「おら、死ぬ気で避けなきゃホントに死ンじまうぞォ!」
「はっ!!オマエは何回殺されてると思ってンだっつのっ!!」
「…………」
「ふン、さて、今日の実験終了のお知らせってかァ?」
──あたしの【友達】から離れてください一方通行さん
一方通行「コーユー場合ってよォ実験ってのはどうなっちまうンだ?」
一方通行「頼むぜ『実験動物』よォ、関係のねェ一般人なンか連れ込ンじゃってよォ」
一方通行「使い捨ての人形じゃなくてマジモンの一般人とか──」
佐天「ちょっと黙っててもらえませんか?不愉快です」シュッ
一方通行「なっ!?何時の間に移動しやがった!!」
『──、何を、何をやっているのですか、とミサカは問いかけます』
佐天「何って、友達のピンチに駆け付けちゃ悪い?」
『──、訳が分かりません、ミサカは単価にして十八万円でボタン一つで製造できる──』
佐天「単価とか、どうでもいいよ──貴女達は御坂さんの妹で、あたしの友達なんだから」
『──、』
佐天「ちょっと待っててね──」
佐天「一方通行さん、貴方が『反射』をしようが、『向き』を操作しようが関係のない処刑方法を考えました」
一方通行「ハッ、それは聞ィてみてェn
ド────z____ン!!
佐天「時は止まりました、とりあえず病院からくすねてきたナイフで
おっと、攻撃をする前に『反射』が生きているか確認しましょう」
佐天「………!?」ソ~…パチン!!
佐天「……(嘘……反射が生きてる……)」
佐天「…3秒──時は、動きます」
一方通行「ェなって、ハッ、やっぱ空間移動系の能力者かァ」
一方通行「悪ィがな11次元だろォがよォ反射出来ンだわ残念かァ?」ニヤァ
一方通行「(確かに反射したが……妙だな……)」
佐天「……………」
一方通行「頼むぜェ嬢ちゃんよォ──万策尽きたって訳ァねェよなァ?」
一方通行「万策って文字通りこの【一方通行】を倒す為に『万』の策を用意して来たンだろォ?
一方通行「万でも億でも兆でも京も垓──策なンざ無駄なンだよ!!」
一方通行「友情や努力で勝利できねェんだわ、この【一方通行】はなァ」
一方通行「ハッ、それに笑わせるぜェ?【人形】相手に友情だァ?くだらねェよ」
一方通行「そうかそうか──オンナノコって【人形】好きだもンなァ?」ニヤァ
佐天「いい加減に──」
一方通行「分かったから、安心してケツを俺に向けてダッシュだァ──追わねェからよ」
一方通行「この【一方通行】が見逃してやるって言ってン──」
佐天「黙れって言ってんの」
一方通行「あァ?」
佐天「誰が【一方通行】が倒せないですって?アンタなんか楽賞よ──」
一方通行「……、へェ面白ェなオマエ」
佐天「予言します、このナイフを『反射』出来ずに【一方通行】は終わる」
佐天「一撃、です──、アナタみたいな雑魚には一撃で十分です」
一方通行「ほォ、この未だかつて破ったことも無い『反射』を破るって楽しみだねェ」
佐天「……(『静止した世界』は正確には『静止した世界』じゃない──)」
一方通行「確かにィ?そんなナイフで刺されたら一撃だわなァ」
佐天「……(『止まってると思うほど時間を遅くする』正確には多分そう──)」
一方通行「無駄だって気付かねェ──
ドォ────z____ン!!
佐天「少し頭を使えば分かりますよねアナタの『反射』の破り方くらい」
佐天「『反射』の膜に当たったベクトルを跳ね返している──なら」
佐天「……(ここだ──!!)」
佐天「──3秒、時は正常に廻りはじめる」
一方通行「!!!!ガッ──」ブシュゥゥ
一方通行「ぐっ、テメェ!!!何しやがった!!!」ボタボタ
佐天「単純なことじゃないですか、『反射』の膜に触れた瞬間──」
「ナイフを引いただけですよ」
一方通行「!?……『空間転移系』にンな事できる訳が────」
佐天「誰が『空間転移系』って言いました?私は『無能力者』ですよ──、しかし」
佐天「……(一瞬にも満たない時間で『向き』の方向を変えた──)」
佐天「……一撃、では無いようですね」
佐天「咄嗟に反射の向きを変えるなんて──とても人間には思えません」
佐天「でも──、太ももにナイフが刺さっていては戦えないでしょう?」
佐天「次はもっと深く刺してあげますから大人しくしていてくだ──」
一方通行「──────調子に乗ってンじゃねェぞ!!クソアマァ!!」ブワッ
──いつの間にか佐天涙子の目には空が映っていた。
一方通行「この程度で勝った気になってるから──、足元掬われンだ」
一方通行「確かにテメェの策は俺の反射を破った、だが反射を破ったからどォした?」
一方通行「その程度で【一方通行】を攻略した気になってンじゃテンで駄目だわ」
一方通行「ケド惜しかったなァ世界初だぜ?この一方通行にナイフ刺したとか」
──体中がハンマーで1時間殴られ続けたように痛む……
一方通行「『向き』を操れるから俺ァ【一方通行】なンだよ俺が何をしたか解るか?」
一方通行「テメェにゃちょっとした風の塊をぶつけたってだけだ」
一方通行「滅茶苦茶手加減してやったからよォ死にはしねェよ」
──…………、ごめん……妹さん──あたし負けちゃった……。
一方通行「だが俺の『反射』を逆手に取るなンざ──」
一方通行「──、対策は後ででいいか……まずは実験だなァ」
──……………………やっぱり無理だったのかな
ミサカ「ぐっ……あの二人は一体どうなったのでしょう、と──」
一方通行「ったく、都合よく救世主なンざ現れやしねェんだよ」
ミサカ「!!一方通行……彼女は」
一方通行「はっ!安心しろよ滅茶苦茶手加減してやったからよォ」
一方通行「暫く病院からァ出られねェだろうなァ」
ミサカ「それを聞いて心底安心しました、とミサカは本心をあらわにします」
一方通行「………、チッ」
一方通行「………………」スタスタ
ミサカ「一体どこへ、と──」
一方通行「気が変わった、やっぱ殺すわ」スタ──ずるずると体が乱暴に引っ張られている
佐天「…………(……?)」
──自分を引きずっている人間に見覚えがあった
佐天「…………(一方……通行……)」
佐天「…………(体中痛くて……声も出ないや……)」
──ズルズルズルズル、ドサッスタ
佐天「…………(あ……妹、さん……)」
一方通行「持ってきてやったぞ、心配してたンだろォ?」ニヤァ
ミサカ「──何を、考えているのですか」
一方通行「こォすンだよ!!」
指一本動かせない佐天の腕を目掛けて一方通行は足を振り下ろした。
────ボギッ!
佐天「あ゙っ……がっ……ッ」
ミサカ「!!何を──!!」
一方通行「見て解んねェのか!?この一方通行様に傷を付けたクソアマの骨を折ってンだよォ!!」ヒュッ ボギッ
佐天「ぐ……ご……ゔっ……」
ミサカ「や、やめなさい!!実験は私が殺されれば済む筈です!
彼女は関係ない、殺すならミサカにしてくださいとミサカは一方通行に懇願します」
一方通行「くっく、『人形』でもンな顔すンだなァ」
一方通行「だがテメェを殺すのは後だ」グリグリ
佐天「あ゙っ!!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙──!!」
一方通行が足を振り下ろすたびに軽快な音を立てて骨の折れる音と佐天涙子の絶叫が辺りに響く。
──どうして、届かなかったのかな……
──珍しい能力に自惚れちゃったのかな……
──友達が殺されていく事が許せなかっただけで……
──これで、いいのかな?このまま死んじゃっても……
佐天涙子の世界が壊れていく。
彼女の人生の全ての経験が洗い流されていく。
白く、ただ白く世界が変わっていく。
痛みも忘れていく、白が彼女を包んでいく。
想像もしていなかったものが近くに感じる。
少ない人生で出会った様々な人達。
全て、忘れて──。
……………………………………………………
……………………………………………………
……………………………………………………
………………………死…………………………
一方通行「ハッハァ!イイネ最高だねェ!!」ゲシッ
──その子達から離れろ
一方通行「あァ?ンだテメェ?今日はやけに客が多いンだな」
──ごちゃごちゃ煩せぇよ
一方通行「ったく……見世物じゃねェンだからとっとと消えろ」
当麻「ごちゃごちゃ言ってないで離れろって言ってんだよ!!三下!!」
ミサカ「何故──何故ミサカを助けようとするのですか!?ミサカは単価にして十八万円の価値しかありません」
ミサカ「もう、やめてください……ミサカなんかに命を賭す価値なんか──」
上条「──うるせえよ」
上条「十八万円だとか、命を賭す価値とかごちゃごちゃうるせぇよ」
上条「確かにお前は二万人も居るのかもしれねぇけどな──」
上条「ミサカ一〇〇三二号は、お前はたった一人しかいねぇだろ!!何でそんな事もわかんねぇ!!?」
ミサカ「──。(何なのでしょう、この気持ちは……彼女がここに来たときも感じたこれは──)」
上条「今からお前達を助けてやるから、黙ってそこで見てろ」
一方通行「くっく、面白ェな──面白ェよお前達」
上条「──────、」
一方通行「ンな人形助けてどォすンだっての──!!」ゲシッ
佐天「────ッ!!」
上条「いいからテメェはさっさとその子達から離れろぉぉぉぉぉ!!」
ロケットのように上条が一方通行に向かって駆け出す。
しかし一方通行はベクトルをどう操ったのか、たんっと砂利を踏み
ゴッ!!と砂利が舞い上がり向かってきた上条を軽く吹き飛ばした。
一方通行「ハッ、遅せェ遅せェ!!そんなんじゃ全っ然遅ェぞ!!」
上条「くっ──、クソぉぉぉぉぉ!!」
──起きて、起きて佐天さん!!お願い!
──佐天さんの力が必要なの!!あたしじゃダメなの!
佐天「──み、みさか──さん──?」
御坂「こんな事頼める状況じゃないのは分かってる──でも、【超能力者】の私じゃダメだから──」
佐天「……(御坂さん──。でも、ごめんなさい指一本動かせません……)」
御坂「佐天さんの能力なら、アイツを──、アイツを助けてやることが出来るの!!お願いっ」
佐天「……(アイ、ツ?)」チラッ
佐天「……あっ……」
視線の先には一方的に虐げられている上条当麻が居た。
御坂「──、お願い、お願い……」
佐天「…………」コクッ
一方通行「アッハァ!遅せェ遅せェ!!狩人を楽しませるならキツネに──」
ドォ────z____ン!!
上条「──!?これは……そうか、涙子ちゃん──」ダッ
一方通行「なっ!?テメェいきなり──」
上条「────ッ!!」
──バギン、と音がして一方通行が吹っ飛ぶ。
一方通行「ガッ、グハッ!?ンだテメェ?」
上条「立てよ一方通行──、妹達や涙子ちゃんの痛みを教えてやる──ッ!!」
一方通行「チッ、────吼えてンじゃねェぞ三下がァ!!」
一方通行「テメェなンざ──」
ドォ────z____ン!!
上条「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ──!!」
一方通行「ガッ、ハァ──ッ!!テメェそりゃ一体──!」
一方通行「!!(そうか、さっきのクソアマの──)」チラッ
──視線の先には、無能力者と言い張った少女が、倒れている。
──倒れてはいた、しかし無言で一方通行をキッ!と睨み付けていた。
佐天「…………」
上条「余所見を、するな──」
一方通行「ガッ──、クソッ何なンだテメェらは──」
ドォ────z____ン!!
上条「歯食いしばれよ最強──」
上条「──『俺達』の最弱は、ちっとばっか響くぞ!!」
上条当麻の右拳が一方通行の顔面に突き刺さる。
華奢な一方通行の体がゴロゴロと砂利道を転がっていった──。
佐天涙子が目が覚めるとそこはまだ夜明けを迎えていない病室のようだった。
佐天「──?あーっと?」
ミサカ「ここは病院です、とミサカは目が覚めたばかりの貴女に語りかけます」
佐天「!?妹さん──、えっと、その実験は」
ミサカ「はい、実験は一方通行が敗北したことにより中止に向かうことが決定しています、とミサカは懇切丁寧に報告します」
佐天「そっか……、それで妹さん達はどうなるんですか?」
ミサカ「それについてはご心配なく、世界各地の研究施設に送られて調整を行う予定です、とミサカは答えます」
佐天「世界各地?それって妹さん達にはもう会えないんですか──?」
ミサカ「いえ、学園都市に残る個体もいますし会うことは出来ると思いますよ、とミサカはやはり懇切丁寧に答えます」
佐天「そ、それじゃ──」
ミサカ「──、それとミサカ一〇〇二八号から言伝があります」
ミサカ「『ケーキ、美味しかったですよミサカ一〇〇二八号の友達』とミサカは一字一句間違えずに伝えます」
──ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ救われた気がした。
佐天「……」
ミサカ「それでは失礼します、とミサカは出口に向かいながら別れを言います」
ミサカ「あ、とミサカはもう一つ用事があることを思い出し言います」
ミサカ「『調整』が済んだら、一緒にケーキを食べに行きましょう──」
佐天「──!そうだね……初春や白井さん御坂さんも呼んで盛大にやりましょう!」
佐天「そしたらあたしがケーキの一つや二つ奢りますよっ!」
ミサカ「おや、いいのですか?、とミサカは目を輝かしながら食いつきます」
佐天「当たり前じゃない!『友達』なんだから──」
──ミサカが病室を出て行って暫く後
佐天「しっかし色々なことが一気に起こったなぁー」
佐天「暫く入院生活かーってあっ!夏休み明けの身体測定が──」
佐天「……もう暫く無能力者のままかートホホー」
コンコン
御坂「失礼するわねー佐天さん調子はどう?」
御坂「って何かどんよりしてるけど大丈夫?」
佐天「御坂さん……あー、平気ですちょっとメランコリーな気分になってただけです」
御坂「そっか、それで怪我の具合は大丈夫なの?」
佐天「それが少しおかしいんですよねー」
御坂「おかしい?一体何が──?」
佐天「骨折した箇所が『無い』んですよ、確かに骨折してたはずなのに」
御坂「…………?まぁ、怪我が軽くてよかったじゃない!」
佐天「そうですね、それと御坂さん」
御坂「ん?どうしたの?」
佐天「今度妹さんと一緒にケーキ食べに行きましょうね」
御坂「!!──そうね……学び舎の園に新しくオープンしたところに行きましょう」
──こうして佐天涙子と妹達の物語は幕を閉じた。
これから先、彼女に起こる物語が幕を開けることを知らずに──。
アレイスター「くく、佐天涙子の能力発現によって計画の省略が可能となったな」
『アレイスター、一体君は彼女をどうする気だい?』
アレイスター「おや君か私に電話をかけるなんてどうかしたのか?」
『質問に答えてもらおうか、佐天涙子や僕の患者達をどうする気なんだい』
アレイスター「ふふ、少々前に聞いたような質問だな」
アレイスター「あの男には回りくどい言い方をしたがあなたにはもう少し答えてあげよう」
『…………』
アレイスター「彼女は保険だったが無理して回収しといてよかったよ、能力発現してなによりだ」
アレイスター「学園都市には原石と呼ばれる能力者達がいるが、彼女はそれとは少し違う」
アレイスター「原石と区別し彼女は『芽』とでも言おうか」
アレイスター「『芽』はいずれ『花』を咲かすさ、それは非常に美しく私の為にね」
『…………なんであったも僕の患者を傷つけることは許さない』
アレイスター「ふふ、貴方には借りがあるが許さないとしても貴方にはどうすることもできないさ」
『…………』
アレイスター「では話は終わりだ、私の友人よ」