とある暗部の心理掌握 > 2


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第7学区のとあるファミレス


スクールと同じく、学園都市の裏に潜む組織、《アイテム》のメンバーがそこで食事をしていた。

ただしその雰囲気は最悪であり、特にリーダーの麦野はいら立ちを隠そうともしていなかった。

その原因は、今も通話中の電話の相手との会話にある。


「…そんな説明で、私らの仕事が盗られたことを納得できるとでも?」

『だからー、こっちが悪いんじゃないっつーの!いいかげん分かれよこいつときたらー!』


電話の相手はアイテムの監視役で、女性の声でありながら大声で怒鳴り返してきた。

「今回だけじゃなく、ここ最近スクールに大事な仕事が回ることが多い気がするんだけど?」

『しょうがないでしょー!上からの指示なんだからさー!』

「もしかしてアンタ、指示役の中でも立場弱いワケ?」

『黙れ下っ端。とにかく代わりの仕事があるんだし、ちゃっちゃと片付けてよねー!』

「えー」

『えーじゃないわよこいつときたらー!仕事したいのかしたくないのかどっちなのよー!』

「仕事はイヤ。けど自分の獲物横取りされるのもイヤ」

『わがまま言うんじゃないわよ!大体アイテムが最近舐められてんのは、あんたたちがヘマしたからでしょーが!』

「ちっ」

『病理解析研究所での失態を、忘れたとは言わせないんだからねー!』

『しかもその犯人を放っておいてるなんてどーいうつもりなんだか…』

「うるさい。仕事はするわ。じゃあね」


ちょっとー!?とまだ怒鳴り続ける指示役を無視して、麦野は携帯を切ってポケットにしまい込んだ。
指示役の女の言う通り、麦野達アイテムは数ヶ月前に、とある製薬会社から受けた依頼を失敗している。

それは2つの研究施設を防衛しろ、という単純な依頼だったのだが…。

その守るべき施設の一つ、病理解析研究所で麦野たちは襲撃者である御坂美琴と戦った。

そして激闘の末、病理解析研究所を破壊されてしまう。

しかもその犯人を逃がし、今も放置しているのだからアイテムの評価が下がるのは当然の成り行きではある。


「やっぱりあのクソガキ殺しとけばよかったかしら…?」


わりと真剣な表情でつぶやく麦野に対し、絹旗という見た目12歳ぐらいの少女がなだめようとする。


「麦野、超落ち着くべきです」

「結局、いくら文句を言ってもスクールにギャラの良い仕事を盗られた事は変わらないわけよ」


しかしそれを、金髪碧眼の女子高生、フレンダが台無しにした。
「他人事みたいに言ってんじゃないわよフレンダ。そもそもあの失敗の原因はアンタでしょうが!」

「大丈夫だよフレンダ、私はそんなフレンダを応援している」


怒る麦野を気にせずに、いつもと全く同じ様子で滝壺が無意味なフォロー。

一見表の世界と変わらぬ日常を過ごしながら、アイテムのメンバーは仕事の配分やスケジュールを確認していく。

やがてそれも終わると、話題は先ほど出たスクールの事に切り替わる。


「にしても、やっぱりおかしい感じよね」

「何がー?」

「馬鹿フレンダは黙りなさい。私らの仕事にまで手を出すスクールの事よ」

「ああ、麦野はさっきの話を超気にしてたんですか?」

「そう。最近の依頼変更の数を見ると、これはもう私らのミスが原因って事だけじゃなく…」

「スクールの連中が、積極的に仕事を超奪っている、と?」

「そう考えるのが自然ね。スクールは一体何を考えてんのかしら」

「まあ、結局私たちが楽できるなら問題は無いってわけよ」
能天気なフレンダを無視して、麦野は一人で黙考する。


(今までは、スクールと私らの管轄は比較的明確に分かれていた)

(初めっからこんなクソ仕事を喜ぶような連中だったら、もっと前からこうなってる)

(つまり、最近になって仕事を沢山こなす理由が出てきたってこと)

(…仕事を“しないとダメな事がある”のか、仕事を“するとイイ事がある”のどっちかねぇ)

(ただ、私らと並び立つような連中が、ネガティブな理由で動くのは考えづらい気がする)

(仮に誰かが強制的に操れるような弱い組織なら、こっちが警戒する必要もないわけだし)


これ以上は考えたとこで結論が出ないか、と麦野は会話に戻ることにした。
「そもそも、スクールについて組織名以外は超知らないじゃないですか」

「まあ、そうなんだけどさ」

「…でもスクールの状況が何か変わったのは、間違いないと思う…」

「滝壺の言う通りよ。で、今回の件はスクールの状況が変わったと言うより、“状況を変えた”と見るべきね」

「で、自分から状況を変える理由なんて案外限られてるもんなの」

「『新情報の入手』、『メンバーの増減』、『行動目的の移行』…これぐらいかしら」

「うーん、麦野、結局どういう事なのか説明してほしいんだけど?」

「超大事なことを知ったか、超使えるメンバーが増えたか消えたか、目的のためにすることが超変わったってことです」

「そのいずれにしろ、スクールを警戒をしておいて損は無いわね」

「あいかわらず麦野は色々考えてるねー。結局私は全てお任せしちゃうわけよ!」


最後に麦野が一発フレンダに拳骨をして、この日のアイテムの集まりは終了となった。

 

 

 

同時刻、スクールの隠れ家


心理掌握に記憶を戻されてから2週間近くたったある日のこと、垣根は最近集まった資料を確認していた。

垣根が呆れたことに、彼女はただの中学生の身でありながら想像以上の暗部の情報を持っていた。


(まさか、他の暗部組織の構成員まで知っていたとはなあ)

(ま、おかげで随分動きやすくはなったが)


その新しい情報などを基に、現在スクールは裏の仕事を精力的にこなしている。


(アレイスターの情報収集方法が分かるまで…あと1歩ってとこなんだがなあ)

(一昨日潰した犯人が呟いていた『滞空回線』って言葉の意味さえ分かれば…)


突如垣根の思考を遮るように、心理掌握から強力な念話が届いた。
「うお、あいかわらず強度がすげえな。で、どんな感じだ?」

『今とっ捕まえた研究員からパスワードを“聞いた”ところよ』

「頼りになるなあ、《心理定規》サン?」

『…嫌味?大体人の名前ぐらい覚えなさい…っとと、解除出来たわ』

「どうだ?」

『間違いないわね。この裏切った馬鹿な研究員は、一時期『滞空回線』のメンテナンスに噛んでいたみたい』

「そりゃー良かった。アイテムからこの仕事を横取りしたかいもあるってもんだ」

『…よし、これで『滞空回線』の正体も分かったわ。すぐにコピーして持ち帰るから』

「おう、お土産(ジョウホウ)楽しみにしてるぜ」

『ご褒美にはかわいい洋服をヨロシク』

「任せろ。お前の趣味ってイマイチだからな、俺が選んでやるよ」

『えー!?それどういう…』


突然、念話の波がブッツリと途絶えた。

それを感じた垣根は1人静かにぼやいた。


「…めんどくせえな、オイ」

 

 

とある研究施設の一室


ここのところ暗部の仕事などで忙しくしていた心理掌握は、それでも最近気分が良かった。

この2週間、学園都市という巨大な敵に対して、垣根と協力して挑むことをどこか楽しんでいたからだ。

ましてその重要な糸口がもうすぐ手に入るとなればなおさらである。


(ただ、もうちょっとパートナーを大切に扱ってくれると嬉しいんだけど…)

(って違う違う!…もしかして私、少し浮かれてる?)


彼女は緩みそうな頬と気分を引き締めて、自分の目的を再確認する。

――ある研究所が、この学園都市に対しテロ行為を計画しているので、それを阻止せよ。

元々はアイテムに来ていた依頼であったが、垣根と協力して研究員を全員調べたところ、

一昨日聞いたばかりのキーワード『滞空回線』の関係者が一人いるらしいと判明したので、横取りした。

結果見事に研究所を制圧した心理掌握は、その研究員以外の全ての人間を退去させることにした。

反対した下部組織の人員もいたが、何とか説得してようやく情報を持つ人物と2人きりになることに成功したのである。
「で、あなたのパソコンのパスワードは?」

「何故そんなことが気になる?」

「こっちにも事情っていうものがあるのよ」

「…悪いが、それだけは言えない。いくら暗部とはいえ、お前が知ったら確実に消されるぞ」

「じゃあ、やっぱり“聞き出すべき”情報がそこにあるってことね」


それだけ分かれば十分だった。心理掌握は研究員の頭から直接パスワードを入手すると、垣根に念話を送る。

そして念話をしながら、自分たちの求めていたデータがあることを確認。

だが最後にコピーを終えて複製データを隠した瞬間、


「あ…」ガツッ


突然心理掌握は何者かによって殴られ、意識を失った。
(…ここは?…頭…痛あっ…それに…手足が縛られてる…)

「目が覚めたようだな、心理定規」


ようやくはっきり覚醒した心理掌握は、目を開けて辺りを見まわす。

照明が落とされたため暗くて分かりづらいが、ここはまだ研究所の中らしい。

話しかけてきたのは、今回同行してきた下部組織の1人であった。


「一応聞いておくけど、どーいうつもり?」

「なに、スクールの正規メンバーであるお前に、幾つか聞きたいことがある」

「ああ、そーいうこと。…さしずめ、アイテムかどっかのスパイってことかしら?迂闊だったわ」


一瞬男に動揺が走るが、すぐにそれを隠して威圧的に語りかける。


「フン、まだ偉そうな口を利くのか。状況を把握したらどうだ?」

「……」
「お前の能力が発動すれば、俺は確かに攻撃できないが…」

「それは能力が発動していれば、の話だ」


そう言うと男は、右手に持っていた何かのスイッチを押した。

すると、男の足元にあるカバンらしきものから妙に高い音が流れ出た。


「う…あ……何…コレ…!?」


途端に頭痛が発生し、心理掌握の演算機能が阻害される。


「これでお前は能力を使えなくなった」

(うう…この音は多分…あの御坂も苦戦したって言う…キャパシティダウン…)

(演算を阻害する…音響兵器…!)


心理掌握の能力は人の脳を直接いじるものであるため、精密なコントロールが重要となる。

つまり空間移動能力者ほどではないにしろ、極めて複雑な演算を必要とするのだ。

言わば、学園都市に7人いるのレベル5の中でも、最もキャパシティダウンが効果的なのが彼女である。
「心理定規は極めて強い能力だが、それさえ無ければお前はただの小娘」

「さあ、今日はいつもと逆の立場を味わってもらおう」

(これは…本当にマズイかも)

「その綺麗な顔をグシャグシャにされる前に、言う事を聞く方が賢明だぞ」




「…なんだよ、テメェ暗部のくせにお優しい奴だなあ?」


その時、最も聞きたかった男の声が彼女の耳に届いた。


(ああ、マズイ…こんな完璧なタイミングで来るなんて、本当にマズイ)


白い翼を広げた第2位、スクールのリーダー垣根帝督がいつもの笑顔で現れた。


(これは…好きになっちゃっても…しょうがないじゃない…)




現在時刻:午後2時00分

 

 

とある研究施設の一室


「お前が何故ここに…」

「教えねえよ。つーか何だこのムカつく音は?」


垣根は警戒もせずに男の目の前に近づき、キャパシティダウンを足で踏みつぶした。

それを見ていながら、男は指一本動かす事が出来ずにいた。


「馬鹿な…」

「おいおい、『馬鹿な』って言って助かった奴がいるかよ?」


垣根の様子がいつもと違う、と心理掌握はなんとなく感じ取った。
口調も、笑顔も、その全てがいつもどおりなのに、この恐ろしさは何だろうか。

疑問を浮かべる彼女をよそに、垣根は一切能力を使わずに男を殴り、蹴り上げ、捻り潰した。


「ぐぁぁ!ま、待ってくれ!」

「…良かったなあ、お前」

「本当なら、お前を痛めつけて雇い主について吐かせるとこだが…」

「今の俺にはそんな必要はないからな」


ようやく男に対する攻撃を止めた垣根は、心理掌握を縛っていた縄を千切って彼女を解放した。


「やれやれだな。とっとと覗け」

「…分かってるわよ。しっかりお礼もしなくちゃ」


心理掌握は垣根に対する疑問を捨てて、男から記憶を読み取る。
「…この男は《メンバー》の下部組織ね。最近のスクールの行動を警戒して、スパイを送り込んだみたい」

「何だ、アイテムじゃねえのか?」

「向こうもそろそろ私たちの行動を疑問に思う頃でしょうけど、今回は違うわね」

「ちっ。メンバーとなると、ちょっとばかし厄介だな」


垣根の言う通り、この時点でメンバーに目を付けられた事は問題である、と心理掌握も同意した。

メンバーは他の暗部組織と異なり、完全なるアレイスターの直轄部隊である。

スクールも基本的にアレイスターの意思で動くが、名目上は理事会含む上層部の依頼を受けていることになっている。

そう言った“建前”すら存在しない、猟犬部隊と同じアレイスターの手足となるのがメンバーという組織なのだ。

そのメンバーに目を付けられたということは、これはアレイスターからのメッセージなのだろう。

随分面白そうな事をしているね、と。
「お前の資料によれば、メンバーには高レベルの能力者はいない…が、それでも向こうの情報収集能力は侮れねえ」

「そうね。アレイスターがバックにいる以上、私たちを上回る情報を持っているはずよ」

「…お前はこの件どう思う?」

「うーん…多分まだしばらくは問題無いはず。メンバーもこれ以上は動かないでしょ」


メンバーに目を付けられた事は厄介だが、緊急性は無いはずだと心理掌握は判断した。


(そう、アレイスターはこの状況も利用しようと思うはずだから)

「だな。向こうがそうやって油断しているうちは、動ける隙がある」

「そう言うこと。とりあえず、彼には偽の記憶を植え付けておくわ」

「…殺した方が簡単だがな」

「ひょっとして、珍しく虫の居所が悪かったの?」

「あ?」

「久しぶりに見たもの、あなたがそんなにキレてる感じ」

「……そう言う訳じゃねえよ。この大事な時期に、厄介事に巻き込まれた馬鹿にはムカついたがな」


どことなく照れた感じの垣根を見て、心理掌握は自分の抱いた淡い気持ちを思い出した。

結果、彼女は垣根の顔を正面から見れなくなり…フイっと目を背けた。
「?」

「あの…その…ごめんね…」

「口答えしないぐらいヘコんでるってか?」

「いやまあ、そんな感じ…かな…」

(ううう…イケメンってズルイ…)

「まあいいや。とりあえず隠れ家に戻ってデータを確認するぞ」

「あ、うん。そうそう、結構凄いことが分かったのよ」


その後隠れ家に戻った2人は、コピーした『滞空回線』のデータを確認して、再び悩むことになる。
「学園都市中に、見えねえ機械を5千万個以上もばら撒いて情報のやり取りをしている…か」

「さすがアレイスター、私たちの想像以上の事をあっさり実現するわよねー」

「だがその機械がやり取りしている情報を手に入れれば、交渉はやりやすくなる」

「そりゃーそうかもしれないけど、見えない機械からどうやって情報を抜きとるわけ?」

「これは無理に情報を覗くと量子信号を変質させるっていう厄介な代物なんだけど?」

「見りゃわかるよ。…なに、ここは学園都市だ。必ず解析出来る道具はあるはずだ」

「じゃあ、次はそれを手に入れる必要があるわね」

「ああ。何だ、どうやら思った以上にゴールは近そうだぜ」


自分たちに目を付け始めたアレイスターや暗部組織を出し抜き、必要な道具を手に入れる。

どう考えても極めて難しい目標なのだが、この第2位はそれが出来ると確信しているらしい。
(やっぱり敵わないなあ…)


それでも、この男を見ているとどこか安心してしまう自分がいることに心理掌握は気づいていた。

彼ならきっと目標を達成できる、そんな気がするのだ。


「計画はまた後で詰めるとして、今日はこの辺で終わりでいいかしら?」

「もう今日はこれ以上する事はねえしな。好きにしろよ」

「じゃあ、そうさせて貰うわ。…帝督、今日はありがと」


そう笑顔で言い残して、心理掌握は隠れ家を走って後にした。


「……」

「……飯に行くか」


何故かその場でたっぷり20秒ほど硬直した垣根は、そう言うと自分も隠れ家を後にした。

 

 

第7学区のとある大通り


まもなく太陽が沈むこの時間、心理掌握は久しぶりに常盤台の制服を着て1人で歩いていた。


(本当に久しぶりだわー、この感じ)

(学校だと派閥のコが誰か付いて回るし、仕事中は下の人がサポートに来たりするし)

(せっかく1人だし、新しい洋服でも見ようかしら)


つい数時間前には監禁されかけていた彼女だが、完全に立ち直って久しぶりの1人を楽しんでいた。


「あれ?…なあおい、ちょっと待ってくれ!」


その心理掌握に、突然後ろから慌てたように声をかける者がいた。

思わず不機嫌になりかけたが、声をかけてきた男の顔を見てキョトンとする。
「あ、かみじょー君」

「やっぱり…ええと…確か名前は…」

「ああ、《心理掌握》で良いですよー。お久しぶりですね」

「確かになー。何ヶ月ぶりだっけ…ってそうじゃなく!」


上条は真剣な表情になって、小声で問いかけた。


「アレから随分たったけど、その…大丈夫なのか?」

「ああ、もしかして私の事、心配してくれてたんですか?」

「そんなの、当たり前のことじゃねえか!」

「ありがとーございます。…ふふ、本当に聞いた通りお人よしさんですね」

「へ?」

「御坂が言ってましたよ、関係無い事に首を突っ込んでくる極度のお人よしだって」

「ふ、不幸だ…」


もちろん御坂が言っていた、というのは嘘である。彼の反応が面白くてついからかったのだ。


「そんなに気になるのなら、互いに近況報告でもします?」

「近況報告?」

「ええ。でもこんなとこじゃあなんですし、この喫茶店でお茶でもどうです?」

「…そこ結構高そうな雰囲気なのですが…上条さんは今月もピンチでして…」

「遠慮しないで下さいよ、高校生男子が“中学生の女の子”に奢ってもらえばいじゃないですか」

「グサ!…いや、そういう訳には…」

「だって無能力者なら大してお金貰えないし」

「グウ!」

「その公立高校の制服と雰囲気からすると裕福なご家庭の生まれに見えないし」

「グハ!」

「ぶっちゃけますと、エコバックから見えてるお買い得品のパッケージが悲痛な叫びに見えるし」

「もうやめてくれー!って言うかキミそんな顔してるくせして結構毒舌だよね!?」


やばい、この人超弄りやすい。そう思いながら心理掌握は上条と喫茶店に入った。



「…誰だあの男?」


たまたま通りがかった第2位が、その様子をバッチリ見ているとも知らずに。



現在時刻:午後5時00分

 

 

 

第7学区のとある喫茶店


最終下校時刻前のためか中は大勢の生徒で賑わっていたが、2人はタイミング良く奥の座席に案内された。

着席と同時に渡されたメニュー表を見て、上条はげんなりとした。


「おかしい…コーヒーが一杯1200円っておかしすぎる…!」

「そーですかー?…あ、私はこの『秋の紅茶&ケーキセット』にしよう」

「ギャアア!それ、1万3000円もするやつじゃねーか!」

「あーでも、新作のフィナンシェも食べたいし…」

「マジ勘弁してください」

「冗談ですよー、自分のぐらいちゃんと払いますから」

「うう…この店おかしい…上条さんはコーヒーで…」


すぐに2人のもとに注文したメニューが届き、味わいながら話を続ける。

「すげーなあ、上条さんはこんな美味しいコーヒーを初めて飲みましたよ」

「別にここも最高級品質ってわけじゃないんですけどねー」

「これ以上俺を弄るのはやめてください」


涙目になった上条を見て、そろそろ本来の話に戻そうと心理掌握は話題を切り替えた。


「で、近況の方なんですけど…とりあえず、常盤台の方はもう大丈夫です」

「ホントか?」

「はい。あの第2位と話を付けて、ちゃんと解決できましたから」

「なら、良かった。代わりに無茶な要求とかされてないか?」

「…やっぱり結構イメージ悪いですかね、第2位」

「そりゃ、キミに酷い怪我を負わせた奴だし…」
上条の頭の中では、見たこともない第2位が一方通行のように「最っ高に面白ェぞ、オマエ!」とか

声高く叫びながら、心理掌握をグシャグシャにするシーンが上映された。


(どんな想像よ、ソレ)


こっそり上条の頭を覗いていた当の彼女は、あまりな光景に思わず噴き出しそうになる。


「いやまあ確かに色々あったけど、今はちゃんと仲直りしてるから、ホントに大丈夫ですよ」

「…分かった、信じるよ」

「それよりも、約束守ってくれてありがとうございます」

「え?」

「ホラ、御坂たちにちゃーんと黙っててくれたじゃないですか」

「それは…」

「正直なとこ、かみじょー君なら御坂たちに話して第2位にケンカ売るかもしれないって思ってたから」

「全部バラして助けるべきだったかもしれないけど…俺も、似たような状況だしな」
以前上条はこの心理掌握から、これから自分が第2位の記憶を改ざんし、別人になりすまして

その第2位を監視するつもりだ、と打ち明けられた事がある。

そのために常盤台の生徒全員の記憶も改ざんし、御坂たちには何も起きなかったことにするとも。

当然上条は、そんな危険な事をさせる訳にはいかないと主張したが、そこで彼女に痛いところを突かれた。


――『それに、あなたも似たようなものじゃない』

――『自分が記憶破壊されてること…大切な人に知られたくないんでしょ?』


心理掌握に記憶を読み取られた上条は、自分“も”周りを騙して生きている事を指摘される。

いつも腹ペコな同居人の笑顔を守るため、どうしても譲れない一線が自分にもあるという事を。

結果として、自分の最大の弱点と同じような弱点を『共有』する彼女を止めていいか迷ったのだ。


「けど、本当に無事でよかったよ。なんの役にも立てなくて、悪かった」

「ふふ、そこで謝っちゃうなんて、本当にお人よしなんですからー」
心理掌握は少し暗く、罪悪感のある様子で悲しく笑う。


「元々、意識を奪ったり脅したりしたのは私じゃないですか」

「そりゃーそうだけど…」


複雑な表情を浮かべる上条を見て、心理掌握は改めて思う。

この一般人(オヒトヨシ)は、これ以上こちらに来るべきではないと。

他人の痛みを自分のこととして受け止める彼は、きっとこの闇に耐えられない。


(やっぱり、あの御坂(オヒトヨシ)とお似合いなだけあるわー)

(まあ、彼は暗部の事を知らないし、このまま平穏に過ごすのがピッタリね)

(私たちがアレイスターとうまく交渉すれば、彼も『計画』から解放されるはず)


彼女の思惑とは裏腹に、やがて彼は学園都市どころか地球規模の争乱の中心になっていくのだが、それはまた別のお話。

 

 

心理掌握と男が入った喫茶店に、何故か学園都市第2位の垣根帝督も足を踏み入れた。

1人だったので割と早くカウンターに通された垣根は、適当に幾つかオーダーすると例の2人に注意を傾ける。


(もしかしたら、あの男はスパイかもしれねえ)

(今は大事な時だ、用心に越したことはねえからな)


出された飲み物に目も向けず集中していると、喧騒の中でも声が所々届くようになる。


『おかしい……マジ勘弁…』


どうにも情けない男のようだ。ぺこぺこ頭を下げている。


(スパイ…って感じじゃねえな、ありゃただのヘタレか?)

『代わりに…要求…酷い怪我…』

(?なんか会話が…)

『…全部バラして…』

(なにか脅迫みてぇな…)


そして垣根の耳に、心理掌握の落ち込んだ言葉が届く。

『意識を奪った…脅したりしたのは…!』

(!!!!)


どうやらこの男の情けない様子は、全て演技のようだ。

よりにもよって暗部の一員、それもレベル5を脅すとは、只者ではない。

しかも、会話から想像するに脅迫のネタは…


(クソムカついた。とんだゲス野郎がいたもんだ。これは俺が始末する必要があるな、間違いねえ)


垣根が抹殺する決意を固めていると、その男が喫茶店を後にした。

振りかえって後ろを見ると、心理掌握はまだ残って携帯を操作している。


(…あいつに見せる必要はねえな)


少し悩んだ末、垣根はその男の後を追うため自分も店を後にした。

 

 

 

 

第7学区のとある公園

垣根がしばらく男の後を付けていると、公園に入ったところでその男に声をかける者がいた。


(あれは…!)

「ちょっと!いい加減にしなさいよ!人を散々弄んでおいて逃げる気じゃあないでしょうね!」

「まーたかよ、ビリビリ。今俺は相手する気はねーんだけど…」

(…第3位の超電磁砲だと…!?)

(アイツまで手玉に取っていたとは…)


自身の想像を超える相手だという事を確信した垣根は、本気で戦う決心をした。


「あれ…帝督?」


翼を出すその直前、自分の後ろからキョトンとした顔の心理掌握が声をかける前は。
「馬っ鹿じゃないの!?」

「いやだって、まさかアイツが幻想殺し(イマジンブレイカー)とは…」

「それにしたって、なんて言う想像してんのよ!?」

「…じゃあ、エロイ事してないの?」

「あ、当たり前でしょう!」


目の前で大激怒する心理掌握から事情を説明され、ようやく垣根は自分が誤解していた事を知った。


「大体、情報も確認せずに暗殺しようなんてどーいうつもり!?」

「悪かったって。たまたま見かけたお前らから、不穏な言葉が出るからよぉ」

「…心配してくれたわけ?」

「あー、まー、そりゃ、同じ陰謀を担ぐ仲だしな?」

「…それだけ?」
急に怒りを引っ込めた心理掌握の問いかけが、垣根の胸にスッと入ってきた。


(それだけ、か?)

(こいつは俺の目標を達成するうえで、この上なく役に立つパートナーだ)

(…他に価値はねえ)

(むしろ、互いに殺し合った仲だし…)


そんな風に自分を納得させていると、突然垣根は今日の事を思い出す。

彼女がメンバーの下部組織に襲われ、縛られていたところを発見した時の事を。


――ムカつくこの男をぶち殺そう、と思った。

能力すら使わずに、自分の手で、足で、叩き潰そうと一瞬で決意した。


(おいおい、マジかよ)

(いやでも、こいつ胸も色気も淑やかさもねえし…)
『…帝督、今日はありがと』

そう言って照れたように部屋を後にした彼女の顔が、何故かしばらく焼きついた。

初めて自分の『名前』を呼んだその声が、耳に残って消えやしない。


(もしかして…)


自分が初めて計画を明らかにして、手を差し伸べた彼女が、いつのまにか…


(なに、俺ってこんなガキみたいなコイゴコロ持ってたか?)

(本気で殺したかったこの女が…)


「やべえな」

「え?」

「どーすんだコレ」

「ちょ、ちょっとー?」

「今さらになってかよ、オイ」

「ねえ、…帝督?」

「なあ、俺はお前を殺そうとした」

「は?」

「だろ?」

「…うん」

「そんな相手を、本気で欲しくなっちまった」

「!」
「だから、お前は俺のモンだ」

「…本気?」

「いや、俺もまだ信じられねえけどよ、本気だ」

「…ねえ、知ってる?」

「何を?」

「人の精神に関するありとあらゆる事象を掌握するこの私が、自分の感情すらコントロール出来ていないって」

「……」

「常盤台校舎を破壊してでも殺す気だった相手に、こんなにも夢中になってるなんて」


その言葉を聞き終える前に、垣根は無言で彼女を抱きよせた。

それに驚きながらも、心理掌握は赤い顔で囁いた。


『…女の子の口説き方って知らないの?』

「言わせて見せろよ、レベル5?」


心理掌握が反応する前に、垣根はゆっくり――彼女に口づけをした。

さらに赤くなった心理掌握は、「ばか」とだけ言葉を残して彼の胸に顔をうずめた。



現在時刻:午後7時00分…これにて一章終り

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