とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) > 09


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~第十二学区・モノレール内~

姫神「今日も。水先案内人のお仕事。お疲れ様」

結標「どういたしまして。と言っても今日はほとんど仕事なかったけれどね。せいぜいが土嚢詰みとアルカディアまでの警護だけ」

姫神「それだって。大切なお仕事。誰にでも出来る訳じゃない」

五日目…21:34分。結標淡希と姫神秋沙は帰りのモノレールに並んで揺られていた。
アルヴェーグ式跨座式モノレールの車内はほぼ無人で連なる車両などにまばらに他の乗客の姿が伺えるだけであった。
窓の外には皓々と輝く銀月が結標を照らし、開け放たれた窓から心地良い夜風が姫神の髪を揺らす。

結標「私にはコレ(座標移動)しかないから…姫神さんみたいに何でもオールマイティーには出来ないわ。特に炊事なんて頼まれたってね」

姫神「またの名を。器用貧乏」

ローズバスでの一件を互いに口にする事はない。
例えそれが空々しい暗黙の了解で、寒々しい自己欺瞞であろうとも。
故に二人の会話は口づけを交わす前のように和やかで、穏やかで…虚しかった。

結標「(水先案内人ね…成り行きで巻き込まれてしまったけれど…悪くないわ)」

ガタンガタンと規則正しい揺れ幅のモノレール。
完全下校時間は既に回っているが、結標は結標なりにこの仕事に心地良い充足感を覚えていた。
この十二学区を過ぎれば終点の第十八学区までノンストップだ。一眠りしても良い。

姫神「(今日も。ありがとうと。言ってもらえた。私には。何も出来ないのに)」

炊事洗濯雑務全般をオールマイティーをこなせる姫神、水先案内人という専門的な仕事を担う結標。
結標は暗部に堕ちて以来、姫神は学園都市に来て以来初めて、自分の存在に対して徐々にではあるが…肯定的になり始めていた。

結標・姫神「(明日はどんな一日になるのかしら(なるんだろう))

誰かのためにと言う自分のため、自分のためにと言う誰かのため。
巡り行く状況の中で自分なりの取捨選択を経て二人は僅かずつでは歩み始める。
一ヶ月前までは想像すらしていなかった自分達の姿に対する気恥ずかしさと誇らしさ。

――しかし――

結標「(………………)」

その時ふと誰かに見られているような、つけられているような感覚を覚えた。
四人掛けの座席に腰掛けながら結標は意識を集中させる。

結標「(一人…いえ…二人?)」

それは、暗部に身を置きその中で生きて来た結標だからこそ感知しえた視線…
数は一人ないし二人…どこだ?自分達しかいない車両で…別の車両か?と結標が周囲を見渡すと――

ガッシャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァン!!!




~第十八学区行きモノレール内~

結標「!?」

姫神「?!」

ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン!!!

最初は爆発物が炸裂したかのような衝撃波が車内を駆け巡り次々と車窓が砕け散って行った。
それも二人がいる車両まで後部より追跡して来るように。
それに対し真っ先に反応したのは――

結標「姫神さんっ!!!」

ガッシャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァン!!!

雨霰と降り注ぐ硝子と蛍光灯の破片から、座席の姫神を引きずり込むように結標は覆い被さった。
障子紙より呆気なく突き破られた車窓から暴風のような旋風が渦巻き車内に吹き荒れて行く。

姫神「なっ。なに」

結標「動かないで!」

姫神を身体の下に庇い立てしながら結標は真っ暗闇の車内を月明かりを頼りに低い体勢から見渡す。
既に得物である軍用懐中電灯は手の内にある。
時速60キロで走るモノレールは止まらない。破壊されたのは車窓ばかりで煙はおろか火薬の匂いすら鼻につかない。

結標「(なんなの?どうなってるの?いえ違うわ…どうする!?)」

懐中電灯は照らさない。標的が自分達であろうがなかろうが狙い撃ちの的だ。
ガタンゴトンガタンゴトンというモノレールのほとんどしない振動を意識から切り離して耳を澄ませる…すると

ジャリッ…バリンッ…ザリッ…ガリンッ

足音がする。硝子と蛍光灯の破片を踏みしめる音と共に。
結標はそちらへ耳を側立てる。自分達以外はいなかったはずの車両に、扉を開閉する音もなく…まるで

魔術師A「吸血殺し(ディープブラッド)を確認。これより確保する」

この吹き荒れる風が連れてきたように…月明かりに照らされた影…
それはモノレールの外に広がる闇夜が人の形をしたような漆黒のローブ姿…
かつてアウレオルス=イザードが属していた異端宗派(グノーシズム)の使者。

魔術師A「魔法名…Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)」

結標「(魔術師…!?)」

シャンッ、シャンッ、シャンッと魔術師は手にした錫杖についた銀の輪をかき鳴らす。
まるで冥界から来る亡霊のような出で立ちで何事かを呪詛のように呟いている。それが魔術の術式を唱えていると二人には聞き取れないほど小声で。

魔術師「同時に目撃者を確認。排除する」

轟ッッ!と魔術師を中心にまるでモノレール車内に台風でも放り込んだような嵐が巻き起こる。
自動車くらいなら木の葉のように吹き飛ばす風力。それらが魔術師の錫杖に収束して行き――

結標「(マズい!!!)」

それに対し結標が軍用懐中電灯を振るうのと同時に――

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!




~第十八学区行きモノレール車上~

魔術師A「!?」

魔術師の放った暴風の一撃が闇夜を疾走するモノレール車上で炸裂した。
結標を狙って放たれたそれは目標を失って爆裂し通り過ぎるビル群のガラスと建ち並ぶ電柱を薙ぎ払って終息する。
それもそのはず――

魔術師A「何だ今のは」

魔術師はモノレールの車上に『座標移動』させられていたのだ。
しかし魔術師にはそれがわからない。いきなり視点と景色がズラされ、一気に時速60キロで走るモノレール車上で対流をもろに浴びる。

魔術師A「クッ…」

結標「悪いけど」

ひた走るモノレール車上に結標もテレポートして来た。
姫神は依然として車内。原理は不明だがレベル4に匹敵する風力を車内で炸裂させ姫神を巻き込む訳にはいかないからだ。

結標「デートのお誘いならもう少しスマートにしてくれないかしら?」

結標も片膝をつき片手をモノレールについて突風に耐える。
気を抜けば振り落とされてしまいそうだ。時速60キロとモノレールにしてはゆっくりだが、吹いてくる風が半端ではないのだ。

魔術師A「生存確認。排除する」

結標「口説き文句の一つもないんじゃね!気の利かない男は途中下車してもらうしかないわ!」

ブンッ!と横薙ぎに軍用懐中電灯を振るう。瞬間、魔術師の姿が

魔術師A「むっ!?」

モノレール車上から路線上から外れた虚空へと放り出される。
重量4000キロ弱、射程にして800メートル近い結標からすれば空き缶を投げ捨てるようなものだ。
ただし絶えず走り続けるモノレールのせいで座標演算が若干タイムラグはあるが、それは挑発的な言葉の間に済ませる。しかし

魔術師A「まだっ…!」

シャン!と錫杖を振るうと夜空に投げ出された魔術師の足元に小型の竜巻とも言うべき旋風が巻き起こり――

ダンッ!!!

竜巻を足場に再びモノレール車上に降り立つ。初めて目にする座標移動に面食らいはしたものの…振り落としただけでは何度でも戻って来る!!

結標「その上しつこいようね!嫌われるわよそういう男は!」

思わず歯噛みする。こんな自殺同然のスタントまでやってのける相手…それも魔術師なる相手と出会すなどと。

結標「(風力からすればレベル4。目的はわからないけど目標は姫神さん。なら――ここで!)」

街中を駆けるモノレールの上、吹き付ける風に体を持っていかれそうになる、足場は最悪、向こうは魔術師。
つくづく厄日だと思わないでもない。しかし水先案内人の仕事が少なかったおかげでコンディションは悪くない。

結標「悪いけれど…こっちは“友達”の命が懸かってるのよ!!」

そうだ。友達だ。もう友達なのだ。姫神秋沙は。
残酷で、優しくて、それ以上手を伸ばせない『友達』という関係。でもそれで構わない。

――姫神秋沙(ともだち)を守るためならば――




~第十八学区行きモノレール車内・姫神秋沙~

姫神「なにが。起こっているの」

一方、姫神秋沙は結標淡希に押し込まれた向かい合わせの四人掛けの座席の下に身を潜めていた。
ゴゴンゴゴンゴゴンゴゴンとモノレールはひた走る。
そこに時折、頭上から破壊音が響き渡り、過ぎ行くビル街のガラスが砕け散る音がする。

姫神「結標さん。どうして…!」

咄嗟に自分を庇った時の身のこなし、辺りを探る目配りを見て姫神は以前からの不信を確信に変える。
結標淡希はプロ(暗部)だ。自分にはわからない世界で生きている人間だと。
今まで香った血の匂いの理由…それはあんな動きが自然と身につくような世界に身を投じていたからだと。だが――

姫神「逃げて…!」

そんな事はもうどうでも良かった。以前、上条当麻とのハンバーガー店での出会いを思い返す。
自分のために誰かが戦って傷つくのはもう嫌だ。あたりはついている。狙いは自分の吸血殺し(ディープブラッド)だ。
その背景に何があるのか姫神は知らないしどうでも良い。問題は――

姫神「逃げて――淡希!!」

まるで恋人の身を案じる乙女のように、暴風吹きすさぶモノレールを見下ろす月に。
姫神は叫ぶ。誰にも届かない祈りを口にして、ただ無事を願う事しか出来ない自分がこんなに無力に感じた事はなかった。


――――だから――――



~第十八学区行きモノレール車上2~

魔術師A「ハッ!」

紐解くは魔術文書『パウロの術』、引き出すは天蝎宮の風の天使、打ち鳴らすは『ソソルの錫杖』。
向かい風すら切り裂いて幾つもの真空波をモノレール車上の結標に対して撃ち放つ!
結標「しつこい!」

それらを上空へと飛び上がり座標移動でテレポート、やり過ごした真空波が流れ行くビルの看板を真っ二つに切り飛ばす。
しかし結標は闇夜を月面宙返りしながら軍用懐中電灯を振り下ろし――

ドンッ!

切り飛ばされるビル看板を即座に空間移動させ魔術師目掛けて投げつける。
追い風を受けて飛来するビル看板、それに目を見開いた魔術師は再び錫杖を掲げ――

魔術師A「叩き落とせ!!」

轟ッッ!と渦巻く真空の盾が魔術師に激突せんとしていた看板を弾き飛ばした。
一瞬の静寂、見上げる魔術師…しかしその先に結標は――

結標「口説きに来たくせに余所見してんじゃないわよ!」

ガッ!といつの間にか魔術師の背後に座標移動し、警棒にもなる軍用懐中電灯を思いっきり魔術師の後頭部へと振り抜いた!

魔術師A「ガッ…!」

結標「いい加減…墜ちなさい!!」

看板による攻撃は目くらまし。本命は座標移動しての背面攻撃。
その痛恨の一打に魔術師がよろめく。さらにそこへ結標の前蹴りが魔術師を吹き飛ばす。
だがいつ振り落とされるかわからない不安定な足場を庇いながらでは引き離す事しか出来ない。

魔術師A「クソッ…」

魔術師はアウレオルス=イザードが所属していたグノーシズム(異端宗派)でもまず一流と言って良い魔術師だった。
それがどうだ。こんな小娘一人仕留め切れずにいる。だが同時にこうも思う。

魔術師A「やるか…」

得体の知れない能力を差し引いて尚手に余るのは相手もまた影と闇の領域に住まう『同類』だから。ならば…!

バキッ!

結標「…!?」

魔術師A「終わりだ。吸血殺しを引き渡せ…さもなければ」

その魔術師は…手にした錫杖を真っ二つに叩き折った。
魔術師の命とも言うべき霊装・媒介を捨ててまで…そしてそれが意味する所は――


魔術師A「このモノレールを街中に“墜とす”。乗客住民みな道連れにしてだ」




~第十八学区行きモノレール車上3~

結標「!?」

魔術師A「五月蝿くて聞こえんか?吸血殺し(ディープブラッド)を引き渡さなければこのモノレールをオレの『嵐』で街中へ突き落とす。そろそろ第十五学区に差し掛かる…この意味はわかるな?」

結標「本気で…言って!」

魔術師の魔法名…Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)とはラテン後で『嵐』を意味する。
手にした『ソソルの錫杖』をヘシ折り、霊装に内包する力場を自らの命と引き換えに制御を放棄し、指向性を持たぬ暴走を持って瞬間的に『嵐』を凌駕する暴風を生み出す道連れの魔術。
例を出すなら常盤台中学の婚后光子が12トンはあると思しきトラックを空力で噴射させる原理を一極化させた竜巻の魔術。

魔術師A「もうそろそろ第十五学区だ。オレでは貴様は倒せん。だが倒さなくて良い。この車両以外の車両を『嵐』で落とす。吸血殺しが手に入るならば我等グノーシズム(異端宗派)は…」

魔術師の力では命と引き換えでもモノレールの一両を吹き飛ばすのが精一杯だ。
しかしそれを街中を走るモノレールで、学園都市最大の繁華街を有する第十五学区の中心部に落とせば?
…まさに毒杯を煽って信じる神に身を捧げんと最後の晩餐を迎える信者にも似た自爆テロ。

結標「(頭おかしい連中はそれなりに見て来たけれど…輪にかけてひどいのは久しぶりだわ)」

一方通行が見れば絶殺しかねないテロリズム剥き出しのやり口だが、この頭のおかしいローブ姿の幽霊のような魔術師にはそれが唯一無二の取り引きであり解決法なのだろう。
ハッタリでない事は言葉が通じない目を見ればわかる。
何故なら理性的に話しているようで目に宿っているのは非理性的な光。それは狂人のそれだ

魔術師A「選べ。一人助けて無辜の命を捧げるか、大勢の命と引き換えに我等の崇高な使命に――」

結標「――――――」


その時、結標淡希は初めてかつての敵の言葉の意味がわかった気がした。


『ああ私はムカついてるわよ!私利私欲で!完璧すぎて馬鹿馬鹿しい後輩と、それを傷つけやがった目の前のクズ女と、何よりこの最悪な状況を作り上げた自分自身に!!』


結標「(…気にいらないわ…)」

軍用懐中電灯を握り締める。奥歯が砕けそうなほど歯噛みする。

こんな時に、こんな場所で、こんな相手に手が出し切れない自分が

結標「(…気にいらないのよ…!)」

吹き荒ぶ風

流れ行く街の灯火

自分の足元で車両で震えているだろう姫神秋沙

狂った論理を振りかざす魔術師

そして…何より気にいらないのは――


――あの時の御坂美琴(レールガン)の気持ちがわかる自分が…気にいらない!!!――




~第十八学区行きモノレール車上4~

魔術師が向き直る…もう第十五学区に差し掛かる頃合いだ。
その幽霊のように虚ろな眼差しを向け、車上を吹き抜けて行く突風にローブをはためかせて。

魔術師A「さあ…答えろ!」

魔術師の手には吹き荒ぶ突風すら微風に思えるほどの魔術の暴風を渦巻いている。
発動した瞬間絶命するとわかっていながらその声音には一切の淀みも、我が身への迷いも、他者を巻き込む躊躇いすら感じられ――

結標「…ええ私はムカついているわ」

魔術師A「!?」

…なかったはずの魔術師が思わず言いよどむ…向かい風に二つ結びを揺らす赤髪の少女の言葉が理解出来ないとばかりに

結標「私利私欲で!」

結標「こんな私を見捨てられない優しすぎる姫神秋沙(ともだち)と!」

結標「それを傷つけようとする目の前のイカレ魔術師と!」

結標「何よりこの最悪な状況に何も出来ない自分自身に!!」

それは無力な言葉だった。怒るだけで、叫ぶだけで、今ここにある現実など何一つ止める術も力もない『ただの言葉』だったはずだ。

魔術師A「馬鹿め…!」

負け犬の捨て台詞、そう魔術師が受け取るのは無理からぬはずだった。
自分の勝ちは動かない、揺るがない、この状況を覆す方法など――――


キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!


結標「!?」

魔術師A「?!」

なかったはずだった。

結標にとっても

魔術師にとっても…


――なかったはずだった――




~第十八学区行きモノレール・運転席~

姫神「止めて!もっと強く!!もっと強く!!!」

運転手「わかった!わかった!だからそんな怒鳴らないでくれお嬢ちゃん!ふんぬー!!!」

姫神秋沙が駆け込んだ先、それは電子制御された運行に、欠伸をしながらダラダラとくつろいでいた運転手の居る運転席だった。
二人で非常用緊急ブレーキレバーを押して、押して、押して行く。力一杯。
もちろん姫神は魔術師の道連れの魔術も、結標淡希の怒号も知らない。ただこの戦いを止めたい一心だった。

キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!

姫神「止まって。止まって…止まって!!!」

姫神秋沙には戦う力がない。今は護身用のスタンガン付き警棒すら手元にない。

吸血殺し(ディープブラッド)は吸血鬼にしか意味がない。他の能力などない。

結標淡希のようなプロの身のこなしも出来ない。彼女を手助けする事など出来ない…だが

姫神「淡希…!」

姫神は姫神秋沙の戦いを始めると決めたのだ。
月詠小萌の笑顔を見てから、避難所で手伝いをすると決めてから。
どんなか弱い手でも、か細い腕でも、姫神秋沙の闘いはもう…始まっていたのだ。

姫神「淡希ぃぃぃぃぃぃ!!!」


――あの、野菜炒めの一つも作れないレベル4(どうきょにん)と出会ってから――

キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…イ…イ…イ…!!!

そして…モノレールが停車した。




~第十八学区行きモノレール車上5~

結標「あっはっはっはっはっはっはっはっ、あはははははははははははははははははははははははは!!!」

魔術師A「馬鹿…な」

あらかじめ姫神のいた車両に人払いの術をかけていたはずだ。
だから誰もこの異常事態を気にも留めないはずだった。僅かな乗客も、運転手も。
そう…姫神秋沙が人払いの術の効果範囲から飛び出し、まさかブレーキを止めにいったなどと…想像すら魔術師は出来ない。

結標「あははははははあはははあっはははっはあはははあっはっははっはっはああははは!!!」

結標淡希は止まらない高笑いを上げていた。見えずともわかる。人払いの術など知らずともわかる。
これを止めたのが姫神秋沙だと。第十五学区、繁華街に突入する直前でこのモノレールを止めたのが彼女だと…直感で。

結標「はあっ…笑ったわ…笑い過ぎてお腹痛い…こんなに笑ったのいつぶりかしらね…もう思い出せないくらい久しぶり」

結標は軍用懐中電灯を握り直す。停車したモノレールの上、止んだ突風、夜空に浮かぶ銀月、そして姫神秋沙。全てが最高で――最悪の気分だった。

魔術師A「あ…あ…あ!」

第十五学区に突入する前に停車したのではモノレールを落としても意味がない。
大勢の人間を巻き込むからこその効果的な脅迫。その有利の全てが…失われてしまったのだから。

結標「それから…こんなに頭に来たのも久しぶり。よくもこの私を怒らせてくれたわね?」

今なら一方通行の気持ちもわかりそうだ。気にいらないヤツの顔面に、思いっきりキツい一発をお見舞いしてやるのは…実に清々するだろうと。

魔術師A「ぐっ…うう…!」

もう術を発動させる意味もない。ここでやっても犬死にだと…教理に染まり切った頭でも理解だと。同時に――もう逃げられないとも。

結標「どうぞ、ご自由に?尻尾を巻いて逃げるも、恥を捨てて、みっともなく這いつくばって許しを乞うなり…そこまでやって初めておあいこよ…この…!」

そして白井黒子の気持ちもわかる気がした。最悪の気分で、最低の気分で、同時に――最高の気分だ。

結標「こ  の  ク  ズ  野  郎  !  !  !」

バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!

魔術師A「グボッ…!」

思いっきり、軍用懐中電灯で鼻っ柱をブッ飛ばしてやるのは。




~第十五学区・プラットフォーム~

「おいなんだこれ!?ガラス滅茶苦茶じゃねえか!爆弾か?」

「電車いつ動くんだよ!帰れないじゃないか!」

「うわーなんだこの黒づくめ…前歯全部折れて伸びてやがる…アンチスキル呼べアンチスキル」

「アンチスキルより救急車だろ…うわひでーゴリラに殴られたみてえだ」

22:26分…第十五学区のプラットフォームにゆっくりと到着したモノレールは辺りは騒然となっていた。
黒山の人だかりに、早く運行を再開させろと詰め寄られあたふたする運転手、怒る乗客達…そして

結標「はあっ…もう歩いて帰るしかないわね…この様子じゃタクシーは全部出払っちゃってるだろうし」

姫神「結標さん。パンツ。見えてる。今日は。ピンク」

結標「えっ!?やだっ」

結標淡希と姫神秋沙。騒動の渦中にあった二人はいち早く座標移動で抜け出し、姿をくらませて階段を上っていた。
表向きは爆弾騒ぎかなにかで落ち着くだろうと思いながら先行く結標がミニスカートを慌てて抑え、それを姫神が指差して。

姫神「前から思っていたけど。そんな愉快にケツ振って歩かれたら。誘ってるのかと思われる」

結標「貴女アイツ(一方通行)に会ってないわよね!?」

結標淡希がわかった事。それは姫神秋沙が希少な能力を持つ『原石』でありそれらを狙う勢力がある事。
姫神秋沙がわかった事。それは結標淡希がある種のプロフェッショナルであり、自分を救ったという事。


姫神「姉ちゃん。ええケツ。しとるやないか」サワッ

結標「ちょっ!コラ!やめなさい姫神さん!貴女そんなキャラだった!?」

乗客に怪我人は無し、結標にも姫神にも怪我はなく、いるのは前歯全部と頸椎と鼻骨をヘシ折られた哀れな魔術師が一人。
同時に結標淡希は強く思う。再び暗闘の予感がすると。
そしてその中心にいるのはこの…姫神秋沙(ともだち)だとも。

結標「はあっ…今夜は家に帰るの良しましょう…鴨撃ちの的だわ。でももう学校に戻る上り列車ないし…困ったわね…多分ビジネスホテルもこの時間じゃ…」

姫神「第十五学区は繁華街。ラブホテルもたくさんある。そこに泊まれば」

結標「え、え、え!?ら、ら、ラブホテルって…私達女同士よ!?」

姫神「女同士で。入れる所もある。もしくは。無人フロントのタッチパネル式。替えの下着は。中でも売ってる」

結標「貴女どうしてそんな詳しいのよ!?」

姫神「綺麗なだけの。私を見ないで(キリッ」

結標「無表情でどや顔しないで!!」

姫神「ウブなあわきんには。俗っぽ過ぎて耐えられない」

結標「あわきんって呼ばないでって言ったじゃない!馬鹿!!」

そして二人は第十五学区の駅から出る。どちらともなく、気がつけば手をつないでいた。
それは夜遊びに出た仲の良い女友達同士の悪ふざけにも、姉妹のようにも見えた。
ともあれ二人は乗り越えた。乗り切ったのだ。今日という長い一日を。

姫神「今夜は貴女を。帰さない」

結標「帰さないんじゃなくて帰れないの間違いでしょう?」

姫神「今夜は貴女を。寝かさない」

結標「寝かせて!?」

互いの手を、離す事なく
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