【第三話・凶悪! キャンベルビルの蜘蛛女!!】


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黄泉川「鉄装! 早く来るじゃん!」

鉄装「は、はい! それじゃあ、ここでじっとしてて下さいね? すぐ救援が来ますから」

エレベーターガール「は……はい……分かりました……」

黄泉川「てっそーーー!!」

鉄装「はい! 今行きます~!」


 停止したエレベーターを脱出し、美琴、黄泉川、鉄装の三人は、キャンベルビルの奥へと向かった。

 一方、アルカールと再会し、再びアルカイザーになることを決意した佐天は――


佐天「うわ……警備員が囲んでる……!」

 美琴の助けになるため、キャンベルビルのすぐ傍まで来ていた。
 そこで目にしたのは、ビルの周囲を取り囲む大勢の警備員達。

佐天「ど、どうしましょう? これじゃ入れないですよ……」

アルカール「問題ない。元々真正面から突入するつもりはない」

佐天「と……言うと?」

アルカール「向かいにビルがあるだろう?」

佐天「ありますね」

アルカール「跳ぶぞ」

佐天「ですよね~……」


 【第三話・凶悪! キャンベルビルの蜘蛛女!!】




美琴「うおおらあああぁああ!!!」

 気合の咆哮と共に、御坂美琴の全身から放射状に電撃が放たれる。
 灯りの消えた真っ暗な通路を照らし出し、その奥から迫る黒い戦闘員達をショートさせた。


黄泉川「こういう暗い場所だと、あの妙な格好もちゃんとした迷彩になってるじゃん……」

美琴「と、いうより。元々こういう場所で活動する連中なんでしょう」

黄泉川「だったら、白昼堂々と生徒に襲い掛かるのはやめて欲しいじゃん!!」


 言い終わるや否や。黄泉川は振り返りざまに奇妙な形の銃を手に取った。
 その銃口から細い光の線が照射され、通路を横断する。

 「「ぎぎぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」」

 そこに居た数体の戦闘員は、光線が通ったライン通りに切断され、バラバラと崩れ落ちた。


美琴「うわ……それビームサーベルみたいな物? えげつないなぁ……」

黄泉川「人間相手にはこんなもん使わないさ。こいつらが出てきてから配備されたじゃん」

鉄装「なんでも最新の試作兵器で、『ハンドブラスター』って言うらしいよ」

美琴「……ふーん」


 警備員は能力を持たない人間。
 それゆえに侮っていたが、これだけの装備を持っているとは。
 尚且つ、それを使っている黄泉川という警備員は、元々戦闘のセンスが図抜けている。


美琴「正直、警備員に背中を任せるなんて思わなかったけど。驚きました」

鉄装「そ、そうかな~? エヘヘ……」

美琴「……」

黄泉川「つーか……結局ついて来ちゃってるじゃん……」

 不満げに、黄泉川は眉を顰めた。


美琴「あら。帰らせたかったらどうぞ。力づくで構いませんよ?」

鉄装「そんなの無理に決まってるじゃな~い!!」

 御坂美琴は、非常事態をいいことに、堂々と突入に参加していた。


美琴「でも。これだけの数を相手に、相手の手の内も分からないのに私を追い返すんですか?」

黄泉川「むぅ……」


 正直な話。レベル5の超能力者が協力してくれるというのは相当心強い話だった。
 しかも、黄泉川たちは美琴が怪物相手に圧倒する場面を何度も目撃している。

 「子どもだから」というだけで追い返すには、理由が足りなかった。


黄泉川「くそぅ……情けない大人じゃん……」


 それでも。黄泉川は内心納得できていない。
 彼女にとって子どもは守る対象。
 それを危険に晒すどころか、自分達を守らせるなんて。


黄泉川「いや。いざとなったら、私達が盾になってでも無事に帰すじゃん……!」



美琴「…………」





 「駄目ね」


 ビルの最上階。
 オーナーであり社長でもある、その女のために作られた部屋。
 その部屋のモニターでビル内の様子を眺めながら、キャンベルは一人ごちた。


キャンベル「やっぱり試作品なんて役に立たないわ。シュウザーめ……碌なモノを寄越さない」

 彼女の目に映るのは、次々と無残に破壊される己が部下の姿。
 それに対する同情の念は無く。むしろ憎しみさえこもっている。


キャンベル「仕方ないわね……この『肉体』も潮時か……」


 革張りの、見るからに高級そうなソファから腰を浮かし、ヒールの踵を鳴らして窓際へ向かった。

 そこから見えるのは、最先端科学の結晶。学園都市の街並み。
 空は、すっかり暗くなっていた。

キャンベル「この夜景は気に入っていたのだけど……」


 アイシャドーで彩られた目蓋を悩ましげに閉じ、再び開く。
 そこにあったのは人ならざる者の眼。
 紅い眼光。

 青く艶やかなショートヘアが、腰まで伸び真紅に染まる。
 血の気を失い、青白くなった肌の下で、筋肉が蛇の群れの如く流動した。
 背が破れ、黒く細長い、『節の付いた足』が次々と伸びていく。
 部屋に生臭い血の臭いが充満していく……


キャンベル「ああ……何だかお腹がすいたわ…………」



黄泉川「しかし妙な話じゃん」

 延々続く螺旋階段を上りつつ、黄泉川は疑問を口にした。


美琴「何がですか?」

黄泉川「いや。ここに突入する前に、一応この会社のことは調べたじゃん」

鉄装「きっと、怪しげな商売をしてる会社だろうって予想してたの。でも――」

美琴「健全な会社だった……ってことですか? そんなの、表向きはそうでしょ?」

黄泉川「まあ。普通に考えたらそうじゃん。けどなぁ……」

鉄装「それにしても、普通過ぎるんですよね」

黄泉川「結構大きいグループで、下部組織は一応精密機械やらも扱ってはいるじゃん」

美琴「じゃあ、そこがパワードスーツ用の部品を横流ししてたとか……」

黄泉川「ロボット用のパーツはあっても、戦闘用のはリストに無かったじゃん」

鉄装「他にも、農薬を使わない有機野菜とか果物とか……それで作ったジュースとか」

黄泉川「健全すぎるほど健全じゃん。隠れ蓑としては良いかもしれないけど……」


 何となく腑に落ちない。

 そもそも、昨日今日出来た会社ではない。
 現社長のキャンベルは、曾祖母から名前を貰った四代目。

 そんなに前から、ブラッククロスという組織が活動していたというのだろうか?


黄泉川「そう……そもそも連中は、一体いつからこの学園都市にいるじゃん?」

美琴「危ない! 端に寄って!!」


 美琴の声に反応し、黄泉川は螺旋階段外側の手すりまで飛び退く。
 片手で鉄装を引っ張り寄せつつ、何事か確認しようと振り返ると、
 螺旋階段のちょうど中心、空間が出来ている部分で球状の光が弾け、眼前まで迫ってきた。
 網目状に広がったそれは、しばらくバリバリと音を立てて猛り、数瞬後に消えた。


黄泉川「今のは……!?」

美琴「電気の網? それほど電圧が高かったわけじゃないけど……」


鉄装「だ、誰ですか!!?」

 鉄装が銃を構え、左右に振り回す。
 しかし、その銃口の先には影も形もない。


美琴「………………上!!」


 遅かった。

 光の網は再び、そして更に広範囲に広がり、美琴たち目掛け落下していた。


黄泉川「うわあああああああああああ!!!?」

鉄装「きゃああああああああああ!!!!?」

 光に包まれた黄泉川と鉄装が悲鳴を上げた。
 彼女達の全身に装備された機械という機械がショートし、火花を上げたのだ。

 『ライトニングウェブ……やっかいなモノは破壊させてもらったわ……』


 頭上から声が聞こえ、美琴達は視線を上げた。


鉄装「あ……ああぁぁぁ……!!?」


 遥か頭上から一本の糸でぶら下がり、こちらを見下ろす影。
 それは、巨大な蜘蛛だった。

 眼と髪は血の様な紅。肌は青白く生気が無い。
 肘から先は人ではなく。伸ばせば二メートルはありそうな、禍々しい虫の足になっている。
 そんなこの世のものとは思えない女の下半身は、黒と黄の混じったサイケデリックな蜘蛛の腹。

 人間さえ捕食してしまいそうな、巨大な女郎蜘蛛……!


鉄装「ば、化物……」

黄泉川「……怪人…………!! 今度は蜘蛛女じゃん……!!」


 「あらあら。人がわざわざ会いに来てあげたのに……その言い方は酷くない?」


 蜘蛛は、ニヤニヤと嫌らしく、こちらを見下しきった表情を浮かべる。

 が、その余裕の笑みは、頬をかすめた雷の矢に剥ぎ取られた。


 「貴様……小娘っ!!」

美琴「残念だけど。私にはあんなちゃちな電撃は効かないわ……」

美琴「……! 答えなさい! アンタたちは一体何!? ブラッククロスって――」

 「答える義務があるのかしら? エサ如き相手に……」

黄泉川「エサ……!?」

 「そうよ。私の巣にかかったエサ。だって、このビルは私の物だもの」

黄泉川「お前の……!? まさかお前はキャンベル……!!」

鉄装「ええ!?」


 二人の驚く顔が気に入ったのか、蜘蛛は上機嫌に笑い、芝居じみた仕草で答える。


 「名乗ったはずよ……私はブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネ……!」



 「ねぇ。お嬢さん?」

美琴「どうでもいいわよ!! アンタの名前なんてぇ!!!」


 叫ぶと同時に、美琴の体から高圧の電流が放たれた。


アラクーネ「オホホ! 品が無いわねぇ!」


 電流は階段に命中し、そこから更に放射状に広がった。

 激しい稲光が周囲を照らし出し、黄泉川と鉄装はその眩しさに目を背けた。

 電撃が止む。

 体を吊るす糸を引き戻して、電撃を回避したアラクーネはそのまま上階へ昇っていった。

美琴「ちっ……! 逃げた……!!」


美琴「黄泉川さん、鉄装さん! 大丈夫ですか!?」

黄泉川「あ、ああ……けど。装備がオジャンじゃん」

鉄装「これじゃあ……あんなの相手に戦えないですよ黄泉川先生……」

黄泉川「くそ……! こうなったらこの防具でぶっ叩いてでも……!」

美琴「ちょ!? 無茶しないで下さいよ!!?」


 「キーーーーーーーーーーーー!!!」

 話している隙に、 またも戦闘員に囲まれていた。
 その数ざっと二十――!


黄泉川「まだこんなにいたじゃん!!?」

鉄装「? あ!? ちょっと御坂さん!!?」


 二人が戦闘員に気を取られた一瞬をついて、美琴は階段の手すりへと駆け上る。
 そこから飛び上がると、上階の手すりへと引き寄せられるように体が浮かび上がった。

 二人には悪いが、アレと戦わせるわけには行かない。
 ここで戦闘員相手にてこずって貰おう。

美琴「一人ならこういう芸当も出来んのよね!」

 磁力を操り、金属製の手すりを次々に飛び移っていく美琴。


 黄泉川が連れ戻そうと駆け出すが、戦闘員が立ちはだかった。

黄泉川「くっそ……! やられたじゃん!!」

鉄装「ど、どうするんですか黄泉川先生!?」

黄泉川「とりあえず……今はこいつらを何とかするじゃん!!」

美琴「見えた……!」

 長い螺旋階段を上りきり、ビルの天井が目前に迫った。
 このまま最上階へと突入しようと、美琴が気合を入れた瞬間――


 「きゃあああああああああ!!!?」


美琴「悲鳴!? 上から!!?」

 階段の隙間を通過し、手すりを掴むと、その手を軸に体を翻し、着地した。
 顔を上げて悲鳴の主を確認する。


 「た、助けて……」

 若いOLが、体を震わせて立ち尽くしていた。
 雨に濡れた捨て犬のように、涙を浮かべた瞳でこちらを見つめ、助けを求めている。


 その全身に、二十センチほどの蜘蛛がびっしりとひしめいていた……!


美琴「……!?」

OL「く、蜘蛛が……! 突然襲い掛かってきて……!!」

 一匹の蜘蛛が、彼女の首筋に前足を添えた。
 その先端には鎌状の爪が生えている。

 「それ以上動くな」と、そう言いたいようだ。


美琴「本当…………姑息なマネするじゃない」

OL「え……?」


 美琴は迷わず雷撃を放つ。
 光速で走る雷が、『OLごと』蜘蛛を焼き殺した。

美琴「私がレベル5の電撃使いだって忘れてない? 分かるのよ。その体から出てる『電磁波』で」

 美琴の電撃で焼け死んだ蜘蛛の山。その中から黒焦げになったOLが、ゆらり……と立ち上がった。


OL「……容赦ないのね……人間じゃなければ良いってものじゃないでしょう……?」

美琴「そうね。勿論よ。でもあんた達は別」

OL「私の肌こんなにしちゃって……酷いわ……許せない!!!」


 OLの両脚がもぎり取れ、そこから巨大な蛇の尾が延びた。
 地面を素早く蛇行して美琴に接近し、あっという間に全身に巻きついた。


OL「そんな悪い子は! このまま絞め殺してあげるわ!!」


 が――


OL「ぴぎゃああああああああああああああああああああ!!?」

 ゼロ距離から放たれた電撃が、蛇の鱗さえ突き破り、その肉を焦がした。

美琴「許せないのはこっちよ」

 ザン! と、動かなくなった蛇女を踏みつけ、奥の通路へと歩を進める。


美琴「どこまで私をおちょくれば気が済むわけ……?」


 社長室と書かれたプレートを睨み付ける美琴。
 怒りのあまり、全身がビリビリと帯電していた。

 キンッ――――


 そして放たれた、本日二発目の超電磁砲。

 社長室のドアをぶち破り、上品なインテリアも、高価そうなワインも、ビル内を映し出すモニターも、
 部屋にあった全てを吹き飛ばしながら、ビルの壁を破壊してその先の敵をかすめた。


アラクーネ「危ないわね」

美琴「危ないからやったのよ」


 すっかり見晴らしの良くなった部屋の奥。
 ビルの外に、巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

 その中心に、ブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネの姿がある。


美琴「先手必勝!」

 もう一度、今度は直撃させようとコインを取り出す美琴。

美琴「……ッ!?」

 しかし、突然走った鋭い痛みに膝を付いた――


美琴「いっつ……!? 何よコレ……!?」

 右足のふくらはぎから血が滲んでいた。

 周囲を見回し、物陰で何かが動くのを見つけた。
 先ほどの蜘蛛だ。
 そのうちの一匹の前足の鎌が、赤く血塗れている。

美琴「コイツら……!」

アラクーネ「残念だけど。私社長なの。現場の仕事は部下の仕事よね」

美琴「はぁ!? ふざけんじゃ……!!」



アラクーネ『ミニオンストライク』



 アラクーネの腹部が裂け、中から数え切れないほどの二十センチの蜘蛛が噴出した。

美琴「どこにそんなに入ってんのよ!!? あんた堀ち○み!?」

 それにあわせ、室内に居た蜘蛛も同時に飛び掛る。


 全周囲包囲同時攻撃――――!!


 しかし、常盤台の超電磁砲には通用しない。
 美琴の周囲が輝き、襲い掛かった蜘蛛は一匹残らずスミになった……!


美琴「何度も同じことさせないでくれる?」

アラクーネ「やっかいな能力ね……」

美琴「じっとしてなさい。一瞬であの世に送ってあげる……!」

 美琴は立ち上がり、再び右手を突き出した。


アラクーネ「……その傷で撃てるのかしら? 当てる自信はあるの?」

美琴「……こんなかすり傷でどうこうなるはず無いでしょ。直撃よ……!」


 そう……と、アラクーネの頬が釣り上がった……

美琴「でも、その前にもう一度聞いておくわ」

アラクーネ「何かしら? 特別粋のいいエサですもの。特別に答えてあげるわ……」

美琴「あんた達――ブラッククロスって何?」


 威嚇するように、美琴はアラクーネを睨み付けた。
 右手はいつでもトドメをさせる様に構えられたまま、照準はアラクーネの頭部に定められている。

 その真剣な姿を嘲笑うかのように口元を歪ませて、アラクーネは真実だけを口にした。



アラクーネ「悪の秘密結社よ」



 馬鹿馬鹿しい……

 これ以上何も答えないと判断し、親指でコインを弾く。
 次の瞬間には決着が付いている。

 筈だった――――


 キィィィィィィィィィィィィン……!!!


美琴「……!!? な、何この音……!!!?」

 まさかキャパシティダウン……!?


 キャパシティダウン――。
 美琴が思い出したのは、以前自分を苦しめた、ある科学者が用意した兵器。
 あれは、高位の能力者であればあるほど、演算を乱され苦しむ対能力者用の音波を放った。


 違う――!
 あれはこんな生易しいものじゃ……なら、何!?

美琴「……!? これって……」


 音は、アラクーネの喉から発せられていた。

 音が止む……


アラクーネ「……ふぅ……こんなものかしら」

美琴「超音波攻撃のつもり……? こんなもので演算を掻き乱されるほどヤワじゃ――」


 ズキンッッッ!!!!!


美琴「があああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」


 何事が起こったのか?

 右足に激痛が走った――!

 まるで千切れ飛んだかのように。まるでねじ切れたかのように。

 美琴の右足の、あの『かすり傷』が痛む――!!!


美琴「な……なに……これぇ…………!!!!?」


 全身から脂汗が噴出す。
 右足のかすり傷だけではない。全身が痛み出す――!!

 立ち上がることなど、出来ない。

 かつて味わったことの無い痛みに耐えかね、苦悶の表情を浮かべる美琴の耳に、癇に障る声が届く。


アラクーネ『ちょっと、痛覚を倍増させてもらったのよ……!』

 感覚器が受け取った情報は、電気信号として神経を伝わる。
 神経からの情報が真っ先に向かうのは大脳。
 そこで自分の状態を分析し、的確な感覚を体に伝える。

 聴覚も、痛覚も、それは同じだ。

アラクーネ「さっきの声で、大脳の働きを少し弄ってみたの……」


 通常伝えられる痛みを仮に『1』として、今の美琴の脳はそれを『100』と感じている。

 注射針が刺さる瞬間のチクリという痛みが、その百倍。
 丸太の杭で貫かれたように感じたら……?

 戦闘の繰り返しで疲労した筋肉。疲労による筋繊維の消耗をその百倍。
 全身の筋肉を擦り削られたように感じたら……?

 小さな鎌で切られた、血が滲む程度のかすり傷がその百倍。
 チェーンソーで切り刻まれたように感じたら……?


アラクーネ「どうしたのお嬢さん?」

美琴「………………!!?」

アラクーネ「ほら。撃ってご覧なさいよ」


 撃てるはずが無い。
 今の美琴は、このまま痛みで気を失ってもおかしくないの状態なのだから。


アラクーネ「じゃあ、トドメといきましょう」

 アラクーネが右腕を上げた。
 その先端に、一匹の蜘蛛が鎌をもたげて立っている。
 その様子は奇しくも、美琴の超電磁砲の構えのようだった――――

 『シャイニングキック――――!!!』


 掛け声と共に、紅い弾丸が駆け抜けた――!

アラクーネ「……? っ!!? あああああああああああああああ!!!!??」


 いつのまにか、アラクーネの右腕が消し飛んでいた。
 その断面がショートし、火花を発している。


アラクーネ「手! てて……てててて手がああああああああああああ!!!!?」

 慌ててその火を消化しようと暴れるアラクーネ。

 その腹に――


 『ブライトナックル――――!!!』


 閃光が、再び夜空に輝いた――


アラクーネ「があああああああ!!? 寄るな! 寄るなあああああ!!!」

 残った左腕の鎌を振り回す。
 何度も何度も、器用に動く鎌を振り回し続けると、その一振りが運よく敵の皮膚を切り裂いた。

 ダメージを受けた敵は、距離を開けようと後ろへ飛ぶ。

 同じく。アラクーネもまた、得体の知れない乱入者との距離を開く。

美琴「……あ、あんた……は……!!?」

 美琴の目の前まで近づいた乱入者の姿が、月明かりに照らし出される――

アラクーネ「貴様は……貴様は……!!」

美琴「あんたは……!!」



 「「アルカイザー……!!!」」



 紅い鎧のヒーロー。
 アルカイザーが再び、学園都市に現れた――!

 地上百メートルを超えるビルの最上階は風が強く。
 蒼いマントが音を立てなびいている。
 紅い拳を握り締め、隙なく構えたアルカイザーは、アラクーネを真っ直ぐに見つめていた……


 正体不明のヒーローは、やはりブラッククロスと戦うために現れたのだろうか?

 美琴は、痛みを堪え意識を集中させた。
 今はまだ、気を失うわけにはいかない――!


 と――


アルカイザー「大丈夫……ですか?」

美琴「……え…………?」


 アルカイザーはアッサリ構えをとき、美琴を振り返った。

 心配されているのか?
 敵が目の前にいるというのに、わざわざ振り返ってまでこちらに話しかけるなんて……

美琴「え……ええ……大丈夫……っ」

 感覚が、大分戻ってきていた。
 元々、そんなに長時間効果のある技では無いようだ。

 しかし、まだ戦闘が可能な状態ではない。
 あくまで、意識を保っていられる程度だ。


アルカイザー「そうですか……良かった」

美琴「子ども……やっぱりあんた子どもなのね……!!」

 この高い声。このシルエット。間違いない!

 それも、おそらく女。
 自分と同年代の女の子だ――!!


アルカイザー「はい? ……あ!」

 しまった! と、アルカイザーは口を押さえた。


 ……仮面なのに。


美琴「………………」

 こんな奴に助けられたのか……

美琴「!? 危ない!!」


 戦闘中に、敵に背を向けて話し込むなんて、はっきりいって論外だった。

 それも、相手はレベル5の超能力者を翻弄するような怪人。
 背後から迫っていた無数の蜘蛛が、アルカイザーの全身を切り刻んだ――!


アルカイザー「…………!!」


 まずい――――!!

 たった一つのかすり傷がアレほどの痛みを発したのだ。
 それが全身に……!


美琴「あ、アル……カイザー! アイツの声に――!!」

 あいつの声に注意して。

 言い終わる前に――


アラクーネ『痛覚倍増』


 キィィィィィィィィィィィィン……!!!


美琴「ぎっ…………!!?」


 美琴に再び激痛が走る。が、さっき以上に痛みが増すことは無かった。
 どうやらこれが上限らしい……

 今度も何とか耐えられた……
 だが、自分は助かっても彼女は…………!!

アルカイザー「~~~~~~っ!! あーっもう!!! うるっさいなぁ!!!!!」



アラクーネ「…………………………は?」


 理解できない光景。

 紅いヒーローは、耳を仮面の上から塞いだだけで、平然と立っていた。

 立っているどころか、そのままスタスタと蜘蛛の巣へ歩を進める。


美琴「………………何……で?」

 会話は出来ているのだ。
 あの仮面に防音機能がついているとは考えにくい。

 ならどうして?

 たった一つのかすり傷が、耐えられないほどの痛みなのに。
 全身を切り刻まれたアイツが、どうして平然と歩けるのか。


アルカイザー「さあ。さっさと終わらせようか……!」


 アルカイザーの拳が輝く。

 右手を引き、アラクーネに狙いを定めるように腰を落とした。

アラクーネ「……っ!!」

 勝てないと踏んだのか。
 危機を察知したアラクーネは、臀部から白い糸を噴出し隣のビルへ吸着させた。
 そしてその糸を巻き戻しながら七本の足で飛び上がる。


美琴「あいつ……! 逃げる気!?」

 身を乗り出すが、再び走る激痛に動きが止まった。

 視線だけを戻すと――


アルカイザー『アル……』


 その場を動かないアルカイザー。

 右手の輝きが増し、光の塊がみるみる膨れ上がっていく。


アルカイザー『ブラスターァァァァァァ!!!』


 その右腕を真っ直ぐに振りぬき、腕にまとわり付いていた輝きが撃ち出されるた――

 無数に分かれた光の弾は、まるで流星のように夜空を駆ける。

 照準は隣のビル。その屋上に着地したアラクーネ――――!


アラクーネ「ひッ!? も、燃え……キャアアアアアアアアアアアア!!?」

 アルブラスターに打ち抜かれた大蜘蛛は、体中から火を噴出し、しばらくの間もがき苦しんだ。
 炎に巻かれた蟲の末路……
 足も髪も、全てがボロボロと崩れていき、やがて、体を丸めて一塊の炭になった……

美琴「……」


 死んだ敵には、もう興味は無い。

 そこからは何の情報も得られない。

 なら、今は――――


美琴「アルカイザー……!」


 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、意識を保つ。

 この紅い女を問い詰める…………!


美琴「あんたは……何者なの……!?」


 強い風が吹いた。

 風に乗って、アラクーネの体がサラサラと巻き上げられて跡形もなくなった。

 キラキラと輝いているのは、体に金属が使われているからか……

 蒼いマントをなびかせ、紅いヒーローが、美琴に近寄ってくる。

 あと数メートル。


美琴「そこで止まって……っ!」

 油断は出来ない……!

 正体が分かるまで……敵か味方か……!




アルカイザー「良かった」

 美琴は――


アルカイザー「良かった。その程度の怪我なら、心配要りませんよね?」


 警戒も疑問も失った――――




美琴「…………………………………………あ?」


 満身創痍だと思っていた。

 が――

 客観的に見て、自分の姿はどう見える?

 目立った外傷はふくらはぎのかすり傷一つ。
 それも、血が滲む程度の。


 それだけで。たったそれだけの傷で動けない……?


アルカイザー「すぐに警備員が駆けつけるはずですから。無茶しないでくださいね」


美琴「――――――」

 今。私はこいつに心配されているのか?

 全身を切り刻まれても平然と戦ったこいつは、私をどう見てる?

 心配してる?

 心配して優しく声をかけてる?

 ヒーローだから?

 哀れな弱い一般人に――――


 同情してる――――?


美琴「……けんな」

アルカイザー「はい?」

美琴「ふざけんなあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 頭が真っ白になった。

 美琴は握り締めたままだったコインを――



 弾いた――――



黄泉川「な、何事じゃん!!?」

鉄装「じ、地震ですかぁ!!?」


 黄泉川と鉄装が階段を上り終えたとき。
 ビル全体が揺れた。

 さっきまでも何度か小さい揺れを感じていたが、今度のは特別大きい。


黄泉川「……ちっ!! まさか……御坂美琴!!」


 最悪の光景を想像し、黄泉川は自分が足を怪我していることも忘れて走り出した。

 そして、破壊されたドアを潜り抜け、部屋へ飛び込み――




 えぐれた床の前で、御坂美琴が一人倒れているのを発見した。




黒子「お姉さま……」


 白井黒子は、キャンベルビルに駆けつけていた。

 警備員が邪魔をしてそれ以上近づけまいとしたが、彼女のテレポートの前では無力。
 黒子は玄関ホールの中へと足を踏み入れた。


黄泉川「お前……風紀委員の……」

 そこへ、美琴を連れた黄泉川、鉄装が降りてきた。

 力無くうな垂れる美琴は、鉄装に肩をかりて、かろうじてヨロヨロと歩いていた。


黒子「お姉さま!!」


 黒子はビルの外から、上空で行われている戦いを見ていた。
 紅い鎧と大蜘蛛が数度激突し、最後には逃げ出した蜘蛛が撃ち抜かれ、おそらく死んだ。

 そこに、愛する御坂美琴の姿が確認できず、居ても立っても居られなくなったのだった。


黒子「心配しましたのお姉さま! 姿がお見えにならないので、よもや中で力尽きているのではと――」

 それが余計なことと知らず。黒子は素直に、自分の気持ちを伝えてしまった――


美琴「心配した……?」

黒子「はい! 黒子は心配で心配で……」

美琴「はっ……はははっ…………!」

黒子「お姉……さま?」





美琴「触るな」




佐天「はぁぁ……どうしよう……」


 憂鬱だ……

 自宅に帰ってきたものの、問題は山積み。


佐天「このピアス穴……なんて言おう?」

 鏡を覗き込み、自分の耳に開いた小さな穴を観察する。


佐天「ああああー……もう! アルカールさんも何でわざわざピアスなんかにしたのさー!!」

 洗面台に置かれた二つのピアス。
 銀製だが、ただの銀ではない。


アルカール『そのピアスはな。「精霊銀」で出来ているのだ』

佐天『精霊銀?』

アルカール『害になる音波だけを弾き飛ばす効果がある金属だ』

佐天『へ~。不思議な物なんですね~』

アルカール『調査で分かったのだが。アラクーネは人の神経を音波で操ることが出来るらしい』

佐天『神経を……?』

アルカール『そう。だから、奴と戦うのならそれを着けなければならない』

佐天『え? でも、私ピアスなんて……別に学校で禁止もされて無いと思いますけどでも――』

アルカール『問題ない。すぐに開くし、変身すれば血も止まる』

佐天『は? え!? ちょ!! ま!!??』


 キャアアアアアア~~~

佐天「……」

 いや。

 そんなことはどうでもいい。

 どうでもよくないけど。


 それより――


佐天「御坂さん……」


 本気で、私に向かって超電磁砲を撃った……?


 睨んでた。

 まるで誰かのカタキみたいに。


佐天「何で……」


 いや。

 いやいや。

 別に『私』に向かってじゃないよね。

 あれは、『アルカイザー』に向かって撃ったんだ。


佐天「うん……そう……私は、御坂さんに嫌われてなんて居ないはず」


 そもそも、どうして御坂さんは……?

佐天「勝っちゃったから……?」

 御坂さんが勝てなかった敵に勝っちゃったから……

 でも、あれはアルカールさんが助けてくれたからで。
 たまたま、私は対処法を知っていたからで。

 別に御坂さんより強いわけじゃ……


佐天「――――――!!?」


 ………………御坂さんより強い?


 誰が? え? 私――――?


佐天「い、いやいやそんな……! あはは!」


 もし戦ったら、どうなるんだろう?


佐天「負ける負ける! そんなまさか……流石に、ねぇ?」


 勝てる。


佐天「勝てない」


 勝てる。


佐天「………………」


 その夜は、何時までたっても胸の鼓動が収まらなくて。


 結局。朝まで寝付けなかった。


 落ちこぼれのヒーローは、胸に歪なモノを感じた。




 【次回予告】

 ヒーローとして戦うことを選んだ佐天!!
 街に跳梁跋扈する怪人達を退治するため、日々アルカイザーとして駆け回るのだった!!

 そんなある日!! 以前知り合った幻想御手事件の被害者達と再会する!!

 お互いの無事と近況を確かめ合う佐天たちだったが、そこへブラッククロスの魔の手が迫る!!

 次回!! 第四話!! 【困惑! アルカイザー変身不可能!!】

 ご期待ください!!


 【補足という名の言い訳のコーナー】

 ・痛覚倍増について。
  一番ツッコミ入るだろう改変点。
  原作では邪術の一つで、効果は「減った体力分のダメージを与える」というもの。
  つまり音波属性の攻撃ではないので、本来精霊銀では防げません。
  ですが、サガフロの二次創作ということで、個人手にはやっぱり音波耐性(=精霊銀装備)はやっておきたかった。
  それと、美琴には効くけど佐天には効かないという状況が必要だったので。
  大脳やら何やらの解説? あれはまあ適当に「ふ~ん」ぐらいなもんでスルーして下さい。

 ・ライトニングウェブについて。
  原作では「メカをスタン(1ターン行動不能)にする」という技。
  警備員に脱落してもらうため、機械をショートさせるという風に解釈しました。

 ・堀ち○み
  ごめんなさい。

PS.黄泉川さんが使ってたハンドブラスターは「ブラスターのリーチでブラスターソード」を使っています。
 ゲームに登場した警察『パトロール』の標準装備ですね。
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