『モーニング戦隊リゾナンターR 第??話 「半分エスパーの世界(中)」』


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苦しい。
心臓は波打ち、肺は悲鳴を上げ、体中は冷え切っている。
気がつけば私は分厚い強化ガラスに囲まれていた。
ガラス越しに私を観察する白衣の研究員たち。
その背中越しには今私が閉じ込められているよりも小さな水槽が見える。
その内部は水で満たされている。

戻ってきたんだ、夢の世界に。

現実の世界でパーカーの女に襲われていた真野恵里菜を守ろうとして、果せなかったという認識が明確にある。
スタンガン、110万ボルトの電撃、“反射”能力による反撃。
自分の知らない能力を持った人間が存在することを知った愛は自分を責める。

これまで上から与えられた仕事をこなして、時間が来ればプライベートに戻って、お食事して、買い物して、たまに合コンに参加して。
そんなお気楽な日々を過ごしてきた結果がこの有様だ。
真野ちゃんのことを守れず、失神させられてしまった。

恵里菜のことを救うために、夢から覚めようとする愛だったが、研究員たちの声がそれを阻んだ。

―素晴らしい。 あの検体は確かに空間を跳躍したぞ。 能力発動の瞬間の映像と脳波の記録は出来ただろうな。

―勿論だ。 しかし何とかして跳躍中の脳波を記録できないものか。 小型のチップを脳に埋め込むわけにはいかないのか。

―現状では無理だ。 能力の発動にどんな影響が出るか判らない。 それに粒子化した肉体を再構成する過程で異質の…

―脳波を解析して、検体の粒子化の過程を記録した映像とシンクロさせるんだ。 脳のどの領域で粒子化を…

―何はともあれ、祝杯を上げよう。 プロジェクト“i”の新しい一歩に。

この夢の中は…地獄だ。
強すぎるチカラを持つ恵里菜に対して抱いた負のイメージがこんな夢を私に見せているのだろう。
夢だと判っているから耐えられるけど、そうじゃなきゃ狂ってしまう。

分厚いガラスは外の音声をカットする働きをしているようだ。
しかしそんな機能とは関係なく、研究員たちの思考が愛の心の中に飛び込んでくる。

“こくえけん”はエスパーをこんな目で見たり、実験動物みたいに扱ったりはしない。
でも世界にはエスパーを悪用しようという集団が存在していることを愛は知っている。
エスパーのチカラが強ければ強いほど、そこに利用価値を見出す非道な連中。
あのパーカーの女もきっとそんな連中の一味なのだろう。

                    ★

「ひどい」

パーカーの女を詰る恵里菜。 自分を守ろうとして女に倒された愛のもとに駆け寄りたいのだが、それを阻む事情があった。
女のチカラで自分が傷つくことが怖いのではない。

「ひどいって何がさ」

女が心外そうな表情を装う。

「だってあなたは高橋さんをそんなにひどい目に遭わせて。 それに街もこんなに壊して!!」
パーカーの女は自分を糾弾する恵里菜に向かって右手の人差し指を掲げると左右に振った。

「今の見てなかったっけ?。 私はこの女がいきな使ってきたスタンガンの電撃を跳ね返しただけ。
ラジオ局や街を壊したのだって私じゃない。 壊したのは真野ちゃん。 君のサイコキネシスじゃないか」

女の冷静な指摘に対して恵里菜は反論する。

「でも、それはいきなり現れたあなたが私のことを…」

「そう。 私は君をいるべき場所に誘うためにわざわざこの世界にやって来た。 “半分エスパー”の世界にね」

                    ★

―しかし検体“i914”の不安定すぎる。 いくらスペックが高くてもこれじゃ実戦で運用できない

―実戦への投入は考えなくていい。 評議会の年寄り連中を納得させられるだけのデータが存在すればプロジェクトは続く。

―それはデータを改竄しろということか。

―存在すればいいと言った。 後は察しろ。

―とにかく第一線における運用プランが必要だ。

―こんなのはどうだ。 あまりにも圧倒的過ぎる検体“i914”を補完し、牽制する為に能力者のチームを組ませるんだ。

―“i914”を制御するためのマインドコントローラー。 暴走による負傷をカバーするためのヒーラー。

―それなら一人面白いのがいたぞ。 北信越の統括から報告があった小川麻琴という“反射”能力者。 “i914”に年齢も近い。

―お前どうかしてるぞ。 検体に年齢なんて無いだろう。 

―最強の“i914”に対するカウンター、いや安全装置としての、無敵の“m1029”か。 悪くない。


何とかこの悪夢から覚めて現実の世界に戻らないと。 でも戻ったってエスパーでもない普通の人間の私に何が出来る。
無力感に苛まれながら、恵里菜のことを守りたいという気持ちには揺るぎは無い。
真野ちゃんはまだ半分エスパーなんだから大人の私が守ってあげないと。

ガラス越しの研究員たちの狂騒をよそに、愛は自分の指先を見つめる。そして…

                    ★

「この世界は君のいるべき場所じゃない。 君だってそう思ったことはあるだろう?」

「そんなことありません。 色んな人との出会いを与えてくれたこの街のことが好きなんです」

「そんなにこの街のことを大切に思うんなら、尚更この世界を離れなきゃいけないね。 何たって…」

パーカーの女は少し間を置くと、恵里菜の表情を見つめ自分の言葉がどれだけ恵里菜に浸透しているか確認する。

「この辺りをこんなに壊しちゃったのは、“半分エスパー”真野恵里菜ちゃんが発動したサイコキネシスに他ならないんだから」

パーカーの女は暴力に訴えることなく同行を求めた自分に対して、強烈なサイコキネシスを発動させた恵里菜のことを揶揄した。

「私はたまたま“反射”というチカラを持っていたからこうして無事だけど、もしそうでなかったら今頃はああなってた」

女は横転した車や無残に歪んだ自販機を指差す。

「でも真野ちゃんってそんなにカワイイ顔して、実はとてつもないSなんじゃないの」

「私はただ、あなたのことが」

「怖かったんだろうね。 自分を守る為に真野ちゃんはチカラを使っちゃったわけだ。 それは判るよ。でもね、真野ちゃん。 
もしも私が誰かに脅されて真野ちゃんを連れに来たとしたら。 そしてそんな私を自分のチカラで傷つけていたとしたら君はそんなに平気な顔をしていられたかな」

冷たい笑いを浮かべながら自分を指弾する女のペースに恵里菜は巻き込まれていく。

「鞘から抜いた日本刀を手にして、満員の通勤電車に乗り込めばどうなると思う?
ニトログリセリンを積んだF1カーで一般の道を全速力で走ったらどうなると思う?
ウサギを何百匹と入れたケージにライオンを放てば何が起こると思う?」

恵里菜は思わず息を飲んだ。

「君のチカラは強すぎる。 強すぎる君のチカラに比べて君自身はまだ未熟すぎる。 だからこそ君は“半分エスパーなんだよね”」

これまで冷たかっただけの女の声にどこかしら温かいものが混じったように恵里菜には感じられた。

「行こう。 君には正しい道を指し示してくれる存在が必要だ」

「正しい道?」

「そう、君を世界を救う存在へと導く道。 君はそのチカラで世界を救うんだ。 もしもこのままこの世界に留まったなら、真野ちゃん。
君は君が愛した人たちを傷つけてしまう。 君自身のそのチカラでね。 だから、行こう」

女が手を差し出した。
恵里菜は躊躇いながら、女に近づこうとする。

「違う・・・・」

喉の置くから搾り出すよな声がした。

「高橋さん!」

恵里菜はその声の主に駆け寄った。
そしてふらつきながら、よろめきながら立ち上がろうとする愛に手を貸した。

「高橋さん、口から血が」

愛の口元が血で汚れていた。
よく見ると左手の中指と薬指の爪が剥がれている。

「高橋さん、一体何が?」

恵里菜の問い掛けには答ることなく、目の前の女を睨む。

「チカラが人を傷つけるんじゃない。 人を傷つけるのは人だ。 だから真野ちゃんは決して人を傷つけたりはしない」

そう言うと真野の手を振りほどいて、女に向かって歩み寄る。

「だから真野ちゃんは私が守!?」

女の“反射”によって弾き飛ばされる愛。
その身体は愛佳を追い越して現場に到着したマイケル・J・フォックス(仮名)にぶつかり…。

「イテテ、どうもすいません」

自分の身体の下敷きになったマイケル・J・フォックス(仮名)を気遣う愛。
当のマイケル・J・フォックス(仮名)はというと。

「思い出しました。 思い出しました。 私の名前は亀井絵里っていうんですよね?」

―やっぱりアホだ。

マイケル・J・フォックス(仮名)こと亀井絵里が無事だったことに安心しながらも、パーカーの女の動向を窺う。
女は…愛の醜態を見ながらニヤニヤ笑っていた。

「さっき説明してあげたのに。 私に対する攻撃を跳ね返すって。 学習効果が無いね。 全く高橋愛っていうのはどの世界でも」

「何であんたが私の名前を知ってる?」

面識の無い女が自分の名を知っていることを問い質す愛。

「そんなことはどうだっていい。 お前は面白いことを言った。 チカラが人を傷つけるんじゃない、人が人を傷つけるって」

その言葉に対して何か答えようとする愛のことを制して女は続けた。

「じゃあ、人を傷つけた人間を。 人を壊した人間のことを憎んでもいいってことだよな。
いや、そいつは人の形はしていても人じゃない。 化け物だ。 答えろよ高橋愛。 私の心はもう決まってるけどお前の口から聞きたい」

― 何故そんなことを自分に訊くのか女の真意が全く読めない。
  ただエスパーでない自分が目の前の女には到底敵わないということは身に染みて判っている。
  ならば、時間を稼ぐために

「いや、人を憎むのは良くない。 そんなことをしたって何の解決にもならな・・」

「じゃあその人の形をした化け物が大手を振って歩いてるのを黙って見てるしかないのか。
償いようのない過ちを犯した化け物が誰に咎められることもなく、大切な場所や仲間を手に入れてのうのうと生きているのを指をくわえて見てろと言うのか」

― 今この女が言っているのは自分の身に起こったことなんだ。 だからこの女の目はとても暗くて、哀しくて。

「あんたの身の上に何があったのか私には判らない。 でもあんたがとても辛い目に遭ったことはあんたの目を見たら判る」

愛の言葉に女の顔は険しさが増した。

「でも聞いて。 あんたの目には世界は憎しみと哀しみで一杯に映ってるのかもしれない。 でも真野ちゃんの目に映る世界は喜びと希望に満ち溢れている。 だから…」

真野ちゃんの心を惑わせるようなことはしないでと言おうとした愛の身体は、女の蹴りを喰らって吹き飛ばされた。

「お前が言うなぁぁぁ!!」

愛を蹴り飛ばした女は暗い目で恵里菜を睨んだ。

「私と一緒に来るんだ。 さもないとそいつを、高橋愛を…」

テレポーテーションを発動させた恵里菜が倒れた愛の元に跳び女と対峙していた。

「そいつを守ろうっていうのか。 面白い。 だがお前に何が出来る。 お前のチカラは私には通用しない。
お前の力が最高のスペックを誇ったとしても、お前の拳は私に届かない。 お前が“最高”ならば私は“無敵”、おい、お前!!」

「高橋さん!」

折れ曲がった標識につかまりながら愛が立ち上がろうとしていた。

「私の蹴りで肋骨の2,3本は持ってかれたろうに。 それに立ち上がったところでお前に何が出来る。 能力者でもないお前には何も出来ない」

「出来る。 人は皆心に無限の可能性を抱いた半分エスパー。 やると決めたことは何だってやれる!!」

女に向かって愛は突き進んだ。



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