フィリピン共和国
Republic of the Philippines
1 基本情報
マニラ市街 Photo:sagara
1.1 地理・経済情勢
人口:8,860万人(2008年)
首都:マニラ首都圏(1,160万人)
GDP
(その他、基本情報は後日一覧表から一括で転記)
1.2 年表
年代
出来事
備考
1987年
上下水道・衛生整備にかかる計画としてWater Supply, Sewerage and Sanitation Master Plan of the Philippines 1988-2000を策定
※8)
1991年
水道と衛生といった基本サービスの供給は地方政府に委譲された。
※4)
1999年
1987年の計画は目標に達せず、これを修正したものとして「中期国家開発計画」(1999-2004年)を策定
※8)
2004年
中期国家開発計画(Medium-Term Philippine Development Plan、MTPDP)2004-2010。独立採算、民活を含む商業主義、地方分権の推進を方針として掲げる。
※5)
○マニラ水道の歴史※6)
年代
出来事
備考
1878年
安全で安定した水供給を目的に、スペイン国が建設してフィリピン国政府へ引き継ぎ、マニラ市の西領統治中に供用を開始
1878年
上水道事業の運営については、アジア最占の国営公共水道事業体が設立され、給水量1.6万m3/日の規模で給水人口30万ヘサービスを開始した
1908年~1924年
MWSSはマニラ北東部のマリキナ河開発を進め、現在のケソン市に大口径管を有するポンプ場を建設し、地理的中心地のバグバグ貯水池(22,4万m3へ)送水を開始した。この結果、配水能力9.2万m3/日を持つ水道システムとなった
1919年
マニラ水道区(MWD: Manila Water District)が設立され、国営水道を引き継ぐとともに、マニラ市周辺141市町への給水へと拡張した
1924年~1944年
MWSSは、北部隣接州のアンガット河流域を開発し、アンガット~ノバリチェス給水システムを建設した。当該計画は1903年にまで遡り、イポ河とアンガット河が比較検討され、現在ではイポ・ダムからノバリチェスまで6.4㎞のトンネルにて360万m3/日が導水され、更にノバリチェスから現在のバララ浄水場までラ・メッサ貯水池を経由して4万m3/日が送水されている
1945年~1964年
アンガット~ノバリチェス給水システムを改善(第Ⅱバララ浄水場の増設〉し、給水区域も格段に拡張した
1955年
国家上下水道公社(NAWASA: National Waterworks and Sewerage Authority)が設立されて事業運営を引き継ぎ、マニラ水道からの給水は“ナワサ・ジュース(NAWASA juice)"と持てはやされた
1971年
公共事業の公社化によりマニラ首都圏上下水道公社(MWSS: Metropolitan Waterworks & Sewerage System)へと改名した
その後、ラモス大統領による"Water Crisis Act: 水危機法"が発令され、現在のPPP化へと繋がっている
(当該国の歴史的経緯と水に関連する主要なイベントの発生時期を記述)
2 水資源と水利用
2.1 水資源
(水資源の豊富さ、雨期と乾期、どのような水源が使われているか、等)
概して表流水の水源は豊富で、多くの河川上流の水質は淡水の生態系の維持と国内での水利用に適しているが、下流の水質は悪い。水質は都市部で最悪であり、主な汚染源は未処理の産業廃水と都市下水である。河川で水供給に適した水源は約33%しかなく、地下水の58%は汚染されている。※4)
96%は表流水水源。一部リゾートなどでは海水淡水化技術なども普通に使用される。※1)
2.2 水利用
(農業用・工業用・家庭用の配分、廃水の再利用など、水の使われ方の特徴、等)
2.3 家庭用水需要
(水道の一人一日使用水量やその範囲、都市村落給水の間での違い、等)
3 水に関する住民意識
3.1 徴収率
(水道料金の徴収率、あるいは水供給に対してお金を払う気持ちや文化があるかどうか、等)
3.2 料金体系
(平均的な水量あたり料金、料金の決め方、等)
3.3 水に対する不満・クレーム
(平均的な水ニーズ、特徴的な水に関する意識、等)
4 水関連の政策・法規制・基準
4.1 政策と計画(policy and plan)
(国の開発計画、水セクターのマスタープラン、等)
○将来計画 ※4)※5)
中期国家開発計画(Medium-Term Philippine Development Plan、MTPDP)2004-2010 は、安全な飲料水へのアクセスを92~96%に、衛生的なトイレ施設へのアクセスを86~91%に改善することを目標としている。また、同計画は独立採算、民活を含む商業主義、地方分権の推進を方針として掲げている。
過去20 年、上下水道セクターへの資本支出は30~40 億ペソで変動してきており、その殆どが水道に配賦されてきた。
MDG の達成には60~70 億ペソの投資が必要と見積もられている。
4.2 法規制
※4)※5)
National Water Code:1976年制定
Clean Water Act:2004年制定。水源管理と衛生に関する法律を初めて集約したもの。水質管理システムの構築が定められた。対象地域を定め、国家下水道計画の下、排出許可、排出料を徴収するなどして水質改善を図るものである。
Provincial Water Utilities Act および Local Water Districts Low:地元の水道システムの運転管理を行うLocal Water DistrictsとLocal Water Utilities Administration(LWUA)の設立を認可する。
Philippines National Standards for Drinking Water
4.3 水行政機関
(法規制を執行する機関)
※4)※5)
■環境天然資源省(Department of Environment and Natural Resources)
法令の制定など水道政策を所管。
■天然資源委員会(National Water Resources Board)
DENR(環境天然資源省)内に設置、水資源の管理者として水道行政を所管。経済的側面および水源に関する監督機関である。
【この他、複数の行政機関が水行政を分掌している。】
■健康局(Department of Health)
水質基準を設定し、都市部・農村部の飲料水の水質を監視し、制御するのに重要な役割を果たす。
5 上下水道事業の実施状況
5.1 上下水道の普及状況
(上下事業の数、当該国における分布状況、普及率、安全な水アクセス率、等)
■普及率※1)
水道普及率 全体:81%(1996年)
‐都市部93%
‐農村部72%
5.2 その他パフォーマンス
(漏水率、24時間給水の実現度、その他水供給事業の水準を定量的に把握できる数字)
水需要が急速に伸びる中、複数組織による分掌や脆弱な計画により小規模で非効率な事業運営が課題となっている。※5)
無収水はほとんどの事業体で非常に高いレベルにあり、一般には30%を超えている。Maynilad(マニラ市西部)のケースでは60%を超えている。※4)
給水時間は一般に18時間越であり、24時間給水を行っているところもある。※4)
大規模水道と小規模水道ではパフォーマンスレベルに大きな差がある。※4)
多くの事業体では運転・維持管理コストをカバーしている。Manila Waterはパフォーマンスが良く、黒字を出している。※4)
多くの事業体では貧しい消費者の支払い能力を超える接続料金を課している。※4)
○マニラ首都圏以外の水道 ※5)
マニラ首都圏以外の都市水道はLocal Water Utilities Administration(地方水道管理局)の下にある約500 のWater districtまたは1,000 以上の公営企業体によって運営されている。
公営の事業体が存在しない地域については非公式の小規模な事業者(small-scale independent providers、SSIPs)が地域の水需要に対応している状況である。
平均的には農村地区の3分の2の人々が飲料水へのアクセスが確保されていない。
○Subic Water
1997年、Subic Waterはマニラ近郊の旧Subic Bay海軍基地およびOlongapo市の25年リース契約を取得。
Subic Waterは2つの民間企業と2つの地方政府によるジョイントベンチャーである。
JV協定では2つの地方政府は給水システムの資産を所有し続け、Subic Waterからリース料金と配当を得る。
初めはどこにも管理されていなかったが、2001年にはSubic Water regulatory boardが設立された。
○SSIPs(small-scale indipendent providers)
公共部門による水道サービスがない地域では、非公式部門である小規模独立供給者(small-scale indipendent providers、SSIPs)がその需要を満たしている。
SSIP市場の規模は推測するのが難しいが、人口のかなりの割合が公式の管路による水道サービスの供給を受けていないため重要な役割を担っている。
民営化以前のマニラ首都圏だけで、人口の約30%がSSIPsに頼っていた。フィリピン第2の都市であるセブでもこの方法で同様の割合が需要を満たしている。
しかし、SSIPsは規制を受けないため、水質基準を満たす必要が無い。
○下水道※4)
下水道ネットワークに接続しているのはマニラ人口の4%未満で、多くの高収入世帯は自分たちで施設を構築している。
セプティックタンク(septic tank)に繋がっている水洗トイレが広く使用されており、しばしば大規模な住宅開発に使用される。
しかし、汚泥処理・処分施設はほとんどなく、処理されていないものも無差別に処分されたり、Pasig川にほとんど処理されていない汚水が排水されていたりしているため、Pasig川は世界で最も汚染された川の一つとされる。
農村地区では公衆トイレに大きく頼っている。
マニラ市内を流れるPasig川 Photo:sagara
6 上下水道への援助・民営化
6.1 国内援助
(中央政府から地方事業への援助等)
■基金
Philippine Water Revolving Fundが設立され、事業資金を提供するという革新的な試みが行われている。※5)
6.2 その他の援助
(外国からの援助等)
6.3 民営化
(民営化、公民連携の進行状況)
○マニラ首都圏の水道 ※4)※5)※6)
フィリピン国には81州の地、方自治体(2008年)が存在するが、マニラ首都圏は特別区(NCR:NationalCapitalRegion)として別格に扱われている。
1997 年に民営化されるまでは、マニラ首都圏の水道システムは公営企業である Metropolitan Waterworks and Sewerage System(MWSS)が施設を所有し運営を行っており、マニラの水道は不法接続と高い無収水(無収水率63%)が課題となっていた。
1997 年、Manila Water Company Inc.(MWCI)がマニラの東部の給水事業を継承し、Maynilad Water Services Inc.社が西部の給水事業を継承した。
マニラ東部のManila Water は良好な運営を行っているが、西部のMayniladは利益を上げるのに苦労している。
○Manila Water(MWCI、マニラ市東部)
スポンサーは、国内最大企業のアヤラ・グループ(財閥)、United Utilities BV(英)、BPI Capital Corporation(比)、三菱商事(日)。
Manila Waterの達成したものは以下の通り。
‐無収水率を63%から24%(1997→2007)に低減
‐中央給水システム内の人口(population in the central distrubution system)で24時間給水率を26%から98%に増加
‐2000kmに及ぶ管路の更新および更生
‐給水顧客が300万人から500万人に拡大(低所得層の半分に給水)
‐下水処理能力を4400万リットル/日から8500万リットル/日に拡張
‐24時間給水26%から99%(1997→2007)
(1)テリトリー・マネジメント(顧客満足の向上、住民の啓発)
配水区域をDMZ(Demand Monitoring Zone:水理的に分割された配水区域)、DMA(District Metered Area:DMZを水量管理のためにさらに分割したもの)にブロック化し、各ブロックの責任者としてTBM(Territory Business Manager:DMZの責任者。需要と供給、DMZへの流出入量の変化を監視)、DO(District Officer:DMAの責任者)を配置し、TBMとDOに権限を委譲した。
彼らは能力開発訓練や研修を受講して給水の維持管理やNRW低減の専門家となり、また、ブロックの責任者として住民とコミュニケーションを取ることで、住民との間に信頼が生まれた。
最終的には住民が自分達で不正な接続やメーターの改ざんを取り締まるようになった。
(2)NRW低減(事業の効率化、コスト削減)
マニラウォーターは、NRWを低減するために管路更新と効率的な水量・水圧管理が必要であると考えた。
石綿管、亜鉛めっき鋼管、鋳鉄管を更新し、遮断弁、制御弁を設置して維持管理を容易にした。
この他にも、洗管、使われなくなった管路の廃止、水道メーターの修理や取替え、給水管の修繕、管路破裂防止のための減圧弁設置を行っている。
(3)貧困層への給水プログラム(料金収入の増大、普及率向上)
マニラウォーターは、土地所有権のない住民にも給水を行うことにした。
20~50世帯を1グループとして配水本管側に親メーターを設置し、各世帯はそこから子メーターを介して給水されている。
水道料金はグループ全体として請求されるので、不払い世帯があるとグループ全体の給水が止まるため住民同士の支払いに対する圧力が強く、また住民は漏水や不正接続をマニラウォーターに報告するようになった。
○Maynilad Water(マニラ市西部)
以前はBenpres Holdings CorporationおよびOndeo Water Services, Inc.(前Suez Lyonnaise de Eaux)とパートナーシップ関係にあったが、10年目を迎えるにあたり所有権の変更を経験した。
D.M.Consunji, Inc.とMetro Pacific Investments Corp.のコンソーシアムは、Metropolitan Waterworks and Sewerage Systemの所有していた83.97%の株式を取得した。
Lyonnaise Asia Water Limitedは16%の株式を所有した。
D.M.Consunji, Inc.とMetro Pacific Investments Corp.のコンソーシアムは2007年に正式にMayniladの支配権を得た。
7 水技術
※2)
フィリピンで使用されている水技術は,WHO,ISO,AWWA規格などをベースにこれを組み合わせたもの。
配水池容量は4時間以上程度。管材料はコンクリート巻鋼管や塩ビ管が使用されるが,最近では施工の容易もあり,ポリエチレン管の利用が増えている。
出典
最終更新:2011年03月06日 17:29