佐天「…アイテム?」2


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あらすじ
佐天涙子は幻想御手で昏倒していたが、そこから復活し補習を受けていた。
そんな補習も終わり、学生寮に帰った8月の第一週の日。家に送り主が分からない小包が。

それをあけるとタブレット型携帯電話と百万円が。
携帯電話を起動すると男と通話することになる。

男は佐天と町田で会おうと提案する。
佐天は昼寝して町田に行く決意をする。





――佐天の学生寮の部屋のバスルーム

シャワーの温水を浴びて佐天は汗を流していた。

彼女が汗をかいた理由――おそらくそれは彼女の夢の内容に依るところが大きい。


佐天はシャワー浴びつつ、通話していた内容と夢の内容とを反芻して思い出す。

電話してる時の相手が言ってた『能力者に嫉妬してる?』という言葉。

その指摘は正しいと言わざるを得ない。



佐天の頭の中でその言葉が浮かんでは消えていく。


(嫉妬かぁ…どうなんだろう…)


(幻想御手の時に痛い目みて…なお、能力者に憧れるか…)


(補習に出た時、あの小さい先生が言ってたよね、努力して自分の能力を上げることが出来るって)


(…そういう意味だったら憧れてるのかもしれない…けど)


けど――

彼女は思った。
結局は努力をし続ければいけない。それに対して別段嫌な気はしない。でも、努力する事について正直面倒だとも思っていた。


(確かに…自分でも能力者に対して憧れる気持ちがあるのは認めるけど)


(なんていうか…もっと違う気がする…能力に関してはあんなに痛い目見たわけだし…)


そこで彼女は自分の気持ちがわかりかけた様な気がした。


(能力があってもなくてもいい、ただ、白井さんや御坂さん、初春の様に何か自分に誇れるような事をしてみたい?)


(御坂さん達が自分たちの能力を鼻にかけてる事はない…と思うけど…自分たちの能力に絶対の自信は持ってる…)


(私も…何か、自分に誇れて自信を持って出来る事をしてみたい…のかな)


(…それとも、ただの興味?人に言えない事をしてみたい…のかな?)


佐天はシャワーを浴びながら自分の思考がどんどん遅滞していく感覚を覚える。
結局、自分は能力者に嫉妬しているかどうか、答えは出なかった。


そして、自分がいつも一緒にいる友人たちと同じように能力者になりたいと思っているのか、それとも何か人に言えないことをしたいのか…。


ぼんやりとお風呂にある防水時計を見る。
そろそろ風呂から出なければ遅刻してしまう時間だった。


(出よっと…)


シャワーの蛇口を閉めて、裸体のまま浴場から出る。
佐天のすらっとした腕、太もも、両脚…体の四肢を伝って滴り落ちる水をバスタオルでふきとっていく。


股のあたりから綺麗な脚の先まで丁寧に拭き取る。
最近生えてきた恥毛をぼんやりと見つめながらそのあたりについている水滴をふきとっていく。


身体を一通りふき終わるとパンツをはく。


白い脚にかかるパンツ。
すらりとした脚をするすると彼女のパンツが上がっていく。


パンツをはくと次はバスタオルでふいた髪をドライヤーで乾かしていく。
自慢の黒髪だ。



しばらくして髪が乾くと、慎ましい胸ながら、発達中のそれにブラを着用する。
その後、白いユニクロのポロシャツを着る。
タイトめに着ると次はジーンズ。Leeのブーツカットデニムをはき、靴下をはき、エアフォースワンの白のスニーカーを履く。

さわやかでボーイッシュな感じで元気闊達な佐天ならしっくりくる。



(さて、行こうかなー…)


百万の内、一万円を一枚だけ財布に入れる。
残りは冷凍庫の奥の方にねじ込む。



(夕飯は…この中から買えばいいかな…?)


先ほど小包の底にあった封筒の中から出した一万円だ。
なぜか罪悪感がしたが、それは気にしないことにした。


柵川中学校のバックにipad型携帯電話を丁寧にいれる。
自分の元々持っている携帯電話はジーンズのポケットに。


机の上に置いてある寮の鍵を持ち、戸締りの確認をする。


(じゃ…いってきまーす…)


(なんだか緊張する…)


見ず知らずの男、いや、待ち合わせ先にいる人物は性別もわからない。
一体誰なのだろうか、そんな不安に彼女はかられる。


しかし、お金をもらった手前と、なんとなく、話を聞いてみようという興味本位で彼女は町田に向かっていった。





町田駅は神奈川県と東京都の県境にある駅だ。
同時にここは学園都市と日本の境目でもある。



巨大な貨物ターミナルもあり、長津田から横浜線と分線し多摩センターの地下にある第二十二学区の地下街まで延びているそうだ。



小田急線、横浜線とが交わり、国道十六号線や町田街道も近くにある町田駅は学園都市の交通の要衝でもある。
そして町田周辺の小中高大に登校するのに欠かさないこの駅の周りは多数の施設が乱立し学生達の遊びの場になっている。



多数の学生達の遊び場となっているこの駅の周辺は日本と学園都市の境目に位置する都市であるため、人の流出入が激しい。
その人の多さゆえ、治安の乱れが懸念されている地域でもある。


さて、町田近辺の説明はここらでいいだろう。
佐天は町田駅についた。



第七学区の立川駅前、あるいはそれ以上の数の人がいた。
夏休みということで遊んでいる学生が多数いるのだろう。


(十九時ちょっと前かぁ…早かったかな?)


彼女は町田駅前のオブジェの前にいた。
どんな人が来るのかわからないので緊張する。いや、どんな人が来るかわかっても初対面なので緊張するだろう。


(あー…私も結局何してるんだかねぇ)


(電話をする簡単な仕事か…)


佐天は寮でした電話の内容を思い出す。



(組織ってなんなの…?)





(私が…能力に嫉妬かぁ…)


彼女の頭の中をいろいろな事が駆け抜けていく。
そうして考えて気付けば下を向いて地面とにらめっこをしていると、不意に声がかかった。
顔を上げるとボディシェープされたこぎれいなグレーのスーツを纏った男がいた。


「ごめん、仕事で遅れちゃって」


「!!」


「申し訳ない!」


「へ、平気ですよ…」


「はは、恐がらない、恐がらない。取って食っちまおうってわけじゃないからさ!」


佐天に話しかけている男は優男といった感じで、大学生くらいの男だった。
案外に優しく見える。組織だの電話だの、能力だのと言ったこととは無縁そうに見えるただの学生然とした風貌だ。

けれど、この街の学生は皆そういう風に見えて、実はとんでもない能力を持ち合わせているからわからない。
取り敢えず、佐天から見た男の第一印象は概ね良かった。集合時間に遅れることもなかったし、見るからにおかしいヤツじゃなかったから。


(ま…まぁ、普通の人ね…)


(このひとが 私にさっき電話した人…だよね?)


そんなことを考えながら佐天は目の前にいる好青年に緊張しつつも話しかける。


「あ、あの…さっきの電話の詳しいお話なんですけど…」


「そうだね、その話しをしに来たんだった、ってか立川から町田までわざわざ申し訳ないね!今日は町田で一仕事あったんで!」


「あ、良いですよ、気にしてないんで!」


「そう、ありがとね、じゃ、立ち話もあれだし…こっちにきてくれ」


男はそういうとオブジェの近くの階段から下の道路の方に降りるように佐天に指示した。
佐天はその男から少し距離を置いてついていく。するとそこには大型のキャブワゴン「VELLFIRE」がハザードをたきながら止まっていた。


「さ、どうぞ」

男は黒のブルガリのキーケースをポケットから取り出すと、トヨタのロゴが彫られているキーのボタンを押す。
キュッキュッとアザラシの鳴き声のような音が小さく響くと後部座席のドアがゆっくりと開いた。



(え?ちょっと、これは大きすぎるでしょ…?何この車…)


佐天の実家の車よりも全然大きい車、しかも中を覗き込むと相当な広さだ。
彼女は外から見た、「VELLFIRE」の車内の広さに驚いているようだ。



「ほら、乗りなよ」


「あ、はい」


男に言われるがままに佐天は後部座席に座っていく。
携帯電話が入ったバックを大事に抱えて。



佐天が恐る恐る車に乗り込と、その動作を見ていた男が後部座席をハンドル脇のボタンを押す。
すると後部座席のドアが静かに閉まっていく。



(あ、ドア閉まっちゃった…出れない…)


どうしよう、と佐天が考えていると、運転席に座っている男がミラー越しに話しかけてくる。


「単刀直入に言うけど、これは遊びじゃない」


「………………」
(な、な、なによ?え?え?)



「まぁ、そんなかたくならず、リラックスして」


「あ、はい…」
(お前がそんな事言うからだろー!)


後部座席に乗ってからずっと彼女の体は小刻みに震えていた。そして背筋はぴんと張っている。
男に楽にするように促されても全然出来なかった。


佐天の様子を見て、男はふぅ、と男はため息をつく。
まるで、やれやれと言った素振りだ。


「緊張しすぎだって!平気だよ!リラックス!」


男は両手を宥めるようにして佐天に音付くように促す。
佐天ははい、と答えるものの、どうしてもリラックスできない。



そんな動作を見て男はさっさと話し始めてしまおうと思ったのだろう。
男はスーツの胸ポケットから煙草を取り出して吸い始める。佐天はその素振りを見ていた。


「あ、煙草ダメだった?」


「いや、良いですよ、気にしてないんで」


「ごめんね、気を使わせちゃって…」


男はその後数回煙草を吸ってはいてを繰り返すと設置してある車内の灰皿に煙草をぎゅっと押しつけて火を消す。



「自分で単刀直入って言っておきながら話がそれちゃったね、そろそろ本題を話そう」


「携帯電話を出して欲しいんだ」


男はミラー越しに佐天を見つめ、話す。
佐天はバックのファスナーを開けて携帯電話とは名ばかりのipadの様なタブレット型コンピュータだ。


「これは学園都市の技術で詳しくは言えないんだけど、電池はほぼ無尽蔵なんだ」


「む、無尽蔵?」


その言葉に佐天は驚きを隠せないでいる。

(いくらなんでも無尽蔵…確かに小包を開けた時に充電器はなかったけど…)


「こうした技術を外部に漏えいさせないために学園都市の情報を守る部隊がいるんだ」


「え、っと…それって警備員とか風紀委員みたいな感じですか?」


「あー、ちょっと違うな!それはあくまで公的な組織なんだ!」


「公的じゃない組織…ってことですか?」


佐天の警備員や風紀委員ではない、それでもって新設の組織…果たして一体?
彼女には見当もつかない。


「公的、の裏側って言ったら良いのかな?そりゃ、風紀委員や警備員も学園都市の治安維持機関だけど、教師や学生の集まりだけでこの学園都市の治安が守れると思うかい?」


「………」
(え?違うの?どうなの?)


「当然、守りきれるわけがないよね」



「………」

佐天は黙りこくってしまった。
それもそのはず。今まで彼女が見てきた学園都市に存在する治安機関は警備員と風紀委員の二つしか存在しないのだ。
それ以外の組織に学園都市が守られているなんて想像出来ない。飽くまで彼女は一般市民なのだ。現時点では。


「じゃ…その組織に私は…はいる…?」
(警備員と風紀委員以外に何か…あるの?)



「入るって言うとちょっと違うんだなぁ…!…うーん…そーゆー組織に君が指示を出してほしいんだ」


「わ、わたしがぁ???」


「なに、難しい話しじゃないよ、指示って言ってもこっちでするからさ、佐天さん、君にはぜひ、その内容を彼女たちに伝えてもらいたいんだ」


「は、はぁ?」
(え?なんで私なの?)


「ま、いろいろ疑問もあると思うけど、まずは携帯のアプリを起動して?」


男に言われるがままに佐天はアプリを起動する。
すると『極秘』と書かれたファイルがあった。


(極秘?な、なによこれ…?)


「このアプリを見たことは他言無用だよ?ってか今日の出来事はなかった、いい?」


「………は、はい」
(…なんだかやばそうな雰囲気ね…!)


アプリはどうやらファイルを取り組んでいるようだった。
しばらくすると、四人の少女たちの顔が出てきた。


「女の人たち…?」


「そ、彼女たちに指示を出してもらいたいんだ、名前はアイテム」







「…アイテム?」




「そ、アイテム、じゃ、誰でもいいから押してみて」


佐天は男に言われると適当にボタンを押してみる。


(じゃあ…、この黄色いコート着た人)


ぽち、タッチパネルのボタンを押すと四人の画像から切り替わって黄色いコートを着た女性の詳細が反映される。



「む、むぎの…しずり…?」


佐天は思わず名前を言う。
そして画面に映っている麦野という女の画像をマジマジと見つめる。


(きれいな人だなー…ちょっと横顔向いてて正面からじゃないからわからないけど…)


(私より大人っぽいなーってか生年月日も私より普通に年上じゃん)


(へぇー…高校二年生かぁ…ってかレベル5…原子崩しねー…)


佐天が麦野の詳細が記載してある記事を飛ばし飛ばしに読んでいく。すると男が不意に彼女に話しかける。


「一応、記事に載ってると思うけど、彼女がアイテムのリーダーだね」


「は、はぁ」


「記事と内容は重複してると思うけど、一応彼女について簡単に説明するね、彼女はレベル5で学園都市第四位の手だれだよ」


「だ、だ、だい四位!?」
(み、御坂さんと一つしか変わらない!?す、すごっ!飛ばし飛ばしで読んでたけど…はんぱないなぁ…!)


佐天は記事を飛ばし読みに読んでいたのか、男から麦野と言う人物の強さを知らされて驚きを隠せないでいた。


「うん。ってか君記読んだはずなのに驚きすぎだよ…」


「す、すいません、飛ばし飛ばしで読んでてつい…」
(うわぁ…すごいなぁ…こんなにかわいいのに…レベル5で第四位かぁ…次はどんな人なんだろう?)



佐天はその記事を一通り読み終えると次のページをめくる。興味津々だ。
電子書籍の様にペラッと本をみる調子だ。



「彼女の名前は…」


男が言いかけると佐天が答える。


「フレンダ…?外人?」
(国籍は…カナダ…?カルガリー出身…カルガリーってどこよ…?)



佐天は世界地図を思い出す。適当にアメリカの上あたりのでっかい土地だろう位に考えておく。
そして、食い入るように記事を読んでいった。


(爆薬の取扱のプロ…銃器の扱いにも長ける…へぇ…すごい…この人は…あ、)


佐天はあることに気付いた。
そしてちょっぴり親近感が湧いた。


(レベル0なんだ…フレンダ…さん…って言ったらいいのかな?)



(にしても…本名はなんて言うんだろう…?ま、いいか)


佐天は本名ではなくて名前だけ表示されている『フレンダ』に疑問を抱きつつ、次のページを開いていく。
運転席に座っている男は佐天が真面目にアイテムの記事を読んでいる事に配慮してか、静かに腕を組んで運転席に座っている。



(滝壺…り…なんて読むんだ?これ?りこうであってるのかな?)



(当該組織のリーダーである…麦野沈利の粒機波形高速砲の照準補佐を行う、なお…その能力の発露には…体晶をもちい…)



(体晶…?なんなんだろう?)


聞き慣れない名前が出てきて佐天は記憶を探ってみるが『体晶』なるものが一体なんなのかわからなかった。
彼女は能力を誘発する特殊な環境か何かだろうと、適当に決めて次のページをめくった。



(絹旗最愛…うわ、この子、私と同い年くらいじゃない?)


(ほうほう…絹旗さんはレベル4…窒素、装甲?聞いたことない能力)


(アイテムの中でも攻守の応用性に優れており、非常に広範な任務で活躍している…すごいなぁ…最年少なのに…)



佐天は流し読みになってしまったが、一通り『アイテム』のメンバーについて網羅されている記事を読み終わると携帯を隣に置き、男を見る。



運転席に座っている男は佐天がアイテムの記事を呼んでいた時間、別段苛立つ表情など見せなかった。
そして佐天が記事を読み終えると話しかけてきた。


「彼女たちに電話をしてもらうのが君の仕事だ。そして君にこの仕事を任せた理由は…」


佐天は自分の心臓がドキリと反応し、一気に鼓動が速くなっていくのを知覚する。


「君も何かやってみたいって思わないかい?」


「ど、どういうことですか?」


質問の意味がわからずうっかり質問に質問で返してしまう。
男は気まずそうに笑顔を浮かべている。


「君が幻想御手を使って昏倒してから、回復する今に至るまで君の生活は完全に監視されていたんだ」


「は?監視?」
(ちょっと、どういう事よ?)


いきなり出てきた『監視』という言葉に佐天は動揺を隠せないでいた。
なぜ、自分の様な――無能力者――が監視されなければならなかったのだろうか。


彼女の頭の中に次々と疑問が浮かび上がってくる。



「すまない。学園都市の統括理事会の命令で滞空回線(アンダーライン)という超小型のナノデバイスを散布していた」


佐天は何か言おうとして口をあけていたが、何も言えなかった。
結局、男が話を続ける。


「その中で君の周囲の会話も勿論聞かしてもらった。結果、君は能力者達にたいして憧れがある」


「決めつけないでください…」


「じゃ、否定してくれ」



「…………」
(そう言われると何も言えない…)



「そして、君は“自分も何か能力者の様に活躍したい”って思ったり、能力者の会話が嫌いだったりする」



「それがどうしたんですか?確かに私は無能力者です。そして周りにいる能力者の友人たちの話がたまにとてつもなく嫌になる時だってあります!」


佐天はつい、語気を荒げて本音をいってしまった。


言ってからはっ、と気付いて佐天は頭を男にペコペコ下げて謝る。


「謝らなくていいよ、むしろ、今の君のそういう感情があってこそ、この仕事はやりがいがあると思うんだ」



「?」




佐天は何も言わず、首をかしげる。
なぜ、無能力者である、と言う劣等感が仕事をするうえでのやりがいになるのだろうか、全然わからない。



「考えてみてくれよ、君ははっきり言って無能力者だ、けれど、能力者たちの様に何かしてみたいと思うだろ?」


「そう、滞空回線で監視していたけど、御坂さん達の様になりたいって気持ちがあったはずだよ、或いは彼女達の様に自分だけの特殊な環境が欲しいって」


佐天は何も言えない。
けれど、こくんと頷く。当たっているから。決して御坂達や初春の事が嫌いな訳ではないが。

男は構わず話し続ける。

「だったら、幻想御手の事なんかさっぱり忘れて、能力者たちに学園都市の治安を維持する様な伝達をするのも良いとと思わないかい?君には被害が出るわけじゃないんだし」


「た、確かに…そうですね…」
(……私だって、何かしたい…一人だけ何もない無能力者はやっぱりやだよ…!)


佐天は自分の両手をグッと力強く、男の見えない、影になっている部分で握る。



「君の知り合いの風紀委員やレベル5よりも、もっとこの街の最奥を知ることが出来るいい機会だよ、ただし、誰にも言ってはいけないけどね」


「この街の最奥を知ることが出来る…機会…」


佐天の脳裏には友人達の顔が浮かび上がる。しかし次の瞬間、佐天は言い知れぬものを感じた。
甘く、何かこう危険な香りを。男の発言にちらほらと見え隠れしている甘美な響き。

しかし、それでもそれは佐天にとっては危険なものと言うよりかは、むしろ、淡い乳香の様な香りを漂わせるような、且つファンタスティックで魅惑的なものとして認識された


「そう、あなたの友人たちが関わっている様な世界に君も来れるかもしれないね。しかも何のリスクもなくて」


真剣に聞けば、ちゃんちゃらおかしい話だと言う事はわかる。
佐天自身もそれは承知していた。


「何のリスクもない…っていうのは信じられません…失礼ですが…あなたは電話をかける仕事をしたことがあるんですか?」


「あぁ、あるよ。ここ最近いろいろ立てこんでいてね、元々人材派遣の方が本業なんだけど、最近多忙で副業の電話をかける仕事まで手がつかなくなってさ」


「立てこんでる…?」


「うん、えーっと…ツリーダイアグラムを搭載した衛星が何ものかに撃ち落とされたり、学園都市第一位の男が…なんてね、いろいろさ」


「は、はぁ…」


「俺自身は何年かやってきて自分の身に危害が及ぶことはなったよ」


人材派遣の優男はそういうと自分の胸をどんと叩く素振りをする。
佐天に悪印象を与えないようにという配慮だろうか?それは分からない。


「そ、そうですか…」


「で、どう?やってみる気になった?」


その質問で佐天の顔が強張る。

しばらく沈黙が車内を支配する…。









「はい、私でよければ…」


「ホント!?やった!そっか、ありがとう!じゃぁ…詳しいことは追々連絡するね!」


男は指をぱちんとならす。嬉しそうだ。


佐天は決心した。
まだ右も左もわからない状態だが、この仕事を引き受けると。
いつまでも迷惑をかける無能力者ではなく、学園都市に貢献する無能力者になると。



手は震えている。
100%ドキドキしている。
いや、もしかしたらワクワクしているのかもしれない。





そして佐天の言い知れぬ感情をよそに「VELLFIRE」は動き出す。



「佐天さんの家の近くまで送るよ」



町田の高層ビル群が前から後ろに流れていく。
スモークがかかった後部座席からそれを眺めている佐天の表情は期待と不安がごちゃ混ぜになった複雑な表情をしていた。
それとは知らずに、今日もうるさい街の喧騒が響き渡っている。
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