上条「なんだこのカード」 > Season2 > 06


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イギリス王宮・バッキンガム宮殿は騒がしかった。その原因の一つは朝9:00の報告である

「報告!ドーバー海峡上魔術と思わしき陣中央から光線の発射を確認。東岸、フランス領カレーにおいて市庁破壊等、相当規模の被害が出た模様です」

そして続く9:15

「フランスからの非公式ラインから通達!先の件について、本日1200までに謝罪と賠償並びに当魔術に関する情報開示がなされない限り、武力による制裁を開始する。ユーロトンネルは上記の返答があるまで封鎖。とのことです」

そして更に10:20

「清教最大主教より連絡!先件の光線は魔術では無い可能性が高い。とのことです」

そして今は10:30。約束の時間まで残り1時間と30分

その場に居るのは女王・第一王女・第二王女・騎士団長のみ。王室派と騎士派しかいないという状態だが、これには理由がある

すなわち、このような場合は想定済みであるということだ。流石にカレー市が焼かれるということは想定していなかったが

エリザード女王「先だって決めた通りの対応を取るべきと暗に最大主教が言っているが、どう思う」

娘達の顔を見ながら女王が言う

リメエア「フランスの自作自演、という線が薄くはなった。逆にこの状態を作りたがっている”何か”からという可能性が増えたかしら」

淡々と自分の考えを述べる長女。それを聞いて、鼻で笑う音をあげた者が居る

キャーリサ「何か、なんてわざわざ伏せなくとも。ローマの連中が本腰を入れに来ただけでしょーが」

腕を組みながら言い放つ

リメ「さて、それはどうかしら。非公式通達という方法を用いているというのは、あちらにとっても想定外であるという見方も出来る」

キャ「ならこの侵攻開始時間の早さはどーいう訳だ 」

リメ「私達と同じように想定していた、というだけでしょう。攻撃がイギリスにあればこちらも同じ体制を取る様に決めていたのではなくて」

エリ「フランスも混乱しているのだ。だからといって、向うの要求にも答えられない以上、目の前の戦は避けられない。ローラからどのような決定が下りても清教派は従うと連絡が来ている。騎士団長、貴下の体制はどうか」

騎士団長「既に、迎撃戦闘の体制は整っております」

エリ「宜しい。ここに三方の合議が成された。12時にフランスが宣戦次第、こちらも応戦する。リメエアに戦時外交を、キャーリサに軍事統帥権を委託。この国を守れ」

この場に居た全員が、決心を固めた表情をする

エリ「そして同時に、”何か”の特定に全力を挙げよ。聞いているのだろう、ローラ」

『清教派を代表して再度述べたりける。如何なる協力も惜しまない、とな』

ここに大英国の意向は固まった

 

 

御坂旅掛はロンドンの喫茶店でその放送を聞いた

時間は12時を回ってすぐの事だった

旅掛(この世界には、決定的に足りないものがある)

その”足りないもの”不足の為に、この戦いは始まったと言っていい

その役割を果たすものが決定的に弱かったからでもある。それを補填する為に、自らの持つ力だけでは非常に弱かったが、自ら有る組織の構成員となった

こうなることは既定路線。あとはその後の事

今だ発表されないが、この戦いの戦力図を彼は最初から知っていた

どことどこがどのようにして手を組むのか。どのような結果になるか

そして、この戦いが何のために起こされたものか

恐ろしいほどに、今までは”彼”の手の上通りに物事が進む

このまま”彼”の予測通りに進めば、自分の愛する娘が住む場所がどのように扱われるのか、それも変わらないだろう

そうなることを防ぐために、今彼は一人の男をここで待っているのだ

カラン、と狭い店内に鐘の音が響く

店の入り口を見ると一人の男が、自分が待っていた男が立っていた

少し服が乱れて、頬には日本に妻が居る為にあってはならないハズのマークを付けて、男が旅掛の隣の席に座る

?「ここに来る途中で、空から女性が落ちて来てね。慌てて受け止めたら、いろいろあって遅れてしまった。申し訳ない」

そう言えば、例の放送の前に、店のラジオでベランダから足を滑らせた女性を通りがかりの男性が助けたというニュースが流れていたような

 

 

浜面は何もない白い空間を走っていた

なぜこんなに全力で走っているのだろうか。わからない

だが走り続けなければならない気がして、理由を求めて走りながら後ろを振り向いた

そこには自分と等速で追いかける影があった

おかしい。影はこんな出来方はしない。これではまるで生きているようではないか

そう思うと、それは明確な形を持つ

そこにあったのは自分だった

居た、のではない。有った、のだ

その体の半分が、ちょうど縦に二つに割ったような半分が、黒い何かで構成されている

思わず立ち止まって、それをよく見ようとした

それが間違いだった

その黒い部分が自分に向かって腕を伸ばした

いとも簡単に自分の腹を貫通し、そして腹部から腕を抜いた

大量の血と内臓がそこから零れ落ちる

痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

その痛いという感覚が自分が生きていることの証であると同時に、また死に逝く感覚でもあった

死ぬ程の感覚を経て、自分は死んだはずだった。だが、体が動く。痛くもない

どうやら自分は生きている。目を開いて両手を見る

その片方の腕は黒かった。その片足は黒かった

そして正面に、先程まで逃げていた人間である自分の姿が居た

その人物の腹へ向けて腕を向ける。何をするのか、浜面は瞬時に理解した

オイ止めろ!止めろ!自分を殺すな!人間を殺すな

浜面「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

浜面の男臭い部屋に彼の声が響いた

 

同時に明りが付く。時間は深夜2時

大丈夫ですか?という声が聞こえた。ソファに眠る浜面を心配そうに見下ろす少女の姿があった

どうやら、自分は夢を見ていたようだ。まだ心臓の鼓動はバクバクと鳴り響いているが

ピーッピーッピーッと音が鳴った。この音には聞き覚えがある

電子レンジの中から、少女がマグカップを取り出す

カップが、身を起こした浜面の前に現れる。中身は半分ほどだが、ココアの甘い香りがした

佐天「どうぞ、飲んでください。夕方に寝てたからか眠れなかったんで、勝手に電子レンジとカップ、借りちゃいました。あの時の飲み残しなんですけどね。なんだか、かなり体冷えてるみたいですし」

少女の手が浜面の首辺りに触れる。温かい

そして浜面は、ココアの甘い香りと温かさが非常に欲しくなった

浜面「いいのか? 」

少女はコクリと頷く。カップを両手で受け取る。熱いですから、ゆっくりですよ、と言われ、息を吹きかけ、ゆっくり飲み込 んだ

イメージは、冷えた金属に人肌が触れた感じ。体内でそのように感じた

佐天「やっぱり、浜面さんがベッド使ってください。10月も半ばを過ぎてもう寒いんですし。風邪引いてもらっちゃ悪いですから」

ココアを飲みきってなお体が冷たく、呆然と宙を見ている浜面の腕を引き、強引にベッドへ導く

足取りも芳しくない。そして腕も冷たい。浜面を寝かせ、毛布のようなものを探した

無い。代わりになりそうなものも無い。ベッドの蒲団だけでは少し寒いと少女は知っている

仕方が無いなぁ、と少女は呟き、浜面の寝ている布団へ潜り込む

浜面「うぇ、ちょ、涙子ちゃん?」

佐天「別にそういうつもりじゃありませんよ。今はただ温まって寝てください。金属みたいに体冷たいですから。こればっかりは滝壺さん?も許してくれますよ 」

そう言って、なるべく浜面の体に重なる様に移動する

朦朧としていた浜面はその言葉に従った。否、払いのける気がしなかった

浜面(すまない、滝壺。別にそういうつもりじゃないんだ。ただ、今は人の、人間の温もりが欲しいんだ。だから、許してく れ)

そう思ったところで、浜面の意識は途切れた

今度は悪い夢じゃありませんように、と少女は呟いた

 

 

 

まずイギリス連邦諸国がイギリスの側に立った

無論、軍を差し伸べるには遠く、今は声明だけだが。だが、それは欧州で宗教的にも孤立する英国を心理的に助けることになる

その背景には、歴史的に同じユニオンジャックを分かつ国として、同じイギリス清教会信徒が多いという原因のものもあるが、何よりも第一王女の働きがあった

そして彼女の働きで一番の功績は、米国の支持を取り付けることが出来たことである

米国北にあるカナダはケベックという小規模のイギリス対フランスを演じている州がある。この問題においてフランス本国が活発化した場合、カナダは荒れる

そうなれば南で結びつきの強いアメリカ本国まで飛び火することとなる。それを全面に押し出し、彼女は外交努力をしたのである

それによって一般人にとっての最大脅威、核兵器という脅威はフェアとなった

そして米第6艦隊はたまたま偶然にも英国軍との対海賊合同演習として、イギリスの軍港に有った

そこで補給としてつい先日米国の最新装備を受け取っている

キャーリサや軍事担当者がその場に居れば、なぜこの技術がその場に存在しているのかと問いただしていたところであろう

これらは極秘の上で行われたことであり、英国関係者は誰一人知らない

すぐにでも戦火を交えることになると思われた戦いは、今だ本格的な火ぶたを切られたわけではない

膠着状態。狭いドーバー海峡を挟んで、英仏両艦隊は睨みあいを続けていた

丁度その中心に、例の魔術らしきの空中の陣を挟んで

歯ぎしりをしているのはフランス側、ローマ正教側の支持を取り持った諸国である

それら諸国は、9000万人という市場を持ち、更に大経済大国である英国との貿易が切れ、資本投資が一斉に引き戻され、株価の大暴落を招いた

逆に米国との太いパイプを示すこととなった英国には、資源と背後の安全が保障され、更に安全牌として市場に資金が流入する

牙の抜かれた英国など20億の信徒を持つローマ正教が一瞬で叩き潰すと約束されていた国々は不満をさらけ出した

英国最大の牙は軍事力などでは決してない。7つの海を支配した歴史と強大な経済力。それを理解して全て計算に入れているのが、リメエアである

だが、その原因である米国の支持は本当に彼女の功績なのだろうか

 

 

 

 

 

垣根「まーだついてくんのか。いい加減勘弁してくれよ」

東の方向が若干白んでくる時間帯に、垣根は声を挙げた

まだ、ビルの群の裏路地である。彼が持っていた端末が全て起動しなくなったので、有効的に情報が利用できない為人気が少なく逆にカメラに見つかりやすい夜に移動するぐらいなら、人がごった返す登校時間を狙って動いた方がいいと判断したことが最初の理由であるが

上条「俺だって、夜通し男を追っかけるなんて不毛な事はしたくないっての」

移動し続けることに、メリットは無い。全ては彼が執拗についてくるからだった

垣根「何度撒いても見つけやがって。俺専用の探知機でも持ってんのか」

諦めたように、立ち止まり振り返る

上条「滞空回線って分かるか?それで消えるたびに見つけ直してんだよ」

滞空回線という言葉を聞いて、別段垣根は驚かなかった。それぐらいの代物でなければ、複雑な構造をしているビル群の中で場所を確実に見つけることは、電波的に難しいからだ。いかなるパッシブレーダーでも立体構造の群の中では正確な情報を見つけることは難しい

あるいは、AIMストーカーの様な能力か。とにかく彼は執拗だった

垣根「なんでテメェがそんなもんにアクセスできるのか知らねえが、そこまでしてなぜ俺を追う?」

上条「やっと話を聞いてくれる気になった?!」

小さくガッツポーズをした上条の動きに若干のウザさを感じながら、で?と促す

上条「じゃ、端的に。なんで逃がすようなことをした?この状況でそんなことをしたら暗殺されるぐらい想像できるだろ? 」

垣根(俺の行動が理解できないってか。だがそれだけじゃここまで執拗に追いかける理由には弱い。何かこいつは俺の動きを監視しなきゃならないワケがあると見えるが)

垣根「……じゃ、逆に聞いてやる。なんで俺が命令通りに動かなくちゃならねえんだ?」

そんなもん俺の自由だろ、と突き放すように述べる

上条「そりゃ、従わざるを得ない理由があるからだろ?それに裏の事をよく知ってるお前なら今の状況じゃs 」

垣根「今の状況だからだ」

短い言葉で上条の言葉を奪う

垣根「お前は俺の事を全く理解してねーな。してたらしてたで不愉快だが。まぁいい、俺の側には女が居た。そいつは俺と同じ意図を持ちその為に同じ暗部組織に名を連ねてた」

垣根「だが俺は、信頼して無かった。出来る訳がねえだろ、他人の精神を弄る様な能力者を。で、俺はある時気が付いた。なんで俺がこの都市の管理者の命令に従わなきゃならないのか」

垣根「そこにあったのは、その女との共通の理由。取ってつけたような、詰まんねぇ理由。アレイスターとの直接交渉権を得るため」

垣根「なんだそれは?んなことがしたいなら、奴の住まう場所を直接強襲すりゃあいい。あのビルの外壁を俺の未元物質でどうにか出来るか不明だが、とにかくそんなことを実行しようとしたことは無かった」

垣根「その意図は有ったのかもしれない。実際やろうと思えば、奴の事をよく思わない理事会員の支持を得て公式的にすることだって可能なハズだ。今はそれをしようか考えられる。それを実行しようとも計画している」

垣根「今までなぜそれが出来なかった?思いもしなかった?この俺が?そんな訳が無いだろう。何をしてでも得たかった直接交渉権だ。……そこで思い立つのは消されていたという可能性だ。あくまで可能性だが、否定要因が無い」

垣根「単純な事だ。あのアマ、中坊の癖に俺を監視してたんだ。そのために都市側から派遣されていた刺客。俺の自由を奪う枷」

垣根「居なくなって、今俺は自由だ。アレイスターへの興味も減りつつある。無論それは、こいつらのせいかもしれねえけどな」

USBメモリとディスクをポケットから半分ほど見せる

垣根「どっかの誰かさんの電磁パルスでこのUSBメモリはぶっ飛んじまっただろうが、内容はそれなりに覚えている。そして恐らく無事なこのディスクは今から中身を見るところだ」

メモリを捨て、踏みつぶす。煙草を潰すように

垣根「さて、そんな状況下で命令に従う必要はあるか?ねぇだろ」

上条「そうかもな。ってか案外、たくさん喋ってくれたな。思いもしなかった展開に驚いてるよ」

それだけ捻りだすように喋り、次の言葉へつなぐ

垣根「俺ってばお喋りさんだからな」

と軽く笑みを浮かべた。案外、彼はこのことを誰かに話して、自分を、自分の行動をはっきりさせたかったのかもしれない

まるでこれが例の精神操作能力者の支配から逃れられていることを確認するかのように

上条「大体の事は分かったよ。それで確認なんだが、お前は標的の研究者に接触して、ついて来いと言われたか? 」

垣根「いや、んな事は言われてねーよ。逆に都市にとどまって味方が脱出すんのを手伝ってくれって言われたぐらいだ」

やはりか、と上条は思った。薄々気思ってもいたが、垣根はアメリカに必要無いのではないだろうか

(断定は出来ませんがね。ですが)

(状況的には可能性が高いでしょう。結局彼を襲うような様子は無かったですし)

(その上、あの白い少女は何らかの能力を使った感がありますからね。無論彼女らのオリジナルかもしれませんが)

上条(はー。どういうこった。一体どうなってんだよ。時項の変化ってのは)

(あのハングドマンに騙された可能性がありますね。こればっかりは理論もまだ不明ですし)

(本人に問い詰めるも良しですが、また謀られる可能性も捨てきれません。圧倒的に知識が足りないですから)


垣根「質問するだけしといてだんまりかよ。フェアじゃねぇな」

上条「いや、そんなつもりは無いって。でもお前、今は俺の事なんかよりそのディスクの中身を見たいんじゃないのか? 」

垣根「そうだな。その通りだ」

上条「んじゃ、俺に付いて来いよ。滞空回線あるから追っ手の後手に回ることは無いだろうしな」

 

 

 

佐天「あ、おはようございます」

浜面が目を覚ますと、少女が台所に立っていた。良い匂いが部屋を覆っている

火を止め、少女が近寄る

佐天「やっぱり体温戻ってますね。顔色も良いし」

額や首元を触り、料理に戻って行った

佐天「もう少しで出来るんで、シャワーでも浴びてて下さい」

別に彼は低血圧という訳ではないが、料理の匂いのせいか自分の部屋が自分の部屋でないような感覚がして、その言葉に従った

風呂場は湿っていて換気扇が回っている音がする。まるでこの前に誰かが入ったような

近くのゴミ箱を見ると女性用下着の名が印刷されたビニル袋が見えた

コンビニなどで売っているような、そんなどこにでもある代物

つまり、あの子が入ったのだろう。戦場で埃まみれになって、そのまま自分に寄り添って寝ていたのだ

そりゃあ、汗も出るだろうし不快指数が増すのは分かる

浜面(電子レンジといい、風呂と言い、自由だなあの子)

特段怒る気にもならない。自分の城、という程この部屋に慣れ親しんでいるわけでもない。なにしろこの部屋に来て日も浅いのだ

例え自分の城であっても、好き勝手されて気に食わないという感情を持つほど、彼は甲斐性無しというわけでもない

だって男友達が来たら、大体こんなもんだろ。それと変わりゃしないじゃないか

なぜ彼がそこまで考えているのかというと、自分より年下の、しかも中学生がここに寝泊まりしたということを考えない様に努めているからである

まだ朝も早い。確か今日から学校もあるはずだ。彼女も行くだろうと考えて、シャワーを浴びる

いつものように体を拭き、火照った体を冷やす為、パンツのみという格好で部屋に戻る

なぜなら普段、下着はこれしか風呂場近くに置いていないのだ。仕方が無いこと

それを見て少女は別段驚く様子も無く

佐天「もう結構寒いでしょ?早く上着た方がいいですよ」

と恥じらいもせずに言い、盛りつけに戻った

無論、彼女だって驚いていた。でもなんというか予想通りで、意外性は無かった。それでも盛りつけはじめたその時は、少し顔が火照るのを感じたが

冷静に考えれば、自分はもっと恥ずかしい行為を昨晩行ったのだ。朝起きた時、自分の行動に驚いたからこそ、彼女はシャワーを浴びて気持ちを切り替えるよう努めたのだ

その時の焦りがぶり返さないよう、本音を言えばさっき体を触った時既に手遅れだったのだが、食事を準備する

浜面が起きてからシャワーから出るまでの十数分間の短い間で彼女が作ったのはベーコンエッグ・サラダ・スープ・トーストというシンプルなものだった

味も悪くない。早い話無難だ。見た目通りの味に、うん、イケるな程度の反応をして、それまた当然のように、そうですかありがとうございます程度の返しをする

浜面「あれ、トーストどうやって焼いたんだ? 」

佐天「なに言ってんですか。電子レンジにトースト焼く機能付いてましたよ?」

マジで?と言いつつレンジを見ると確かにトーストのマークがあった

佐天「この部屋、住み慣れてないんですか?なんか調味料も皆未開封でしたし」

浜面「まぁな。仕事の為に近くの部屋を用意されて、住んでるだけだから、当然どんな家電製品なのかも自分で選んでねーから、わかんねぇや」

そんな中身の無い会話をしばらくして食事が終わる。まだ朝7時半にもならない

電話が鳴った。音源は浜面の携帯

浜面「もしもーし?」

麦野『仕事……9時集合……以上、宜しく…… 』

切れた。全く要領を得ない中身だった。分かったのは9時に多分いつもの所へ行けばいいということだけ

大方、休みだと言って夜通し遊んだら朝一で仕事の連絡があったのだろう。唯でさえ女だらけで低血圧祭りだというのに

かわいそーに、と呟くと洗い物を終えた少女が浜面を見る

佐天「仕事ですか」

浜面「ああ。でも関係がある内容か分かんね。一言で切れたしな」

佐天「そうですか。んじゃぁ、アタシは一度家に戻って学校行きます。浜面さんのお陰か、その、不安も減りましたし」

浜面「いや、俺メーワクしかかけてねーから。飯、美味かった。あんがとさんよー」

佐天「仕事の内容で私関係の事があったら教えてほしいです。アタシはアタシで当れるところ当りますんで」

浜面「おいおい、無茶はすんなよ? 」

佐天「大丈夫ですよ。今日は異様にコンピュータに強い友達にちょちょっと調べてもらうだけにしますから 」

そーかい、と言って、納得したような顔をする。時間は半過ぎ

佐天「んじゃ、帰りますね。お世話になりましたー」

と言って紙袋一つ抱えて帰って行った。何その紙袋と尋ねると、分かってるくせにエッチですねとからかわれた。結局浜面は常に年下であろうと女性にはからかわれてしまう性らしい

 

 

 

登校時間。周りの話題は殆ど二分されていた

「昨日の見た?」「昨日のって、あのヘリコプターから翼が生えたってヤツ?あれ嘘なんでしょ?」

「いやいや違うって。あれはマジ、マジモン。私見たもん。昨日23学区の近くに居たからさ」 「動画もネットに上がってるよー。でもアレって映画の特撮らしいじゃん」

「え、そうなんだ。でもそうかも。爆発するヘリコプターに巨大な翼ってどう考えてもそういう系だよねー」

「でもどんなジョーキョーだよって話。お金かけてB級映画で大爆死見え見えでしょ」「だよねー 」

この話題が一つ。そして

「イギリスとフランスまだ膠着状態なんだってな」「アメリカが後ろ盾にいたら真っ向勝負って訳にもいかないでしょ」

「あー怖い怖い。先進国同士で戦争なんて物騒な世の中だ」「でもネットの動画見た?町ひとつ新兵器で焼き落とされたら怒っても仕方ないっしょ」

「イギリスは知らないって言ってんだろ?」「どーだか。あの国昔から新兵器作っては禁止されてるし」

「でも学園都市って確かイギリスと仲良くしてるらしいぜ」「マジで?!飛び火とかマジ勘弁なんだけど」

「ま、ここの軍事技術なら返り討にしてくれるっしょ」

この話題だ

彼女にとって、後者の方が気になる。実の父親はよく欧州へ行っている上に、母親まで欧州に行っているのだ

気にならないハズが無い。電話しようかと思ったが、出ないのだ

御坂(まだ大事になってないから大丈夫だろうけど、娘を心配させるなんて親としてどうなのよ)

白井「やはり、気になりまして?」

御坂の表情を見かねて、白井が尋ねる。昨日から何度か電話を試みているので事情を察したようだ

御坂「ま、仮にも親だしね。心配にもなるわよ」

日頃同部屋で顔を合わせている後輩は表情に無理があるのを読み取ってしまう

白井「そうですか。深くは言いませんが、ご無理をなさらない様に。きっと大丈夫ですの」

後輩に心配させていると思い、気苦しい。なんというかこの空気を変えたい

御坂「そ、そう言えば昨晩なんか怪電波感じたけど、あれなんかあったの? 」

白井「流石電撃使いの頂点ですわ、お姉さま。第5学区のビルの裏路地で非常に強い電波が放出されて、周辺100mの電子機器が軒並み使用不可になるとい う事件がありましたの」

御坂「あー、やっぱり。可哀相ね。小型核弾頭の放出電磁波並みだったわよ、あれは。それで、原因分かってるの?」

白井「部外者のお姉さまに深くは言えませんが、原因は不明らしいですの。ただ、銃痕や何か強い力が何度も加わった跡などが発見されておりまして」

御坂「物騒ね。能力者同士の小競り合いかしら」

白井「だとすると、並みのレベルではないかと。……ここだけの話、最近異様に多いんですよ、小競り合いというか紛争というか、その痕跡が。責任者不明となって立ち行かなくなった研究機関も増えていますし」

御坂「そんなこと今に始まった事じゃないとは思うけど?失踪なんて珍しくは」

言葉を遮る様に後輩が喋る

白井「施設そのものが吹き飛んだ跡、確認された爆発音・銃声、隠し切れていない血痕、これまでのものとは比較になりませんの。何か全体的に不穏な動きでもあるようですの」

御坂「だとすると、今この時間からが一番動きがありそうね 」

白井「というと?」

御坂「多くが能力者で構成されている風紀委員は授業中で居ない。一番人数が多い生徒・学生も授業中で目撃されることも少ないでしょ?ま、つまりは学校に行ってれば巻き込まれることも無いし、安全ってことね」

白井「そう考えると、確かにそうですわね。口惜しいですけど、その手の事は本職さんに任せますの」

御坂「そうよ。学生の本分は勉強なんだし、とっとと学校行きましょ」

御坂の表情に不自然さが減った。そのことに後輩は少し満足して、学校へと足を向けた

 

 

 

垣根「ネットカフェ、だと」

上条につられて来た場所は一般的なネットカフェ。彼の驚きは当然だ。ネットカフェなど犯罪の温床として都市外部ですら情報管理が厳しい。都市内部に至っては考えるまでも無い

上条「言いたいことは大体分かるって。ま、ついてこいよ」

自信有り気に歩く上条に付いて行く。そのまま堂々と従業員専用の出入り口から屋内に入る

時間は大体の学校が始業を始める9時を過ぎたころ。学生主体の学園都市内では一番利用者が少ない時間である

つまり、従業員数も一番少ない時間帯

事務室から繋がる受付には一人しか人が居なかった。恐らく、巡回掃除と受付の二人だけと言ったところか

上条「管理の厳しいのは大体利用者側なんだよ。ホラ見てみ」

小声で話す上条が指差した先の受付店員はよく見ると受付の端末でゲームに熱中している。ご丁寧に監視カメラを自分の方には向かせないルーチンに設定して

上条「な?本当に監視が強いなら、アイツらすぐに首になるか設定変えられるハズだ。結局、管理者側ってどこもずぼらで穴だらけってことなんだよな」

そのまま倉庫へ直行する。そこには、故障中の張り紙がしてある物やリース契約が切れて返却用に梱包される途中の物が多くある

上条「んで、ここのを使えば見つかることも、ネットワークに入ることも無い。純粋なデータ閲覧なら充分だろ?」

俺は一応見張っとく、と言って上条は少し離れて外を警戒する

垣根(庶民的な活動をしてないと発想すらわかねぇ方法だが、やるなアイツ。後はこのディスクが規格に合うかどうかだが)

何の事は無い。普通の大容量多層ディスクで、都市外部なら危なかったかもしれないが、内部なら間違いなく普及しているタイプである

無事読み込みを始めた様で、一安心だ

そこに記されていたのは、最新の量子諸学における”時間”とその作用についての考察。はっきり言って、背景知識の不足がある垣根には理解できない内容の羅列ではあったが、未元物質使いとして理解せざるを得なかった自分の知りゆく分野から断片的に理解しようとした

データの発表機関の表示は無く、学園都市の高名な名前の研究者の連名によるものだった。それらの中には垣根の仕事の標的であり亡き者にした人間も複数名見受けられ、某超大国の報告書という形式でのデータだった

何度か読み返してようやく理解できた部分に記されてあったのは、現在に至る137億年の宇宙年齢において極所的に時間軸を含めた次元的な入れ替えが到る所で起きている可能性があるということ。その可能性の範囲には地球も含まれているということ。そして最近起きた可能性がある日とその原因と考えられる事象。更にその影響について

ディスクに記されている容量のほんの一部であったが、垣根を驚かすには十分だった。そして湧きあがる疑問

近くでに立って外を確認している彼は、果たしてこの現実を知っているのだろうか。知らないならば、彼にこの事実を教えてもよいのだろうか

この事実は悪戯に広められない。広めれば間違いなくパニックが起きる。だがそのパニックは結果的に早まるだけだ。いずれ必ず世界規模でパニックは起きるだろう

垣根(別に周りがパニックに陥ろうが俺は気にしねえが、この問題は俺という存在も含めてあらゆる存在を軽く消し去る以上、余計な横やりの原因は増やしたくない)

そんな事実を、この御世辞にも頭がよさそうには見えないし素性もわからない男に教えてもいいのか

そういったことを垣根が考えている一方で、上条も滞空回線を用いて情報を集めていた。重要なデータが意図的に消されていたとはいえ、新しく集められた情報は彼もアクセス出来る

見つかった情報で一番上条らの目を引いたのが、スクールの心理定規と大能力者の拉致を防ぐという物

学園都市の超能力情報の流出を最大の懸念としている上条にとっては、最も注視すべきことである

しかしながら、今読み物に集中している彼の話に出てきた女というのはきっと彼女の事だろう

彼女が彼の側に戻れば、また元の破壊者に戻るのかもしれない。そこで彼は葛藤する

学園都市第二位が都市の管理下にあるという状況は、はっきり言って好ましくない。それは権力者の横暴の玩具となることと、彼自身の自由という二面による

無論前者の問題が大きい。一度垣根帝督側から離れている以上、次にその女の手によって捕まれば確実に束縛は厳しくなることだろう。特にこの度のガタガタでは、それが惨事をもたらしてもおかしくは無い つまり、垣根という存在によってパワーバランスが崩れ第二第三のアメリカ受入派が誕生した場合、また大惨事が人為的にもたらされる可能性は否定できない、という訳だ

上条(でも、わからねぇんだよな。本当にその女ってのがアイツの言うような人間なのか)

(なら、実際に立ち合わせてみたらいいでしょう。情報流出も困りますが、彼が誰かの手に落ちて惨事をもたらされるのも同様です)

(結局、その娘次第ですね、彼の処遇は。願わくば別の理由で監視していたか、彼の勘違いであればいいのですが。この都市の事です、楽観はできませんけど ね )

上条(結局、能力云々に関わらずアイツはその子に囚われてるってことだな。それの善し悪しは分からんが)

気が付くと、上条の方を垣根が見ていた。端末の電源は落ちていて、もう行こうぜとでも言いたげだ

上条「あら、俺もその中身見たかったんだけど」

垣根「へっ、ぼーっとしてるテメェが悪いんだよ。それに俺はお前の事をそこまで信用してねーし 」

上条「そりゃ残念だ。一緒に一晩明かした仲じゃん?」

と茶化すように言った。それが出来たのは、上条がそこまでそのディスクを重要視していなかったからだ。自分の知りゆく範囲の内容だろうと高を括っていたからでもある。完全にそれはミスシンキングであるのだが

垣根「お前が勝手についてきただけだ。ま、これを読み取れた事には感謝してやるよ」

上条「なら、感謝ついでに俺のお願い聞いてくれるか? 」

垣根「聞くだけは聞いてやろう。何だよ」

上条「お前が言ってた女、心理定規の救出を助けてくれ、ていとくん」

 

 

 

浜面の予想は当っていた

マイペースな滝壺を除いて、他の女陣は麦野に巻き込まれたようで、皆目下にくまが出来ていた

麦野に至っては、二日酔い

浜面「おいおい、大丈夫なのか今日の仕事」

麦野「大丈夫だと、思いたいわね。あああ頭痛てー」

何度目かの水を飲む

絹旗「そんなに水ばっかり飲むとお腹超壊しますよ」

絹旗は心配して言っているのだろうが、如何せんその低年齢の女の子らしい高い声が麦野の脳内に響く

麦野「ああもううっさい!わかってるわよそんなこと」

叫んで、麦野のお腹に独特の衝撃が来る。所謂、波

悶絶しそうな麦野をバックミラーで確認して、浜面は気を利かせる

車が止まった

浜面「ここのコンビニ、トイレ付きだぞ」

そう言うと麦野はすぐさま車を降りて、コンビニへ駆けこむ。アイドルが何やらをしないなんて言うのは幻想もいいところだ、なんて思わされる素振りだった

浜面「お前ら朝食もまともに食ってないだろ?なんか買って来たらどうだ? 」

フレンダ「浜面にしては気が利くってわけよ」

絹旗「そう言って案外自分がお腹超すいてたってオチなんじゃないですか?」

車を下りながら少女達が思い思いの事を口にする

浜面「俺はちゃんと食ってきてるっつの」

自動ドアをくぐりながら浜面が答えた

滝壺「浜面が朝食を取ってくるなんて、珍しい」

浜面「なんとなくそんな気分だったんだよ」

フレ「へぇー、本当に珍しい。案外女でもいたりしてねー?」

絹旗「まさか、特例を除いて、こんな超馬面に女の人が靡くはずがありません」

広くない店内で散々な言われようだが、これもいつもの事。寝不足で少々キツさが増しているのは仕方ないとして

滝壺「大丈夫。私はそんなはまづらを……」

いつもの展開。これが浜面唯一の救い、のハズだが

浜面に近付いた滝壺が気付いてしまう

滝壺「はまづらから知らない人の匂いがする」

麦野の為に二日酔い用の薬を手に取った浜面の手が止まり、同時に近くに居た絹旗とフレンダの動きが止まった

馬鹿な。朝シャワーも浴びて、その後身体の接触など無かったはずだ

だが浜面は見逃していた。着ている上着が、昨日と同じ物だということに。そしてその上着で動かなくなった佐天を抱きかか え、背負ったのだ。ハッとその事を思い出す

浜面(やっちまった!!やっちまったよ!!!)

浜面「い、いやー昨日部屋に知り合いが泊ってな。そいt」

滝壺「知り合いって、女の子なんだ?」

墓穴。そして背後に忍び寄る陰

麦野が車に戻った時には、浜面は物理的にも精神的にもボロボロだった

麦野「へぇ、浜面も案外隅に置けないのね。このツラで」

フレンダから手渡された二日酔いの薬をマズッと言いながら飲み干し、苦々しい顔で言った

酷い言われ様だが今の彼の面は酷い。今から危険な事をするのに既に怪我を負っていくとは何たることか

麦野「とにかく、運転だけはしっかりしてよ」

浜面「ふぇい。べ、きょヴのじごどはだんだんな? 」

絹旗「超やり過ぎましたかね、これは。意思疎通がままなりません」

滝壺「語感的に、お仕事の内容を聞いてるんだと思う」

麦野「あれ、言ってなかった?ま、いいわ。待機決定になった浜面に教えてあげましょう」

後ろの席から手を伸ばして腫れた浜面のほほをぺチペチ叩きながら続けた。痛い

要約すると、外部のテロリストに特殊な能力を持つ少女が囚われたので回収してほしいということ。最優先目標がその少女で、小目標として念動力の大能力者の回収も出来たらということらしい

まだ敵テロリストは脱出の手ハズが整っていないようなので、11学区の搬入経路付近の施設に居座っているそうだ

絹旗「陸路で出ますって超言ってるようなものですね。そんなに余裕が無いんでしょうか」

フレ「結局、余裕が無いなら無いで逆に罠とかガチガチでしょーよ。ああ嫌だ嫌だそんな所」

麦野「アンタは脱出経路保守だから良いでしょ。突入する側の身にもなってほしいわね」

絹旗「更に最前線は私ですけどね」

フレ「その上、どうせ捕まってる連中は意識不明だから担いで連れ出す必要もあると。絹旗欠けたら終わりってワケね」

絹旗「オーバーワークで超過労死ですよ。労働基準法仕事しろです」

どうやらいつもの元気が出てきたようだ。麦野はまだ青い顔をしているが、薬のおかげか表情も普段に近い

滝壺もやられ過ぎた浜面の方を気にしているようで、他の女という一件での怒りは薄らいでいる。あるいは、殴られながらの懸命な彼の主張を認めたのか

もちろん、その際に一緒に寝たなどは言わなかったが

そうこうしているうちに、現場付近へ到着。連絡を入れて、第一波としての絹旗麦野が突入前潜伏場所へ向かい、車ごと移動し第二波のフレンダを下ろす

作戦は簡単。絹旗麦野が派手に突入し滝壺のAIMストーカーで標的の二人までエスコート、もう一方でフレンダが静かに脱出経路を確保する。ただそれだけ。相手の態勢が不明な以上、出たとこ勝負で何とかするしかないのだ

開始の時間まで、あと僅か。特におかしな動きは見られない

ズァンという音が響き、さらに壁に何かがぶつかる音が続く

始まったようだ

警報が鳴る。ここは元々搬入物の検査をしていた施設で、学園都市が高度自動化する過程でその作業がオートマチック化してい き、今はただの一時保管施設として使われている

早い話、倉庫だ。しかし、本来外部の検査という重要過程という行程を管理していたところであるので、今でも警報装置が設置されたままだ

その警報が作動したのである

同時に、非常灯に切り替えられ、中の雰囲気が慌ただしくなる。恐らく外部警戒の見張りも出ただろう

浜面(隠れた場所に車を置いておいて正解だった。流石麦野だぜ)

今となっても、まともに喋れない浜面は頭の中で呟く。後ろでは滝壺がヘッドセットを装備して、車内のモニターを見つめてい る。そのモニターに接続されているコンピュータ部分には例の腕甲からの外部入力端子が刺さっていて、滝壺の監視作業が円滑に行えるようになっている

滝壺「その部屋からだと、直線的に壁を壊して進むなら部屋の入り口に対して10時の方向へ。廊下を伝うなら部屋を出てすぐ左の扉へ行って」

銃声が聞こえる。タタタタンという掃射音を小刻みに耳が捉えた 本格的に始まったと判断し、浜面の視界ギリギリの所で身を隠しながら様子を窺っていたフレンダが駆けて行った

浜面の席にも滝壺が見ている映像と同じものを映し出す小さなモニターが付いていて、マップ上にフレンダと表示されている点が施設を覆う簡易な有刺鉄線付きの柵にとりついた

数秒して、連続した切断音が聞こえ、フレンダの点がその柵内に入る。そこは最後に浜面が車を寄せて滝壺が抱えてくるだろう標的の二人を、車内に運び入れる搬入口になる様にフレンダが切り落として侵入しているはずだ

浜面は画面をタッチして、そこに搬入口という記しを追加する。これで浜面の仕事の前半は終わりとなる。あとはオペレーターと化 している滝壺を守りきるだけだ

警備員が使っている物を小型に改造したブルパップ式自動小銃を手元に置き、周囲に気を配る。と言っても、モニターを切り替えれば360度どの方角も監視している複数の車載カメラの映像を確認できるので、浜面一人でも問題は無い

また爆発音がした。今度は恐らく施設建物の半分を占めるコンテナ収容部の外壁をフレンダが侵入の為に吹き飛ばしたのだ。順調である

 

 

 

上条と垣根は11学区へ急行していた。最低限現出させた翼で垣根が飛び上がり、左手でしがみ付く上条がその靴底を用いて推進力を作り出す

外見的な見た目は、白い翼を携えた何かが高速で移動しているという、なかなか美しい光景だが、現実的には男が男にしがみつ いて高速移動している訳だから、実際は美しさの対極にある

昨日に派手に垣根がその能力を公開したので、都市内では管理者側が意図的に映画の特撮という情報を流して一般化させていて、市民は簡単にけ入れる

スクールに見つかるのは確実となってしまうが致し方ないところだ

上条に心理定規の救出を手伝えと言われた時、彼はもちろん拒否を示した。だが上条がその右手で垣根を触っている限り精神を弄られることは無いと説明し、垣根を操っていたのかについての真実を確かめるべきだと言ったので、仕方なく従った

そして今の移動に至るのだが

垣根(この男は理解してないだろうが、この拉致情報は恐らくブラフだ。本当の狙いは心理定規を取り戻そうと部隊が来るのを見計らい、その混乱を使って研究者を都市外へ移動させる事)

垣根(わざわざ心理定規程度の能力者情報を改めて入手するメリットが外部にはねぇってのに、この馬鹿は騙されてやがるんだろうさ)

自分の背を押している上条を一瞬見たが、もちろんその意味に上条は気が付かない

逆にそろそろだ、と目で意思表示をしている

本当におめでたい野郎なのだ。上条当麻は

垣根(こいつは、目の前の事に集中し過ぎて大局を見落としがちな典型だな。誰かに動かされるなら良い働きをするだろうが、自分で動けば視野が固定される)

垣根(今のこいつの行動だって、踊らされているかもしれない。動きを共にするなら、そういう面に気を払う必要があるな)

今の段階でいえば、垣根は上条に対して圧倒的な情報強者となっていた。そして垣根はこれを全て伝える気は無いし、利用しようとも考えている

そう簡単に思わせてしまう程、彼は純朴なのだ

だが実際の所、本当に心理定規が垣根の行動を監視制約していたのか、はっきりさせたかったという考えは垣根にもあった

この上条の申し出は良い機会なのだ

それが例え誰かの手の平の上であっても、はっきりさせたい。そして

垣根(もしあのアマが本当にそんな事をしていたなら、俺は俺自身でアイツを殺す)

そう決意した

目標地点までもう僅か。願わくば、俺があの女に会うまでグループの連中が来ないと助かるが、と垣根は思った

ここに来るまでに覚えこんだ施設構造と、滝壺が伝える方角、経路から、大体どこの部屋に標的が拘束されているのか分かった。だが簡単には進めない

外壁を破って侵入した部屋に設置されていたのは警報装置だけでなく、侵入者へ散弾を上下左右から発射するというえげつない罠があり、先に侵入した絹旗がそこに込められていた全ての弾丸を全て受けたのだ

その手の罠程度は当然有るだろうと思って入った為、気をやることなど無かったが、その小さな体に相当な衝撃が与えられた

麦野「絹旗?!」

絹旗「何とか、大丈夫です。けど、持ってきた兵装、全部壊れちゃいましたよ」

絹旗の窒素装甲は防護能力としては優れたものであるが、衝撃そのものから身を守ることは出来ない。ガタイのいいタフガイであればまだしも、所詮は女子中学生で身体成長が過程の上では耐えられないレベルがある

何とか立っている、という少女の姿を見て、言う。それは可哀相という理由では無く、作戦行動上の判断の一つでしかない

麦野「いざとなったら、私のことは考えず、自分の守りに徹しなさい。貫通力の低い散弾程度なら私の能力で対処する」

散弾。絹旗には不得手な武装だが麦野には逆にしのげる武器である

麦野にとって、標的を救出するという仕事は苦手だった。撃破すべき明確な目標が無いのは、攻撃的な一面を持つ彼女には向いていない

だが同時に完璧主義である彼女は、失敗後ということもあって、達成に絶対必要な絹旗の存在は欠かせないものだった

本来ならば盾兼尖兵役の彼女を気遣うのはそういう面が大きい

絹旗「分かりました。その言葉に甘えさせてもらうかもしれません」

そう言って、部屋のドアのノブを握る。瞬間、一斉に鳴り響く銃声と共に扉が形を失い、散弾の雨霰が少女へ降り注いだ

少女らしくない悲鳴を挙げて吹き飛ぶ絹旗。その光景で麦野の動きは決定する

部屋の前はコンテナ収容部ともう半分の処理管理部を繋ぐ大扉がある300㎡程度の空間であるはずだ。恐らくそこへ何人かの人間が居て、散弾銃でずっと狙い続けていたのだろう

逃せば、収容部で張っているフレンダの方へ行くかもしれない。そうなるとただのアポート能力しか持たない彼女には荷が重 い

一瞬でそこまで判断して、倒れた絹旗の前に飛び出て、盾を展開しつつ、敵兵に見えた端から光線を叩きこむ

絹旗の時と同様の、一斉射撃による散弾の小さな鉄球は麦野の目の前から先に進むことは無く、逆に麦野の放った光線は銃撃者達を確実に焼き払う

10人弱いた人間はほんの10秒程度でこの世から消えた。武器を変えて大型弾の銃を用いれば、あるいはこの距離の麦野の光の盾を貫通することが出来ただろうが、そんな切り替える時間を与えないのが彼女である

掃除が終わったときには絹旗が壁に持たれながら立ちあがっていた

絹旗「すみません。早速こんなザマで」

麦野「私が守りながら進むから、動けるようになるまで休んでなさい」

言葉に怒気が含まれた。その怒りの矛先は敵だ。それが分かっていても、恐怖を感じる

広い空間から細い廊下へ。この廊下は50m程伸びているのは知っている。廊下への扉を開く前に扉ごしに光の束を撃ち出す。すると、声があがった。その声を聞いてさらに容赦なく光線を撃ち続ける

穴だらけになった扉を蹴り飛ばすと、廊下上に複数の死体と血溜まりが出来ていた。開かれると同時に発動する炸裂弾の罠も、展開した盾で簡単に守り切り、麦野の服には血の色すら見えない

長い廊下をぐちゃぐちゃと死体を踏み荒らしながら進む。生きているのかの確認と、八つ当たり

同時に、この廊下に面した扉を持つ資料保管庫にも大量の光線を発射し、壁が完全に崩壊するんじゃないかと思えるほどの被害を与え、中で隠れていた連中を黙らせる

麦野「滝壺、まだ保管庫とやらから標的の反応は動いてないわよね」

滝壺『うん、変化なし。けど気をつけて。むぎのの近くに、変な反応が有る。もしかしたら、あの白いのかも』

滝壺が言いきるかどうかというタイミングで、ノーマークだった逆の壁が崩れ、麦野には慣れ親しんだ物理反応が身近で起きていることに気が付く

何とか付いてきている絹旗を後ろ足で思いっきり蹴り飛ばし、その反作用で自分を前に動かす

絹旗と麦野が直線上で重なっていた部分をなぞるように光線が通り過ぎた

麦野「やっぱ来たわね。……良いわぁ。この前の借りを返してあげる!! 」

敵の光線が放たれたと思わしい場所へ、その線より何倍も太い光線を応射する。その表情は最早美しさや気品など何処にもない

憎しみをこめて撃ち出すかのように、一発ごとに声を吐きながら、手当たり次第に撃つ、撃つ、撃つ

自分の所へ向かってくる敵の電子光線は能力によって捻じ曲げ、一方的に撃っていると、絹旗の方へ攻撃が集中し始めた

移動すらふらつく彼女にそれを避け続ける手段は無い。絹旗の方へすぐに移動し、守る

邪魔だ。少なくともこの敵が居れば、標的の奪取など不可能。ならば絹旗がここに居る利点は無い

麦野「絹旗ぁ!オマエはフレンダの援護に行ってろぉ!!!」

絹旗「……でも!」

麦野「でもじゃねぇよ!フレンダ如きが一人で敵う相手じゃねぇだろ!」

叫ぶとまた光線の反応がした。電子を噴射して緊急回避を図る。同時展開した盾に当り、微妙に軌道がねじ曲がって直撃には 至らない

その様子をみて絹旗は今できる全力でフレンダの下へと走った。手負いの自分では足手纏いにしかならないと分かったのだ

絹旗が逆走したと同時に、施設全体に衝撃が伝わった

何事か

滝壺『むぎの』 麦野「なによぉ!?気が散るだろうがぁ!!」

もはや麦野と少女の間にあった壁は穴だらけとなり、壁としての役割など無くなっている

滝壺『第二位と何かがきたよ 』

ハァ?!と彼女が叫んだとき、目の前の白い少女は背中から二本の大きな翼を展開し、麦野が放った光線をいとも簡単に防いで見せた

 

施設正面玄関を守備部隊ごと翼で派手に殴り飛ばし、垣根と上条は突入した

そのやり方に上条は抵抗を覚えたが、やられた後ではどうしようもない


正面玄関から彼らの目的でもある心理定規が拘束されている保管庫はすぐ目の前だったが、その情報も持ってない上に、入ってすぐに見えた光線によって彼らはそっちに注意をひきつけられる

廊下だと思わしき空間の奥から麦野が駆けてきて、すぐさま側方に放射移動すると当らなかった光線が垣根目指して飛んでくる。自らの翼で守ると、それを麦野は憎々しそうに見ていた

その後も攻撃が止まないので一度正面玄関前に広がる駐車場へ後退する

垣根「第四位が逃げ惑うとは、らしくねえな」

麦野「黙れぇ!纏めて溶かしてやるから首洗って待っときやがれ!! 」

垣根「おいおい、狂犬かぁ?まだ盛りの付いた雌犬の方が可愛げがあるぜ」

呆れた表情をして麦野から視線をそらし、建物の方を見た。施設内から白い戦闘服の少女が現れる

外に出てその二本限りの翼を大きく広げ、翼から大量に離れ落ちる羽が原子崩しとよく似た光線となって連続して三人に襲いかかる

未元物質はオリジナルの翼で動きもせずに守り、幻想殺しは自分に当る物だけを見切って右手を使って守る。一方で原子崩しは自分と同じ攻撃に対して完璧な防衛手段を持たないが、大量に降り注ぐ電子光線の軌道を効果的に捻じ曲げ、身を動かして何とか守りきる

駐車場は一面穴だらけ。少女の攻撃目標が3人に増えたため、攻撃が分散し、麦野も回避行動の中から隙を見出して厄介な翼が攻撃に集中している間に、本体めがけて光線を放つ

だが、本体である少女は浜面が戦ったものと同様、身体能力も強化されていたため、最小限の動作でそれを回避された

麦野「クソビッチが!!早く溶けちまえよぉ!!オラオラオラァ!! 」

追撃を加えるも、簡単に避けられる。どうやら麦野と同様、光線の攻撃が来ることが予測でき且つ方向を捻じ曲げることが出来るようだ

少女は攻撃対象が増え拡散することで攻撃効果が薄いと判断し、その身体機動力と翼を使った高速接近戦に攻撃方法をシフト する

地面を強く蹴ったと同時に翼で空気を叩き、一瞬で麦野の前へ移動する

麦野はその機動力に驚いたが同時に、危険と判断して電子放射で間合いを取る。だが、それは少女にとって読み通りだった

麦野が間合いを取った先をあらかじめ予測して電子の光線を放っていたのだ

直撃コース、もう一度放射移動するのは演算が間に合わない。方向を曲げてもこの距離では被弾を免れない

 

万事休す。全力で方向を捻じ曲げる方向で演算をするが、やはり曲げが足りない

だが、被弾の瞬間は無かった。男が一人、その間に入って右手を突きだしていた。唖然として、麦野が瞬きを終えた時には、少女のすぐ側まで接近し、格闘戦をしている

彼の攻撃が当るたびに翼は羽ごと消失し、能力を用いた攻撃を中断させる。能力を用いた攻撃は効果が薄いと判断したのか、腰からナイフを取り出して切りかかる

今度は前と違い、一撃必殺を狙わず隙のない攻撃を繰り出す。手数で勝負という訳だ。明らかに攻撃手段が高度化されていて、回避一辺通りとなる上条

だが、戦いはそう長くは続かなかった。上条ごと、垣根が翼で殴りかかったのだ

複数方向にベクトルを向けていた翼に殴られ、少女の体は四散する。残ったのは殴られた位置から遠かった首から上と足先だけで、それ以外は原型を留めていない

垣根の翼の攻撃は上条の体に傷一つ付けられなかったが、上条には人間だったものが飛び散る。そして、突き出した拳がキャッチした物は、少女の顔だった

ウェッ、と喉を鳴らし、首を落とす上条

垣根「俺の未元物質の直撃を受けて何もなし。お前一体何者だ」

上条「うるせえよ!俺が何者なんて関係ない。殺さない様に手段考えて戦ってたのに全部無にしやがって!!」

側まで歩いてきた垣根の胸倉を掴み言葉を浴びせる

垣根「あぁ?んなこと知るか。手こずってるから助けてやったんだろうが。あの状況じゃお前に具体的な方法があったように見えなかったが間違いかよ? 」

上条の行為に臆する垣根では無い。冷静に言葉を返す

上条「そういう問題じゃないだろ!簡単に殺すなって言ってんだよ!!」

垣根「あのな、時間をかけたら一方通行率いるグループがくる。そうなったらテメェが言ってた心理定規との対話だって難し い。とっとと決めなきゃならない状況だったろうが!違うか?!」

上条「それは、そうだ。だけどな……!!」

まだ自論をあきらめない上条を蹴って突き離し、声を荒げる

垣根「いい加減にしろよ。テメェみたいに能力攻撃全部利きませんってふざけた強者の青臭い自慰めいた考えを他の人間にまで押しつけんじゃねぇ!そんな余裕あるやつなんてお前だけだ。ヒーロー気取りも大概にしやがれ!!!」

垣根の掃いて捨てるように言った言葉に怒りを覚えるも、言い返す言葉も出ない。彼の言う言葉は事実だ

上条が少女を殺さない様に接近戦を選んだがうまく対処できなかったのも事実。上条が学園都市では圧倒的な強者で有ることも事実。そして何より上条が前回の惨事を避けようと一人で英雄の如き働きをしようと気負っていた事も事実

会ってまだ24時間も経っていない人間に的確な指摘をされたように感じた

垣根「結局、テメェは底が浅いんだよ。自分以外の事に振り回され過ぎなんだ。何を目的に動いてるのか知らねえが、その目的の為に障害ひとつ手段を選んで直ぐに対処出来ねえ様じゃ、誰かに都合良く動かされるのがオチだ。殺したくないなら、横槍を許さないぐらいの強さを見せろ。それが出来ないなら、それがテメェ の力量だ」

垣根「中途半端なんだ、テメェは。目の前の光景に流されて、今まで何度ミスをした?俺はお前の事なんて全く知らねーが、想像できるんだよ。お前と同じような奴が騙されて殺されるのを散々見てきたからな」

上条は押し黙ったままだ

垣根「ほらな、言い返せもしねえ!お前にどんな能力があろうとな、そこを理解してねえと結局お前は失敗する。背負ってるものもみんなパァ、だ」

行くぞ、と言い残して垣根は施設内に入って行った。その背中は少女を殺した事など全く気にもせず、強い意志を感じさせる

(彼の意見が正しい正しくないにかかわらず、今は目標を優先しましょう。悩むのは終わってからです)

頬に付いた肉片を拭い、垣根の後に続く。その背中は対照的に、弱く見えた

取り残された麦野はただその場に立ちつくす。第二位に叱られて、見るからに委縮したこんな小物に自分は助けられ、そして力の差を見せつけられた

都市の誇るLV5としての、そして何より強い自分という、麦野の精神を構成する最大要素の自信が踏みにじられた

拳を爪が食い込む程強く握り、体は震え、二人の男の後ろ姿を穴をあけるかのように睨む

だが、彼女にはその睨む時間すら満足に与えられない

滝壺『むぎの、むぎの!また白いのが出たよ。絹旗とフレンダが戦ってる。助けに行ってあげて』

見えなくなった男達の方を一瞬見て、答える

麦野「……わかったわ。場所は」

足を引っ張りやがって、と一瞬思った。だが、よく考えたら自分も同じだ

弱い者はそれより強い者でないと守れない。自分もより強い者に守られた。同じ事だ

第二位は言っていた。感情に任せて大局が見えてないと。自分に向けられた言葉では無かったが、この場の麦野にも当てはまる

こんなところで野獣のようになっていても、意味の無いことだ。今は無力な妹分達を助けることが先決だろう

そして何より、あの二人に張り合う為には、まずは自分を追い込んだ者を倒さなくては始まらないではないか

 

 

 

 

施設内に敷き詰められたコンテナの陰に隠れ、ひたすらにフレンダは待っていた

既に移動経路上の敵の罠は無効化し終わっている

何度か、敵が近づいてきたが、その度に自分を守るために設定し直した敵の罠と自分の機材で冷静に対処した

このコンテナジャングルとも言える空間は、彼女にとって最高の戦いの場であった。敵の行動を予測し、裏をかいて罠にはめる快感が彼女を悦に浸らせる

絹旗『今からそっちへ行きます。大丈夫ですか』

フレ「りょーかい。準備しておくわ」

あらかじめ決めていた経路に関わる罠を無効化し、絹旗を出迎える

だが、絹旗は標的らしいものも担いでない上に、満身創痍だった

フレ「ちょっと、大丈夫?何があった訳よ?」

絹旗「少々敵の作戦に引っ掛かりましてね。それよりもあの白いのが出ました。麦野が応戦してます」

フレ「ああ、やっぱり出たわけね」

この状態では、まともに戦闘することも難しいだろう。邪魔になるからこっちへ寄越されたか

そんな事を考えていると、収容部の4辺の壁の内、管理部と接合している辺以外のシャッターが同時に上がりだし、反対側からバツバツバツ、と連続した爆発音が鳴る

同時に、フレンダがシャッターに仕掛けていた罠が作動し、爆発音が連続した

エンジン音が聞こえ、複数の車が動き出す音が聞こえた

何かが、逃げる?そう言えば敵の一般兵の数が少ないような

この状況で逃げる物と言えば

音の源へ駆けだしながら、無線を入れる

絹旗「滝壺さん、標的はまだ保管庫なんですよね?!」

滝壺『そう。一切動いてない』

フレ「本当に?一ミリも? 」

フレンダが聞き返している時、右のコンテナが動いた

今度は何だ、と思った瞬間、翼が現れコンテナを内側から裂いた 中に見えるのは、複数並んだカプセルと、白い戦闘服の少女

それを見た、というより視界の端に見えた瞬間に、フレンダを抱えて絹旗は後方へ跳ぶ

フレンダも抱えられながら、銃を取り出し引き金を引いた

翼が銃弾をはたき落とし、もう一方の翼が二人を叩きつぶすように動く

二人はお互い反対方向へ跳び、辛くも回避に成功するも、地面に叩きついた翼から衝撃で羽が舞い上がる

舞った羽が二人めがけて飛んでくる。普通の羽でないことは分かる。当れば不味いだろう

二人はそのまま左右に大きく離れるように走り、飛んで来る羽を避ける

コンテナの陰へ。開いたシャッターから外にも出れるが、壁が無くては身を隠せないし盾にもならない。避けるのは難しいだろう

その分厚いコンテナも、羽が触れた瞬間解ける。当ればただでは済まない

さてどうやってこの場を凌ぐか、こっちにはあの翼と羽の攻撃を回避しつつ敵に打撃を与える方法は無い。つまり、二人だけで対処することは出来ない

最悪なのは、攻撃が一人に集中すること

より最悪なのは、本格的に高速移動手段の無いフレンダに攻撃が集中すること

そう思った時には、絹旗の視界から敵の攻撃は見えなくなっていた。同時に重い金属の塊と重い金属の塊がぶつかり合うような低く深く響く音が連続して鳴る

まずった。背中に嫌な汗が出る

身を隠していたコンテナの陰から顔を出すと、フレンダの逃げた方へ二本の翼が向いているのが見えた

広げられた大翼から無数の細い光線が放射される寸前だった

金髪の少女は、自分の死を覚悟する 周りのコンテナは薙ぎ払われ、身を隠す場所も無い

何より敵の位置が絶対的に近過ぎる。能力的に瞬発力に駆ける彼女では距離を取れない。回避不可

翼がより光を帯びる。撃たれる。絶望を判断した瞬間、目の前を極太の光線が通過した

それによって、翼より放たれた細い光線は巻き込まれるように大きくねじ曲がり、フレンダへの直撃は無くなる

持っていた銃に当り、解けた熱により右手が火傷を負う。だが命よりよっぽど軽い

フレンダ「麦野っ!!」

シャッターの外に、強い味方が笑みを浮かべて立っていた。いつもの邪悪なものと同じものだが、この上なく頼もしく映った

 

 

 

探していた心理定規はすぐに見つかった

正面玄関前の駐車場での戦闘による流れ弾、つまり流れ光線が保管庫の壁を破っていたので、その中に人影があったのが見えたのだ

四肢が動かない様に拘束具を付けられ、点滴により常に意識を奪い続ける

隣には、同じような形で少年も囚われていた

垣根は、まず少年の方の拘束を解き、点滴を剥がす

頬や体をひっぱたき、覚醒を促すが、簡単に起きない

上条「駄目だな。これを点滴形式でずっと投与され続けられてたなら、効能が切れるまで眠ったままだ」

上条が点滴の薬品を見ながら言う

舌打ちをし、少年を壁にもたれかけさせる

垣根「これじゃ、ここで会話って訳にもいかなねえな」

上条「ああ。回収の方は麦野達がやってくれるだろうから、回収後に会うか?」

垣根「冗談じゃねえ。こいつの罠も何もない敵中って状況だからいいんだろ。第一、回収がアイツらにちゃんと出来るのか?」

戦闘音が断続的に響いていた。そしてこの音の規模から、恐らくまたあの白いのだろう。上条としては 一方的な知り合いである彼女達を助けたいが、垣根との先程の口論の手前、言いだせなかった

上条「さぁな。でも何とかするだろ。LV5なんだし。その子だけ連れ出すってどうだ?話し終えたら麦野達に引き渡すかしたらいいし」

とにかく一方通行達が来る前にここを去る、と付け加えた。垣根の方は既にそのつもりだったのか、心理定規の拘束と点滴を取り外し少女を抱えようとしていた

抱え上げると、少女の口がずっと動いていることに気が付く。寝言なのかよく聞き取れない。離れている上条には声そのものに気が付かない

単語が聞き取れた

定規「てい……とく……t」

と。どういう夢を見てどういう形で自分の名前を呼んだのか垣根には分からなかった。ただずっと、自分の名前を繰り返し呟いている

無意識に抱きあげる力を強めていた。しばらくして自分の抱える力が強くなっていることに気が付く

同時に困惑した。この感情は何なのかと。既に植え込まれていたモノなのか、この状況に悲哀と同情を感じて今生まれたモノなのか、はたまた全く別のモノなのか

上条は、固まってしまった垣根を呼び掛けるが反応が無いので軽く小突く。ようやく反応があった

上条「おいおい。急ぐんじゃありませんでしたっけー? 」

垣根「……悪い。おし、一方通行が来る前にここをd」

?「誰が来る前にだとォ? 」

白く線の細い男が笑みを浮かべて立っていた

 

 

 

冷静さを取り戻した麦野は気が付いた

このガキは自分の出力よりも低いものしか出せないと

それは、戦いの最中に気付いたことだった。敵が放つ細い光線を何度も捻じ曲げて味方の被弾を防いでいるのに、一向にそれに対応した出力を出してくることが無いのだ

考えてみれば当然のことだ。同じレベル5であり自分より上位の男の能力に酷似した翼をつかい、更に自分の能力に酷似した攻撃と防御をするのなら、並の人間では演算が追いつかない

仮に機械の補助があっても同時に能力を展開し操るということは多大な負荷をかけることだろう

つまり、電子を操るという能力については格下なのだ、目の前の白いのは。同様に未元物質を司るあの翼の操り方も第二位のそれには劣るだろう

それが分かると、俄然戦い方も思いつく

麦野(あの翼さえなんとかしたら、勝機はある)

既に慣れが始まったのか、フレンダや絹旗も敵の攻撃に対して効率の良い動きというものを見出している

麦野(今のこの子達をうまく使えば……)

翼と羽に注意しながら、フレンダの下へ

麦野「次のチャンスにありったけのスモークをぶち込みなさい」

それだけ言って、また元のフォーメーションに戻る。敵の全方位無差別攻撃を避け続けることが出来ているのも、全ては呼吸を知りあった仲間同士故に出来る、攻撃の分散化だ

一人に攻撃が集中しないよう、三者の間を一定にしつつ、当りそうな光線を無効化し、隙を見ては光線や銃弾を叩き込むリーダーの麦野に合わせて二人も効果的に動くことで、敵の動きも制限し、ある程度制御も可能となってきた

膠着状態ではあるが、絹旗とフレンダだけの時よりもよっぽど改善されている

フレンダへの攻撃が薄まった。好機と判断し、取り出した発煙榴弾を乱射する

屋内の角地へとおびき出されていた白の少女は満足に飛び上がることもできず、片翼で身を守り、もう片翼を振り回して煙を払おうとする

その初動が煙中で確認できた。絹旗に突っ込めと目で合図する

麦野「フレンダ!!撃ちまくれ!!!」

同時に叫んだ。敵にも聞こえる様に。金髪の少女も呼応してフルオートでありったけの鉛玉を撃ちこむ

当然、撃たれた側は撃たれた方向に翼を寄せる。室内でまだ視界は回復しきっていない

そこへ絹旗が突撃する。翼で守りきれていない体の部分めがけて

白兵戦タイプと認定していた少女が間合いの中に居ることで、白の少女は危険と判断し最大限距離を取るために自らの足で煙の外へ跳ぼうとする

跳び、煙が薄くなった所で周囲を確認しようとした瞬間、少女の顔が消え去った

角地、フレンダの射撃角度、絹旗が突っ込んでいった角度。この三要素から敵が出てくる場所をあらかじめ算出していた麦野はそこへ最大出力をぶち込んだのだ

その光線の残りが壁に直撃し大穴をあけた

煙が完全に消え、少女が燃えているのを見て、フレンダと絹旗はその場にへたり込む

麦野「なにやってんの。後は回収だけよ。ホラちゃっちゃと動け!! 」

腰を落とした二人に喝を入れ、強引に配置に付かせる

絹旗も完全ではないが担ぎ出す程度の事はできるだろう

自信を少し取り戻した女の顔には自然な笑みが浮かび、少女を一人従えて保管庫へ駆けて行った

そこで滝壺から更に無線が入る

今度は第一位まで現れた、と

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