美琴「ちょっとアンタ!」 禁書「なぁに?」 > 06


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ビル街の裏手に『ペガスス座』と書かれた板が掛かった、古びた建物がひっそりとたたずんでいる。

そこに、絹旗最愛はいた。

がらんとした劇場内でところどころ破れ繕われた座席に身をゆだね、どこかくたびれたスクリーンに映るハリウッド産の新作CG映画を眺めながら、あくびを一つ。


(いやぁ、なんといいますか、)


欧米人俳優の「キャメハメハァーン!」という波動砲発射時のセリフを聞きながら、


(この超クソさがたまりませんね)


一人、悦に浸っていた。

 

ある者は舌打ちを、ある者はブツブツと不満をこぼしながら、エンドロールの流れるスクリーンを背にぞろぞろと劇場を後にする。

彼女一人を残して。


「いや~これはホントに金の超無駄ですね~」


この産業廃棄物並みの作品に視聴料を支払い笑っていられる人間は、おそらく彼女一人だろう。

彼女一人が残った場内が、それを暗に肯定していた。


「あのハリウッドが産み出した、何億という金を使って産み出した作品という超事実………」

「それに加えてこのクソさ!これは超ポイント高いです!」


古びた建物の暗闇で「くぉぉぉぉ!」と悶える小さな影。

言うなればその姿は、『世界変質者協会のエリート候補生』である。

「ふぅ。さて、次は………」


ペガスス座の『一日視聴券』を購入時に付いてきたポップコーン(L)とジュース(L)を隣の席に置き、『上映スケジュール』をガサガサと開く。

上映後のオレンジ色の薄明かりが灯った場内はどこか近代的な趣きがあり気に入ってはいるのだが、文字が見えにくいのが玉に傷だ。


「えーっと………『火熾おばさんの2人のこども』………か。超聞いたことありませんねぇ!」


「オラ、なんだかわくわくしてきたぞ!」と先程見た映画のセリフを口走ってしまう程、B級、いや、C級臭のただようタイトルに、彼女のテンションは本日最高値を記録した。


後方でドアが乱暴に開けられる音を聞いた。

それとほぼ同時に、場内は闇に暮れた。

 

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美琴「ほら、こっちこっち!早く!もう始まっちゃう!」ヒソヒソ

禁書「ちょっ、ちょっと待って欲しいかも!」ヒソヒソ

美琴「えーっと、B-29は……ここか」

禁書「じゃあわたしは隣だね」

美琴「違うわよ。アンタはあっちでしょ」

禁書「えー。こんなに閑散としてるんだから、どこに座ろうと一緒なんだよ」

美琴「うーん、まぁ、そうなのかなぁ?」

禁書「それに………その、」

美琴「なに?」

禁書「映画………初めてだから、ちょっと怖くって…………///」

美琴「うん。全力でいいわよ。ていうかもう全力でここにいなさい。いや、むしろいるべきだわ」

禁書「うん………?」

禁書(これが現代の日本語なのかな?)

 

<上映中、携帯電話でのご撮影は………>


美琴「お、きたきた」

禁書「え?これ、映画の本編なの?」

美琴「もしそうだったとしたら制作会社はクレーム地獄に堕ちることになるわね」

美琴「これは映画を見るにあたっての諸注意とか、他の映画の宣伝とかをしてるのよ」

禁書「へぇーそうなんだ」パカッ ピッピッ

美琴「なんでケータイ開いたのよ。人差し指で一生懸命なにしてんのよ」

禁書「いや、『押すなよ』=『おしてくれ』っていうのがジャパニーズカルチャーで………」

美琴「どこで知ったのよそれ。今の小学生知らないわよ」

禁書「『撮るな』=『撮れ』ってことで………」

美琴「そのカルチャーはあの人たちが一身に受け止めてくれてるから、アタシたちはアマノジャクしなくてもいいのよ」

禁書「おぉ!現代に生きるジーザス=クライストなんだね!贖罪的な感じなんだね!」

美琴「まったく違うからキリスト様に謝ろっか。ってかなんでカメラじゃなくてメモ帳開いてんのよ」

禁書「機械は苦手なんだよ」

美琴「もはや死活問題レベルね」

 

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大きな画面、大きなスピーカー、大きな音。

その全てが体を揺らす。

びりびりと響く音の波が、高鳴る鼓動とリンクするような感覚。

この感覚に魅了されたのが、映画館通いのきっかけだった。


(なんか………超のどかですね)


スクリーンには火熾おばさんが料理をしているシーンが流れている。


前半のあらすじはこうだ。

『時は第二次世界大戦後。

戦争未亡人の火熾おばさんとその子供A子のところに、戦災孤児であるB子が養子としてやってくる。

心を閉ざしたB子は、A子との触れ合いで徐々に心を開いていく、ハートフル戦後ドラマ。』

というものだ。

 

(なんで超戦後間も無い時に養子として迎えようとするんでしょう………超作りが粗いですね)


などと心の中で批判しながら、B級C級判定を進める。

ハートフルドラマ。

ほのぼの系の王道とも言えるジャンルだ。

しかし、絹旗最愛は知っている。

「たまには、こういうほのぼのもいいもんだ」などという思考は大概、物語の進行と共に崩れ去ることになるということを。


(さ、どんな展開が超待っているんでしょうか)


わくわくとスクリーンに釘付けになりながら、ポップコーンをむしゃむしゃと頬張る。

Lサイズは、まだまだ無くなりそうにない。

 

 



A子「B子ちゃん!今日はなにする?」

B子「えっ」

A子「もぉ~~~、ちゃんと聞いてたぁ?」

B子「ごめん!聞いてなかった!」

…………』



「………制作者の意図が読めないわ…」


御坂美琴はうんざりしていた。

かれこれ40分にも及ぶハートフル人生劇。

『日常を写実的に再現した』と言えば聞こえはいいが、それはイコール『平坦でつまらない』というものだ。

この映画に、期待はもう無い。

今の楽しみといえば、隣で鼻をフンフン鳴らしながら始めての映画体験をしているインデックスをながめることくらいだ。

手を胸の前でグーにし、身を乗り出し、興奮している。

何がそんなに楽しいのか。


(…………なんか、ぎゅ~~~~ってしたくなるわね)


そんなことを考えたあと、「おっといけない」と頭を横に振り、暗闇に理性が飲まれないよう警戒する。

そうこうしていると、


「…………?」


館内が、シンとした。

どうやら状況が変わるようだ。



A子「ねぇ………B子ちゃん、」

B子「なぁに?」

A子「『キス』って知ってる?」

B子「うん。おさかな」

A子「魚類じゃないよ!ちゅーだよ!」

B子「知らなかったー」

…………』



「ほぉ、テーマは超『性への目覚め』ですか」


完全に読めた。

ここから好きな男子に告白し、フられる。

そして友達に励ましてもらい、立ち直る。

『人生にはこんなこともあるんだよ』を教訓とする、ハートフルC級映画。


「ま、そんなトコでしょうね」


「ふぅ」とため息をつき、就寝体勢に入る。

これ以上観る価値は無いだろう。


A子「おっくれてるぅ~」

B子「遅れてないもん!」

A子「いいや、遅れてるわ」

B子「じゃあA子ちゃんはやったことあるの!?」

A子「い、いや、ないけど………」

B子「ほーらね、A子ちゃんも遅れてる」

A子「B子ちゃんだってないじゃない!」

B子「むむ」

A子「ねぇ」

B子「なによ」

A子「あのね…………ちゅー………」

B子「?」

A子「B子ちゃんと、ちゅーしてみたいな………って」

B子「なんだ。そんなことか。いいよ」

…………』



「えっ………」

どんどんと落ちていく意識は、聴覚によってサルベージされた。





A子「んんっ………んっ」チュッ

B子「んっ………」チュッ

B子「ぷはぁ。こんなんなんだ。キス」

A子「…………B子、ちゃぁん」

B子「ん?」

A子「私ね、本当はね、」


「B子ちゃんのこと、好きなんだ」





「………ッ」


絹旗最愛は奥歯を噛み締めた。

意識と共に、こみ上げるものが一つ。

金色の髪、碧眼と共に、こみ上げるものが、一つ。

彼女の名前はフレンダ。

『アイテム』を売った、裏切り者だ。

そうだ。

あいつは死んで当然のことをしたんだ。

よく二人で買い物をして、よく二人で遊びまわり、よく二人で映画を見て、よく二人で缶詰めを探し、よく二人で風呂に入り、よく二人で眠ったあいつは。


(…………………フレンダ………)


友達として、姉として、仲間として。

裏切り者は私にやわらかく接してくれた。

一度、お姉ちゃんと呼んでみたかった。

一度、ありがとうって言いたかった。

一度、おもいっきり甘えてみたかった。

一度…………、一度だけでも、


「フレンダ………」


大好きって、言いたかった。


「……フレンダぁ……………」


もやがかかるスクリーン。

届かぬ声は、音響にかき消され、暗闇に投げ出された。



おばさん「何やってるのあなたたち!」

A子「ち、ちがうの!これは………」

B子「チューしてるだけだよ?」

おばさん「な………なんですって?」

…………』



御坂美琴は、A子の恋路を応援していた。

抱いてはいけない感情。

抱いてしまった者の苦悩。

それがわかるから、応援していた。




A子「どうして!?どうしてダメなの!?」

B子「A子ちゃん」アセアセ

A子「私は好きなの!B子が好きなの!」

…………』



これだけ、これだけ素直になれたら、私も変われるだろうか?

主張することは大事だ。

芸術しかり小説しかり、自分の見解を伝えることは、自分の内面をリアルの世界に反映させる唯一の手段だからだ。

 


おばさん「まだ何も知らないくせに」

A子「知ってるもん!好きな人とはチューするものって、知ってるもん!」

おばさん「やかましい!このド素人が!」

A子「ひっ……」ビクッ

おばさん「なんにもしらないくせに、知ったふうな口をきくな!」

……………』


ぐさり、と突き刺さる。

私は、何もしらない。

まともな恋愛だってしたことない。

だが、この気持ちは、罪なのか?



おばさん「いい?これはいけないことなの。女は男に、嫁がなきゃいけないの」

A子「いけない………こと、なんかじゃ……」ウルウル



「ないもん………」


ポツリ、とつぶやく。

映画のセリフを否定するように、振り払うように。

 


A子「お母さん!B子が、B子がいない!」

おばさん「あぁ、B子ちゃんなら、親戚のおばさんに引き取ってもらったわ」

A子「…………………へ?」

おばさん「あなたの為なの。それに、親戚のおばさんの家はお金持ちだし、B子ちゃんだって…」

A子「………ばか」

A子「お母さんのバカァァァァァ!」ウワーン!

…………』



「『あなたの為』……か」


寂しさが込み上げてくる。

私と密着している、私よりも小さな肩。

その肩から伝わってくる体温が、私を異端だと、おかしいと告げ始める。

 

 

上映開始から、約105分が経過した。


 


B子「久しぶりね、A子」

A子「B子……なの?うわぁ!懐かしい!綺麗になったね!」

B子「ありがと。それより、私ね、」

A子「うんうん!」

B子「今度、結婚するの」

A子「………え?」

B子「だからさ、もう、やめてくんない?そういうの」

A子「え………そういうのって………」

B子「わかってるんでしょ?あんたさ、気持ち悪いのよ」

B子「もう私につきまとわないでくれる?」

A子「ーーーッ」

B子「いいたいことはそれだけ」


「じゃあね、レズビアン」』



「ーーーッ」


淡々と、エンドロールが笑っている。

まるで、えぐられた傷を拡げるように。

 

 

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初春「見てくださいよ佐天さん!あれ、とってもかわいいですよ!」

佐天「どれどれー?…………………初春、気は確かかい?」

初春「?」

佐天「いやいや『何言ってんですか?』みたいな顔されたらこっちが困るよ。」

初春「何言ってんですか?」

佐天「なんだろう。二回くらい言われた気分だよ」

初春「ま、どうでもいいんですけどねー」

佐天「たまに初春が分からなくなるよ」

初春「佐天さん!あれ、とってもかわいいですよ!」

佐天「さっきのやりとりを亡きものにしようとしてるね?」

初春「かわいくないですか?」

佐天「さすがのあたしも人を丸呑みにしてる植物のフィギュアはちょっと…………」

初春「そうですか………」ショボン

佐天「………………」

佐天「……あーもう!」

初春「………」ショボーン

佐天「取ってあげるから、そんな顔しないの!」

初春「!」パァァァ!

佐天「はぁ…。初春はホントに、子供だね~」ヤレヤレ

初春「確信犯的行動ですよ」

佐天「一度鉄拳をもって制さなきゃいけないみたいだね」

初春「女に二言は………ですよ?」ニヤニヤ

佐天「うっ………はぁ、やればいいんでしょやれば」

初春「それでいいんですよ」

佐天「お金は?」

初春「割り勘で」

佐天「さっきからちょいちょいおかしいよね?」

初春「気のせいですよ」

……………

佐天「あっ!おしい!」

…………………

佐天「くそっ!もうちょっとで……」

…………………………

佐天「なにこれ?アーム弱すぎない?」

………………………………ゴトッ

佐天「や、やった………!」

佐天「取れたー!やったよ!初春!」

初春「佐天さん、おめでとうございます!」

佐天「うん!ありがとう、初春!初春のおかげで………」

佐天「…………ん?」

初春「どうかしましたか?」

佐天「いや、なんだろう。なんだか立場が逆転………」

初春「はい?」

佐天「いや、だから立場がぎゃ

初春「どうしました?」

佐天「いや、だか

初春「お疲れのようですね」

佐天「おい」

初春「チッ」

佐天「はぁ、ま、いいよ」

初春「ハァマイヨニィ?」

佐天「…………今日の初春なんかへん」

初春「ハッ、怖いかポッター!」ヘッ

佐天「殴るフォイ」グッ

初春「落ち着くフォイ」

佐天「ホントに今日どうしたの?初春」

初春「いやぁ、それはなんといいますか、


佐天「ふんふん」

初春「2人っきりのお出かけって………なんか新鮮で」

佐天「!」

初春「ちょっと………舞い上がっちゃいました///」モジモジ

佐天「な、な~んだ!だったらそう言ってくれればいいのにー!///」アハハ

初春「なに舞い上がってるんですか?」

佐天「許容範囲外だよ、初春」ガシッ

初春「絞首はいけないと思います」

佐天「もう」プンプン

初春「ふふふっ」

佐天「なに笑ってるの?」ジロッ

初春「いやぁ、やっぱり佐天さんはかわいいなーって」

佐天「なっ………!何言って………///」カァァァァ

初春「あぁもう!佐天さーん!」ダキッ

佐天「ち、ちょっと!」

初春「えへへへ、とっても柔らかいです!」フニフニ

佐天「ひゃぁっ!初春!ここゲーセンだから!みんな見てる!見られてるよ!///」アタフタ

初春「視姦ですね」ボソッ

佐天「ほかの人に聞こえなきゃいいって問題じゃないよ、それ」

 

ガヤガヤガヤガヤガヤ……………

 

「また女の子同士かー」

「ふひぃ!またもや神が、神が我を百合の世界へ導いてくれた!」

「今日多いなー。なんかの撮影か?」

 

ガヤガヤガヤガヤガヤ……………


佐天「うわぁぁぁぁぁぁぁ!/////」ダッ

初春「うわっ!さ、佐天さん!引きずらないでくださいよぅ!」ズリズリズリズリ

 

----------

 

佐天「はぁ、はぁ」

初春「すごく興奮してますね」

佐天「こ、興奮ちゃうわっ!」

初春「生物学的には興奮で合ってますよ。何考えてるんですか?」

佐天「それ社会学的には屁理屈っていうんだよ」

初春「学園都市で社会学(笑)」

佐天「やめなさい。社会学専攻の人に怒られるから」

初春「というか、なんで逃げたんですか?」

佐天「いや、なんか………は、恥ずかしかったから///」

初春「なにが恥ずかしかったんですかァ?」ニヤニヤ

佐天「う………そ、それよりこれっ!」サッ

初春「?……あ、さっきのフィギュア!」

佐天「初春にあげる」

初春「モノで釣る作戦ですか」

佐天「あたしは誘拐犯か」

初春「連れ去ってくださいよ」

佐天「この場合誘拐って成り立つのかな?」

初春「あ、そんなことより佐天さん」

佐天「ん?」

初春「まつげ、付いてますよ」

佐天「えっ、どこどこ?」

初春「取ってあげますから、ちょっと目つぶっててください」

佐天「ん」ギュッ


……………………………チュッ


佐天「ん!?」パチッ

初春「えー、あの、一応、今日のお礼………といいますか、あの、その、/////」

佐天「え?あの、ういは

初春「ご、ごごご、ごごめんなしゃいでした!じ、じゃあ!/////」ダッ!

佐天「えっ………」





初春(や、やっちゃったぁ~~~~~/////)タタタタタッ






佐天「…………ほっぺに………ほっぺに………」

佐天「ちゅー…………され…ちゃった/////」

佐天「きゃ~~~っ!」ドキドキ

 

 

 

----------

 

パチッという音の後、漆黒は薄暗いオレンジ色に染まった。


「うっ………ふぇぇ………」


嗚咽。

あの時、流れなかった涙。

裏切り者が殺された時流れなかった涙が、今になってようやく出てきた。


「レン……ダ、フレン、ダぁぁ………」


まるで氷を溶かすように、ゆっくりと、しかし確実に、彼女の笑顔は私をむしばむ。

頭の中、心の奥。

にっこりと笑い、私の名前を呼ぶ裏切り者は、世界で一番大好きな人。


「も、ぅ………会えないんで、すか?」

「そんなのイヤ、です。…………超あんまりじゃありませんか」


一人ぼっちだった私に、初めてできた友達。

一人ぼっちだった私に、初めてできたお姉ちゃん。

一人ぼっちだった私に、初めて笑顔をくれた人。

そして、

一人ぼっちだった私を、初めて抱きしめてくれた人。


「くぅ……くぅぅぅ………」


大声で泣きたいが、こんなところでは泣けない。

声を出すまいと下唇を噛むと、寂しさに震える仔犬のような声が出た。

周りから見ると、今の私はどんな人間に見えるのだろう?

きっとみっともない顔で、迷子のように見えるのではないか。


「なんで……死んじゃったんですか………」

「私に、超寂しい思いをさせて、自分はどこに行っちゃったんですか………」


心の融解は、ひどく平坦な、しかし掛け替えのない思いでと共に加速する。


本当に壊れそうになった時、


「どうしたの?」


私のすぐ後ろに、シスターがいた。

禁書「どこか痛いの?」

絹旗「………誰ですか?」

禁書「シスターなんだよ」

絹旗「で、そのシスターさんが超何の用ですか?」

禁書「君が泣いてたから」

絹旗「ふん。映画に超感動しただけですよ」

禁書「でも、今の君、すっごく辛そうな顔してる」

絹旗「…………………何でもないです」

禁書「うん」

絹旗「だから………だがら、ほっどいでぐだざい」ウグッ

禁書「大丈夫だよ」

絹旗「うぐっ………うう……」プルプル

禁書「頑張ったんだね。辛かったんだね」

絹旗「……………」コクン

禁書「だったら、泣いてもいいんだよ?みっともなくなんてない。」

絹旗「ぞ、ぞんなの………うぞでず」プルプル

禁書「もう一回、言うね」



禁書「君は、泣いてもいいんだよ」

 

絹旗「う、ううぅ……うわぁぁぁぁん!」ダキッ

禁書「辛かったね。寂しかったね。もう、大丈夫なんだよ」ギュッ

絹旗「うぇぇ、わぁぁぁぁぁん!」

禁書「君は泣いてもいい人間なんだよ。ただ、恥ずかしかっただけ」ナデナデ

絹旗「フレ、ンダぁ!フレンダぁぁ!」

禁書「フレンダさんの分も、幸せになりなさい。君にはその権利と義務があるんだよ」ナデナデ

絹旗「うん、うん………」ウワァァァァァン!

 

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エンドロールが流れている最中、私は席を立った。

肩から伝わる体温。

それから必死で逃れるために、席を立った。

行くあては、無い。

ふらふらと歩いている内に、いつの間にかロビー出てしまっていたらしい。

上方には『W.C.』と書かれている、薄汚れたプラスチックプレートがぶら下がっている。

どこでもよかった。

どこでもよかったので、そのままトイレにこもった。

 

洋式の便器。

そのフタを閉じた状態で座る。

トイレのひんやりとした空気は、先程まで居た劇場内とは対照的で、まるで別の世界に飛ばされたような心地がした。


「………………………」


御坂美琴は考える。

もしも『あのセリフ』が私に牙を向いたら。

もしもインデックスに『あのセリフ』を言われたら。

私はどうなってしまうのか。

「…………やっぱり、キモいわよね」


A子を思いだす。

B子に、同性に惚れてしまった、バカな女。

性にうといB子に手をかけ、唇を奪った醜女。

最後の最後で、大好きな人に蔑まれた、みじめな女。

そのすべてが、私と重なってしまう。


「ホント、A子キモすぎー………」


一人、つぶやく。

外気にさらされた頬に感じる体温。

それは、いつの間にか流れた涙だった。

 

「あれ?おっかしいな。なんで泣いてんだろアタシ」


流れ、頬を伝い、落ちる。

その過程で冷たくなった水滴は、手の甲を濡らした。


「あんな映画で泣くとか、バッカじゃないの」

「あんな………あんな、レズビアンの、気持ち悪い映画で」


自分の言葉で、傷つく自分の心。

ギリギリと、胸の辺りが苦しい。


「………………何が、バカなのよ」

「どうしていけないのよ」

「私はただ!ただ………」




「インデックスが、好きなだけなのに………」




上を向く。

下を向いていると、この涙が、私を溺れさせてしまう気がしたから。

トイレで一人、泣く女が一人。

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