佐天「時を止める能力……」 > 15


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──午前十二時──

日付の変更と共にそれは起こった。



各地の都市の病院や警察署などの主要施設が大勢の軍人や警官によって封鎖された。
彼らは『騎士派』あるいは『王室派』の第二王女派閥の息がかかった集団だった。

造幣局や、宗教的な意味のある宮殿などが占拠された。
そこを守るはずの人達である警備員や、騎士達によって。

地方議会、裁判所も例に違わず。
各地の城も、そこを守っていた人間達によって陥落していった。


各地で悲劇が起ころうとしていた。


もちろん『清教派』の魔術師達──『必要悪の教会』の面々も侵攻の対象だった。
勿論イギリスの三大一派である清教派の魔術師達も無抵抗のまま侵攻されたわけではないが

数が違った。

カーテナ=オリジナルの力を借り『天使の力』としての力を部分的にとはいえ使う敵の数が。
一人、二人程度なら時間稼ぎとは言わず均衡は出来るほどの力を持つ魔術師は多々居る。

しかし、あまりにも数が違いすぎた。
統制も取れていない五人程度の清教派を相手にざっと三十人は居る。
時間を稼ごうにも、数人足止めしたところで別な場所から追っ手が来る。

 

 

第二王女キャーリサと騎士派の反乱は英国全土へ広がっていく。
結局不意打ちを食らった『必要悪の教会』の面々は退却を開始した。

このまま終わるほど『清教派』の人々は弱くは無かった。
しかし第二王女の息がかかった騎士派の連中とぶつかれば、負けるのは間違いなく清教派だろう。
反撃の糸口を見つけるための、意味のある退却行為だった。

無理に態勢を立て直す事に余計な力を注ぐよりも、一度引いて力を温存しようと。
逆転の可能性を高めることに尽力したのだ。

 

 

 


  ◆
 

上条「くそっ……この混乱じゃ救急車は来れないか」

上条「やっぱり必要悪の教会の連中と合流するしかなさそうだな」

上条「その中には、回復魔術を扱える魔術師だっているだろうし」

オリアナ「えぇ、でも……」

オリアナ「通信を傍受する限り騎士派と第二王女キャーリサが手を組んでイギリスを侵攻しているようだし」

オリアナ「この騒ぎを聞けば分かる通りこの街も例外じゃないわ」

上条「でも早くしねぇとコイツは……」

オリアナ「……そうね」

上条「涙子ちゃんの調子は……?」

オリアナ「気を失っているけれど、まだ起きそうに無いわね……」

オリアナ「頭の回転の速い子ね」

上条「…………」

オリアナ「自分が騙されていたことに気付いて、一時的とはいえ仲間を目の前で狙撃されて……」

オリアナ「この子は少し、幼いわ……良くも悪くもね」

上条「とりあえずここから近いイギリス清教の女子寮を目指そう」

 

 

ところが、そんな上条達の行く手を阻むものが居た。
巨大な川だ。

ロンドンの東西を横断するように二〇〇メートル以上の川幅を誇る大きな川がある。
イギリス清教の女子寮へ向かうには、この川にかかる橋を渡らなければならないのだが……。


上条「くそ、あの銀色の鎧……『騎士派』の連中か!?」

オリアナ「その子の調子を見るにここに長居は出来ないわね」

オリアナ「排除するわ」

上条「……できるのか?」

オリアナ「頼めるか、と聞いて欲しかったわね」

オリアナ「その子達を女子寮まで運んだら同じ区にある駅に向かいなさい」

上条「なんだって?」

オリアナ「禁書目録のいるフォークストーンまで直線でも一〇〇キロはある」

オリアナ「ユーロスターって路線がそのままフランスまで直結してるのよ」

オリアナ「騎士派がイギリス全土を支配したら今度は人員と物資を運ぶはずだわ」

オリアナ「禁書目録を助けるにしてもフォークストーンまで走っていける距離じゃないわ」

オリアナ「だからその路線にあなたは上手に紛れ込みなさい」

上条「分かった。ここは頼めるか、オリアナ」

オリアナ「任せなさい」

 

 

  ◆


上条当麻はどうにかして女子寮まで辿り着くことが出来た。
初めて入る建物だが、のんびり観察するほど余裕は無い。

すでにこの女子寮からは必要最低限の物は全て持ち運ばれているだろう。
多くの人員も逃走した後である。

佐天涙子の方はともかく、新たなる光のメンバーであるこの子は危ない。
早く回復魔術を扱える魔術師に出会わなければ──


オルソラ「おやまぁ、お久しぶりなのですよ」

上条「オルソラァ!?真っ先に逃げるべき戦闘能力ゼロのお前がどうしてここに!?」

オルソラ「なんか皆さんバタバタしていて、ついていけなかったのでございますよ」

オルソラ「あらあら、女の子二人を担いでどうなされたのですか?」

上条「この子達をお前に預けて大丈夫か?」

オルソラ「オッケー、回復魔術でございますねー?」

オルソラ「その代わりといっては何でございますけれど……」

上条「分かってる、脱出の手助けくらいはするさ」


この後上条当麻はインデックスを救出しに行き、後方のアックアと出会い
そしてカーテナ=オリジナルを暴走に導くために第三王女と共にロンドンの地下へ行くのだが……

佐天涙子の物語は──



                ────────────
                    ──────
                        ─


                        ─

 

 

 

  ◇


佐天「────ぁ」

佐天「真っ白な空間……あぁ……夢か……」

  『また』

佐天「んあ?何だぁ……??」

  『またか、と言ったのだよ』

佐天「だ、誰!!」

  『前回と違って、自我はあるのだな』

佐天「前回?自我……意味の分からないことを──」

佐天「そうだ……ここは夢で……」

佐天「レッサーちゃんが!!」

  『しかしお前に何が出来た?騙されていただけであろう』

佐天「確かに、あたしは掌の上で踊ってただけだった……」

佐天「やっぱりあたしは無力……なのかな」

佐天「憧れてた超能力者になっても、結局あたしは──」

  『無力では、ないだろう?』

佐天「で、でもあたしは……」

  『お前の左手は飾りでは無いだろう?』

佐天「学園都市に来てから、劣等感を感じてきた──」

  『──けど強い力を授かった』

佐天「その力を使っても救えなかった人がいた──」

  『──ならばもう傷つけさせないと決意した』

佐天「でも、また……守れなかったらって考えると怖くて──」


  『──そして……ッ!?ぐっうおおおおお!!!』

 

 

  ◆


十月十八日、午前二時三〇分。
上条当麻達の働きにより、カーテナ=オリジナルは暴走した。


建宮「やっべーのよ」

建宮「カーテナ=オリジナルの力をある程度は削ぐことができたみたいだけど」

建宮「やっぱりその反動みたいなもんの発生も避けられなかったみたいな──」

佐天「……、ん……ここは……?」

建宮「おお、涙子ちゃんおはようなのよ」

佐天「建宮さん??あたし一体──……」

佐天「──!!レッサーちゃんは!!」

建宮「心配せずとも命に別状はないのよ」

佐天「……、よかったぁ……」

佐天「(いや、良くない……よね……あたしの所為で……)」

佐天「行かなきゃ……、行かないと……」

建宮「今はよしといたほうがいいのよ涙子ちゃん」

佐天「どうして、ですか?」

建宮「たった今上条当麻達の活躍でカーテナ=オリジナルの力の暴走に成功してな」

建宮「今のロンドンは『天使の力』が滞留しているというかなんというかなのよ」

佐天「何か問題があるんですか?」

建宮「涙子ちゃんやあの上条当麻は問題ないだろうが、俺たち魔術師は違うのよ」

建宮「『天使の力』の濃度が高いと下手に魔術を使えないのよな、暴走しちまう」

佐天「暴走……」

建宮「何より相手の数が多いしな、ここで『天使の力』の拡散を待つついでに他の清教派の連中を待つのよ」

佐天「やっぱり……あたしは騙されていたんでしょうか……」

建宮「……、あまり気を落とさないで欲しいのよ」

建宮「ま、今うちの五和がご飯を作ってるからそれでも食べて元気だすのよ」

そんなこんなで最後の晩餐、と言うのは少々言いすぎかもしれないがともかく
逃走をしていた清教派の面々はご飯の時間である。


佐天「……(あたしってホントダメだよなぁ……)」

佐天「……(あっさりと騙されて、レッサーちゃんを守れなくて)」

佐天「はぁ…………」

インデックス「あれ、とうまと一緒にひょうかを助けてくれた子だよね」

佐天「えっと……?あぁ、あの時の……」

佐天「えーっと、ハンバーグ食べますか?あたしはお腹すいてなくて」

インデックス「うー、もうハンバーグは食べたくないかも」

インデックス「確かあなたはとうまの友達で名前は涙子ちゃんってよばれてたよね?」

インデックス「あなたの上の名前を教えてくれるかな?」

佐天「えっと、佐天涙子って言います」

インデックス「佐天涙子かー、いい名前だね」

佐天「えっと、ありがとう……?」

インデックス「ところでさ、涙子は『打ち止め』って呼ばれてる子しらないかな?」

佐天「!? 打ち止めちゃんを知ってるの!?」

インデックス「ひょうかがああなっちゃった時、あの子を介してたみたいなんだよ」

インデックス「だけど、えーあいえむ拡散力場ってのが絡んでてちゃんとに治療できたのか不安なんだよ」

佐天「えっ……?」

インデックス「もしるいこが学園都市に戻ったら一度打ち止めを連れて私のところに着て欲しいんだよ!」

佐天「分かりました」

インデックス「こないだので大丈夫だとは思うんだけどね」

インデックス「もしかしたら、ひょうかのアレに似た性質を持つのが現れたらまずあの子が危険なんだよ」

佐天「……危険なんですか?」

インデックス「でもひょうかのアレににた性質をもつモノなんて早々現れるものじゃないんだよ」

佐天「そうですかー、それは良かっ──!?」



つい先日、自分の下へ現れた『エイワス』と呼ばれるものは──
もしかしたらあれは──



佐天「インデックスさん、この戦いが終わったらすぐに打ち止めちゃんを連れて行きますね」

インデックス「うん?わかったんだよ!!」


シスターA「あー!!いたいたー!!ほらほらハンバーグだよーお食べー!!」

インデックス「ふがっ!?そんなハンバーグばっか──はむがッ!?」

 

   ◆


午前三時
佐天涙子と上条当麻と『清教派』の面々はロンドンへ突入した。
車で移動している彼らだったが、その車の中で作戦会議を開く彼らだった。


神裂「最後の確認をします」

神裂「我々の目的はどうにかしてカーテナ=オリジナルを破壊することにあります」

神裂「カーテナ=オリジナルは今回のクーデターの象徴です」

神裂「それを破壊すれば騎士派の面々の心も折れるでしょう」

インデックス「口で言うのは簡単かもしれないけど、実際やるとなるとかなり難しいかも」

神裂「……、ですので規格外の敵には規格外の人材を頼ることにします」

上条「や、やっぱそうなるのか」

上条「確かに俺の右手ならぶっ壊せるかもしれねぇけど……」

上条「でも今のキャーリサって神裂とかアックアとかよりも強いかもしれないんだろ?」

神裂「えぇ、分かってますよ……しかし今回はあなたの『右手』だけではないでしょう」

上条「……俺は、反対なんだが」

神裂「あなたの右手のお陰で“時の遅い世界”でも“時の止まった世界”でも普通に動けるのでしょう?」

上条「そうかもしれないが……」



神裂「ですが、私も佐天涙子さんを戦場へ投入するのは反対ではあります」

神裂「──ので、彼女を使う前にまず我々があなたの元へキャーリサをどうにかして弾き飛ばします」

バタタタタタタタタタ!!という風を切る連続的な音が彼らの頭上から響き渡った。
ヘリの音か?と上条当麻は考えるが、それは間違いであった。



未完成のプラモデルのような色のない巨大な物質があった。


上条「!?カーテナ=オリジナルが生み出す、全次元切断の残骸か……ッ!?」

上条「くそっ!!あれが落ちてきたらこのトラックなんてひとたまりも──」

神裂「何をボサっとしてるのです!!飛び降りますよ!!」

上条「あぁ!わかってる!!」

神裂「バッキンガム宮殿に向かうのですよ!!」


そういい残し、インデックスを抱えた神裂火織は高さ数十メートルはありそうなビルへ跳んでいった。
ビルからビルへ飛び移る彼女を一瞬だけ確認した後に──


上条「涙子ちゃん俺たちはバッキンガム宮殿に行くけど」

上条「今回の相手はかなり強いから隠れてても────」

佐天「いえ、バッキンガム宮殿に早く行きましょう」

佐天「当麻さん、先に行ってますよ」ヒュッ

上条「涙子ちゃん!?」

カーテナ=オリジナルが繰り出しているであろう全次元切断の残骸が多くの破壊を生む。
その残骸や、残骸によって破壊される建物を避けながら佐天涙子は走っている。


佐天「時を遅くして走ってれば!!」

佐天「避けることはできる!!」

佐天「……(すぐに……)」

佐天「あれがバッキンガム宮殿か!!」


地面からの装飾用ライトに照らされた宮殿は午前三時過ぎでも白々しく輝いていた。
遠方からの爆撃からなのか、キャーリサの放った全次元切断の所為なのかは不明だが宮殿の右半分は瓦解している。
豪奢な内装が見える。

なまじ現実味がないほど華美な建物であるため悲惨さは消えている。
その宮殿に足を踏み入れて辺りを見回す

庭園。

恐らく庭園なのだろうが、その中心に二人の女性が立っている。
一人は佐天涙子を騙した張本人にして今回のクーデターの首謀者であるところの第二王女キャーリサ。
もう一人は佐天涙子の知らない人ではあるが、第三王女であろうことは想像が付いた。


二人は何かを言い合っているようで、否第三王女が一方的に突っかかっているという印象だ。
キャーリサは余裕の表れか、会話を雑に済ませ

手に持っている剣のようなものをゆっくりと第三王女へ──

 

佐天「──危ないっ!!」ドンッ


ゴバッ!!と先ほどまで女性が居た場所が裂けた。
間一髪だったが、どうにかして突き飛ばすことが出来たようだ。


キャーリサ「おめでとう、表彰モノのファインプレーだったぞ」

キャーリサ「こんな女子中学生が勇気ある行動をしているというのに……うちの騎士達にも見習ってほしいとこだし」

佐天「キャーリサ!!どうして……どうしてレッサーちゃんを!!」

キャーリサ「ふん、騙されたことよりもまず人の心配か……本当にうちの騎士に見習ってほしーとこだ」

佐天「……、騙されたのは別にいいです──でもレッサーちゃんを殺そうとしたのは許せません」

キャーリサ「はっ、許さないって小娘一人でどうするというの」

佐天「それは……あたしがこの手でこのクーデターを止めるんです!!」

キャーリサ「へぇ、止めるねぇ……止めてどうしようっての?」

キャーリサ「私は確かにお前を時間稼ぎにでもなるかもと騙したが」

キャーリサ「【イギリスがこのままフランスと戦争をしたならば負けるというのは本当だし】」

佐天「──だからって!!だからってレッサーちゃんや街を破壊して良い理由にはならない!!」

キャーリサ「ならどうするというの?私を止めるのか?カーテナ=オリジナルを持つこの私に」


佐天「止めて……みせ──」  キャーリサ「──どうやって?」

佐天「なっ!?いつのまに後ろに!?」

キャーリサ「この程度で驚くようでは私を止めることなんてできないよ」

キャーリサ「お前だけじゃ役不足だよ佐天涙子、お前一人がいたところで──」


上条「一人じゃないさ、少なくとも涙子ちゃんは」


佐天「当麻さん!!」

キャーリサ「はっ、お前らは本当に登場の仕方が主人公のようだな」

キャーリサ「だが一人が二人に増えただけでどうしようと言うの」

上条「決まってるだろ──」

佐天「あなたを止めるだけです」


キャーリサ「爆笑ものの冗談だな」

佐天「当麻さん!!」スゥ

上条「わかってる!!」


辺りの気配が変わる。
それは音であったり、風であったり、次元切断の残骸の落ちるスピードであったり
全てが遅くなる、その現象を起こした張本人の少女と打ち消す右手を持つ少年以外は──。

 

上条「すぐにテメェの幻想をぶち殺してやるからな──!!」

キャーリサ「ふん、確かにこれなら私を打破できると勘違いできそうだし」

佐天「!?」 上条「なに!?」

キャーリサ「別に私が普通に動いていてもなんら可笑しくはないだろう?」

キャーリサ「このカーテナ=オリジナルは英国最大級の霊装だぞ?あまり舐めるな」

キャーリサ「私は今、天使長の力を扱えるワケだし“この程度の遅さじゃ全然遅い”」

上条「涙子ちゃん引──」

キャーリサ「はっ、遅い──!!」


キャーリサは一歩踏み出していた上条当麻を蹴り飛ばす
そして瞬きほどの一瞬に──いや、時の遅い世界の瞬きほどの一瞬でキャーリサは佐天涙子の目の前へ移動した。

移動し終えたというのが正しい表現なのかもしれない。
上条当麻を蹴り飛ばしたと同様に佐天涙子を蹴飛ばして、キャーリサの移動は終了した。

信じがたい衝撃が佐天涙子を襲い、そして吹き飛ばされる。


辺りの気配が変わる。
それは音であったり、風であったり、次元切断の残骸の落ちるスピードだったり。
時が、正常に廻りはじめる。

 

キャーリサ「所詮は子供二人、魔術もロクに使えない人間じゃこの程度だろうとは思ったし」

キャーリサ「あの二人にプラス極東の聖人でもいれば負けはしないものの私が苦戦をしいられただろうが」

キャーリサ「そんな実現しなかった話などどうでもいいし……」


キャーリサは剣を肩で担いでいた。
空いた手で自らのドレスの胸元に手を伸ばし取り出したのは無線機だった。


キャーリサ「ドーバー海峡で哨戒行動中の駆逐艦ウィンブルドンに告ぐ」

キャーリサ「バンカークラスター爆弾を搭載した巡航ミサイルを準備するの」

キャーリサ「──準備が出来次第バッキンガム宮殿へ即時発射せよ」



バンカークラスター爆弾。
それは英国が独自に開発した爆弾である。
地下50メートル級のシェルターを貫通させるための特殊子弾を200発ほどばら撒くことが出来る。

半径3キロ四方が吹き飛ぶほどの威力を持つ、恐ろしい爆弾が
そんな爆弾がこのバッキンガム宮殿へ──



音は無かった。
視界は真っ白に塗りつぶされた。

 

最初に気付いたのはキャーリサだった。
一瞬だけバンカークラスター爆弾が爆発したことによる視界の消失と思った。
だけど違う。

爆弾が爆発してもここまで無音のはずが無い。
いくらカーテナ=オリジナルがあるとはいえ、爆弾による衝撃が無いのはおかしい。

なにより、いつまで視界は真っ白なままなのだ。
いや、真っ白ではなく少しだけ鈍色に近いような────


キャーリサ「っ!?これは──」

佐天「──────」


原因。

バンカークラスター爆弾がバッキンガム宮殿へ落ちてこなかった原因。
否、爆弾はしっかりと落ちてきてはいた。

『不発弾』として。

200発の子弾を全て止めた原因である彼女が──。



キャーリサ「……っ!!」
 

 

  ◇


『攻撃』は昔からあった。

例えばバンカークラスター爆弾はローマ正教に牛耳られたEUの軍事会議で使用禁止になった。

例えば女王エリザードがまだ娘に軍事を任せていない頃に、“イギリスの”核兵器は禁じられた。


『攻撃』は昔からあったのだ、着々と、段々と、確実にイギリスへ。


その攻撃がエスカレートしていった結果がキャーリサの見ている現状のイギリスだった。

ローマ正教に支配されたEU加盟国からは陰で哂っていたんだろう、『お前たちの時代はもう終わった』と。


そして今回のイギリスとフランスを繋ぐユーロトンネルの爆破。


キャーリサは一人決意した。

もう一刻の猶予も無いと。
この機に動かなければイギリス国民は奴隷よりも劣る位置まで落ちてしまうと。

カーテナ=オリジナルを使って、暴君になって──

──そして二本のカーテナと共に歴史から消えようと。

元より自分は『軍事』にだけ優れただけの剣を取って戦う事しか知らぬ女だ。
国家や世界を変える方法など、一つしかないじゃないか。

佐天「────」フラァ

キャーリサ「それが報告書にあった天使化か……ッ!!」

キャーリサ「なら……容赦はせんぞ!!」バッ


キャーリサがカーテナ=オリジナルを佐天涙子に振るう。
しかし、カーテナ=オリジナルの斬撃を一人の天使は“避けた”


キャーリサ「……(避けたって事はカーテナの攻撃は効果があると見るべきだし)」

キャーリサ「ここで必ずお前は退けなければならないし」

キャーリサ「殺す気で行くぞ──」


佐天「──√レ──z_ァ──wv─!!」


キャーリサ「────なに!?」

 

 

 

──バッキンガム宮殿を眺める人がいた。

それは、上条当麻でも佐天涙子でも神裂火織でもなく
ましてやキャーリサでも、魔術師ですらない。

第三王女に仕える使用人の男だった。

彼が今胸にあるのは、ただ一つの感情である。
悔しさ。

自分はイギリスの国民であり、イギリスの為と言うのならば喜んで戦おうと思っていた。

自分には無理だ。

目の前の、この圧倒的な破壊を。
日本から来た少年は右手になにやら切り札を持っていたらしいが自分にはそれが無い。

何もできない、悔しさだけが──。


  「本当にそう思っているのか」

  「あの少年達とお前たちの違いは右手の性能の差だけと、本当にそう思っているのか?」


確かにあの少年ならば例え右手に何か能力を持っていなくとも今と同じように戦いの中心にいたのだろう。


  「お前はあの少年達のように立ち上がりたいと、思うのか?」


戦いたい。
自分も……なにが出来るわけじゃないが──イギリスの為に、自分の正義のために戦いたい!!



  「よろしい、足りない部分は私が埋め合わせてやる」







エリザード「愚劣な王政の責任を取り、そしてイギリスの国民を守るため」

エリザード「暴君と化してヨーロッパ中の敵国を蹴散らし後は政治の舵取りを民衆に任す、か」

エリザード「何やらスケールのでかい話に見えるがその端々に娘の小心が見え隠れしてんな」

エリザード「変革とは────こうやるんだよ!!」

 

──ある所では、一人の少年が顔を上げた。

突然起こったテロとも戦争ともつかない非常事態。
暗闇の中でただ震えることしか出来なかった少年。

しかし、声がした、戦ってもいいと。
逃げてもいい、他人に預けたって構わない……でも!!


(戦いたい……イギリスの為に、戦いたい!!)
 

エリザード「この力に上乗せして、英国女王エリザードから全国民に告ぐ」

エリザード「クーデターの発生によって、今日一日でいろいろなことがあった」

エリザード「多くのものは何が起こっているか分からないだろう、しかしそれでも異様な被害にあっているだろう」

エリザード「──だが今お前たちには抗う力を授けた!!」

エリザード「詳しい理屈は話せないが、今宵一日限りお前たちはヒーローになれる!!」

エリザード「お前たちが目にしてきた不可思議な力と戦える力だ」

エリザード「私に協力してくれるものは感謝する!クーデターに協力するでもいい!」

エリザード「力なぞいらぬ者は返す、と念じてくれればそれでいい」

エリザード「このクーデターの首謀者である私の娘、キャーリサを救うために力を貸してくれ!!」

エリザード「さぁ!群雄割拠たる国民総選挙の始まりだ!!」

──ある所では、多くの一般人をホテルに軟禁していた軍人が握った拳を震わせていた。

自分なりにイギリスの為に考えて行動しクーデターに協力していた。
だが、その首謀者たる人物を助けるために……戦えと?
一体自分は何のために戦ってきたのだ……。


「おい、お前軍人だろう……。確か装甲車を運転してたよな」


話しかけてきたのは先ほどまで自分ら軍人が軟禁していた一般人の男性である。
彼にも彼なりの守りたいもの、世界が、正義があるのだろう、だから立ち上がった。
自分は────


「あんたの力が必要だ、装甲車で俺を戦場まで連れてってくれ」

「──あぁ……わかった」

──ある所では『新たなる光』と呼ばれている魔術結社の少女ベイロープという少女がいた。

彼女は『清教派』との戦闘で敗れ、治療と拘束を兼ね大聖堂へ連れてこられていたのだが
クーデターの開始と同時に隠し部屋へ押し込まれていた。


ベイロープ「届いてる?レッサー」

  『届いてるよん、ランシスやフロリスとも繋がってます』

  『ぶっちゃけどうします?』

ベイロープ「どうしますって聞かれてもね……」

ベイロープ「クーデターの共謀者が何を今更って感じなんですけど」



ベイロープ「一番イギリスの為になることをするのが我々の流儀ですから、恥も外聞もなく働きますか」
 

──ある所ではクーデターの首謀者を相手に戦っている少女が居た。


佐天「──────!」

佐天「──────!?」

佐天「──√レ──z__ァwv─!!」

キャーリサ「なっ……これは!?」


目の前に存在する強大な力を有す少女はパキリ、パキリと音を立てて【変革】していく。
真っ赤な涙は止まり、左手の鈍色に輝く羽根は引っ込み、そして頭の上のわっかは輝きを増す。


佐天「─√レ──あぁ、そっか──」


目の前の少女は、先ほど蹴り飛ばした佐天涙子という少女に“似ている”

似ているだけだろう

確かに腰まで伸びたストレートの黒髪や、顔は似ていても
佐天涙子とは人間であり、少女の頭の上に金色に輝く輪などある訳が無い
それに人間の背中に真っ白な、穢れの無いような一対の真っ白な羽が生えている訳が無い。
 

キャーリサ「なっ……!?意味が……」

キャーリサ「あの糞母上はカーテナ=セカンドの力を国民全員へ分配したし……」

キャーリサ「イギリス国民にだ!!どーしてお前からそのカーテナ=セカンドの力を……」

佐天「さて、どうしてでしょうね」

佐天「結局、これが変革というものと思いませんか?」

キャーリサ「何を言ってる……!」

佐天「このバッキンガム宮殿からでも……、わかりますよね」

佐天「このイギリスの国民の皆があなたを助けようと、戦い始めてることに」

キャーリサ「っ……!!」

佐天「あなたが思ってるほど、イギリス国民の皆は──安くありませんよ」

そして、上条当麻もこの光景を見ていた。

先ほどキャーリサに吹っ飛ばされた所為で良くは見えないが
佐天涙子とキャーリサの姿だけではない

負傷した騎士から武器を受け取ったメイドや数十人の警官
はてはサラリーマンの男が、学生の少年が戦っている。

イギリスの為に。


上条「(ははっ、すげぇな……)」

上条「あまりにも、ヒーローが多すぎて俺とか神裂とか涙子ちゃんまでもが霞んじまってるじゃねぇか」

上条「何だよこの国……国民全員がヒーローってどういうことだよ」

上条「守ろう……、俺も戦おう……」

上条「こんなふざけた負の連鎖からキャーリサを引きずり上げねぇとなぁ!!」

カーテナ=オリジナルによる圧倒的な斬撃と強大な残骸物質による牽制攻撃の渦に
佐天涙子は平然に立っている。


キャーリサ「くっ……!?」

佐天「当麻さん!!」

上条「涙子ちゃん!!」


遠くに見える上条当麻を見つけると佐天涙子は上条当麻の名前を叫ぶ。
上条当麻の方も彼女の言いたいことが分かり、応答する。


佐天「キャーリサさん、余所者のあたしが言うのはアレですけど」

佐天「もうちょっと、国民のことを信じてください」

キャーリサ「──っ!!」

佐天「だってそうでしょ?国民皆、ヒーローだなんて国他にありませんよ」

キャーリサ「それは────」

 

 

 

ドォ────z___ン!!

 

 

止まった世界で、キャーリサは思考だけは正常に働いていた。
だからこそ、恐怖である。

此方へ向かって一直線に走ってくる、ありとあらゆる魔術を打ち消す右手を持った少年が。

上条当麻の着弾まで、正真正銘0秒。

思考だけは正常だったキャーリサは見た。
強く強く拳を握る少年の顔が力強く笑っているのと
時間を止めている少女もまた力強い笑顔を。




カーテナ=オリジナルは破壊された。
それは第二王女キャーリサの敗北と同時に、このクーデターの終結を意味していた。
 

 

 

  ◆
第二王女キャーリサはロンドンの路上にぶっ倒れていた。
夜明けまではもう少し時間があるのだろう、クーデターが終結した今でも大通りに車はない。


キャーリサ「……、」


暫くキャーリサは無言だった。
国民全員の戦う意思について、少しだけ考えていた。

何が国民を守る、だ。

あれだけ、それこそ老若男女全ての国民の強い意志が
他国からちょこっと付かれた位で奴隷よりも酷い位置にまで落ちるものか。


??「ハハッ、こいつは凄いなお前がそんな血と泥に塗れて転がってる様なんぞ中々見られんと思ってた」

キャーリサ「誰だ……」

??「右方のフィアンマと言ったら分かってくれるかな?」

キャーリサ「っ!?(コイツが右方のフィアンマ)」

キャーリサ「──確かお前の対応している天使は『神の如き力』、カーテナが目的か?」

フィアンマ「んー、あー?そっかそっか、そういうやり方もあったかもしれんな」

キャーリサ「……?何を言っている」

フィアンマ「くだらん世間話さ。俺はこの混乱に乗じてイギリス清教の最暗部に保管されてる『あれ』を回収しにきただけさ」

キャーリサ「まさか貴様──!!」

フィアンマ「おやおや、俺様がこのクーデターで意味することを理解したのか意外と頭いいな」

カッと、キャーリサの頭に血が上った。
カーテナの力を所持していないキャーリサに扱える魔術なんてたかが知れている。

この目の前にいる右方のフィアンマ。
ローマ正教を陰から支配する『神の右席』の最後の一人にして最大の力を振るう者。
記録によれば、たった一撃で聖ピエトロ大聖堂を半壊させたらしい。

そんな人物を相手に力を失ったキャーリサが敵うはずも無い。
現にフィアンマに飛び掛ったキャーリサを指一つ動かさず吹っ飛ばす。


フィアンマ「おいおい、やめとけよ。俺様の目的はもう済んでる」

フィアンマ「女王のババアならともかくお前みたいな雑魚なら見逃してもいいのだぞ」


上条「何やってんだテメェ……」

佐天「…………」


フィアンマ「くっははは!!何だ何だ今日は!?お前たちは最後の仕上げと思ってたのにな!!」

佐天「誰ですかあなた」

フィアンマ「右方のフィアンマと言えば二人とも分かるだろう?」

上条「っ!?」

フィアンマ「まぁここで戦うのもいいんだが、奪った霊装を破壊されちゃ困るからな」

上条「奪った霊装……?」

フィアンマ「すごいぞ、見るか?」

佐天「(……?何だろうあれは……)」

キャーリサ「まずい!!アレを使わせるな!!」

直後。

ドッ!!という轟音が炸裂した。
何か白いものがアスファルトを破って地下から出てきた。

上条「なっ……!?」

佐天「うそっ……!?」


突然襲い掛かってきたものの正体。
それは人間だった。

銀髪碧眼の少女。


上条「イン……デックス……」

 

 

 

 

──そして、第三次世界大戦が始まった。




佐天「──学園都市の生徒さんがどうしてココに!?」

浜面「俺は滝壺を助けるためだ、お前が学園都市の刺客なら容赦なく殺す」

滝壺「……だいじょうぶ……はまづら……」

佐天「その子は────」
 

 

 

  ◆


複数の影があった。
空軍滑走路を主軸に置いた、平面のだだっ広い構成だ、人が隠れられるスペースは少ない。

だというのに、一〇人近い人影はいつの間にか自分達を取り囲んでいる。


??「学園都市か?」

一方通行「そォ言うオマエこそこの基地を襲った連中じゃねェのか?」

??「否定はしないのだな」

一方通行「時間がねェンだ」


一方通行が首にある電極に手を伸ばそうとすると──


佐天「ココはあたしに任せてくれますか?」

一方通行「あァ?」


トントン、と首を指でさし


佐天「節約しておいたほうがいいでしょう?」

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