藩国政庁に緊急に幻影使い部隊が招集された。
幾つかある会議室の内の一つに集められた皆の表情には、疲れと招集理由に対するものであろう少しの疑問があったが、摂政の声明を聞いて、まだやれる、という意気込みがあった。
そこに一人の青年が早足で入ってきた。くたびれた感のある服を着込んでおり、小脇に書類の束を抱えている。
青年の表情にも疲れがあるが、会議室の皆と同じ意気込みが感じられた。
奥の壇上に上がると、椅子に座った幻影使いの面々に早速説明を始める。
「煩忙中の摂政の代理でアルトと申します。早速ですが、皆さんに集まって頂いた理由は藩国各地に政庁からのメッセージを届けて頂きたいのです」
そう言って、抱えていた書類を皆に配る。
書類にはこの作戦の概要と、一枚のイラストがついていた。
「今お渡しした書類に添付されている絵は藩国技族のイク氏によるものです。これが実際に使われる幻影のイメージになります」
一人の男が手を上げ、発言した。
「先に声明と政策の公示が為されたが、それだけでは不十分だと?」
「ええ、はい。調査の結果、通信網が寸断されているので公示は全国民に届いたとは言い難い。そこで、各地に直接広報を届けると言う事になったのですが、より広範囲をカバーする為に幻影を用いて上空にイメージを投影する方が効果的だと」
手を下げ、ふむ、と一つ頷く男。
「このような事態を招いてしまったのは一重に我々の不明によるところです。現地で任に就く皆さんには危険も多いですが、人々を救う為、どうかよろしくおねがいします」
壇から降り、幻影使いの皆に向かって深々と頭を下げる。
少しの沈黙。
あー、と言って男がそれを破った。
「まあ、何だ。俺らもこの国が好きでな。確かに危険かも知れんが、だからと言って諦めたかあない」
顔を上げて前を見れば、男の顔には多少の苦味は含むものの、笑みがある。
「・・・・・・私もです」
「ああ、それでいい。よし、それじゃあもう一仕事行くか! この割り当て範囲からして投影3人・隠蔽1人の4人1部隊で行動するのが堅実だな」
じゃあ私ここで、僕はこっち、と忙しく割り当てを決めると、皆は行動を始めた。
その日の内に、藩国各地で確かに空に浮かぶ広告が映し出された。
後日、空席となっていた摂政の座に、ひとりの青年が座ることになる。
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