ある吏族の記録



今現在,にゃんにゃんわんわんにおける他の藩国と同様にして,
玄霧藩国も兵力動員のために食料増産まっしぐらである.

玄霧藩国もそれなりな大所帯であり,
食料の増産目安である15万tを超えて19万tの増産の必要がある.
かなりの量である.
猫士の鳴き声もにゃーんからぎにゃーになるくらいである.

越智大治郎がその報せを聞いたのは出仕から帰ってきた直後である.

越智はボロボロな姿で,
「俺はもーだめだーいっそ死んだほうが…」
とかなんとかぶつくさ言いながら藩国の象徴である立派な大木,政庁に帰ってきた.
政庁の自分の席に放心状態で座るとすぐに,
藩王より緊急のお知らせが流れた.

「ぞ,増産!?そんな急に言われても…」
この男,かなり無能である.
だが,頑張って考えた.自分に何が出来るか.
「そうだ!!無いなら分けてもらえば!!」
なんと貧困な発想か.
「誰にだよ」
と普通に藩王からツッコミが入る.
「えーと,あーと,そうそうだ山の主に頼もう!!
塔近くの山には昔から主がすんでて,
果実とかを蓄えてるんだって」
「ずいぶん都合のいい話だな….
まぁ死んで来い…」
ということで,越智は塔近くの山に行くことになりました.

越智はしょせんは体力も筋力も持久力も無い吏族.
山に至る前の道のりですでに息を切らしていました.
「やーや,やぁまーのにゅしさぁ,さまはぁーくれ,るかにゃー」
同行してる案内人のそこらの村人Aに,
「吏族さま,落ち着いて,
そんなんでは主さまと交渉などできませんよ」
と苦笑しながら諭されました.
「ひーふーひーふー,了解.落ち着いた」
駄目な吏族である.
そんなやり取りを続けながら,
山の奥深くそのまた奥深くへと入っていきました.
「吏族様.これより先は主さまのテリトリーです.
相手を威嚇しないようお願いします」
と,もっともなことを言って越智を諭す村人A.
だが,そんな村人Aの言うことを理解してないのか,
「わかったわかった~.
おーい主さま~ん.食料分けてちょうだいな~」
と大声で叫びながら,歩いて行く.
「ちょっ,もっと静かに…相手に警戒させてしまうぅぅ」
村人Aは顔面蒼白である.
「なんで?だって,戦いに来たんじゃないじゃない.
こっそり近づかなくていいじゃない」
「いやまぁ…そうなんですけど,
ここは相手の領地なわけですし…ね?」
「んー領地は藩国民みんなのものよ」
なんか話が噛み合わないまま,二人が言い争っていると,
がさがさっと音がする.
「あん?」
と越智が周りを見回すと,木の上やら下やらたくさんの影がある.
よーく見るとお猿さんの大群である.
きーきーきーきーうるさく鳴いている.
お猿さん達が二人を覆うように囲み,大合唱.
あまりの多さに山中響いてるようだ.
「あーうるさいなー」
という感想しかでないバカ一名と,
「あわわわ…これやばくないですかやばいじゃないですかやばいでしょ」
と,うろたえまくりの案内人のはずの村人A.
すると,奥からとてつもなく大きな猿がやってくる.
ノッシノッシとおよそ猿とは思えない緩慢な動きで2人の前に立つ.
そして,のっそりとしゃべりだす.
「きーききーきーうききききー」
何かしゃべったらしいが越智は悲しいかな人である.
理解が出来るわけがない.
「いや,意味わからないし」
「吏族さま,この方が山の主さまですよ」
と最早敬いとかから縁の遠い越智を見ながら気絶しそうな声でしゃべる村人A.
「だって,猿じゃん.もっと凄い化け物が出てくると思ってたんだよ.
なんだ…つまんない…」
と指をさして言う越智.
もはや,何が目的で山に来たのかわからない男である.
越智には猿の言葉がわからずとも,
猿の方はどうやらわかるらしい.
「きききききききー」
と憤慨した様子で,地団太踏みながら怒っている.
その大猿の言葉にあわせるように周りの猿達も,
きーきー叫び始める.
どうやら,2人(主に越智)は猿達を怒らせたらしい.
「ちょっとーどうすんですか!!
僕単なる案内人なのにーこのくそ吏族めー!!」
がちがち震えながら越智の両肩をつかみブンブン前後に揺らす村人A
.「うわわわ,だって化け物のほうがかっこいいじゃんんんん」
意味のわからないことを言い出す越智.
まぁいつものことではあるが,そんな意味のわからない理由で,
死ぬかもしれない村人Aは気のどくである.
「ききききっききー」
どうやらしばらく無視されていることにさらに怒った,
大猿はポキポキ腕を鳴らしながら2人に近づいてくる.
周りは猿の大群.
前も後ろも右も左も逃げ道はない.
「死ぬー」
「あ,あの煎餅湿気ちゃうなはやめに食べよ」
「あんたこんな時に何言ってるんだーーーー!! 」
大猿が2人に殴りかかろうとしたとき,
空から物音が….
ひゅーーーーーーーーどすん.
「おらぁぁぁぁ遅いんじゃーーー期限過ぎちまうぞボケがぁぁぁ」
と猫忍を従えて藩王参上.
どうやら,猫忍に抱いてもらって木の上を渡ってきたようだ.
お約束のごとく大猿は足の下.
「あ,藩王」
と,今度はおびえる越智.
「仕事が遅いぞこのあほーーー」
「いや,だって…」
「きーきーきー」
と自分の体の上で藩王の説教が始まったのに対し講義をする大猿.
「五月蠅い」
泣く子も黙る藩王の鉄拳である.
完璧に伸される大猿….どよめく周囲の猿.
「つーかなんだこの猿?」
「山の主です」
答える案内人の村人A.
「弱いな,ということで,俺最強!!,俺首領!!俺,山の主決定!!」
「えーーー」
唐突の発表に愕然とする2人と猿と猫忍たち.
「おっし猿ども供物をよこせ今すぐだー!!」
藩王の立ち居振る舞いに恐れをなしたのか,従う猿達….
ついでに大猿も命令に従って果物を取りに行く.
小一時間で藩王の前に大量の果物類が置かれる.
「うむうむ苦しゅうない.全部は寄越さないでもよいぞ,ははははは」
満足顔の藩王.
「なんだかなぁ…」
脱力顔の村人A.
「煎餅が湿気てませんように…」
良くわからない顔の越智.

食料増産成功…???