【第十話・再来! ブラッククロス四天王!!】


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 青い馬が追ってくる……


 白い髪の女を乗せた、青い馬が……


 ……い……


 女の首が転がってくる……


 ……い! ……さか……


 肉の無い、ドクロが笑って……青い……血が……


 ……おい! ……御坂! ……!


 馬が……女が……青い血……ドクロ……


 おい! 起きろ御坂!! いつまで寝ているつもりだ!!


 …………

 ……


 その声に目を覚ました。
 仰向けになった自分の顔を、妙齢の女性が覗き込んでいる。


美琴「寮監……ここは?」

寮監「……少しばかり散らかっているがお前の部屋だ。馬鹿者」


 【第十話・再来! ブラッククロス四天王!!】




 上体を起こし、頭を振る。
 まるで、一日ベッドの中で寝て過ごしたときのように頭が痛い。


 部屋の中を見回す。

 時計によると、あれから三十分も経っていないようだ。

 ベッドのシーツは焼け焦げ、机やらの家具は吹き飛ばされてシッチャカメッチャカだ。
 窓側の壁に大きな穴が開いて、外から雨が吹き込んでいる。

美琴「……やりすぎたかな?」

寮監「やはり貴様の仕業か……まったく」


 記憶を辿る。

 あの時、鈴科百合子から人外の気配を感じ取った。
 今まで何度も相対してきたブラッククロスの怪人達、そして――――

 あの得体のしれない『馬』。

 あれを見たとたん、意識が消えそうになって、とっさに電撃を放った。

 それで意識を保てなくても、相打ちにできるかもしれない。
 もしそれさえ叶わなくても、この異変を誰かに知らせることができる。


美琴「……! 寮監! 鈴科は!?」

寮監「やはり鈴科か……」

 寮監は眼鏡の位置を直し、横目に壁の方を見た。
 いや、正確には壁ではなく、そこに開いた大穴の外の景色を。

美琴「逃げられたか……」

寮監「どうかな?」

美琴「え?」


寮監「御坂美琴。貴様、ここをどこだと思っているのだ?」



 土砂降りの雨の中を、白い影が駆けていた。
 ビルからビルへ飛び移っていく。およそ、人間の運動能力を凌駕していた。

 髪も肌も真っ白な少女。
 全身から流れているのは人ならざるものの証。青い血しぶき。

 美琴を襲った謎の転入生。
 鈴科百合子だ。


鈴科「……っくそ! あのガキ何てことをするのよ!?」

 鈴科は、美琴からの予想外の反撃に手傷を負い、ほうほうの体で逃げ出した。

 本来なら、そのまま美琴を連れて学生寮を脱走。
 待ち合わせた仲間と合流する予定だった。

 それが、美琴の拉致どころかいまや――――


鈴科「……!?」

 空中に飛び出した鈴科の左側から、巨大な物体が高速で吹き飛んできた。
 それは、ビルの屋上に設置されている貯水タンク。

 悪天候とはいえ、この程度の雨風で飛ばされるものではない。


鈴科「このっ!!」

 突然のことに驚いた鈴科は、左掌をかざし電撃を放った。
 貯水タンクは爆散し、内包した水を辺りに撒き散らした。

 その反動を利用して、すぐそばのビルの屋上に着地する。


 「おーっほっほっほっほ!!」


 向かいの屋上から、甲高い声が響いた。


 声の主らしき少女は、扇子を開き口元を隠した。
 トレードマークの長い黒髪が雨風に揺られ、街の明かりにキラキラと照らし出されている。


 「そんな様で逃げおおせようだなんて……この私を常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの?」


 鈴科は、美琴の部屋から逃げ出してすぐに、常盤台の生徒たちによって捕捉されてしまった。

 彼女の失敗は、御坂美琴をただの一個人と侮ったこと。
 「常盤台の超電磁砲」の異名の通り、御坂美琴は――――


婚后「泡浮さん! 湾内さん!」


 掛け声ののちに、鈴科の背後の物陰から、二人の少女が現れる。
 そうして、三人が鈴科を逃がさない様に取り囲んだ。

 泡浮万彬(あわつき まあや)と湾内絹保(わんない きぬほ)。
 そして婚后光子(こんごうみつこ)の三人は常盤台中学に通う、美琴とも交友のある少女たちだ。

 当然、常盤台中学の生徒ということは三人とも能力者。
 泡浮と湾内はレベル3の水流操作『ハイドロハンド』。
 そして婚后はレベル4の空力使い『エアロハンド』。


湾内「この雨なら……!」

泡浮「ええ! 私たちの独壇場です!!」


 本来、婚后たちは美琴とは別の寮に住んでいる。
 それがこの騒ぎを聞き、急いで駆けつけたのだ。

 彼女達だけではない。
 常盤台中学の多くの生徒たちが、「御坂美琴が何者かに襲われた」という話を聞きつけ動き出した。

 そう、御坂美琴は、常盤台中学の多くの生徒から慕われている。
 彼女たちが、日々派閥を作って争っているような関係であっても、それは変わらない。
 そんな枠に収まりきらないのが、レベル5の第三位・御坂美琴という人間だ。
 その大スターを相手にした時点で、それは常盤台中学全体を敵に回したのと変わらないのだ。

鈴科「ちぃっ……!!」


 鈴科は慌てて逃げ出そうと踵を返す。

 しかし――――

鈴科「何!? これは……水が!!?」

 鈴科の足が、水溜りに拘束されて動かなかった。

 泡浮と湾内、二人の水流操作能力者によって操られた雨水が、鈴科を取り囲むように渦巻いた。
 降り注ぐ雨を演算に含むことは難しいが、ビルの屋上にできた大量の水溜りなら自在に操れる。

湾内「動きを止めます!」

 湾内が手をかざすと、水の流れは鈴科の手足にまとわり付き、その動きを封じた。

泡浮「これで……!」

 泡浮の操る水流は鈴科の顔を覆い、呼吸を止めた。

 そして――――

婚后「お安心なさい。丘の上で溺死だなんて惨めな死に方はさせませんわ」

 婚后が、屋上に並べられていたコンテナの一つに触れた。
 そうして物体に噴射点を作り出し、そこから空気を噴出させることでミサイルのように物を飛ばす。
 「トンデモ発射場ガール」の異名を持つ婚后光子の得意技。



 三連携――『ハイドロハイドロガール』



 真正面から鉄製のコンテナを叩きつけられ、鈴科は悲鳴をあげる暇もなく瓦礫に沈んだ。


婚后「怪人相手に手加減はしませんことよ! 御坂さんの弔い合戦ですもの!!」

湾内「と、弔い!?」

泡浮「み、御坂様は、別に亡くなってはいませんよね……!?」

婚后「ともかく! これでこの怪人は一歩も動けませんわ!!」

湾内「……と、いうか……これ、死んでしまってませんか……?」

婚后「それならそれもまた良しですわ! 当然の報いです!」

 そう言って、婚后は能力を使い体を浮かすと、湾内たちのいるビルへ渡った。

 三人は鈴科の埋まった残骸に近寄る。
 ひしゃげたコンテナが、コンクリートの屋上に突き刺さっている。

 人間なら即死。
 怪人でも、ただではすまないはずだ。


泡浮「今警備員に連絡をいれました。すぐに来てくれるそうです」

婚后「そう。お疲れ様でした。泡浮さんも湾内さんも、もう寮に戻っても宜しくてよ」

湾内「婚后さんはどうなさるんですか?」

婚后「私はこの騒ぎの顛末を見届けますわ。この方のおかげで、この私が濡れ鼠になったのですから」



 いいえ……三人とも帰ることは出来ないわ……



婚后「!?」

 湾内と泡浮の顔から血の気が引いた。
 コンテナに背を向けていた婚后が、二人の顔を見て振り返ると――――


 『ブレードネットッ!!!』


 コンテナに幾筋もの閃光が疾り、「鉄の輪切り」になった。
 その下から、すっかり青く染まった白い少女が立ち上がる。


鈴科「……クッ! クキキャキャキャキャキャ!! これっぽっちで殺したつもりだったの……?」


 その背中から、黒く、長く、禍々しい蜘蛛の足が伸びている。


鈴科「このブラッククロス四天王……妖魔アラクーネをっ!!!」



 同時刻。学園都市第七学区、廃墟群上空。

 鮮烈な、紅い光が空を駆けた。


佐天『シャイニングキック!!!』


 アルカイザーとなった佐天涙子は、仇敵を貫こうと死力を尽くす。
 その仇敵、シュウザーはシャイニングキックを受け止めようと鉛色の左腕を突き出した。


 無駄だ!

 ブライトナックルでも破壊できた程度の強度なら、その数段上の威力を持つシャイニングキックを防げるはずが無い。

佐天「ここまでだ! シュウザぁあああ!!!」


 しかし――――


佐天「……!? 腕の先が……無い!!?」

 シュウザーの左腕は、ひじの部分までしか存在しなかった。
 その二の腕は筒状になっており、大砲のような勢いで火炎が放射された。

 火炎自体は、炎に耐性のあるアルカイザーにはそれほどの脅威ではない。
 だが、逆方向からの衝撃にシャイニングキックの勢いが殺された。

シュウザー「技は何度も見せるものではない!!」

 勢いの衰えたキックを、シュウザーが肩のアーマーで受ける。
 衝撃は分散され、装甲を貫くことは出来なかった。

シュウザー「奥の手とは、隠し続け、最高のタイミングで使うものだ!!」

佐天「っ!?」

 背後から、何かが勢いよく迫って来る。

 それは、いつの間にか無くなっていた、シュウザーの左腕だった――!

佐天「……づッ!!?」

 間一髪。
 強引に身を捻り、飛来した爪に貫かれるのを回避した。

 しかし完全にかわすことは出来ず、佐天の背には三本線の深い傷が刻まれていた。


佐天「……ハァ……ハァ……!」


 背に感じる熱が、あの死の恐怖を呼び覚ました。
 命が終わろうとする絶望感。

 あんなものを、大切な友人達に味わわせるわけにはいかない……!


シュウザー「どうしたアルカイザー? 息切れか?」

佐天「……うるさい!」

シュウザー「くっく! 所詮は小娘だ……無理をするなよ?」

佐天「うるさい!!」


 何故この男はこうも人の神経を逆撫ですのか……!

 いや、そもそも、いまの私は気が立っている。
 こうなることを避けるために、私は姿を隠すはずだったのに……!


佐天「初春…………!」


 どうして私を探したりしたの?
 私なんか放っておけば良かったのに。

 私が姿を消せば、これは私個人の問題でしかなかった。
 少なくとも、そうなる可能性は十分にあったはずだ。



 それは数日前のこと。
 夜道を歩く佐天の前に、アルカールが現れた。


佐天『いつもいつも突然ですね』

アルカール『すまないと思っているさ。これでも忙しい身でね』

佐天『四天王。三人まで倒しましたよ』


 それは嫌味であり、ちょっとした期待だった。

 ひょっとしたら、褒めてもらえるかもしれない。
 この人は、厳しそうに見えてその実、本当に甘い人なのだ。

 だが、その想像はアッサリと打ち破られる。

 彼は、衝撃的で絶望的な事実を佐天に突きつけるため、ここに現れたのだ。


アルカール『姿を隠せ。アルカイザー』


佐天『……え?』

アルカール『君の正体がばれた。ブラッククロスは、変身前の君個人を敵視している』


 メタルブラックに知られた素性。
 彼を倒した時点でその心配は無くなったものだと思っていたのだ。


アルカール『それに、四天王はいまだ健在だ。誰一人欠けることなくな』

佐天『そんな……!? どうして!!?』

アルカール『今はそのことよりも、君は自分と、自分の周囲を心配しなければならない』


 アルカイザーは、いまやブラッククロス最大の障害だ。
 それゆえに、その正体がただの小娘だとわかれば彼らは容赦なくその周囲を巻き込もうとする。

 拉致され、人質になるか、拷問されるか……
 それ以上のことも容易に想像できる。

 特に、あの男はそういったことを率先して行うサディストだ――――


佐天「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 雲の切れ間から差し込む僅かな月明かりに照らし出された廃ビルの屋上。
 佐天は気合の咆哮と共に駆け出した。

 右拳が光り輝いた。
 心臓から生まれた熱いエネルギーが、佐天の全身を駆け巡る。
 彼女の体に触れた雨粒が、蒸発して湯気になり宙に消えた。


シュウザー『クロービット!!!』


 シュウザーの体を離れ、追尾ミサイルのように飛び回る左腕が佐天を襲う。
 視界に捕らえたそれをかわすが、攻撃のタイミングは失ってしまう。

 上下左右。
 360度全方位どこから飛んでくるか分からないその攻撃に、佐天は思うように動くことが出来ない。

 とはいえシュウザーの攻撃によって致命傷を受けることも無い。
 ただひたすら、お互いに距離をとりつつチャンスを伺いながら、屋上から屋上へ移動する。

 気付けば、もう随分長いことそうしていた。


佐天「シュウザー! まともに戦う気がないの!?」

シュウザー「メタルブラックでさえ貴様を倒すことは出来なかった!」

 飛び回っていた左腕が、主の下に帰ってきた。
 あるべき位置に戻った鋼の爪が、チャキチャキと耳障りな金属音を鳴らす。

シュウザー「そんな相手と、正面切って戦うというのは俺の流儀に反するな……」

佐天「女の子相手に、後ろからしか斬りかかれないのがアンタの流儀?」

シュウザー「くっくっく! 良く分かっているじゃないか! だが――――」



シュウザー「自分のしでかした『ミス』は、分かっていなかったらしいなぁ?」




 コンテナを破壊し、鈴科百合子は立ち上がった。

 だが、その姿はおぞましく変貌し、彼女の本性を白日の下にさらけ出した。


婚后「四天王……?」


 ブラッククロス四天王・妖魔アラクーネ。
 彼女はそう名乗った。


鈴科「こんなに短期間で体を交換するのは久しぶりだわ……クキャッ!」

 鈴科の体はすでに動ける状態ではない。
 腕は捻じ曲がり、額が割れ、止め処なく青い血が噴出している。

 その姿に、自分達がやったとはいえ、婚后たち三人は同情さえ覚えた。


 だが、鈴科百合子は歩みを進める。
 頬まで裂け上がった口を歪ませるように笑い、婚后らが怯えているのを楽しむように。

婚后「と、止まりなさい! それ以上近づけば……こ、今度こそ容赦なく――――」

鈴科「ケキャキャ! 意地を張るのはお止めなさいな……みっともなくってよ?」

 茶化すように言い、鈴科は背中から伸びた黒い足を婚后たちに向ける。

鈴科「震えているじゃない……可愛い子。そういう素直な態度の方が好きよ?」


 一歩、また一歩とにじり寄り、黒い足を振り上げ――――

鈴科「素直になるように、三人とも……手足を斬ってしまいましょう……!!」

 その鋭い爪を振り下ろそうとした――――



 「体罰はPTAに通報されちゃうからお勧めしないじゃん!!」



 突如現れた、武装した女は鈴科に目掛けて引き金を引いた。
 彼女の機関銃から放たれた弾丸が、鈴科の体を削り取りながら、数メートル吹き飛ばした。

 その正体は、特徴的な口調の警備員。
 黄泉川愛穂。

黄泉川「通報を受けて最速で駆けつけたじゃん。なんせ、『足』は空間移動じゃん!」


 「ジャッジメントですの!」


 いつもの決め台詞を言い放ち、白井黒子もまた、この騒ぎに駆けつけた。

黒子「本調子で無いと言っても。人二人を送り届けるくらいは朝飯前ですの」

 そう、黒子が届けたのは二人。
 一人は黄泉川。そしてもう一人は――――


 「今夜はいい天気ね……」


 厚く黒い雲が、雷鳴を轟かせる。
 まるで、自分達の主を出迎えるように。


 「これだけ水気があれば……それはもう良く通るんでしょうよ!!!」


 雷の主は、その全身から高圧の電流を解き放った。
 呼応するように、天空から落雷が迫る。

 全身をずぶ濡れにした鈴科の体は、その電撃の槍に抵抗する術もなく貫かれた。


 「借りは返すわ。蜘蛛女!」


 鈴科百合子。否、アラクーネの最大の失敗。
 それはやはり、「御坂美琴」を敵に回したことだった。



美琴「しっかし……本当に往生際の悪い奴ね」

 それを見た美琴は、呆れを通り越して感心していた。

黄泉川「まったくじゃん。何であれで意識があるじゃん?」


 落雷の直撃を受けたというのに、アラクーネはまだ意識を保っていた。

 とはいえ、その体はもう使い物にならないだろう。
 全身が焼け焦げ、おそらく神経も筋肉も焼き切れている。

 その上、湾内、泡浮の能力によって再び拘束されているのだ。

 もはや、抵抗は叶わない。


美琴「それじゃあ聞かせてもらおうかしら。あんたは、本当にあのアラクーネなのね?」


 キャンベルカンパニーの社長。シンディ・キャンベルとして美琴たちの前に姿を現した怪人。
 ブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネ。

 彼女はたしかにあの日、あの場所でアルカイザーの光の弾丸によって撃ち殺された。

 それが、今度は常盤台の生徒として、学生寮にまで住み着いていた。


黄泉川「私からも聞きたいじゃん。お前は、シンディ・キャンベルと同一人物なのか?」


 鈴科はニヤニヤと笑っている。
 だが、もう自分に選択権がないことは悟っているのだろう。
 やがて嘲るように笑いながらも答え始めた。


鈴科「ええ、そうよ。私はシンディ・キャンベルであり鈴科百合子であり、そしてアラクーネでもある」


黄泉川「ブラッククロスはいつから学園都市で活動している?」

鈴科「ず~っと前からよ」

黄泉川「ふざけるな。お前個人がブラッククロスと繋がっていたのか? それとも会社ごとか?」

鈴科「……どこまで調べたのかしら?」


 黄泉川は、鈴科の額に銃口を突きつけたまま語りだした。


黄泉川「まず、例の巨人のパーツ。あれ自体に大した技術は使われてないじゃん」

黄泉川「重要だったのは、おそらくあれの原材料の方。『能力者の協力を得て作られた特殊合金』……!」

 調査してみたところ。キャンベルカンパニーにとって、ロボット技術は末端の事業でしかなかった。
 ブラッククロスの怪人はどいつもこいつも、精密機械の塊みたいな連中だ。
 それなのに、その一味であるキャンベルの会社では、それが重要視されていなかった。
 資金集めとして企業を利用するなら、その技術の一部を売り出すだけで大儲けできただろうに。

 初めは隠れ蓑かと思ったが、それならまったくの無関係を装ったほうが良い。
 わざわざ、わずかな儲けしか得られないような事業展開をする必要は無い。

 あの「合金」も、数年前には開発が始まっていたものの、「利益が見込めない」という理由で
 計画自体が凍結されている。

 それが数ヶ月前に突然再会。一気に開発が進められた……!

 潤沢な資金を当てられ、キャンベルカンパニーという大企業が持つコネクションをフルに活用。
 ついに、高位の能力者の協力を得ることに成功。
 出来上がった合金を加工して、「何かの試作品」を作るところまで漕ぎ着けていた。

 何故だ?

 どうして突然、キャンベル社長はそんな心変わりを?
 もしキャンベルが初めからブラッククロスの関係者なら、もっと早い段階で、もっと上手い方法を取れたはずだ。

黄泉川「そこで……こういう仮説を立ててみた」


 鈴科はその様子をニヤニヤと楽しそうに眺めている。
 その顔が癇に障ったのか、黄泉川は逆に不機嫌そうに眉を顰めた。


黄泉川「お前。シンディ・キャンベルとも鈴科百合子とも、入れ替わったじゃん?」


鈴科「……ふふ……まあ、及第点かしら」

黄泉川「そうか……合金の存在を知って、それを入手するために社長の座を奪ったのか……」

美琴「待って! 入れ替わったって言うのなら、二人はどうなったの!?」

鈴科「目の前にいるでしょ?」

美琴「……ふざけてると、後悔するわよ?」


 美琴の体が帯電する。

 うっかり感電しないように、黒子たちは身を引いた。


鈴科「だから……この体がまさしく正真正銘の鈴科百合子よ」

黄泉川「……やっぱりか」

美琴「それって……まさか!?」


アラクーネ「体を貰ったのよ。外側だけだけどね。……中身はぶっ壊しちゃったから」


美琴「お前ぇええええええええええ!!!」

 美琴から電流が放たれ、鈴科の体がのたうつ。
 が、それを意に介さずアラクーネは嗤っている。

黒子「お止めになってくださいましお姉さま!!」

美琴「けど……!?」

黒子「気持ちは分かりますの! けど! それは鈴科百合子さんの体ですのよ!?」

美琴「……っ!!」


 美琴の電撃が止み、みな沈黙した。
 雨の中に響くのは、アラクーネの耳障りな笑い声だけだった。


黄泉川「なら、シンディ・キャンベルも、もう……?」

アラクーネ「そうよ。居心地のいい体だったわ。燃え尽きちゃったから抜け出したけど……」

黄泉川「……目的は、能力を利用した物質の入手で間違いないじゃん?」

アラクーネ「ええ。私たちが学園都市にいる理由は『能力』の存在だけだもの」

黄泉川「なるほど。誘拐する能力者がレベル3以上なのも、手っ取り早く能力を手に入れるためじゃん」

アラクーネ「そう。それ以外の科学技術なんていらないわ。私達からしたら、こんなの石器時代みたいなものよ」


 それはつまり。
 「ブラッククロスの科学技術は学園都市のそれを凌駕している」ということか……?

 この世界のどこに、そんな組織があったというのか……


アラクーネ「おもしろいわねぇ、超能力。この体で少し試したけど、『術』とも違うようだし……」

美琴「術……あの馬のこと……?」

アラクーネ「失われた『幻術』使いとこんな形で会えるなんてね」

 「幻術使い『イリュージョニスト』」。
 確かに、それは学園都市で確認されている能力の一つだ。

 おそらく、鈴科百合子の本来の能力。

 だが、失われたとはどういうことか?

アラクーネ「と言っても、所詮はまやかしね。本物の術には程遠かったわ」

美琴「『術』ってのは何? それに、どうやって体を入れ替えたの?」

 もし、脳移植なんて方法なら、自分だけの現実『パーソナルリアリティ』まで入れ替えることになる。
 ということは、そんな単純な方法ではない……


アラクーネ「そうね。じゃあちょっとお見せしようかしら」

美琴「……!?」


 空気が変わる――

 肌が粟立つような、気味の悪い風が、鈴科百合子の体を中心に吹き上がった。



アラクーネ『邪霊憑依ッ!!!』



 その掛け声と共に、鈴科の体から、巨大な半透明の蜘蛛が抜け出してくる。
 あの幻の馬と同じ。この世ならざる者の気配。

 おそらく、これがアラクーネの本体……!

黄泉川「これは……!?」

婚后「ゆ、幽霊……?」


アラクーネ『その体! もらったぁ!!』

美琴「う、うわぁぁ!!?」

 蜘蛛が飛び掛り、美琴の体に入り込んできた。

 意識が混濁する……

美琴「う……うあ……あ!?」

黒子「お姉さま!?」

 美琴は膝をつき、頭を抱え苦しみ出した……!



 くくく……クキキャキャキャキャ!!!

 やったぞ! ついに! レベル5の体を手に入れた!!

 これで……能力の解析も一気に進む……!!

 我々ブラッククロスの悲願も近い!!

 シュウザーの奴め! 調子に乗って私をアゴで使ったりするから足元をすくわれる!!

 四天王のトップに立つのは私だ!!!


 …………


 ? 何だ?


 ………………へぇ?


 !? 貴様!? 何故……!!?


 なるほどね……こうやって心の中に入り込んで、内側から乗っ取っていたわけだ……

 信じられないけど。これが『術』って奴?


 や、止めろ!! 逆流する!!?


 これっぽっちのちっぽけな意識で……この私の――――

 レベル5の『パーソナルリアリティ』に勝てると思ってんの!!!!?


 やめ……! やめろ……!! 消える……消え…………っ!!!??


 人間の心を、舐めてんじゃないわよぉぉぉ!!!!!!


 ―――――――

 ――――

 ――


アラクーネ『ぎゃあああああああああああああああ!!!??』

美琴「うあああああああああああ!!!!!」


 悲鳴と共に、美琴の体から半透明の蜘蛛が飛び出してきた。

 無防備に跳ね上がった蜘蛛は、床に叩き付けられると、足をバタバタさせてもがき出した。
 その体がボロボロと崩れていく……


アラクーネ『馬鹿な……馬鹿な……!? 私が消滅する!?』

美琴「また私の勝ちみたいね……蜘蛛女!」

アラクーネ『嘘だ……上級妖魔でもない人間に!? 私が消滅させられるなんて……!!?』

 蜘蛛はしばらく苦しむようにもがいた。
 そして、やがて動かなくなる。

アラクーネ『……くく……クキャキャキャ……!』

美琴「可哀想だとは思わないわよ……あんたがやってきたことを考えたらね……!」

アラクーネ『そうね……報いだわ…………じゃあ、最期に罪滅ぼしでもしようかしら?』

 蜘蛛は、半分以上その体を消滅させながらも、余裕を取り戻したように語った。

アラクーネ『私の本来の目的はね……貴女を、御坂美琴を足止めすること』

美琴「私を?」

アラクーネ『そうよ……今頃、別の場所でアルカイザーを倒すための作戦が進んでいるわ……』

美琴「!!?」

アラクーネ『間に合うかしら……お友達が、まだ無事だといいわね?』


 そして、蜘蛛は甲高い笑い声を上げながら、完全に消滅した……



佐天「……」

 シュウザーは逃げた。
 突如現れたヘリに取り付き、そのまま逃げおおせた。

 そのさい、佐天に向かって一枚のデータチップを投げてよこした。


シュウザー『その中に、我が城の位置情報が入っている。来たければ来るがいい』


 シュウザーからの呼び出し。
 行く必要がある。


 絶対に。


 シュウザーは、確かに言ったのだ。


シュウザー『いま、別の場所ではアラクーネとメタルブラックが動いている』


シュウザー『貴様のおかげだよ。いまや俺は四天王のトップだ。いいコマが出来て作戦もスムーズだ』


シュウザー『貴様が俺を追っている間にな、コマに命じて拉致させた……!』




シュウザー『初春飾利をな……!!!』



 落ちこぼれのヒーローは、友達を守ることさえ出来なかった。




 【次回予告】

 すべてはアルカイザーを倒すため!!

 蘇ったメタルブラックは、その手を悪に染めたのか!?

 覚悟を決めろ! 友のために!!

 再会したアルカイザーと美琴は、初春の為に再び手を組む!!


 次回! 第十一話!! 【激震! シュウザー城の戦い!!】!!

 ご期待ください!!


 【補足】

 ・邪霊憑依について。
  原作では、霊を相手にぶつけて攻撃する術です。
  なお、原作では完全にアラクーネ=キャンベルです。取り付かれていたわけではありません。

 ・ナイトメアについて。
  失われた術系統、幻術の一つです。
  原作ではアラクーネも普通に使うことが出来ますが、このSSでは鈴科の能力を利用して使用しています。
  禁書に登場する能力の一覧に「幻術使い」があったので絡ませてみました。

 ・妖魔について。
  「人間」「妖魔」「モンスター」「メカ」が、サガフロに登場する種族です。
  妖魔は不老不死ですが、自分よりも上級の妖魔によってのみ消滅させられます。

 ・以前の補足でのミスについて。
  調べたところ、会社はキャンベル貿易という貿易会社だそうです。
  キャンベル自身の名前についても「シンディ」が名前だということを完全に忘れていました。
  ミスに関しては気付きしだい訂正と謝罪をさせていただきます。すみません。
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