上条「アンチスキルだ!」美琴「ジャッジメントよ!」 > 13


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上条が寮から最寄りの駅に帰ってきた時には、日が暮れていた。
暗くなった道をふらふらと歩く。

支部に戻ってから、
黄泉川に『隠してた罰として今回の報告書を書くじゃん』と言われ、
結局最終下校時刻ギリギリまで残るはめになった。

「うぉー寒い」

時折吹く風に身を縮ませながら、電灯が並ぶ幹線道路の歩道を歩く。

この時間帯なら学生が出ていてもおかしくはないが、寒さのためか一人も見かけない。
当然のことであり、いつものことだが、今の上条には何故かそれが寂しく思える。

あの事件の後、正確には美琴にあった後から、
上条の頭の中というか心の中というか、
とにかく説明しがたい身体の内が、説明しがたい感情で溢れていた。

何が原因で何に対してなのか、上条にはわからない。



ただ



──御坂美琴に会いたい。



なぜなのかわからない、愛しいなどの意味ではないし、会えば何か解決するとも思わない。

ただ…何となく。

いつもの公園に差し掛かった。
彼女と会うのは大抵この場所。

居るわけがないとわかっているが、どうしても公園を見回してしまう。
少し遠回りにはなるが壊れた自販機の所を通る。

上条は知っている。
いつも急いでいる時に現れるくせに、こうしてたまに会いたいなんて思った時に限って──




「─っくしゅん!」

「…あれ?」

「あーやっと来た。アンタってばいっつも遅いんだから。
おかげでこっちは鬼の寮監にラブコールをするはめになったのよ」

美琴は自分の腕を寒そうに撫でながら言う。

「え、何してんだ?ビリビリ」

「何って、これよ」

美琴がポケットから何かを取り出して上条へ投げる。
慌てて受け取ると『ホットおしるこ』だった。

「この前奢ってくれたでしょ、それのお返しよ」

「お返しって…それじゃ奢りにならねーじゃん」

「いっ…いいから!ありがたく受け取りなさい!」

「へいへい」

そう言って上条はプルタブを引いて一口飲むが。

「あの…美琴さん」

「何よ?」

「冷めてるんですが…」

「え…う、嘘!」

「お前ここまで冷めるまで待ってたのかよ、缶ジュース一本にどれだけプライドかけてるんだ」

美琴は顔を真っ赤にしながらそっぽを向く。

「ち、違うわよ!
故障…そう、この自販機が故障してて温かくないだけよ、ほらこの前だって間違って商品出してきたじゃない!」

必死な美琴を見て、上条は小さく笑う。
少し虐めてみたくなった。

「いやぁ、でも冷めてるっていっても冷たいんじゃなくて、生温いって感じなんですがねー」

「う…」

「何と言うか、買ってしばらくたってしまった生温さってとこかなー」

「───」

「あ……」

バチバチという音が聞こえて、上条は顔を青くする。
美琴を見ると、顔は俯いているが耳まで真っ赤で、髪の毛先からはバチバチと青い光が散っている。

「この野郎!」

「うぉわ!」

バチンを飛ばされた電撃を右手ではらう。

「あ…」

間抜けな声と共に美琴が立ち尽くした。
あぶねーだろ!と一喝しようとしたが、そんな美琴を見て上条は不安そうに問いかける。

「あの、御坂?」

「ね、ねぇ…変なこと聞くけどさ」

「あぁ?」

「今日、お昼過ぎって…何してた?」

美琴の質問に身体が強張る。
今回は身体から火薬の臭いがする筈もないし、昼間のことを仄めかす言動もしていない。

「あぁ…昼は補習だったよ。
何分出席日数が足りない上条さんは冬休みなんて無いも同然です」

「そう…そうよね!しっかりしなさいよ!
分からないとこあれば教えてあげるから!」

少し安心したような、それでも不安そうな笑みを浮かべる美琴。

「おいおい、それ言われた俺の立場になってみろって!
俺は高校生ですよ!美琴さんより2つも年上ですよ」

ふざけながらも、上条は心の中で美琴に謝る。
嘘だらけの中で、いつもの自分が演じられているのかが不安だ。

「あ、冷めてるんだったわね、貸してみなさい」

思い出したように美琴が手を出す。

「あぁ?いいよ、冷めてても大丈夫だし」

「いいから!さっさと貸す!」

そう言って上条から強引に缶を奪う。

「私は電撃使いよ?電子レンジでも電磁調理器にでもなれるわ」

「それって言ってて悲しくないか?」

「う…細かいことはいいの!」

美琴は缶をベンチに置いて両手をかざす。
美琴の手と缶の間に電撃が走ったりはしないが、しばらくすると缶から湯気が上ってきた。

「んー調節が難しいのよね…」

「御坂、右手…」

上条は美琴の右手に巻かれた包帯を見て小さく言う。

「ごめん、ちょっと今集中してる」

「いいから!」

美琴の右手を強く引く。
上条の声に一瞬驚いたためか、缶から中身が少し溢れてしまったが、上条が右手で手を引いたため能力は止まる。

「ちょっ…ちょっと!」

「この怪我は?また何か無茶したのか?」

もちろん上条は、美琴がどこで怪我をしたのか知っている。
しかし詳しいことが知りたい、毎度のように美琴が怪我を負う危険があるのなら、指を咥えて見ていられない。

「ちょ、ちょっとした事件よ。ほら、ジャッジメントになったって言ったでしょ?
それで今日事件があって…もちろん!私が行ったんだから、ささーっと解決しちゃったけど」

「それで、この怪我は?能力者にやられたのか?」

「えぇっと…これは、その、何と言うか…」

もじもじと、なぜか恥ずかしそうにする美琴。

「や…八つ当たりというか…」

「八つ当たり?」

予想外の回答に思わず言葉を返してしまう。

「わ、笑わないでよ…ちょっと悔しいことがあってね、ガツーンと地面殴ちゃったわけ」

「ぷっ…なんだよ、そうだったのかよ」

思わず吹き出し、ヨタヨタと力無くベンチに座り込む上条。

「ちょっと!笑ったわね!笑ったでしょ!」

「笑いました、三段活用。あー心配して損した」

「何よそれ!アンタは私が自分でコンクリートに頭を打ち付けて怪我しても、笑って済ませるの?」

フーフーと、美琴は頭から湯気が上りそうな程顔を真っ赤にする

「冗談だよ。怪我も心配だったけど、とにかく危険なことしてるんじゃないかって」

「アンタに言われたくないわよ」

「そりゃごもっともで…」

「だからアンタ、今回だって首突っ込んでないかと思ってね」

そう言って美琴は上条の右手を見つめた。

「さっき話した今日の事件なんだけど…」

「あぁ?」

「私と同じ、電撃使いが暴走したの。
それで私が抑えようとしてね」

「それで、しっかりと事件解決できたんだろ?」

あくまで事件の概要は知らないフリ。
その場しのぎでは無い嘘をつくことがここまで難しいとは思いもしなかった。

「結果はそうなんだけど…ちょっと気になることがあって」

「もしかして俺に関係あることか?」

「わからない…
でも、ちょっとドジして、暴走した能力者の電撃がアンチスキルとかの居るところにいっちゃったの…
さっき言った悔しかったのはこのこと。
だけどね…その電撃は消えたの」


消えた─という単語を聞いて、上条は次に来る質問がどんなものなのか予想はついていた。

「アンタが右手ではらったみたいに…」

「そう…か」

「本当に何も知らないの?本当に今日のお昼は補習受けてたの?」

美琴の問いかけに、上条は固まる。

正直なところ、隠さずにはなしてしまえればどれほど楽だろうと思う。
それでもなお隠し続ける必要はあるのだろうか。
元はといえば、美琴のような人が事情を知って首を突っ込んでくるのを恐れていた。

しかし、結局美琴は自分の考えで、自分の道で事件と向き合っている。
それなら隠す必要も無いのではないか…



いや──



上条が事件に関わっていると知れば、美琴はもっと深く危険なところまで来るかもしれない。
それならば、今の状況がいいのかもしれない。

と上条は少々強引に、甘える自分を押し込めた。

「ねぇ…聞いてる?」

「あ、あぁ悪い…少し考えたけど、本当に何も知らない。
そんなことより、その能力者は結局どうしたんだ?」

「その電撃の行方を見た後に振り返ったら、気を失うところだった…」

「気を失ったから、電撃は消えたんじゃないのか?」

「そう考えるのが自然よね…ごめん、疑ったりして」

美琴は悔しそうに両手を握る。

「さっき、ささっと解決したとか大きいこと言っちゃったけど、結局私は何もしてないの…」

力無く言う美琴の手を、上条は思わず握った。

「そんなことねーよ!
御坂が戦ったから、抑えられた損害だってあるはずだ。
いや、絶対にある。御坂が戦わなかったら怪我人だってたくさん出ていたかもしれないだろ」

上条は美琴を見つめながら言う。
美琴は上条の行動に拍子抜けしていたが、合わせられた視線を外すことができない。

「そう…なのかな…」

「そうだよ、もっと自信持てよ。学園都市第三位の御坂美琴だろ」

真剣な顔で、まるで自分のことのように力説する上条を見て、美琴は小さく笑う。

「そうね…もっと自信持たないとね」

つられて上条も笑みをこぼす。
どちらからともなく手を解くと、美琴もベンチに座った。

「まったく、変なこと言い合ってる間にまた冷めちゃったじゃない」

上条との間にある缶に、美琴はもう一度両手をかざす。

「あ、悪いな」

「いいから、集中するから話しかけないこと」

「お…おぅ」

上条はぼんやりと星空を眺める。
しかしそれに飽きたため、上条は横で難しそうな表情をする美琴を見た。

細身の身体から伸びるしなやかな腕。
その先手には包帯が巻かれているが、手の甲だけなので綺麗な指が見える。


そんな美琴の右手を見て、

「綺麗な指してるんだな…手の甲の傷跡、残らないといいけど」

上条は本当に純粋な気持ちで、独り言のつもりで言ったのだが。

「ふ──」

「あれ!?美琴さん!溢れてます!溢れてます!」

「ふにゃー!」

結局、ホットおしるこは温かく美味しく飲まれることのないまま散っていった。

 

 

「じゃ、わざわざありがと」

「いえいえ、これくらい当然ですよ」

上条と美琴は常盤台の寮まで来ていた。

「ま…また今度おしるこ奢るから」

「あー今度は俺が来てから買ってくれよな」

「わ、わかってるわよ!」

「じゃぁ帰るわ」

「うん…気を付けて…」

トコトコと歩き出す上条。
ゆっくりと離れていく背中を見ながら、美琴は心のどこかが締め付けられる。

(やっぱり…)

上条が遠くの曲がり角で振り返って手を振ってくる。
美琴もそれに応じて胸のあたりで小さく手を振った。
その手を胸元へ持って行き、小さくキュッと握る。

(やっぱり嘘ついてる…)

包帯の巻かれた右手を左手でさすりながら考える。

(最初にこの怪我の話をした時、私は事件とは言ったけど、
一言も能力者の暴走だなんて言ってない…なのにアイツ…)

『それで、この怪我は?能力者にやられたのか?』

(…)

事件の内容が能力者の暴走だと言ったのは確かにこの後だ。
この時点ではまだ事件があって怪我をしたとしか言っていない。


偶然かもしれない。
今の事件と聞けば能力者の暴走と考えるほうが自然かもしれない。


(だとしても…)

美琴は納得できなかった。
上条の言い方に、どことなく違和感を覚えた。
かと言って、本当に上条がこの事件に関与しているという確証もまだ無い。

上条が現場にいたかは謎だ。
ジャッジメントの支部に戻ってから、
初春に頼んで現場付近にある防犯カメラの事件当時の映像を読み込んでもらおうとしたが、電撃使いの能力者が暴走したためかどれもダウンしていた。

上条の言う通り、能力者が気を失ったから電撃が消えたのかもしれない。

仮に上条が右手を使って警備員本隊の前で電撃を打ち消したのなら、誰か警備員は見ていたに決まっている。
本隊の中に学生服の彼がいれば目立つだろうし、現場から離れさせられるはずだ。

だが警備員の答えの中に上条の目撃情報は無かった。

(難しく考えないほうがいいのかしら…)

美琴は頭の整理をしながら寮の中へ入る。
寮監に帰ったことを伝えると、無言のまま視線だけで部屋に戻るように指示された。

部屋に戻ると、黒子は珍しく普通に寝ていた。
鞄を置き、手の包帯をゆっくりと取る。

(綺麗…か)

さっきの言葉に少し顔を赤らめながら着替えを持ってシャワールームへ入る。
タッチパネルに触れると今の自分に合った温度のお湯を出してくれるが、今は少し熱いお湯を浴びたいので少し温度を上げる。

(わからない…アイツの考えも、私の考えも…)

肌に当たるお湯が心地良いが、頭の中はもやもやとしたままだ。

(仮にアイツが何か隠してるのなら…どうして?私じゃ力不足だって言うの?)

あの少年がいつも厄介事に首を突っ込んでいるのは知っている。
だが美琴が知るのはいつもボロボロになった彼、入院している彼。

ある時はボロボロになった身体で、病院から抜け出してきたところの彼に会った。
その時も、結局美琴は止めることしかできず、それでも彼は止まらなかった。

そして






(何もできなかった…)






ロシアで彼が戦っていることを知り、自分の能力を最大限に駆使して無我夢中に追いかけた。
やっと同じ土俵に立てたと思っていたのに、彼の背中は思っていた以上に遠くて。

(嫌だ…)

頭に浮かぶのは、ロシアでやっと彼を見つけた時のこと。
VTOLから必死に手を伸ばした。
自分に気付いた時、純粋に嬉しかった。


しかし自分の手を取ることは無く、遠ざかっていく──。


(置いてかないで…)

はっ、と涙が出そうになるのを堪える。

(ダメダメ!ここで泣いても仕方ないでしょ、第一何がそんなに悲しいのよ)

ペチペチと頬を軽く叩く。

もしも彼が関わっていたとしても。
今回の事件は学園都市の中で起こっている。
自分だって風紀委員として事件に関われる。
いつものようにはさせない。



同じ場所に立っている。



(しっかりしなさい、御坂美琴。
私情を持ち込んでたらジャッジメントなんてやってられないわよ。
よし、とにかく。今後このこと考えるの禁止!)

仮定を立て続けても仕方が無い。
美琴は気を取り直して髪の毛を洗おうと手を上げるが。

「いッ───!」

考え事をしていたからか、今まで右手の痛さに気付かなかった。
手を上げたために、シャワーから勢い良く出るお湯が傷口へ直撃。

「───」

黒子を起こすとまた面倒なので、必死に声を抑える。
結局堪えた涙はお湯と共に流れることになった。

 

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