「ビッチとデコ」


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「はっ、はっ、はっ、はっ…・・!!」

シン… と静まり返った真夏の早朝。
第7学区の緑化公園内には、早朝ランナーがポツリポツリ居るぐらいだ。

その公園に、自主トレに励む1人の少年が居た。

「フゥ… シュッ!!」

小刻みなステップワークをなぞった後、軽く左手のみでシャドーを行う。
ブンッ、ブンッ、っと肉体が音を立てる。

「………うしッ!!」

感触を掴んだら、今度は本格的なシャドーを行う。
基本は左、右のワン・ツー。
時折、左右のフック、左手のスマッシュ、右手のロングフック、アッパーを交える。

「……………………ぉお!!」

約30秒ほどシャドーを繰り返して、最後は右ストレートで締める。

「はぁ… はぁ… はぁ……」

膝に手をついて大きく深呼吸を繰り返す。
首にかけたタオルで汗を拭うと、目の前に、にゅ、とペットボトルのミネラルウォーターが差し出された。

「よーやく、自主トレに復帰かよ、かみやーん」

少年―――上条当麻はバツが悪そうに笑みを浮かべて、土御門元春の差し出したペットボトルを手に取った。




 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


「3日もサボるなんて、いっくら夏休みといえどもたるんでるにゃー」
「いや、ワリィ… ちょっと、それどころじゃなくてさ…」

この数日、夜には必ず麦野と肌を重ねており、ぶっちゃけ、朝錬の時間に起きれなかったのが真相だ。
昨夜は、麦野が早々に自分の部屋に引き揚げたので、いつもの朝錬の時間に起きることができたのだ。

「にゃー、トレーニングは3日サボると、取り戻すのに1週間はかかるぜい?」
「や、すまん、このとーり」

拝むように土御門に両手を合わせ、上条がにへらと笑う。

「…で、新しい暮らしはどうよ?」
「あー、刺激的であることは間違いねぇな…」

上条が慎重に言葉を選ぶ。
己の身分の隠し方については、昨日の昼から夕方にかけて、麦野からとっくりとレクチャーを受けている。
驚くことに、麦野や上条が住むマンションは一種の『セーフハウス』であり、あのマンション丸々一棟が麦野の持ち物であるらしい。

しかも、書類上は上条はあのマンションではなく、第7学区にある別のアパートに住んでいることになっており、
そのアパートは専門のスタッフによって、毎日『男子学生が生活した空間』を演出しているらしい。

(どんだけ金が掛かってんだよ…)

そのため、友人などに家を訊かれた場合はこのアパートの住所を教えれば良いらしい。
突然訪ねてこれられても、それは単なる留守であり、約束を取り付けられたら、実際にアパートに居れば良いのだ。

「…つーことで、尾立荘っていう所に住むことになったよ。来るときには連絡入れろよ」
「んー、まぁ、そのうち伺わせてもらうぜい」

土御門が興味なさそうに言ったことに、上条が胸を撫で下ろす。
…色々と恩があるこの男は、あまり騙したくないのだ。

「あ、でもかみやん。学校に引越しを届けるんなら、早くした方がいいぜい?」
「あー、やっぱり子萌先生には早めに言っとくか…」

今週1週間は補習である。
風の噂では、担任の月詠子萌教諭は、補習終了後には各生徒に家庭訪問をするという。
それが本当なら、それまでには伝えておいたほうが良いだろう。

「にゃー、子萌先生もだけどにゃー。アイツ、昨日来たぜ。前のかみやんの部屋に」
「アイツって… まさか……」

上条が問い返そうとしたとき、土御門のポケットから、Pririririi...と携帯の着信音が響いた。
着信画面を見た土御門は、軽く眉を歪めると、「ワリ、ちょっと急用みたいだ」と軽く手をあげて上条から離れた。

「おい!」
「ほんじゃ、今日の補習でな~」

流れるような動作で、土御門元春は上条の前から消え去った…



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


「……チッ、こっちは中学からのダチと立ち話しただけだっつーのッ!!」

電話に出た土御門は、挨拶の言葉もなしに電話口に毒づく。

『監視対象は、既に貴方の管理下から外れているのですよ? 以後の管理は『アイテム』が担うと通達があったはずです』
「だからって、3年間ほぼ毎日顔を合わせてた友人と、いきなり絶交しろってか? アホか…」

普段の軽薄な口調とは全く違う、険のある口調で言う。

『距離の取り方などいくらでもあるでしょう? それに、貴方が不用意に接触しようとしなければ、監視対象が勝手に貴方を避けてくれるはずですよ?』
「ごくろーなことだよ…ッ」

実際、今日会ってみて、上条が自分を避けようとしてる雰囲気は感じられた。

(カミやんは友人想いだからな… )

暗部に友人を巻き込まないための努力を、土御門ははっきりと感じていた。

(だからって、放っとけるかよ……!)

土御門元春も、学園都市に蠕く暗部の一員である。
しかも、上条が所属した『アイテム』などより、もっと深い、イリーガルな組織に所属している。

上条と友人関係であるのも、最初は『暗部』の任務であった。
しかし、多感な時期に多くの時をともに過ごした観察対象は、いつしか本当の親友へと様変わりしていた。

「とにかくッ! お前らの邪魔をするつもりは無い! 立ち話ぐらいでいちいち煩いんだよ!」
『……わかりました。ただし、こちらの障害となれば、警告無しで排除させていただきますが?』
「…ああ、そうしろ。そんなヘマは踏まんがな」

熱くなっている。と土御門は柄にも無く感じた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

「ただいまーっす…」

時刻はまだ早朝と言える朝の7時。
麦野がまだ寝ている可能性も考えて、小声でマンションに戻った上条だが、

「おかえりなさい」

麦野はばっちり起きていたらしく、タンクトップにスパッツのラフな格好でダイニングテーブルの前に座っていた。
テーブルには、今日の新聞やファッション雑誌、学園都市が発行するTOWN誌などが積まれている。

「おはよ」
「おはようございます」

軽く目を合わせると、上条は麦野に近づいて軽く唇を合わせた。
『朝、顔を合わせたら必ずキスすること』とは、麦野が上条に課した様々な注文のうち1つだ。

「ん、よし。トレーニング?」
「はい、マメにやっとかないと、身体が鈍るんで」
「マッサージとか出来る?」
「ええと、ストレッチぐらいなら…」

上条が躊躇いがちに答えると、麦野は「よしよし…」満足げに頷いた。

「それなら今度やって貰うわ。今日の朝食はアタシが作るから、上条クンはシャワー浴びてらっしゃい」
「え、良いんですか?」

『朝食は基本的に上条担当』も麦野が決めたことだ。

「良いわよ。けっこう臭うから… 汗臭い男は嫌いじゃないけど」
「ありがとうございます」

上条がペコリと頭を下げると、なぜか麦野が不満げに眉を寄せた。

「2人きりの時は我慢するけど、外で一緒に居るときは敬語はやめてね」
「は… あ、あぁ…」

麦野の言葉に、「はい」と言おうとしたのを慌てて言い直す。
しかし、この怖くて美しいお姉さまに、敬語以外のどんな言葉で話していいか分からない。

「えと、タメ口で良いの…?」
「いーのよ、アンタはアタシの彼氏なんだから。デート中に敬語しゃべったらひっぱたくからね」

真顔でそう言われ、上条はそのシーンを想像して「はは…」と苦笑した。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

「うめぇ…」

ダイニングテーブルに並べられたフレンチとトーストをガツガツを頬張る。
上条も1人暮らしが長いので、色々と料理には自信があるつもりだったが、このフレンチトーストは味を再現できそうにない。

「オトコノコって感じねぇ」

ダイニングに頬杖をついた麦野が言う。
彼女はフレッシュジュースとサラダだけだ。

「むぐ… 麦野さん、料理うまいッスね」
「ちょっとハマッた時期があってね、その名残。あんまり他人に作ったことがないから、味が合ってよかったわ」
「…俺の朝食は、きちんと作れてます?」
「サラダをまずく作れる人間が居たら会ってみたいわねー」

麦野がフレッシュジュースを口につける。
遠まわしに及第点を与えられて、上条が密かに胸を撫で下ろした。

「いやぁ、メシマズって、マジで居ますよ? サラダは流石に無いでしょうが、クソ不味い目玉焼きなら食ったこと有ります」

麦野のプレッシャーにだいぶ慣れたのか、上条の口が滑らかに動く。

「はぁ? 目玉焼きをどーやって不味く作んの? あんなの焼くだけじゃん?」
「いやぁ… 『健康に良い菜種油』とか『頭が良くなるカルシウムスパイス』とか、そういう、怪しげな健康サプリメントを入れたがるヤツが居て……」

その時の味を思い出したのか、上条の顔が微妙に歪む。

「加熱時間とかはきっちり計っているから、焼き具合は完璧なのに、肝心の味が駄目駄目っつー、ある意味、芸術品が生まれまして…」
「ふ~ん…」

上条の話を軽く聞いていた麦野が、瞬間、にやっと表情を変える。

「それって、前カノの話?」
「ぶはっ!!」

突然投下された麦野の爆弾発言に、上条が思わず吹き出す。

「…当たりか。やーねぇ、今カノの目の前で、前カノの話するなんて。デリカシー欠けてんじゃない?」
「い、いやいや、彼女とかじゃ全然ないッスよ! 仲の良い女友達っつーか!!」
「でも、初体験って、その娘となんでしょ?」

麦野の鋭い指摘に上条が絶句する。
女のカンは鋭いというが、なぜにたったこれだけの情報でわかるのだろうか?

「……でも、マジ彼女じゃないです。今でも、なんであんな事になったのかよくわかんねーし」

神妙な顔つきになって上条が言う。
『触れて欲しくない』という雰囲気がありありである。
しかし、

「詳しく話しなさい」
「………ハイ」

麦野には逆らえなかった。




 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

「ソイツとは中学からの同級生で、まぁ、腐れ縁みたいな感じの女友達なんですが……」
「へぇ… 女友達ねぇ…」

上条の一言一言に麦野の突っ込みが入る。
なんと言うか、いじめっ子な口調である。

「マジで女友達です! …少なくとも、中学卒業まではずっとそうでした。俺もアイツもそう思っていたはずです」

コイツほんとにニブいんだなー、と麦野はしみじみと思う。

「好意に気付いて無かっただけじゃないの? ホラ、ツンデレとかさ」

まさか、と上条が手を、パタパタ、と振る。

「いやいや、デレとか1回も無かったですよ。いっつもデコ光らせてイライラしてたから、陰で『イラ子』って呼んでたし…」

当時の光景を思い出したのか、上条がウンザリした表情を作る。

「ま、すっげぇウルサイ奴、かつ仕切り魔で、委員長でもないのに、クラス行事は大抵は『イラ子』が仕切っちゃうんです。
 俺にも、あーだこーだと毎日口うるさくて… なんつーか、クラスのオカン? みたいな感じ」
「口うるさいのはアンタだけ?」

暫く思い出すように考え込んで、首を横に振る。

「いや… 『イラ子』に毎日小言を言われてたのは、俺の他に男が2人いたッス。…ソイツらも中学1年からずーっと一緒でした。
 『イラ子』を合わせた4人とも、幼馴染って言って良いのかもしれないです」

声のトーンがわずかに下がる。
前フリが終わり『その時』の事を話すようだ。

「えっと、中学卒業して、卒業パーティーみたいなのを開いたんですよね、その4人で」
「結局、仲が良いんじゃん」
「いや、ホントは男3人で飲む予定だったんだけど、なんでか知らないけど、アイツが後から来たんですよ」
「『イラ子』ちゃんが?」
「……はい」

答えにくそうに上条が頷く。

「なんかわかんねぇけど、男2人のどっちかが呼んだみたいで、強引に参加したっつーか」
「口うるさい娘なのに、『飲んでる』ことを注意しなかったの?」

麦野の突っ込みに、上条が、きょとん、とした表情になった。

「……………そーいや、珍しくアイツ何も言わなかったな。つか、率先してアイツが飲んでた…」
「はーーーーーーン…」

気持ちいいくらい、にやにや、と小馬鹿にした笑みを麦野が浮かべる。

「え… 『それに気付けよ』みたいな感じ?」
「さぁねぇ… それより、さっさと続き」

時間稼ぎに問い詰めたいが、麦野にそう言われては、先を話すしかない。

「それで、4人でぐだぐだ飲んでたんですけど、男2人が先にダウンしちまって、『イラ子』とサシになっちまったんですよ」
「あー、はいはい、予想できるわ」
「ぐぬぬ…」

(このコ、本気で気付かなかったのかしら…?)

ここまで『お膳立て』が揃っているのにソレに気付かないのは、
鈍感を通り越して、精神を洗脳されていたのではないかと、本気でそう思う。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

「はい、続き続き」
「うぅ… そ、それで… 2人で飲んでるうちに、イラ子が、『上条、アンタ童貞…?』とか言い出して…」
「『経験ないなら、わ、私としてみる…ッ!?』」

妙に演技がかった声で麦野が言う。

「な、なんでわかったんスか?」
「むしろ、分からない方がおかしいでしょうが…」

麦野はその『イラ子』に対してほんの少し同情した。
同じ女として、目の前の少年は完全に有罪である。

「それで、ヤッたんだ。上条クン、サイテー、好きでもない娘とセックスするなんてー」
「だ、だってッ! すっげぇ興味あったし、アイツ、脱ぐしッ! おっぱいでけぇし!!」

完全に余裕が無くなって来たのか、上条が狼狽した声で叫ぶ。

「うっさい! もっと先を予想してあげましょうか? ……上手くできなかったんでしょ?」
「そ、そこまで分かりますか……」

上条が完全にうなだれる。

中学卒業したて、しかもアルコールも入っていた。
相手を気遣う余裕など、当時の上条少年には無かった。

「えっと、俺も初めてだったし、『イラ子』も初体験だったみたいで… 挿入までは何とかできたんだけど…」
「アンタでかいもんねぇ。あまりの痛さに、『イラ子』ちゃんが泣き叫んで暴れた、でしょ?」
「……はい。けど、俺、もう止まんなくて。サルみたいに腰振っちゃって」

『昨日の夜もサルだったけどね』とは、流石の麦野も口にしない。

麦野だけが知っているが、上条のセックス時の腰使いは相当激しい。
慣れている自分でなければ、受け入れるのには苦労するだろう。

「気付いた時には、腟内射精してて… そしたら、『イラ子』が顔をくしゃくしゃにして泣いてて…」

話しているうちに、当時の情景が思い浮かんでくる。

春にしては蒸し暑かった室内、隣室で眠る男2人のやけにはっきりとしたイビキ、

そして、股間を真っ赤に染めて、静かにむせび泣く『イラ子』……

「とんでもない事したって気付いて、慌ててフォロー入れようとしたんですけど…」

あの時、涙で顔を歪めた彼女は、こう言った。

『上条当麻ッ!! あんたサイテーッ!! 2度と私に近寄らないでッ』

あの声と表情は、中々忘れることができない。

「そう言うと、『イラ子』はそのまま帰りました… 俺は、ワケわからなくて… 誘ったのはアイツの方なのに…」
「アンタ、ホント、サイテー」
「ぐっ…」

吐き捨てるように麦野が呟き、上条が言葉に詰まる。

上条も、自分が『駄目な事』をしたことは分かっていた。
しかし、そうなってしまった『過程』を理解していないから、どう行動して良いのか分からなかったのだ。

「でーぇ、それからどうしたの?」
「翌日謝りに行ったんですけど、会ってくれなくて…」
「あったりまえだろーが、ボケ」

それで当然、と麦野が言い捨てる。

「翌日とか馬鹿じゃないの? 一晩泣いた後の顔なんて、見せたくないに決まってるじゃない」
「そ、そうか…」

初めて気付いた、という風に上条が冷や汗付きで納得する。

(意識的には気遣いができるけど、無意識的には気遣いできない子なのね、上条クンは…)

心の中で嘆息する。

しかし、少なくとも2人の女性から一方的な好意を寄せられていたことになる。
このツンツン頭には、女を惹きつける不思議な魅力があるのだ。




 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

「…それで、その娘とは縁が切れた、と…」
「いえ… 今もクラスメイトッスけど……」
「はぁ!?」

珍しく仰天した表情で、麦野が素っ頓狂な声を出す。

「クラスメイト!? なんでッ!?」
「『イラ子』、成績は良かったはずですけど、なぜか俺とおんなじ高校に入学したんです」
「なんつー健気な……」

額に手を当てて麦野が呟く。

「…気まずかったでしょ?」
「そりゃもう! 春休みはメールもガン無視でしたから、クラスでばったり会って、すっげぇビックリしました」

しかし、クラスで再開した『イラ子』は、「いつも通り」に上条に接したのだ。

「俺、ビックリして何も言えなかったら、イラ子が『上条! 入学式の手順は把握しているの!?』って、突然突っかかってきて…」
「ごーいんに関係を元に戻した、と」

(そこまで行動力あるのに、なんで告白しねぇんだよ、その馬鹿は)

気付かなかった上条も上条だが、その『イラ子』も相当に馬鹿だと思う。

「それから?」
「それからは、中学と一緒っつーか、普通にクラスメイトです。 …流石に俺から、あの時のことは話題にできなくって」
「へたれ」
「ぐっ…」
「…けど、まぁ、しゃーないか」

麦野が呆れ顔で嘆息する。

(こんな無神経な朴念仁に釣られたとは……)

というよりも、常盤台の超電磁砲といい、話に出てきた『イラ子』といい、
極めて身近に彼女候補が居ながら、どうして上条が自分に声を掛けてきたのかが気になった。

「ねぇ、もし、その『イラ子』ちゃんから告白されたらどーすんの?」

極めて軽く、しかし、内心ひどく真剣に麦野が尋ねる。
しかし、上条はあっさりとその質問に答えた。

「そりゃ、麦野さんが居るんだからきっぱり断ります。二股とかありえないです」
「あ… そ、そう…」

悩む素振りの無い上条の返答に、麦野が珍しく狼狽する。
もちろん、期待していた通りの答えだが、ここまで素早く言い切られると、妙にドキドキしてしまう。

「俺、麦野さんのこと、好きですから」
「わ、分かってるわよ!」

さらに、上条の無意識な追撃に声を荒げる。
そして、なんとなくだが、上条について1つ理解した。

(この子、善意に裏が無いのね… だから、他人をよく惹きつけるけど、見返りを期待しないから、他人の好意に気がつかない、か……)

不本意ながら嬉しいと思ってしまう。
そして、顔も名前も知らない『イラ子』に対して、優越感と対抗心とが複雑に混ざり合った、微妙な感情を抱いた。


 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

浜面は麦野の事をこう評する。曰く、

「テレビゲームをノーミスクリアできないと気が済まず、少しでもミスがあったら怒り狂って、たとえエンディングを見ても納得しない人間。
 それを帳消しにするためにハイスコアを更新して満足するタイプ」と。

学園都市の頂点に君臨する超能力者(レベル5)であり、類稀なる美貌とほぼ完璧な肢体を持つ麦野は、あらゆる面で『勝ち組』と言って良い人間である。

しかし、現実の麦野は、『アイテム』という学園都市の暗部に所属し、イリーガルな非日常にその身を置いている。
どんな言葉で飾っても、所詮は闇の掃除屋に過ぎない。
同じ超能力者である御坂美琴のように、大多数の人間から憧憬を受けたり、賞賛されたりすることは、決して無いのだ。

正道を歩めない代償を、麦野沈利は常に欲している。

それは同じ超能力者(レベル5)への歪んだ対抗心や、一般的でない過大な浪費、所有物・縄張りへの異常な執着心、
そして、依存とも思えるほどの異性との肉体関係。

麦野の気性、境遇をある程度理解している他の『アイテム』メンバーは、だから、麦野の奔放な性生活について何も言わない。
フレンダが上条の存在を歓迎したのも、それが麦野の精神安定の一助になると喜んだからだ。

ゆえに、上条の真っ直ぐな好意を持て余す。

麦野沈利は、「好きだ」という言葉の裏づけを、別の方法で求めてしまうのだ。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

「……補習まではまだ時間があるわね」
「え、はい…」

ちらりと壁の時計を見る。
時計の針は8時過ぎ、『一回戦』ぐらいはできそうだ。

「話しにくいことを話してくれたお礼、してあげる」

妖艶に微笑んで上条が座る椅子の前まで行くと、膝をストンと落としてしゃがむ。

「ちゃーんと洗ったの? すっごい匂いよ…」

上条の股間に鼻を近づけて麦野が言う。
無論、これは麦野の冗談なのだが、さっき「汗臭い」と言われたばかりの上条は動揺する。

「も、もう一回シャワー浴びて…!」
「ばーか。オスの匂いがそう簡単に落ちるかってーの」

トランクスごと麦野が上条の短パンを引きずりおろすと、まだ萎えた上条のペニスが顔を出した。

「こぉら、なんで萎えてんのよ…!」
「無茶言わないで下さいよ…」

たはは、と上条が苦笑する。
そんな上条を、チラリ、と見上げると、麦野は手を伸ばしてサイドボードからベビーローションを取り出した。

「仕方が無いわね、おねーさんが勃たせてあげる…」

タンクトップを脱ぎ捨て、就寝用のスポーツブラを外す。
形の良い豊乳が露わになると、麦野は乳の谷間にベビーローションを垂らした。

「……期待しているなら、ワンと吠えること」
「ワンッ!!」
「ぷっ、はえーよ、おい…」

ニヤニヤ楽しそうに笑うと、麦野は上条のペニスを乳の谷間に挟み込んだ。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


「うっわ…」

まだ柔らかいペニスが、もっと柔らかいゴムマリにサンドイッチされる。
ベビーローションの潤滑を上手く使って、麦野は両腕で挟んだ豊乳をリズムカルに動かした。

ぬちょ、ぬちょ、ぬちょ……

肉のプレスに攪拌されて、上条のペニスが一気に硬度を増す。
最初は完全に乳の谷間に隠れていたペニスが、次第にその存在感を増し、ついには谷間からひょっこりと亀頭を覗かせた。

「すっごい膨張率よねぇ… 倍以上になってんじゃん」
「や、これで勃たない男なんていませんよ… すっげぇ、気持ち良い…」
「ふふん、とーぜん」

誇らしげに言うと、麦野は首を思いっきり前に倒して、そのまま上条のペニスにかぶりついた。

「うおッ!!」
「ぢゅ、ぢゅ、ぢゅぅ~~~」

上条のペニスは平均よりはるかに長大だが、それでも流石に先端を咥えるのがやっとだ。
それなのに、亀頭の先をしゃぶっているだけで、上条はペニス全体に快感が広がるのを感じた。

「すご…」

もう麦野とは何度となく肌を重ねているが、そのたびに麦野のテクニックに翻弄されてしまう。
いったいどれだけの引き出しを持っているのだろう。

「ぢゅぱ… ふぅ、上条クンの大きいから、先っちょ咥えるだけでも大変ね…」
「…でかいと、やっぱ嫌ですか?」

密かに気にしていることを問う。
だが、麦野は笑ってそれに答えた。

「太くて長くて、そして固ーいおチンチンが私は好きよ。あ、ユルマンってわけじゃねーからな」
「麦野さんがユルマンとか、何の冗談ですか」

上条も笑う。
実際、麦野に挿入して10分持ったことがない。

「麦野さんのオマンコはサイコーっす」
「くっく… ようやく下品な台詞が出てくるようになったじゃん」

そう言うと、麦野は仕上げをするようにダイナミックにおっぱいを躍らせて、上条のペニスをしごき上げた。
そして、スッ、と立ち上がると、ベビーローションを己の秘所に塗りこんだ。

「濡らす暇がないから、ズルしてごめんね」
「そんな… 全然平気ですよ…!」

珍しく殊勝な態度の麦野に、思わず胸が、ドキッ、と高鳴る。
外見は『綺麗なお姉さん』なのだから、はにかむような笑みがとてもよく似合う。

(…やべっ!)

上条のペニスに、限界以上の血液が集中する。

「うそ… またおっきくなった!? また泣かされちゃうわね、私…」

麦野が興奮を隠しきれない声で呟くと、抱きつくように座った上条の腰に跨った。

「いちいち許可いらないから、腟内にだしなさいよ… ねッ!!」

ずぶずぶずぶ……!!

長大なペニスが、小陰唇を巻き込みながら、麦野の秘唇に突き刺さる。

早すぎず、遅すぎず… 
ペニスが膣道を押し広げる感触を楽しむようにして、麦野が丁寧に腰を降ろす。

(デカ… やっぱ、このチンポ、最高だわ……)

麦野の殿部が上条の太ももに着陸すると、麦野は軽く痙攣して「あああぁぁぁはぁぁぁ……」と長い長い吐息を漏らした。

「どこまで挿入いってるの、コレ…? 口から飛び出そうよ…」

麦野が慈しむように下腹部を撫ぜる。

「麦野さん…」
「ん……」

2人の視線が交錯し、自然と舌を絡めあう。
互いに貪るように口唇を吸い合うと、たまらない、とった風に麦野が身体をくねらす。

コツッ、ゴツッ!

「……ッ!! んあっ!!」

麦野の動きに合わせて上条が軽く腰を突き上げると、タイミング良く麦野の子宮を亀頭がノックした。
麦野はひどく感じているようで、上条は秘所の体奥から熱い愛液が降りてくるのを感じた。

「やば、やば…ッ!」

不安定な男の腰の上では、一度バランスを崩すと中々体勢を整えることができない。
ペニスと秘唇でつながり、長い両脚を左右に広げた姿は、まるでヤジロベーのようだ。

「あぅ、あぁ… ちょ、ちょっとタイム…!」

必死に足を伸ばして床の支持を得ようとするが、つま先がかするばかりで上手く行かない。
却って、その足掻きがさらに体奥をペニスで抉る結果となり、麦野は背筋が痺れる快楽に口唇を噛んで堪えた。

「か、上条クン… そ、そろそろ…」
「…麦野さん、すいません」

一言謝ると、上条は麦野の背中と殿部に手を回して、優しく、しかししっかりと麦野の身体を把持した。

「え、ちょっと!」
「よっ、と!!」

鍛え上げた背筋と腹筋、下肢筋をフルに使って、慎重に慎重に麦野を持ち上げる。
いわゆる、駅弁スタイルだ。

「きゃッ!」

いきなり持ち上げられた麦野が、落下するのではないかという本能的な恐怖を感じ、悲鳴を上げて上条に抱きつく。
ところが、両手を首の後ろに回し、逞しい胸板に顔を密着させると、なぜか混乱した心が一瞬静まった。

「あ…」

背中とお尻に回された手が暖かい。
自分の身体がオトコに取り込まれたような錯覚を得た麦野は、無意識のうちに両脚を上条の腰に絡ませ、しっかりと上条を大好きホールドした。

「…動きますッ!!」

完全にイスから立ち上がった上条が、麦野を落とさないように細心の注意を払って身体をゆする。

麦野は女性の中でも身長が高く、さらに豊満であるがゆえにそれなりに体重もある。
いくら全身を鍛え上げてる上条でも、駅弁スタイルはかなりの重労働だ。

「あッ、あッ、あッ、上条クン、凄いッ!! 奥、奥にきてるッ! 私ッ、融けちゃう!!」

だが、自分の体重の大部分を結合部で受け、しかも小刻みに体奥を突かれる麦野はたまったものではなかった。
上条が腰をゆするたびに極彩色の火花が脳ではじけ、そのたびに膣と身体とが痙攣する。

(コレッ! 本気でヤバイ…ッ!)

もう、何回イッたか覚えていない。
体奥を何度も突かれて、子宮が完全に降りてきているのが分かる。

(今、腟内射精されたら……ッ!?)

きっと、とんでもないことになる。

「あッ、あッ、かみ、じょうクン… ナカ、ナカは…ッ!」
「くぅ、はい… 腟内に出しますッ!!」
「ち、ちがっ、そうじゃなくてッ! あ、ダメッ、ダメッ!!」

保っていた余裕が全部吹き飛ぶ。

「出しますッ!!」
「だめーーーーーーーッ!!」

ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ!!

「ああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」

麦野の子宮に、マグマのように熱いザーメンが叩きつけられる。
同時に、脳髄が融け堕ちるかのような快楽が突き刺さる。

「ゃぁ… らめぇ……」

信じられないオンナの多幸感と、オトコに隷属する暗い満足感が、麦野を優しく包み込む。

(気持ちいい……)

煩わしい現実の一切合財を今だけは忘れて、麦野は全身を脱力させた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


「うおっと!!」

背中に回されていた麦野の手が一瞬で解け、ダラン、と力無く垂れ下がる。
大好きホールドしていた脚も力を失い、上条は危うく麦野を落としそうになった。

「ええと…」

両腕の腕力だけで麦野を保持すると、上条はとりあえずリビングのソファに麦野を寝かせた。
仰向けに寝かされた麦野は、いまだ浅い痙攣を繰り返していて、視線は宙を彷徨い、口角からは涎が零れ落ちている。

「や、やりすぎたかな…?」

上条は麦野の惨状を見て後悔したが、後の祭りである。

(よくよく考えてみたら、これって『イラ子』の時とおんなじ状況じゃ…!)

上条の背中を冷たい汗が流れる。
『イラ子』と違って麦野は超能力者(レベル5)。
しかも、これまでの付き合いから分かる通り、苛烈な性格の持ち主だ。

(ふぉ、フォローしないと殺されるかも…!)

上条があたふたしていると、不意に麦野がもぞりと動いた。

「ん… んぁ… あーー…」

軽く頭を振って目の焦点を合わせると、首を廻らせて上条を発見する。
緩慢な動作で起きようとするが、

「あ、ら…? げ、腰が抜けてら…」

下半身が脱力しきっている様で、仕方なく麦野は半身を起こした状態で上条を手招きした。

「上条クン、来て」
「は、はいッ!!」

何をされるのか分からないが、「とりあえずここは従っとけ」という本能の囁きに従い、上条は麦野のそばに立った。

「えっと、麦野さんッ、す、すいません、やりすぎちゃって…!」
「うん? なに言ってんの? ほら、綺麗にしてあげるから、おチンチン出しなさい」

麦野はそう言うと、上条の股間に口をよせ、一回の射精で少し硬度を下げたペニスを頬張った。

ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ…

愛液にまみれた竿や玉袋も丁寧に舐める。
尿道に残っていた精液も残らず吸い上げて飲み込む。

「はぁ…」

上条が思わず溜息を吐く。
麦野の本気フェラとは全く違う、別の快楽がそこにあった。

「ちゅぱ… まぁ、こんなもんかな?」

御掃除フェラを終えると、麦野は、ちょいちょい、と手で合図をして上条を屈ませた。
てっきりキスをするかと上条が口を寄せると、不意に麦野が上条の首筋に吸いついた。

「えっ!? なんで!?」

驚く上条を尻目に、麦野は思いっきり「ぢゅぅぅぅ!!」と首筋を吸引する。

ほどなく麦野が口唇を離すと、浅黒く焼けた上条の肌でもはっきりと分かるほど、
真っ赤なキスマークが上条の首に刻まれていた。

「…あー」

麦野の行為にやっとで気付いた上条は、キスマークを手で触れて「やられたー」という表情をする。

「そろそろ補習でしょ? アタシのことは気にしないで行ってらっしゃい。あと、当然だけど、隠しちゃダメだからね」

悪戯っぽい笑みで言う。
上条当麻は、嬉しくもあり、誇らしくもあり、
そしてやっぱり大半は恥ずかしさで、顔を赤く染めた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


「お、終わった…」

正午ちょうど。
ギリギリで駆け込んだ補習は、表面上は何事も無く終了した。

ただ、授業をすべく教室に入ってきたロリロリしぃ担任教師が、上条を見たとたん大仏の様に無表情になったり、
土御門元春が無言で(しかし頭に怒マークをつけて)ケータイを高速タッチしたり、
その他大勢の落ち零れクラスメイトから「裏切り者」呼ばわりされたりはしたが、

おおむね、混乱も無く終わった。

「恥ずかしくて死にそうだ……」

その混乱の原因は、当然、麦野がつけた首筋のキスマークのせいである。

クラスメイトからの追求は何とか避けたが、担任のロリ教師からは職員室への出頭を命ぜられてしまった。
当然、シラを切るつもりだが、今日も午後から麦野とお買い物の予定なので、なんとか短時間で済ませたいところだ。

「…失礼しまーす」

適当に頭を下げて職員室に入り、担任教師の机を目指す。
すると、そこには先客が居た。

「「あ…」」

上条と先客は、同時に互いを発見し、そして、同時に同じ声を上げた。

背中まで伸びるロングの黒髪、利発で意思の強そうな瞳、さらさらのおでこ、スカートのポケットから覗く健康食品の袋…

「吹寄… お前なんで…?」
「……居たら悪いの? 上条当麻……!」

吹寄制理、通称『イラ子』。

上条当麻の『初体験』の相手がそこに居た。




 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「…なんでお前がここに居るんだよ?」
「別に居たっていいじゃない…?」

教務机に向かって座る、担任の月詠子萌教諭を挟んで正対、
ぶっきらぼうに訊く上条に、同じぐらい不機嫌そうに吹寄が答える。

「あ、上条ちゃん、ちょうど良いところに来ましたね! たった今、吹寄ちゃんに聞いたんですけど、引越ししたって本当ですか?」

キィ、とイスを軋ませ振り向いた外見年齢約10歳のロリロリしぃ教師が、上条を見上げて質問口調で言う。

「えっと、え… 吹寄から?」
「昨日、貴様のアパートに『たまたま』立ち寄ったら、もぬけのカラだったのを発見したのよ! 隣室の土御門元春に聞いたら、引越したって言うから…」
「お前… なんでわざわざ俺んちまで来たんだよ…」
「た、たまたまって言ってるじゃない! たまたまよッ!! …な、なによその目は!?」

妙に取り乱す吹寄に、上条が疑惑の目を向ける。

「いや… たまたまでどーして…」
「う、疑ってるの!? そ、そんな風に思うのは、体内のイオンバランスが崩れているからよ! ホラ、この『3秒でイオンチャージ! 塩味風わたあめ』を食べなさい!」
「い、いらねーよ!!」

スカートのポケットから、駄菓子風の栄養食品(サプリメント)を取り出そうとする吹寄をあわてて制止する。

「はいはい、吹寄ちゃんもそれくらいにするですよー。それで、どうなんですか上条ちゃん?」

パンパン、と手を叩いて同級生2人の漫才を止めると、月詠教諭は上条に詰問した。

「は、はい… 親父が知り合いの不動産屋から紹介されたみたいで… 向こうも急に決まったみたいで、学校への連絡が後々になっちゃって… 親父から連絡来ていませんか?」

これも麦野(正確には麦野の指示を受けた絹旗)が演出した偽装工作だ。
複数のルートを最終的に1つのルートにするやり方で、父親である上条刀夜名義での封書が届くことになっている。

「来てはいますがー、きちんと本人からも確認を取らねばと思ったんですよー。住所とか経緯とか、しっかり先生に教えてください」
「はぁ…」

少し腑に落ちないものを感じながら、上条は(スパルタ指導で)仕込まれた嘘をスラスラと語った。

「………っていうことで、尾立荘って所に住んでます。やっぱ、家庭訪問とかするんですか?」
「しますよー、と言いたいところですが、ちょっと今は先生が忙しいので、今は未定ですねー」

手元のメモ帳を、ふむふむ、と確認しながら月詠教諭は言う。

「分かりました、間違いないようですね。…そういうことですので、吹寄ちゃん、上条ちゃん家の確認お願いしますね」
「「はぁ!?」」

上条と吹寄が同時に声を上げる。

「ど、どうして私が…」
「どうしてコイツと…」

互いに指を突き付け合いながら2人が言う。

「今言った通り、先生忙しいですからー。緊急で特別補習のスケジュールを組まなきゃならないんですよー」

今日は飲みの約束があったのに残業なんですよー…と、ぶつぶつ呟いて、月詠教諭は2人にA4サイズの特別なシートを手渡した。

半透明なプラスチックの下敷きのようなソレは、特殊な刺激を与えると、向けた風景を画像として表示・保存する、いわば『インスタント撮影デバイス』だ。
写真と違ってサイズも大きいし、強度も高いのでファイリングがし易いという利点がある。

これで、上条の新アパートを撮って来い、ということらしかった。

「撮ったら、上条ちゃんが明日の補習のときに持ってきてください。それじゃ、お願いしますねー」

話は終わりとばかりに、月詠教諭は2人に背を向けて、机の上のノートPCに向かった。
上条と吹寄は、ぎこちなく目線を交わすと、不承不承といった感で「はい…」と了承した。

「それじゃ、失礼します…」

麦野にどう説明しよう… と、そう考えながら退出する上条に、月詠教諭が振り向かずに声をかえた。

「そうそう。上条ちゃん、不純異性交遊はほどほどにしてくださいねー」
「…………ハイ」

背中に冷や汗だらだらで上条は答えた。




 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「上条当麻……ッ!!」

職員室を出た瞬間、吹寄がドスの効いた声で上条を呼ぶ。

「不純異性交遊ってどういう事よッ!?」
「子萌先生のジョークだよ!」
「き、貴様ッ! あの夜のことを月詠先生に話したんじゃないでしょうね!?」

あ、そっちか… と上条は肩透かしを食らった気分になる。
そして、ひょんなことから絶好のチャンスが巡って来た事に気付いた。

「…話してねーよ。それと、あのさ、吹寄……」
「な、なによ…?」

突然神妙な顔になった上条にドギマギしながら吹寄が答える。

「あの夜のこと、お前を傷つけちまって、マジでごめん。ずっと謝りたかった。この通りだ!」
「へっ… えぇぇ!?」

真剣に吹寄に頭を下げる。

突然の謝罪に吹寄がたじろぐ。

「ごめん、吹寄……」
「そ、そ、そ、そんなこと突然言われたって…!」

可愛いぐらいに狼狽した吹寄が、わたわた、と両手で空気を掻きまわす。
しかし、一向に頭を上げない上条に「うぅぅぅぅぅぅぅ……!」と唸り声を上げると、やおら、腕組みをして顔を横に向けた。

「……べ、別に怒ってないからッ! に、逃げちゃったのは私だし……」
「……そうなのか?」
「そ、そうよ!!」

ぷい、と顔を横に向けたまま吹寄が言う。

その顔は加熱された薬缶のように赤い。

「そっか…… よかった……」

ホッとした上条が顔を上げる。

「あのさ… し、心配してくれてたの……?」
「そりゃそうだろ? お前泣いてたし…」
「わ、忘れてッ! そういうのは全部忘れてッ!!」
「ああ、そうだな… あの夜のことは、全部…」
「だ、駄目ッ!! あの夜のことは忘れないでッ!!」
「…どっちだよ?」

そう聞かれても、吹寄だって困るのだ。

吹寄制理は上条当麻のことが、現在進行形で好きだ。
意識し始めた切欠はあまり思い出したくないが、好きだと自覚した時のことは良く覚えている。

確か、初めて中学2年の『一端覧祭』の実行委員に立候補したときだ。
あの時に色々と邪魔されたり、逆に手伝ったりしてもらって、吹寄制理は恋に落ちたのだ。

それからずっと、恋の花を育てに育て、ついに結実したと思ったのがあの夜の出来事だ。
土御門元春ともう1人の悪友にノセられて、アルコールの手助けもあって処女を捧げることに成功した。
…本当ならば、セックスの前後に告白して、恋人同士になるはずだったのだが。

(あんまり痛くて、逃げちゃって… しかも、ショックで数日寝込んじゃって… 私の方も告白するチャンスを逃しちゃって…)

吹寄にとっても、あの夜は不本意な結果なのだ。
しかし、好きな人に処女を捧げた記念の夜でもある。
忘れたくはないし、忘れて欲しくはない。

「……忘れないで。できれば、覚えていて」
「……ああ」

神妙な顔で上条が吹寄を見つめて頷く。

恋する乙女は、それだけで心の中をハート色に染まる。

(心配… してくれてたんだ……)

幸せで胸がいっぱいになる。

絶対に嫌われたと思っていたから、上条の言葉は何よりも嬉しい。

(脈ある… まだ脈はある…!!)

夏休みは始まったばかり、しかも、これからこの男は自分と行動を共にする。

いや、それどころか、まだクラスの誰も知らない新居に一緒に行くのだ。

(これ、チャンスじゃん… あたし、今、チャンスじゃん…!)

ニヤケそうになる顔を必死で抑えて、吹寄はいつもの不機嫌な表情を作って言った。

「それじゃ、この話は終わりにして、とっとと上条の家に行きましょう。遠いの?」
「えっと、歩いて15分くらいだけど… ちょっと待ってくれ、予定入れてたんで、遅くなるって電話入れるから」
「ん、わかった、早くしなさいよね」

密かに幸福度がマックス振り切れそうな吹寄は、上条の連絡先まで気が回ることがなかった。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「…ん?」

化粧台に置いた携帯が音を立てる。
午後に備えた化粧に余念のない麦野が、着信音を聞いて軽く眉を細める。

「上条クンに設定した『お仕事用』の着信音…? なんかトラブルにでも巻き込まれたのかしら?」

アイテムのメンバーは、個々に様々な電話番号を持っている。
それは、様々な偽装を円滑に行うための小細工であり、今回の着信番号の意味は「カバーストーリーに小トラブル」というものだ。

「…はい、アタシよ」
『あ、ども、俺です…』

この回線では、名詞はすべて代名詞に代えることとなっている。

『俺の部屋、やっぱり学校からつっこみ入りました。今から、同級生の女子と確認してきます』
「あーあ、やっぱりか… で、どれくらい?」
『まぁ、すぐすぐ、といったところっス』

『すぐ』1回で30分。
つまり、今回は1時間ぐらいということだ。

「了解、じゃ、あとは適当に…」

そこまで言って、麦野の脳裏に1つの考えが閃く。

「…ねぇ、おおよそ理解したから、『もう一回かけて』」
『えっ? あ、はい。了解です…』

麦野の意図を把握した上条が一旦電話を切ると、すぐに―今度は通常回線で―電話が掛かってきた。

「ねぇ、その同級生って、『イラ子』ちゃん?」
『……麦野さんって、実は精神系の能力者じゃないですか?』

電話の向こうで上条が絶句する。

「うっさい、ちっ、『同級生の女子』なんて呼び方するからよ。ちょっと、余計な事言って無いでしょうね!?」

電話を通して、上条が躊躇う雰囲気が伝わってきた。

『えっと… 別に変な事は言ってないっスけど… 単にこの前の夜のことを謝っただけです、けど…?』
「謝った!? 『この前の夜はごめん、心配してた』って!?」
『は、はい……』

麦野の剣幕に上条がたじろぐ。

「馬鹿ッ、アホッ、間抜けッ! アンタ、また地雷踏んだわよ!」
『えっ、な、なんでッスか?』

(この男は本気でタチ悪いわ……)

思わず天井を仰ぎ見て、麦野が溜息を吐く。

「……試しに、その子に『おい、お前、顔がニヤケてるぞ』って言ってみなさい。不意打ちで」



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「えっ… は、はぁ、ワカリマシタ…」

引きつった笑みを浮かべて上条が吹寄の方を向く。
吹寄せはおっぱいを支えるように腕組みをして、そっぽを向いている。

「…おい」
「なによ?」
「お前、顔がニヤケてるぞ?」
「………ふえ!?」

言われた吹寄が、可愛いくらいに狼狽して、さわさわ、と自分の頬を撫でまくる。

「う、嘘ッ!」

吹寄の表情がどんどんと崩れ、泣いているような、笑っているような、不思議な表情になる。

「見ないでッ! 見ないで上条!!」

とうとう、両手で顔を覆って吹寄がしゃがみこむ。
膝小僧、おっぱい、両手の、見事なトーテムポールが出来上がった。

「お、おい……」

あまりに分かり易すぎる反応に、上条は自分が地雷を踏んだことをはっきり自覚した。



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「どう?」
『…えっと、なんか、しゃがんで震えてます』

上条の声には力が無い。

「はぁ… ちょっとは想像しなさいよ。処女を捧げた好きな男から、『心配した』なんて声を掛けられたら、そりゃ、恋する乙女は舞い上がっちゃうでしょうが」

諦めた口調で麦野が話す。

(とりあえず、今日の夜はお仕置き確定ね...)

『すいません…』
「…早めに合流するわよ。部屋で待っていなさい」
『はい…』

電話を切って、また一度溜息を吐く。

「ったく! あの男わ~~~」

腹立ちまぎれに、携帯をベッドに放り投げる。
上条の鈍感さにも腹が立つが、夏休みだからと接触の可能性を考えなかった自分にも腹が立つ。

「……トドメ、刺しとくか」

物騒な台詞を呟くと、麦野は暫く額に手を当てて何かを考え…
今まで施した化粧を全部落とし始めた。



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「着いた、けど……」

学校から歩いて数十分。
夏の日差しの下、2人は何の変哲もない鉄筋2階建てのアパートの前に居た。

上条がアパートを指差すと、長髪で表情を隠した吹寄が、無言で『風景撮影デバイス』を取り出す。

「……こ、この風景で良い?」
「ん? ああ…

吹寄がデバイスを構えて言うと、上条が「どれどれ…」と横からデバイスを覗き込む。
自然と上条と吹寄の顔と顔が近づくが、馬鹿は気付かない。

「………ゴクッ」
「えーと、俺の部屋があそこだから… ああ、この角度でいいぜ」
「じゃ、じゃあ、撮るからこれ持っててよ…」

デバイスを上条に持たせると、吹寄が刷毛状のトリガーを取り出す。

「動かないでね…」

デバイスを構える上条の背後から、胸を背中に押し付けるようにして上条に密着する。
ボリューミーな巨乳が、ぐにゃり、と上条の背中で押し潰される。

「ふ、吹寄…!」
「う、動くなって言ってるでしょ!」

デバイスの撮影は、特殊線維でできた刷毛で裏側をなぞることで完遂される。
そのため、それほど大きくない刷毛でA4サイズのデバイス全体をなぞる必要があり、
吹寄は小刻みに身体を動かしながら刷毛を滑らせる。

当然、動きに合わせて吹寄のでっぱいが、打ち粉の上で職人にこねられるうどん生地のように、ダイナミックにその形を変える。

(こ、こいつ… わざとやってるんじゃねーだろーな…!?)

上条は、どうしようも無く股間に沸き起こるオスの本能を必死で抑えた。


吹寄制理の行動は勿論わざとである。

(あたしには、女としての可愛げがない…!)

曰く、『美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女』。
さらに、幼馴染から『イラ子』と呼ばれるほど吹寄は口うるさく怒りっぽい。
それは吹寄も理解していることで、しかし、同時に矯正は難しいとも感じていた。
考えるより先に、口や体が動いてしまうのだ。

(だから、肉体で釣るしかッ!)

吹寄制理はかなりスタイルが良い。
女子にしては高身長だし、足もスラリと長い。
おっぱいは、トップが3桁に届こうかというバストサイズで(もちろん、アンダーとの落差も相当なロケットおっぱいである)、
陰でクラスメイト男子から『メロンっぱい』と呼ばれるほどの爆乳である。

なんと言うことか、あの麦野沈利よりも巨乳なのだ。

(一度セックスした仲なんだし、もう一度襲われて、既成事実を作り直してやる…ッ!!)

吹寄制理、完全に肉食系女子の心理である。

「か、上条、ずれちゃったからやり直すわね…」

何がずれたのか上条からは判別できないが、吹寄は刷毛を裏返してせっかくデバイスに写した風景を消去していく。

「は、早めに済ませてくれ…」

鈍感な上条は、当然のように吹寄のボディランゲージを解することができない。
しかし、

(鈍感なのは覚悟の上。今は出来るだけ興奮させて、家に上げてもらってからが勝負よ…!)

妄想と願望と、恋慕と情愛が暴走した吹寄の、過激なスキンシップはそれから10分以上続いた。




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「こ、こんなモノかしら…?」

都合3回。デバイスの撮影が終わり、ようやく吹寄が上条との密着を解くと、
上条の背中のワイシャツには、見事に顔並みの大きさの汗の染みが2つ出来上がっていた。

「はー、はー、お、終わったか…?」

直立不動で五感から伝わる吹寄の『オンナの体』に耐えた上条が、ようやく緊張を解いて大きく息を吐く。

「じゃ、じゃあ、用も済んだだろ? 今から会う人が居るから……」
「の、喉が渇いたわね! 上条当麻! 貴様は協力したクラスメイトに茶もださないの!?」
「いや、そりゃ、出すのが当然だけど…!」

背中(吹寄のおっぱいが当たってなかった部分)に冷たい汗が流れる。

上条の性格では、「世話になったな、上がって冷たいの飲んでけよ」と言うのが普通である。
しかし、まごまごしていると、怖いお姉さんがここにやってきてしまう。

(ビリビリの二の舞だけは避けないとッ!)

少し恋慕を見せた御坂美琴ですら、あそこまで悪趣味な手でぶちのめした麦野である。

一度手を出したことを告白している吹寄には、どんな手段を弄するか想像もつかない。

脳裏に、御坂美琴の号泣した姿と、あの夜の吹寄が重なる。
さすがに、幼馴染のあんな姿は、もう見たくない。

「…なぁ、吹寄」
「な、何よ、急に真面目な顔になって… ドキッとするじゃない!」

上条のやけに真剣な顔に、吹寄の顔が、カーッ、と紅潮する。
ついでに、

(き、来たッ! 釣れたっ!)

と、いらん勘違いもする。

「俺さ、お前のこと、もう傷つけたく無いと思ってるんだ…」
「よ、ようやく理解したの? 貴様は、もっとあたしに優しくすべきよ!(良い流れ!)」

「一応、俺、けっこう気を使ってるつもりなんだぜ?」
「それなら、もっと行動に示すべきでしょ!(さぁ、早く家に上げなさい!)

「行動、か… でも、強引にすると、またお前怒るだろ?」
「し、してみないとわからないじゃない!(今度は絶対に逃げないから!)」

「そうなのか? 強引にしちゃって良いのか?」
「そうよ! やってみれば良いのよ(よっしゃ、既成事実再ゲットぉぉぉ!!)」
「そうか……」

何かを決心したかのように上条が呟き、姿勢を正して吹寄の正面に立つ。

「吹寄…!」
「ひゃ、ひゃい!」

思わず吹寄の声が裏返る。
『メロンっぱい』の奥の心臓が、ドクドクと鼓動を限界まで速める。

(も、もしかして、ここで告白までいっちゃうのッ!?)

乙女煩悩が思考を爆発的に加速させ、コーナーを曲がりきれずにコースアウトする。

「上条… 良いよ……」
「ああ、吹寄……!」

何が良いのか良くわからないが、上条当麻は覚悟を決める。
そして、勢いよく身体を動かし、

ガバッ!!

「……ッ!! ……………ん?」

上条の動きに思わず目を瞑った吹寄が、恐る恐る開眼すると、

「………へ?」

上条当麻は、見事に腰を90°曲げた、深々としたお辞儀をしていた。

「吹寄さん! 今日のところは帰ってください!!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

瞬間的にこみ上げた怒りに任せて、吹寄が、サラサラおでこのヘッドバットを上条の後頭部に叩き込む。
ゴチンッ!! と、非常に良い音がして、上条が声も上げれずに地面に前のめりに倒れた。

「いったぁぁぁ…!」

もちろん、吹寄もただでは済まず、両手で額を押さえて苦悶する。
そうして、2人でアパート前で悶絶していると、

「…なーにしてんの?」

上条が、今、一番聞きたくない声がした。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「………ハイィィ!!」

その声を聞いて、きっかり3秒後に、上条がまるでバネ仕掛けのように跳ね起きる。

「あ、あのッ! これはその、アレがソレでコレがアレで………はい?」

上条が支離滅裂な言葉を口走ったあと、声の持ち主―麦野―を見て困惑した声を出す。

「そんなに慌てなくてもいいじゃない。私がビックリしちゃうわ」
「あ、ああ… え…?」

上条当麻が絶句する。
その原因はたった一つだ。

「麦野、さん… そのカッコ……」
「あら、何か不思議なことでもあるの?」

麦野沈利は、紺色のブレザーに、同色のスカート姿、化粧も控えめのナチュラルメイク、
つまりは、女子高生ルックだったのだ……!

「あの… 貴女、誰ですか…!?」

麦野の存在感に圧倒されつつも、吹寄が詰問する。
しかし、麦野はその質問自体には答えずに、赤くなった顔よりさらに赤い吹寄せのおでこを、さわさわと撫ぜた。

「女の子が暴力は駄目でしょ。赤くなってるから、家に上がって冷やしましょ」

そう言って、2人をアパートへ誘導する。

喉まで出かかった「アンタ、誰だよッ!」という台詞を何とか飲み込んで、
上条は無言でガクガクと頷いた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「う、つめた……」

冷凍庫の氷とビニール袋、タオルで作った即席の氷嚢を額に当てる。
丁寧に作られたそれは、麦野がテキパキと作ったものだ。

「落ち着いた?」
「は、はい… ありがとうございます……」

まだ頭が混乱したままだが、とりあえず吹寄が麦野に礼を言う。

「当麻クン、また何か女の子に失礼なことを言ったんでしょ?」
「ィェ、ソンナマサカ……」

色々なことに全力で突っ込みたい。
突っ込みたいが、突っ込んだら、恐らく自分の命は無い。

「こんな暑い日に女の子を立たせて… もっとデリカシーを持つようにって、いつも言ってるでしょ?」
「はい、ごめんなさい…」

構図としては、まさしく弟的立場の男の子を叱る、年上のお姉さんである。
そして、大変に意外なことに、そういう仕草が不思議なほどに麦野に似合った。

「さて、と… それじゃ、今日もお昼ご飯作るから、貴女も食べて行ってね?」

そう言うと、麦野は部屋のクローゼットを開け、なぜかそこに有る、可愛いフリルのついたエプロンを手に取る。
手早くそれを見に付け、麦野が1Kのキッチンに移動しようとすると、とうとう我慢の限界を超えた吹寄が声を上げた。

「あ、あのッ!! 貴女は上条君と、どういう関係なんですかッ!?」
「吹寄、それは…」

思わず答えようとする上条を、吹寄が睨みつけて黙らせる。

「どうなんですかッ!?」

恐らく、フレンダか浜面辺りがこの場に居れば、「ぶち殺し確定、アーメン」と十字を切っただろう。
           ・ .・ ・ .・ ・ ・ .・ ・ .・ .・ .・ ・ ・  .・ .・ ・ .・ ・ .・ .・ .・ .・ ・ .・ .・
しかし、麦野は、恥ずかしそうに目を伏せると、はにかんだ笑みを浮かべた。

「そういうの、大声で他人に言うもんじゃないし… 恥ずかしいわ……」

上条の顎が、かくん、と落ちた。

(失礼な態度とりやがって、アイツは~~~!)

台所に立った麦野が、心の中で毒づく。

無論、麦野の変貌はわざとである。

自分でも、キャラではないと十二分に理解しているが、まぁ、やってやれないことではない。

(なるべく、穏便に退場願いたいからね…)

強引に上条から引き離しても良いが、禍根を残すのは、上条の学校生活から考えると良くは無い。
そのため、自然と吹寄から身を引くようにもって行きたいのだ。

吹寄について麦野が知っていることは、今朝、上条から聞いた、メシマズ、世話焼き、怒りっぽい、といった点である。
そこで、麦野が狙ったのが、自分が『優しくて料理の上手い年上の彼女』を演じ、吹寄の劣等感を煽るというものだ。

(処女を捧げたくせに、最後まで『押せない』へたれ女なら、これで充分でしょ)

麦野が余裕綽々な、かつ、思わせぶりな態度をとって女としてのレベルの差を見せ付け、
吹寄が勝手に誤解(ある意味誤解では無いが)をして、上条を諦めるのが狙いだ。

大雑把で穴のある作戦だが、ゴリ押しすればいけるだろうと麦野は考えていた。

(まぁ、たまには女子力あるトコ魅せとかないとね)

料理の腕を見せ付けるのだから、昼食にはそれなりの料理を出さねばならない。
冷蔵庫の中は先ほど確認したが、一通りの野菜と牛肉があったから、サクッと肉じゃがを作ろうと考えている。

(えーと、お出汁は流石に取る時間が無いから、料理酒を使って……)

テキパキと麦野が材料を並べていると、スッ、と違う影が台所に立った。
吹寄だ。彼女は麦野が並べた食材を見ると、輪ゴムと取って長い髪を後ろで束ねた。

「……手伝います。話はそれから」

有無を言わさぬ口調に、麦野がカチンと来る。
が、今の設定は『優しいお姉さん』だ。いつものように切れるわけには行かない。

「あら、座ってて良いのよ? 当麻クンと何か話をしていたら?」
「けっこうです」

そう言うと、吹寄は「肉じゃがですね? 野菜は私が下ごしらえします」と言って、玉ねぎの皮を剥き始めた。

(……おい!)

その滑らかな手つきを見て、麦野が上条に視線を送る。
睨まれた上条が、慌てて吹寄に声を掛けた。

「ふ、吹寄、お前、料理できるの?」
「はぁ? 学園都市で1人暮らししてるんだから、出来て当然でしょ」
「だって… お前の作る料理って……」

言い難そうに上条が言うと、吹寄はしばらく考え込んで、それから何かを思い出して言った。

「……もしかして、中学の調理実習のときのアレ? あれはね、はじめっから『ああいう味』を狙って作ったのよ。 あの健康調味料、それが特徴なんだから」
「…え、そうだったん?」

そうなのである。
吹寄が過去に作ったメシマズ料理は、もちろん、怪しげ健康食品のせいで不味い料理に仕上がったのだが、
あの味は、『健康』を維持するための摂食制限を演出するものなのである。

「そもそも、料理が作れないんだったら、あんな健康調味料使わないわよ」
「まじかよ……」

上条が絶句して麦野をチラ見する。
麦野はにこやかな笑みを浮かべて、「それじゃ、お願いしますね。助かるわ」と朗らかに答えているが、

目が全く笑っていない。

「ふ、不幸だ……」

恐らく、今夜執行されるであろうお仕置きを想像して、上条は力なく呟いた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「はい、お待たせしたわね」

リビングのちゃぶ台に3人分の昼食が並ぶ。
薄く湯気をたてた料理は、健康な少年の胃袋を大いに刺激した。

「う、美味そう…」

麦野の恐怖を一瞬忘れて上条が呟く。
すると、吹寄が悔しそうに言った。

「…お料理、上手なんですね」
「あら、貴女も充分なんじゃない? お野菜の形、すごく綺麗よ」
「…そういう、切ったり計ったりは得意なんですけど、アレンジ、苦手なんです。だから、テンプレートな味しかできなくって」
「自分の好みを押し通すのがアレンジとは言わないわ。誰かに食べてもらって、感想を言ってもらうのが一番よ」
「味見とか、どういうタイミングですれば?」
「そりゃ、もちろん、味を整える前後にやるのが良いわよ」
「適量って、どういう風に解釈すれば?」
「もっとファジーに考えて大丈夫よ。アレは単に好みで量が変わるだけだから」

自然と会話が続き、麦野沈利が奇妙な気持ちになる。

「えっと……」
「あっ、自己紹介がまだでしたね。吹寄です、吹寄制理。貴女は…」
「あー… 麦野よ… 麦野沈利」
「麦野さん、ですか……」

噛み締めるように麦野の名前を呟く。
麦野の想定通りの状況ではあるが、どうにも麦野には嫌な予感がした。

「…とりあえず、食べましょう?」
「…はい、頂きます」

麦野と吹寄が示し合わせて、そして上条が慌ててそれに倣って昼食が始まった。
が、会話が発生しない。

(空気が重てぇ…)

上条が女子2人をチラチラ見ると、吹寄は遠慮無しに麦野をジッと見ていて、
麦野は、見られていようが平静を保っている(ように見える)

そして、そのまま続いた無言の団欒の終わり際、吹寄が突然言った。

「…結婚まで考えているんですか?」
「………ングッ!!」

吹寄のあまりな発言に、上条が喉を詰まらせる。
麦野も内心、(手順をどんだけすっ飛ばすんだ、この娘…)と戦慄しながらも、『お姉さん』の仮面をきっちり被って上条の背中をさする。

「…すこし、びっくりしちゃったわ。吹寄さん、そういうことを考えるのはまだ早いんじゃない?」
「そう、ですか…? でも……」

一瞬、口ごもり、そして、一気に言い切る。

「あたしと上条は、親公認の許婚同士なんです。そういう覚悟が無ければ、譲れません」

この日、吹寄、最大級の爆弾発言が投下された。

「い、許婚ッ!?」

一瞬だけ『お姉さん』の仮面が外れて、麦野が驚きの声を上げる。

「どういうことよッ!?」
「し、知りませんッ! 上条さんは何も知りません!! っつーか、テキトーなこと言ってるんじゃねぇよ!」
「て、テキトーじゃない! 中学のときの『中域短期父兄参観』で、ちゃんと上条のご両親に挨拶したの!!」

麦野が上条を、ぎらり、と睨む。
だらだらと滝汗を流す上条が、必死に記憶を探る。

「え、えっと… 確かに、あん時は、お前とウチと、家族全員でメシ食ったけど、そんな話は出なかっただろ…?」
「で、出たもん!!」

吹寄が必死に主張する。

だが、『許婚』は真っ赤な嘘だ。
上条の両親から『制理ちゃん、ウチの当麻をよろしくお願いします』と言われたことを、無理やり拡大解釈して言っているのだ。

(どうしよう… あたし、とんでもない事言ってる……!)

実のところ、冷静そうに見える吹寄制理の脳内は、限界ぎりっぎりまでテンパっているのだ。
この部屋から逃げ出したくてたまらない。いかにも仲の良さそうな麦野と上条を見て居たくない。

麦野の思惑は見事に効果を発揮して、吹寄制理の劣等感をこれ以上ないくらいに刺激した。

いや、刺激しすぎたのだ。
だから、吹寄制理は無謀ともいえる嘘を口走ったのだ。

そして、一度、嘘をついて自暴自棄になった吹寄の口から、あれだけ躊躇っていた言葉が暴発する。

「か、上条… もうこうなっちゃったから言うけど、あたし、アンタが好きだからッ! ホント、好きだからッ!!」
「吹寄……」

誰にとっても最悪のタイミングでの告白だった。
気がつけば、吹寄の目から大粒の涙が溢れている。

「………あぁ、もう」

滅多にないことに、思考が一時フリーズしていた麦野が再起動する。
『許婚』という単語に動揺したが、その後の吹寄の態度からそれを嘘だとわかった。
ならば、確認してしまえば良い。

「当麻クン、ご両親と連絡を取ったら? そうすれば分かることでしょ?」

その台詞に、上条は安堵の表情を見せ、吹寄がビクリと身体を振るわせる。

「うぅ… 上条、やめて……」
「ごめん、吹寄… でも、流石に大切なことだから…」

上条が携帯を取り出して実家にコールする。
麦野がジェスチャーで『ハンディホンにしろ』と指示をだし、上条が操作すると、呼び出し音が部屋中に響いた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


Prrrrrrrr……

「おーい、お母さん電話。今、ちょっとお土産出すのに手が離せなくてー」

「あらあら、また呪い関係のお土産ですか?
 ……はい、もしもし上条です。 …あら、当麻さん? どうしたの…? 
 …え、吹寄さん家の制理ちゃん? もちろん覚えているわ。
 あちらの奥さんとは、毎週フィットネスクラブをご一緒してるのよ? 制理ちゃんの話もよくするわ。
 ………え、許婚? 当麻さんと制理ちゃんが?」

上条当麻の母親たる、上条詩菜の眼光がキラリと光る。
その視線の先は、怪しげな人形を棚に飾ろうとしている夫の姿がある。

唐突だが、上条当麻の父親、上条刀夜は大変女性にモテる。しかも、自覚無しに。
そして、それは確実に1人息子である当麻にも遺伝していて、本人以上に母親である詩菜がそれを実感していた。

(当麻さんも、もう高校生… 制理ちゃんなら、良いお目付け役になれるんじゃないかしら?)

学園都市に1人暮らしで、痴情のもつれで刃傷沙汰でも起こされたらたまったものではない。
詩菜は素早く計算を完了すると、悪魔のような笑みを浮かべて受話器に話しかけた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


『ええ、そうよ。親同士で勝手に決めて申し訳ないけど、吹寄さんとは、そういう風に話を進めているわ~』
「「「はぁ!?」」」

携帯電話からの、あまりにも予想外な回答に、3人が三者三様の驚愕の表情を取る。

「か、上条さんッ! そ、その話はッ!!」
『あら、その声は、もしかして制理ちゃん?
 当麻さんに伝えてなくてごめんなさい、これからもヨロシクね~』

電話越しの詩菜の言葉に、泣き顔だった吹寄が喜色に染まる。

「はいッ! お義母様ッ!!」

『うん、良いお返事でママ嬉しいわー。
 それじゃ、当麻さん、制理ちゃんと仲良くねー』

プツ、ツーツーツー……

電話が唐突に切られ、部屋の中に一時の静寂が生まれる。

「……改めてお聞きします。麦野さんは当麻とどういう関係ですか?」
「恋人よ」

吹寄が事務的に問い、麦野が抑揚無く答える。

「わかりました、それでは、今日のところは帰ります。
 ……親の認可を貰ったからって、当麻があたしを見てくれないんだったら、本末転倒ですから…」

吹寄が、スッ、と立ちあがる。そして、麦野に深々と頭を下げる。

「宣戦布告です。絶対に当麻を貴女から取り戻してみせます」

それだけ言うと、吹寄は呆然とする上条の方を向いた。

「あたし、貴方を絶対振り向かせてみせるから…!」

そして、溢れる愛情を示すように、上条の頬にキスをして、顔を真っ赤に染める。

「それじゃ! 首を洗って待ってろ、上条当麻ッ!!」

そう言い残し、吹寄制理は去った。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「がぁぁぁぁぁぁ、ムカつくッ!! 何が『宣戦布告』だッ! あの小娘が、調子に乗りやがって……ッ!!」

あれから、昼食もそこそこにマンションに戻ると、麦野沈利は怒りを爆発させた。
何か声を掛けようとした上条は、ボディに前蹴りを食らって悶絶している。

「…クソッ、ここまで計算を外したのは久しぶりね……」

実のところ、麦野が怒っているのは自分自身のミスについてだ。
結局、プレッシャーを与えすぎて吹寄を暴発させたのも、上条に電話を掛けるように指示したのも麦野なのだ。

「あー、腹立つ!!」

ドカッ、とソファに腰を降ろす。
そして、ようやく悶絶から回復した上条を、ちょいちょい、と手招きで呼ぶ。

「ハイ、ナンデショウ?」
「私はアンタを手放すつもりはこれっぽっちも無いから。アンタは私のオトコ。おっけー?」
「…オッケーです」

バツが悪そうに上条が言う。
流石に鈍感な彼も、自分のこれまでの態度が原因だとひどく後悔していた。

「俺がなんとか話をつけて…」
「ばーか、アンタから動いたら、火に油を注ぐようなもんでしょ? しばらくは様子見に徹しなさい」
「はい…」

「はぁ…」とため息を吐いて、麦野が膝を立てて膝小僧を抱える。
いまだにブレザー・スカート姿なので、足の隙間から白いショーツが見えているが全く頓着しない。

上条を『アイテム』に引き入れてから、出来るだけ敬遠していた思考が麦野を襲う。

麦野自身は絶対に否定するが、彼女は『暗部』であることに劣等感を感じている。
ゆえに、性欲や支配欲に代償を求めるが、その犠牲になったモノに対して、少なくない負い目を感じているのだ。

(私があの時、上条クンを『アイテム』に引き入れなかったら、幸せなカップルが出来上がってたんでしょうね…)

所在なげに佇む上条を眺める。

「……突っ立ってないで、横に座りなさいよ」

自分の横の席を、ポンポン、と叩く。
上条がぎこちない動作で座ると、麦野が上条の肩に頭をもたれさせた。

「…麦野さん?」
「ちょっとこのまま…」

(あー、まずい、まずい…)

麦野の中の小さな負い目が、『考えてもどうしようもないのに考えてしまうこと』を食べて成長する。

(…どうしてこうなっちゃうんだろう?)

麦野の身体が小さく震えだす。

麦野沈利の心は強い。
仕事と割り切れば躊躇わず人を殺すことができるし、どんなプレッシャーでも笑って跳ね除ける強い意志もある。
だが、それらは少しずつ、だが、確実に麦野にダメージを与えていた。

そして、吹寄制理に感じた、日向を歩く少女への劣等感が、
ついに麦野沈利の鉄の心を折り曲げてしまった。

「……ぐす、ぐす」

上条は、最初、麦野が笑っているかと思った。
なにやら良からぬことを思いついて、暗い情動に笑っているのかと。

しかし、よくよく聞いてみると、それは確かに泣き声で…

「む、麦野さん……」
「ばかぁ、こっち見るなぁ…」

上条の腕が、ぎゅ、とつかまれる。
手入れされて形の良い爪が、上条の肌に食い込む。

「……ごめんね」
「え?」

細く、小さい声が聞こえる。

「人生、めちゃくちゃにしちゃって、ごめんね…」
「………」

上条は絶句して、思わず麦野を見た。
見てしまった。

そこには、ブレザーを着た少女が、膝小僧を抱えて泣いていた。

普段見せる大人びた余裕などカケラも感じない。
等身大の麦野沈利がそこに居た。

「見るなって… ちょっと、やぁ……」

上条は腕を伸ばすと、麦野の身体を自分に押し付けるように抱い寄せた。

「離してよぉ…」
「すいません、でも、離せないです」

さらにぎゅっと、麦野の身体を抱き寄せる。

不謹慎だが、初めて見せる麦野の『弱さ』を、上条はたまらなく可愛く思ってしまった。
同時に、そんな麦野をめちゃくちゃに犯したいという、暴力的な劣情も強く感じた。

「俺、麦野さんと一緒に居て、楽しいですから」
「そんなこと無い、嘘……」
「嘘じゃねぇよ……」

上条は麦野の後頭部を優しく手で把持すると、優しく、しかし強引に口唇を合わせた。
麦野の瞳から流れる涙が、口に入って少し塩辛い。

「ん… ふ…」

舌を絡めあうようなディープキスではなく、お互いの吐息を交換し合うような、深くて長い口付け……
どうしようもない劣情に逆らえず、上条はキスをしたまま麦野をソファに押し倒した。

長い口付けを離して身を起こすと、泣き顔のブレザー少女に馬乗りになる。

「……泣いてる女に欲情するとか、サイテー…」
「泣き顔、すっげぇ可愛い」
「…サイテー」

麦野が、ぷい、とそっぽを向く。
その、一つ一つの仕草が、上条の暴力的な劣情を刺激する。

「犯すぞ…」
「好きにしなさいよ……」

麦野のその許可が、完全に上条の理性を崩壊させる。
ブレザーの前ボタンを外すと、中のブラウスを両手で掴んで左右に引きちぎる。

ブツブツブツッ、と小さなボタンが弾け飛んで、白いブラジャーが顔を見せる。
外す手間も惜しいのか、上条がブラジャーを強引にたくし上げると、麦野の綺麗な豊乳が姿を現した。

上条は無言で豊乳を鷲掴みすると、飛び出た乳首を乱暴にしゃぶる。

「ん… あん… もっと、乱暴に、シテ……」

上条の口技がさらに加速する。
自然と、繊細さよりも勢いを重視した愛撫となり、所々、上条の歯が麦野の乳首に当たる。
そのたびに、麦野に軽い疼痛が走るが、逆にそれが麦野のマゾヒスティックな快感を助長した。

「……噛んで」

耳を疑うような台詞が麦野の口から零れる。
一瞬、上条は躊躇したが、すぐに思い返して麦野の乳首を前歯で、ガリッ、と噛んだ。

「…………ッ!」

ズキッ、とした痛みが、乳首から全身に広がる。
しかし、今の麦野にとっては、痛みこそが心地良い。

「……もっと、もっとぉ!」

リクエストに応えて、強く、強く乳首を噛む。
さらに、空いている手でもう片方の乳首を強く捻る。

ギリ、ギリ、ギリ……ッ!!

乳首から発生する激痛に、麦野の顔が大きく歪む。
しかし、それはどこと無く陶酔した表情だった。

「麦野さん、けっこうマゾ入ってるんだな」
「…そんなわけねぇだろ、馬鹿ッ!」
「いや、本当だぜ… ほら…?」

スカートの中に手を突っ込んだ上条が、ショーツのクロッチ部をまさぐる。

「…もう濡れてる」
「いちいち言うな、馬鹿ぁ…」

口ではそう毒づくが、身体は裏腹に腰を上げて、上条がショーツを脱がせやすいようにする。

ショーツを片足にひっかけ、スカートをめくると、すでにガチガチに勃起したペニスを秘所に当てる。
一瞬、麦野と視線が交叉すると、それを合図に、上条は強引に、そして一気にペニスを挿入した。

ズブズブッ!!

「…………ぃたぁ」

濡れ方が足りてなかったのか、麦野が苦痛の呻きを上げる。
だが、上条はそんなことはお構いなしに、ピストン運動を開始する。

ズリッ、ズリッ、ズリッ…!

上条の長大なペニスが、肉の槍となって麦野の身体を抉る。
歯を食いしばって、その痛みと衝撃に耐えていた麦野だが、次第にその表情に変化が生じ始めた。

「ぐっ、ぐぅ… はぁぁぁ…… ぁん、あぁん……」

いくら乱暴にしていても、ここ数日で幾度と無くセックスをした2人だ。
自然とお互いの腰の動きが同調し、2人が最も気持ち良い動きに変化する。

「はぁ、はぁ、はぁ…… あぁん、んぁあ!!」

結合部から、じゅぶじゅぶ、といやらしい水音が響く。

「…前から思ってたけど、濡れすぎ」
「アンタこそ、チンポでかすぎ… 吹寄ちゃん、よく裂けなかったわね」

イラっときたのか、ピストン運動が速まる。

「あっ、あっ、あっ!! 駄目、もうイクッ!!」
「イッちゃえよッ!! 俺も、くぅ……!」

両手を互いに絡ませて、口唇を互いにあわせて塞いで、
上条と麦野は同時に絶頂に達した………

「…ありがと」

それから数度、体位を変え場所を変え、激しいセックスを終えると、
麦野はいくらか落ち着いた声で上条に言った。

「…オトコの前で泣いたのは初めてだわ」
「俺の前だったらいつでも良いぜ」
「ぷっ…!」

上条当麻の、あまりにもの気障っぽい台詞に思わず吹き出す。

「ばッッッかじゃねーの? セックスのしすぎて、頭がサルになってない?」
「ひっでぇ! 自分だってセックス好きなくせに…」
「あン!?」
「事実じゃん!」

軽く睨みあって、そして、麦野が相好を崩す。

「…敬語、ようやく抜けたね」
「えっ!? あー、まー、そーかも……」
「そっちの方が良いわ、ずっと……」

そう言うと、麦野沈利は破れたり汚れたりしている服を全部脱いで、股間から精液が垂れないようにハンカチを当てた。

「ねぇ、一緒にシャワー浴びよっか。髪の洗い方教えたげる」
「爪の次は髪ですか、へいへい…」

上条も手早く学生服を脱ぐと、不意をついて麦野をお姫様抱っこした。

「きゃッ!」
「そんじゃ行くか」
「もう、調子のんなよ、テメェ……」

口を尖らせながらも、どことなく嬉しそうに麦野が笑った。

―――十数分後、バスルームから再び麦野の嬌声が響いた。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


「あ、そうそう、お仕置き決めて無かったわね。
 今からしばらくブロウジョブサービス中止ね」
「………地味に辛ぇ」





                                                  第2話「恋敵」 了










次回予告。


先の見えない哀れな逃走劇。
『暗部』に下る非情なハンティングゲーム。
ターゲットは、単価18万円の哀れな人形。

「―――俺様がやっても良いが、ハッカーを確保する必要があるな」
「―――悲恋か、やりきれねぇな…」

次回「妹編」




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