にかかるほどの長さの髪とドーナツ状にくくった左右対象の二房が特徴的な少女、夢原のぞみ。
この少女こそが伝説の戦士プリキュアであり、ブンビーにとって疫病神としか言いようのない存在だ。
ブンビーの私怨以外の何者でもないが、やはり嫌いな人間の悔しがってる顔は何者にも耐え難いものだ。
歯をむき出しにしてなにかを叫ぼうとしているが、一向に声が出ない。
それどころか椅子から立ち上がることが出来ない。
「声が出ないんですねぇ。それが皆さんの着けていただきました首輪の効果の一つですからねぇ。
声帯を……なんだっけな? まあ、いいや。とにかく、皆さんにはイベントの説明が終わるまで声を出すのは禁止しまーすっと。
あ、ちなみに体を動かせないのは首輪とは別の方法で縛ってるらしいですよー。私は詳しくは知りませんけど」
嬉しそうに手元の機器を操作して円卓に座った参加者たちの前に、三次元立体映像で首輪を映し出す。
映像には三種類の首輪が映されている。
白・黒・灰色の三種類の首輪だ。
「これがこのイベントにおけるもっとも重要なファクターである『首輪』ですよー。これが一番重要ですからねー。
ところで、ねえ、どんな気持ち? 大人しく聞いてるしか出来ないってどんな気持ち? ねえ、ねえってばさぁ?」
ニヤニヤと何も言うことが出来ない参加者の顔を眺めながら、ブンビーは勿体ぶるように軽口をはさむ。
悔しがるのぞみの顔を嬉しそうに眺め、説明を続ける。
「えー、首輪には白・黒・灰色の三色があるのが分かりますね?
これは貴方たち、六十人の参加者をグループ分けしたものです。
グループ内の人数は白・黒・灰色から順に、十七人・十七人・二十六人づつ分けています。
灰の人数が多いのは、ゲームの勝利条件を面白くするアクセントとなっております、はい」
ブンビーはそこまで言うと、嬉しそうに唇の端を歪める。
ここからが本番だ、と言わんばかりの表情で、幾人かの参加者の顔に緊張が走る。
相変わらず怯えた表情のままのものもいるし、夢原のぞみなどは今にも食いかかりそうなほどに身体をゆすらせているが。
「そしてまず、勝利条件よりも先に覚えておいていただきたいことが一つ。
この手のゲームでは必ずチップを用いますよね。テーブルゲームを思い浮かべていただければ結構です。
麻雀などのチップが用意されているものよりかは、将棋やチェスのような駒自体をチップとして扱うゲームを思い浮かべてくだされば幸い至極。
これはまさに将棋やチェスの異種のようなものですよ、ええ。
あなた達は駒に、自分の意志で動く駒になっていただきます」
そこで言葉を切り、ブンビーは神妙な顔を作りゆっくりとした足取りで歩きまわる。
勿体ぶるような、かつ下にいる人間をなじる言動が好きなブンビーとしてはこれ以上の舞台はない。
参加者たちの表情を伺い、何が起こるかの不安があまりの先延ばしに対する怒りに変わるちょうど直前に口を開き直す。
「駒としての役割を果たせなくなる、ということは、イコール自らの命が失われる、ということ。
————これから貴方たちには命の奪い合い、つまり、『殺し合い』をしてもらいます」
殺し合い、という言葉をゆっくりと言い切る。
僅かなタイムラグと共に参加者たちの表情が変わっていく様子が面白くてたまらない。
あからさまな怒りに顔を染める者、血が抜かれたのかと勘違いするほど顔を真っ青にする者、状況を把握できずに顔をしかめる者。
狂った笑いをあげようとしたが、声を上げらないことを思い出して顔をしかめている参加者も何人か存在する。
まさに十人十色と言うにふさわしいだろう。
「白グループは黒グループの全滅、黒グループは白グループ、もしくは灰色グループどちからの全滅。
灰色グループは白か黒の勝利が決定するまで生き残ることが条件です。
黒が灰色を滅ぼすと白の負けが決定し、白グループの方々には……残念ですが死んでもらいます。
ちなみに白を滅ぼした場合は、灰色の生き残りは決定しますから、黒グループの方で白も灰も殺したいならば、灰グループを全滅させましょう、ということですね。
白が生き延びたければ、灰を守りつつ黒を殺すのが条件ですな。
ちなみに、灰色だから人を殺してはいけない、なんてルールはないのでご安心を。
つまり、簡単に三つのグループの勝利条件を表しますと、こうなりますな」
ブンビーは手元の機械を操作して、今度はそれぞれの席の前へと立体映像を映し出す。
・白は黒から灰色を守りつつ、黒グループの全員を殺す。
・黒は白グループ、もしくは灰色グループの皆殺しが勝利条件。
・灰色は黒から逃げつつ、白に保護してもらう。黒が勝ちそうだと思ったら、白の全滅に努めるのもアリ。
今度は映像というよりは、文章が浮かび上がったものだ。
ブンビーの言葉を端的にまとめたもので、皆がその文章を目で追っている。
「ちなみに殺害人数、『殺害スコア』を一定数稼いだ参加者にはこちらから『ボーナス』を受ける権利をお送りします。
ボーナスを受けるための『殺害スコア』の目安は、ちょうど三人、+3となっております。
三人殺した方は、『新たな武器の支給』『身体的損傷の回復』のふたつから選択できます。
そして、このルールでは、この『+3』の内訳には白・黒・灰色の区別が一切ないことです。
つまり、同じ色の参加者を殺しても一向にかまわない、ということですね」
・人を一人殺すことで、その参加者の『殺害スコア』が+1となる。
・『殺害スコア』が+3となった瞬間、ボーナスの『新たな武器の支給』『身体的損傷の回復』を施行できる権利が発生する。
・ただし、ボーナスを受ける権利は一定時間が過ぎると消滅するが、その場合、『殺害スコア』は+3のままとなる。
・なので、次に三人を殺し+6となった際にボーナスを一度に両方、もしくは二つの武器の支給を要求しても良い。
・首輪は白・黒・灰色の三つの種類があるように見えるが、実際は首輪の機能により色を変えているだけで全て同じもの。
・その機能により『殺害スコア』を−1することで、自身の首輪の色を変えることができる。
「これらのルールはイベントを上手く立ち回るためには超重要なルールですよー。
特に『首輪の色の変更』のルールにいたっては、勝利条件に大きく関わってきますからねー。
なお、ボーナスを発生させる条件は簡単です。
首輪のちょうど中心、実際に装着すれば喉仏にあたる場所に、わかります?
そこがセンサーとなっており、自分の指で指したあとに『変更したい首輪の色』を言ってもらえれば結構ですので。
ボーナスの際は『武器』『治療』、もしくは『見送り』のどれかを言ってくださいねー。わかりましたかー?」
何人かが考え込む仕草をしている。
恐らくルールの穴がないかを探しているのか、もしくはどうすれば有利にゲームを勝ち残れるかを考えているのだろう。
その一部を無視してブンビーは新たなルールの説明に移る。
「ちなみにイベントの制限時間は四十八時間、ちょうど二日となっております。
その時になってもまだイベントが終了していない場合は……残念ながら勝者なしということで全員が敗者になります。
身も蓋もない言い方をするならば、皆さん全員に死んでいただく、ということになりますねー。あはは。
まあイベントの進行具合次第では延長が入るかもしれませんが、よほどでなければ四十八時間がタイムリミットと思ってください。
ああ、それから六時間ごとに死亡者の発表などこちらが参加者の皆さんにアクションを起こしますから忘れないでくださいねー」
あとは何があったかな、とブンビーは手元のファイルへと目を落とす。
その上で残っていたものを確認したあとはパタンとファイルを閉じて顔を上げる。
「ああ、もちろん素手で殺し合え、などというわけではありません。
こちらからは二日生き延びるには必要な食料と水、イベント会場についたときに迷わないための地図とコンパスとライト、そして情報をまとめるためのメモ。
そして、こちらがランダムに入れさせていただきました様々なものが、二つ三つ、人によっては一つかもしれませんが、あります。
武器か防具か、不思議な道具かもしれなければ全く役の立たない日用品の可能性もあります。
まあ、中には武器など必要がない!という方もいるかも知れませんが。ねえ、プリキュアさん」
「〜〜!」
のぞみは出ない声を上げてなにかを発しようとするが、ブンビーには届かない。
それを見届けたブンビーは嬉しそうに腹を抑えながら声を上げて笑う。
ひとしきり馬鹿にする笑いを上げたあと、目に浮かんだ涙をぬぐいながら言葉を続ける。
「ん〜、あ、それとグループ分けにはある程度の基準があります。まあ、ある程度、に過ぎませんが。
そして、ここがある意味最も重要なことです! いいですか、今から重要なこといいますよ〜、私!」
ブンビーは、おほん、と軽い咳払いを入れ拳に力を入れて熱弁を始める。
これを聞いたときはブンビーも驚いたものだ。
とは言え、今の時代、この世界におけると常識なんて馬鹿らしいものかも知れないが
「参加者はバリエーション豊かに選ばれております!
様々な人々、十人十色と言いますがそんなのがバカな言葉に思えるほどの変人奇人一般人を及びしております!
そしてなによりぃ〜!」
ブンビーは一瞬タメを入れ、力を込めて言葉を放った。
「なんと! 過去に存在した人間や、死の国から強制的に出向いていただきました! きゃー!パチパチー!」
小さく腕を折りたたんで胸の前でぱちぱちと手を叩く、中年の男がするにはあまりにも気持ち悪い動作をしながらブンビーははしゃぎだす。
だが、ブンビーに向けられるのは一部の相変わらずの冷たい視線と、異常者を見るような怯えた視線だけだ。
はあ、と軽くため息をついて三度目となる手元の機械を弄る。
そして、勝利条件の文面が消え、代わりに参加者たちの立体映像が現れる。
写真はあまり大きくないが、知っている人間なら見つかるほどの大きさの写真だ。
「はい、これがグループでは分けていない、適当に並べた参加者たちの顔ですよー。死んだはずの知ってる人がいるでしょう?
映像と違って席順はグループ別で分けてますから、気付かなかったかもしれませんけど」
『…………!?』
ブンビーの言葉に全員が、特に白のグループが、身体を硬くする。
黒のグループは面白そうに笑っているのが大半だ。
出来れば部下になりたくないタイプだな、とブンビーは感じた。
(確か白と黒は面倒くさいの多いから当てない方がいいんだよな……灰色の人、灰色の人っと)
「ではまずは……松田桃太さん。なにかご質問はありますか?」
「え、ぼ、僕?」
僅かにためらったように口を開いたが、隣の二十前後の女性の姿を見ると顔を引き締めた。
そして、顎に手を当て考え込む仕草をした後、ゆっくりと口を開いた。
「えっと、これに警察や政府の……」
「許可はありません、それだけですか?」
「は、え、は、はい……」
松田の発言に、その知り合い達が顔を多大な失望と少量の怒りを込めた表情をしたのが、ブンビーには面白かった。
が、それがブンビー自身に向けられる視線と似ていることを思い出すとちょっと腹がたった。
その嫌な気分を振りほどくように、次の質問者を探す。
「えー、では次は、マキリ……?慎二さん」
正式には『マトウ』なのだが、ブンビーは半分おちょくりを入れて間違えた名前を言った。
が、間桐慎二なる少年はそんなブンビーを無視するように半ば叫ぶように声を上げた。
「お、お前、『魔法使い』なんだろう!?」
「はい?」
半狂乱の少年は脂汗を掻きながらブンビーに言葉を投げつけ、ブンビーは不思議そうに首を捻って少年の次の言葉を待つ。
少年はその醒めた態度が気に食わなかったのか、ヒステリックに叫んだ。
「『魔法使い』なんだろう、お前は!? か、過去から人を連れてくるなんて、魔術師でも出来ないんだ!
なら、お前は『魔法使い』なんだろう!? そうに、そうに決まってるじゃないか!」
「ん〜……まあ、一言だけ答えるとするなら、少なくとも私は魔法使いでも魔王でも社長でもなんでもない一社員ですよー。
出来るなら定年まで働いていたいというささやかな夢を持つ、善良な一社員にございます」
「なっ……」
「はい、マキリさんの質問終わり!」
「〜! ……〜!?」
間桐慎二は何かを言おうとするが、直ぐに声が出なくなる。
「では、最後に……我妻由乃さんにしときましょうかね」
前の二つと同じようにブンビーの言葉に反応して、腰まで届くほど長い髪をした少女へと光が当たる。
少女・我妻由乃は、コホン、と確かめるように咳払いを入れて、顔をうつ向かせて考えこむ。
「人を殺すと『殺害スコア』がプラスされる……」
「ええ。ですです、はい」
「なら、その『殺害スコア』を他人に譲ることは可能?
例えば、+2持っている人が+1の怪我人にスコアを譲って、その怪我人にボーナスを使わせる、といった展開は?」
「ははん……それはそれは……」
また面倒くさいのに奴を当てちゃったなー、と思いながらブンビーは耳に手を当てて直属の雇い主の判断を促す。
どういう原理かは知らないが、向こうは何時でもブンビーに直接指示を出せるようになっている。
過保護な雇い主だとは思うが、責任なんて可能ならば負いたくない社会人であるブンビーにはありがたい限りである。
指示が来ないようなら不可で構わないだろう。
そんなことは考えていると、直ぐに指示が入った。
一拍をおいて与えられた指示は『可』、ブンビーはひどく参加者に譲歩する企画者と思ったがその後に条件がついた。
「可能です。
ただし、殺害スコアを譲る際には両者の合意、そして、手をつなぐなどの身体的接触が絶対条件ですよ」
「……」
ブンビーの言葉を聞くと、自由に動く首を動かして隣の少年に笑いかける。
やせ細った、ともすれば不健康にも見える少年は愛想笑いのような不恰好な笑みを返すだけだ。
「さて、それじゃ三人の質問も受けましたし、そろそろ会場への移動としましょうか。
会場に着くと、足元に必要道具をまとめたデイパックがありますから中身を確認しておいてくださいねー。
ルールが詳細に書かれた『マニュアル』が入ってますから」
まだ、言いたいことはある、と顔をしかめるものが多数でるが、その一切を無視する。
その一言と共に、ブンビーが幾度目かになる機器を弄る。
その瞬間、椅子の下が、パカリ、とバラエティ番組さながらのノリで開かれ、落下していく。
「気づくと会場に居ますからねー、それじゃ、頑張ってくださーい」
主催
【?@?】
司会・進行
【ブンビー@Yes!プリキュア5シリーズ】
ルール
・白グループは黒グループから灰色グループを守りつつ、黒グループの全員を殺す。
・黒グループは白グループか灰色グループの皆殺しが勝利条件。
・灰色グループは黒グループから逃げつつ、白グループに保護してもらう。
黒グループが勝ちそうだと思ったら、白グループの全滅に努めるのもアリ。
・同色の参加者同士が殺してもいい。
・人を一人殺すことで、その参加者の『殺害スコア』が+1となる。
・『殺害スコア』が+3となった瞬間、ボーナスの『新たな武器の支給』『身体的損傷の回復』を施行できる権利が発生する。
・ただし、ボーナスを受ける権利は一定時間が過ぎると消滅するが、その場合、『殺害スコア』は+3のままとなる。
・なので、次に三人を殺し+6となった際にボーナスを一度に両方、もしくは二つの武器の支給を要求しても良い。
・首輪は白・黒・灰色の三つの種類があるように見えるが、実際は首輪の機能により色を変えているだけで全て同じもの。
・その機能により『殺害スコア』を−1することで、自身の首輪の色を変えることができる。
・殺害スコアを利用する際には、喉元のセンサーで指紋認証を行う。
・首輪の色の変更の場合は変更先の色を言う、ボーナスを使う場合は『支給品』『治療』『見送り』のどれか。
・殺害スコアは他人に譲渡できる。ただし、両者の合意と身体的接触が絶対条件。
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: