絹旗「私が馬鹿っぽい……?」9


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話を整理するために前回投下時( 編者註 Wikiの1~8 )までの各キャラの思考を簡単にまとめたんで、本編の前に

「アイテム+一名」
絹旗……隙を見て脱出。明らかに格上の垣根の存在を警戒。なるべく派手な騒ぎは避けたい
麦野……優先順位は、垣根の撃退>絹旗の奪取>逃走。垣根に自尊心を傷つけられイライラ
滝壺……きぬはたを助けたい。体調があまりすぐれない
フレンダ……滝壺も麦野も絹旗もそれぞれ別の理由で心配。でも一番の心配ごとは……、今回って給料出ないんじゃ?
浜面……絹旗ぁあああああ! つーか傷口いてぇ!

「スクール」
垣根……後に邪魔になるであろうアイテムの始末がてら絹旗を暗部から離れさせたい
心理定規……垣根に言われたことはこなす。この戦いの意義にやや疑問符。よって身体を張ることまではしたくない
狙撃手……もう帰りたい
ヘッドギア……崩壊

「おまけ」
電話の女……勝手に動いてこいつらときたら☆




地下フロアから見た天井、つまりは一階でいう床にあたる部分に向けて、麦野は細く絞った光線を放った。
光線が当たった箇所に人が通れるぐらいの穴が出来上がる。

麦野「こんなものかしら」

フレンダ「ばっちり!」

続いてフレンダがメジャーに似た外見の道具を取りだす。
ただし、本物のメジャーと異なる点が二つ。
一つ目の違い、長さを測る為の目盛付きプラスチックの代わりに、丈夫な合成繊維製のヒモが巻き取られている点。
二つ目の違い、そのヒモの先に、釣り針を大きくしたような返しのある針が付いている点。

フレンダ「よっと」

掛け声とともに、ヒモの巨大釣り針が付いた側を上の階へと放り込む。
すると穴の淵に針が引っかかり、一階から地下へロープが垂れ下がった状態になった。

フレンダ「ショートカット完成!」

フレンダはそう言うと、ヒモを巻き取る側についた黒いボタンを押した。
ヒモが機械の力で巻き上げられ、ヒモを持ったままだったフレンダが一緒に一階へと持ち上げられていく。
一階にたどり着くと、フレンダは再びヒモを伸ばし、巻き取るボタンがついた一端を下の階へ放り投げた。
そして麦野、滝壺も同じ要領で上の階に移動した。

フレンダ「ところで敵のリーダーってどんな奴なの?」

麦野「学園都市第二位よ」

フレンダ「ふーん、そっかー。第二位……。えっ? 第二位ぃ!? なんでそんな大物が出てきてんの!?」

麦野「さあね」

滝壷「勝算はある?」

麦野「ええ。そのためにも滝壷にはやって欲しいことがあるわ」

滝壺「?」

麦野「今まで必要がなかったからやらせなかったけど、
    アンタの能力って理論的には相手のAIM拡散力場に直接干渉することも可能なのよね?」

滝壺「うん、あんまり試したことは無いけど少しぐらいなら」

麦野「それじゃあその能力を使ってさあ」

麦野は青ざめた顔の滝壺を気遣うそぶり一つ見せず、滝壺の能力使用を組み込んだ作戦を伝えようとする。
見かねたフレンダが思わず口をはさんだ。

フレンダ「ね、麦野。さっきから滝壺、本当に調子悪そうだよ。
      少し休ませてやった方がいいと思うんだけど」

麦野「えー。そんなこと無いと思うんだけどにゃーん」

おどけた口調でフレンダの意見をやんわりと否定すると、滝壺の顔をじっと見る。

麦野「やれるわよね、滝壺?」

滝壺「……」

麦野「や・れ・る・わ・よ・ね・?」

滝壺「……うん」

麦野の圧力に負けた滝壺は、とうとう首を縦に振ってしまった。



――――――


垣根(あーーーー、暇だ。暇すぎる。退屈しのぎにアイテム撃破後のことでも考えておくか)

垣根(まず何らかの罪を捏造してアイテム潰しを正当化する。これは大した手間じゃねえな)

垣根(それが済んだらいよいよアレイスターに対する交渉材料集めだ)

垣根(その為にもピンセットを入手したいところだな。ここはまあいくらでもやり方はある)

垣根(ピンセットを利用して得られる情報が決定的ならばよし。だが恐らく更なる一手が必要になる)

垣根(つまり一方通行を引き込むか、もしくは殺すかして、アレイスターの選択肢を狭めることになる訳だが……)

垣根の表情が一瞬翳りを帯びる。

垣根(……、フン。どちらの手段を選ぶかなんて、迷うことも―――)

瞬間。
ドアを突き破り原子崩しが垣根を飲み込んだ。

垣根(また不意を突いてきたか。懲りねえ女だ)

原子崩しに巻き込まれながらも垣根は平然としたものだった。
白い光が止んだ。
垣根の向こう数メートルには二人の人間が立っていた。

垣根「おいおいおーい、散々人を待たせた挙句いきなりぶっぱなすのはないんじゃねーの」

麦野「ごめんねー。ちょっとお化粧直しに手間取っちゃって。ドアを開ける手間も惜しかったのよ」

垣根「そっちのジャージの彼女はすっぴんみたいだけど?」

麦野「滝壺はいいのよ、うちの大人しどころ担当だもの」

麦野はそう言って滝壺を自分の後ろにやり、垣根から庇うかのような立ち位置をとった。

垣根「そんなんを前線に連れてきていいのかよ」

麦野「それがこういう子にやられちゃう男って案外多くてね」

二人のレベル5は互いに軽口を交わし合ってはいるが、どちらの目も笑っていない。
両者ともにしかけるタイミングを推し量っているようだった。

垣根(……ん?)

ふと、違和感を覚える。
自分の能力が自らの制御下を離れていくかのような奇妙な感覚。
その嫌な感じは、僅かずつ、しかし確実に増していた。

垣根(何が起こっている? この場にいる麦野も滝壺もこのような能力は持っていなかった筈。
    ……、いや待て。AIM拡散力場を捉える能力追跡、こいつを応用すればあるいは……)

麦野の後ろに隠れた滝壺に注目する。
表情は麦野の身体に遮られて見えないが、苦しげに上下する肩がはみ出している。

垣根(やはり滝壷か。AIM拡散力場に直接干渉し、俺の能力を乗っ取ろうとしてやがるな。
    くそっ、小器用な真似を! 早いところこの接触を解かねえと能力が揺らぐ恐れがある!)

垣根「チマチマとうざってえんだよ!」

廃研究所における戦いで初めて垣根が攻撃に出た。
不可視の弾丸を一つ、二つ、三つと飛ばす。
麦野もろとも滝壺を吹き飛ばす算段だ。
対する麦野は、今まで何度も未元物質に防がれ続けてきた原子崩しを放った。

垣根「ハンっ、無駄だってことがまだ―――」

ぐにゃり。

垣根(は?)

何かが音を立てて歪む。

垣根(ちょっと待て、なんだこれは!?)

垣根のパーソナルリアリティが先ほどまでとは比べ物にならない強さの干渉を受ける。
未元物質を用いた弾丸が、防御壁が、“鎖が”、形を壊しはじめる。

麦野「消し飛べぇえええええ!!」

垣根「っ!?」

そして三度目の原子崩しが垣根の不敵な表情を崩した。

麦野の立てた作戦はこうだ。

まず、滝壺が体晶を使っているのがばれないよう、麦野の後ろに隠れる。
より正確には、滝壺が能力を使用していることがすぐにばれるのを前提に、能力使用を隠しているふりをする。
そうして能力追跡を発動。麦野が口八丁で時間を稼いでいる間に、徐々に徐々に未元物質への干渉の度合いを強めていく。
ちょうど垣根に、ギリギリ滝壺の干渉が気付かれる程度にまで。

きっと垣根はこう考えるだろう。
ああ、これが相手の切り札か、厄介ではあるが致命的というほどでもないな、と。
わざわざ滝壺を隠していることが、その考えを裏付けする。

さて、僅かとはいえ、垣根は自分の能力を乱されることを厭う筈だ。
こちらを甘く見ている節があるといえど、ここまでされれば攻勢に出ると思われる。

このタイミングで滝壺の干渉を最大域まで引き上げる。

さっきまでの僅かな干渉が麦野達の精一杯の抵抗だと勘違いしていた垣根は、
いきなり干渉を強められて動揺する筈だ。
そうして垣根の能力を最大限不安定にしたところで、麦野が最大火力の攻撃をぶち込む。

作戦は麦野の思い描いた通りに進んだ。
順調にいきすぎて怖いぐらいだった。



麦野の攻撃が止む。
ついさっきまで垣根が立っていた場所には塵一つ残っていなかった。
破壊の痕は建物の外まで続き、遠くの方の壁に空いた穴からは外の風景が見える。

麦野(どうやら攻撃は通ったみたいね。正直、博打だったわ……)

知らず知らずの内にかいていた冷や汗が頬を伝う。
そっと手の甲でそれを拭うと、続いて麦野は滝壺の方を見た。
無理を押して能力を活用した反動か、滝壺は床にへたり込んでいた。

滝壷「はあ……、はあ……」

麦野(体調は芳しくないけどまだ“使える”わね。
    こうでなくっちゃ。こいつの能力は思っていた以上の掘り出し物だったみたいだもの)

冷静に、滝壺の使用価値に対する認識を改める。

麦野「大丈夫滝壺?」

表向きは同僚を心配する良きリーダーの顔を取り繕いながら。

滝壺「む、むぎ……の……」

滝壺は弱弱しく麦野の名を呼ぶと、首を横に振った。

麦野「無理させてごめんね。とりあえず滝壺だけでも先にワゴンに戻った方がよさそうね」

滝壺「違う、違うの……」

麦野「ん?」




滝壺「まだあの人のAIM拡散力場が残って……、ううん、むしろ膨れ上がって……」

と、滝壺の顔が今まで以上に青ざめた。
視線の先は、麦野を通り越してその後ろ側、


垣根「やってくれたなてめぇら」


学園都市第二位、垣根帝督。

垣根「死刑確定だ」

垣根の背中からは白い翼が伸びていた。
あたりにキラキラと舞い散る羽は場違いなほど美しく、それが麦野達には余計に不気味に思えた。



――――――


カツカツと音をたて、フレンダは一人廊下をかけぬけていた。

フレンダ(結局、レベル5相手に何ができるでもないし、絹旗奪取に回されちゃったって訳!)

フレンダ(滝壺には悪いけど、ぶっちゃけホッとしてるや……)

フレンダ(結局私にはこういう地味な仕事が向いてんのかもねー)

フレンダ「ところで滝壺さんよぉ。絹旗はあっち、とか言ってたけど……」




フレンダ「あっちって一体どこなのよおおおおおお!?」

フレンダ「部屋が多すぎてどこ行きゃいいのか分かんねっつの!」



――――――



心理「るんるるー」

鼻歌を歌いながらパラパラと手帳をめくる心理定規。
手帳の中には、彼女が日々したためた文章がのっている。
意外と夢見がちな少女、心理定規。

絹旗(なんだか拘束具が超ぐにぐにしているような)

一方、絹旗は、自分の行動を制限している鎖に生じた変化を敏感に察知していた。
ちょうど滝壺が垣根に対する干渉を徐々に強めていた頃合いだった。

絹旗(もう少しで外れそうなのですが……、って、うわっ!?)

滝壺が能力干渉を最大限に強めると同時、未元物質の影響を受けた鎖が普通の鉄と同レベルにまで脆くなった。
絹旗が先ほどから力をこめていたこともあり、鎖は一気に引きちぎれた。

絹旗(おっしゃー! やりました! 超自由の身です!)

心の中で万歳をするも、すぐに気持ちを落ちつける。

絹旗(なぜ鎖が緩んだのか、ということについては、どうせ考えても分からないので超後回しです)

絹旗(それより今は私が今後どう行動すべきかを考えるべきですね)

絹旗(さて、さっきから超静かなクレーン車操縦士の様子はどうでしょう。
    隙を見せてくれると超有り難いのですが……)




心理「あなたに出会えたその日から、私の心は囚われの身。
    お利口に常識を図る定規も素敵なあなたの前ではガラクタ同然。
    いくら縮めようとしても埋まらない心の距離に、ただただ憧れだけが募っていく。
    ねえ、私の夢を聞いてくれる?
    いつかあなたの腕に抱かれて、あなたと一緒に空を飛んで、
    あなただけの景色だった空からの眺めを、私達だけの景色へと変えたいの。
    Only my angel,KAKINE」

絹旗「超ポエム詠んでるぅうううう!?」

心理「きゃっ!? 嘘!? 声に出て!? そそそそそれよりなんで手足が自由に!?」

慌てふためく心理定規。
思わず放り投げた手帳が狙撃手の額に当たり、まどろみから覚めつつあった彼女が再び眠りに就いたのは、誰も知らない話。
絹旗はさっきまでの緊張感がどっと抜けていくのを感じた。

絹旗「なんだか私まで超恥ずかしくなってきました。
    黒歴史ってこうして紡がれていくのですね。超リアル中二病です」

心理「そっ、そこまで言わなくても!」

絹旗「あなたに出会えたその日から、私の心は囚わ」

心理「いやぁあああああ!」

絹旗「お利口に常識を図る定規も素」

心理「止めてよおおおおおお!」

絹旗「ねえ、私の夢を聞いてくれる?」

心理「聞きたくない! 聞きたくない!」

絹旗「Only my angel,KAKINE」

心理「もう好きにしてちょうだい……」

やはりどこか危機感の足りない二人だった。



――――――




浜面仕上という男は決して人格者ではない。
一応最低限の良心は持ち合わせているが、保身のために見ず知らずの人妻女子大生を殺そうとしたことすらある。
つまり彼はどちらかといえば利己的な人間だと言える。
しかし今の浜面は、以前とはある点が決定的に違っていた。

浜面「クソッ、くそくそくそっ……」

現在浜面は、駐車場から適当に盗んだ車を運転している。
行先は垣根が告げた廃研究所。
そう、今の彼はたった一人の少女のために命をかける覚悟を持っているのだ。

はたして彼は絹旗のヒーローになれるのだろうか。



――――――



垣根「いやー、まさかこんな搦め手でくるとは思ってなかったぜ。焦った焦った」

麦野(なんだこの翼は……)

麦野「テメェ、今の今まで手ぇ抜いてやがったな!」

垣根「ま、結果的にはそうなるな。というのも実はこれを生やすのが好きじゃなくてよ。
    男がハッピーな羽生やして誰が得すんだって話」

麦野「まさかそんな理由で本気を出していなかったってのか?」

垣根「せーいかい! 商品はあの世への旅行券となっておりまーす」

麦野「とことん舐めやがって!」

垣根「吠えるな雌犬。テメェが弱いのが悪いんだろが」

麦野「ざっけんなぁああああ!!」

麦野は力任せに光線を放った。
垣根もそれに合わせ、建物の壁を巻き込みながら翼を振るう。
勝負はたった一動作で決まった。

麦野「がはっ!!?」

振るわれた翼は、麦野が咄嗟に張った白い防壁を呆気なくかき消し、彼女の身体を大きく吹き飛ばした。

麦野「ぐっ……」

その勢いで壁に激突し、床に落下する。
気を失ったのか、麦野は床に倒れたままピクリとも動かなくなった。

滝壺「むぎ……の……むぎのっ!」

滝壺は這いずってでも麦野の元へ近づこうとする。

垣根「やられたリーダーを心配して重たい身体を引きずる少女か。おーおー、泣ける話だね
    でも無理するのは止めときな。既に体中ボロボロなんだろ? 体晶を使い過ぎた奴独特の目をしてやがる」

滝壺「……」

垣根「体晶は使い続ければいつか必ず使用者を壊す」

滝壺「知ってるよ」

垣根「麦野も体晶のそういう性質は把握していた筈だ。それでも奴はお前に体晶を使わせた。
    しかもその様子じゃ相当な頻度で体晶に頼ってたろ」

滝壺「……うん」

垣根「つまるところ麦野にとっちゃテメェは期限付きの道具みたいなものなんだぜオイ。
    そこんとこ分かってんのか?」

滝壺「分かってる……、分かってるよ。自分がどう思われてるかなんて……」

垣根「それなら、自分のことをそんな風に扱う女をどうして心配する必要がある。ムカつかねーのかよ」

滝壺「だって!」

らしくなく大声を上げる滝壺。
彼女は少し口をつぐむと、俯きがちに、絞り出すように、その先の言葉を紡ぎ始めた。

滝壺「どんな理由であれ、むぎのは私を必要としてくれた。私はその気持ちに応えたいの」

垣根「わっかんねーな。非合理的だよ、テメェの思考は」

滝壺「そうかもしれない。だけどアイテムは……、私のたったひとつの居場所だから……」

垣根(なんだぁ? やけに感情的な回答をよこしやがって。
    違うだろうが。暗部組織っつーのはもっとこう、冷酷な連中の集まりの筈だろう)

滝壺「むぎの、しっかりしてむぎの」

垣根(チッ、これじゃ俺が一方的に悪者みたいじゃねえか)

垣根「よっし、んじゃ一つ選択肢をやろう」

滝壺「選択肢?」

垣根「今すぐ仲間を見捨てて逃げ帰れ。そうすればテメェだけは見逃してやる」

仲間を見捨てれば見逃すという言葉は嘘だ。
垣根の真意は、この選択肢を突き付けることで滝壺の本性を引き出すことにある。

垣根(食い付け。ボロを出せ。結局自分はクズでしたって俺に証明して見せやがれ。
    そうすれば俺は心おきなくお前をぶっ殺せる)

滝壺「……見捨てられないよ」

垣根「は?」

滝壺「死ぬのは嫌。でも一人になるのはもっと嫌。皆を見捨てらるなんてできない」

垣根「ああそうかい」

滝壷「フレンダがいたずらをして、きぬはたとはまづらが追いかけあって、むぎのがみんなを叱って……。
    そんなアイテムの毎日が私は好き。壊したくない」

垣根「そりゃ結構なこって。んじゃ、お望み通り殺してやるよ馬鹿女」

滝壺は静かに目をつむった。
しかしよく見ると、死への恐怖からか手が小刻みに震えている。

垣根(……クソッ)

垣根「3、2、1、バーン」

滝壺「っ……!」

滝壺(……あれ?)

いつまでたっても衝撃が体を襲ってこない。
不思議に思い滝壺が目を空けると、そこには指を銃の形にした垣根がいた。

垣根「はい、これで滝壷理后は俺に殺されましたー」

滝壷「どういうこと?」

垣根「表向き殺されたことにしといてやるっつってんだよ。これでお前は暗部から抜け出せる」

滝壺「……」

垣根「どうしてそんなことをするのか訳が分からないって顔だな」

滝壺「うん」

垣根「どうせテメェはもうまともに戦えないから殺す意味は薄い。とりあえずはこの理由で満足しておけ」

垣根(こいつなら表に行っても、絹旗のいいオトモダチを続けられるかもしんねえな)



――――――



心理(さて、そろそろ頭をシリアスに切り替えなくちゃね)

ポエムをしたためた手帳をさりげなく回収しつつ、心理定規はこの部屋唯一の扉の前に立ちふさがった。

絹旗「大人しくそこをどいてください。私の目的は自分と仲間を超無事に帰すことです。
    無駄にあなた達と超削り合うことは望みません」

心理「素敵な提案。でもね、私は垣根にここを任されてるの。
    彼の期待はできるだけ裏切りたくない」

絹旗「分かりました。では超腕尽くでいかせてもらいます」

心理(この子に私の能力がどの程度通用するかは分からない。でも、やるしかない)

能力使用の準備をする心理定規。
対する絹旗は心理定規が予想だにしていなかった行動に出た。

絹旗「超ショートカットぉおお!」

彼女は心理定規がふさいでいたドアを無視し、壁を殴りつけて大穴を作ったのだ。

心理「えええええ!? こういう時は私を倒して先へ進むのが王道でしょう!?」

絹旗「私は面倒なのが超嫌いなんです!」

ビアージオ・ブゾーニを彷彿とさせる一言である。

心理(ああもうペース狂うなあ。逃げられない内にさっさと能力使っちゃおう)

心理定規は絹旗の心を能力で操作し、自分と絹旗の心理的距離を急激に縮めた。
絹旗は怪訝そうな顔を浮かべる。

絹旗「……何をしたんですか?」

心理「さあね?」

絹旗(やられました……。詳細は分かりませんが、彼女は精神操作系の能力者でしたか)

絹旗は殺しを仕事と割り切れる程の、年にそぐわぬストイックさを持っている。
しかしそんな彼女もやはり年端もいかない少女。
感情を完全に押し殺すことまではできない。

絹旗(こういう手合いの能力は超苦手です)

今の絹旗は、精神的に心理定規に依存しており、彼女がいないと精神が不安定になるレベルにまで追い込まれていた。

心理「もっとこっちにきてくれないかしら」

絹旗は悔しそうな顔をしながらも素直に指示に従う。
もはや体が勝手に動いてしまうのだ。

心理「いい子ね」

心理定規は悪戯な笑みを浮かべると、自分の目の前に来た絹旗の頭を撫でた。
一瞬だけ嬉しそうに目を閉じた絹旗だったが、すぐに我に返り、一歩体を引く。

絹旗「止めてください!」

心理「あら、別にこれくらい別に良いじゃない。そんなに私のこと嫌い?」

絹旗「き、嫌いじゃ……」

心理「うんうん」

絹旗「……、ないです……」

心理「私もあなたのこと好きよ」

絹旗「あ……」

絹旗(超ドキドキします……。浜面意外にこんな感情、持ちたくないのに……)

絹旗は別に同性愛者ではなく、本来なら少女相手に赤面するようなことはない。
それにも関わらず心理定規から好きと言われただけで、絹旗は顔に熱がのぼっていくのを感じたのだ。
かけられた精神操作の強烈さがうかがえる。

心理(よし。この反応じゃ、能力にかかったのが演技ということも無さそうね。
    これで一安心ってところかな? ふふ、案外簡単だったわね)

心理「立ったまま睨みあってても仕方ないし、ソファーにでも腰かけない?」

つい数分前までは逃げようとしていた筈なのに、絹旗は自然な流れで腰をおろしてしまった。

絹旗(超まずいです。完全に心が囚われています。なんとか能力を解かなければ)

頭の中に僅かに残った冷静な部分で必死に打開策を模索する。
そんな抵抗をあざ笑うかのように、心理定規は更に思考を妨害する。

心理「よいしょっと」

彼女はそう言って絹旗の隣に座ると、思い切り絹旗にもたれかかった。

絹旗「ちちち近いです! というか超密着してます!」

心理「いいじゃない。私とあなたの仲でしょう」

絹旗「わっ、訳が分かりません!」

心理「あらそう? そう言われるとちょっと寂しいな」

絹旗(ぐっ……、演技とは分かっていてもこの悲しげな表情、超心が痛みます!)

心理「にしてもあなたの服って裾が短いわよね。足が綺麗だからこそできる恰好だね」

そう言いつつ、露出した太ももを指でなぞる。

絹旗「ななななっ!?」

絹旗(やばいやばい超やばい能力を解かないと色々とやばい)

絹旗(おおお落ち着きましょう! だっ、大体、ドレス女×私とか超誰得なんですか!)

絹旗(あ、私得かも……。って、いやいやいや本当にどうしちゃったんですか私は!?)

絹旗(とととにかくです! 基本的に能力というものは、能力者の意識さえ奪えば止められます!)

実際には心理定規が動かした心の距離はその程度では元に戻らないが、絹旗はそのことを知らない。

絹旗(さっさと気絶させて、この変な心理状態を超解消しましょう! そうと決まればぶん殴る!)

絹旗「……」チラッ

心理「ん?」

絹旗(で、できねええええええ! 超無理です彼女を痛めつけるなんてできません!)

心理「どうかした?」

絹旗「なっ、なんでもありません!」

心理「そう?」

絹旗(なんとか彼女を傷つけずに能力使用を超妨害する方法はないのでしょうか!?)

絹旗(うーんと……。そうだ! くすぐりです! これなら好きな人にやるのも抵抗ありません!)

よし、くすぐりで演算を妨害しよう。
そう決意すると絹旗は心理定規の方に向き直った。

絹旗「すみませんっ!」

心理「へ?」

絹旗「超こちょこちょー」

心理「ちょ、ちょ、ちょっと止めなさい! わっ、脇は無理なの! あ、んんっ、止めてったら!」

くねくねと身をよじるも、絹旗の手はしつこく脇に伸び続ける。
暴れる内に徐々にドレスが乱れ、白い肌が露出し始めた。
あまりのくすぐったさに脱力したところを、絹旗は容赦なく押し倒す。

心理「ちょっともうっ! 止めて! もう本当に無理なの!」

絹旗「いいえ止めません!」

もはや絹旗は半ばやけになっていた。
その時、ガチャリと扉が開く音がした。




浜面「あ、お、お邪魔でしたかね……?」

絹旗「はははは浜面ぁあああ!?」

絹旗「どうしてあなたがここにいるんですか!?」

浜面「あ、ち、違うぞ! 決してそういう現場を覗き見るつもりがあった訳じゃないからな!」

絹旗「はい? そういう現場って、どういう……」

ふと冷静になってみる。
まず、絹旗は心理定規を強引に押し倒している。
しかも二人の服は暴れたせいで大きくはだけた状態だ。
更に、心理定規はくすぐられ続けて涙目。
これだけ条件がそろっていれば誤解を招いても仕方が無いと言える。

絹旗「あ……」

浜面「本当にすまん! まさかお前にそんな趣味があるとは思わなくて、
    漏れて聞こえてきた声からてっきり敵ともめてるのかと勘違いして!」

絹旗「違うんです! これには超深ーい事情がありまして!」

浜面「事情? どういうことだ?」

絹旗「えーとですね」

なんと説明したものかと説明の言葉を考える絹旗。
そんな彼女の努力を台無しにする一言を心理定規が発する。

心理「ちょっと強引だったけど……さっきのはよかったわよ、最愛」

浜面「!?」

絹旗「そっ、そういう超ますます誤解を深めるようなことは言わないでください! というか下の名前……」

心理「ふふっ。とか言いながら赤くなっちゃってるのはどうしてかしら?」

絹旗「ぐ、ううぅ……。ほっ、本当に違いますからね浜面! 私は超ノーマルですから!」

浜面「あ、ああ、分かってるよーく分かってる」

絹旗「なぜ鼻血を出しつつ目をそらすのですか!? やっぱり超信じてないでしょう!」

浜面「大丈夫、絹旗がどんな人間でも俺は応援するから!」

絹旗(終わった、色々と……)



――――――


 時間は少しさかのぼる。

麦野(くそっ……)

 垣根の翼に吹き飛ばされて気絶したかに思われた麦野だったが、実は彼女は意識を手放してはいなかった。
身動きをしなかったのは垣根を倒すタイミングを狙うため。
今度は小細工を弄する暇を与えないようゼロ距離から攻撃を叩きこむつもりでいた。
だがそんなたくらみは、すぐに思考の外に追いやられることとなる。

「むぎ……の……むぎのっ!」

 滝壺の声がする。
自分の体もひどい状態だろうに、よりによって自分をそんな状態に追い込んだ超本人を心配する声が。

麦野(馬っ鹿じゃねーの?)

 それがこの時点での麦野の率直な心情だった。
しかし彼女の気持ちは徐々に揺れていく。

「どんな理由であれ、むぎのは私を必要としてくれた。私はその気持ちに応えたいの」

麦野(おいおいおい、私が必要としていたのは垣根の言う通り便利な道具!
    能力追跡という能力さえ使えればそれが誰だろうが構わなかったっての!)

「そうかもしれない。だけどアイテムは……、私のたったひとつの居場所だから……」

 滝壺の言葉が麦野の耳へ、いやに鮮明に響く。

麦野(……は? 頭わいてんじゃねえの? 普段の仲良しごっこは暇つぶし。
    いざとなれば切って捨てられる程度の薄いもんのはずだろうが)

 麦野の胸中にある感情が渦巻きだす。
それは、申し訳なさや罪悪感などといった類いのものではなく、純粋な戸惑い。
馴れ合いを、仕事を上手くいかせるための潤滑油程度にしか考えていなかった麦野には、
滝壺がこんな気持ちでいたということが信じられなかった。

「今すぐ仲間を見捨てて逃げ帰れ。そうすればテメェだけは見逃してやる」

 そして垣根がそんな提案をした時、麦野は思わず安堵してしまった。

麦野(これで少なくとも滝壺だけは無事でいられる。よかった……)

 麦野の思考は知らず知らずの内に滝壺の言葉の影響を受けつつあった。
比較的幼いうちから暗部にもまれ、殺すことが日常と化して長い彼女だが、
それでも心の奥の奥には一定程度の人間味が残されていたのだ。

 しかし少しの沈黙ののち、滝壺は垣根の提案を断る。

「……見捨てられないよ」

「は?」

「死ぬのは嫌。でも一人になるのはもっと嫌。皆を見捨てるなんてできない」

麦野(この馬鹿! なんで自分が生き残れる可能性を捨てるような真似を!)

 この瞬間、麦野は思わず声を出してしまいそうになった。
しかし今動くことはおそらく滝壺、麦野のどちらにもいい結果をもたらさない。
麦野は寸でのところで行動を起こすのを思いとどまった。

「フレンダがいたずらをして、きぬはたとはまづらが追いかけあって、むぎのがみんなを叱って……。
 そんなアイテムの毎日が私は好き。壊したくない」

 麦野にとってはどうでもよかった日常を、滝壺は好きだと断言する。
かげがえのない宝物でも自慢するかのような誇らしげな、穏やかな語り口に、麦野の胸が温まる。

麦野(馬鹿みたいな仲良しごっこも悪くはなかったのかな……。もしかしたら本当は私も……)

「そりゃ結構なこって。んじゃ、お望み通り殺してやるよ馬鹿女」

麦野(……でも、それもこれで終わりか)

「3、2、1、バーン」

 ―――ほんの少しの静寂。

麦野(何も起こる様子が無い……?)

状況を確認するため、麦野はおそるおそる薄目を空けた。

「はい、これで滝壷理后は俺に殺されましたー」

麦野(何だってんだ……?)

 滝壺は傷一つ付いていなかった。
垣根の行動に疑問を抱いたのは滝壺も同じ。
彼女が垣根に対して自分を殺さなかった理由をたずねると、垣根は、理由になっているのかどうか曖昧な答えを返した。

「どうせテメェはもうまともに戦えないから殺す意味は薄い。とりあえずはこの理由で満足しておけ」

 ここでようやく時系列が追いつく。




滝壺(私が暗部から抜け出せる?)

 実際のところ、垣根の言葉は滝壺にとって魅力的だった。
どうしても届かなかった、平和な世界への切符。
喉から手が出るほど欲しいものだ。
だが、そうして行けるであろう場所には大切なものが欠けている。

滝壺(きっとそこにはみんながいない……)

垣根「そんな提案まっぴらだって顔だな」

滝壺「言ったよね、みんなを見捨てられはしないって」

垣根「頑固な奴」

 垣根は溜め息をついた。
しかしその表情は、むしろ嬉しげだ。

垣根「そんな頑固なお前に一つ朗報がある。
    お前の仲間の絹旗な、あいつもお前とセットで救ってやる」

滝壺「きぬはたも?」

垣根「ハッピーな世界ウィズお仲間。どうだ、この上ない好条件だろう?」

滝壺(この人、どうしてこんなに私にこだわるの……?
    あれ? そういえばこの人の拡散力場のパターン、きぬはたと似た部分があるような……)

 滝壺が何かに気付きかけたその時、

麦野「……ざけんなよ」

 麦野がぼそりと何かを呟いた。

滝壺「むぎのっ!? よかった、気が付―――」

麦野「ざっけんなよ滝壺ぉ!」

麦野「私はレベル4なんざに気をつかわせるほど落ちぶれちゃいねえ!
    どうせテメェはもう長くねえんだ。いい機会だから首だ、首!」

垣根(こいつ……?)

麦野「だから……、だからさっさとどこかへ消えろ!」

 そう大声でまくしたてると、麦野はよろよろと立ちあがった。
傍目から見ても明らかに無理しているのが分かる。

麦野「てなわけだ垣根ぇ! さっさとケリつけんぞオラ!」

滝壺「むぎの、私も戦うよ。大丈夫、まだやれる」

麦野「舐めた口きいてんじゃねえ! テメェなんざ足手まといなんだよ!」

 なんとか滝壺を突き放そうとする麦野。
麦野と共に戦うと主張し続ける滝壺。

垣根(くくくっ、こりゃとんだ美談じゃねーか。少々認識を改める必要があるな)

垣根(今まで俺は暗部っつーくくりの中にあるもの全てをクソッたれだと決めつけてきた。
    だが、それは必ずしも正しくなかったのかもしれねえ)

垣根(少なくとも、絹旗を取り巻く状況は思ったよりもマシだった)

垣根(とはいえ麦野は野放しにするにはあまりに危険すぎる存在だ。
    一度しかけちまった以上、もう殺す以外の選択肢はねえ)

垣根「さ、お話はまとまったか?」

麦野「まとまったも何も、初めっから答えは出てるっつの! 私がテメェをぶち殺してハイ終わり!」

垣根「はぁー……。んじゃまあ、悪いけどさっさと死ねや」

 巨大な白い翼が振るわれる。
麦野は原子崩しを放出するが、翼は何の抵抗も受けていないかのように動き続ける。

麦野「くっ!」

垣根「あばよ」
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