『七夕の一幕』



第一世界(現実世界)、七月七日。 

その日、玄霧はリアルで仕事を片付けながら考えていた。
七夕の短冊に願いを書きまくったはいいが、芸事奉納がくるなど考えてなかった為、なにをどう奉納するかに迷っていたのである。

今年の御題は、七人の乗り手。
料理で表現するとして、さて、どうするか。

七人の乗り手。七人、ななつ、乗り手、のり。
ここまで考えて、ふと、この間、ツイッターで典子さんと話した際に
『ペペロンチーノを美味しくつくれるとすごいよね』
という話題があったのを、思い出した。

時間は昼の一時過ぎ。
既に昼食をとった後だが、善は急げとばかりに仕事場を飛び出したのであった。
勿論、その日の仕事は終わっていた。何も問題はないのである。


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それから二時間ほどの後、自宅の台所に、玄霧は居た。
満足そうにたたずむ玄霧の前には、パスタの乾麺と、各種調味料。
そして、

「ニンニク」
「玉葱」
「鷹の爪」
「枝豆」
「ビーフジャーキー」
「削り節」
「刻み海苔」

以上、選び抜かれた七つの素材が置かれていた。
とはいっても、大体のものが元からあったものだが。

最初は、枝豆とビーフジャーキーではなく、しらすぼしとベーコンの予定だった。
が、まあ、買い物中に閃いてしまったのである。
枝豆は彩り、ビーフジャーキーはぶっちゃけ、彦星の別名、牽牛との兼ね合いである。
ついでに言えば、あまってしまったとして、今晩の晩酌のお供にしてしまえばいい。
完璧。完璧である。


閑話休題。 
晩酌のお供はさておき、さっさと調理開始である。

まず、大き目の鍋で湯を沸かし、塩をいれ、パスタを茹でる。
その間に、フライパンに中火でオリーブオイルを暖め、みじん切りにしておいたニンニクを入れる。
ニンニクの香りが開いたら、同じくみじん切りにした玉葱をいれ、塩コショウをし、じっくりと火を通す。
玉葱がしんなりしてきたところで一旦火から上げ、鷹の爪と室温に戻したバター一欠けをいれ、余熱で溶かす。
とけきったところで、枝豆とビーフジャーキーを投入。
このとき、ビーフジャーキーは細かく刻んでから一回水にさらしておいた。
(さすがに、干し肉の状態でいれるには水気が足りないと思ったからである)

ここまでしたところで、おそらく8~10分程度。ちょうどパスタが茹で上がるくらいである。
時間配分も間違えなかったようで、パスタもしっかり茹で上がっていた。

一旦火から上げていたフライパンを強火の上に戻し、パスタの茹で汁を大匙1~2程度投入。
軽くなじませたあと、水気を切ったパスタを投入し、火を止め、パスタと具をあえる。
(このとき、鍋肌にしょうゆを回しかけるのもよし)

そうして、十分にあえたあと、皿に盛り、削り節と刻み海苔をのせれば、
『七夕版和風ペペロンチーノ』の完成!




急いで自室のパソコンの前に持っていき、モニタの前に供え、しばし黙祷する。
モニタには、自宅近辺にある、弁財天を奉る水間寺の弁財天宮殿が映っていた。
まさか直接持っていくわけにもいかなかったのと、もっていったとしてお寺の人が困るだろう、と思ったのだった。

その後、ページを閉じ、温かいうちにパスタを食べる。
昼飯を腹いっぱい食べたはずだが、予想以上のうまさに、一瞬でなくなった。

オリーブオイルとニンニクの風味にバターのコク、玉葱の甘みに鷹の爪の辛さ。
全体を包み込む削り節と刻み海苔の風味と旨み。
そこに、時折顔を見せるビーフジャーキーの旨みと、玉葱とは違った枝豆の甘みも加わり、最高だった。

『こんなことなら、晩酌用に枝豆とビーフジャーキー残さずに、もっとつくればよかった…』

等と思いながら、後片付けをしていた時。
キミプロの開催タイミングについて、ふと考えた。

…いや、それよりも先に、えいつくの第二期だろうか。
まだまだアイドレスも忙しくなりそうだが、隙をうかがいつつやろう。
そうだ、風杜君たちにも相談してみよう。
勿論、七夕の騒動が終わってから。


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一方そのころ、NWの玄霧藩国。

その日、玄霧は溜まった仕事をやっつけながら、芸事奉納のための時間を捻出していた。
書類に判子を押しながら考える。

今年の御題は、七人の乗り手。
料理で表現するとして、さて、どうするか。

七人の乗り手。七人、ななつ、乗り手、のり。
ここまで考えて、ふと、この間、護民官の典子さんと話した際に
『ペペロンチーノを美味しくつくれるとすごいよね』
という話題があったのを、思い出した。

時間は昼の一時過ぎ。
昼食なんぞ取れてはいなかったが、善は急げとばかりに政庁を飛び出したのであった。
このあとの予定は、お料理教室での実技講師。そう、何も問題はないのである。


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「はい、というわけで、芸事奉納のお時間です!」

満足そうに声を張り上げる玄霧の前には、もろもろの食材と各種調味料。
それにフライパンや包丁といった道具たち。
そして、ぽかんとした顔の生徒達が立っていた。

しばしの静寂。
次第に小さくざわざわと呟きが飛び交い、質問するものを選ぶべく肘での攻防が行われた後、勝ったのか負けたのか、一人の生徒が口を開いた。

「ええと、先生?」

満面の笑みのまま、玄霧が答える。

「はい、なんでしょう!」

若干引き気味に、かつ、材料を見渡しながら生徒が続ける。

「今日は、えーと、ボンゴレ・ビアンコ(あさりのパスタ)の実習でしたよね」

もう一度、玄霧が答える。

「その予定でした!」

この時点で、大体の生徒が察したようだった。
そもそも、ボンゴレなのに、目の前の材料にアサリがない時点で気づいたもののほうが多いだろうが。

「というわけで、今日は七夕ですので、七夕版ペペロンチーノをつくろうと思います。大丈夫、ペペロンチーノはパスタの基本。これを抑えておけば、ボンゴレも手順は同じです」

実際、ペペロンチーノの手順さえ覚えておけば、ボンゴレも大体同じである。
具体的に言うと、七夕版和風ペペロンチーノと比べた場合。
玉葱を入れるときに、あさりと白ワインをいれてふたをして蒸した後、茹で上がったパスタを絡めるだけである。

こうして、半ば無理やりな理屈で、七夕特別実習が始まった。
勿論、状況が飲み込めていない生徒のために、10分ほどかけて七夕の芸事奉納について説明し、できた料理を奉納しようということで納得してもらってからだが。

さすがに、教育機関で勝手はできないのである。
なお、調理実習中、しっかりとボンゴレの場合の説明もしていたことを、念のため書き記しておく。


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「……で、呼びつけた理由はこれだったの?」

お料理教室の一角、座学用の教室で、火焔が七夕版和風ペペロンチーノを食べつつ、玄霧に問いかけた。

「うん、そうそう。七夕にちなんで七つの具を入れてみたんだけど、どう?」

既に自分用を試食し、味にはかなりの自信があったが、他人の感想は気になるものだ。
特に、火焔の感想は。

「ま、合格じゃない?」

答えた火焔の皿の上には、既に何も乗っていなかった。
どうやら満足していただけたらしい。

「でも、これ、奉納用とかなんでしょ? よかったの?」

食べきってしまってから言う辺りが実にらしいと思い、笑いながら答える。

「大丈夫大丈夫。まだまだあるし、最悪またつくればいいし。それに、あれだ」

「なに?」

「俺にとっての弁財天は火焔だから。これで奉納でいいんじゃないかなって」

自分としては結構頑張って言ったつもりだったが、『はいはい』でながされた。
くそう。

「ま、ニンニクの臭いは気になるだろうけど、十分だとおもうから、早くお供えしてきたら?」

『他にもやることあるんでしょ?』という風に、火焔が言う。
それに頷きつつ、席を立った。
同じくして、火焔も席を立つ。
七夕の騒動は、まだ終わりそうにないようだ。


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場所はさらに変わって、NWのどこか、キミプロ事務所。
社長室で、玄霧は考えていた。

最近、アイドル達の発表の場が少ない。
彼女らの活躍の場を用意してやれずに、なにが社長か。

しばし考えながら、枝豆をつまむ。
特別調理実習用に実費で大量に用意したが、さすがにあまったものを持ってきたのである。
傍らには、ビーフジャーキーのかけら。
こっちは、持ってきた瞬間に事務員達に奪われたのだ。

「ふむ……よし、いい機会だ。やるだけやってみようか!」

ダメだったらその時はそのとき。次の機会をつくればいいのである。

そんなことを考えながら、プロデューサー全員集合のコールの準備をするのであった。

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