第七学区。
とある高校の男子寮の前で、スネークは見上げていた。
夕焼けに染まる空ではなく、寮の屋上を。
スネーク「・・・ここか。監視カメラには余り映りたくないな。筋トレも兼ねてよじ登って見るか」
耐震のための鉄骨に手を掛け、よじ登ろうとしたが
■■「こんなところで。何してるの。」
突如、後ろから声をかけられた。
スネーク「うお!(なんだこの少女・・・全然気配を感じなかった・・・!)」
後ろに佇んでいたのは、綺麗な黒髪の正に大和撫子といった少女だった。(それ以外に特徴らしい特徴は無かったが)
だが、問題はそこでは無い。
潜入任務は他人の死角をすり抜け、敵を拘束、無効化する。
誰よりもそれが上手なのがスネークだ。
その歴戦の勇者に音も無く忍びより、背後を取ったこの少女は。
スネーク「・・・ああ、ちょっと書類が飛ばされてしまってな」
■■「そう。気を付けて。」
割と自然な嘘に、すぐに引き下がってくれた。
しかし、スネークの鼓動はしばらく速まったままだった。
スネーク「恐ろしい少女だ。声をかけられるまで存在さえ感じなかった…。」
オタコン「ここは学園都市だ。気配を消す能力者だっているかも知れない。僕達の世界の常識で考えてちゃ駄目なんだよ。」
スネーク「いま屋上に出た。麻酔銃を回収したぞ。ところでオタコン、任務の期間中、どこに滞在すればいいんだ?」
オタコン「…(ギクッ)」
スネーク「まさかオタコン…考えてなかったのか?」
オタコン「そ、そんな事はないよ!…そこの寮の空き部屋でも拝借したらどうだい?」
スネーク「(やっぱりコイツ考えて無かったな)…了解した。」
七階のベランダに降り立って、電気のついてない誰も住んで無い(と思われる)部屋を見つけた。
スネーク「とりあえず空き部屋と思しき部屋に潜入した。冷蔵庫は空だし、風呂もお湯は張ってない。少しの間拠点として使わせていただこう」
***
その部屋の主は、とある修道女を担任の教師の家に送り、帰路についていた。
上条「…はあ。何かインデックスが小萌先生の家にスフィンクスを連れて遊びに行っちゃったんですが。
まあ久しぶりにベッドで寝られるし良しとしましょうか!」
先程『部屋の主』と言ったが、ベッドも食糧も居候に占拠、食い潰されている。
不幸な少年上条当麻は、その危険な居候の呪縛から一時的に解き放たれ、小さな幸せを噛み締め…るはずだった。
***
カツ、コツと足音を鳴らして近づいてくる影を、スネークは敏感に感じ取った。
スネーク「…誰かの足音が近づいて来るんだが。今まさにこの部屋に入ろうとしているんだが」
オタコン「!!!隠れるんだ!」
***
不幸な少年は自炊派なので、冷蔵庫には普段豊富な食糧を備蓄している。
今日は疲労が溜まっているので簡単に夕食を済ませようなどと考えていたのだが、
上条「はあー腹減った。冷凍庫に確か肉まんが置いて--------無い?あれ?ていうか冷蔵庫空?え?何で?」
自分に尋ねても答えは出てこない。
となると理由は一つ。
上条「…あの暴食シスターかぁぁぁぁぁぁ!!不幸だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りをぶつけたい相手はここにはいない。
枕に八つ当たりしても空腹感は収まらない。
なけなしのお金を握り締め、重い足取りでコンビニに向かおうとしたのだが
スネーク「…動くな。」
上条「とてつもない空腹感の次は、いきなり渋いオッサンにこめかみに銃を突きつけられました。今日はまた一段と不幸だ…」
自分の部屋の不法侵入者はこんなことを言った。
スネーク「交渉しようじゃないか」
***
交渉と言っても、バカ正直に任務の内容を話す訳にはいかない。
端を折って簡潔に話すことにした。
スネーク「俺はちょっとした任務で学園都市に来ている」
上条「という事はアンタ、外から…」
スネーク「そうだ。そして任務を遂行するためにこの部屋を拠点として使わせて欲しい。1週間位だ。
そしてもう一つ。さっきの任務の話だが、誰にも話さず黙っていてくれ。
勿論この部屋に俺が来ている事もだ」
上条「さいですか…まあアンタも困ってるみたいだし、協力するよ」
スネーク「すまないな。っと自己紹介がまだだったな。俺の名前は…デイビッド・スネークだ」
勿論偽名だが、普段コードネームで呼ばれるため、本名が混じってしまった。
上条「(蛇?)俺は上条当麻。よろしく」
上条「あー、そういえば今日は御坂に宿題手伝ってもらうんだった…とりあえずゴミ捨ててくるから待っててくれ」
彼は、ついでに飯買ってこよー等と言いながら部屋から出て行った。
スネーク「ふう。行き当たりばったりだが拠点は確保できた」
オタコン「あの少年には感謝しなくちゃね」
スネーク「煙草でも吸わせてもらうか…」
***
御坂美琴は上条当麻の寮の前に到着していた。
予定の時間より少し(かなり?)早いが、お邪魔させてもらおう。
御坂「アイツの寮なんて初めて来るわね…」
少し緊張しながらも、人さし指でインターホンを鳴らす。
ピンポーン♪と高い音がなったが、中からの反応はなかった。
御坂「お邪魔しまーす。って鍵開いてるじゃない」
そこにいたのは、
スネーク「……」
御坂「」
***
先に口を開いたのは、
スネーク「・・・あの少年の彼女か?」
御坂「なっ…そそそんな訳あるかああああ!」バチバチッ
よく分からないが触れてはいけない事を言ったらしい。
青白い電気を身体中から放出する恐ろしい少女を見て、
スネーク「随分危ないお嬢さんだな。発火して火事になるぞ?」
御坂「軽口叩いてる場合かしら?ていうかアンタ誰ええええ?!」
流石に身の危険を感じて窓から逃走した。
パイプをつたってスルスルと地上に降りるスネークを見た少女は、
御坂「チッ。まあいいわ。気絶させた後で話を聞きましょ」
prrrr prrrr
スネーク「オタコン、何だあの少女は!40年位前見た気がしなくもないんだが…」
オタコン「?君は今38歳じゃないか。多分彼女は電撃を操る能力者だ。微弱な電流も視認できるらしい。逃げ切る事は多分できないよ」
スネーク「少し眠ってもらうしか無さそうだな…」
スネーク「!?」
弾は本来通る軌道を描くことなく、植え込みの木に突き刺さる。
御坂「随分古い銃使ってるわね。外の人間かしら?」
スネークはこのような現象を目撃した事がある。
2009年 ビッグ・シェル占拠。
その事件を起こしたテロリストの1人、フォーチュン。
まさか、彼女と同じくーーーーーーーー
スネーク「周りの電磁波を操って!?」
御坂「御名答。いいカンしてるじゃない」
スネーク「クソ…!」
懐から麻酔銃を取り出し、マガジンを装填する。
御坂「少し眠るのはアンタだと思うけど?」
10m位離れた場所から雷撃の鎗が飛んで来た。
スネークは横っ跳びしてそれをかわし、照準を合わせて引き金を引いた。
サプレッサーの装着によりほとんど銃声を発さず、銃口から麻酔弾がとびだす。
弾は命中し、彼女を夢の世界へ誘う---
はずだった。
スネーク「!?」
弾は本来通る軌道を描くことなく、植え込みの木に突き刺さる。
御坂「随分古い銃使ってるわね。外の人間かしら?」
スネークはこのような現象を目撃した事がある。
2009年 ビッグ・シェル占拠。
その事件を起こしたテロリストの1人、フォーチュン。
まさか、彼女と同じくーーーーーーーー
スネーク「周りの電磁波を操って!?」
御坂「御名答。いいカンしてるじゃない」
スネーク「クソ…!」
prrrr prrrr
スネーク「オタコン!彼女の電磁波を妨害する方法は無いのか?!」
オタコン「落ち着けスネーク!…彼女は演算によって能力を発現させているから……」
スネーク「何か策は無いのか?!」
オタコン「スネーク!作戦用ポーチの中にスタングレネードが入っていたハズだ!」
ポーチの中に探りを入れると、予備の弾以外にアルミ缶ほどの大きさの円筒があった。
スネーク「あった。…けど2つしか無いぞ」
オタコン「それで演算の邪魔をできるかも知れない。あくまでも推測だけどね…」
スネーク「何にせよ、それ以外俺が出来る事は無い」
スタングレネードを握り締め、路地裏に逃げ込む。
御坂「ちょこまか逃げまわっても、私からは逃れられないわよ?」
物陰に隠れて再び麻酔銃を撃つ。
しかし、先ほどと同じく命中する事は無かった。
御坂「不意打ちしたって無駄よ!」
最強の電撃使いは、路地の“壁"に足をつけ、
スネークの真横に下りてきた。
スネーク「なっ!?」
御坂「さあ、少し眠ってもらうわよ!」
***
正体不明の男の手を取り、電流を直接流す。
勿論殺してしまうようなものでなく、気絶させる為に。
スネーク「ぐ……ァァァァァァァァ!!!!」
しかし。
地に倒れ伏す事は無く、手を振りほどいて路地裏のさらに奥に入っていった。
御坂「え……」
確実に気絶すると思った。が、現にあの男は電撃に耐え、逃げ去って行った。
御坂「まあいいわ。もう一度気絶させてあげるまでよ」
革靴を鳴らしながら、路地裏をスネークを追い詰める形で進んで行く。
と、そこにアルミ缶サイズの大きさの円筒が転がってきた。
御坂(…手榴弾!?もしも建物の中まで被害が出たらどうするつもり?!)
爆風と破片から身を守る為に、磁力を操り壁を5m程駆け上がる。
だが手榴弾は予想外の爆発を起こした。
キィィィィィィン!!と、
想定外の閃光と轟音が演算の邪魔をする。
御坂(なっ・・・・!?)
能力によっt発生させていた磁力を失い、5mもの高さから地面に叩きつけられた。
そして、
光で塗り潰された視界が晴れる前に、彼女は深い眠りに落ちた。
***
スネーク「危なかった・・・」
オタコン「何とか退ける事が出来たみたいだね。電撃は痛く無かったのかい?」
スネーク「オセロットの拷問に比べれば大したことないさ。…このお嬢ちゃんはどうしようか」
オタコン「…変な事考えていないだろうね」
スネーク「?」
オタコン「ゲフンゲフン 寮に連れて帰って、あの少年の帰りを待った方がいいと思うよ」
スネーク「確かに。路地裏に寝かせておく訳にもいかないからな」
彼女の華奢な体を担いで少年の寮へ戻る事にした。
能力者の喧嘩など些細な事なのか、
幸運にも、窓から人が顔を覗かせる事は無かった。
***
「少年」はまだ寮へ帰っていなかった。
上条(ふぅ。こともあろうにゴミ袋に宿題が混じっていたとは…)
珍しい『不幸中の幸い』を噛みしめながら帰路に着いていたのであった。
上条(せっかく御坂センセーが教えてくれるというのに…まあ見つかっただけいいとしましょう!)
寮に向かう道をまわると、視界にスーツ姿の男が写った。
上条(あれは…スネーク?外で何を…)
ふとスネークが肩に担いでいる物が目に留まった。
上条(御坂!?)
その時、上条に電流走る…!
あの怪しいオッサンは「ちょっとした任務」で学園都市に来たと言っていた。
その任務ーーーもしかすると
上条(学園都市第3位の抹殺!?)
冷静に考えれば分かるかもしれないが、外の人間がそんな事をする理由はない。
学園都市と敵対する事になりかねないからだ。
上条「ス・・・」
しかし、今の彼は冷静とは程遠く、
上条「スネェェェェェェェクゥゥゥゥゥゥ!!!」
考える前に足が動いていた。
学園都市第3位を仕留めた(気絶させた)非能力者に向かって。
スネーク「カミジョー!?」
上条「いいぜ、お前が御坂を傷付けるってんなら」
上条「まずはその幻想をぶち殺す!」
固く握り締めた拳を顔面に向かって突き出す。
上条も経験的に、1対1の喧嘩なら自信があった。
だが、それも路地裏の殴り合いのレベル。
スネークはFOXHOUNDを除隊してから何年も経っているが、技術は衰えていない。
ただの高校生が本職の軍人に勝てるはずも無く、
上条「!?」
地面に叩きつけられて気を失った。
***
とりあえず2人を抱えて寮へ戻る事にした。
スネーク(しかし、カミジョーは何だって殴りかかって来たのだろう?)
オタコン「スネーク、ちゃんと任務の内容を話した方がいいかもしれないな」
スネーク「確かに。信用無しに仕事に協力してもらう事は出来ないだろう」
***
御坂美琴は目を覚ました。
御坂(ぐっ…まだ頭がクラクラするわね…)
思考が回復し、あの男との戦いを思い出す。
御坂(地面に叩きつけられた所から記憶に無いわね…いや、あの後、あのオッサンが銃を向けて…)
だがここで、今現在自分が置かれている状況に疑問を持つ。
御坂(…何で私は生きてるワケ?そしてここはドコ?)
御坂「アンタ何者?レベル5の私を銃で倒すなんて…そもそもここはどこよ?」
スネーク「そこの少年の寮だ。少し居候させてもらっていてな」
右に視線を向けると、ベッドの下で上条当麻が寝ていた。というより伸びていた。
御坂「ア、アンタ、コイツに何したのよ!?」
前髪から放電させ、怒気を含んだ口調で尋ねる。
スネーク「そう怖い顔をするな。君をここまで運ぶときに彼に見つかってしまってな。…よほど君が心配だったのだろう」
御坂「へ?」
スネーク「俺を見た途端に殴りかかってきた。多分、君が危険な目にあっていると思ったんだろうな」
御坂「…」
ちょっぴり嬉しかった。
アイツが、レベル5を倒した危険人物に拳一つで立ち向かってくれたのだから。
御坂(でっでも、アイツの周りには沢山女の子がいて…私だけが特別って訳じゃ無いんだから!)
ブンブンブン!と首を振り、期待した自分に言い聞かせる。
スネーク「?」
御坂「そ、それよりアンタは何なのよ。外の人間どころか、日本人でもないでしょ」
高身長で青い目、自分に向けられていた銃。
目の前の男はどう見ても日本国籍ではない。
スネーク「ああ…俺はちょっとした仕事で学園都市に来て」
上条「その仕事ってのを説明してもらおうか、スネーク」
スネーク「目が覚めたか」
御坂「ひっ!?」
自分一人だと思っていたが、いきなり声をかけられて驚いた。
意識を失っていた少年はいつの間にか目をさましていた。
御坂「! アンタ、大丈夫なの?気絶してたんでしょ?」
上条「御坂か…無事だったか。良かった…(という事は、スネークは御坂を消しに来たんじゃないのか?)」
緊迫した表情から一瞬安堵するも、すぐに切り替えて、
上条「それで、スネーク。仕事ってのは何なんだ?何の為に学園都市に来た?」
スネーク「そう焦るな。こちらも話そうと思っていたところだ」
上条「『本当』の事を話せ。あやふやに誤魔化すんじゃねえぞ?さっきの説明じゃもう信用出来ねえ」
少し間を置いて、スネークは話し始めた。
スネーク「そうだな…メタルギアと言っても分からんか」
上条「メタル…ギア?ゲームか何かの名前か?」
スネーク「メタルギアというのはだな…簡単に言えば、『核搭載二足歩行戦車』と言ったところか」
上条「か、核?!」
スネーク「元々外の兵器だったんだが、それを学園都市が再開発しているという情報があってな」
上条「スネークはそいつを破壊しに来た工作員…ってことか?」
まるでゲームの世界だ。
スネーク「いや、まだ調査の段階だ。情報源も不透明だしな。そんなテロリストじみた事はしないさ」
学園都市に危害を加えるつもりかと思ったが、そうでもないようだ。
上条「成る程…まあ仕方ないか。少しの間泊めてやるよ」
スネーク「協力を感謝する。カミジョー」
自分とスネークが握手を交わすのを見て、御坂が呆れ顔で呟くのが聞こえた。
御坂「はぁ…アンタそんなんだからまた『不幸だーっ!』ってことになるのよ…」
***
御坂「で、具体的にどうやって調べるつもりなの?言っとくけど、アンタ達にハッキングは無理よ」
彼女の言うことは本当だろう。
オタコンは「今まで破れなかったセキュリティは無い」と豪語していたが、この街では通用しない気がしてきた。
ここで頼りになるのは自分達に情報を提供した人物なのだが…
スネーク「学園都市の協力者を頼りにしていたのだが…連絡が取れないようだ。」
御坂「あたしの能力なら出来ないこともないけど…共犯者にランクアップしちゃうわね」
スネーク「そこまで迷惑をかけるつもりはない。拠点を提供してくれただけでも感謝している」
御坂「私はあんまりできる事はないけど…そうそう、学区ごとの特徴は分かる?」
スネーク「…いや。どういうことだ?」
御坂「学園都市は23の学区に別れているの。軍事開発をしている学区を調べれば、学園都市全域を調べるより効率はいいと思うわよ?」
スネーク「成る程な…して、軍事関係の学区はどこなんだ?」
御坂「第十一学区が軍事、第二三学区が航空・宇宙開発、あと第一学区が行政機関ね」
スネーク「分かった。(その3つの学区を中心に調べていくか…)邪魔したな」
上条「え?もう行くのか?」
スネーク「昼に堂々と動くのは控えたい。それに、ずっとここに居て迷惑をかけるわけにもいかないからな」
上条「分かった。…気を付けてな。スネーク」