【第十五話・潜入! ブラックレイ!!】


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 突如、割れた空の中から現れた『キグナス』。

 佐天たち四人とアルカールを乗せ、銀の白鳥は再び空へ舞い上がった。


初春「それにしても、こんな物まであるなんて……」

黒子「まぁ、非常識は今に始まったことではありませんの」

美琴「っていうか、これどこに向かってるのよ?」

アルカール「それを含めて後で説明しよう。私は機関室に向かう。君たちはしばらく休んでいろ」

佐天「はー……何かSF映画みたいですよね。ひょっとして未来からやって来たとか――」

アルカール「ほう、勘がいいな。その通りだ」

佐天「え?」

アルカール「あとで放送を入れる。部屋で待っていてくれ」


 それだけ言い残し、アルカールはさっさと廊下の奥へ消えた。


佐天「」

美琴「未来……」

黒子「って、言いましたわね」

初春「はい。はっきり」

佐天「え――」


 「「「「えぇえええええええええええええええええええ!!!??」」」」



 【第十五話・潜入! ブラックレイ!!】




 学園都市第七学区。

 そこに、「窓のないビル」は存在した。


 「……やあ。突然来るものだから驚いたよ」


 薄暗い部屋に備えられた「生命維持槽」。
 その中に、逆さまに浮かぶ男が居た。

 学園都市統括理事会の長。
 アレイスター=クロウリー。

 男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその人物の前に、得体の知れない男が立っていた。

 蒼いローブに身を包んだ西洋人。
 整った顔立ちで、若くして老成した雰囲気を持つ青年だ。


 「一応。責任を取りに来た」


 礼儀正しいようで、腹の底ではこちらを見下しているような態度。
 一見素直だが、それでいて信用ならない。
 まるで二人の人間を同時に相手にしているように感じる。


アレイスター「わざわざご足労頂いて申し訳ないが、まだ猶予がある。しかし、あと一日もすれば事は済むだろう」

青年「ならば、そのときに」

アレイスター「そう焦ることもないだろう? 君の話を聞きたいな、たとえば――」

青年「断る。『俺たち』はお前が嫌いだ。『あいつら』と同じ臭いがする」


 そう言って、『彼ら』は一瞬にして姿を消した。


アレイスター「ふふ……宿命の双子か」



佐天「しかし、未来と来たか……」


 キグナスを散策中、豪華な客間を見つけた。
 もともと客船だったのか、キグナス内にはいくつもの客間や、食堂まで備えられていた。

 佐天は折角だからと、一番高価そうな部屋のベッドでくつろいでいる。


佐天「初春~? どう思う?」

初春「……」

佐天「初春? う~い~は~る~?」

初春「……はい? 呼びました?」

佐天「なにやってんのさ?」

初春「ああ、これですか? さっき見つけた情報端末です。性能は凄いんですけど、プログラミングとかは私でも――」


 初春は新しいおもちゃを見つけご機嫌のようだ。
 小学校に入学する子どものように目を輝かせている。


佐天「あー……そういう話は私には分かんないや……」

初春「そうですか?」

佐天「こんなSFじみた場所のコンピューター扱えるのなんて初春ぐらいのもんだよ~」

初春「ん~……でもちょっと不思議なんですよね」

佐天「何が?」

初春「技術力にムラがあるっていうか……とんでもなく高レベルの部分と、すごく古いものが混じってて……」


 ちょっと弄っただけでそんなことまで分かるのか……

 たまにはインターネット以外の使い方も覚えてみようかと、ぼんやりと考えた。


 そこへ、船内の探索を続けていた美琴と黒子が帰ってきた。


美琴「ダーメだわ。良く分かんない」

佐天「どうかしたんですか?」

美琴「積荷とか置いてあるものからさ、色々推測できんじゃないかと思ったんだけど……」

黒子「私たちの記憶にあるものはありませんでしたの。会社名も何もかも、少なくとも学園都市にあるものとは違いますわね」

美琴「ていうか……何で普通に重火器の類まで積んであるわけ? 何かでっかいミサイルとかあったんだけど」

佐天「えぇ!?」

黒子「この事件が終わったら捜査してやりますの……」


 あー、疲れた。と、美琴は佐天の隣に大の字で寝転がった。
 黒子はソファーに腰を下ろし、「あら、なかなか良い物使ってますわね」などと鑑定している。

 初春は相変わらず、佐天には良く分からない銀色の箱と睨み合っている。


 のどかだ……

 これが、「悪の組織との最終決戦」を目前に控えた者たちの態度だろうか?


佐天「……」


 いや、だから尚更なのだろう。

 余りにも事態が大き過ぎて、逆にこんな風なのだ。

 「今から気を張っていても仕方ない」

 きっとそういうものなのだろう。


 ピンポンパンポーン。

 この上さらに、緊張感の欠けらもないチャイム音が鳴り響いた。


 『これからリージョンの脱出を開始する。機体が揺れるから注意しろ』


 室内のスピーカーから聞こえてきたのは、アルカールの声。


佐天「『リージョン』の脱出?」

黒子「機体が揺れる……とは、つまり気流にでもぶつかるのでしょうか?」


 それから間もなく、放送の通りキグナスが激しく揺れ始めた。
 それだけではなく、何かバチバチという音が――

美琴「ねぇ……あれって何?」

 美琴が窓の外を指差した。
 驚きの余り、目を見開いて、口は半開きになっている。

佐天「……何でしょう」

黒子「……もう何があっても驚きませんの」

初春「え? 何ですか?」


 キグナスの進行方向に、まるで空が捲れ上がるように、巨大な渦が展開していく。

 その奥には、青い“歪み”が漂い、波打つ海のように広がっていた。


美琴「ちょ……! ま、まさかあそこに突っ込む気!?」

佐天「あ、アルカールさぁぁぁん!? 説明! 先に説明をぉぉぉ!!!」

黒子「いやあぁああ!! 前言撤回ですのぉ~! 驚きましたからスト~ップ!!」


 悲鳴を木霊させ、佐天たちを乗せたキグナスは渦の中へと飛び込んでいった……


アルカール「はっはっは! シップに初めて乗る子どもはみんなそういうリアクションをするから楽しくてな」

佐天「……」

美琴「……」

黒子「……」

初春「以外とお茶目な人なんですね」


 キグナスはすっかりあの青い歪みに侵入し、出入り口らしい渦も消えた。


 佐天たちはアルカールに呼び出され、白鳥の頭の部分に位置する船橋(ブリッジ)に集められていた。

 本来は複数の人間で操縦しているのだろう。
 ブリッジ内のモニターは、そのほとんどが「AUTO PAILOT」と表示されている。


アルカール「そう睨むな。緊張をほぐすためのほんの冗談だ」

佐天「私、いまだにアルカールさんのキャラがつかめません」

アルカール「だが無駄ではない。少し現実離れした話をするからな。実際に見た後の方が早いだろう?」

美琴「今更って感じだけどね……」

アルカール「違いない。さぁ、何から話そうか」

美琴「まずはここが何処なのか教えて。ブラッククロスはここにいるの?」

アルカール「そうだな、まずはこの世界のことからだ……ここは『混沌』。『リージョン界』の全てを内包する空間だ」

佐天「『リージョン』……?」

アルカール「『リージョン』とは世界のこと。つまり、『混沌』とは――」



アルカール「無数の異世界が漂う“海”だ」


佐天「異……世界……?」


美琴「……つまり、私達の世界と別の世界、『リージョン』だっけ? それを、貴方たちは行き来できるってこと?」

アルカール「正確には、君達の世界は『リージョン』と呼ばれるものとは違うのだが、まぁ概ねそんな所だ」

佐天「……えっと……ていうことは、アルカールさんは『異世界人』ってことですか?」

アルカール「君から見ればそうなる」


 異世界? リージョン? 混沌?

 世界と世界を行き来するリージョン・シップ?


 私は、いつの間にかそんな大層な物に巻き込まれてたってこと?


 そんな意味不明な単語を羅列されても、突然すぎてさっぱり……


黒子「で……私たちの世界が『リージョン』とは違うというのは?」

佐天「え!? もう次行っちゃうんですか!? 皆理解してるの!?」

黒子「パラレルワールドの存在は科学的にも可能性を示唆されていますの」

美琴「今更驚いてたってしょうがないでしょ? やることをやるだけよ」

佐天「はぁ……」


 常盤台組はそうでしょうけど……


初春「うわ~……異世界ですか~」

佐天「……」


 あんたはそんだけかい!

 もっとこう……何!? 戸惑ってるの私だけ!!?


アルカール「本来、リージョンとは“小”世界だ。君達の世界は、リージョンと呼ぶには大き過ぎる」

美琴「サイズの問題?」

アルカール「いや……そもそも、君達の世界はこのリージョン界に存在しなかったはずなのだ」

佐天「存在しなかった……」

アルカール「そうだ。何故なら――」



アルカール「君達の世界は、我々の世界よりも、遥か“過去”の世界だからだ」



佐天「過去……」

 未来からやってきた……っていうのは、つまりそういうこと?


アルカール「例えリージョン同士が異世界とはいえ、時間軸自体は同一のはずなのだ」

美琴「なのに、突然過去の世界が現れた……」

アルカール「そうだ……それも、我々の間で『超古代文明』と呼ばれているような時代が、だ」

黒子「それはまた……随分見下げられている気分ですの」

アルカール「正確には、その更に過去にあたる。我々の時代には君達の時代を呼び表す言葉がそれ以外に残っていないのだ……」

黒子「あらま」

佐天「あらま……って……」

アルカール「おそらく、我々が知っているのは君達の時代より数百から数千年後のことだろうな」


 超古代文明とまで呼ばれていた、リージョン界に本来存在しないはずの巨大な世界。

 それが、突然混沌の中に姿を現した。


 一体何故?


アルカール「リージョン界には、『術』というものが存在する」

美琴「それは実際に経験したわ。能力とは違うのね?」

アルカール「ああ。そしてその術の中でも、特に強力な『時術』と『空術』というものがある」


 『時術』は時を操る術。

 それを会得した妖魔は『時の君』と呼ばれ、永遠に止まった時の中で閉じこもっていたという。


 『空術』は空間を操る術。

 『麒麟』と呼ばれる生物が唯一それを使い、自分で作り出したリージョンで暮らしていたという。


美琴「時間に空間か。そりゃまたとんでもないわね……」

黒子「能力で言えば、軽くレベル5を越えてますの……」


 時や空間を操れれば、それこそ無敵だろう。
 神と呼ばれる存在と大差ないのではないだろうか?


 だが、アルカールの口から、信じられない事実が語られる。



アルカール「その二つの術の所有者が、同時期に“殺された”のだ」



佐天「!?」

美琴「ちょ……そんな化物みたいなのが殺されたって……!?」

アルカール「重要なのは何故殺されたかではない……」


アルカール「彼らが死んだことで、この混沌の中に『時空の歪み』が生み出されたのだ」


 二つの巨大な力に起こった突然の変動。
 それだけの力だ。バランスが崩れれば、どうなるか分かったものじゃない。

 事実。
 その結果、混沌の壁がブチ破られ、時間を超越し、空間を捻じ曲げ、存在しないはずの門が開いた。


美琴「なにそれ!? 死んだあとまで人に迷惑かけてんじゃないわよ!」

黒子「お姉さま。それは流石に不謹慎ですの……」

佐天「それに、どっちかというと迷惑してるのは殺された二人のほうなんじゃ……」

美琴「う……い、いいのよそんな細かいことは!」


 ともかく、佐天達の世界は未来とつながってしまった。
 それに気付いた未来人、つまり『ブラッククロス』が時空を越え侵入した。

 アルカールはその後を追ってきたのだ。


アルカール「ブラッククロスの目的は超古代文明の遺産。つまるところ、我々の時代に存在しない『能力』だ」

佐天「能力を手に入れて、連中は何を……」

美琴「世界征服でしょ?」

黒子「子供向け番組じゃないんですから……」

アルカール「いや、それであっている」

黒子「……マジですの?」

アルカール「少なくとも、連中はそのふざけた幻想を本気にしている。実際にそれが可能かどうかは分からないが――」



 その過程で、多くの犠牲者を生むことは間違いない……!



佐天「犠牲者……」


 シュウザーに攫われ、殺されかけた少女がいた。


美琴「“悪”の秘密結社だなんて、自分で名乗る連中だもんねぇ……」


 体を奪われた少女たちがいた。


黒子「いまさら確認するまでもありませんわね」


 未知の薬で怪物に変えられた少年がいた。


初春「……やりましょう!」


 友達が、命がけで戦っていた。



アルカール「覚悟は決まったようだな! このままブラッククロスの基地に乗り込むぞ!!」



 アルカールの号令。

 誰一人異論を挟む者はいない。
 当然だ。覚悟も何も、そんなものはとうに決まっているのだから。

 少女達の真っ直ぐな目がそれを語っていた。



 そのときだった――

 意気込む一行に水を指すように、けたたましくアラームが鳴り響いた。


アルカール「……!? 発見されたか!!?」

佐天「アルカールさん!? これは……」

アルカール「敵が接近している……! 戦闘用のシップか!!?」


 美琴と黒子が外の様子を伺おうと窓際に駆け寄った。

 そこから見えたもの、それは――


美琴「エイ……?」

黒子「あれが、ブラッククロスの戦闘機ですの!?」


 混沌の中を泳ぐ黒い「エイ」。

 サイズはキグナスと同程度だが、スピードが段違いだ。
 キグナスは元々旅客機であり、デザインも機能性より見栄えを重視して造られている。

 だが、向こうは正真正銘の戦闘用シップ。

 無風の混沌の中では航空力学など意味を成さないが、それとは別の技術体系が発達しているのだろう。
 キグナスの二倍以上の速度で距離を詰めてくる。


アルカール「『ブラックレイ』!? 実在したのか!!?」


 ブラッククロスの戦闘艦・ブラックレイ。


 船乗りの間で噂される、伝説級のリージョン・シップ。

 混沌を舞い泳ぐ悪魔が、その姿を現した。


アルカール「伏せていろ!!」


 オートパイロットを解除し、アルカールがキグナスの操縦桿を握った。

 機体が大きく左側に反れる。


佐天「きゃぁあああああああ!!?」


 船体にミサイルの直撃を受け、キグナス全体が激しく揺れた。


初春「こ、これ当たってますよねぇええ!?」

アルカール「黙っていろ! 舌を噛むぞ!!」


 アルカールはわざと、ミサイルの存在を知りながらそちらへ突っ込んでいた。

 何故なら――


美琴「来た……!!?」

アルカール「ぐぅうううう……!! 耐えろキグナス!!!」


 ミサイルの回避コースへは、ブラックレイの主砲が撃ちこまれていたからだ。

アルカール「アレに当たれば、このキグナスが消滅してしまう……!!」

 多少の無茶をしてでも、それだけは避けなければならない。


佐天「お、追いつかれますよぉ!?」

 この状況では、いかにヒーローに変身しようと役に立たない。
 艦隊戦は佐天たちの専門外だ。


アルカール「振り切れないか……!」

アルカール「ええい! 一か八かだ!!」

 アルカールの操縦で、船体が急激に旋回する。

 佐天たちはバランスを崩し床を転がった。

佐天「痛たた……一か八かって、どうするんですか!?」

アルカール「『ハイペリオン』を使う……あのブラックレイに対抗出来るとすればアレしか……」

美琴「ハイペリオン?」

アルカール「陽子ロケット弾だ。弾は二発しかないが、やるしかない!!」


 ミサイルによる対空砲火を掻い潜り、キグナスは上方からブラックレイに接近する。

 距離は800……500……300……


アルカール「ハイペリオン発射!!」


 キグナスの首元から「陽子ロケット弾」が発射された。

 目標へ向かうのを確認し、キグナスは再び急加速して上方へ飛び去る。
 爆発に巻き込まれないためだ。


美琴「当たった!!」

 ブラックレイの甲板にロケット弾が命中し、球形の爆炎が広がっていく。
 その余波がキグナスまで伝わり、船体を揺らした。

 確かに、あの爆発なら大抵のものは一溜まりもないだろう。


 だが、ブラックレイは伝説級のシップなのだ。
 それは、スピードや主砲の威力だけのことではない。


アルカール「……駄目だったか……」


 ブラックレイを何かが包み込み、空間が歪んで見えた。

 ブラックレイの防御装置だろうか?
 ハイペリオンの爆撃は、その装甲に傷一つ付けていなかった。



黒子「……もう一度接近を」

アルカール「何?」

黒子「私のテレポートで乗り込みますの。内部からエンジンでも何でも破壊すれば……!」

アルカール「馬鹿を言え! そんなことをすれば、爆発に巻き込まれるぞ!!」

黒子「ですが!!」


 黒子の言い分には一理ある。

 このままではジリ貧。ミサイルを受け続けるような耐久性はこのキグナスには無いし、こちらの攻撃は通用しない。
 なら、内部からの攻撃以外に術はない。

 だが、常に接近していられるわけではないし、何より戦闘中なのだ。
 常に動き回るシップの間を行き来するなど、一歩間違えれば即死。

 とてもじゃないが、分が悪すぎて賭けにもなっていない。


初春「なら……あの障壁を何とかできれば……」

佐天「初春……何かアイディアがあるの?」

初春「……あの戦艦に私達が直接乗り込むことが難しいのなら、ネットワークを繋げることは出来ませんか?」

アルカール「ネットワークだと? ……たしかに、シップ間の通信にネットを使うことはあるが……」

初春「なら、やらせて下さい!! こちらから向こうのメインコンピューターにハッキングをかけて、あの障壁を解除させます!!!」

初春「私の技術でどこまで出来るかわかりません……でも、やらせてください!!」

アルカール「……無理だ。どうやって電波を繋げる?」

美琴「……私が中継をするわ。初春さんのコンピューターと、あの戦艦のメインコンピューターを繋げばいいのね?」

佐天「そんなことできるんですか?」

美琴「やったことはないけど……一番可能性がある方法なんじゃない?」

初春「御坂さん……」

美琴「ハッキングなら私も得意分野だし、二人で協力すれば、未来のセキュリティだって破れるかもよ?」

アルカール「……分かった。やってみよう」



 こうして、彼女達の……いや――

 学園都市の命運は、初春飾利に託された。



佐天「初春……」

初春「大丈夫です……私、頑張りますから……!」

佐天「……」


 気丈に振舞っているが、彼女はまだ幼い女の子だ。
 こんな大役を任されて、平気なはずが無い。

 震える彼女の手を、佐天はギュッと握り締めた。


佐天「信じるよ。初春」

初春「……はい!」


 通信の中継点を志願した美琴は、白鳥の首の下、艦橋と本体を繋ぐ第二通路に立っていた。
 そこは壁が無くむき出しになっているので、遮蔽物を無視して電波を届けられる。

 この作戦では美琴がブラックレイに対して電波を飛ばし続ける必要がある。

 戦闘中、ブラックレイの動きを捉えきれず通信が切断されるかもしれない。
 常にブラックレイの姿を監視するためにも、誰かが外で見張っている方がいい。

 しかし本来、シップの航行(ドライブ)中に外に出るのは自殺行為だ。
 混沌に飲まれれば永遠に漂流し続けることになる。

 それを防ぐため、シップには特殊なフィールドが張られているが、長時間は持たない。


 しかし、そこはレベル5。
 自分で磁場を形成して混沌への障壁を張り、体が飛ばされないように固定することに成功した。


美琴「さーて……じゃあ始めるわよ」

黒子「背中は任せてくださいまし」

美琴「信頼してるわよ黒子!」

黒子「お、お姉さまがこの黒子をそこまで!! この戦いはまさに二人の愛の共同作業ですのね!!?」

美琴「……余力ないから突っ込まないわよ?」


 集中する美琴の身を守るため、黒子が見張り番として着いた。


 アルカールがキグナスの操縦を行い、常に一定の距離を保つ。
 佐天は彼のサポート役として、機関室で動力炉の管理を受け持った。


 そしてキグナスが耐えている間に、初春がハッキングを完了させる。



初春「……行きます!!!」


 遂に、ブラックレイへの潜入作戦が始まった。



 …………

 …………

 Pass word?

 ※※※※※※※※……


 Error The password is different

 Try again

 ※※※※※※※※……


 …………


 OK

 Access granted

 Welcome to Black ray



美琴「ぐ……ううぅぅ!!」


 通路の上に立つ美琴は、キグナスの加速に苦しめられていた。

 キグナスの装甲は薄い。
 ゆえに、ミサイル攻撃を受け続けるわけにはいかず、急加速、急旋回を繰り返している。


美琴「これは……思った以上に……!!」


 キツイ。

 とてもじゃないが、ハッキングの方にまで手が回らない。

 美琴に出来るのは、キグナスとブラックレイの間に通された電波の経路を、途切れないように保つことだけ。
 あとは、初春の腕に任された。


美琴「初春さん……さっき読み取った信号だと、システムへの侵入は成功したみたいね……!」


 初春の腕がどの程度なのか、美琴は知らない。
 だが、信じるより他にない。


黒子「お姉さま! またミサイルを迎撃しますの! 爆風に巻き込まれないようにして下さいな!!」

美琴「了解! そっちは任せた!!」


 黒子の指に挟まれていた鉛の弾が、ミサイルの弾頭に転移された。
 たちまち爆発を起こし、キグナスにはその爆風と破片だけが届く。


黒子「いつまで持ちこたえられるか分かりませんわね……」


 愛用の鉄矢を温存するため、黒子はハンドバルカン用の弾丸を使っている。
 空になった弾薬ポッドを混沌の中に投げ捨て、次の弾丸を引っ張り出した。



アルカール「涙子! あと3つ上げろ!!」

佐天『りょ、了解!!』

アルカール「遅い! ウチで雇えんぞ!!」

佐天『必死でやってますよぉ~!!』


 アルカールから、機関室の佐天に通信で檄が飛ぶ。

 その後ろで、初春はもくもくとキーボードを叩き続けていた。

 艦橋の大型コンピューターから、ブラックレイへの潜入には成功したが、まだ油断はならない。
 何せ、初春にとってこの世界のコンピューターを使うのは初めてのことなのだ。

 美琴の能力で初春のノートパソコンからハッキング用のプログラムを移し変えたが、まともに動作しないものもある。

 初春はハッキングと平行して、新たにプログラミングの組みなおしを行っていた。


初春「コード形式が違う……構造は同じだから、たぶんこれで……」


 基本になっている文字がアルファベットであることに驚いた。
 超古代文明の遺産とでもいうのか。だが、初春からすれば都合がいい。
 アルファベットと数列の組み合わせであれば、大抵のものは解析できる。


初春「セキュリティ自体は甘い……これなら解読できる……」


 初春は能力者としてのレベルは低いものの、こと情報処理に関しては学生の中でも最高クラスの実力をもつ。

 巷のハッカー達の間では、彼女のことを守護神『ゴールキーパー』と呼び、噂する者もいる。

 相手が伝説級の戦闘艦であっても、こちらは伝説級のスーパーハッカーなのだ。


初春「この内のどれかが対応してるなら……よし! 引き当てた!!」


アルカール「いけそうか!?」

佐天『やっちゃえ初春!!』

初春「いきます!!!」



 …………

 …………


 ID?


 ※※※※※※……


 …………


 Error

 I connecting to your computer

 …………Complete

 Hello Cygnus!

 Hack Hack Hack !


 I am Black cross

 Game over…




初春「――――――ダミー!? やられた!!?」

アルカール「何!!?」


 室内の電灯が点滅し、アラームが鳴り響く。合成音声が警告文を読み上げた

 『危険! システムにトラブル発生!! 機関部が暴走しています!!』

 キグナスがバランスを崩し、明後日の方向へ落ちていく。


 ハッキングが逆探知され、こちらのシステムが掌握されたのだ。


 あまりにも簡単なセキュリティが続き油断した。
 この時代のプログラムは、「高度」な物と「原始的」な物が入り混じっているのを失念していた。

 超古代文明の遺産と、それ以前の遺物。そして新たにこの時代に開発された物が入り混じっているのだ。


初春「……やっぱり……私じゃ駄目なの……?」


 初春は、学園都市の学生として優秀とは言いがたい。

 レベル1の低能力者であり、通っている学校も柵側中学という二流校。
 風紀委員には、情報処理能力の一転突破で入隊した。

 だが、その唯一得意科目である情報処理で敗北した。


 目の前が真っ暗になる初春。

 だが、繋げっぱなしになっていた通信から、悲鳴が聞こえた。


 『きゃあぁあ!!?』

初春「佐天さん!!」


 「機関部が暴走している」と、確かさっき……


 機関部には佐天がいる。

 自分のために、自身を限界まで傷つけた少女が、今また自分のために傷つこうとしている。


 させない……!


 あのとき彼女は、何度だって立ち上がったじゃないか!!!


初春「……! まだ繋がってる! 御坂さんも耐えてるんだ!!」

 電波は届いている。
 道が開いている。


 なら……行け! 風紀委員・初春飾利の意地を見せてやる!!



 …………

 ID?


 ※※※※※※……


 …………OK

 Access granted


 Retrieval

 Defense system


 …………It found it


 Gravity field


 All system down


 …………

 …………

 OK

 Gravity field is deleted


 Connecting cut


 Over


 Bye Goal keeper…



初春「防御壁のシステムをダウンさせました! 通信切ってください!!」

アルカール「よくやった!! 中に入れ御坂美琴! 旋回する!!」


 キグナスの操縦権が戻ってきた。

 加速と同時に大きく弧を描き、再びブラックレイの上方へ浮かび上がる。

 白鳥はすでに片翼が破れ、黒い煙を噴出している。
 背中の装甲は剥がれ、ミサイルに焼かれた跡が無数に刻まれていた。

 対するブラックレイは外見上無傷。
 瀕死の白鳥を撃ち落とそうと、艦体の前部が開き、主砲のチャージを開始した。

 同時に、退路を断つためのミサイル掃射が行われる。


アルカール「このまま突っ込むぞ!!!」


 キグナスが、最大船速のままミサイルの群れに突撃する。

 あわや、蜂の巣になる寸前――

黒子「細かい位置の把握まで無理ですけど……!!」

 黒子が残りの弾丸を一つ残らずテレポートさせ、キグナスの正面から迫るミサイル群の半数を撃破した。


 爆風の中を潜り抜け、ブラックレイをハイペリオンの射程距離に捉えた。



アルカール「これは我々からの手向けだ!! 地獄まで持って行けぇぇ!!!」


 再び放たれた陽子ロケット弾が、黒い装甲に激突した。

 今度は、それを妨げる障壁は無い。

 弾頭が甲板に突き刺さり、その衝撃を受け、ロケット弾内部で化学反応が引き起こされる。


 一瞬のうちに広がった光が、ブラックレイを包み込んでいく。


 衝撃波が退避したキグナスまで届き、船体を揺らした。



佐天「や、やったの……?」


 機関室の床にへたり込む佐天。

 機関室の中は暑く、汗でシャツがへばりついている。
 ただ一人、聞いたこともないシップの機関制御なんてことをやらされていたのだから、緊張も疲労もひとしおだ。

 その上、暴走した機関部から漏れ出すエネルギー波の脅威に晒されていたのだ。
 腰が抜けて、しばらく立てそうにない。


 アルカールから通信が入った。

アルカール『作戦成功だ。ブラックレイは跡形もなく消え去った』

佐天「……!! やったぁぁ!! 初春ばんざーい!!!」

アルカール『それは直接本人に言ってやれ』

佐天「はい! 戻りますね!」


アルカール『その前にゲージをもう二つ下ろせ。以上通信終わり」

佐天「……りょーかーい……」



美琴「初春さん!」

黒子「初春! やりましたのね!!」


 艦橋に戻った二人が初春に駆け寄った。


初春「はぁ~……疲れました~……」


 作戦の功労者は、そのまま溶けてしまいそうなほど全身の力を抜いて倒れこんだ。
 さっきまでの気迫が嘘のようで、この少女が本当にあれだけのことをやったのかと疑いたくなる。

 ……だが、たしかにやったのだ。

 花飾りの少女。
 風紀委員第一七七支部所属・初春飾利は、この極限状態でその意地を見せた。


佐天「初春!」


 扉を開き、佐天が勢い良く艦橋に入ってきた。

 すると――


佐天「っおわ!?」


 その胸に、初春が飛び込んだ。


佐天「初春……」

初春「……私。がんばりました」

佐天「…………うん。がんばったね初春……!」


 佐天は初春を抱きしめ、そっと彼女の頭を撫でた。



 彼女の戦いは終わった。



 次は――


美琴「私たちが頑張る番ね……」

アルカール「ああ。学園都市にはもうブラッククロスはいない。戦闘艦ブラックレイも撃沈した」

佐天「残すは連中の本拠地だけですね」

黒子「直接対決……ですわね」



 佐天たちを乗せ、キグナスは混沌の奥へと進む。

 その先に待ち受けるのは悪の居城。



 ブラッククロス基地――――!



 落ちこぼれのヒーローは、友からのバトンを受け取った。




 【次回予告】

 混沌の奥底に巣食うブラッククロスの本拠地!

 アルカイザーたちは、その奥へと突き進む!!

 待ち受けるのは蛇か邪か!!

 ブラッククロスの大幹部、Drクラインの恐るべき野心とは!!


 次回! 第十六話!! 【激走! 混沌のさらに奥へ!!】!!

 ご期待下さい!!


 【補足】

 ・ブラックレイについて。
  原作では内部に潜入、メタルブラック改と戦いそのままブラッククロス基地へ突入するイベントです。
  初春の見せ場の確保と、いつもいつも同じように戦っていたのではマンネリだと思い、
  キグナスVSブラックレイというSFチックな展開にしました。
  防御壁とかミサイルなんかの装備は創作です。

 ・世界観について。
  再三に渡って書いてありますが、僕は裏解体新書を持っていないので、具体的な設定をしりません。
  超古代文明と現在のリージョン界の関係性などは全て推測であり、また禁書とリンクさせるための創作が含まれています。
  僕が把握している原作設定は、「超古代文明というものがあった」「混沌の中に無数のリージョンが存在する」
  「この世界をリージョン界と呼び、トリニティという組織によって管理されている」
  「超古代文明時代、すでに混沌とリージョンは存在していた」
  「超古代文明の遺産が各地に残されている」このぐらいです。

 ・ハッキングについて。
  ハッキングとか分かんないよ……洋画に出てくるハッカーの描写ぐらいの適当イメージ映像ですよ……
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