上条「なんだこのカード」 > Season2 > 02


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佐天「なんでよりによって今日の休みを潰してくれるかな―」

黒髪の少女が、ボヤキながら指定された場所へ向かう。友人が今頃美味しい思いをしていると思うと、この補習を企画した連中を呪いたくなる

内容も胡散臭い。渡されたプリントによると中学生以外にも、下は小学生・上は大学生が対象になっており、内容も勉学ばかりでは無く具体的に何をするのか分からないし、予定には検診の文字も見えた

佐天(しかもなぜか補修って書いてあるし。先生は誤字とか言ってたけど、誤字なら修正しろっての)

高級すいーつを逃したことが悔しいのだろう、中々怒りがこもっている

第三学区に着き、看板と紙を見比べながら目的の建物を探し出す

佐天(うわ~、アタシには縁が薄そうな所ばっかり。なんで第三学区なのかな?一般ピーポーへの嫌がらせ? )

進む足が止まった。右にある大きなビルの、道路に面した入り口の方へ顔を向ける

佐天(えっと、ここ、だよね?あってるよね?)

周りにある建物も中々のモノだが、それらと比較しても明らかに格式高そうに見えるビルが建っていた

何度も紙を見直し、書かれたスペルを一字ずつ確認する

もし間違って入ったら、非常に恥ずかしい上に惨めな気になるだろう。そういう意識が彼女にはあった

佐天(どう見ても間違いないよ?あってるよねあってるきっと大丈夫他に私みたいな人がいないのはきっと早く来すぎたんだよ大丈夫大丈夫)

心の中でひたすら願いつつ、大扉に近づく

近くに立っていた従業員通称ボーイが扉を開け、中へ招き入れる

目立たない様に目立たない様にと気をつけながら周りを見回すが、補習という文字はどこにも見当たらない

仕方が無いので受付へ向かう

佐天(あちゃー、コレ間違ってたら最高に凹むだろうなー)

どうにでもなれ、と意を決して話しかける

佐天「あの、今日ここで学生の合同補習みたいなのがあるとk、あ、有るとか無いですよね?」

文字にあらわすと非常に分かり難いが、その意図は受付の身なりの良い男性には伝わったようだ

「はい。14時より、当ホテルの17階にて行われる予定です。ご参加される方ですか」

非常に渋い、かつ低すぎない声が返ってくる

間違いではなかったことへの安堵と、如何にもな人間の如何にもな声を聞いて、声が出ない。数回頷くのが関の山だった

「それでは、学生証のご提示をお願いします」

明らかに挙動のおかしい佐天に対して、何ら態度を変化させること無く落ち着いた声でたずねる

年齢相応の、一般的な女子中学生らしい財布を取り出そうとする。だが、それも何だか場違いな気がして、学生証を取り出すのを一瞬戸惑ってしまう

じっと佐天の方を見て、少し頬笑みを浮かべる男性。促されるようにカードを渡す

「佐天涙子様ですね。伺っております」

目線を一瞬、近くのボーイへ向ける。カードが返され、近くへ寄ってきたボーイに向かって男が頷いた

「それでは、ご案内いたします」

いやらしさを微塵も感じさせない微笑みを浮かべるボーイの後をついて行く

佐天「あの、他の人は? 」

おずおずという感じで、尋ねる

「今からご案内する御部屋で、何人かの御客様がお待ちしております」

佐天「そ、そうですか」

佐天(何だ、おんなじような人に会わなかったのは、私の運が悪かっただけか。不安になった損じゃない)

エレベーターが止まった。降りて少し歩いた所で、男性が止まって振り返った

「こちらになります。御席はネームプレートがありますので、そちらに腰を御下ろしください」

そう言って、扉を開き、佐天を部屋へと誘う

部屋の中には何人かの生徒が座して待ち、佐天と同様に居心地の悪そうにしているものもあった

一番奥に、白衣を着た、先が短そうな年齢の男性がこちらを見ていた

佐天(うっわあ、あの人間違いなく教師じゃないでしょ)

自分の名前の書かれたプレートを見つけ、席に着いた

正直、勉強用の机では無い。綺麗で清潔なテーブルクロスが引かれている机はどう見ても食事用のそれだった

佐天(あ、アタシ結構ぎりぎりだったんだ)

部屋に設置された年代物の古い置時計の時刻を見て、気づく。集合時間まで残り5分

部屋には多くの空席が有るように見えるが、良く見るとネームプレートが無い

遅れて一人入ってきた。これまた浮いた雰囲気を漂わせている

佐天(この人たちと私に共通するものって何だろ? )

考えていると、時間が来たようだ

?「人数は全員集まったようだな。よし、諸君、良く来てくれた」

白衣の老人が両手を広げ、話しだした

?「ここに呼ばれた君たちは、この都市における能力開発において何か問題を抱えているハズだ」

?「だが、同時に君たちは可能性を持っている。故に、ここへ呼ばれたのだ」

?「急にこんな事を言う私を、君たちは怪しむだろう。だが、君たちに可能性がある事実は変わらない」

?「今日はその可能性について調べ教えたいと思っている」

なにか高らかに話をしだした。老人らしく話が少しループしながら、時間が進んでいった

?「と、ここまで喋らせてもらったが、君たちもせっかくこんな良い場所に来たんだ、堪能させてもらおうか」

今までの声に若干の震えがあるが、歳のせいだろう。指をパチンと鳴らし、複数の人間が冊子を持って入ってくる

生徒の正面の机の上にメニューが置かれた

?「なんでも好きな物を頼むと良い。無論、経費はこちらが持つので、遠慮なく召し上がってくれ」

理由も分からず集められ、可能性だの話をされ、更におそらくだが高級な食事が味わえると言われても、すぐには対応できないものである

頼みにくい雰囲気が広がった

佐天(本来なら、初春と一緒に学舎の園の中で御坂さんに奢ってもらう予定だったのに、ふいにされたんだ。ワケわかんないけど、ここで代わりに食べちゃっても罰はあたらないよね!)

質の良いカバーで覆われたメニューらしき冊子を開き、デザートらしき欄を見つける

片っ端からアルファベッドで書かれていて写真は無いが、女子生徒を舐めてはいけない。大概の横文字が何のケーキを挿しているのかは当然分かる

佐天「ザルツブルガートルテ!お願いします!」

と伝えた。ウェイターが了承の返事をして、下がる

一人が頼めば、他の人間も後に続きやすい。次々と注文の声が飛び交い始めた

時間をかけずにやってきた洋菓子と紅茶を目の前に並べられ、期待と感激を合わせて、フォークでケーキをカットし、口へ運 ぶのだった。

 

 

 

 

麦野「最高に面倒でダルい仕事がまた来たわよ」

高慢でわがままに育った5歳児ぐらいの子供が片づけを嫌がるような顔で口を開く

絹旗「最初からそんなことを言われると、聞かされる側としては超やる気が無くなりますね」

フレンダ「ま、面倒じゃない仕事ってのは無いもんだと思うわけよ」

女性陣の顔を見渡す。皆気だるそうだ

浜面「何ともやる気に満ち溢れてるな麦野は。何があったんだよ」

滝壺「私が、説明してあげる。あと、むぎのはいつももっと元気だよ?」

浜面「分かってるよ皮肉だよアイロニーだよ。で、何が有ったんだ? 」

滝壺「きのうからね、ひっきりなしで仕事が来てるの」

絹旗「しかも内容が超面倒なのばっかりなんです」

フレ「大概が脅しとか都市外への強制輸送つまり追い出しって訳よ」

麦野「ったく、邪魔な人間共なんて片っ端からぶち殺しちゃえばいいのに!なんで微妙に手ぇ抜かなきゃならないのよ」

浜面「そんなヤクザかチンピラみたいな真似、わざわざ麦野たちがやる理由はあんのか」

麦野「そうよ!わざわざ私が出る必要なんてないのよ! 」

滝壺「でも、むぎのじゃないと、またあの人たちが出てきたときどうしようもないよ? 」

浜面「あの人達ぃ?」

絹旗「ターゲットがどうも都市内部の権力者が多いんです。背信行為があるものの殺すには惜しい、又は殺すと逆に問題を起こす因果になりそうな人も私たちの標的になっちゃってて」

フレ「まぁ、敵が権力者である以上、防衛部隊の配備も考えられる訳じゃない?最初の何人かを脅したり殺したりから、それが伝わったみたいで、あからさまに護衛が増えてね」

滝壺「でね、あの人たちが出てきたの 」

麦野「あれがたまに耳にする迎電部隊ってやつでしょうね、多分」

こめかみがピクピクと震えている。よほど手こずっただろうか 

浜面「良く分かんねえけど、この都市の部隊か何かか?」

フレ「迎電の連中はね、情報流出阻止を目的に編成された部隊でさ。対能力者戦闘も考慮に入れててね。だからどうしても手こずっちゃうのよ。ま、向こうも防戦は慣れてないみたいだけどね」

浜面「ちょっと待ってくれよ?情報流出阻止も何も、裏切ってんのは相手方だろ」

フレ「だと思うんだけどねー。なんで向こうについて居るのかは謎ってワケよ」

麦野「そんなことはどうでもいいの。問題はアイツら何度叩いても湧き出てくるってこと!」

絹旗「彼らは特徴的な暗部組織なので、技量や精神などで有る程度篩いにかけられて選抜されているハズなんですが」

麦野「もうざっと100人は殺してるんじゃないかしら?なのに変わらず沸いてるのよ?」

滝壺「それは、言いすぎ。でもその半分は確実」

フレ「あんまりにも鬱陶しかったから、前の前、だったかな? 麦野が標的と部隊を巻き込んで建物ごと完全倒壊させたからねー」

絹旗「わざと逃がす必要があったのに、なにもかも超ぺしゃんこですよ。夜中じゃなきゃ絶対に一般人にも見つかってました
よ。あれじゃ」

こっぴどく怒られたのか、麦野が苦い顔をしていた

麦野「だからぁ、浜面を召集したのよ。私たちだけで手間かかるやつら相手にするのはなんだか気に食わないからね」

邪悪な笑みを浮かべた

浜面「いや、なんでお前らが手こずるような相手を俺がするんだよ! 無理に決まってんだろ! 」

麦野「大丈夫よ。あんたという戦力はちゃんと把握してあるから」

浜面「えぇ、あぁ、うーん。マジで言ってる?」

麦野「もちろん」

最高の笑みを見せる。こういうときに素体がいいと卑怯だ。と浜面は思う

もちろん、そう言った気持よりも、恐怖の方がよっぽど大きいのだが

滝壺の方を見ると、不安そうな顔をしているものの、反対してくれそうには無い

これはよっぽど良い策があるのだろう、と思いこむことで、浜面は何とか自分を納得させた

 

 

 

 

 

頭が重い。なんというか、痺れているような、そんな感覚がする

話し声と、ブーンという機械特有の音がする

何を言っているかは聞き取れない。それは声が小さいからか、上手く頭が機能していないからか、分からない

佐天( …ここは――?)

目を開く。自分のすぐ前には曲面の内壁が見えた

慌てて、体を動かそうとする。が、動けない。拘束具は見当たらない

純粋に動けないのだ。何かの機械の中で身動きが取れない

これは、どういうことなんだろう。記憶をさかのぼる

佐天(えっと、部屋でケーキ食べた所は覚えているんだけどなぁ。あぁ、あのケーキ美味しかった)

頭の中がケーキで覆われる。脳の能動的な分野の領域が抑制されているため、思考が単純化しているのだ

佐天(ああケーキケーキ、そう言えばなんでケーキ食べれたんだっけ?)

ようやく菓子の束縛から逃れることが出来た

佐天(確か、あの、部屋で、白衣の、老人が―― )

佐天(そうだあの御爺さん! 明らかに怪しかったんだよね。自己紹介も一切なしで可能性がどうとかー)

佐天(待ってよ、じゃあこれって、今結構危ない状況?)

意識が完全に覚醒しつつある中で、もう一度体を動かすことを試みる

指先が僅かに動いた。先程は全く動かなかったのだから、徐々に回復しているようだ

佐天(気長に動けるのを待つことになりそうだなぁ)

そこで、目の前の蓋が動き出す。足の方から外の光が入りこんでくる

完全に開き切り、覆っていたものが折りたたんで格納される。そんなに広くない、ホテルの一室だった。恐らく部屋には非常に不釣り合いな状況だろう

?「目が、覚めたようだね」

目だけを動かして、声の主を見る。あの時に現れた、例の白衣の老人だ。相変わらず声が震えて入るが、さっき見たときよりも声に張りがある。興奮しているのだろうか

?「心配しないでくれ。私にはくだらない性欲にかまけるだけの時間も意欲も無いからね。まだ動けないだろうし、脳にも負 担は残ってるだろう。聞くだけでいい」

?「君には残念だが、今ある方法では絶対に能力に目覚めることは無い」

?「それこそ、あの拙い幻想御手のような方法で、強引に他者の力を借りなければ、ね」

?「ではなぜ、幻想御手の影響下で一時的に能力が使えたのかという疑問が上がる」

?「その解となるデータを、今の君ではない君から、今の私でない私が調べたものを手に入れて、今日ここで実際に調べさせてもらった」

?「少し状況が違う為か少々異なっていた。だが概ね間違ってはなかったよ」

?「君には友人として超能力者や大能力者がいるね。それも一つの要因となった。今だ短い期間でしかないが、その効果も大きく出ている」

?「話がぶれまくっているが、端的に述べると。君の才能は多重能力に繋がるもの。複数間の能力の調整・制御に非常に秀でたものであることがわかった」

震えながら、だが確かに興奮した声でずらずらと述べた

そこへ、一人の男が現れる。扉の開いた音は聞こえなかったが、どうやって来たのだろう

青白いシャツにネクタイという姿で、特別な特徴の無い白人のようだ。唯一、普通じゃない色の濃いサングラスをしているので表情は掴めない

?「おや、君か。貰ったデータは概ね正しかったよ」

白人?「随分興奮しているが、SYSTEMだとか言っていたのはもういいのか?」

?「君がそれを言うのは非常に悪意を感じるね。今までの生涯をかけて調べてきたものを全て一瞬で泡にしてくれたのは誰だったか」

白人?「その割には笑顔だな。まぁ、いい。今日は顔を見に来ただけだから、そろそろ本国へ返らせてもらう」

?「もう体が持たないのかい?元気そうだが。ジョージ・キングダムとか言ったかな、その体は。そこまでして、わざわざここへ来る必要も無かっただろうに」

白人?「元気云々の話ではないのだよ。無能だが、少々我が強いのだ、コイツは。このままでは死んでしまいかねない」

そう言って、サングラスをはずして老人の方を見る。目元が佐天にも見えた

佐天「ヒッ! 」

思わず声が出た。身体の自由が戻ってきつつあるのだろう

男の目は完全に白目を向き、時折グルグルと瞳孔が不可解な高速移動をしていた

とても生きている人間のまともな動きではなかった

白人?「おや、小さな淑女を怯えさせてしまったようだ。すまないね。それでは」

そう言って、その場から消えた

今までの会話はずっと英語だったので、佐天には部分部分の簡単な単語しか理解できなかった

?「彼の事は気にしなくていい。DNAを始めとした君のデータも取らさせてもらったし、もう動けるだろう?帰りたければ帰ってもいい」

額など頭部に集中してついていたパッドを外し、佐天が立ち上がる

?「そう言えば、君はケーキが好きなのかい?」

佐天「えっと、まぁ、特別に好きというわけでは」

?「そうかい。嫌いではないなら、これを貰ってくれ。強引な方法をとった僅かながらのお詫びだ」

手渡されたチケットはこのホテルの一階に見えたカフェの特別食事券だった

佐天「えっと、ありがとうございます? 」

そう言ってそそくさと部屋を出た

 

 

爆発――

標的の研究員が立て篭もる建物の正面玄関が華麗に爆散した

夜間であり、一般人が出入りできるクラスの施設では無い為、これほどの爆発でも気付かれることも無いだろう

大穴が空いた玄関へ、極太の光線が奔る

電気をあえて消して備えていた部隊の位置が、それによって一瞬照らしだされた

そこへ絹旗が突撃する。幾らかの防衛部隊はそれで黙るが、彼女だけで抑えられる人数は限られている

少女が突っ込んだ逆側から、即座に応射がなされる

それを見越して、アイテム傘下の暗部部隊が弾幕を張る様にして進む

今まで少数の高位能力者による攻撃のみを想定していた為、防衛側は少々予想外だったであろう

だが、所詮は無能力者による銃撃だ。反応できないレベルのものではない

すぐさま攻撃の手を二分し、下位暗部の方へも応射を兼ねて榴弾攻撃を加える

絹旗の方へしないのは、当っても致命傷になりにくく、逆に巻きあがる埃や煙で捕捉できなくなる可能性があることを予測して いるからである

もとより、多くの武器を与えられず、自分たちの格上の相手に対して無茶な攻撃をするように言われていたのだ

下位暗部は即座に散って逃げ出す

だが、そんなことは最初からお見通しである。この、戦力が明らかに分散した合間を使って、仕込みを入れる

最初の一撃以外に、麦野による攻撃は見られない。敵の側からしたら、その攻撃が最大の恐怖である

故に、その攻撃と姿が見られない以上、1か所に多くの人数がとどまることは良しと判断できない

散りながらも、最低限の連携をとりつつ、最大脅威の麦野を探す

このタイミングで、守られている研究所からすこし離れたところから麦野が光線を数発、放つ

研究所に更に穴がいくらか増えた。そして、あえて大きく叫ぶ

麦野「今よ!はまづらあああああああああぁぁぁあぁぁあ!!!! 」

先程壊走した下位暗部部隊の中から、一人の男が守る迎雷部隊へわざとらしく手を向ける

その瞬間、まぶしいほどの火炎が研究所の一階を覆う

如何に散開していたとしても、この階層に居れば、その業火から身を守るすべなど無い

瞬時に察知し、上の階へ逃げた数名を除いて、10名程は黒になった

もちろんこれは、綿密に計算された、演出である

事実を知っていれば何のことは無い。無謀に突撃した絹旗と下位暗部部隊へ敵の目を向けている内に、フレンダが空薬莢に扮した液体ガスが入った缶を多数打ち込み、敵の最高脅威である姿を隠し続けた麦野が酸素を送る様に穴をあけ、浜面の持つセンサーで火炎を挙げるだけという、お粗末な策である

だが迎電部隊からすれば、与えられた情報から、対アイテムとして戦うことを念頭に置いているので、下位部隊の無謀な特攻と最前線で暴れ回る予定だった麦野の姿が隠され続けたということが、判断を鈍らせたのだ

事実、燃え尽きた中の数名は撃っていないサイズの空薬莢が転がっていることには気が付いていた。だが、高脅威の麦野への 対策として散開していた状態では有効に情報が共有できなかった

故に、簡単な策によって一階は焼き尽くされた

そして、迎電部隊という特性とLV5を含んだ能力者集団と闘うという意識、さらには演出によって、広範囲に火力をまき散らすことが出来る発火能力者がアイテム側にいると考えさせた

つまり高位の発火能力者HAMADURAという新たな高脅威が部隊には生まれたのである

この幻想は彼らにとっては最悪である

建物に立てこもっている時点で、行動範囲は限られる。まとまっていては光線の的になり、散らばっていても炎で焼き殺される

武装も発火能力者対策用の物は当然持ってきていない

階下から、絹旗を始めとして、アイテム陣が駆けあがってくる音が彼らの耳に聞き取れた

本来ならば、情報流出の原因を打ち倒すのが役割である彼らは、言ってしまえば防衛は得意ではない

自分たちだけならば、容易にここから脱出できる。だが、護衛目標がいるから、それはできない

味方の生命反応が次々と消えていく。残った他の隊員がお互いに目配せをした


絹旗を筆頭に標的がいるであろう部屋に駆けこむ

既にそこは蛻の殻で、虫の息の男性がいるだけだった

絹旗「標的ですね。もう先が長くは無いでしょうけど」

麦野「あちゃー。ちょっとやり過ぎちゃったかしら。これじゃ、標的に対する脅しよりも部隊の連中に対する脅しになっ ちゃったかもしれないわ」

浜面「…こいつが死んでいれば、自分たちの護衛放棄はばれないだろうけどなぁ。こういうのは気に食わねぇな」

裏切という光景は彼らの世界では日常茶飯事なのだろう

浜面が最期ぐらいは看取ってやろうと標的に近付き、屈む

絹旗「超甘いですね。そんなことやってたらキリがないですよ 」

浜面「そうかもな。でも完全に場馴れしちまう前ぐらいは、いいだろ」

男の方は、その会話でようやく自分の周りに敵がいることを悟った

「く、クソ、餓鬼どもが。こん、なとこぉ、ろで終わらねぇ…ぶっころし、て…る」

最期の力で腰から何か円柱の物を取り出し、自らの左腕に押し当てようとする

浜面「やめとけ」

そういって、筒のようなものの腕に向けられた側と腕の間に開いた手をかませた

意識が朦朧としている男は右手に伝わる筒に何かが当っている感触だけで、左腕に当ったものだと判断し、筒に付いたボタンを押した

浜面「痛ってぇ!?」

手の平に何かが刺さった感覚があった。慌てて筒ごと男の右手を払いのける

何かの薬剤を注入されたようだ。既に全てが浜面の手を通して体内へ入って行った

男の方は既に事切れていた

一体何を打ち込まれたのか分からない

麦野「阿呆ね、最後っ屁くらったの?」

絹旗「だから余計な事しなければ良いんですって言ったじゃないですか。超馬鹿です」

浜面「これってやっぱり毒かな?!マジやっべえ!!」

騒ぎまくる浜面を他所に、麦野が男が持っていた、恐らく注射器のようなものをとる

麦野「あーあ、毒だったとしてもこれじゃ手が打てないわね。なにも書いてないわ」

浜面「うっひょマジかよ? やばいってコレはマジで! 」

絹旗が近づき、額に手を当てる

絹旗「まだ発熱していませんね。異様にテンションが上がってるのもいつもの馬鹿面らしいですし、何を打たれたか分かりませんが早く病院に 行けば助かるかもしれませんよ」

浜面「わ、わかった! 病院だな?! 行ってくる!うおぉぉぉ…」

ものすごいダッシュで、彼は去って行った

(目標地点確認。着弾まで、およそ3分)

(このまま直接、武器供与予定地点に直接殴りこみますよ)

上条(え、さっきまで逆噴射とか言ってなかった?着弾まで3分って、着弾?!穏便な着陸は無いのかよ!?)

(ロケットみたいなものなんですから、着弾の表記で正しいでしょう?)

(ちゃんと逆噴射もします。ただ速度をゼロにするとは言っていないでしょう?)

上条(一種の詐欺じゃね、それ)

見る見るうちに第19学区が近づいてくる

(着地点、補足。逆噴射開始します)

(速度減速2000km/hを確認。今後も段階的速度減速を維持)

急な減速により、上条の視覚ではまるで自分が空中で静止したかのように見える

だが、ペースは遅くなるものの、徐々に目標の建物が近づいてくる

(目標は建物の二階、大広間。このままガラスをぶち破って入りますよ。用意は良いですか)

上条(用意も何も今聞いた!ふざけんな! )

しがみついていたゴミ箱から手を放し、役目を果たしたパイプとゴミ箱と上条がそれぞれ分離する

上条の影響下から離れたそれらは空気抵抗が一気に増大し、それらは後ろへ流されていく

左手を前に突き出して、それ以外の体は小さく丸めて衝撃に備えた

(ガラスに直撃します。物質対消滅、準備)

(発動)

防弾ガラスだったのか分からないが、有る程度の厚みがあったガラスをまず左手が触れる先から脆くなるように消滅させ、上条の減速と衝撃 吸収に回す

当然、結構な光と熱風が発生するが、熱は空気を膨張させて衝撃緩和に回してしまう。光は目立ってしまうがこの際無視だ

だが、それでも勢いを完全に殺すことはできず、大部屋に接地した上条は残った勢いで壁まで転がる

上条「…ぐぇ」

散々な目にあった上条の、今まで我慢に我慢を重ねた末に漏れた声だった

(早く立って下さい。体にそこまでの問題は無い筈ですよ)

さっと立ち上がり、周囲を見回す

上条(あれ、誰もいないぞ?)

そこは何もない、だだっ広いだけの部屋だった

(おかしいですね。ここだと当りを付けていたんですが)

(まぁ、逆に助かりましたけどね。あの突入方法では唯の的でしたし。次からはもっと華麗にお願いします)

上条(次が無いことをひたすら祈るよ。で、どうもここじゃないみたいだが、他にあの大量の武器をスキルアウトに提供することが出来るような所って有るか?)

(次点としての場所ならここから200m北に行ったところにありますが、広さは不十分だと思われます)

(ここは次の日になるとなぜか倒壊、瓦礫も無くなるという徹底した隠ぺい具合でしたからね。次点の場所は最終日にようやく壊れたか、と言ったところです)

上条(どう考えても臭いのはこっちだな、その条件だと。ブラフにしても、それならここを残しておいた方が効果的だし 部屋の出入り口へ向かう)

上条(ここに居ても仕方が無い。次点の所とやらへ向かおうか。しかし、お前らの予測が外れるとは、やっぱりこれは時項改 変の誤差なのかな?)

(そうだとすると、怪しいです)

上条(怪しい?)

(時項改変について、あのアレイスターの言うことを真に受けるとするならば、誤差というものは無いんです)

(星を対消滅させたエネルギーによって、各時項の変更は可能になりました。しかし、それは可能になっただけであって、誰かが何か変化を起こそうとしない限り、起こり得ないハズ)

上条(ということは、俺が行きにビジネスクラスのシートに居たのは誰かが変えたってのか?)

(そうなりますね。あの場に居て、時間移動・改変の事実を知っているのは貴方と彼のみ)

(となると席の変更は彼が行ったことになります。これはあなたを楽させようとしてくれたのかもしれません)

(ですが、今回の武器供与は行為体が彼では無く、CIAとなります)

(CIAがあの状況を作り出してしまったのだから、CIAと彼が繋がっているとは考えにくい。寧ろ対立しているはず)

(もし仮に、前回の武器供与がここで行われていたとすると、CIAは場所を変えたことになる)

(すると、問題が見えてきます。ここを変える理由が見当たらないのです。変える理由があるとすれば)

((前回と同じでは、妨害されてしまうかもしれない、という考えを持ったから、という結論になります))

上条(だとするとなんだ、CIA側にもいるってのか、改変を起こそうとしていることを知っている奴が)

(無論、コレは彼の言った理論に基づいたものですし、教えられた理論が間違いで騙されてる可能性もあります)

(もっと言えば、バタフライ効果のようなもので、私たちには考えられない理由で変更されたのかもしれません。しかし)

上条(大丈夫。要は、気をつけろって事だな。分かったよ)

階段を下り、踊り場で向きを変える

その瞬間、銃弾が上条の左わき腹を掠った。着ていた衣類が裂ける

直撃を避けれたのは、少しだけ反応できたからである

(やっぱりですか)

上条(どうやら、さっき言ってた仮説が正しいかもしれないな)

場所を変更したのは、そこを襲おうとした人間、つまりCIAに対抗する人間を狙うためということだ

(逃げられましたね。気配がありません。相手は相当のやり手かもしれません)

慎重に残りの階段を下る 降り切り、廊下を確認したが気配は無かった

上条(完全に逃げられたか。いや、潜んでるのか)

(どちらにせよ、これは精神的に来ますね。相手にとってかなり有利な状況です)

(ですが、この様子だと、狙ってる敵は少数かもしれませんよ)

上条(だと良いがなぁ)

慎重に慎重を重ねて、正面玄関へ移動する

一番怖いのは横に広い玄関に部分へ繋がる、廊下と玄関の接合部分の角である。上条からは右にも左にも広がっているように見えた

角に差し掛かり、壁にへばり付いて覗き込む

右、クリア。左、…クリア

安堵の息を吐き、玄関へ一歩を踏み出した

((当麻、上です!))

脳内に声が響き渡った。刹那、踏み出した右足で左足を払う

反時計周りに回転しつつ身を倒す。上には矢のようなものを持って、上条へ刺突を図る男が居た

体の回転に合わせ、矢のようなものを左手で払う

左手が敵の持つ矢の攻撃部分へ触れた瞬間、閃光が発生した

両者の中間に近い部分で対消滅により発生した光は、両者の視界を奪う

回転しながら倒れた上条は動きが出来ないが、攻撃側の動きは場馴れしたものだった

頭の中にあるこの場所の構造と自分の今の体勢を考えて、視界の無いままで瞬時に撤退したのだ

上条が視野を有る程度取り戻した時には攻撃者の姿は無かった

上条(助かった。敵は一人だったみたいだ)

(随分と洒落た武器で一撃離脱を狙ってくるような人間です。まともに相手をするには骨が折れたでしょうよ)

(こんなところで時間を取られていても仕方がありません。やり手の暗殺者は怖いですが、先へ進みましょう)

破壊された玄関から建物を出た

男は走っていた

原因は、自分に打たれたであろう、毒の為だ

とうの昔に完全下校時間を過ぎていたので、人が邪魔になることは無い

普段は人と車でごった返す道を車で爆走していた

車の中に居るのは、滝壺とフレンダだけである

フレ「ちょっと、いいの?あの二人置いてきちゃったわけだけど」

声をかけた先の人物は速度を維持することに精いっぱいで、彼女の声は届かないようだ

滝壺「大丈夫。今麦野に電話したけど、そんなに怒って無かったよ」

フレ「つまり有る程度は怒ってたのね。浜面や私がかけてたら違ったんだろうけど」

コレは明日が怖いんですけど、と思いながら、必死な浜面の方を見る

絆や繋がりの薄い暗部組織では有るが、この程度の問題なら許されるだろう。少なくとも、死なない程度には

第7学区の某病院に着いた

確かに、何の毒かわからない上、それが研究者によって打ち込まれたものならば、既存の治療しか原則できないようなその辺の病院では駄目かもしれない

この判断は、間違ってんはいない

フレ「んじゃぁ、行ってきなよ。私は滝壺と待っとくからさ」

滝壺「早く帰れるなら、連絡してね、はまづら。むぎの達を迎えに行けるかもしれないから」

浜面「了解行ってくる!!」

男は車から降りて、病院へ駆けだした

急患用の受付で事情を説明し、診療室に通される

蛙「君が来るとは珍しいね。最近あの子の調子は良いのかい?」

浜面「体晶を使わせてないからな。じゃなくて!今日は俺ですから!毒が」

蛙「ほぅ。毒かい。にしては随分元気そうだけど、いつ体の中に入ったんだい?」

浜面「だ、大体45分ぐらい?言いにくいけど、瀕死の研究者にうたれて… 」

蛙「ふむ……ということは、遅効性の毒や病原菌なのかな?そんな使いにくいものをその状況で使うとは思えないけど」

看護師を呼んだ

蛙「一応、血を採ってみよう。検査結果が出るのはスグだけど、少なくともそれが終わるまで待っておいてくれるかい?」

そう言って、彼は部屋を出た

看護師が手際よく浜面の血を採血していく

「はい、終わりましたよ。部屋の前の椅子で待っておいてくださいね」

言われて、退室した

部屋を出ると、滝壺が座って居た

滝壺「むぎのたちは、もう自分達で帰っちゃったって。フレンダは車の中で寝てるし、様子を見に来た」

浜面「うおぉぉ、次に会う時がめちゃくちゃ怖いな…。今、血採られて調べてもらってるところだ」

隣に座る。もちろん一人分開けてだが

滝壺がその開いたスペース上に身を乗り出して、浜面の額を触る

滝壺「熱は、まだ無いから、案外毒じゃないのかも」

浜面「だと良いんだけどな」

落ち着きがない浜面。まぁ、無理もないかもしれない。打たれたものが遅効性だった場合、いつ自分にその効果が現れるのか分からない

常にロシアンルーレットに参加しているような心境だろう

滝壺「大丈夫だよ」

そう言って、彼女は男の頭を自分の胸と腕で包む

急にそんな事をされて、思わず言葉を失う

暫く抱かれたあと、そのまま膝の上に頭を置かれて、目線と目線が交差する

滝壺「今日は、お疲れ様。結果が出るまでで良いから、休んでて」

浜面「あ、え…?」

少女の方も恥ずかしかったのか、浜面の目を手で覆う。しかしそれには強く力を込めているようには感じなかった

彼女が自分の不安を察してくれたのだろう。そう思うと、取り乱していたのが少し恥ずかしく思えた

そんなことを思っていると、彼の意識は途切れだし、寝息を立て始める

それにつられて、少女の方も意識がまどろみだした

すこしして、診療室の扉が開いた。なかから年配の男が顔を出す

蛙「おーい、結果がでt……ハァ、やれやれ」

その光景を見て、目をつぶり深い息を吐いた

蛙「君、ちょっと手伝ってくれるかい?」

そばに居た看護師を呼びとめる。運ぶように指示を出し、運び先はと聞かれると、

蛙「今日は、いつもの少年の病室は空いていたよね」

 

 


いつもの少年は19学区に群がっていたスキルアウトの人波に隠れながら、第二の予想武器供与ポイントへ向かっていた

それほど多くの人がいるわけでもないが、完全下校時刻を過ぎて、かつ平時はほとんど人が居ないこの学区で、これだけの若者がいるのは明らかに異常だった

上条(あの建物なんだよな?)

(ええ、間違いありません。ここからでも出入してるのが分かるでしょう?)

上条(本当に?)

(はい。何か問題でも? )

上条(いや、本当に武器供与されているなら、特にその武器が旧ソ連で大量生産された自動小銃なら、なんで数少ない出てくる連中は特に何も持っていないんだ?)

確かに、建物から出てくる若者には、AK-47を隠し持つような仕草も、隠し持てる物も持っていないものばかりだった

(わかりません。行ってみないことには判断はできませんね)

不安は増える

上条(このまま、あの人口密度の中へ入っていいものかな?)

上条の頭に浮かぶのは、先程自分を襲った者

少なくとも、尋常じゃない身のこなしと、急襲するという技能においては、危険な存在

その存在を放置して、暗殺してくださいと言わんばかりに人が密集している所へ行ってもいいものだろうか?そのように考えるのは自然だ

(では、裏口から行きますか?)

上条(いや、この状況で裏口から行くのは、誰でも考える方法だ。だから、罠のような物が張ってあってもおかしくない)

(同意です。逆にあれだけ人が密集している玄関口ならば、罠は張れません)

上条(やっぱりこのまま紛れていくしかない、か)

近づいてみてわかったが、群れている彼らは列を成そうとしていない。我先に、といった感じで、逆に収拾がつかなくなり非効率な感じがした

(そういえば、疑問があるのですが)

上条(なんだ?)

(今日、この学区で武器の供与があると考えるのはあの逆さ吊りの男も同じのはずです。ならばなぜ、部隊などを派遣していない のでしょうか?)

上条(そうだな。俺が思うには、またさっきの仮説に関係するけど、アイツも分からないんじゃないのか?)

(というと、今日この学区で何が起きるのかということですか?)

上条(そ。敵もアイツも前回の結果を知っていて、さらにお互いが、お互い前回のことを知ってるということを、知ってると仮定すると、ここで何をして、どんな防御体勢が整えるのか分からないだろ?だったら)

(まずは敵の動きを見て、身内の裏切り者を粛正する方が先、というわけですね。ではここへ部隊が送られていない分は)

(内部の裏切、あの理事を始めとした人間が粛清されている、ということでしょうか。確かにあの理事は死んでいるようですし、間違ってはないでしょう)

そう言って、左手がポケットの携帯を取り出す。ニュースの欄には学園都市理事、死体で発見、というテロップが見えた

間違ってはいない。その通りだ。確信は取れない

上条(しっかし、進まねえなぁ。こいつら協調性とかないのかよ?)

(あったら、スキルアウトなんてやって無いのでは?これは偏見かもしれないですが)

そうだなーと思い、列らしきものから人波をかき分けて強引に入る

途中でいかつい兄ちゃんに何度も睨まれたが、気にしない

何とかして地下に降り、この現場が一体何なのか、なぜここまで人がごった返してえいるのかが分かった

ノイジーでクレイジーな音楽が鳴り響く。前方の舞台の上では各自楽器を演奏しながら、パフォーマンスを披露していた

地面に何かの紙が落ちている

『~都市に住まう隠者よ賢者たれ~Chained Magi of the City ゲリラライブ!なんとあのAnGEL DowNも参戦?!スキルアウトよ…』汚れで読めない

上条(これかよ!?確かに広い空間では有るけどさ!)

(そうみたいですね。道理でそういう風体の人間が多い訳です)

(コレでは、部隊によって制圧する必要は無いでしょう。さぁ、ノって無いと浮きますよ)

親指と人差し指と小指を立てた手を挙げ、周りに合わせて適当に叫ぶ

上条(おい!他にこの地区には無いのか?!武器渡せるような所は?!)

(答えは、NOです。いやぁ、やられましたー)

(ゲリラライブなら仕方ないです。ヒャッハー )

上条(ヒャッハーじゃねえよ?!コレじゃわざわざあんな方法で帰る必要は無かったんじゃねえか)

(おかしいですね。出発前にはこんなイベントがあるなんて…)

(途中で抜けるのは止めておきましょう。途中で何が有ってもおかしくは無いですから)

(一応、後ろに下がって壁を背にしましょう。彼に狙われるかもしれないですからね、フォーゥ)

こうなっては仕方がない。楽しんでいるような雰囲気を作って、上条は1時間あまりそこで動かなかった

上条がそろそろ演技にもぐったりしてきたころ、舞台上のギターボーカルが語りかける

「今日はァ!オマエたち良く来てくれたァ!最高のパァフォーマンスをォ、見せれたと思うぜェ!」

白髪では有るが一方通行ではない。ガタイが違う※本当に違います

「こうやってお前らがァッ、ノッてくれたから、サイコーの気分だったぜェ!だからァ今日はテメェ等にィ、プレゼント だァ!」

「受け取れェ!! 出口でェ!俺たちのォロゴが入ったピックをォ配ってるからァ!ズェッタィィ!貰ってくれよなァ!アヂュー! 」

そう言って、バンドグループは楽器ごと消えた。流石学園都市だぜ、と誰も不思議には思わなかった

上条にはキャーとかウォォオとか、指笛の音などであまりよくは聞こえなかったが、何かを配っている事だけは分かった

出口の方では、唯でさえ協調性の無い連中が、グッズがもらえる為になおの事詰まり、中々人が掃けなかった

最後の方まで残るつもりだった上条にとっては、良いカモフラージュとなる

人が少なくなってくると、掏ったサングラスで心ばかりの変装をする

特に何もなかった。普通のライブハウスが、普通に撤収されていく

(……何もないですね。私たちも帰りましょう)

上条(あい。無駄に疲れた気がしてならないけど、帰ろう)

時間がたっただけあって、わりとすんなり出ることが出来、一階の狭い出入り口でもピックを貰うことが出来た

首や手首に巻けるように長く細いチェーンが付いている

左手で受け取り、ロゴを見る。逆三角に矢のようなマークが三本。そのままポケットに突っ込んだ

そしてそのままの足で、自らの部屋へと戻った

目を覚ました浜面に見えたのは、少女の顔だった

目をつぶって、寝息を立てている。その息が、すこし浜面のほほを刺激する。それぐらいの近さだった

声を挙げて飛び上がりそうな自分を何とか殺し、そっと身を起こす

それは無論、彼女を起こさないようにする最大の配慮であり、彼にできる精いっぱいの甲斐性だろう

体をそっと布団からだし、立ち上がる

彼女の方は起きる兆しもなく、上手くベッドから出ることが出来た

時間は7時30分ぐらい。深夜まで動いていて低血圧の人間ならまだ寝ていたい時間帯ではある

音を立てずに、そっと部屋を出る

扉を開けてトイレへ。尿意を掃うためである

蛙「おはよう。昨晩はお楽しみだったかい?」

浜面「うおっ、い、いたんですかい。お、はようございます。あと、何もしてねえですよ!?」

蛙「朝からずいぶん元気だね。うらやましいよ。昨晩は二人とも疲れているように見えたから、空いている病室で寝かせておいたんだけど、いらぬ世話だったかな」

浜面「いや、助かったけど、何も同じベッドにしなくても」

蛙「ありゃ、君たちそういう仲じゃなかったの?部屋の空きが足りなくてね、そうさせてもらったんだが」

浜面「いやぁ、そういう仲というか、まだそんな段階じゃないというか…。あ、そう言えばまだ結果聞いてないんスけど」

蛙「そうだね。じゃあ、こっちへ来てくれるかい」

手でこっちへ、と誘われる。そのまま診療室についた

蛙「はい、コレ」

書類を手渡される。アルファベッドがひたすらつづられており、何が書いてあるのか分からない

浜面「なんスか、コレ?」

蛙「結果だよ。主に毒とか病原体について調べたものの奴のね」

目を細めてみるが、negativeがひたすら羅列されている

蛙「書いてある通り、既知の毒や病原体は無かったよ。DNAに照らし合わせてみたけど、概ね血液は君の自然状態を示している」

浜面が医師の方を見る

蛙「つまり、遺伝子上は君の体に問題は無いってことさ。念の為、今の君を身に来たわけだけど、元気そうだったしね」

そう言って、健康な男児の股間をチラとみる

蛙「ま、元気なのは違う原因かもしれないけどね。なんにせよ正常なのは良いことだ」

既に毎朝のそれは鎮まっていたが、なんと言うか気恥ずかしい

浜面「じゃ、じゃあ、今日は滝壺が起き次第帰ってもいい、ですかね」

浜面の発言を無視するように、医師の口が開いた

蛙「遺伝子上は、正常だ。と僕は言った。この意味は分かるかい?」

これで終わりだと思っていた浜面は、急に顔から笑顔を無くした医師を怪訝な目で見る

蛙「君もこの学園都市の一住人だ。つまり、最低限の個人情報は都市が管理している」

蛙「その中にはね、遺伝子情報も含まれているんだ。そしてコレが今まで都市が持っていたもの。コレが昨晩の君、つまり今の君のものだ」

浜面がさっきまで持っていた書類の中から、二つの紙を出す。無論浜面には分からない

蛙「君は、人間の染色体の数を知っているかい?」

それぐらいは浜面も知っている

浜面「2n=46、だったかな?」

蛙「その通り。いくら強力な能力者であっても誰かのクローンであっても、2n=46に差異は無い。中身はかなり異なるけど ね。でも問題はそこじゃないんだ」

コレ、といい、浜面に二枚目の紙を見せる

蛙「2n=46が人間の定義の一つならば、君は、一体何なんだろうね」

書いてある数字は2n=36000280313424

浜面「うひょ、何だ、これ。いち、じゅう、ひゃく…36兆?!なんだこりゃ、数字バグってる!? 」

蛙「僕もそう思ったさ。何度か計算と検査をやり直したけど、結果は同じ。2n=46までの遺伝子情報は概ね、前の君のものと適合しているけど、2n=47以降に関わる部分は2n=46以内も変わっていた」

蛙「なんの嫌がらせかと思ったよ。遺伝子の圧縮なんて初めて見たしね。ここの技術レベルじゃなければ、ただの染色体異常だろうとして見つからなかっただろうけど。n=25以降のものは全て圧縮されているんだよ。そしてn=24は解凍部門だ」

蛙「解凍されたものも、一つ一つの塩基対数も2億に近くてね。とてもじゃないがここの技術水準でも一朝一夕に君の全ては分からない。元のデータもないし、比較できるものも手元にないんだから、絶望的と言ってもいいね」

蛙「その上性質の悪いことに、遺伝子上にダミー情報も多い。研究者泣かせだよ」

君は ひとしきり話しきり、ふぅ、と息を吐く

浜面「え、えっと、つまり結論として俺はどうなったんだ?」

蛙「簡単に言おう。分からない。それだけだよ。状況的には謎の病原体に蝕まれているのと、さほど変化は無いね」

蛙「恐らく、君が死ぬ様な事になっても高レベルの医療は受けられないものと思っておいた方がいい。特に、放射線を使うものなんかは要注意だ。どうなるかわからない」

浜面「要するに、分からないことだらけってこと、か。オチオチ怪我もできないし、どうしてこうなったんだろうなぁ」

蛙「ま、今はとりあえず元気だから、いいとしようじゃないか。検査入院してもいいが、どうする?」

その時、コツコツ、と扉が鳴る。どうぞ、と言うと、開き、看護師が居た。傍らには滝壺

滝壺「あ、はまづら、いた」

少女が微笑んだ。それだけで、返事が決まる

浜面「このまま退院します」

蛙「そうかい。まぁ、何かあったら全力は尽くすけど、気をつけるんだよ」

医者の返事を聞いて、振り向き、少女の手を取って、部屋を出た

滝壺「なにか、あったの?気をつけろとか…」

浜面「麦野とかに虐められない様に、ってさ。大丈夫。なんでもない」

なんとなく、滝壺の方が見られなかった

 

 

 

禁書「やってらんないんだよ! 」

叫ぶ声が寮内に木霊する。そしてカチャカチャと食器とナイフやフォークが当る音が同様に響く

深夜だというのにこの少女はひたすら食していた

アニェーゼ「それで、なんかわかったんですか?」

やれやれという感じに言った少女へ、暴食中の少女が睨む

禁書「なにもなんだよ!私の知識云々いぜんの問題なんだよ!」

そしてすぐに食卓へ顔を向けて食事を再開する

オルソラ「騎士の皆さんが非常に気を立てていましてね、介入を繰り返されて思うように進まないのです」

オルソラの方をみて、食事中の少女が数回頷いた

ルチア「それで明日も朝から召集が」

禁書「そうなんだよ!…でも多分、何もわからないんじゃないかな」

神裂「というと、時間がどれだけあっても、という意味ですか」

禁書「うん。本当に魔術なのかどうかすらわからないんだよ。具体的な影響もなにもでてないし」

シェリー「騎士連中には影響大みたいね」

シェリーがからかうように笑った

アニ「影響も出てない現状ならなんも問題ねえと思うんですがね。これで何か被害が出たら」

ひたすら食事をしている少女を除いて、全員の表情が暗む。笑っていたシェリーですら真面目な顔をした

フランスの方で、大規模な動きがあったという報告が入って来ていたのだ

海峡を挟んで、軍事的な対立悪化が考えられた。つまり、戦火を交える可能性があるのだ

とくに、あの魔術らしきものが大陸のものと分かった場合は、先制攻撃に出るかも知れない

それ以外にも不穏な情報が、今までにとあるルートより伝わり、蓄積しているのだ

今、全ては、解析にかかっているのだが、この様子では攻撃を主張している連中に押し切られるだろう

緊迫した状態であった

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