滝壺「私は、AIMストーカーだから」5


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麦野「……で、どうだったの?」

 第三学区にある高層ビルの一角。
 『二つ星』以上のVIP用サロン――といえば、上流階級の人はすぐにわかるだろう。
 そこに麦野、フレンダ、絹旗、浜面……つまりは滝壺を除く四人が雁首を揃えていた。
 そこで麦野が聴くのは、昼間の成果。
 滝壺理后を追跡した結果のこと。

絹旗「…………」

 絹旗は何かを言おうと僅かに口を開いたまま硬直する。

浜面「……お、おい絹旗」

絹旗「浜面は黙っててください、いま超頭の中でまとめてるところなんですから」

 いい、直後うん、と自分のその構成した分に対して頷き、報告する。

絹旗「滝壺さんと会っていた少年はなんてことのない普通の少年でした」

絹旗「少し違うところといえば、超強引というぐらいですね」

絹旗「まぁその程度で、滝壺さんが一方的に話されている、といった感じで確かに気にはなっているようですが一方的な約束を超されていたので感情的には半々といったところですね」

絹旗「勿論、それが仕事の邪魔になるとは考えられません」

 一気に言い切り、絹旗は息を吐く。
 勿論、これは嘘だ。約束を交わしているのは滝壺だし、あちらの少年は強引というより善人だ。
 ……本来、絹旗がこんな嘘をつく必要はない。しかし、それでもついたのは『アイテム』の中で一番人情に厚い彼女だからこその理由がある。

絹旗(滝壺さんの『居場所』……超壊したくありませんからね)

 絹旗最愛に、滝壺理后は楽しそうに見えたのだ。
 少年と接するとき。話すとき。隣を歩くとき。
 感情を特に示すことのない彼女が少しでも、楽しそうに思えたのだ。

絹旗(だから、このぐらいの嘘は超いいでしょう?あくまで私の主観だったといいはればオシオキも軽減されるはずですし)

 絹旗はそこまで考えて、嘘の報告を告げたのだ。
 麦野はそんな彼女のそれに対して目を細めて、次に浜面を見る。

麦野「浜面は?」

浜面「……絹旗と、同じだ」

 数秒の沈黙の後、そう答える。
 当然ながら絹旗と浜面は口裏を合わせてある。バレてしまっては困るから。
 それでも浜面は最後まで渋っていたが。

麦野「……ふーん」

 興味なさそうに言い、立ち上がる。
 そして彼女は二人の座るソファーの前に気楽な調子で移動し、

 ズバン!と。
 絹旗最愛の米噛み付近を回し蹴りで強烈に射抜く。

 食らった本人はただでは済まない、ノーバウンドでサロンの壁に叩きつけられた。
 鈍い音が響く。

浜面「なっ!?」

 突然のことで面食らった浜面は絹旗が壁に衝突する音でようやく思考能力をとりもどした。
 立ち上がり、直ぐ目の前にいる麦野と壁に衝突しながらもゆっくりと立ち上がる絹旗を見比べる。

浜面「む、麦野!?どうしてこんな」

麦野「うるさい、黙ってろ。お前はお前で嘘をついた言い訳を考えてりゃいいんだよ」

 投げやりにそういうと、麦野は絹旗の方へと向き合う。
 ふらふらと立ち上がった絹旗には傷ひとつない。
 『窒素装甲』の自動展開されている盾の賜物だろう。

絹旗「ご機嫌……斜めみたいですね、麦野。超どうしたんですか?」

麦野「しっらじらしい。テメェらが嘘をついてるってことぐらい知ってんだよ」

 麦野の言葉に殺意が宿っている。
 どうやら、彼女には確実といえる理由があるらしい。
 麦野沈利は仮にも、学園都市第四位の人間だ。感情論に任せるところも或るにはあるが、冷静さは滅多に欠かない。

絹旗(……一体、どこでバレたんでしょうかね)

 あまりにも否定的なことを言い過ぎたか。
 真実味を追求するなら、もっと滝壺の意志があることを言えばよかったか。
 そんなことを考えながら周りを一瞥すると、あわあわと口元を抑えているフレンダが目に入った。

絹旗(……フレンダ?)

 そういえば、自分たちが命を受けたときフレンダは立ち去ろうとした。
 しかし、麦野がそれを抑えつけたのだ。お前にも用がある、と言わんばかりに。

 絹旗が嘘をついていた、ということに確実な証拠を見出すのはそれほど難しいことではない。
 なぜならば。
 その現場を見ていればいいのだから。

絹旗「尾行していた私たちに、更に尾行ですか……超やられましたね、嘘をつくこともおみとおしだった、というわけですか」

 その結論に達した絹旗に、麦野は口笛をヒュウ、と鳴らす。

麦野「その通り。だからわざわざ足手まといになるであろう浜面をつけたんだからな」

 いつも暗部に浸っている絹旗なら、きっと一人なら尾行しているフレンダに気づいたことだろう。
 だから麦野は、その彼女に浜面にも気を配らせることでその余裕をなくした。
 しかし、絹旗はそこで一つの疑問に辿り着いた。

絹旗「……フレンダが超嘘をつくことは考えなかったんですか?」

 そうだ。
 絹旗が嘘をついたように、フレンダがもし嘘をついたとしたら。
 フレンダも絹旗ほどとは言えないにしても仲間意識が強い人間だ。そんな可能性がなかったわけではないだろう。
 その疑問に対して、麦野はハッ、と鼻で笑う。

麦野「いいや、フレンダは嘘はつかないわ」

絹旗「……なんでですか?」

 ぐにゃり、と麦野は酷く顔を歪め、

麦野「すこーし、おはなしさせてもらったからにゃーん」

 その言葉にフレンダは過剰に反応した。
 何かに怯えるように左手でその右腕を撫でる。
 そこにそれがあることを確かめるかのように。

絹旗「……なるほど」

 フレンダは、確かに仲間意識は強い。
 しかし。
 同時に、自分のことを一番に考えるのも彼女なのだ。
 自らの身が危険になったら例え仲間でも売る。それが彼女、フレンダという少女。
 それは逆に言えばそれを言っても大丈夫だという信頼の裏返しでもあるわけだが、それでも裏切りには変わりない。
 その性格を知っている麦野なら、簡単に情報を引き出せる。
 例えば。
 その能力でビームサーベルのようなものをつくり、彼女の腕に押し当てたとしたら。

絹旗(そんなことをされたら……私でも超話してしまうかもしれませんね)

 自分でもそう思うのだ、その傾向が強いフレンダがしないはずがない。

絹旗「……それで、私たちをどうするんですか?」

 一番気になるのはここだ。
 自分は、リーダーの命令を破った。
 このリーダーは裏切り者には基本的に容赦はしない。
 ヘタをすれば、殺す可能性だってあるのだ。

麦野「……そうね」

 ピッ、と麦野は人差し指を立てる。
 それを自然に、浜面へと向けた。

浜面「っ!?」

 その指先が、光り輝く。
 能力使用の前兆――――
 思った瞬間。
 浜面の頬を浅く切り裂き、放たれた光は向こう側の壁を貫通していた。

麦野「こーんなふうにしてもいいんだけどね。奇遇にも、もうすぐ欠員が出そうだし二人も補充するの面倒だから生かしておいてあげる」

 そう言い、麦野はその手を誰に向けることもなく下ろした。
 その言葉に偽りはない。
 欠員が出そうだというのも、面倒だから生かしておくというのも。
 つまりは、その欠員がでそうでなかったなら殺されていたのだ。

麦野「――あ、そうそう」

 黙る絹旗と浜面に、麦野は告げる。

麦野「次はないから。そんじゃ、解散」

 ――二度目は、ないと。




 麦野だけが去り、残りは三人になる。
 その中で動くのは、やはり彼女。

フレンダ「えっと……ごめんね、絹旗、浜面」

浜面「ごめんね、じゃないだろ!お前、仲間なら――」

絹旗「浜面」

 堰を切ったかのように溢れ出した浜面の感情を、絹旗はただ一言で抑える。
 勿論濁流がせき止められている堤防などに力強くぶつかるように、行き場のない怒りは彼女へと向かう。

浜面「でも、絹旗!こいつ、俺達を」

絹旗「浜面!」

浜面「っ」

 是が非でも、言わせない。
 浜面は絹旗の言葉のしたに隠されたものを悟り、黙る。
 誰も悪くなんてない。
 誰も酷くなんてない。
 なら、この言いようのない怒りはどこにぶつければいいのだろうか。
 答えは誰も知らない。
 恐らくは、神様でもなければ。

フレンダ「……ま、まぁ結局色々しゃべっちゃったわけなんだけど……『超電磁砲』と別れたあとのことは言ってないから」

絹旗「そう、ですか……超安心しました」

フレンダ「あったりまえよ、流石に赤の他人を殺す決定打を言うのは少し、ね……」

 フレンダにも流石に良心の呵責、というものはあるらしい。
 確かに健全に表の世界で歩んでいて別に悪いこともしてない人間を間接的とは言え殺してしまうのは引ける。

浜面「……まー、あそこが一番幸せそうだったからな」

絹旗「あれ、浜面にもわかったんですか?」

浜面「いや、あれは本人たち意外大体の人は理解していたと思うぞ」

フレンダ「そうね……あれは私でも少し引いちゃったわけよ」

 浜面の言葉にフレンダは同調し、二人同時に溜息を漏らす。
 遅れて絹旗もそれをし、こんなことがあることを知らない最後のメンバーに想いを馳せた。

絹旗「……今頃、滝壺さんは何をやってるんでしょうかね」

フレンダ「さぁ?」

浜面「ま、あの様子から見るに……よろしくやってるんじゃねーのか?」

絹旗「そうですね。ま、兎にも角にも……」

 パン、と一度手を鳴らす。

絹旗「滝壺さんのご武運を超祈りましょうか」

 また、時は僅かに遡る。
 日も赤くなりかけた頃、今日は収穫もないから解散の運びとなった。

上条「じゃーな御坂」

美琴「ええ……アンタ、その子に迷惑かけるんじゃないわよ!?」

 答えつつ、初めは俺に離れろとか言ってなかったっけ……?と上条は思う。
 言われた滝壺はきょとん、とした顔をして首をかしげた。
 二人きり

上条「それじゃ……送るぞ」

滝壺「それじゃあ、いつもと同じところまで」

上条「おう」

 そういい、どちらともなく歩き出す。
 夕方になっても人の多さは変わらない。
 学園都市は眠らない……わけではないが、完全下校時刻を過ぎても外にいる人も少なくはないのだ、この時間帯で人がいなくなっても困りものだ。

滝壺「そういえば、足大丈夫?」

上条「あ、ああ問題ありませんとのことよ、上条さんはこのぐらいなら、」

 言いかけて。
 よそ見をした上条の足に、ずがん、と駐輪場からはみ出た自転車が激突した。

上条「ぉぉぅ」

 無様な声を発して、苦悶に顔をひきつらせる。
 その様子を見て、滝壺は我慢しきれずにわびを入れた。

滝壺「……ごめんね」

上条「いっ、いやいや!この程度は問題ないから!」

 上条的に、女の子(ただし美琴は除く)に罪悪感を抱かせるのはいただけない。
 だからついつい、心配させまいとするが、

滝壺「……えい」

上条「」

 悶絶する。
 上条の治癒力なら恐らく一日で全力疾走可能、二日で完治するだろうが直後は痛い。
 そんな上条を見て滝壺は無表情のまま、考える素振りを見せた。

滝壺「……決めた」

上条「っ……な、なにをでしょうか」

滝壺「今日は、私がかみじょうを送る」

 一瞬、上条は凍った。

上条「……いやいやいやいやいや!今日は他によるところもあるのでというか女の子に送ってもらうって言うのは男としてどうかと!?」

滝壺「大丈夫、私は大能力者だから。……寄るところ?」

上条「……もう冷蔵庫の中身がなくなっていまして……丁度タイムセールがあるんですよ」

 たいむせーる、と滝壺は口の中で繰り返す。
 タイムセールは上条のような無能力者の苦学生にとって必要不可欠とも言える。
 それを理解して、滝壺はうん、と頷いた。

滝壺「それじゃあ、それにも付き合う」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」

 タイムセールは学生たちが多いために多くの場合戦場と化す。大人の教師も交じることもある。
 そんな場所に慣れていない、しかもひ弱そうに見える女の子をつれていくわけにはいかないのである。

滝壺「大丈夫」

 滝壺は自分の胸を一度ぽん、と叩く。
 そして、誇らしそうに言った。

滝壺「私は、大能力者だから」

 その可愛らしい行動に上条は思わず見とれ。
 次の瞬間に我に返ってツッコミを入れる。

上条「っていうか滝壺の能力、物的力ないよな!?それからその『大丈夫、私は大能力者だから』ってフレーズ気に入ったのか!?」

滝壺「………………」

上条「お願いですからその俺の足を蹴ろうとする足を下ろしてくれませんでしょうか?」

 心から懇願され、滝壺はやはり表情を動かさずに足を地面に突いた。
 だが滝壺はじっ、と上条の顔を覗き込む。
 うっ、と上条はたじろぎ、しかし滝壺は尚もそれを続け、沈黙が訪れた。
 結局、根負けするのは上条。

上条「……わかったよ、お願いする。だから――――っ」

 瞬間。
 上条の視界に、微笑みが映った。

 それは、単に口の端を釣り上げたとか、そういうものではなくて。
 確かに、『笑った』といえるもので。
 さっきの行動より、もっと、もっと綺麗で、淡く、可憐なもので。

 上条は、思わずどきっとしてしまったのだった。


 次には、もう既に元の顔に戻っていた。

滝壺「それじゃあ、行こう?」

 そう言って、滝壺理后は何気なく右手を差し出す。
 行こう、というのはそのタイムセールのあるスーパーへ、だろう。
 何ら特別な意味はないはずだ。

上条「…………」

 いつもなら、上条はこれを華麗にスルーしたりなんだかんだ言い訳をつけて取らないだろう。
 しかし。
 さっきの表情が頭から抜け落ちない。

 今まで感じたことのない感情。
 柄にもなく、心臓が脈を打ち、外にも聞こえているんじゃないか、と錯覚する。
 その上、差し出された手。

上条(……俺、もしかしたら)

 脳裏に、ただ一文字の漢字が過る。
 もしかしたら、それは違うものかもしれない。
 もしかしたら、それは錯覚なのかもしれない。

 それでも。
 滝壺が『幻想殺し』の正体に興味をいだいたように。
 上条がこの想いの正体に興味をいだいてもおかしくない。

 だからこそ、上条当麻は。
 彼の、その右手で。
 彼女の、右手を。

上条「よし、行くか」

 掴んだ。

 幻想なんかじゃない、紛れもない本物。
 それはとても暖かな、現実だった。




上条「なんかもう色々と申し訳ないんですが……何分お金まで出してもらったりして……」

滝壺「気にしないで。いつも付き合ってもらってるお礼だから」

 買い物帰り。
 荷物を二分して、彼らは上条の寮へと向かっていた。
 中身はどっしりと。それも滝壺がお金を払ってくれたお陰なのだが。

上条「でもなぁ、なんていうか……釣り合わないような気がするんだよな」

滝壺「そんなことないよ、かみじょう。かみじょうが付き合ってくれてるだけで十分なことなんだから」

上条「だから、上条さん的には付き合ってる『だけ』なんだよ。今日もやったことといえば、御坂の相手ぐらいだろ?」

 そうだ。
 滝壺には上条がいるだけで成果が出るのかもしれないが、上条はただそこにいるだけなのだ。
 何かやっている実感があるわけではない。
 それなのにこうしてお礼をもらう。どうしてか釈然としない。

上条「うーん」

 更に返せるもの、或いは返せること。
 ペンダント、だとか。
 いやいや、それは何か違う。
 自分が貸して、返してもらった分が多いから更に返すのではないのだ。お釣りのお釣りを出すわけではない。
 自分に返してくれる分を減らしてくれればまぁ、問題はない気がする。

上条「……あ、そうだ」

滝壺「?」

 上条は思いつく。
 とても至極単純なことだ。
 食材を買ってもらったのなら、その食材を引き受けるのではなく減らす手伝いをしてくれればいい。

上条「ついでに、家で夕飯食べていかないか?」

 滝壺は呆気にとられる。が、すぐに頭を働かせる。
 この後にアイテムの集まりはないだろうし、恐らく問題ないだろう。
 そう判断する前に、反射的に彼女は頷いていた。

滝壺「うん」

上条「おう、じゃあさっさと俺の家いくか」

 そんなわけで、二人そろって上条家へと向かうのだった。




禁書「……で、その子は誰なのかな、とうま?」

 ぎにゃー!と上条は頭を抱えた。
 そうだ、この居候シスターさんの存在を全くもって忘れていた。
 なぜかはよくわからないが女の子関係にすごく敏感であり、そしてその結果噛み付いてくる存在。
 そして今が滝壺を連れて帰った結果。それは言うまでもないだろう。

滝壺「…………?」

 滝壺はどうやらまだ理解が追いついていない様子だった。
 それはそうだ。
 ここは学校に通っている生徒の『男子』寮。そんな中に女の子がいるだなんて普通は思わない。
 それも、科学の街学園都市において真逆の場所に位置する教会のシスターさんときた。
 まぁ隣人もよく義妹を部屋に入れて寝泊まりさせたりもしているが、この二部屋は一般から漏れた例外的なものだ。

上条「あー、えーっと、その、ご飯代を奢ってもらったわけで、それでその……あー!とりあえず飯だ飯!インデックス!とっととテーブルの上片付けろ!」

禁書「え、あうん。……とうま?何か誤魔化そうとして」

上条「さぁ飯だ飯だ。滝壺はベッドにでも座ってくつろいでてくれ」

滝壺「う、うん」

 禁書の言葉を封じ、滝壺を案内する。
 そして落ち着いたのを確認して台所へ向かう途中。

 ガブッ、と。

 いつもの通りに、上条の頭に擬音がした。
 一歩遅れて、夜暗い中なら数十メートルは響くだろう悲鳴が木霊する。

禁書「全くもう、とうまったらまた女の子に手を出して……」

 奥からずんずんとインデックスが怒った風に現れる。

滝壺(……この子も、拡散力場がない?)

 滝壺はインデックスの頭の先から爪先まで見下ろす。
 金の刺繍が入った帽子や修道服。しかしそれらは銀色の針が貫いている。
 まさに、針のむしろ。
 ……まぁそれはさておきとして、彼女にとっては拡散力場がないことが重要だった。
 上条の例もあることだし、一応聞いてみる。

滝壺「あなたも、『幻想殺し』なの?」

禁書「え?ううん、違うかも。そもそも私はこの街の超能力者じゃないからね」

 超能力者じゃない、と滝壺は確認するように繰り返す。
 なるほど、それならなんとなくと納得する。シスター服の制服なんてこの都市にはないから。
 その彼女は三毛猫を抱いて、自分の横に座って話しかけてきた。

禁書「……えっとね、私はインデックス。和名では禁書目録っていうんだよ」

滝壺「インデックス?」

禁書「うんっ」

 その言葉を呼ぶと、彼女は元気に頷く。
 どうやら聞き間違いではなく、本当にインデックス――禁書目録――目次、というらしい。

禁書「あなたは?」

滝壺「たきつぼ。たきつぼりこう」

禁書「それじゃ、りこうって呼ぶね」

 いきなり名前で呼ぶことに滝壺は面食らう。
 しかしこの純粋さを感じる少女なら或いは、と思った。

禁書「……ねぇ、りこう。とうまに何か変なこととかされてない?」

 開口一番の質問がこれだった。
 何か、というのは色々あるだろう。
 例えば、上条の不幸に巻き込まれてセクハラされただとか。
 例えば、何かの偶然で裸を見られただとか。
 だが滝壺にはそんなことをされた試しがないため、全く別のこと――助けてくれたこととかが思い浮かぶ。

滝壺「……変なことはされてない、かな」

 助けてくれたことは変なことには当てはまらない。
 だから彼女はそういった。

禁書「それなら……じゃあ、どうしてとうまの右手のことを知ってるの?」

 この質問になら容易に答えることができる。
 先ずは馴れ初め。
 ナンパされていたところを助けてくれたこと。
 自分が能力を感じ取ることができる能力をもっていること。
 それによって上条当麻の能力を感知できなくて、興味を持ったこと。
 誘拐されかけた子供を助けたこと、などなど。
 つまりは上条と滝壺が会ってからの出来事。
 ところどころでインデックスの歯がきらんと輝いた気がしたが、遂に彼女は言及することはなかった。
 話し終わり、滝壺が一息付いているところでインデックスは呟く。

禁書「そっか。とうまにしては、まだ普通な方なんだね」

滝壺「普通?」

禁書「ううん、なんでもないかも」

 聞こえた単語を聞き返すと、インデックスは首を左右に振ってなんでもないと、つまり言わない意を示す。
 少しばかり気になったが、滝壺はそのことについて問い詰めはしなかった。

滝壺「私からも、一ついい?」

 インデックスの質問が途切れたところで、攻守交替。
 別にインデックスにも断る理由はないため、簡単に頷く。

禁書「うん、いいよ。なんでも聞いて欲しいかも」

滝壺「それじゃあ……どうしてかみじょうの家にいるの?」

 ?とインデックスの頭の上にクエスチョンマークが踊った。

禁書「私が此処に住んでるからだよ?」

滝壺「ううん、そうじゃなくて。どうしてかみじょうの家に住んでいるのか、その理由を知りたいの」

 それは誰でも聞きたいことだ。
 見た限り、血がつながっているというわけでもない。そして学園都市の人間ですらない。
 そんな人がどうしてこんなところにいるのか。
 シスターなら普通は協会にいるものじゃないのか。
 滝壺もそう思ったわけだ。
 インデックスは瞬刻、考える。これを言ってもいいものかどうか。
 ……自分も聞いたのだ。それならば答えなければならない。そう考えた彼女は上条がまだこちらに来ないことを確認して、ぽつりぽつりと語り始める。

禁書「……とうまはね、私を助けてくれたんだ」

 それは、大切なもの。
 心の奥底に仕舞い込んだ大事な思い出。

禁書「命をかけて。死ぬことも恐れないで。私を地獄の底から救いだしてくれたんだよ」

 彼女は、知った。
 インデックスがどんな状況にいたのか、ということを。
 いや、詳細までわかるわけではない。しかし、『地獄』とまで例えられたその状況を察したまでだ。
 そして。
 それから救いだした、上条当麻という人物のことを。

滝壺「そっか。ありがとう」

禁書「ううん、お礼を言われるようなことはしてないかも」

上条「ご飯できたぞー」

 落ち着いたところで、上条がタイミングよくご飯を運んできた。
 二人の間に漂う、優しく落ち着いた雰囲気を不思議に思ったのか、上条は訊ねる。

上条「……何のはなししてたんだ?」

 それに対して、二人そろって答えた。
 曰く、

滝壺「ひみつ」禁書「ひみつかも!」

 上条家の夜は、更けていく。




 彼は思いめぐらせる。
 上条当麻。滝壺理后。
 二者の関係と、そして齎すだろう結果について。

土御門「……難しいな」

 アレイスターの考えていることに近づこうとするが、届かない。
 そもそも『幻想殺し』の正体とはなんだ。
 アレは原石だ。生まれ持っての才能だ。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

土御門「その原石に対して……能力を感知する『能力追跡』を当てる」

 そうするとどうなる?
 原石のAIM拡散力場から、どういう風に上条の『自分だけの現実』が組まれているかわかるだけではないのか?
 そう考えるのも無理はない。
 なにせ彼は知らないのだから。『幻想殺し』にAIM拡散力場が存在しないことを。

土御門「……とにかく、第二段階までは終了だな」

 ピッ、と携帯を操作して幾つかのデータを纏めて削除する。
 そして次のデータ――今まで開いていなかったファイル――を開き、サングラスの奥の目で見やる。

土御門「なるほど……確かに、こうなるだろうな」

 それはアレイスターから送られてくる予言のようなもの。
 そして同時に指令でもあるもの。
 こうなるから、こうしろ。そういうものだ。
 土御門はそれをどうすればうまく行くか考えつつ、背伸びする。
 ゴキゴキ、と不健康な音が鳴った。

土御門「……さてと。今日も今日とて、頑張りますかにゃー」

 どこまで重要人物に察されずに行動できるか。
 多角スパイの腕の見せ所だった。
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