とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) > 10


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~第七学区・とある高校避難所~

垣根「………………」

五日目…22:42分。垣根帝督はグラウンドの片隅にテントを張り、その中で寝そべりながら携帯端末を操作していた。
第十五学区にて能力者狩りの一派と思しき魔術師1人が再起不能で拿捕された事、つい数時間前に『アイテム』が傭兵14人魔術師8人を始末した情報などを整理して行く。

垣根「ムカついた。その気もねえ相手に夜這い(侵入)かけられる事ほどうっとうしいもんはねえな」

その猛禽類を思わせる眼光は剣呑であり、目にする情報は彼の機嫌を斜めにしていた。
避難所外部は狩りを担当するメスライオン(アイテム)、避難所内部の群れを守るのはオスライオン(スクール)と言った具合の分業制。
その顔立ちは一方通行と交戦した時と同じ表情に取って変わっていた。

初春「かっ、垣根さーん…まだ起きてますか?」

垣根「夜這いに来るたあ随分大胆になったもんだな飾利。入れよ。お前ならいつでも大歓迎だ」

初春「ちょっとお話に来ただけです!よ、夜這いだなんて…私、風紀委員です…白井さんに怒られちゃいます」

初春飾利が訪れるまでは――



~垣根帝督の未元物質テント~

初春「わー…フカフカです」

垣根「個室サロンとまでは行かねえが悪かねえだろ?」

真っ白な羽毛でも敷き詰めたかのような垣根のテントに寝間着代わりに使っているジャージ姿の初春はいた。
初春にはわからないが、防寒、耐熱、防弾、防水、防風、防音、防毒を完璧なものにする未元物質で構成されたテントである。
本来垣根はホテル住まいであるが、初春の身を守るためにこの避難所にいるのである。
こんな伊達や酔狂で未元物質テントを作ってしまう程度に楽しみながら。

垣根「で…そんな折り目正しい風紀委員サマがなんだって忍び込んで来たんだ?消灯時間は過ぎてんじゃねえのか?」

初春「そ、それは…その」

意地の悪い笑顔を浮かべる垣根、人差し指同士を合わせながら何故か正座で俯く。
寝る時くらい花飾りを外せば良いものを、以前それを指摘したら

初春『何のことですかそれ?』

と笑顔で返されて以来垣根ですら怖くて聞けない。
しかし初春はジャージの裾を握り込みながら蚊の鳴くような声で。

初春「何だか、寝つけなくて…それでちょっとでも垣根さんとお話出来たら眠れるかなあ…って。めっ…迷惑…でしたか?」

垣根「いいや。ちょうど俺も寝つけなかった所だ。どれ、いっちょ面白い話聞かせてやるよ」

一方通行との交戦に際して最悪の出会い方をして以来、いくつかの事件を経て初春は垣根の妹分のようになっていた。
同時に、垣根帝督を『人間としての死』から救ったのも初春である。

初春「はっ…はい!どんなお話ですか?前に聞いた“コーヒー中毒の真っ白モヤシ”みたいな笑い話ですか?それとも“学園都市第一位は実はロリコンだった”みたいな噂話ですか?」

垣根「違うな。これからの季節にピッタリな――怪談話だ」

初春「!?やっ、やめてくださいよぅ!余計眠れなくなっちゃいますっ…」

垣根「まあ聞けよ。これは俺が泊まった第十五学区のホテルであった話なんだがな――」

それ以来、垣根は初春を文字通り花を愛でるように扱って来た。
少なくとも手を繋ぐ事や時にキスの真似事をする程度。
さすがに未成年者略取でアンチスキルのお世話になるのは嫌だったし、ジャッジメントの白井は絶えず目を光らせているし、そもそも初春が中学生を卒業するまで手出しするつもりもなかった。

垣根「(…ライオンの狩り場に呑気に遊びに来るようなバンビは喰えねえだろうが流石に…そんくらいの常識はある)」

しかし、初春が帰り辛くなる程度に怪談話で怯えさせ、テントから出さないなどと企みを胸に秘めた自分も大概だと垣根は苦笑した。

垣根「(あのクソ野郎を笑えねえな、まったくよ)」

そうして夜はふけて行き――




~第十五学区・ラブホテル~

結標「いっ、意外と綺麗なのね…」

姫神「もっと。場末のモーテルみたいな所の方が。燃えるタチ?」

結標「初めてだからよ!人を遊んでる子みたいに言わないでちょうだい!」

姫神「そう。私はてっきり。あのクローゼットの中の本みたいな(ry」

結標「言わせないわよ!?」

同時刻。二人は最終チェックイン十五分前に駆け込みでラブホテルに辿り着いた。
制服のまま堂々と、途中コンビニに寄って弁当まで買い込んだ姫神。
そしてただ寝泊まりするだけなのにタッチパネルの各部屋案内をしげしげと見つめ、それに気づいて顔を真っ赤にした結標。
どちらが年上でどちらが年下かわからぬ有り様であった。

姫神「電子レンジはないみたいだから。冷めない内に。チキン南蛮食べて。それから。この時間になると。ルームサービスもおにぎりとカップラーメンしかない」

結標「…貴女、なんだかやけに詳しくない?遊んでるのは貴女の方なんじゃないかしら?」

部屋につくなり姫神は部屋の空調をいじり、お湯を張り、あらかじめ温めてもらった弁当を出したりと実にスムーズだった。
その手慣れた流れに結標がジト目で睨みながらもささやかな反撃を試みるも――

姫神「霧ヶ丘を追い出されてから。小萌先生の部屋に厄介になるまで。女子寮を焼け出されてから。貴女の部屋に転がり込むまで。色んな所で寝泊まりしたから」

結標「あっ…」

その企みは呆気なく打ち崩されたばかりか、姫神の苦労を偲ばされ結標はシュンとうなだれた。
なんて馬鹿な事を考えたのだろうと自己嫌悪に陥った。しかしそんな結標の――

姫神「貴女は」ポンポン

結標「…姫神さん…」

猫の頭を撫でるように優しく優しく撫でながら…姫神は言った

姫神「心が汚れている」

結標「」

姫神「悔い改めるべき」プイッ

今日もまた、この年下の姫神に勝てなかった。
そう思いながらかきこんだチキン南蛮は、甘めのタレなのに涙でしょっぱかった。




第十五学区・ラブホテル2~

結標「これカラオケセット…ここで歌うのかしら?これ」

姫神「ラブホテルにカラオケセット。酢豚にパイナップルくらい。いらない」

結標「パイナップルはいるでしょう!取り消しなさい!」ガタッ

姫神「いつか貴女とは。こんな日が来ると思っていた」ガタッ

チキン南蛮とカルビ弁当をそれぞれ平らげた後、結標は興味深そうなに部屋の中を探索し始めた。
対する姫神は今更と言った感じであったが酢豚にパイナップルはいるかいらないかで席を蹴って喧嘩し始める有り様である。

結標「でも…案外こざっぱりしてるのね。もっと汚いイメージだったわ。ビジネスホテルと変わらないじゃない」

姫神「こざっぱりしてるのは。やる事がひとつしかないから」

結標「貴女ね!!」

姫神「?。お湯。湧いたみたい。見てくる」

結標「あっ、私も見たい見たい!」

天然なのか狙っているのかわからない姫神に振り回されながらも結標はその後について行く。
浴室そのものも浴槽そのものも一番良い部屋を選んだだけあって広い。だがそこで結標は顔を赤くしながら

結標「~~~すけすけじゃないの!ガラスの意味ないじゃない!」

姫神「前に見たのは鏡張りだった。イヤン(棒読み)」

結標「…もう突っ込むのにも疲れたわ…」

姫神「?。ついてるの?突っ込むモノ」

結標「ついてる訳ないでしょ!女なんだから!!」

姫神「?。なにが?」

結標「ナニの話よ!!」

姫神「えっ」

結標「えっ」

姫神「なにそれ。怖い」

先程までのローズバスでのわだかまりは既にない。
もしかするとあのモノレールでの戦いを通して何か昇華されたのかも知れない、と二人は思った。

姫神「どっちが。先に入る?」

結標「私からで構わないかしら?さっきのでちょっと汗かいちゃったのよ」

姫神「先にシャワー。浴びてこいよ」

結標「だから似てないって。今汗かいたから先に入るって言ったばかりでしょう?」

姫神「また。汗かくのに?」

結標「馬鹿!出てって!!」ブンッ

姫神「あ」ドサッ

そして結標は座標移動で姫神を浴室から追い出した。
しかしそれが仇になるとはこの時結標は思ってもいなかったのである…


~第十五学区・ラブホテル3~

結標「わあ…なにかしらこのマット…えっ、やだっ…エッチな絵が描いてる…」

姫神を座標移動で飛ばした後、結標淡希はシャワーを浴びつつ浴室を見渡すと…
そこには何やら卑猥な絵のかかれた何に使われるかわからないマットが立てかけられていた。

結標「プールボート…じゃないわよね…これ…どうやって使うのかしら…」

姫神「それは。主に二人で使うもの」

結標「ふーん?二人でね…って貴女!」

そこにはいつの間にか、タオルを巻いて浴室の入口に入って来た姫神の姿があった。
慌ててタオルで身体を隠す結標を、やや不機嫌そうに。

姫神「さっきはよくも飛ばしてくれた。おかげで尻餅をついた。とても痛い」

結標「あっ…ご、ごめんなさい姫神さん…」

姫神「だから。復讐」

姫神の手には何やらピンク色のボトルが握られていた。
このホテル備え付けのシャンプーだろうか?などと小首を傾げる結標目掛けて――

ビチャーン!


結標「冷たっ!?なっ、なにこれぇっ!!」

姫神「ローション。ストロベリー味。お肌に優しい学園都市製」

ボトルキャップを投げ捨て一本丸ごと結標の身体目掛けてローションをぶっかけたのである。
今までにないヌルヌルした感触に結標は怯え惑い、シャワーで洗い流そうとするも――

結標「やだっ!やだっ!嫌ぁっ!これ滑る!スッゴく滑る!」

姫神「半端なお湯は。ローションを広げて馴染ませるだけ。復讐するは。我にあり」

結標「ヌルヌルするぅ~!気持ち悪い気持ち悪い…ひゃあっ!」

ねっとりと結標の華奢でいながら出る所が出ている肢体に絡みつく半透明のローション。
粘り着く液体が途切れる事なく糸を引き、浴室内の照明を受けて官能的なまでに濡れ光る。
まるで全身が舐め上げられているようだと姫神は表情に出さずゾクゾクと愉悦に浸る。

姫神「(まるで。生まれたての小鹿。手を貸してあげたいけれど。パニックになる貴女を見ていると。たまらない)」

結標「みっ、見てないで助けてよ!助けなさい!はっ、早くう!!」

姫神「小鹿は。自分で立ち上がるもの」

湯気に当てられてほんのり紅潮した困り顔、必死に伸ばされる震える手。
あまりみない二つ結びの赤髪が下ろされガラリと変わる印象。
あられもない姿はまるで誘っているような錯覚を姫神に与え、それがたまらなくて――

結標「あうっ!」ドサッ

姫神「スッキリ」

結標が尻餅をつくまで楽しんだ後、ようやく姫神は助け舟を出したのだった。



~第十五学区・ラブホテル4~

結標「のぼせた…」

姫神「貴女が。意地を張るから」

結標「貴女がムキになるからでしょこの負けず嫌い!」

0:03分。ラブローション騒動の後、怒り狂った結標は姫神に対し水掛け論ならぬお湯かけ合戦へと移行し、最終的に結標がダウンして姫神の判定勝ちであった。
現在二人はラウンドベッドにバスローブ姿で横たわり、結標は姫神の膝の上に頭を乗せて休んでいる。

結標「(膝枕なんて子供の時以来…なのにどうしてかしら、とても落ち着くわ)」

姫神の膝は結標にとってちょうど良い高さにあり、ふんわりと受け止めてくれる心地良さがあった。
流れ落ちて来る艶やかな黒髪を指先で弄びながら結標は脱力していた。自分が年上で相手が年下という意識もどこへやら。しかし――

姫神「(無防備過ぎる。貴女は自分で自分がわかっていない。こんな所を男の子に見られたら。間違い無く襲われる)」

そんな結標を膝枕している姫神は僅かに身を固くしていた。
二つ結びの赤髪を下ろすだけで途端に姫神以上に幼く見える結標。
本人は意識せずとも、姫神の毛先を弄る表情は良く言えばリラックスしており、悪く言えば無防備過ぎた。
モノレールでの張り詰めた横顔、研ぎ澄まされた眼差しを見た後は尚更そう思う。

姫神「(これが。あの三人が言っていた。ギャップ萌え?)」

結標「(あったかいわねえ…女同士でも膝枕って気持ち良いものなのね)」

バスローブ姿の正反対のタイプの美少女二人が膝枕している絵面は見る者に妖しい関係を匂わせるに足りた。
しかし同年代の友達付き合いが皆無であった結標は『女同士なんてこんなものじゃないの?』というズレた認識だった。

姫神もまた、このあらゆる意味で猫っぽい少女を弄るのがお気に入りだった。白井黒子やフレンダ辺りが見れば『我々の業界ではご褒美です』状態である。

シト…シト…シト…サアアアアアアアアアアアアアアア…

姫神「…雨。また降って来た。昼間一度降って来て。晴れたのに」

結標「夏がそろそろ近いから降りやすいのかも知れないわね。ふふっ…思い出さない?私と姫神さんが初めて話したのもこんな雨の日だったの、覚えてる?」

窓を打つ小夜時雨から目を切り、クルンと寝かせた頭を姫神の方へ向き直らせながら結標は笑って言った。
名乗り合った名前を互いに貶し合った事、お互いに変わり者だと思った事。
あの出会いから数ヶ月経って、今こうして『友達』になれた事。そして――

結標「――こんな事なら、私達もっと早く出逢えていれば良かったわね――」

ズキッ…




~ラブホテル・姫神秋沙~

ズキッ…ズキッ…ズキッ…

姫神「(…何?この胸の。痛みは)」

膝の上の無防備な結標淡希の笑顔。眼下より上がって来る無邪気な言葉。
それは鋭角さを持たぬ丸みを帯びた刃として姫神秋沙の胸を切り裂いた。

姫神「(もっと早く。出逢えていれば?)」

それはアウレオレス=イザードと出会う前?それとも上条当麻と引き合う前?もしくは自分と結標淡希の巡り合うのがもっと早ければ?

姫神「(違う。どれが欠けても。何が欠けても。誰が欠けても。私達は出逢っていない)」

結標「でも良かったわ宿が取れて。こんな雨降りの夜に女二人で野宿だなんて笑えない冗談だもの。貴女もそう思わないかしら?」

眼下より伸びる結標の指先が姫神の黒髪から左頬に触れる。
あの抜き身の刃のような結標淡希、今のような無防備な寝姿を晒す結標淡希。
二重の鏡写し、二つの鏡合わせ、どちらが本当の結標淡希なのか、どちらも本当の結標淡希なのか知りたくなった。

結標「…?どうかした?黙り込んじゃって」

姫神「…貴女が重くて。足が痺れた」

結標「あっ…ごめん…って重いって何よ!」

私を助けて家に住まわせてくれた結標淡希。私を救って敵と戦ってくれた結標淡希。

――ああ。そうだ。私は。惹かれている――

――血の色の髪をした結標淡希(かのじょ)に。血の匂いがする彼女(むすじめあわき)に――




~ラブホテル・結標淡希~

結標「重いだなんて失礼しちゃうわね…自慢じゃないけど、私はウエスト55より上回った事ないのよ?驚いた?」

姫神「貴女は細すぎる。私のお肉をわけて上げたい。でもわけてあげられないから。かわりにつねる」ムギュッ

結標「痛っ!」

雨が降って来てから少し姫神さんの口数が減ったように思ったけれど、杞憂だったみたい。
まあ空が落ちて来るんじゃなくて雨が降って来てるんだけど。
ふふっ、雨が嫌いだなんて猫みたい。よく見れば髪も真っ黒だから黒猫かな?

結標「もうっ…でもだいぶ楽になったわ。ありがとう。貴女のせいだけど、貴女のおかげね」

姫神「どういたしまして。次はこっち」

結標「ええっ…しょうがないわね」

今度は立てた膝の間に呼ばれた。私はぬいぐるみじゃないんだけど?
まあ…貴女なら仕方無いか。本当に黒猫みたい。人に懐かないくせにたまにすり寄ってくる。
これでもう少し口数が多くて、もっと表情が豊かなら私がかなわないかも知れないくらい綺麗なのに。

姫神「テレビをつけたい。いい?」

結標「良いんじゃない?こんな時間の深夜番組なんてくだらないのしか――」

姫神「言質は取った」ピッ

結標「!!?」

いきなり切り替わるチャンネル…そこには…その…男の人2人が…女の子1人を…あわわわわ…あわわわわ
あれ、どこに入ってるの?あんなの、入るの?えっ?えっ?えっ?
なにあれ?あんなの見た事ない!私の本にあんなの描いてなかった!

姫神「ここはラブホテル。これくらい当たり前」

結標「聞いた事ないわよそんな当たり前!消して!消して姫神さん!チャンネル変えて!!私達未成年でしょ!?」

姫神「偽IDで。ビールまで買って飲んだのに。お子ちゃま。私より。年上なのに」

結標「(イラッ)ばっ、馬鹿な事言わないでくれない?単純にこういうムキムキマッチョが暑苦しくて見てられないだけよ!」

馬鹿にして!年上だってわかってるならもう少し口の利き方気をつけなさいよね!
なによ。いっつもお澄まし顔で何があっても平気でございみたいなポーズ取って。
うわあ…大丈夫なのあれ…ああ…なんかもう一人増えちゃってる…ああ…

姫神「そう。結標さんは。御稚児趣味?」

結標「夜伽とか御稚児趣味とか貴女どこからそんな単語拾ってくるのよ!それにこんなの平気で見て!貴女の方がエッチじゃないの!!」

ついつい私もボルテージが上がる。こうやって人を鼠みたいにいたぶって。
確かに貴女はサディストね。一方通行みたいな強面ばっかりがそういうタイプだと思ってたけど良い勉強になったわ。人は見かけによらないって。
でも私はマゾヒストなんかじゃない!あんな…あんなテレビに映ってる女の子みたいな事されたら…絶対壊れちゃう…

姫神「そう。結標さんはあまり大人の男の人には。興味がないのね」

結標「そ、そうね!暑苦しそうだしむさ苦しそうだし汗臭そうなのはごめんね!」

姫神「なら。女の子は?」

結標「!!!」

姫神「………………」

結標「………………」

不意に会話が途絶える。窓を打つ雨垂れの音と、荒々しい息遣いの男3人のあえぎ声と、泣き声のような女の子のよがり声だけが響いてる。
何よ…どうしてそんな事を聞くのよ。どうして急に黙り込んだりするのよ。根比べのつもり?ああもう埒が開かない!

結標「なっ、ないわよ…私、これでもノーマルのつもりなんだけれど?そ、それは確かに好みのタイプは年下だけど…」

姫神「本当に?」

スッ…と後ろから私を抱える姫神さんの手が…私のバスローブの中に入って来た。
小さな手、整った爪先、冷たい指先、細くて長くて白い指先が…私の肌を滑るようにかすめて行く。

結標「っ…!」

姫神「こんな事をされても。ドキドキしない?」

結標「すっ…るわけ…ない…じゃ…な…い…くすぐっ…たい」

姫神「――――淡希」

結標「…!」

ドクンと心臓が飛び上がる。ビクンと肩が竦み上がる。ゾワリと背筋が震え上がる。
耳元で、いつもより少し低い声音で、低い声量で、吐息を感じられるほど近くで名前を呼ばれるだけで。

姫神「嘘吐き」

結標「………………」

姫神「ドキドキ。してるじゃない。心臓に近いから。バレバレ」

結標「あっ…」

鷲掴まれる。包み込むように。毛穴が開いて鳥肌が泡立って寒気に似た何かが走る。
持ち上げられて確かめられてる。きっとそれは手触りだったり肌触りだったりするのかも知れない。
でも本当はそれすら違って…確かめられているのは、私の反応。私の顔色。私の表情…そして、私の感じる場所。

姫神「こうしていると―――淡希の命を。掴んでいるみたい」

指先が沈み込んでくる。私は身を丸めてそれに耐えようとする。
背中の姫神さんの顔が見えないのにわかる気がする…きっと彼女は笑ってるに違いない。
どうやっていたぶろうかと鼠を前に思案している猫のように。

姫神「嫌がらないのね」

結標「あっ、貴女が離してくれないから――っ…はっ…あっ…」

姫神「口答えしないで。淡希」カリッ

結標「うぅんっ…あぁっ!」

爪を立てられるみたいに、私の甘やかな部分を姫神さんは起こしてくる。
耳元にかかる吐息が熱いのに、耳朶に触れる濡れた舌が冷たい。
耳朶の輪郭から滑って、這って、絡んで、カリッと耳たぶと耳の裏を噛まれて――

ブツンッ…

結標「!?」

姫神「?!」

その時、部屋の電気が消えた。




~ラブホテル・結標&姫神~

姫神「てっ。停電!?」

結標「てっ、敵襲?!」

カチッとベッドサイドに備えていた軍用懐中電灯を手探りでつける。
テレビが、空調が、照明が、ブレーカーが落ちている。
自家発電に切り替わらない。思わず姫神を庇うように身を挺する結標。

結標「(これも…魔術師の仕業!?)姫神さん!こっち!!」

一旦電灯を切る。窓際から離れるべく姫神の手を引き寄せる。
もし敵の狙いが狙撃なら良い的だ。最悪姫神だけでも座標移動で…と思ったが姫神の腕は動いてくれる様子はない。

結標「姫神さん!腰抜かしてる場合じゃないわよ!立って!ここから出なきゃ!姫神さん!?」

グイグイと姫神の手を引っ張る。しかし姫神の手は重石でもつけたように動かない。
それに、なんだかいつもより若干腕が太いような感触を結標に感じさせた。

――腕が太い?――

姫神「むっ。結標さん」

姫神の声が真横からではなく前方から聞こえてくる。
おかしい。だとすればこの腕はなんだと言うのだ?
この部屋には自分達の二人しかいない。そう結標が振り向き直ってもう一度軍用懐中電灯を点けると――


姫神「貴女…誰の手を。引いているの?」


――そこには…血塗れの手首を晒した、小太り気味の中年女性の恨めしそうな無表情が――

結標「いっ…いっ…いっ!」

ニマァ…とその中年女性の顔が…この上無く歪んで笑ったのが、結標の見た最後の光景だった。

結標「いやああああああああああああああああああああ!!!」




~ラブホテル・姫神秋沙2~

結標「おっ、お化け!お化けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

姫神「落ち着いて結標さん。もういない。いなくなった。もう怖くない」

結標が数秒間気絶している間にブレーカーは復旧された。
各地を渡り歩いている時に耳にした事があった噂を姫神は思い出す。
第十五学区のどこかのホテルで、生徒との不倫を思い詰め無理心中をはかった中年女教師の霊が出ると。
まさかこのホテルがそれだったとは流石の姫神も思い当たらなかった。

結標「嫌ぁ…ここから出たい…帰りたい…部屋変えてよぉ…」

姫神「今からだと。それも難しいと。思う。つらいだろうけど。我慢して」

デジタル時計は既に0:36分を示している。ナイトマネージャーや深夜スタッフは起きているだろうが、呼べば学生だとバレてしまう。
そうならないために無人フロントのタッチパネル方式の部屋を選んだのだから。

結標「いやぁ…いやよぅ…いやよぉ…」

姫神「大丈夫。私がついてる。側にいる。安心して」

先程までの凛々しさ勇ましさ頼もしさはどこへやら。
泣きじゃくり愚図りながら姫神の胸元に顔を埋めて結標はイヤイヤしていた。
この学園都市で幽霊騒ぎなど笑い話にもならないが、意外にこういうお化け絡みが苦手な質なのかも知れない。

姫神「(少し。危なかった)」

この幽霊騒動が無ければ、結標を押し倒して事に及んでしまったかも知れない。
もしかして幽霊はそんな自分達が憎々しくて邪魔しに来たのかも知れないと姫神は思った。
今も結標の感触が手に残っている。結標は知らない。表情に出ないだけで姫神もまた鼓動の高鳴りに苛まれていた事を。

姫神「(この娘はダメ。無防備過ぎて。イジメたくなってしまう)」

戦闘と今のギャップが酷過ぎる。あまりの落差に理性が乖離してしまう。
意識的に誘われているなら我慢も出来る。無意識に誘っているように感じられるからたまらなくなる。
嫌がる癖に上げる声音が艶めかしくて、歯止めが聞かなくなりそうな自分が恐ろしい。

姫神「(焦ってはいけない。今は。落ち着かせないと)」

しかしそういう気分も雲散霧消してしまった。とてもそんな気にはなれない。
幽霊騒ぎで震えている今そんな事をしたら完全に極悪人だ。
自分がどれだけ結標を追い込む言葉責めを繰り返したかを棚に上げて姫神秋沙は一人言ちた。





~ラブホテル・結標&姫神2~

結標「は、離れないで!」

姫神「それを言うなら。離さないでの間違い」

結標「どっちでもいいから!」

姫神秋沙は悶々とし、結標淡希は恐々としていた。
二人は今間接照明を落としてベッドに入っていた。
結標は姫神の身体を抱き足を絡めまるでコアラのようにぴったりとくっついている。寝返りを打とうと離れたら怒るのだからやっていられない。

姫神「(そんなにくっつかないで。貴女。誘ってるの?)」

結標「(お化けなんていないお化けなんていないお化けなんていない…)」

肌が擦れ合い、吐息がかかり、シャンプーとボディーソープの香りが拷問のように姫神を苛んでいた。
逆に今手を出したら抵抗される事なく籠絡させられるんじゃないかと邪な考えさえ浮かぶ。

姫神「子供じゃないんだから。そういう事されると困る」

結標「貴女がさっきトイレの電気消すからでしょう!怖いのよ暗いと!」

さっきはさっきでトイレまでついてきてと寝入り端を起こされ、姫神は腹立ち紛れに結標の入ったトイレの電気を消したらまた泣き出したのだ。
正直勘弁してもらいたい。いつまで消えた幽霊に怯えているのかと溜め息が出る。

結標「本当に怖かったんだから…最低よ貴女…貴女なんて嫌いよ」

姫神「そう。おやすみ」ゴロン

結標「こっち向いてぇ!」

しまいにはうつらうつらとした矢先に『起きてる?』『いる?』と話し掛けられたり。
自分が男ならもう十回は襲っている。わざとやってるなら大した焦らし上手だ。そういう風に仕向けているならば。

姫神「いい加減にして。もう2時。これ以上騒ぐなら。無理矢理寝かしつける」

結標「うう…」

向かい合わせの結標が抗議するように手をギュッと握って来る。
頼りなく弱々しい手つき。とてもあんな大立ち回りした同一人物とは思えなくて――




~ラブホテル・結標淡希2~

何よ…そんなに怒らなくたっていいじゃない…貴女だって同じ物見たのにどうしてそんなに平気でいられるのよ。
やっぱりあれかしら?巫女さんの格好してたから霊感あるとか?慣れてるとか?
離さないでよ。離れないでよ。貴女がいるから私は辛うじて我慢出来ているのだから。

姫神「貴女が。こんなに甘えん坊だったなんて。思っても見なかった」

結標「またそうやって馬鹿にする…貴女には怖い物がないって言うの?」

姫神「無くはないけれど。貴女ほど騒がない」

年下の癖に…髪引っ張ってあげようかしら?でもそんな事して本当に怒らせたら…
はあっ…こんな事ならネットカフェみたいなスペースか、個室サロンみたいな所を探せば良かったかしら?

結標「(怖い物…ね)」

今私が怖い物…それは貴女が離れて行く事よ姫神さん。
この雨が私達を引き合わせたというなら、いつか離れる日もそうなの?

結標「(復興支援の目処がついたら…貴女は私の部屋から出て行くんでしょう?)」

キスをされても、抱き締められても、貴女が遠くて、貴女の心が見えない。
きっと部屋から貴女が消えても、私達はまた外でお茶したり、たまに遊びに出掛けたり、つまらない事でメールしたり、そんな事でも繋がりは保てて行ける。けれど。

結標「(けれど、それだけ)」

本来交わる事のなかった私達の世界。私は闇の底にいて、貴女もきっと闇の底にいたはず。
何故貴女があんなイカレ魔術師に名指しで追われているのかすら私は聞けずにいる。
それを聞いたら、貴女が消えてしまいそうで。今日見たあの虹のように。気がつけばいなくなってしまう予感。

結標「(吸血殺しって…何よ)」

私は躊躇っている。明日貴女を学校に連れて行く事さえ。
あんな平然と他人を巻き込めるような連中を呼び込む火種になりかねないと危ぶんでいる。
けれど私一人で貴女を守り切れる自信がない。今日だって守るはずだった貴女に助けられたような物。

結標「(私が守りたかったものって…なんなんだったのかしらね)」

一方通行は最終信号(打ち止め)を、海原は御坂美琴の世界を、土御門はわからないけど何かを抱えていた。
私はかつての仲間。見失った目標の後に現れた貴女を戦いの理由にするだなんて貴女が良い面の皮だ。
『友達』だから?違う。私達は互いに互いをさらけ出せないから『友達』というポジショニングに逃げ込んでいるだけだ。

結標「(もし…貴女がいなくなってしまったら?)」

私はまた気ままな一人暮らしだ。快適で、自由で、そして――また、一人になる。
それを思うと握る手に力がこもる。それは私が孤独を恐れているからじゃない。


――姫神秋沙(あなた)がいなくなるのが怖いから――



~ラブホテル・結標&姫神3~

姫神「もう。仕方無い」

くるんと姫神秋沙は寝返りを打って結標淡希へと向き直る。
自分の手を握る指先が震えているのがわかるから。
今度は姫神から結標の手に指を絡ませて行く。まるで恋人繋ぎのように。

結標「え…?」

姫神「貴女が眠るまで。こうしている。それで。いい?」

結標「…私が起きるまで、そうしてて」

姫神「甘えん坊」

姫神が二人の出会いを思い悩めば、結標は二人の別れを思い煩う。
姫神は幽霊に怯えていると勘違いし、結標は姫神が消える未来を想像した。
姫神は年上なのに手がかかる娘だと思い、結標は年下なのに手がかからない娘だと思っていた。

結標「こんな所、他人に見られたら恥ずかしくて死んじゃいそうよ」

姫神「私も。貴女とこんな事してるって。吹寄さんや。小萌先生に見られたら。恥ずかしくて表を歩けない」

結標「…ねえ、姫神さん…」

姫神「…おやすみのキスでも。して欲しい?」

結標「…………ええ」

どちらともなく身体を抱き寄せる。どうしようもなく歪に歪んだ自分達。
結標は姫神が二つ合わせの鏡写しに映ったもう一人の自分のように感じられ、姫神は結標が二重写しの鏡合わせに映った自分の影のように感じられた。

硝子を挟んだ互いを見つめる、虚ろな眼差しをした二体のカタン・ドールのようだと。


――そうして夜はふけていき――
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