『モーニング戦隊リゾナンターR 第??話 「半分エスパーの世界(後)」』


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女は“反射”の能力を解除していた。
相手は能力者ではない普通の人間。 
鍛錬を重ねたわけでもないOL程度の体力しか持ち合わせていない女。
そんな女の攻撃を防ぐのにチカラの発動は必要ないと思ったかだらが、それだけではない。

― あいつと同じ姿をしたお前を壊してやる。 お前の力を利用するのではなく、私自身の拳で壊してやる。

苛立ち、怒り、憎しみが女を動かしていた。

― ふん。 遅いし、狙いが見え見えなんだよ。 えっ!!

愛の動きを見切っていた女。 だが一瞬愛の姿が消えたように見えた。そして…。

女の予測を超えてその眼前に接近した愛の拳が炸裂した。

― こいつ、跳んだのか。 今確かにテレポートしたぞ。

事前に得ていた情報からは有り得ない愛の動きに驚きながらも、優れた運動神経で回避行動を取る。
間に合ったはずだった。
鍛え上げられた女なら、愛の拳に空を切らせることは容易いはずだった。
しかし女は見誤ってしまった。
愛の経験値の無さを。

人間が繰り出すことの出来る最速レベルの打撃なら女は回避しただろう。
だが“こくえけん”の所長秘書として働き、誰かに拳を振り上げたことの無い愛の拳は遅かった。
恵里菜を守るという決意は秘められていたが。

予測を遥かに下回るスピード、威力の愛の拳は結果的に女の裏をかいた。
へなへなの拳が女の顎を掠めていく。


― やばい。 脳が揺れた?

虫も殺せないような愛のへなちょこパンチを受けて、平衡感覚を一瞬失いかけた女は大きく体勢を崩し、倒れそうになる。
拳を振るった愛が信じられないような表情でその様子を見ている。

― くそっ、こいつなんかに。

素人同然の愛に倒される醜態だけは見せたくないと、体勢を立て直そうとした女はよろめいた場所にあった標識につかまった。
その標識も先刻発動した恵里菜のサイコキネシスによって劣化していたのか、女の体重を受けて、曲がり、折れた。

「あははははははははははははははは」

折れた標識を手にしながら、笑い出だす女。
その狂騒を痛ましそうな目で見つめる愛と恵里菜。

「高橋さん、大丈夫ですか」

「大丈夫やないよ、真野ちゃん」

二人の間に束の間の安堵の空気が流れる。

「あははははっ。 面白い。 こうでなくっちゃ。 こうこなくっちゃ、面白くない」

漸く笑いを終えた女が、愛たちを見た。

― やばい。 あの女イッちゃってる。

愛が恐れたのも無理はない。
女に瞳には狂気の焔が宿っていた。


「いいねえ、高橋愛。 今お前は確かにテレポーテーションの能力を発動した」

「いやっ。 私そんなつもりとか全然」

「否定することはない。 私がこの目で見たんだ。 でもこれで限定解除だ。 お前が能力者であるなら手加減抜きだ。 私から仕掛けてお前を潰す」

― ひぃ。 とんでもないことになった。

愛には能力を発動したという意識はない。
ただ恵里菜のことを守るという決意だけで突き進んだだけだった。
自分が女の“反射”能力の盾を打ち崩せるとは思ってもいなかった。
少しでも女を引きつけて、恵里菜が逃げる隙を作れればいいと思っただけだった。

折れた標識を振り上げて、女が迫っていた。
傍らの恵里菜に告げる、女に攻撃を仕掛けず、逃げろと。


恵里菜は愛を置いて逃げることなど考えてはいなかった。
“こくえけん”で愛からこう教わった。

「真野ちゃん。 一日でも早く一人前のエスパーになりなさい。 そしてそのチカラで困ってる人を助けてあげなさい」

そう教えてくれた愛を見捨てることなんて出来るはずなかった。
愛にもそんな恵里菜の気持ちは伝わった。

― 別にエスパーでなくたってそれぐらいわかる。
  この子を未来に導くのが私の仕事。
  神様、私にもう一度だけ勇気と力を。
  女が標識を振り下ろす前に懐に飛び込む。


女には愛の意図はお見通しだった。
恵里菜を突き飛ばすようにして自分に向かってきた愛を見てほくそ笑む。

― さよなら、高橋愛。

振り下ろすと見せかけていた標識を槍のように突き出す。
恵里菜のサイコキネシスで劣化していた上に、女の体重を浴びて折れた標識の柱部分の先端はささくれ立っていた。
その先端が愛の胸に刺さろうとした。

その時、闇色の光が広がり、時間が静止した。
愛が、恵里菜が、マイケル・J・フォックス(仮名)こと亀井絵里が、ようやくこの場に到着した光井愛佳が、遠巻きにこの戦いを見ていた野次馬が。 そして愛を壊そうとしていたパーカーの女が。
全てのものが動きを止めた。
音の消えた世界を一人の女が歩いてくる。
一切の感情を何処かに捨ててきたような女。
高い知性を窺わせる貌。
もしも、パーカーの女がその女を見ればこう呼んだだろう。

「保田さん」と。

野次馬や横転している車。 
あらゆる障害物を悠然と回避して愛たちのいる地点に到達した保田は、標識の槍で愛を突き刺そうとしている女の腕に触れた。
その瞬間パーカーの女の時間が動き出す。

「保田さん。 どうしてここへ」

「ねえ、小川。 私のやろうとしていることはその過程で無辜の人たちの命を限りなく奪ってしまう。 
だからこそ避けられるなら流血の事態は避けなさい。 特に無能力者の血を流すことは。 この世界に送り出す前に言ったはずよ」

「離してください、保田さん。 こいつは確かに瞬間移動して私に攻撃してきた」

「だからって、あんたに危害を加えられたとは思わないけどね」

保田は小川の腕から手を離すと動きを止めた愛の前に立ちはだかる。

「そこを退いてください、保田さん。 そいつは、そいつは!」

「あんたがその気になれば私の制止なんて意味はない。 やりなさい、あんたのやりたいようにやりなさい。でもね」

「で、も…」

愛への敵意は消えないながらに、保田の言葉の続きを待つ。

「本当にそれがあんたの望みなの。 瞬間的に能力の萌芽を見せたとはいえ、あんたの足元にも及ばない無能力の女の命を奪ってそれであんたは満足なの?」

小川の身体が震えだす。 こみ上げる感情を抑えるように。

「私はあんたが血に餓えた殺戮者でも、復讐の念に取り付かれた復讐者であっても構わない。 でも小川、あんたはそれでいいの?」

「や、保田さん」

小川の身体の震えが大きくなる。
そんな小川を見つめながら保田は話し続ける。

「この壊れかけで不安定で移ろいやすい世界の中で自分を見失ったら、あんたはあんたでいられない。 きっと泡のように消えてしまうわよ。
それでもいいの、小川。 あんたの望みは何。 あんたは一体何がしたかったの? 何になりたかったの?」

小川の手から標識が落ちた。
跪き、両腕で地面を叩き思いのたけを吐き出す。

「ヒーローになりたかった。 私は世界を救うヒーローになりたかった。でも、でも・・・・」


言い終わり、慟哭する小川を見つめながら保田は街の破壊状況を観察する。

― 真野恵里菜の強烈なサイコキネシスを本人にダメージを与えることなく見事に反射しているわね。
  街の建物にしたって、反射を拡散させることによって最小限のダメージに抑えている、この子は。

自らも跪き、小川の肩に手をかける。

ひっ、と声を上げる小川に静かに語りかける。

「一緒に世界を救いましょう。 私たちのことをヒーローと呼ぶ人はいない。 死神や悪魔と罵る人はいてもね。
でも私は世界を救ってみせる。 私や私の仲間の生きている世界を救ってみせる。 そして、そこにはあんたもいて欲しい」

小川の慟哭が収まるのを待って、立ち上がるように促がす。

「行きましょう。 もうこの世界には用はない」

「で、でも真野恵里菜はどうするんですか」

「彼女が闇に堕ちたなら、最高の能力者として働いてもらうつもりだったんだけどね」

そう言うと歩き出し、愛に向かって手を差し伸べた状態で静止している恵里菜の傍らで立ち止まる。

「でも残念ながら、彼女は闇に堕ちなかった。 洗脳したり、脅迫して働かせることは出来てもそれじゃ意味はない。
自らの意志を持たない能力者なんて私のやることの役になんて立たない」

「でも…」

どこか不満そうな小川を伴って、その場を後にする保田。

「この子が味方になってくれたら、あんたの負担も減ると思ったけど」

「頑張ります。 保田さんのためなら私」

そんな小川の肩を叩くと、世界と世界の壁を超えるための転送ポイントに誘いながら、指を鳴らした。



― そして、時は動き出す。

「お、あわわわ」

標的を見失い、バランスを崩し倒れる愛。
そんな愛に向かって手を差し伸ばしていた恵里菜もまた倒れ、愛のお尻に顔を埋める。

「うわっ、重い」

「失礼です。 私そんなに重くありません」

身を起こし顔を見合わせる二人。

「ちょっとどいて、どいて」

今頃になって愛に追いついた愛佳が二人に折り重なるように倒れ…。

「重い」 

愛と恵里菜の口から同じ言葉が飛び出した。

「しっつれいやな、あんたら。 特にあんた、食い逃げの分際で何て言い草や。 出るとこ出よか。 無銭飲食で捕まったら今の職場首になるで」

「それは困ります。 今の職場お給料も良いし」


愛の慌てぶりを見ると、愛佳の顔が笑いでほころんだ。

「冗談やがな。 そっちの姉さんのことが心配やったんやろ。 そんな人から金取るほどウチはえげつのうないでぇ」

良かったと胸を撫で下ろす愛と恵里菜。

「訳も判らんと走ってきたら、お腹がすいたで。 ほなもう一度店に帰って飯にしよか。 勿論ウチのおごりやで」

「やったぁ」と手を叩く恵里菜の無邪気な様子を見ながら、愛は故郷の母親にお見合いを断る決心がついた。

― お母さん。 私故郷には帰れません。 ここには私を必要としてくれる半分エスパーがいる。
  この子を助けて、教えて、導いて、私も成長していく。 だから…ゴメン。 もうちょっとの間だけわがままを許して。

愛佳の喫茶店に向かい歩き出した三人を亀井絵里がぽけーと突っ立って見ている。
その所在無げな様子に愛は思わず声をかける。

「えっと、亀井絵里さんやったね。 あんたも一緒に来ない」

「すっごい。 何で私の名前判るんですか。 ひょっとしてあなた、エスパー」

― アホや。 この女掛け値なしのアホや。

すっごい、すっごいと騒ぎ立てる亀井絵里をあしらいながら愛は思う。

人はみんな心に無限の可能性を抱いてる。 
真野ちゃんにも、私にも、そしてあの人にだって。

自分の命を奪おうとまでした女のことを思いながら、恐れや憎しみは覚えていない。
ただ、ただ、心が疼いていた。
あの人はいったい……。