ラビットというロボットと出会った。
彼は丸っこくて、白いボディに、所々ピンクのパーツが使われた可愛らしいロボットだった。
それなのに、その外見に似合わない哲学的な話をする不思議な“友達”だった。
メタルブラックというロボットと出会った。
彼は自らを侍と名乗る、黒い鎧で、巨大な得物を操る戦闘ロボットだった。
ブラッククロス四天王の一人として立ちはだかる、最強の“敵”だった。
再び、メタルブラックと出会った。
彼は厳ついボディに生まれ変わり、侍ではなく破壊兵器だった。
窮地の親友と自分を助けてくれた“恩人”だった。
その彼が、今また、目の前に立っている。
今の彼を表す言葉は何だろう?
とても、一言では言い表せないように思う……
佐天「アルカイザー……そう名乗ったよね?」
「ああ。だが、正確には少し違う。私はあくまでも私だからな……」
佐天「なら、何て呼べば良い?」
名を問われ、黒い機械戦士が、自分自身を確かめるように名乗る。
「鋼(メタル)……メタルアルカイザーだ」
【第十七話・再誕! 真実の炎!!】
体の調子を確かめるように、佐天はゆっくりと立ち上がった。
単純な骨折は直りかけているようだが、まだそこら中がズキズキと痛む。
複雑骨折したらしい左腕を押さえると、電流を流されたように全身が跳ねる。
激痛を、歯を食いしばって耐えた。
まだ変身はしない。
その前にもう一度だけ、この佐天涙子の姿で聞かなければならないことがある。
佐天「メタル……アルカイザー? どうして私の回復を待つの?」
メタルA「傷ついたお前を倒しても、最強の証明にはならんからだ」
佐天「貴方は以前言ったわ。数の差も力だって……なら、不意を打って倒す事だって、力じゃないの?」
メタルA「……奴の非道を目の当たりにして、考えが変わった」
佐天「……」
メタルA「真に最強の戦士とは、正面から堂々と戦うものだ。相手がどんな手を使おうとな……」
佐天「そう思っているなら……どうして、どうしてブラッククロスなんかに居るの!?」
それが信じられなかった。
彼はあのとき、確かに自分達を助けてくれたはずなのに。
ブラッククロスという組織がどんなものなのか、弱者が踏みにじられることが、どんなことなのか知ったはずなのに。
佐天「どうしても……私たち戦わなきゃいけないの……?」
メタルA「……愚問」
メタルA「私は“メカ”だ。そして、主の名はDrクライン」
メタルA「ならばそれが、私の戦う意味の全てだ」
彼の意思は固い。
意思?
そうか……彼はやっと手に入れたんだ……
なら、戦おう。
それしか道は無い。
……それでも。私は友達を救いたいと思う。
だから、そのためにこの力を使おう。
この力はただ一つ。“守る”ためにあるのだから。
願いを込めて、希望を込めて。
何度もこの名を叫んできた。
そして今、もう一度、全ての想いを込めて叫ぼう。
佐天「変身!!! アルカイザァアアアアアアア!!!!!!」
舞い上がる塵の一つ一つの動きが見える。
魂が破裂しそうなほど鼓動する。
細胞を、生命力が塗り替えていく。
打ち出す拳が灼熱に燃える。
駆け抜ける足は光速を超える。
蔓延る闇を額で切り裂き、蒼いマントが烈風に舞う。
輝く光が希望を示し、守るべき信念を照らし出す。
その眼光は曇りなく、進むべき道を見据えている。
願う通り、その体は紅く染まった――――!!!!!!
これが、佐天涙子の最後の変身だった。
メタルA「直接手合わせするのは久しぶりだな」
アルカイザー「強くなったよ。私は」
メタルA「私は? 私“も”だろう?」
……冗談まで言えるようになったのね。
肩を回し、傷の治り具合を確認する。
大丈夫だ。
複雑骨折していた左腕も、自由自在に動かせる。
……いつも思っていたことだが。
この傷の治り方は異常じゃないだろうか?
常識を超えた力なのだろうことは分かる。
でも、こんなことをして何のリスクも無いとも思えない。
『ファイナルクルセイド』という技がある。
あれは、自らの生命力を周囲に分け与えることで傷を癒す。
なら、この力の源はやはり――――
アルカイザー「……私は“長生き”できるかな?」
メタルA「生き延びたければ、構えろ」
二人は距離を空け、円形の舞台の上で向かい合った。
アルカイザーが、拳を握り締めて腰を落とす。
すると、メタルアルカイザーも同じように構える。
まるで、合わせ鏡。
もう一人の自分との決闘だ。
二人は動き出すのも同時だった。
空洞に、二人の雄たけびが響き渡る。
「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
互いに右腕を振りかぶり、エネルギーを送り込む。
拳が光り輝き、眼前に迫った敵に打ち出された。
アルカイザー『ブライトナックル!!!』
メタルA『タイガーランページ!!!』
速い――!
機械戦士は以前、ヒーローさえも苦しめる圧倒的な戦闘能力を見せた。
パンチのスピード一つとっても、二人の差は歴然としていたものだ。
だが――
メタルA「……ッ!? 互角か!!?」
アルカイザーのパンチは、メタルアルカイザーのそれに匹敵する速度と精密性を持っていた。
メタルアイルカイザーとなった彼の性能は、メタルブラックだったときよりも向上されているというのに……!
メタルA「チィ!!」
キリが無い。
メタルアルカイザーは、そう判断し体を捻る。
姿勢を低くし、全身を回転させての後ろ回し蹴り。
竜巻を起こすほどの勢いで放たれた蹴りが、アルカイザーのわき腹をえぐる。
アルカイザー「……ゲホッ!?」
内臓にめり込む鋼鉄のカカト。
一瞬呼吸が止まり、口の中に鉄サビの味が広がる。
メタルA「もう一度だ!!」
メタルアルカイザーは、その勢いで押し切ろうと一歩踏み出す。
しかし、今度の攻撃には反応された。
振り上げた足を、がっちりと腋の下で固定される。
アルカイザー「接近戦は……打撃だけじゃない!!」
彼女は、そのまま彼の足を抱え振り回し、壁に向かって放り投げた。
激突しそうになる直前、くるりと体勢を立て直した彼は壁に“着地”する。
アルカイザー「まだまだぁ!!」
追撃しようと、アルカイザーが右拳を振りかぶって飛び出した。
メタルA「それで間に合うと思うかぁ!!!」
メタルアルカイザーの背中から、蝙蝠のような翼が飛び出した。
同時に腕が開き、中から鋼の剣が現れる。
メタルA『ムーンスクレイパー!!!!!』
急激に加速し、弧を描きながら宙を駆ける異形の黒い戦士。
空中に飛び出したアルカイザーの左側面に回りこみ、剣を両手で構えた。
メタルA「首……貰った!!!」
かつて、少女らの腹を切り裂いた凶刃が、再び奮われる。
メタルA「――――!!?」
ありえない。
読んでいたというのか。
アルカイザーの視線がこちらを向いて、しかも――
アルカイザー『カイザーウイング……!!』
その手に、蒼い光の剣が煌めいていた――!
振るわれた剣が空を裂き、紅い烈風を巻き起こす――!!
メタルA「……ならば、こちらがそれを凌駕すればいい……っ!」
メタルアルカイザーの体が、空中で急停止した。
以前の無茶なロケットブースターによる加速では不可能だった。
安定した『翼型』への改造を経て、彼の機動性能は格段にアップしている。
紅い風を飛び越え、さらに上昇していく。
メタルA『ムーンスクレイパァァアアアア!!!』
飛行中の急速な方向転換。
アルカイザーの頭上を飛び越え、逆方向から旋回して戻ってきた。
彼女は反応できていない。
立体的な動きで、今度こそ、空中に三日月の軌跡が現れる。
アルカイザー「――――っ」
切り裂かれた“紅い鎧”は地に崩れ落ち、血の“紅い花”を舞い散らす……
メタルA「……これでも仕留め切れんか……!!」
確かな手ごたえだった。
確実に相手の裏をかき、手心など加えずに急所を狙った。
だが、生きている。
生きて、立ち上がり……なお攻撃の手を休めない!!
アルカイザー『アル・ブラスタァアア!!!』
メタルA『喰らうか!! サンダァァァボォォル!!!』
光の弾丸を、雷の球で迎撃した。
その際に起こった閃光に紛れ、彼女は自らも弾丸となって飛び込んでくる。
アルカイザー『シャイニングキックッ!!!』
メタルA「ぬおっ!!?」
上体を反らせて回避する。
持ち上げたアゴをギリギリ掠めていった。
鋼の剣で、振り返りざまに斬りかかる。
蒼い剣も同じく、空中から無茶な体勢のまま振り下ろされていた。
切り結び、距離を空けるため後ろに飛び退いた。
向こうも、剣を弾いた反動を利用して飛び上がり、一回転して着地した。
メタルA「……強くなった……確かに……強くなった……!!」
何故この短期間にこれ程の成長を?
メタルアルカイザーは知らない。
彼女とアルカールの一戦を。
あれは、アルカールによる特別授業だった。
佐天の覚悟を確かめ、足りない経験を自分と戦わせることで補う。
もちろん。
それだけで強くなどなれない。
御坂美琴。
白井黒子。
初春飾利。
今のアルカイザーは、彼女たちの信頼で成り立っている。
佐天涙子には、ずっと足りないものがあった。
それが「自信」。
無能力者のレッテルが、それを彼女から奪い去った。
だが、今は違う。
数々の戦いを乗り越え、自分に何が出来るのかを知った。
自分が、何をしなければならないのかを知った。
その精神の変化が、彼女のヒーローとしての資質を高め、“覚悟”を決めさせたのだ。
ゆえに、今のアルカイザーには“制限”がない。
彼女自身、無意識のうちに掛けていた“制限”が――外れた。
メタルA「今確信した……貴様を乗り越えたときこそ、私は『最強』を名乗る……!」
アルカイザー「……最強……万能の力……!」
メタルA「そうだ! それだけが我が望み!! そのためならば――」
メタルA「涙子!!! 貴様さえも供物としよう!!!!!!」
メタルブラックの両腕の装甲が開き、漆黒の煌きが舞い踊った。
燃え盛る『黒炎』。
こんな禍々しいものなど、聞いたこともない。
アルカイザー「黒い炎……!?」
どういう原理なのか。
それはアルカイザーの紅い鎧さえ燃やす。
アルカイザー「なら……こっちも!!」
右手を床に付き、そのまま走り出す。
その摩擦で火花が散り、それが火種になって燃え上がった。
焦げ跡を地面に残して、拳が紅い炎を纏う。
アルカイザー『アル・フェニックス!!!』
鋼鉄を燃やし尽くす轟熱。
この技を放つということは、すなわち敵対するものの消滅を意味する。
黒炎を纏ったメタルアルカイザーは、腰を深く落とし構えた。
紅い渦が、周囲の物を無差別に溶かし、突き進んでくる。
不死身と呼ばれた男さえも一撃で葬った灼熱。
真正面から受け止めるなど愚の骨頂だ。
だが――
黒い戦士は退く事を知らない。
メタルA「この程度乗り越えずして、何が『最強』……!!!」
迫り来る不死鳥に対し、自ら突貫した。
無論、自分ならば“勝てる”と踏んだのだ。
勢いを増した黒い炎が、彼を守るように渦巻き、突き出した右拳から放たれた――
メタルA『ダークフェニックス……!!!』
ギラギラと殺意を放つ黒炎が、真っ直ぐに突き進んで征く。
「不死鳥」というよりも「凶鳥」。
眼前の全てを、その業火で焼き尽くさんと牙を剥く……!
紅い炎と黒い炎。
二つの炎が激突し混ざり合う。
勢いは互角。
だが――
アルカイザー「失敗したね……!」
メタルA「……!?」
アルカイザーの技は、まだ完了していない……!
メタルアルカイザーは、黒炎を紅い炎にぶつけようと技を“放った”。
だが、アルカイザーは違う。
彼女は、まだ炎を纏ったままだ。
いまだ、ぶつかり合う炎の中心に自らを置いている。
アルカイザー「逃げたね……! メタルアルカイザー!!!」
メタルA「逃げただと……? 私が……!?」
アルカイザー「確実に私を倒そうとするなら、炎は放つべきじゃなかった……」
アルカイザー「距離を保って、安全な場所で見物してたんじゃぁ届かないよ!!!」
彼女の気合に呼応して、紅い炎が勢いを増していく。
紅い炎はやがて、黒炎を包み込み巨大な塊になった。
アルカイザー「アンタの技も、そっくりそのまま返してやる!!!」
床を踏みしめ、再び炎の渦を纏おうと前進する。
しかし――機械戦士は、冷静に状況を分析していた。
メタルA「……ならば、そのセリフをそっくり返そう……」
メタルA「失敗したのは貴様だ。アルカイザー!!」
アルカイザー「――――っ!?」
炎が、一瞬にして全て――
黒く染まった……!!
炎の奥から、こちらに飛び出してくる影が見える。
翼を広げ、凄まじいスピードに加速して――
メタルA『ダークフェニックス!!!!!!』
今度こそ、黒炎を纏った鋼の拳が、アルカイザーの心臓に叩き込まれた――!!!
アルカイザー「があぁああああああっ!!???」
体が燃える。
こんなこと、これまでには無かった。
いつだって、彼らは味方だったはずだ。
友達に、なったのだから。
それなのに……
黒く反転した彼らは、紅い鎧を焼き尽くそうと猛り狂う。
アルカイザー「どう……して……!?」
どうして……裏切ったの……?
…………
……
やがて炎は掻き消え、舞台の上に静寂が訪れた。
そこに見えるのは、静かに佇む黒い機械戦士。
そして、燃え尽きることなく、炎の猛攻を耐え切ったアルカイザーの疲弊しきった姿だった。
蒼いマントは塵になって飛散した。
床に付いた手のひらは、鎧が熔け、酷い火傷を負い、指一本動かせない。
全身の至る所に、焼け焦げや熔解の跡が残っている。
だが、死んではいない。
ヒザをつき、俯いて、立ち上がれずにいるだけだ。
メタルA「……なるほど。やはり、貴様の言うことも正しかったようだ」
メタルアルカイザーが歩くたび、金属が床を叩く音が空洞に木霊する。
ゆっくりと、もはや目線すら合わせない宿敵に近づく。
メタルA「トドメを刺しそこなった……まだ迷いがあったらしい……」
アルカイザー「……っは……はははは!」
金属音が止まり、その代わりに乾いた笑い声が響いた。
メタルA「何が可笑しい……気でも触れたか?」
アルカイザー「ははは……いや……」
メタルA「貴様は我が最大の好敵手だ。最後まで誇り高くあってくれ」
アルカイザー「ふ……ふふっ! 誇り……あはははは!!!」
メタルA「……何だと言うんだ」
アルカイザー「……“迷い”に“誇り”……本当に人間臭いことをいうんだね」
アルカイザー「どうしてだって聞いたらさ……炎が教えてくれたよ」
メタルA「……」
アルカイザー「あの黒い炎……火の中に“何か”混ぜてあって、それで操ってるのね?」
メタルA「……ご名答だ。あれは、『ナノマシン』によって作られた炎だ」
超ミクロサイズのナノマシン。
黒い炎は、それを通常の炎に混ぜることによって生み出されていた。
本体であるメタルアルカイザーからの指示を受け、ナノマシンが炎を自在に操るという仕組み。
それは細菌のように数を増やしていき、炎から炎へと移り広がっていく。
だから、たとえ拳から離れていても、そんなことは関係ない。
本体からの情報伝達さえ果たされれば、アル・フェニックスにさえ乗り移り、黒く染め上げてしまうのだ。
メタルA「これが、貴様の技を元にDrが作り出した、私の『ダークフェニックス』だ」
アルカイザー「そっか……ふふっ」
メタルA「……いい加減にその笑いを止めろ。不愉快だ」
アルカイザー「あははははは!! 不愉快だって! あはははははは……!!!」
ダンッ!
……と、メタルアルカイザーが床を踏み締めた。
メタルA「安い挑発は止めろと言っている!!」
その態度が気に食わなかった。
まるで、この戦いを侮辱しているようだ。
それはつまり、『メタルアルカイザー』という存在の否定に他ならない。
彼は、このためだけに作られたのだから。
アルカイザー「……怒れるんじゃん」
メタルA「……なんだと?」
アルカイザー「そうやってさ。怒って、悲しんで、喜んで……」
アルカイザーが、顔を上げた。
仮面越しだが、その瞳はしっかりと彼を見つめている。
アルカイザー「手に入れたんでしょう……『ココロ』をさ?」
メタルアルカイザー「――――!?」
ラビットと名乗っていたころ、彼にはココロが無かった。
メタルブラックだったころも、彼にはそれが理解できなかった。
彼はロボット。メカなのだから、それはしょうがないことだ。
しかし、シュウザー基地での戦いの際、彼の電子頭脳は奇跡を起こした。
主を裏切り、自身を傷つけ、敵を救い出すという「理屈に合わない行為」。
およそメカらしくないその行動は、決して「故障」などではない。
アルカイザー「なら……考えたんでしょう? この戦いの意味を――」
アルカイザー「何のために、『万能の力』なんてものが必要なのかを!!」
メタルA「……っ!!」
彼女のしていることは、不可解だ。
メカに対して、こんな説得は意味が無い。
彼らはただ、冷酷に冷静に、真実だけを述べ、使命だけを果たすものなのだから。
だが、こと『メタルアルカイザー』に限ってはその範疇ではない。
彼の行動原理は、メカとしての使命ではなく、『固い意思』によってのモノなのだから……
アルカイザー「教えてよ……世界征服なんて馬鹿な真似を、どうして……?」
メタルA「……君が居た時代とは、事情が違うんだ」
黒い戦士が拳を下ろした。
態度と口調が柔らかくなる。
それはまるで、旧知の友と語り合っているかのようだ。
メタルA「このリージョン界は今、『トリニティ』という組織が牛耳っている」
アルカイザー「トリニティ……?」
メタルA「奴らは軍事力を盾に全てのリージョンを支配下に置いた。実際に、ワカツというリージョンが滅ぼされている」
アルカイザー「そんな……それじゃあまるで!?」
まるっきり、『悪の組織』の『世界征服』じゃないか――!!
メタルA「だからこそ……奴らから世界を取り戻さなければならない……」
アルカイザー「じゃあ……そのために、ブラッククロスは世界征服を?」
メタルA「私は……」
メタルアルカイザーは、少し困ったように首を振り、間を置いてから――
メタルA「そう、聞かされている」
真実だけを述べた。
アルカイザー「……待って。聞かされている……って……」
メタルA「それ以上言うな。分かっている」
アルカイザー「嘘だよ……そんなの……!!」
世界を悪い奴らから開放するために、自分達が世界を征服しなおす?
それだけで、もうふざけてる!
しかも、そのために人の命を散々弄ぶようなことを繰り返して……?
ありえない。
そんな『正義』はありえない――!!!
アルカイザー「メタルアルカイザー! そんなのは嘘よ!!」
メタルA「分かっていると言った!!! だが……」
メタルアルカイザーは、必死に理由を探している。
らしくない。
いつもの彼なら、すっぱりと一言、事実だけを述べている。
それが、彼がココロを持っている証。
ココロがあるゆえの苦しみ。
アルカイザー「なら、言い訳なんてしないでよ! 気付いてるなら!!」
メタルA「これは『ブラッククロス』の話だ! 私の主はDrで、組織は利用していただけだ!!」
アルカイザー「それも詭弁!! 人を利用して、犠牲にして得る力に意味なんて無い!!!」
メタルA「五月蝿い!! だが……なら――――」
メタルA「私が信じずに……誰が“父”の味方になれるというんだ!!!??」
アルカイザー「――――“父”……」
メタルアルカイザーの両腕から、再び黒炎が噴出し燃え盛った。
メタルA「父は……その才能ゆえに世界から追い出されたのだ……!」
メタルA「誰一人、彼の言葉に耳を貸さなかった!!」
メタルA「あげく……道を外れた彼を、奴らはこう罵った!!!」
『マッドサイエンティスト』
メタルA「人より優れ! 人とは違う感覚を持った彼を! 誰も救おうとはしなかった!!!」
黒い炎は、際限なくその勢いを増していく。
まるで、彼の小さな電子頭脳に溜め込まれ続けた感情が、その姿を現したかのように……
メタルA「確かに……彼は『狂人』なのだろう……『悪人』なのだろう……!」
メタルA「だが、それはこの世界が今、“こうなっている”からだ!!!」
メタルA「反転した世界なら……我々が征服した世界なら!!!」
メタルA「こんな世界など……一度滅びてしまえば良い!!!!!!」
漆黒の炎に包まれ、メタルアルカイザーは灼熱の化身と化した。
放っておけば、彼は『最強』の力で、このまま世界を焼き尽くすだろう。
怒りに任せ。
感情に任せ。
願い求め、やっと手に入れたその『ココロ』を、“悲しみ”のみに染め上げて……
……なんて悲しい声だろう。
子ども。
生まれたての子どもは、泣いて感情を表す。
きっと、彼は感情の表し方がまだ分からないんだ。
胸を苛む苦しみに、どう向き合えばいいのか。
アルカイザー「……大丈夫」
ズキズキと痛む体に鞭を打ち、上体を持ち上げる。
アルカイザー「人は、段階を踏むんだよ」
ヒザに力をいれ、立ち上がった。
アルカイザー「一気には解消できないんだよ。ココロって不完全なものだから」
彼女が私にそうしたように、私は彼の想いを――――
アルカイザー「力があれば、何だって出来るわけじゃない……」
アルカイザー「強いって、大変なんだよ。抱えるものが増えるんだから……」
受けて立とう……!
アルカイザーに黒炎の渦が迫る。
もう一度同じことを繰り返せば、今度は立ち上がることはないだろう。
焼き尽くされ、灰になって、混沌の中に飲み込まれる。
メタルA「オォォオオオォォオォオオオオォォオオオオオオオオオォオオオ!!!!!!」
すっ……と、むきだしになった手のひらで、黒炎に触れた。
そこから――
アルカイザー「行きます……御坂さん!!!」
黒い炎が反転し、紅へと帰っていく――――!!!
メタルA「な、何故だ……!? ナノマシンが、駆逐されて……!!!?」
アルカイザー「炎の温度に上限はない……」
メタルA「!!?」
アルカイザー「そのナノマシンっていうのは、一体何度まで耐えられるのかなぁ!!!」
炎の渦が、瞬く間に本来の色を取り戻していく。
例えばウイルス。
人間の体に入ったウイルスは、体温の上昇で滅菌される。
炎が、自分の中に混入した異物に対して反旗を翻した。
メタルA「何故だ……何故だ!? ナノマシンに操られて、何故そんなマネが出来る!!?」
アルカイザー「何故かって? そんなこと……決まってる!!」
アルカイザー「アル・フェニックスの炎は、操られているんじゃない……自分の意思で、力を貸してくれてるんだ!!!」
全ては、友のために――!!
アルカイザー「人には人の……炎には炎の意思がある……!!」
メタルA「炎の……意思……?」
アルカイザー「そして、メカにはメカの……意思があるんでしょぉがぁああ!!!」
そして、炎は全て紅に帰り、アルカイザーの全身を包み込んだ。
アルカイザー「機械のプログラムで無理やり言うことを聞かせるなんて……そんなのが『最強』のはずがない……」
アルカイザー「メタルアルカイザー……あの黒い炎は、まるで貴方そのものだよ……」
アルカイザーの鎧が、炎のエネルギーを吸って修復を始めた。
火傷した手のひらが癒え、また、拳を握ることが出来た。
炎がその形を変えていく。
そう、この紅い炎もまた、佐天涙子という人物を写している。
一度焼き尽くされただけで、もう力を失うようなナノマシンとは違う。
倒れても、傷ついても、友のために何度でも立ち上がる、あの親友達から授かった、高潔な心を……!
アルカイザー「大切な人が間違ったことをしているのなら……それに気付いたなら!」
アルカイザー「例え敵対してでも、止めて見せるのが真実(ほんとう)なんだ!!」
アルカイザー「だから……私は貴方に立ち向かう!!!」
炎が翼となって羽ばたいた。
アルカイザーの体が宙に舞い上がる。
この炎は、真実の強さを持つヒーロー・アルカイザーの化身。
かくして不死鳥は顕現し、全ての悪を焼き尽くす――――!!
『真アル・フェニックス』――――!!!!!!!
アルカイザー「メタルアルカイザー……貴方は強かったよ。でも、間違った強さだった……」
落ちこぼれのヒーローは、真実を見つけた。
【次回予告】
悪は滅びたのか……?
世界に平和が訪れたのか……?
否! まだだ!!
全てはまだ終わってはいなかった!!
ここからが……始まりなのだ!!
次回! 第十八話!! 【驚愕! 全てを支配する者!!】!!
ご期待下さい!!
【補足】
・メタルアルカイザーについて。
「石には石の心があると。ならば、メカにもメカの心があって然るべきだ」
という原作での彼のセリフが、一連の展開の元になりました。
Drクラインへの想いやココロの葛藤などはこのSSでの創作です。
推測ですが、原作の彼は結局、プログラムされた武士道精神のみで、心は手に入れては居なかったように思います。
ちなみにダークフェニックスの設定も創作です。
佐天さんのアル・フェニックスが「協力」の力なのに対して、「強制」の力にしてみました。
・トリニティについて。
リージョン界を統べる軍事組織。
反トリニティの革命軍なども存在する、ブラッククロスなんかより更に大きな存在。
ワカツは、トリニティの執政官が無実の罪を着せて滅ぼしたリージョンで、
原作では悪霊の蔓延る廃墟として登場します。
ブラッククロスの目的を考えると、どうしてもこことやりあうことになると思うんですが……
最終更新:2011年01月16日 23:08