【第十七話・再誕! 真実の炎!!】

 ラビットというロボットと出会った。

 彼は丸っこくて、白いボディに、所々ピンクのパーツが使われた可愛らしいロボットだった。
 それなのに、その外見に似合わない哲学的な話をする不思議な“友達”だった。


 メタルブラックというロボットと出会った。

 彼は自らを侍と名乗る、黒い鎧で、巨大な得物を操る戦闘ロボットだった。
 ブラッククロス四天王の一人として立ちはだかる、最強の“敵”だった。


 再び、メタルブラックと出会った。

 彼は厳ついボディに生まれ変わり、侍ではなく破壊兵器だった。
 窮地の親友と自分を助けてくれた“恩人”だった。


 その彼が、今また、目の前に立っている。

 今の彼を表す言葉は何だろう?

 とても、一言では言い表せないように思う……


佐天「アルカイザー……そう名乗ったよね?」

 「ああ。だが、正確には少し違う。私はあくまでも私だからな……」

佐天「なら、何て呼べば良い?」



 名を問われ、黒い機械戦士が、自分自身を確かめるように名乗る。



 「鋼(メタル)……メタルアルカイザーだ」



 【第十七話・再誕! 真実の炎!!】




 体の調子を確かめるように、佐天はゆっくりと立ち上がった。

 単純な骨折は直りかけているようだが、まだそこら中がズキズキと痛む。
 複雑骨折したらしい左腕を押さえると、電流を流されたように全身が跳ねる。
 激痛を、歯を食いしばって耐えた。

 まだ変身はしない。

 その前にもう一度だけ、この佐天涙子の姿で聞かなければならないことがある。


佐天「メタル……アルカイザー? どうして私の回復を待つの?」

メタルA「傷ついたお前を倒しても、最強の証明にはならんからだ」

佐天「貴方は以前言ったわ。数の差も力だって……なら、不意を打って倒す事だって、力じゃないの?」

メタルA「……奴の非道を目の当たりにして、考えが変わった」

佐天「……」

メタルA「真に最強の戦士とは、正面から堂々と戦うものだ。相手がどんな手を使おうとな……」

佐天「そう思っているなら……どうして、どうしてブラッククロスなんかに居るの!?」


 それが信じられなかった。

 彼はあのとき、確かに自分達を助けてくれたはずなのに。
 ブラッククロスという組織がどんなものなのか、弱者が踏みにじられることが、どんなことなのか知ったはずなのに。


佐天「どうしても……私たち戦わなきゃいけないの……?」

メタルA「……愚問」



メタルA「私は“メカ”だ。そして、主の名はDrクライン」



メタルA「ならばそれが、私の戦う意味の全てだ」


 彼の意思は固い。


 意思?

 そうか……彼はやっと手に入れたんだ……


 なら、戦おう。

 それしか道は無い。



 ……それでも。私は友達を救いたいと思う。


 だから、そのためにこの力を使おう。


 この力はただ一つ。“守る”ためにあるのだから。



 願いを込めて、希望を込めて。

 何度もこの名を叫んできた。


 そして今、もう一度、全ての想いを込めて叫ぼう。






佐天「変身!!! アルカイザァアアアアアアア!!!!!!」






 舞い上がる塵の一つ一つの動きが見える。


 魂が破裂しそうなほど鼓動する。


 細胞を、生命力が塗り替えていく。


 打ち出す拳が灼熱に燃える。


 駆け抜ける足は光速を超える。


 蔓延る闇を額で切り裂き、蒼いマントが烈風に舞う。


 輝く光が希望を示し、守るべき信念を照らし出す。


 その眼光は曇りなく、進むべき道を見据えている。




 願う通り、その体は紅く染まった――――!!!!!!





 これが、佐天涙子の最後の変身だった。





メタルA「直接手合わせするのは久しぶりだな」

アルカイザー「強くなったよ。私は」

メタルA「私は? 私“も”だろう?」


 ……冗談まで言えるようになったのね。


 肩を回し、傷の治り具合を確認する。

 大丈夫だ。
 複雑骨折していた左腕も、自由自在に動かせる。


 ……いつも思っていたことだが。
 この傷の治り方は異常じゃないだろうか?

 常識を超えた力なのだろうことは分かる。
 でも、こんなことをして何のリスクも無いとも思えない。


 『ファイナルクルセイド』という技がある。

 あれは、自らの生命力を周囲に分け与えることで傷を癒す。


 なら、この力の源はやはり――――


アルカイザー「……私は“長生き”できるかな?」

メタルA「生き延びたければ、構えろ」


 二人は距離を空け、円形の舞台の上で向かい合った。

 アルカイザーが、拳を握り締めて腰を落とす。
 すると、メタルアルカイザーも同じように構える。


 まるで、合わせ鏡。
 もう一人の自分との決闘だ。


 二人は動き出すのも同時だった。

 空洞に、二人の雄たけびが響き渡る。


 「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」


 互いに右腕を振りかぶり、エネルギーを送り込む。
 拳が光り輝き、眼前に迫った敵に打ち出された。


アルカイザー『ブライトナックル!!!』

メタルA『タイガーランページ!!!』


 速い――!

 機械戦士は以前、ヒーローさえも苦しめる圧倒的な戦闘能力を見せた。
 パンチのスピード一つとっても、二人の差は歴然としていたものだ。


 だが――


メタルA「……ッ!? 互角か!!?」


 アルカイザーのパンチは、メタルアルカイザーのそれに匹敵する速度と精密性を持っていた。
 メタルアイルカイザーとなった彼の性能は、メタルブラックだったときよりも向上されているというのに……!

メタルA「チィ!!」

 キリが無い。
 メタルアルカイザーは、そう判断し体を捻る。

 姿勢を低くし、全身を回転させての後ろ回し蹴り。
 竜巻を起こすほどの勢いで放たれた蹴りが、アルカイザーのわき腹をえぐる。


アルカイザー「……ゲホッ!?」


 内臓にめり込む鋼鉄のカカト。
 一瞬呼吸が止まり、口の中に鉄サビの味が広がる。


メタルA「もう一度だ!!」


 メタルアルカイザーは、その勢いで押し切ろうと一歩踏み出す。

 しかし、今度の攻撃には反応された。
 振り上げた足を、がっちりと腋の下で固定される。


アルカイザー「接近戦は……打撃だけじゃない!!」


 彼女は、そのまま彼の足を抱え振り回し、壁に向かって放り投げた。

 激突しそうになる直前、くるりと体勢を立て直した彼は壁に“着地”する。


アルカイザー「まだまだぁ!!」


 追撃しようと、アルカイザーが右拳を振りかぶって飛び出した。


メタルA「それで間に合うと思うかぁ!!!」


 メタルアルカイザーの背中から、蝙蝠のような翼が飛び出した。
 同時に腕が開き、中から鋼の剣が現れる。



メタルA『ムーンスクレイパー!!!!!』



 急激に加速し、弧を描きながら宙を駆ける異形の黒い戦士。

 空中に飛び出したアルカイザーの左側面に回りこみ、剣を両手で構えた。


メタルA「首……貰った!!!」


 かつて、少女らの腹を切り裂いた凶刃が、再び奮われる。


メタルA「――――!!?」


 ありえない。

 読んでいたというのか。


 アルカイザーの視線がこちらを向いて、しかも――


アルカイザー『カイザーウイング……!!』


 その手に、蒼い光の剣が煌めいていた――!
 振るわれた剣が空を裂き、紅い烈風を巻き起こす――!!



メタルA「……ならば、こちらがそれを凌駕すればいい……っ!」



 メタルアルカイザーの体が、空中で急停止した。

 以前の無茶なロケットブースターによる加速では不可能だった。
 安定した『翼型』への改造を経て、彼の機動性能は格段にアップしている。

 紅い風を飛び越え、さらに上昇していく。



メタルA『ムーンスクレイパァァアアアア!!!』



 飛行中の急速な方向転換。
 アルカイザーの頭上を飛び越え、逆方向から旋回して戻ってきた。

 彼女は反応できていない。

 立体的な動きで、今度こそ、空中に三日月の軌跡が現れる。


アルカイザー「――――っ」


 切り裂かれた“紅い鎧”は地に崩れ落ち、血の“紅い花”を舞い散らす……


メタルA「……これでも仕留め切れんか……!!」


 確かな手ごたえだった。

 確実に相手の裏をかき、手心など加えずに急所を狙った。

 だが、生きている。


 生きて、立ち上がり……なお攻撃の手を休めない!!


アルカイザー『アル・ブラスタァアア!!!』

メタルA『喰らうか!! サンダァァァボォォル!!!』


 光の弾丸を、雷の球で迎撃した。

 その際に起こった閃光に紛れ、彼女は自らも弾丸となって飛び込んでくる。


アルカイザー『シャイニングキックッ!!!』

メタルA「ぬおっ!!?」


 上体を反らせて回避する。
 持ち上げたアゴをギリギリ掠めていった。

 鋼の剣で、振り返りざまに斬りかかる。

 蒼い剣も同じく、空中から無茶な体勢のまま振り下ろされていた。


 切り結び、距離を空けるため後ろに飛び退いた。

 向こうも、剣を弾いた反動を利用して飛び上がり、一回転して着地した。


メタルA「……強くなった……確かに……強くなった……!!」


 何故この短期間にこれ程の成長を?


 メタルアルカイザーは知らない。
 彼女とアルカールの一戦を。

 あれは、アルカールによる特別授業だった。

 佐天の覚悟を確かめ、足りない経験を自分と戦わせることで補う。


 もちろん。
 それだけで強くなどなれない。


 御坂美琴。

 白井黒子。

 初春飾利。


 今のアルカイザーは、彼女たちの信頼で成り立っている。


 佐天涙子には、ずっと足りないものがあった。

 それが「自信」。

 無能力者のレッテルが、それを彼女から奪い去った。


 だが、今は違う。

 数々の戦いを乗り越え、自分に何が出来るのかを知った。
 自分が、何をしなければならないのかを知った。

 その精神の変化が、彼女のヒーローとしての資質を高め、“覚悟”を決めさせたのだ。


 ゆえに、今のアルカイザーには“制限”がない。

 彼女自身、無意識のうちに掛けていた“制限”が――外れた。


メタルA「今確信した……貴様を乗り越えたときこそ、私は『最強』を名乗る……!」

アルカイザー「……最強……万能の力……!」

メタルA「そうだ! それだけが我が望み!! そのためならば――」


メタルA「涙子!!! 貴様さえも供物としよう!!!!!!」


 メタルブラックの両腕の装甲が開き、漆黒の煌きが舞い踊った。

 燃え盛る『黒炎』。
 こんな禍々しいものなど、聞いたこともない。


アルカイザー「黒い炎……!?」


 どういう原理なのか。
 それはアルカイザーの紅い鎧さえ燃やす。


アルカイザー「なら……こっちも!!」


 右手を床に付き、そのまま走り出す。

 その摩擦で火花が散り、それが火種になって燃え上がった。
 焦げ跡を地面に残して、拳が紅い炎を纏う。



アルカイザー『アル・フェニックス!!!』



 鋼鉄を燃やし尽くす轟熱。

 この技を放つということは、すなわち敵対するものの消滅を意味する。

 黒炎を纏ったメタルアルカイザーは、腰を深く落とし構えた。

 紅い渦が、周囲の物を無差別に溶かし、突き進んでくる。

 不死身と呼ばれた男さえも一撃で葬った灼熱。
 真正面から受け止めるなど愚の骨頂だ。


 だが――

 黒い戦士は退く事を知らない。


メタルA「この程度乗り越えずして、何が『最強』……!!!」


 迫り来る不死鳥に対し、自ら突貫した。
 無論、自分ならば“勝てる”と踏んだのだ。

 勢いを増した黒い炎が、彼を守るように渦巻き、突き出した右拳から放たれた――



メタルA『ダークフェニックス……!!!』



 ギラギラと殺意を放つ黒炎が、真っ直ぐに突き進んで征く。
 「不死鳥」というよりも「凶鳥」。
 眼前の全てを、その業火で焼き尽くさんと牙を剥く……!


 紅い炎と黒い炎。
 二つの炎が激突し混ざり合う。

 勢いは互角。

 だが――


アルカイザー「失敗したね……!」

メタルA「……!?」


 アルカイザーの技は、まだ完了していない……!


 メタルアルカイザーは、黒炎を紅い炎にぶつけようと技を“放った”。

 だが、アルカイザーは違う。

 彼女は、まだ炎を纏ったままだ。
 いまだ、ぶつかり合う炎の中心に自らを置いている。


アルカイザー「逃げたね……! メタルアルカイザー!!!」

メタルA「逃げただと……? 私が……!?」

アルカイザー「確実に私を倒そうとするなら、炎は放つべきじゃなかった……」


アルカイザー「距離を保って、安全な場所で見物してたんじゃぁ届かないよ!!!」


 彼女の気合に呼応して、紅い炎が勢いを増していく。
 紅い炎はやがて、黒炎を包み込み巨大な塊になった。


アルカイザー「アンタの技も、そっくりそのまま返してやる!!!」


 床を踏みしめ、再び炎の渦を纏おうと前進する。


 しかし――機械戦士は、冷静に状況を分析していた。



メタルA「……ならば、そのセリフをそっくり返そう……」



メタルA「失敗したのは貴様だ。アルカイザー!!」



アルカイザー「――――っ!?」



 炎が、一瞬にして全て――


 黒く染まった……!!


 炎の奥から、こちらに飛び出してくる影が見える。

 翼を広げ、凄まじいスピードに加速して――



メタルA『ダークフェニックス!!!!!!』



 今度こそ、黒炎を纏った鋼の拳が、アルカイザーの心臓に叩き込まれた――!!!


アルカイザー「があぁああああああっ!!???」


 体が燃える。

 こんなこと、これまでには無かった。

 いつだって、彼らは味方だったはずだ。

 友達に、なったのだから。

 それなのに……


 黒く反転した彼らは、紅い鎧を焼き尽くそうと猛り狂う。


アルカイザー「どう……して……!?」


 どうして……裏切ったの……?


 …………


 ……



 やがて炎は掻き消え、舞台の上に静寂が訪れた。


 そこに見えるのは、静かに佇む黒い機械戦士。


 そして、燃え尽きることなく、炎の猛攻を耐え切ったアルカイザーの疲弊しきった姿だった。

 蒼いマントは塵になって飛散した。
 床に付いた手のひらは、鎧が熔け、酷い火傷を負い、指一本動かせない。
 全身の至る所に、焼け焦げや熔解の跡が残っている。

 だが、死んではいない。

 ヒザをつき、俯いて、立ち上がれずにいるだけだ。


メタルA「……なるほど。やはり、貴様の言うことも正しかったようだ」


 メタルアルカイザーが歩くたび、金属が床を叩く音が空洞に木霊する。
 ゆっくりと、もはや目線すら合わせない宿敵に近づく。


メタルA「トドメを刺しそこなった……まだ迷いがあったらしい……」

アルカイザー「……っは……はははは!」


 金属音が止まり、その代わりに乾いた笑い声が響いた。


メタルA「何が可笑しい……気でも触れたか?」

アルカイザー「ははは……いや……」

メタルA「貴様は我が最大の好敵手だ。最後まで誇り高くあってくれ」

アルカイザー「ふ……ふふっ! 誇り……あはははは!!!」

メタルA「……何だと言うんだ」



アルカイザー「……“迷い”に“誇り”……本当に人間臭いことをいうんだね」



アルカイザー「どうしてだって聞いたらさ……炎が教えてくれたよ」

メタルA「……」

アルカイザー「あの黒い炎……火の中に“何か”混ぜてあって、それで操ってるのね?」

メタルA「……ご名答だ。あれは、『ナノマシン』によって作られた炎だ」


 超ミクロサイズのナノマシン。
 黒い炎は、それを通常の炎に混ぜることによって生み出されていた。

 本体であるメタルアルカイザーからの指示を受け、ナノマシンが炎を自在に操るという仕組み。
 それは細菌のように数を増やしていき、炎から炎へと移り広がっていく。

 だから、たとえ拳から離れていても、そんなことは関係ない。

 本体からの情報伝達さえ果たされれば、アル・フェニックスにさえ乗り移り、黒く染め上げてしまうのだ。


メタルA「これが、貴様の技を元にDrが作り出した、私の『ダークフェニックス』だ」

アルカイザー「そっか……ふふっ」

メタルA「……いい加減にその笑いを止めろ。不愉快だ」

アルカイザー「あははははは!! 不愉快だって! あはははははは……!!!」


 ダンッ!
 ……と、メタルアルカイザーが床を踏み締めた。


メタルA「安い挑発は止めろと言っている!!」


 その態度が気に食わなかった。
 まるで、この戦いを侮辱しているようだ。

 それはつまり、『メタルアルカイザー』という存在の否定に他ならない。
 彼は、このためだけに作られたのだから。


アルカイザー「……怒れるんじゃん」

メタルA「……なんだと?」

アルカイザー「そうやってさ。怒って、悲しんで、喜んで……」


 アルカイザーが、顔を上げた。

 仮面越しだが、その瞳はしっかりと彼を見つめている。


アルカイザー「手に入れたんでしょう……『ココロ』をさ?」

メタルアルカイザー「――――!?」


 ラビットと名乗っていたころ、彼にはココロが無かった。
 メタルブラックだったころも、彼にはそれが理解できなかった。

 彼はロボット。メカなのだから、それはしょうがないことだ。


 しかし、シュウザー基地での戦いの際、彼の電子頭脳は奇跡を起こした。


 主を裏切り、自身を傷つけ、敵を救い出すという「理屈に合わない行為」。

 およそメカらしくないその行動は、決して「故障」などではない。


アルカイザー「なら……考えたんでしょう? この戦いの意味を――」


アルカイザー「何のために、『万能の力』なんてものが必要なのかを!!」

メタルA「……っ!!」


 彼女のしていることは、不可解だ。

 メカに対して、こんな説得は意味が無い。
 彼らはただ、冷酷に冷静に、真実だけを述べ、使命だけを果たすものなのだから。


 だが、こと『メタルアルカイザー』に限ってはその範疇ではない。


 彼の行動原理は、メカとしての使命ではなく、『固い意思』によってのモノなのだから……


アルカイザー「教えてよ……世界征服なんて馬鹿な真似を、どうして……?」

メタルA「……君が居た時代とは、事情が違うんだ」


 黒い戦士が拳を下ろした。

 態度と口調が柔らかくなる。
 それはまるで、旧知の友と語り合っているかのようだ。


メタルA「このリージョン界は今、『トリニティ』という組織が牛耳っている」

アルカイザー「トリニティ……?」

メタルA「奴らは軍事力を盾に全てのリージョンを支配下に置いた。実際に、ワカツというリージョンが滅ぼされている」

アルカイザー「そんな……それじゃあまるで!?」


 まるっきり、『悪の組織』の『世界征服』じゃないか――!!


メタルA「だからこそ……奴らから世界を取り戻さなければならない……」

アルカイザー「じゃあ……そのために、ブラッククロスは世界征服を?」

メタルA「私は……」


 メタルアルカイザーは、少し困ったように首を振り、間を置いてから――

メタルA「そう、聞かされている」

 真実だけを述べた。


アルカイザー「……待って。聞かされている……って……」

メタルA「それ以上言うな。分かっている」


アルカイザー「嘘だよ……そんなの……!!」


 世界を悪い奴らから開放するために、自分達が世界を征服しなおす?

 それだけで、もうふざけてる!


 しかも、そのために人の命を散々弄ぶようなことを繰り返して……?


 ありえない。

 そんな『正義』はありえない――!!!


アルカイザー「メタルアルカイザー! そんなのは嘘よ!!」

メタルA「分かっていると言った!!! だが……」


 メタルアルカイザーは、必死に理由を探している。

 らしくない。
 いつもの彼なら、すっぱりと一言、事実だけを述べている。

 それが、彼がココロを持っている証。

 ココロがあるゆえの苦しみ。


アルカイザー「なら、言い訳なんてしないでよ! 気付いてるなら!!」

メタルA「これは『ブラッククロス』の話だ! 私の主はDrで、組織は利用していただけだ!!」

アルカイザー「それも詭弁!! 人を利用して、犠牲にして得る力に意味なんて無い!!!」

メタルA「五月蝿い!! だが……なら――――」




メタルA「私が信じずに……誰が“父”の味方になれるというんだ!!!??」




アルカイザー「――――“父”……」




 メタルアルカイザーの両腕から、再び黒炎が噴出し燃え盛った。


メタルA「父は……その才能ゆえに世界から追い出されたのだ……!」

メタルA「誰一人、彼の言葉に耳を貸さなかった!!」

メタルA「あげく……道を外れた彼を、奴らはこう罵った!!!」


 『マッドサイエンティスト』


メタルA「人より優れ! 人とは違う感覚を持った彼を! 誰も救おうとはしなかった!!!」


 黒い炎は、際限なくその勢いを増していく。

 まるで、彼の小さな電子頭脳に溜め込まれ続けた感情が、その姿を現したかのように……


メタルA「確かに……彼は『狂人』なのだろう……『悪人』なのだろう……!」

メタルA「だが、それはこの世界が今、“こうなっている”からだ!!!」

メタルA「反転した世界なら……我々が征服した世界なら!!!」



メタルA「こんな世界など……一度滅びてしまえば良い!!!!!!」



 漆黒の炎に包まれ、メタルアルカイザーは灼熱の化身と化した。

 放っておけば、彼は『最強』の力で、このまま世界を焼き尽くすだろう。

 怒りに任せ。
 感情に任せ。

 願い求め、やっと手に入れたその『ココロ』を、“悲しみ”のみに染め上げて……


 ……なんて悲しい声だろう。


 子ども。

 生まれたての子どもは、泣いて感情を表す。


 きっと、彼は感情の表し方がまだ分からないんだ。

 胸を苛む苦しみに、どう向き合えばいいのか。


アルカイザー「……大丈夫」


 ズキズキと痛む体に鞭を打ち、上体を持ち上げる。


アルカイザー「人は、段階を踏むんだよ」


 ヒザに力をいれ、立ち上がった。


アルカイザー「一気には解消できないんだよ。ココロって不完全なものだから」


 彼女が私にそうしたように、私は彼の想いを――――


アルカイザー「力があれば、何だって出来るわけじゃない……」



アルカイザー「強いって、大変なんだよ。抱えるものが増えるんだから……」



 受けて立とう……!


 アルカイザーに黒炎の渦が迫る。

 もう一度同じことを繰り返せば、今度は立ち上がることはないだろう。
 焼き尽くされ、灰になって、混沌の中に飲み込まれる。


メタルA「オォォオオオォォオォオオオオォォオオオオオオオオオォオオオ!!!!!!」


 すっ……と、むきだしになった手のひらで、黒炎に触れた。

 そこから――


アルカイザー「行きます……御坂さん!!!」


 黒い炎が反転し、紅へと帰っていく――――!!!


メタルA「な、何故だ……!? ナノマシンが、駆逐されて……!!!?」

アルカイザー「炎の温度に上限はない……」

メタルA「!!?」

アルカイザー「そのナノマシンっていうのは、一体何度まで耐えられるのかなぁ!!!」


 炎の渦が、瞬く間に本来の色を取り戻していく。

 例えばウイルス。
 人間の体に入ったウイルスは、体温の上昇で滅菌される。

 炎が、自分の中に混入した異物に対して反旗を翻した。


メタルA「何故だ……何故だ!? ナノマシンに操られて、何故そんなマネが出来る!!?」

アルカイザー「何故かって? そんなこと……決まってる!!」


アルカイザー「アル・フェニックスの炎は、操られているんじゃない……自分の意思で、力を貸してくれてるんだ!!!」


 全ては、友のために――!!


アルカイザー「人には人の……炎には炎の意思がある……!!」

メタルA「炎の……意思……?」

アルカイザー「そして、メカにはメカの……意思があるんでしょぉがぁああ!!!」


 そして、炎は全て紅に帰り、アルカイザーの全身を包み込んだ。


アルカイザー「機械のプログラムで無理やり言うことを聞かせるなんて……そんなのが『最強』のはずがない……」

アルカイザー「メタルアルカイザー……あの黒い炎は、まるで貴方そのものだよ……」


 アルカイザーの鎧が、炎のエネルギーを吸って修復を始めた。
 火傷した手のひらが癒え、また、拳を握ることが出来た。

 炎がその形を変えていく。

 そう、この紅い炎もまた、佐天涙子という人物を写している。

 一度焼き尽くされただけで、もう力を失うようなナノマシンとは違う。


 倒れても、傷ついても、友のために何度でも立ち上がる、あの親友達から授かった、高潔な心を……!


アルカイザー「大切な人が間違ったことをしているのなら……それに気付いたなら!」

アルカイザー「例え敵対してでも、止めて見せるのが真実(ほんとう)なんだ!!」



アルカイザー「だから……私は貴方に立ち向かう!!!」



 炎が翼となって羽ばたいた。

 アルカイザーの体が宙に舞い上がる。

 この炎は、真実の強さを持つヒーロー・アルカイザーの化身。

 かくして不死鳥は顕現し、全ての悪を焼き尽くす――――!!





 『真アル・フェニックス』――――!!!!!!!





アルカイザー「メタルアルカイザー……貴方は強かったよ。でも、間違った強さだった……」



 落ちこぼれのヒーローは、真実を見つけた。




 【次回予告】

 悪は滅びたのか……?

 世界に平和が訪れたのか……?

 否! まだだ!!

 全てはまだ終わってはいなかった!!

 ここからが……始まりなのだ!!


 次回! 第十八話!! 【驚愕! 全てを支配する者!!】!!

 ご期待下さい!!


 【補足】

 ・メタルアルカイザーについて。
  「石には石の心があると。ならば、メカにもメカの心があって然るべきだ」
  という原作での彼のセリフが、一連の展開の元になりました。
  Drクラインへの想いやココロの葛藤などはこのSSでの創作です。
  推測ですが、原作の彼は結局、プログラムされた武士道精神のみで、心は手に入れては居なかったように思います。
  ちなみにダークフェニックスの設定も創作です。
  佐天さんのアル・フェニックスが「協力」の力なのに対して、「強制」の力にしてみました。

 ・トリニティについて。
  リージョン界を統べる軍事組織。
  反トリニティの革命軍なども存在する、ブラッククロスなんかより更に大きな存在。
  ワカツは、トリニティの執政官が無実の罪を着せて滅ぼしたリージョンで、
  原作では悪霊の蔓延る廃墟として登場します。
  ブラッククロスの目的を考えると、どうしてもこことやりあうことになると思うんですが……

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最終更新:2011年01月16日 23:08
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