学園都市第二世代物語 > 04


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04 「新学期」

 

4月。中学3年生の新学期が始まっていた。

「行ってきま~す」

「気を付けていってらっしゃい」  母があたしを見送る。

あたしはいつものように……1人で学校に向かった。



麻琴は結局中学3年生の新学期を学園都市で迎えることになったのだった。

学校は私の母の母校、柵川中学校だそうだ。

是非常盤台中学に、と言う声が他ならぬ常盤台中学校やら教育委員会やらいろいろあったらしいが、「レベル1の人間は常盤台中学には入れないはず」 という他ならぬOGである上条美琴委員の正論が通り、麻琴は柵川中学校に決まったそうだ。

ご両親は学園都市にいるわけだが、柵川中学の方針で麻琴も学生寮に入ることになったらしい。

ホームシック対策や安全上の問題から最初は2名部屋での共同生活をすることになっており、麻琴も例外ではなかった。

ただ、麻琴は3年生からの転入なので相方の選択にちょっと時間がかかったらしいが、同じ3年生の天川さんという人が面倒を見てくれることになったとの事だった。

ちなみにこれらの話は全部詩菜大おばさまから聞いた話。なんで麻琴は直接電話してこないんだろう?

というか、あたしから電話してもいつもお話中だし。忙しいんだろうか?

まぁ、麻琴のことだからあっちでもうまくやって行けるだろう、とは思っている。

私の一件以来、麻琴もあたしを同時に引っ張り込むことはいったんは諦めたらしい。

それでも「高校からは絶対来てよね」と言ったことからみて、完全には諦めきっていないのは間違いない。

あたし自身は、というと、昏倒してしまったことからむしろ能力発現を恐ろしく思うようになってしまい、麻琴には悪いが、平凡な普通の女子中学生ー女子高生の道を歩こうと考えていた。
 

 

「かあさん、かあさんの能力ってどんなものなの?」

美琴おばさまや麻琴たちと別れ、自分たちの家に帰ってきたあと、あたしは母に聞いた。

「あーあ、ばれちゃったねぇ……」  と母はあたしに背を向けたまま答えた。

「利子、あんた、知りたいの?」

あたしは下を向いてぽつりと言った。

「だって、あたしも能力者なんでしょ? だからあたしにジャマー付けてるんでしょ?」

「疲れてるんでしょ、さっさと寝なさいな」 あたしを見ずに、母はスーツケースを床に広げて中のものをぶちまけ始めた。

「母さん、はっきり言ってよ。どうして自分のことを隠してたのよ? どうしてあたしにウソ言ってたのよ?

どうしてあたしにジャマーをつけたのよ? はっきり言ってちょうだい!」

あたしはまたぽろぽろと涙を流しながら母に抗議した。

(ああ、ずっと昔、子供のときにあたし、こうしてかあさんにくってかかってたな……)  

遠い記憶がよみがえってきた。

母は振り向き、とても怖い顔をしながらあたしに向かってきた。

(あの時と同じ……かな?)

だが、母の態度はあの時とは違った。母はあたしをしっかりと抱きしめたのだ。 

(母さん、泣いてる……の?)

「としこ、おまえはあたしの、母さんの大切な、とっても大事な子……ごめんね。母さんを許して。お願い。

本当にごめんね……」

あたしは本当に驚いた……。 母さんが泣いている。あの、強かった母が、あたしの母さんが。

母はとっても弱く脆くなってしまっていて、いまにも壊れそうになっていることに初めて気がついた。

「おかあさん……」

こんなに弱々しげな母を見るのは初めてだった。あたしは母にこんなに大きなショックを与えてしまったのだ……。

「ごめんなさい、おかあさん。本当にごめんなさい。もう絶対心配かけないから、もう安心して。あたしは佐天利子ですから、強い子ですから、ね、かあさん?」

すっかり立場が逆転してしまっていた。

あたしは母さんを守らなきゃいけないんだ。

あたしはもう子供でいちゃいけないんだ、あたしはオトナにならなきゃいけないんだ!

「ぐす、な、なに生意気な口叩いてるの、あんたはあたしの子供なんだからね、いくつになってもあんたはあたしの娘なんだから、絶対忘れるんじゃないよ?」

「わ、わかってる。あたしは……ちょ、ちょっと母さん、顔、ひどいよ?」

「ちょっと、何言ってるの? 誰のせいでこうなったと思ってるのよ、ってあんたも自分の顔みなさい!」

親娘揃って涙でぐしゃぐしゃの顔をお互いに見て、あたしたちは吹き出し、「あはははは」と笑い始めた。


――― さっき泣いたカラスがもう笑った―――  


「久しぶりに一緒に風呂入ろうか?」  母があたしに聞いてきた。

「いいよ? じゃ母さん、あたし背中流したげるから」  あたしも笑って母に答えた。



風呂からあがったあたしたちはあっという間に睡魔に襲われて眠りについてしまった。

結局母の能力は何だったのか、あたしに何故AIMジャマーがついているのか、聞きそびれてしまった。

まさか、うまくはぐらかされた……ってことはない、よね?
 

 

3年生になって、クラス替えになったあたしは陸上競技部に入った。

なんで今頃運動部に入ったのか?というと、新しく出来たお友だちが陸上をやっていたから、というよくあるパターンだ。

加藤裕美(かとう ひろみ)ちゃんと三田桂子(みた けいこ)ちゃんだ。

三「リコ! ね、今日遊びに行って良い?」

佐「いいけど? じゃ一緒に帰ろ?」

加「えー?ならあたしも行くから、ちょっと待ってて!」

あたしたちは同じクラス。さっそく付いたあだ名が「陸上かしまし娘」って、すっごく時代物の名前だった。

あたしは筋肉の付き方が短距離ではなく中長距離向き、ということでとりあえずトラック競技主体で行くことになった。

裕美ちゃんは短距離の選手。小柄だけどうちの中学では100m走ではトップで、東京都の大会にも出ているのだ。

桂子ちゃんは身体がしなやかでかつバネもあるので走り高跳びの選手だった。



…… そんなことより、だ。電話しなきゃ。

「もしもし?」

「はいはい? としこさん、どうしたの? 今日はウチだわよね?」

詩菜大おばさまが出る。

「あのね、おともだちを2人連れて行って良いですか?」

「あらあら、それは嬉しいわ、賑やかになりそうね? 素敵だわ。お願い、来てちょうだい? 待ってるわ!」

よし、オッケー。大おばさまは今日はご機嫌麗しいみたい。3人で突撃だ。
 

「ひろぴぃ、ケイちゃん、あのね、今日はウチ、誰もいないから、隣の隣に行くから」

「えー、リコんちじゃないところなの?」

ひろぴぃ(加藤裕美)が「?」を掲げて聞く。

「うん、あたしの育ての親の家、ってところかな? 第2のふるさとだねー」

「ちょっと、リコ? 育ての親ってどういうこと? それに隣の隣、って何よ?」

とケイちゃん(三田桂子)もあたしに聞く。

「まぁ話せば長くなるからさ、さっさと行こうよ。おなか空いたでしょ?」

まぁ、普通は聞いてくるよねー、とあたしはそう思いながら食い物ネタをふる。

「もっちろーん! 色気より食い気だよーん」

ひろぴぃが真っ先に食いつく。

「あんた、中学3年で乙女捨ててたら人生終わりだよ?」

ケイちゃんが冷やかす。

「うるさーい!」

ひろぴぃが叫ぶ。

これじゃたしかに「姦しい」、女三人、字の通りだよねぇ、はぁ。
 

 

隣のとなり、上条家では麻琴がいなくなり、加えてまたもや刀夜おじさまが姿をくらましたことから、詩菜大おばさまは一人きりになってしまい、その余波はうちにやってくることになった。

「佐天さん、あなた今度出張はいつなの?」

「いやー、GW前にはたぶん何もないかもしれません。ただ、5月後半あたりからまた半月ぐらいは……」

「まぁ、あと1ヶ月もわたしはこの家で、たった一人きりで過ごさなければならないの? 

お願い、今度としこちゃんとウチにご飯食べに来て頂けないかしら? 寂しいのよ」

母にしてもあたしにしても、詩菜大おばさまには絶対に頭があがらないのは既にご存じのことと思うけれど、少なくとも最低3回に1回は言うことを聞かないわけにはいかないので、特に何もなければ土日は上条家に行くか、あるいはウチに詩菜大おばさまを呼ぶか、という形になっていた。

ということで、今回はお友だちを連れて行くことにしたのだった。



「……もしかして、<上条>さんって、あの上条さん?」  ひろぴぃが聞いてきた。

「そうよ、上条麻琴って覚えてない?」   あたしが聞き返す。

「えー、あのビリビリ中学生って子だよね?」  ケイちゃんが言う。

あー、やっぱりまだ覚えられてるわ……美琴おばさんが聞いたら激怒するあだ名だったよねー、確かこれって。

……血は争えないねー、親娘そろって同じあだ名ってのは。

「リコがなんであの子のウチにいるわけ?」  ケイちゃんが尋ねるのはもっともだ。

「まぁね、話をすると長いんだけど、それよりおなか減ったよ、あたし」

「あたしも~」

「同じく」

というわけで、あたしたち3人は詩菜大おばさまのお家にご飯を食べにお邪魔した。

「ただいま~、お友だち連れてきました~」

「あらあら、お帰りなさい、利子さん。まぁまぁ、お二人さんよくいらしたわね、さぁさぁ、どうぞお入りになって?」

詩菜大おばさまがニコニコしながら出迎えてくれた。

「失礼致します~」「おじゃま致しますぅ~」 ひろぴぃとケイが挨拶して上がった。

 

「「「いただきまーす!」」」

あたしにひろぴぃにケイちゃん、中3トリオ(陸上かしまし娘)は詩菜大おばさまのところで夕飯を取っていた。

「どうぞどうぞ、たんと召し上がれ。」  大おばさまはモリモリ食べるあたしたちを、とても楽しそうに眺めている。

「美味しいぃ~!」 ―― パクパクパク ――  

「はぁ、し、しあわせですぅ~!」 ―― もぐもぐごっくん ―― 



最初はひたすら黙々と掻き込む2人だったのだが……

「ちょっとひろぴぃ、あんたいつまで食べてんのよ? ってせめて食い気は縦にのばしなさいよ。

横に広がったら悲惨よ?」   ケイちゃんがちょっかいを出し始めた。

「ひ、ひっどーい、ケイだってちっとも胸に栄養行って無いじゃないの!?」  ひろぴぃが正面から受けて立つ。

「……ふっふっふっふ、ひろぴぃ? あんた、この、アタシを怒らせたね? わかってるよね、あんた?」

「ちょっと、二人とも、しょうもないこと止めなよ」   おまえら、ここは他人(ひと)のウチなんだよ?

「「 リコは黙ってて!」」  ひろぴぃとケイちゃんが、ケンカしていながらきちんとハモってあたしにビシッと言う。

あのねぇ、あんたら、ひとのうちでごちそうになってるんだよ? わかってる? あたしは胸の中で言う。

「そもそもリコの胸は反則なのよ!」  ケイちゃんが更にビシっと追撃してくるが

「それはケイがなさすぎ……ぐふっ!」  ひろぴぃがケイちゃんのチョップを食らった。

「あんた、もう背丈伸びなくなってもアタシのせいじゃないからねっ!」  とケイちゃんがひろぴぃに宣言する。

「いいもん、だったらあたしはロリ路線で生きてやるー! ロリで巨乳は無敵なんだからね!」  

ひろぴぃがケイちゃんに逆に宣言する。

「ふ、シリコン入れれば誰でもなれるわ、そんなもの。

いいこと? 時代はつるぺたよ? 貧乳はステイタスなんだからね?」

ケイちゃんが切り返すが、

「ふーん、じゃそのテーブルにある1㍑パックはなんなのかな~?」  とひろぴぃの逆襲に会う。

「運動選手にはカルシウムが必要だからよ!」  と言いながらごくごくとケイちゃんが飲む。

「あたし、あんなに飲めないな……」  と小さな声であたしは言ったはずなのに、

「「黙らっしゃい!」」  とまたハモり返されてしまった。

正直、あたしの胸はこの半年で大きくなったと思う。中学生にしてはありすぎる気もする。

母も中1では十分大きかったらしいが……。

「ないよりあった方が」という人もいるが、あればあったで悩むこともある。

まず異性の目がいやだ。

すれ違う男のひとの視線はまずあたしの胸を見て、顔を見て、そしてまた胸を見て行く。頬が緩んでいる人もいる。

ヘンタイだ。気持ち悪い。

もういやだ。

何気ないフリをして触って行くとんでもないエロ親父もいる。あたしのお父さんはこんなことしなかった……よね?

次に、肩が凝るし、走れば邪魔だ。陸上やってみて心底思う。なまじあるから押さえつけるのも大変。

さらし1本胸に巻いて、とはいかないのだ。

ケイちゃんは楽でいいよなー、と思っていたら 「バカっ!」 とひっぱたかれた。食事中になにするのよ!

「あんた、胸、テーブルに乗っけてるでしょー? それ、あたしに対する嫌がらせかいっ?」

ケイちゃんが半分本気で、半分笑いながらあたしをもう一回ひっぱたいた。

「だって、重いんだもん……」


     ―――― ダメだ、こいつ ――――

     ―――― いっぺんやったろか? ――――

     ―――― おお、いってまえ! ―――― 


二人が顔を見合わせてなにやら、「?」とあたしが思うまもなく、

     ―――― スパァァァァァァァン ――――    

小気味よい音が部屋に響いた。ひろぴぃがどこから出したのか、ハリセンがあたしのアタマに炸裂したのだった。

「いったぁーい!」

「それぐらいガマンしろーぉ!」

あっけにとられていた詩菜大おばさまが、

「こらー! あんたたち、いいかげんにしなさーい!」

……ずっとニコニコしていた詩菜大おばさまもさすがにぷっつんしてしまった。

「すみませーん」「ごめんなさい」「失礼致しました……」

あたしたちは正気に戻り? 小さくなって、それでも「残りのご飯を全部食べきった」のだった。

 

「すごいわぁ、あなたたち、ホントに全部食べちゃったのねぇ、おいしかった?」 

大おばさまは驚きながらも嬉しそうにあたしたちに尋ねる。

「ええ、すっごく美味しかったです」

「今までで一番しあわせですぅ……」

「おばちゃん、ありがとう」

「どういたしまして。全部食べてくれて嬉しいわ♪ 作った甲斐があるわぁ……、ね、また来てちょうだいね。

とっても楽しかったけど、ハメ外しすぎるのはダメね、わかった?」

「「「 はーい! ごちそうさまでしたー! 」」」

あたしたち「かしまし娘」は綺麗にハモって御礼を述べたのだった。



「……というわけなの」   食事後、上条家でのあたしの部屋で、陸上かしまし娘はおしゃべりタイム。

「ふーん、リコのウチ、いろいろあったんだねぇ……」   ケイちゃんが感心したようにうなる。

「まるでドラマみたいだねぇ……」 ひろぴぃが正直に感想を述べる。

そう、ウチはある意味すごくドラマ的な歴史の持ち主かも。

「それで、リコのママは今出張してるってわけ?」   ケイちゃんがまた訊く。

「すごーい、世界を股にかけて活躍する学者さんなんだぁ? あたし、憧れちゃうなぁ……」

実は、母から「1つ仕事を休むことにしたの」という話を先日聞いたのだった。

理由は「ちょっと身体がきつくなってきたから」と言っていたけれど、あたしはそれだけじゃない、と思っている。

この間の事件は母に強い衝撃を与えていたのは間違いない、とあたしは見ている。

 

 ――――――   「おかあさん、今度はいつ来るの?」 ――――――

 

たぶん、あのとき以来の衝撃だったと思う。

中学生という微妙な年頃のあたしに、あまりにも注意を払わなさすぎた、それであんな形でその報いが返ってきたのだと母は受け止めて、自分を責めていたらしい。

後で知ったことだが、母も中学1年生の時に誰にも相談できない事で悩み、その結果半死半生の境地をさまよったことがあったらしく、その時のことを思い出したのだったそうだ。
 
……

「リコ、寝ちゃったの?」   ひろぴぃがあたしの顔をのぞき込んでいた。

「わっ!? 近いよっ!」「キャッ!!」  

あたしはあわててしまい、のけぞった拍子にケイちゃんの胸に思い切りアタマを当ててしまったので、2人ともひっくり返ってしまった。

「ちょ、ちょっと痛いよ~、リコったらぁ~」  ケイちゃんがムッとした顔で抗議する。

「ご、ごめんなさい」   謝って、あたしがアタマを上げたその時、

「あれ?」     ケイちゃんが不思議そうにあたしに訊いた。  「リコって髪染めてるの?」

「……」

「あんたの髪、ホントは栗色なんだ?」

バレたか……。

つむじ部分のところに、伸びた髪の根元にわずかに地毛の栗色が見えていたらしい。

「えー、そうなんだぁ?」  ひろぴぃがバッと飛んできて、あたしのアタマをかき回す。

「こらこら、何してるの、あんたは?」  あたしはたしなめるが、

「やーん、気持ちいい~」  とひろぴぃはあたしのアタマをなで回すのが気に入ったらしく、指で弄くり始めた。

「いつから染めてるの?」  ケイちゃんが訊いてくる。

「うー、覚えてない。ずっと、昔からそうだったの。母が買ってきて、しょっちゅう染めてたの。

だから普通のウチでもみんなそうやってるんだと子供の時は思ってた……」

「あんたのウチってホント、変わってるよねぇ」   あきれたようにケイちゃんが言う。

「え、でも、ウチの学校は髪染めたら校則違反になるよね?」   ひろぴぃが「?」をアタマに掲げている。

「だから、それはピンクとか緑とか青がダメなだけだっつーの。

まぁ、確かに黒く染めるのも文章だけ読むとアウトって気もするけどさ、奇抜な色はだめだ、と言う本来の意味からすればOKなんじゃないの? 

髪が黒じゃないと、地色だっていちいち説明するのも大変だし、結局黒に染めろって言われるだろうしさ。

リコのお母さんはそれを見越してリコの髪を黒くしてたんと違うかな……?」 

ケイちゃんが考えながら言う。たぶんそんなところだろう。
 

「そういや、リコのお母さんは栗色なの? まさかキンパツとかじゃないよね?」 

ひろぴぃが興味津々の顔で訊いてくる。

「キンパツのムチムチだよーん♪」  あたしが答えると

「うそっ!? そうなの? ガイジンなの?」  ひろぴぃは目を丸くする。

「うそに決まってるでしょ、あたしがガイジンの娘に見えるかいって? 

黒髪のストレートだってば。スタイルはまぁ見れる方だと思うよ」

「おうおう、自慢ですかぁ? アハハ、羨ましいねぇ……じゃ、お父さんがきっと栗色だったんだろうね?」  

ケイちゃんが笑う。

「あたしはわからないけど、そうなんじゃない?」  あたしも軽く答える。 おとうさん、か……。

「ふーん、でもリコの髪、ウェーブしてるところも素敵だよねー。羨ましいなぁ……。

栗色も良いんじゃないかな? ちょっと見てみたいなぁ?」  

ひろぴぃがあたしの髪を弄くりながらため息をつく。

ひろぴぃの髪は結構硬いけれどその分まっすぐで、ツヤがとても綺麗。肩まで伸ばしている。

ケイちゃんはひろぴぃとは正反対で、まるで赤ちゃんのようなふわふわの柔らかい髪。

触るととっても気持ちいい。

麻琴のふにゃ~んが見れない今、あたしの癒しは実はケイちゃんの髪なのだ。

「まぁ、高校に入ったら黒染め止めてもいいんじゃない? お堅い女子高はダメかもしれないけどね」

「!」

あたしは今まで考えたこともなかったし、染めてはいるもののこの黒髪も嫌いじゃなかったのだけれど、ひろぴぃやケイちゃんの言葉で少しその考えがぐらついた事を認識した。髪の色が変わったら、どうなるんだろう?

それからしばらく、あたしは鏡を見ると、髪の色が違う自分を想像してあれこれ考えてみるようになったことはナイショだ。
 

 

ケイちゃんとひろぴぃが帰ったあと、

「としこちゃん、良いお友だちが出来てよかったわね?」  

と大おばさまが家に戻ろうとするあたしに声をかけてくれた。

「え?ええ、はい。おかげさまで」

「麻琴がいなくなって寂しそうだったけれど、今はまた明るいあなたの顔が戻ってきてる。

おばちゃんちょっと安心したな。おばちゃんはね、あなたのその笑顔がとっても好きなのね。

だから今日も本当に良かったわ。おともだちを大切にね?」

あたしは詩菜大おばさまの言葉に思わずほろっとしてしまった。おばちゃん、あたしのために……

「おばちゃーん、ありがとうね、あたし、頑張るから」  

あたしは泣きそうになるのをぐっとこらえて詩菜大おばさまにしがみついた。

「あらあら、こんなに大きくなったのに、また子供に戻っちゃったのかな、としこちゃんは? よしよし、良い子ね」

そう言いながら、詩菜大おばさまはあたしを抱きしめて、ぽんぽんと肩をやさしく叩いてくれたのだった。






 

 

その頃、学園都市……

 

「チッ、大したタマはいねぇなぁ……」

「ぼやくんじゃねーよ、そう簡単にいねぇからこそ、見つかったときが楽しいんじゃねぇかよ?」

「ケッ、毎日毎日こんなガキの顔ばっかり見てるってのも、いい加減飽きてくるぜ……」

「おまえ、まさか顔しか見てねーつんじゃねーだろうなぁ?」

「アホか、いくらオレでもそこまでロリじゃねーよ、バカにするない」

「結局よ、今年の収穫って、超電磁砲二世ぐらいなのか?」

「アレは収穫じゃねーだろが。そもそも俺らが見つけたわけじゃねーしよ。

だいたい血統から見てありそうな話だからな。

二世になって当たり前、ならなきゃハズレ、てなところだろ」

ここはとある研究所、地下のデータセンター。

数人の男たちが、新入生ざっと1万人のデータを片っ端からチェックしているのであった。

「あーあ、今日はもう止めてーなー。ここんところ、さっぱりだし。今年はハズレの年なんじゃねーのかね?」

「おいおい、おまえちゃんと見てるんだろうな?」

「うん? なんだコレ? ………………ちぇっ、ダメか……」

「どうした?」

「あン? いやな、ちょっと発想を変えてるんだよ、今週からな。つまり、オレは今、ハズレ組を見てるんだよ。」

「なんだぁソレ? ……ふん、面白いが、徒労じゃねーの?」

「もちろんだ。ただな、あの幻想殺し<イマジンブレーカー>も、まともに測ると無能力者<レベル 0>であることは知ってるよな?」

「当然だろ。この業界で知らないものはいないさ」

「と、いうわけで、オレは第2のそいつが埋もれてるんじゃねーかとちょっぴり期待してるわけよ」

「逆転の発想か? うーん……まぁそう言う考え方もあるだろうよ。だが、たぶん徒労だろうな」

「まぁな。ひとの行かない道を探すってのは、オレにぴったりだからな」

「任せたよ。ただな、ひとが行かない、ってのにもちゃんと理由があるんだぜ? 

例えば、そっちに行って、生きて帰ってきたものはいない、とかな?」

「おいおい、縁起でもないこと言ってくれるねぇ」

「いや、確かにおまえにぴったりな道だよ、アハハハハハ」

ひとしきり冗談を飛ばして緊張をほぐした男たちは、また黙々とデータのチェックを始めたのだった……。

 

 

 

麻琴がいなくなって、あたしは一人で学校にかようことになった。正確には途中まで、だけれど。

まぁ、朝は寝坊さえしなければ、みんないつもおおよそ同じタイミングで行動しているから、だいたいはいつもの待ち合わせ場所(特に決めた訳じゃないけど)で一緒になって登校する。

しかし、下校時間は部活があったり、帰りに寄り道するなどいろいろなことがあるので、バラバラになって帰ることがしばしばある。

麻琴がいたときは二人とも帰宅部だったし、しかも家が殆ど同じ場所という事もあって、一人で帰るということは殆ど無かったのだけれど、陸上部に入って部活をやって帰るときは帰り道は途中から殆ど一人になる。

2人で帰っているときはおしゃべりに気を取られていて、不覚なことに全く気が付いていなかったのだが、一人で帰るようになって気が付いたことが出てきた。



―――― 誰かが、あたしを見ている? ―――― 



「なーに自惚れてるんですかァ?」 とあたしは否定的に思っている。

でも一方の冷静なあたしがアタマのなかで言う。

「あたしを監視している人間がいる」と。「明らかに視線を感じる」のだと。
 

「自意識過剰じゃないの?」ケイちゃんが気のせい、気のせい、と言う感じで否定する。

そうだよねー、と安心する反面、いや視線を感じてるんだってば、という不安感が行き場を失ってふくれあがる。

「魅力のないひとにはわからないのよね~」  ひろぴぃが挑発する。

あ、ケイちゃんがパンを握りつぶした……

「ほうほう、それは、このあたしには魅力がない、というご発言と受け取って良いのだね、ひろみくゥゥゥゥゥゥゥン??」

「自慢じゃないけど、付け文、待ち伏せ、ストーカー、全部経験済みのあたしに立ち向かおうというその根性、褒めてやるわ!」

確かに待ち伏せとストーカーは自慢にならないよ、ひろぴぃ? いや違う逆だ。あんたよく無事だったね?



……まさか、あたしのこれ、もしかしてストーカーなんだろうか?



「なにすんのよー」 「うるさい、今度という今度はお仕置きだ~」

給食のあとの昼休み、恒例のかしまし娘口先バトルである。

今回は口だけじゃなくてハリセンくらいは出そうな勢いだが、ちょっと待った。

「あんたら、少しはあたしの心配しろ~!」

 

 


「よしよし、わかったわよ。じゃ、しばらくリコの後を見張っててあげるからさ!」

ひろぴぃとケイちゃんが仕方ないねぇ、と言う感じで、あたしの後方をバックアップしてくれる、と言ってくれた。

「えー、でも大丈夫なの~?」 

(やってくれるのは嬉しいけれど、逆に危害を加えられたら大変な事になる)と気が付き、余計なことを言ってしまったな、と凄く反省した。

「ふっふっふ、見ては細工を御覧じろ、だわよ?」

ひろぴぃがカバンの中から取りだしたのは……

小型発煙筒(薬液混合型。投げつけてその衝撃で二液が入った細管が割れて混ざることで発煙する)

小型星弾(これも薬液混合型。投げつけて二液が混ざると強烈な光が発生する。夜間用)

小型カラーボール弾装填のモデルガン(コレが出てきたときはのけぞってしまった)

そして警笛(昔ながらの笛)

そして、カバンについているキーホルダーの人形を引っ張ると、大音響が響く防犯サイレン。

携帯には、ワンタッチで地元警察への直通電話がかかる専用ボタン。

ケイちゃんとあたしはポカーンとしながら、「はいコレ」 「次コレ」 「そしてコレ」 と魔法の小箱の如く次から次へと防犯グッズが出てくるのを黙ってみていた。

「あんた、それ、趣味で集めたわけじゃない、よね?」   あたしはクラクラしなからひろぴぃに尋ねた。

「言ったでしょ? 待ち伏せにストーカーって。警察にも届けてあるけど、毎日護衛してくれる訳じゃないから、こうやって自衛してたわけよ」

ひろぴぃが急に頼もしく見えたのは気のせいだけではあるまい。すごい……。

「で、今もそうなの?」  ケイちゃんが不安そうな顔で訊く。

「だ・い・じょ・う・ぶ。交通事故にあったって警察から教えてもらってて、ストーカーなんかやってる状態じゃなくなっちゃったみたいなの。ザマーミロだわよ」  

ひろぴぃが明るい顔でコワイ事をズバと言い切った。

「そういえば、あたしの家、スタンガン持ってたっけ……」 

あたしは麻琴のビリビリ騒ぎの時のことを思い出した。たぶんまだあるはずだ。

「お、それは最強だね、ホームズ君?」

「そうだね、それは心強い味方だよ、ワトソン博士」   二人が茶化す。

「ん、じゃ今日から始めましょうかね?」

「らじゃー……、ほら、リコ、あんたもほれ、何か言いなさいよ?」

「ごめんね、二人とも。でも、危ないと思ったら直ぐに逃げてよ? まずは自分が一番大切なんだからね?」

あたしはせめてそう言うしかなかった。
 

 

「出ませんね……」  ひろぴぃがふとつぶやく。

「そだね。ま、単なる気のせいでしょ。まぁヘンなの出たら、正直コワイしさ」  ケイちゃんが合わせる。

時刻は夕方の6時半過ぎ。さすがに暗くなりつつある時間。

佐天が歩いて帰るずっと後からひろぴぃとケイちゃんがぷらぷらと付いて行く。

かれこれ半月が過ぎたが、幸いな事に何も起きていなかった。

「何ご褒美にもらおうか?」

「うーん、パフェ食べ放題とか? いや東京プリンセスホテルのケーキバイキングご招待がいいかも?」

「あんた、もう決めてるの? 気が早いねぇ……、!! ひろぴぃ!!」

「声が大きい!下がって!」

ひろぴぃとケイちゃんのいる1つ先の交差点から男2人が急に現れ、早足で佐天を追いかけて行く。

「どうする?」

「とりあえず、ケイはリコに電話! あたしは笛出すから!!」

「あぅあぅ、走りながら電話は難しいってばさー」二人は前を行く三人の方へ走った。


―――― Brrrrrrrrr ―――― 

佐天の携帯がバイブレーションした。

「ケイちゃん?」

携帯を手に取り、振り返った佐天は直ぐそばに男性2人がいるのに気が付いた。

「!!」
 

「リコ、男2人よ!!」   ケイちゃんが叫ぶ。

男の1人が佐天の手を取った!



―――― ピイイイイイィィィィィィィィ ―――― 



ひろぴぃが笛を吹く。

もう一人の男がぎょっとした顔でこっちを見た。



ひろぴぃとケイちゃんが佐天たちに追いついた。


―――― 佐々木? あんた、何やってんのよ?? ―――― 


それは同級生の佐々木剛士(ささき たけし)だった。

佐天の手を取ったのは?

「あ、三田さん?」

「長坂クン? あなたどうしてここに?」

隣のクラスの長坂弘(ながさか ひろし)、2年生の時はケイちゃんと同じクラスだった男子生徒だった。

「さささ、佐天さん、すみません、それ、読んで下さい。ボク、貴女のことが好きです。お願いします。

じゃ、失礼しますっ!」

長坂は佐天に何かを渡し、言いたいことを一方的に言って走り出した。

「お、おい、長坂ぁ、オレを置いていくなよ!? バカヤロー! す、すいません。失礼しました!!」

佐々木は帽子を取ってぺこりと頭を下げ、長坂の後を追いかけていった。

 

後に残ったのは………呆然としている陸上かしまし娘3名だった。
 

 

 

 

「おはよ、リコ。……さぁてと、昨日のアレは何だったのかしらねぇ?」

「あたしもおはようだわね。あ~、ホント、あたしら半月もバカ見たわよ。あげくの果てに、アレだもん。

あーあほらし。へいへい、どうもごちそうさまでした。もう好きにしなよ」

「ご、ごめんなさい。まさかあんなふうになるとは思ってなかったから……」

次の日の朝。

予想通りであったが、ひろぴぃとケイちゃんがいつもの場所であたしを待ちかまえていた。

で、更にまた予想通り、

「で、何書いてあったの? 好きです、愛してます、つきあって下さい、とか?」

「いいねぇ、青春だねぇ、若さだねぇ? ああ、リコにも春が来たのねぇ」

二人が問いつめてくる。


「 ……まだ、読んでないの…… 」

たぶん、あたしの顔は真っ赤だったはず。


「「ええええええええ?」」     二人がハモる。近くを通るひとが何事か、と言う顔であたしたちを見て行く。

「だって……」   言えない。ずっと手紙をみつめていただなんて。自分でもバカじゃなかろうかと思ってるくらいだもの。

「あなたねぇ……」  ケイちゃんがため息をつく。

「いまどきの小学生でもそんな子いないわよ?」

「いや、さすがリコ、かもしれない?」   ひろぴぃがうんうんと頷きながらあたしの肩をぽんぽんと叩く。

「どれどれ、おねぇさんが読んであげようか?」   ニタァとひろぴぃがあたしの顔をのぞき込む。

「し、しらないからーっ!」    あたしは二人を置いて駆けだした。

 

「おとめ、だねぇ……」

「まだ世の中にいたんだ、ああいうの……」
 

 

あたしは今日、部活をさぼった。

今日は最悪だった。

ひろぴぃとケイちゃんは休み時間になると佐々木くんのところに行き、あーだこーだと問いつめている。

「だから、オレに訊くんじゃねーよ!」   彼の当惑する声が聞こえる。

チラと彼の顔を見ると、パチと視線が合ってしまい、あわててそっぽを向く。

「ちょっと、リコ、あんたもここ来たら~?」   ケイちゃんのいやらしい声が聞こえる。あたし、知らないから!

昼休み、もうこの頃には、少なくともあたしのクラスの女子全員は「佐天に隣のクラスの長坂クンが告白した」ということを知っていた。

好意的な態度のひともいたが、「やっぱり胸がでかいおんなはいいわね」「ホントに男ってのはおっぱいがでかければそれで良いのかしら」等というやっかみというか、そういう悪意のような態度を取るひともいた。

ああ、不幸だ。

あげくの果てには、トイレから帰ってきたら、黒板にヘタな絵が書いてあり、「長坂&巨乳」と説明が書かれていた。

ひどい、酷いわよ。名前ならまだしも、巨乳って……

あたしが立ちすくんでいると、いきなり飛び込んできた男子がザッとその落書きを消した。 

「よっ、話題のご両人!」

「おっと、ここでヒーローのご登場か?」

ヒューヒューという声も聞こえる。そう、彼は長坂くんだった。

「バカっ!」   とあたしは叫ぶと、自分の机に戻って突っ伏してしまった。もういや。こんなの……

「誰だ、こんな事書いたヤツは? 出てこい!」   彼が大声で言う。誰も答えるものはいない。

「なーに嬉しがってるんだよ?」   と誰かが冷やかすように言う。

「なに本気にしちゃったのかな~? やっぱりホントなんだ~?」   と言う男子も。あれは小川くんの声だ。酷いわ。

あんたたち、あたしを笑いものにして、そうやって楽しんでるのね、酷い酷い酷い………いやだ、こんなの。

許せない! 

……




え? 

やだ、この感じは……また? そんな?

何かがあたしのなかでふくれあがって、何かがあたしのアタマを思い切り押さえつける、いやなアレがまた来る??

やめて……助けて!

「いや~!」

再び暗黒があたしを包み込んだ……。
 

 

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*タイトル、前後ページへのリンク、改行などを行いました (LX:2014/2/23)

 

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