bitchプロローグ


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「そこのおねーさん! お茶しない?」


プロローグ


終業式を午前中に終え、夏休みに入ったばかりの“学園都市”の午後。
大通りを歩く学生たちの足取りは軽く、その表情は等しく笑顔で弾んでいる。

しかし、それは当然だ。陰鬱な期末考査を終え、青春の代名詞ともいえる夏休みに入ったのだ。浮かれない学生はいないだろう。
だから、こんな光景は“学園都市”のいたるところで見る事ができた。これからの夏休みを、さらに素晴らしいモノにすべく、彼女の居ない男子学生がする行為――

即ち、ナンパである。

「あん…?」

声をかけたのは、ツンツン頭が特徴的な、やや垂れ目の男子学生。
声をかけられたのは、ロングコートに緩やかウェーブのロングヘアが特徴的な、ややキツ目の年上系美人。

ここに、王子様とお姫様の邂逅が果たされる…




「…ナンパ? 悪いけど、他を当たって」

声を掛けられた美人さんは、しかし、今にも「シッシッ」と手を振りそうな態度で、すげなくお断りを入れる。
だが、こんな事でめげていてはナンパなど成功しない。ツンツン頭の少年は、持てる笑顔のパターンを総動員して彼女の気を惹こうとする。

「いやいやいや! 絶対に退屈させませんって! この上条さん、別にナンパ使用と思ってお姉さんに声を掛けたわけじゃ無いんですよ!? 
お姉さんがあんまりに美人だったから、口と身体が勝手に動いたわけでして… うわっ、間近でみるとすっげぇ美人!」

商売人であったら揉み手をしているであろう卑屈な態度で、あらん限りの言葉で美人を褒めちぎる。もちろん、おべっかだとは相手も分かっているだろうが、8割本気の言葉は意外と相手に響くものだ。

「はいはい、ありがと。でも、お姉さん暇じゃないし、君みたいな年下の子と付き合う気は無いの。じゃあね」
「お昼! お昼まだでしょ!? 奢りますって! ほら、近くに17学区の学食街あるし、もう少し足を伸ばせば23学区のレストラン街あるし! もちろん俺が奢りますから、お昼だけでも!」

パシン! 拝むように両手を合わせて、チラリと美人を仰ぎ見る。ちなみに、彼のカードはここまでである。

「はぁ… メンドクセー……」

それまで努めて視界に入れようとしていなかった美人だが、いよいよ豪快に振ってやろうと、ツンツン頭の少年を睨みつける。
元々、彼女は気が短い。つまり、しつこい男は嫌いなのだ。

「あのさぁ… 暇じゃないって言ってるでしょ? 痛い目みたくなかったら……」

そう言い掛けると、美人の懐で小さな着信音が響いた。ムッとした顔で言葉を飲み込んだ彼女は、流れるような動作で携帯電話を取り出し耳に当てる。

「…はい、麦野だけど」
『あ、麦野ですか、絹旗です。超手短に言いますが、予定が超変更になりました。対象がポイントから超離脱したようです』

耳に入った声に、さらに表情を険しくし、声を小さくする美人。

「…何よ、情報が漏れた?」
『その可能性は超ゼロですね。向こうの運が超良かった。そういうことでしょう。滝壺さんの追跡は超続行中ですが、向こうが腰をすえないと、完璧な襲撃は無理そうです。ですので…』
「どっかで時間を潰しとけって?」
『はい。まー、ファミレスかなんかで待機して置いてください。補足したら私も超急行しますので』
「…チッ、了解」

機嫌が悪そうに携帯を閉じる。ふと気付いて目をやると、ツンツン頭の少年はまだ拝んだままだ。

軽く息を吐いて、不機嫌な表情を取っ払うと、悠然と腕を組んで少年を頭のてっぺんからつま先まで観察する。

(顔は条件付きでマル、明らかに年下、体型はアスリートタイプ… 何かスポーツでもやっているのかしら? …ふん、遊んでやるか)

「……奢ってくれるって?」

口の端をほんの少し吊り上げて、キツ目の美人が、少年にとってはこの上ない言葉をこぼす。
その言葉に、バッ、と弾かれたようにツンツン頭の少年が顔を上げると、満面の笑顔で「もちろんですとも!」と叫んだ。



「じゃ、ちょっと高いトコ奢ってもらおっかなー?」
「うっ… いやいや、ちょっと高くてももちろんオッケー! で、でも、良ければ私めにお店のチョイスをさせて頂けませんか?」
「えー、その店、良い所なんでしょうね? あ、私の名前は麦野ね」

ナンパをされるのは初めてではない。どうせ今日限りの関係なんだからと、キツ目の美人――麦野沈利は本名を明かす。

「任せてください! えっと、麦野さん! 俺、上条当麻って言います」

一方のツンツン頭の少年――上条当麻はドキドキものである。はっきり言えば、玉砕覚悟で臨んだ相手なのだ。

「上条クンね。キミ運が良いわ、こんな美人捕まえたんだから。頑張って楽しませてちょうだい」
「は、はい……!」

(うわー、自分のこと美人って言い切っちゃってるよこの人……)

もちろん、麦野の端麗な容姿から声を掛けたのだが、こうもはっきり言われるとかなり緊張する。

(男慣れしてんだろーなー…)

対して自分は彼女居ない暦=年齢だ。だが、一応の計画は頭の中にあった。

「えっと、有名なトコじゃないんですけど、美味いオムライスを食わせる洋食屋があってですね…」
「オムライスねー… ま、いっか」

第二関門突破。これでチェーン店や身の丈にあってない高級店を言うようだったら、麦野は即サヨナラするつもりだった。
そういうテンプレな対応は彼女の好みでは無い。

「よ、よかった… えっと、店、近いんで、こっから歩いていけますよ」




「ふむ、ふむ、ふむ…」
「ど、どうすか?」

注文し、運ばれてきたオムライス(鮭入りライス)を頬張る麦野を、心配そうな顔で上条が見つめる。
彼女の好みに合わなかったら、当然、そこでアウトである。

「……ま、合格かな」
「よ、よかったー!」

実は密かに麦野の好みどストライクを当てていたのだが、そんな事を知らない上条は、もはや何度目か分からない安堵の息を吐く。

(普通に美味いわね… 鮭が良い感じにライスに馴染んでるわ…)

そうやって、当たり障りの無い会話を挟みつつ、オムライスを食べ終わると、麦野はチラリと携帯の着信を確認した。

(絹旗からの連絡は、まだ無い、か… チッ、早くどっか一箇所に固まりなさいよ…)

ふぅ、と軽く息を吐くと、対面に座る上条ににっこり微笑みかける。本日初めての笑顔に、上条の顔がたちまち赤面する。

「あ、あの、麦野さん…?」
「これからはどーしよっかなー? まだ暇な時間が続きそうなんだけど?」

第三関門突破。上条は高鳴る鼓動を必死に抑えつつ、必死に頭を回転させる。
昨日のプランと今の状況を懸命に照らし合わせて口を開く。

「腹いっぱいになったし、ちょっと身体動かせる遊びしません? この近くにボウリング場がありまして…」
「ぷっ!」

いかにも学生的な上条の発案に、思わず麦野が噴き出す。まさかボウリングとは予想外だった。

「あはは、ボウリングかぁ… 当然、そこの払いは…」
「わたくしが持ちますとも! もちろん!」

あまりに必死な上条の様子に、麦野がケラケラと笑う。

「冗談、冗談よ。そこまでお姉さんも鬼じゃないわ。割り勘で良いわよ」
「よ、よかったぁ~」

予算的にギリギリだったのか、心底ホッとした表情を見せる。
麦野は、そんな上条を不覚にも少しかわいいと思ってしまった。




かこーん!!

シリコンボールが激突し、ピンが空中に舞う。
ボールがその場で手に合わせて成型されたり、ボールの起動がレーンに記録されたりと、所々ハイテクな仕掛けは用意されてはいるが、基本、アナログなルールは変わっていない。
2投して多く倒した方が勝ち。単純だが、ちょっとコツを掴めば、女性でも男性と競い合えるのがボウリングの魅力の1つだ。

「そーれっ!」

専用に調整されたボールを、やや角度をつけて麦野が投げる。ボールは吸い込まれるように1ピンと2ピンの間に激突し、本日何度目か分からないストライクのコールがボウリング場に響き渡る。

「よっしゃ!」
「つ、つえー…」

上条が青ざめた顔でスコアを見る。

すでに3戦目の10フレームだが、麦野とはほぼダブルスコア。
上条も一応は100アップしているのだが、麦野が当たり前のようにターキーやフォースをだすので、まるで追いつける気がしない。

「ふっふっふー、どんなもんじゃー? もしかして、勝とうとか思ってたかにゃー、上条クン?」

男子を叩きのめす快感からか、弾んだ声で麦野が言う。
言われた上条は、愛想笑いもそこそこに、やおら真剣な表情になってボールを構えた。

流石に彼とて男子の意地がある。ここまでコテンパンにやられていては流石に面白くないのだ。

「……せいっ!」

真っ直ぐ振り切ったボールは、1ピンやや左寄りに激突するも、惜しくも1ピン残し。焦った上条はスペアも逃し、3戦目も麦野の勝利に終わった。

「上条クン、よっわーい!」

彼女にしては珍しく上機嫌な声を出す。

とにかくこの美人さん、相手を実力で見下すのが大好きなのだ。

「俺が弱いんじゃなくて、麦野さんが強すぎなんスよ! …もしかして、やりこんでるクチ?」

「ばーか、こんな疲れるコト、やりこむわけないじゃん。入射角とボールの回転を計算して、後はまっすぐ投げるだけ。簡単なスポーツよ」
「んな簡単って言われたって…」

流石に面白くないのか、上条が口を尖らせる。
機嫌が悪いと癇に障る仕草だが、今はスルーするぐらいの精神的余裕がある。

(まぁ、意外と楽しませてもらってるし、少しサービスしてあげようか…)

心の中でチロっと舌をだして、麦野はコンソールを操作して、ゲームを練習モードに切り替える。ボール速度・軌跡、接触角度、投球アクションが記録できる優れモノ機能だ。

「ほら、ちょっと投げ方見てあげるから、構えてみて」
「え、投げ方?」
「後ろで見てるとさ、上条クン、体軸ブレブレなのよねー。まぁ、それを意識して中心線狙ってるんだろうけど…」

少し呆然とする上条の手を強引に引っ張って、投球レーンに立たせると、麦野は上条の背中からピッタリと胸を密着させた。

「ちょッ! ちょッ!!」

慌てふためく上条を尻目に、抱きかかえるように麦野が上条の身体に手を回す。

「こ・ら。視線は真っ直ぐ、先頭のピンを見て。ブレ無いように腰を支えて――?」

何の気もなしに腰に回した麦野手が、上条の腹筋に触れた瞬間止まる。元々筋肉質だとは感じていたが、掌から伝わる感触はかなり鍛えた筋の弾力だ。

(鍛えてる? スポーツか、それとも……)

ほんの少し、麦野が思考を回転させるが、上条の方はたまったものではない。

後ろから抱き付かれているせいで、麦野の見事な豊乳が自分の背中に押し潰されている。
下着と上着を間に挟んでいるにも関わらず、圧倒的な質量のおかげで何がどうなっているのかがはっきり分かる。

(やべッ、やべぇ!!)

いくらなんでも、これは思春期の男子学生にとっては刺激が強すぎる。しかも、麦野が動かないものだから、余計に神経が背中の豊乳を感じてしまう。

血液が下半身に一気に集中する。しかも、麦野の手は上条の下腹部をさわさわと撫ぜ回している。

天国のような、あるいは地獄のような数瞬が過ぎた。いい加減、上条が声を出そうとした瞬間、麦野が唐突に上条から離れた。

「え、あー……」
「…ふふ、なーに残念そうな声出してんのよ。ほら、腰がブレないように投げてみて」

その言葉で、上条は投球を開始するが、投球フォームは見事なへっぴり腰。力なく投げられたボールは、当たり前のようにレーンの溝を掃除した。

「あはは! 何それ! 腰が引けちゃって、かーわいー!」
「だ、だって! 麦野さんがッ!」
「ん~~、アタシがどうしたのかにゃ~?」

心底楽しそうに、麦野がニヤニヤと上条を見つめる。「アンタがおっぱいを当てるから」とは当然言えるはずもなく、上条は顔を真っ赤にして「いえ、その…」と口篭った。

「良い思いしたでしょ?」
「えっと、はい……」

妙に優しい声色で言われて、思わず上条が素直に頷く。その背伸びをしていない少年の表情を見て、麦野の表情が益々喜色ばむ。

「ふふ、素直で良いわ。頑張って楽しませてくれたご褒美よ… さて……」

そう言って、麦野はチラリと携帯の着信を確認する。絹旗からの着信はまだ無い。あるいは、今日中の決着は無理なのかもしれない。

(なんか、そういう気分じゃなくなったしねー。良いおもちゃも見つかったし…)

ほんの少し悩むと、麦野は携帯を操作して非常時以外の着信拒否に設定した。

(決めた、暗部の仕事は今日は無し! たまにはこんな休日も良いわね)

まだ呆然としている上条の横に立つと、麦野は楽しそうに上条の腕に絡みついた。

「うぇ!?」
「上条クン、動いて疲れたから、甘いもの食べたいなー」




「ごちそうさま」

目に止まった喫茶店で頼んだケーキセットを食べ終わると、麦野はさりげなくレシートを自分の方に手繰り寄せた。

「あ…」
「ねぇ、上条クンのレベルはいくつ?」

何か言いかけた上条だったが、それに被せるような麦野の質問に気勢を削がれる。

「えっと、笑いません?」
「返答しだいかなー」
「いや、こーゆー流れだから分かると思いますけど… レベル0っす」
「ふーん、ま、学園都市に居る学生の半分はレベル0なんだから、別に笑ったりしないわよ」

麦野がそう返答すると、上条は少し安心した表情になった。

学園都市において、レベルは絶対なものだ。それは、単に学力の話だけでは無く、もらえる奨学金の額、研究機関からの報奨金と、財政上でも差が出てくるのだ。

ゆえに、学園都市においてレベル0は常にコンプレックスを抱えて生活している。上条が少し卑屈な態度を取ったのもそのせいだ。

「麦野さんは?」
「んー、レベル3。粒子変化に関する能力よ」
「す、すげー… 美人でスポーツ万能でレベル3かよ…」

レベル3(強能力)は全体のレベルで言えば真ん中あたりだが、学生人口の比率から言えば1~2割ほどの希少存在だ。
当然、レベル0の上条にとっては、雲の上の存在だ。

「ふふふ、凄いでしょー。こうやってアタシの時間取ってるの、ありがたく思いなさいよ」
「もちろんですとも!」

麦野の言葉に、やけに力強く反応する上条。なんと言うか、犬のようである。

(ちょっと気の利く年下クンかー、キープしとくかなー)

実のところ、麦野沈利は陽の当たる道を堂々と歩く人間ではない。はっきりと言えばイリーガルな人間である。

だから、恋愛などは遠い過去の産物だし、いまさら恋人が欲しいとも思わない。
思わないが、こうやって楽しい時間を過ごしてしまうと、ついつい欲が出てしまうのだ。

麦野はケーキセットの紅茶を一口飲むと、軽く身を乗り出して上条に話しかけた。

「ね、上条クン。まだ時間ある? アタシ、ちょっと買い物したいんだけど?」

古今東西、女性のショッピングに男が付き合うとロクな目に会わない。
無論、これも麦野のテストなのだが、上条は躊躇うことなく頷いた。

「あ、良いッスよ。荷物持ちっしょ? いくらでも付き合いますって」

そういって、ニカッ、と笑う。決して洗練されていない、素のままの笑顔だったが、それが麦野には快く思えた。

(いいわ~、弟キャラを被ってるのかもしれないけど、こうも分かり易いと対応が楽ね。うん、キープしとこ)

「良かった。それじゃ、行くわよ」

そう言うと、当然のようにレシートを掴んで麦野は席を立った。上条が慌てて「あ、自分の分は…」と言いかけるが、麦野はレシートをひらひらと振って答えた。

「これからこき使うんだから、ここの支払いは任せなさい。その代わり、絶対に泣き言は言わないこと…!」

美脚が自慢の某金髪トラップ娘がこの光景をみたら、思わず偽者かと疑うような笑顔を浮かべ、麦野沈利は歩き出した。




「これ良いわ~、キャミは何枚持ってても足りないしね… ん~、夏は暖色系少ないのがネックね… あ、パンプスめっけ…」

(まだ買うのかよ……)

麦野がショッピングを始めてすでに数時間が経過していた。夏と言えども、外は茜色に染まっている。
すでに上条の両手には、数を数えるのも馬鹿らしいほどの買い物袋がぶら下がっている。

飛んでいったマネーカードの額など考えたくも無い。

(レベル3って、金持ってんだなー…)

それが、レベル0である上条の偽らざる本音である。

一方の麦野は、恐ろしいほどの上機嫌である。

「お、リップも夏の新作がでてんじゃーん。どれにしよっかなー。ねぇ、上条クン、どの色が似合うと思う?」

店頭に並ぶ色取り取りのリップを指差して麦野が笑う。その目は半ば試すようだ。

もちろん、上条には女性化粧品の知識はほとんど無い。だからと言って、何も答えないのは当然ご法度だ。

「えっと、麦野さん、暖色系好きなんですよね…? あー、だったら、あんまり派手な色じゃなくて、そのコートに合うような薄いヤツが良いんじゃないと、上条さんは思うのですが…」

なんとか絞りだすように上条が答えると、意外と満足したのか、麦野は「そう? じゃ、そうしようか」と答えて、迷いの無い手つきで数種類のリップを選び出した。

さらに消費されるマネーカード。
金額にして、すでに6桁は軽く超えている。

「さて、と…… 次はー、あ、タイツの新色見なきゃ」

(後悔はしねぇ、後悔はしねぇぞ!)

強く自分に言い聞かせて、上条は汗で滑る買い物袋を握り直した…




麦野の散財が終わったのは、外の陽もどっぷり暮れてからだった。

終わりごろには上条の身体は買い物袋で埋め尽くされていて、散々麦野に笑われたり写メを撮られたりした。

この格好でどこまで歩かされるのかと恐怖した上条だったが、麦野はあっさりと集積センターに行き、荷物の全てを自宅に宅急便送りにしてしまった。

「上条さんの苦労はいったい…」

流石に愚痴の1つも言いたくなったが、「纏めて送らないと二度手間でしょ?」という麦野の台詞に、上条は苦笑いと共に愚痴を飲みこんだ。

「ふふ、まぁ、根性見せてもらったし、夕食もアタシが奢るわよ。お店、こっちで勝手に決めちゃうけど、良い?」
「えっと、はい。ていうか、夕飯まで良いんですか?」

軽くなった身体を軽くほぐしながら上条が言う。

「もちろん良いわ。今日は本気で楽しかったわー。 …ま、最近仕事で嫌なことが続いていてねー。良いストレス発散になったわよ」

まだまだ笑顔の麦野が言う。
買い物にはギブアップだった上条だが、そういう笑顔を向けられると、苦労も報われた気分になれる。

「楽しんでくれたんなら、俺も嬉しいです。まー、別れるのが寂しくなっちまいますが…」

細心の注意を払って、可能な限りさりげなく上条が言った。

「んー、まぁね…」

敏感に言葉の裏を読み取った麦野は、さて、どうしようかと頭を巡らせる。

(メルアド教えるのは確定で良いわよね。表用の捨てアドだから、いくらでも変更利くし… あとは、今日はどこまで『許しちゃう』か、ね…)

麦野は不意に上条の正面に立つと、最初にそうしたように、上条の頭のてっぺんからつま先までをじーっと見つめた。

「えっと、麦野さん?」
「んー、ちょっと黙ってて」

困惑する上条の言葉を切って捨てると、麦野はどんどん思考を進めていく。

(別に食べちゃってもいいけど、童貞だったときが面倒よねぇ…でも、直感だけど、この子は肉体関係持ったら、無茶苦茶懐いてきそうよね。どことなく犬っぽいし…)

麦野の実年齢からしてみれば行き過ぎた思考だが、彼女の本質から見れば全く違和感は無い。

麦野沈利はこういうオンナなのだ。

「…食べちゃうか」
「はい?」

麦野がぼそりと呟いて、よく聞こえなかった上条が思わず聞き返した、その瞬間、

Pipipipipipipipipipipi!!

麦野のポケットから、けたたましいアラーム音が鳴り響いた。

「……クソがッ!!」

さっきまでの笑顔を一瞬で消し去ると、麦野は小さく毒づいて荒々しく携帯を耳に当てた。

「……はい、こちら麦野」
『あんたってばー!! なんで着信拒否してんのさ!! 今日は仕事の日でしょーがッ!!」

携帯からは、聴き慣れた、しかし、不快さだけは変わらない女性の声が響いた。

「はぁ? 今日は休日、アタシが決めた。用が無いんなら切りますけどー?」
『こいつらときたらッ!! アンタね! 絹旗が何言ったか知らないけど、状況は依然進行中なの! 子犬くん食べようとか、盛ってんじゃないわよ!』
「切りまーす」
『ちょっと待てぇ!! 緊急コールだっつってんだろうが!」
「だったら、とっとと用件言えよ…ッ!!」

思わずドスの利いた声を出して、しまったと上条のほうを見る。
が、彼はなぜか麦野の方を見ておらず、暗い路地裏の先を凝視している。

(ほっ、よかった…)

自分でもワケの分からないため息を吐くと、麦野は改めて電話先に問い質した。

「で、何?」
『……今日アンタに処理を依頼した男だけど、何やったヤツか知っているわよね?』
「ああ、元々はアタシたち『アイテム』の下部組織の人間で、対立組織にエスとして潜り込んだけど、いつの間にか裏切ってた馬鹿だろ?」
『そう、で、こっちに裏切りがばれて、しかも対立組織にもエスだとばれて逃亡したその馬鹿なんだけど、組織内のNo.2を丸め込んで、クーデターを起こしたのよ』
「で」

興味なさそうに麦野が答える。
そんなの、上手くいかないに決まっている。

『当然失敗して、その馬鹿はNO.2共々組織からも追われる身になったんだけど… 運の良いことに組織から逃げ出すのには成功したみたい』
「それじゃ、状況変わって無いじゃん。腰を落ち着けたら滝壺が補足、アタシか絹旗が襲撃して終わりじゃん」
『いやー、アタシもそう思って、たった今滝壺にサーチしてもらったんだけどさ。滝壺が変な事言うのよ。『麦野とそろそろ出会う』って』
「は?」

ひどく嫌な予感がして、麦野は視線を巡らす。今、彼女が立っているのは大通りから外れた路地裏一歩手前。

通行人は全く居ない。

『でね、アンタのGPSと馬鹿の現在地を照会したら、ばっちり逃亡ルート上にアンタが居るのよ。いやー、偶然って怖いわねー』
「ばっ、馬鹿野郎!! 最初にソレ言えよ!!」

電話の先で、絶対にコイツは笑っている。そう確信した麦野は、即座に電話を切ると、神経を尖らせて周囲を索敵した。

だが、それは既に不要な行為だった。

「あんたら誰だよ、俺らに何か用か?」

妙に落ち着いた上条の言葉が聞こえ、そちらに目を向けると、上条の視線の先に、いかにも柄の悪そうな学ラン姿と、神経質そうなスーツ姿の2人の男立っていた。

「お、お前…ッ!!」

スーツの男――元エスの馬鹿が、麦野の姿を確認して絶句する。

「畜生… テメェのせいで俺がこんな目に……」

彼の中でどういう超理論が展開されているのかは分からないが、どうも、ここまで追い詰められているのは麦野のせい、と彼は思っているようだ。

「こうなったら… ここで刺し違えて……」

物騒なことを口走る。今日一日で相当神経をすり減らしたのだろう、その声に余裕は全く無かった。

(まずいまずいまずいまずいーーーッ!!)

対する麦野も相当に動揺していた。身の危険を感じたわけではない。彼女が本気を出せば、ほんの数秒で馬鹿を含めた2人組を消し炭に変えることが出来る。
問題なのは……

(それをやったら、上条クンまで処理しなきゃならないじゃない……!!)

麦野沈利。外見はちょいキツ目の美人さんだが、その正体は、学園都市の暗部組織『アイテム』に所属する闇の掃除屋だ。

さらに、彼女は学園都市でも7人しか居ないレベル5の第4位。「原子崩し(メルトダウナー)」を操る超能力者なのだ…!

(どうするッ!?)

もちろん、もっともベターな方法はこの場から上条もろとも逃げ出すことである。
そうして、改めて体勢を整えて襲撃をすれば良い、その方が楽だ。

だが、万が一。いや億が一、この馬鹿どもを取り逃がしてしまったら?

(ない、とは言い切れないわね… 実際、コイツはアタシ達から半日逃げ回っていたんだし…)

背中を冷たい汗が流れ落ちる。
暗部の基本は『目撃者すら残さない』だ。それに従えば、当然、上条も抹殺対象となり得る。

(……はぁ、柄にも無いことしちゃったわね。もう、二度とナンパの誘いに乗るのは辞めよう…)

ほの暗い暗部の常識が彼女を縛る。
恐ろしいほどの能面を被って、麦野が右手を上げた。

(せめて、一瞬で…)

目標は上条当麻。
彼女の超能力である『原子崩し(メルトダウナー)』は、例えるなら必殺の破壊光線を照射する能力だ。

その能力が、発動しようとしたその時、上条当麻が不意にしゃべりだした。

「なぁ、何の用かって聞いてんだけど。おっさん達、耳、聞こえてる?」

何気ない足取りで2人組に歩を進める。

「うるせぇ! 俺たちゃ、その女に用があるんだッ! ガキは引っ込んでろ!!」

元スパイがそう怒鳴る。すると、上条は首だけ麦野に向けて、落ち着いた声で聞いた。

「麦野さん、こいつら知り合い?」
「えっ、いや、知り合いってー言えば、知り合いだけど…」
「ふーん、友達?」
「んなわけね…… ないわよ!」

思わず地が出た麦野だが、上条は気にせず再び視線を2人組に向けた。

「つまり、お前ら麦野さんに迷惑かけてるわけか…」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでそこをどきやがれ!」

学ラン男が怒鳴る。恐らく、彼がクーデターに失敗したNo.2なのだろう。

しかし、上条はそれに取り合わず、ポケットから掌大の薄いフィルムシートを2枚取り出すと、それを手際よく両手甲に貼り付けた。

「……テメッ、やる気か!?」

それを見た学ラン男が俄かに身構える。

上条が貼り付けたフィルムシートは、一般学生には馴染みが薄い物だが、裏家業に生きる彼らにとっては馴染み深い物だ。

厚さ、たった数ミリのフィルムだが、その正体は学園都市の超科学で作られた高効果衝撃吸収シートだ。
このシートを貼り付けていれば、たとえ鉄の扉を殴ったところで、手指へダメージを受ける事は無い。

つまり、上条は無言で「いまから殴り合いをします」と宣言したのだ。

上条は2人組から視線を外さないまま、左手をやや前方に突出させ、左足を半歩進めた前傾姿勢を取った。

「…大人しく逃げるんだったら、このまま見逃すぜ?」

いやに低い声で上条が言う。その台詞2人組も覚悟を決めたのか、学ラン男が一歩前に出る。

「か、上条クン、危ないわよ!」
「麦野さんには、指一本触れさせませんから」

今度は振り返らずに言う。
中々に決まった台詞だが、麦野には大馬鹿の台詞に聞こえた。

(確か、前に渡された資料では、組織No.2のあの学ランはレベル3の強能力者…!)
あんなフィルムシートを常備しているくらいだから、上条も多少は喧嘩の心得があるのだろう。
しかし、能力者が相手なら話は全く違う。

能力の種類にもよるが、とうていレベル0の上条が敵う相手ではない。
自分で殺そうとしたくせに、麦野は上条のことを本気で心配した。

「お望み通り、テメェから火達磨にしてやるッ!」

学ラン男が空中の一点を注視するように自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を構築する。

(あいつの能力は、確か…ッ!?)

事前に読んでいた資料を思い出す。資料に書いてあった学ラン男の能力は発火能力(パイロキネシス)レベル3。
能力の中でも、比較的戦闘に向く能力だ。

「駄目よッ、上条くん!!」

とっさに麦野が叫ぶ。しかし、それが合図になったかのように、上条は弾かれたように学ラン男に向かって走り始めた…!




発火能力(パイロキネシス)とは、意外に定義の広い能力である。

一般的には、任意の場所を発火できる能力を指すが、発火までの過程が多岐にわたる。

指定した空間の微細なチリを発火させるもの、対象物の温度を急激に上昇させるもの、など、方法は様々だ。

学ラン男の場合は少し厄介な手順が必要なものだった。

(一瞬で丸焼きにしてやる…ッ!!)

学ラン男の暗く激しい思考が現実を侵食する。

右手人差し指と中指に嵌めたセンスの悪い指輪を、突進する上条に向ける。
すると、彼だけに見える“AIMの道”が出現する。

彼の能力名は『酸素回廊(オキジジェンルート)』。空中の酸素を集約・圧縮し操る能力だ。
コントロールされた圧縮酸素は、細い糸となって上条の身体に纏わりついた。

「セット完了… 燃えろッ!!」

 学ラン男が、火打石代わりの指輪を擦り合わせると、小さな火花が弾け、それはすぐに圧縮された酸素に引火。

 たちまち火線が上条に走る!

 後は上条の服が燃え上がって勝負は決まる。学ラン男は自分の勝利を疑わなかった。
 しかし、

「シッ!!」

短い吐息と共に、上条が左手を素早く前に突き出す。

上条が差し出した左手は、高速で走る火線を見事に掌で受け、そして、

火線はあっけなく消失した。

「…は?」
「……ッ!!」

学ラン男が間抜けな声を出す。そして、後ろで今の現象を見ていた麦野も息を飲む。

「………ぉおお!!」

一人、上条だけが動揺も無く動く。
一気に学ラン男との距離を詰めると、左足を大きく前に踏み出し、体幹の強烈な右回旋と共に、左手を振りぬいた!

ドゴッ!!

強烈な左スマッシュが、正確に学ラン男の鳩尾を捉える。

「あッ、がっ…!!」

腹部からの強い鈍痛に、学ラン男の体がくの字に折れる。

「おぉ!」

上条はさらに引く左手の勢いで体幹左回旋し、右足を大きく一歩踏み出すと共に、右拳を高速で突出させる。

ズッ!

重軽い音がして、学ラン男の首が強制的に後ろに折れる。

綺麗なフォームの、まるでお手本のような右ストレートだ。

学ラン男が、がくっ、と両膝をついたのを確認すると、今度は上条は元スパイに突進した。

「ちょ、お、お前ッ!!」

明らかに動揺した元スパイが、片手を後ろに回す。
おそらく、そこに拳銃でも隠し持っているのだろうが、上条はそれが取り出されるより早くクロスレンジに入ると、小さく身を屈めて、体重の乗ったボディストレートを放った。

「ぐぁ…!」

胸骨の下周辺を痛打された元スパイの顎が下がると、今度は狙い済ました右アッパーカットが元スパイの身体を跳ね上げた。

一瞬、完全に身体が宙に浮いて、元スパイは頭から崩れ落ちて失神した。

「………ふっ」

しばらく油断無く身構えていた上条は、2人が完全に倒れたことを確認して、ようやく全身から力を抜いた。




戦闘の終わった空間で、麦野沈利の思考が回転する。

「………」

自分をひっかけたナンパ学生が、一応は百戦錬磨のはずの2人をのした。

それはそれで驚く内容だが、麦野には看過できない1つの現象があった。

(確かめるか…)

麦野は軽くうなずくと、足取り軽く上条に近づいた。

「あっ、麦野さん、あとは警備員(アンチスキル)に連絡… でいいスか? こいつら、レベル0の俺に能力使ったし、武器も持っているみたいだし…」

何か勘違いしているのか、上条が確認を取るように麦野に言う。しかし、麦野はそれに答えず、素早く上条の左手を両手で持った。

「あ、あの…?」

動揺する上条に、麦野は今日一番の笑顔を見せる。

「あは、上条クンって、凄く強いのね。カッコ良かった!」
「えっ、いや、そ、それほどでもないですよ……!」

上条にとっては、狙い通りの効果だが、流石にこの反応は予想できずに身体が固まる。
そして、左手を包む柔らかい感触にドギマギする。

しかし、上条には完璧に隠しているが、麦野の眼は全く笑っていない。

(『原子崩し(メルトダウナー)が発動しない…ッ!?)

実は麦野は、手から極少出力の『原子崩し(メルトダウナー)』を放出しようとした。
極少といっても、本来は鉄壁をもぶち抜く威力の『原子崩し(メルトダウナー)』だ。熱いどころでは済まない。

それなのに、上条に異変は無い。

(厄介だけど、面白いわね…)

心の中でにやりと笑うと、麦野は舌で右上第3臼歯を軽くなぞる。
一定の手順を繰り返すと、精巧に作られた義歯から、幅数ミリの極少カプセルが舌の上に落ちた。

ともすれば、存在を触り失いそうになるそのカプセルを舌の上で構えると、麦野は一気に上条と唇を合わせた。

「………!?」

あまりの行動に酷く仰天する上条を無視し、舌を使ってカプセルを強引に上条の口腔に流し込む。
唾液と共に送られたソレを、上条は知らずに飲みこんだ。

「…えっと、あの、え、ご、ご褒美とか… ですか? はは、やりぃ…… って、はれ……?」

顔全体を喜色で埋めた上条が、一瞬にして意識を失い崩れ落ちた。
麦野が使ったカプセルには、速効性の睡眠導入剤が封入されていたのだ。

「薬は効く、と……」

お情け程度で上条の身体を支えた麦野は、コクコクと納得するように頷くと、携帯を取り出してどこかしらに電話を掛け始めた……




目覚めは最悪だった。

「ここ… どこだよ……?」

上条が、ようやく深い睡眠から目が覚めると、そこは全く知らない景色だった。

12畳ほどベッドだけの空間に、上条は一人後ろ手に縛られて、ベッドの上に転がされていた。
しかも、

「パンイチかよ……」

上条の格好はボクサーパンツ1枚のみだ。

空調はしっかり管理されているのか寒さは感じないが、流石にこれは落ち着かない。

「てゆーか、何でこんな目にあってるんでせう…? 上条さんは下心アリアリでナイト役をやっただけなのに…」

むしろソレが悪かったとは考えたく無い。
上条があれやこれやと妄想をしていると、部屋のドアが唐突に開いた。

「…あ、超起きてますね。超うぜー」

ドアの外から顔を覗かせたのは、ローティーンのパーカー姿の少女だ。

彼女は詰まらなさそうに上条を一瞥すると、すぐに顔を引っ込めてドアを閉じた。

「…いや、誰なんだよッ!?」

思わず叫んでしまう上条。

すると、ドアの外から「うっさいわねー」と今日一日で聞きなれた声がした。

「目ぇ、覚めた?」

ドアから登場したのは、当然、麦野沈利だ。
昼間被っていた、キツ目美人の仮面は完全に脱いでおり、素の乱暴な口調である。

「ったく、テメェのせいで大した苦労だよ。ちっ…」

不機嫌を隠そうともせず、麦野が頭をガシガシと擦る。

その変貌ぶりに目が丸くなる上条。

「あ、あのぉ、麦野さん…」
「まず、質問に答えなさい」

なんとか会話しようと声を掛けた上条だが、それに被さるように麦野が詰問を開始した。

「アンタ、レベル0って嘘でしょ?」
「い、いや… 上条さんは正真正銘のレベル0なんです、けど……」

答える上条の声がどんどんと小さくなる。それもそのはずで、言っている途中から、麦野の眉尻がキリキリと吊り上ったからだ。

絶句する上条の前で、麦野は上条から剥がしたであろうフィルムシートをひらひらと舞わせた。

「あ、それ…」
「素直にしゃべらねぇと、こうなるぞ?」

麦野が能力を発動すると、フィルムシートが一瞬で灰に消えた。

あのシートは耐衝撃性だけでなく、耐火性にも優れている。
それを一瞬で灰にできる能力など、上条は知らない。

「いやッ! 嘘っつーか、嘘じゃないっつーか!」
「アンタのシステムスキャンの結果は知っているわ。その上で聞いてんだよ…!」
「わ、わかりましたッ! 話します、話しますからッ!」

さらに麦野が凄むと、観念したのか、上条がぶんぶんと首を縦に振った。

「だ、誰にも話さないでくださいよ… 実は…」

上条は、しぶしぶ、といった風に己の秘密を暴露した。

いわく、自分の左手には、あらゆる異能を打ち消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が宿っており、これまで打ち消せなかった能力はないとのこと。

「レベル0なのは、システムスキャンの機器の性能も打ち消してるんじゃないかって… 中学ん時の担任が言ってました」
「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』ねぇ… で、この秘密を知っているのは?」
「えっ、そこまで話すんスか? うぅ… 中学と高校の担任と、仲の良い友達2人の4人だけです。名前は、勘弁してください!」
「ふん… まぁいいわ」

努めてどうでも良い風に麦野が言う。だが、内心では口の端が吊り上りそうになるのを抑えるのに必死だ。

(コイツは拾いモンだな… カモネギっつーか、立ってるだけでこんなのが釣れちゃうなんて、美人は罪ねー)

そう思ったら耐え切れず、麦野は口に手を当てて「ククッ」と短く笑った。
その笑いが、いかにも悪役じみていて、上条は背筋が冷たくなるのを感じた。

「あの… お姉さん、もしかして、ヤバイ人ですか…?」

へらへらと愛想笑いを浮かべて尋ねる。

「んー、上条くんはどう思う?」

表情を昼間の笑顔に戻して言うが、上条には悪魔の笑顔に見えた。

「もしかしなくても、暗部の人…?」

この学園都市には、開発された能力を使って、あるいは使わされて、学園都市を統べる統括理事会からの汚れ仕事を行う集団、通称『暗部』が存在する…

一般学生、特にレベル0の間でまことしやかに流れる噂だが、友人を通じてスキルアウトとも多少のつながりがある上条は、その存在が真であることを知っていた。

麦野は、ふぅ、と軽く息を吐くと、上条の顔を覗きこんだ。

「正解。どこでどう聞いたのかは知らないけど、だいたい、想像している通りで間違い無いわよ。私は暗部組織『アイテム』のリーダーで、レベル5の超能力者、麦野沈利よ」
「れ、れべるふぁいぶ…ッ!!」

そのあまりのレベルの高さに絶句する。
レベル3でも雲の上の存在なのだから、レベル5だともはや別の星の話だ。

「上条クンの能力も、正式に評価すればレベル5相当だと思うけどね。ま、それはどうでも良いわ」

そういうと、麦野はやおら縛られた上条を仰向けに転がすと、馬乗りになって右手を上条に向けた。

「うわっ!」
「はい、説明はここまで。さて、上条クンには2つの選択枝があります。私の下僕になって生き延びるか、拒否してこのまま一生を終えるか… さぁ、どっち?」
「いきなりですかー!?」

思わず逃れようと身体をジタバタ動かすが、重心に乗られているせいか、思うように身動きが取れない。

「あ、それ以上暴れるなら、答えを聞かずに焼却処分だから♪」

楽しそうな、しかし、ドスの効いたその台詞に、上条の動きがピタリと止まる。

恐る恐る麦野の表情を見上げるが…

(こ、こえぇぇ…!)

目端も口の端も吊り上ったその笑顔は、まさしく肉食獣の笑みである。
上条は本能的にこの女には逆らえないと理解した。

(けど… 暗部の一員!? そ、それは嫌だッ!! 上条さんは気楽な一般学生で居たいのに…!)

やはり、己の分をわきまえず、こんな美人をナンパしたのが間違いだったのか… 
明日から夏休みだからといって、浮かれた自分が悪かったのか…

「あ、あのー… 質問とかは…?」
「あと5秒ー、ごー、よーん、さーん……」
「うわぁぁ!! な、なります! 下僕になりますッ!! 犬とお呼びください、麦野さま!!」

反射的に叫んで死ぬほど後悔したが、実際に死んでしまっては元の子も無い、と上条は無理やり納得することにした。

「そう… アタシは殺ると言ったら本気で殺すから。今から長い付き合いになるかもしれないんだし、よく覚えておいてね」

満足そうにそう言うと、麦野はゆっくりと立ち上がった。
上条は、かなり本気で引いたが、今は頷くしかない。

「絹旗ー、おっけーだってさ」
「…うげぇ、素直に超殺されていてくださいよ… 男を入れるとか、超面倒です…」

麦野が隣室に声をかけると、先ほどチラリと顔を見せたフードの少女が、なにやら色々な機器を持って入ってきた。

「まぁ、麦野が良いって言うんなら、超従いますが… あー、絹旗最愛です。 たった今から超クソッタレな毎日が始まりますが、運命だと思って、超諦めてください」

ほとんど投げやりにそう言うと、絹旗はペンシル型の注射器を上条の右腕に当て、躊躇い無く注入スイッチを押した。
プシュ、と軽い音がして、極微量の液体が上条の体内に入り込んだ。

「痛ッ! え、なんだよ、今の…?」
「専用のAIMにだけ反応するナノデバイスです。まぁ、主に所在地確認と超裏切り防止ですね。あと、『アイテム』専用の携帯端末と、偽の学生証が3つと偽造免許が1つ…
 あ、これはウチのメンバー超謹製のスタングレネードです。男の人なんで、数珠タイプにしときました。
 あと、20万ぐらい入っているマネーカードが5枚。使うときは、きっちり領収書貰って、あとで申告してくださいね。活動外で使ってもかまいませんが、超節度は持ってください。それと…」
「あのー、まずは縄を解いてもらえないでしょうか…?」

機関銃のように説明する絹旗を遮って上条が懇願する。流石に体勢がきつい。

「…らしいですけど、麦野?」
「しばらくそのまま」
「だ、そうです。超ご愁傷様です。最後に、この携帯端末に『アイテム』の組織名簿が載っています。しかし、閲覧したら超記録が残るので、超注意してください。
 では、他に質問は? 無いですね。それでは、私は上に結果の報告と調整を行ってきますが… 麦野?」
「基本的に、立ち位置はアタシの盾、場合によっては滝壺の盾。左手については当然秘密にしといて」
「…超了解です。やれやれ、あの喧嘩の映像から加工が必要みたいですね… それじゃ、私は超失礼します、あとはごゆっくり…」

言うだけ言うと、絹旗は部屋から出て行った。
さらに、玄関らしきドアの音も聞こえたところから、完全に屋外に出て行ったようだ。




「さて、と…」

絹旗が完全に出て行ったことを確認して、麦野はベッドの端に腰掛けて上条の顔を覗きこんだ。

「混乱してる?」
「…当たり前ッス」

若干拗ね気味に上条が答える。

「クスクス、ごめんなさい。でも、こうでもしないと、上条クンを処理しなきゃいけなかったんだから、まずはアタシに声を掛けた不幸を呪いなさい」
「はぁ、不幸だ……」

うなだれる上条を見て、麦野の笑みが悪戯っぽいものに変わる。

「ねぇ、『アイテム』に入るのはそんなに嫌?」
「そりゃ… 暗部って噂にしか聞いたことないですけど… 人殺しとかする、裏の掃除屋でしょ?」

かなり躊躇いながら上条が言う。しかし、そこは最も気がかりな点だ。

「結果として人殺しになることはもちろんあるわ。でなきゃ、こっちがやられちゃうからね。けど、上条クンには人殺しはさせないわよ」

そう言うと、麦野はさらに顔を上条に近づけた。

「上条クンさぁ… アタシのマジカレになんない?」
「は…?」

この流れからどうしてその発言なのか? 上条の頭にハテナマークが無数に飛び交う。

「あの… 上条さんは基本馬鹿なんですけど… どういうことでせうか?」
「何言ってんの、そのままの意味じゃん。アタシと付き合わないか、ってこと。あれ、脈無し?」
「い、いや、突然すぎてビックリっつーか、この状況で理解しろっていうのが無理っつーか…」

混乱する思考をなんとか整理しようとする。

目の前に居る女性は、今日ナンパした美人さん。

しかし、美人さんはただの美人さんではなく、学園都市暗部に所属する危険な美人さんだった。

それにほいほい声をかけて、しかも良いとこ見せようとした自分は、一転、危険な契約を交わしてしまった。
そして、抵抗できない状態で『付き合わない?』と切り出される。

…どう考えても美人局である。

「あの… なんで俺なんスか…?」

いろんな意味を込めてそう問う。

「ふむ… 『丁度良い』とか、『便利そう』とか、そんな感じかしら?キミの左手の能力は盾に丁度良いし、今日のデートを見る限り、気も利くし便利そうだから」

身も蓋も無いとはこの事である。

「丁度良い便利キャラっすか、はは…」

「意外と重要な要素だと思うけどね。それに…」

麦野が笑う。

「一回のデートでアタシを落としたつもり? こっちは続きもオッケーって言ってるのに、据え膳食わないの?」

そう言うと、麦野は片手を伸ばして上条の腹筋を撫ぜ始めた。

「鍛えてるわね… ボクシング部?」
「い、いや、違います… ほとんど独学と、あとは友達からたまにコーチを受けて…」
「へぇ、朝ランとかしてるの?」
「は、はい、毎朝10km走ってます。 …あの、麦野さん?」

上条の声が震える。腹部を撫ぜていた麦野の手が、どんどんと下に降りて行ったからだ。

「アタシ、筋肉質な子って、好きよ… 逆に嫌いなのは、ホストタイプや、もやしタイプ。やっぱり男には力強さを求めたいわね…」

言いつつ、麦野の手がとうとう上条の股間に触れる。

「うぁ…」
「あは、固くなってんじゃん」

弟の悪戯を見つけた姉のように、麦野が楽しそうに笑う。

麦野の手が、股間の形を確かめるように大胆に動いた。

「む、麦野さん、ソレ以上は…ッ!!」
「アタシの男になるんだったら、今すぐ『ソレ以上』もできるんだけどなー…」

上条の喉が派手に「ゴクリ」と音を立てる。

その誘いは明らかに罠だ。完全な色仕掛けだ。

だが、思春期真っ盛りの上条少年が、その誘惑に耐え切れるはずも無かった。

「なりますッ!! 盾でも何でもいいので、付き合ってくださいッ!!」

上条、魂の叫びである。

その叫びに、麦野は、にたぁ、と笑うと、股間を撫ぜ回していた手を突然離した。

「えっ…?」

不安そうに声を上げる上条を見下ろすと、麦野は静かに顔を寄せて、上条と唇を合わせた。
「ん…」

薬を飲ませた不意打ちのファーストキスと違って、それは、長く、静かな、情熱の篭ったキスだった。

上条の唇を丹念に愛撫し、おずおずと差し出された舌を唇ではむ。
そっと両手で上条の頭を挟むと、大量の唾液を口腔内に流し込む。

それは恐ろしく興奮する味だ。

「じゅぷ… ぢゅ……!」

散々舌を絡めてから、麦野がゆっくりと顔を引き離すと、2人の唇の間に、銀色の糸が伸びた。

「すげぇ……」

夢見心地、といった風に上条が呟く。

「言っとくけど、アタシは結構キミに本気なんだ。上条クンが今日みたいにアタシを守ってくれるなら、アタシは絶対に貴方を裏切らない…」

麦野が着ている服を脱ぎ捨てる。

形の良い豊乳があらわになり、上条の眼が釘付けになる。

「アタシの男になるんだから、この身体は上条クンのモノよ。だから、失望させるような事はしないでね」

手を伸ばして、上条のボクサーパンツを一気に抜き取る。

散々お預けを食らっていた上条のペニスが天に向かって反り上がる。

「ふふ、おっきいじゃん…」

邪魔にならないように片手で髪をかき上げて、棒が暴れないように片手でそっと包んで、麦野はペニスの先端を躊躇なく咥えこんだ。

「嘘ッ! マジで!!」

上条にとってはフェラチオ初体験だ。

生暖かい口腔の感触に、思わず暴発しそうになるのを必死に堪える。

じゅぶ、じゅぷ、ぢゅ……

唾液を丹念にまぶすように、ペニス全体を舐めまわす。

時折、顔を上げて上条の表情を確認すると、クスッ、と悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「ん… じゃ、こっちも準備してもらおうかな…」

いったん身体を離すと、麦野はショーツをスルスルと脱いで、ペニスを掴んだまま上条の身体に跨った。

いわゆる、シックスナインの体勢だ。

「濡らし方、わかる?」
「は、はい!」

目の前に突き出された淫靡な器官に、上条は迷うことなくむしゃぶりついた。

「ン… もっと優しく… そう、良いわよ…」

手コキで暴発しないように刺激しながら、麦野が上手く腰を動かして上条を誘導する。

(ふふ、ホント、犬っころみたいねぇ…)

経験的に、男はクンニを嫌がるものだ。

そういう状況に麦野が追い込んだにしても、上条の一生懸命な奉仕は心地良いものだった…

「…もう良いわよ」

そろそろ上条の顎が疲れ始めたとき、麦野はそう言って体勢を入れ替えた。
上条に正対して馬乗りになる形… つまりは騎乗位だ。

「入れるわ」
「…はい」

短い応答の後、麦野は腰を屈めて上条のペニスをヴァギナに飲み込んだ。

ズブ、ズブ、と卑猥な音を立てて上条のペニスが麦野の腟内に消えていく。

麦野の太ももが上条の身体に触れ、互いの陰毛が触れ合うと、コツン、という感触があって、ペニスの先端と子宮口が接触した。

「すご… キミのチンポ、アタシにぴったりじゃん……」

流石に余裕が無くなってきたのか、粗く息を吐きながら麦野が言う。
相当に感じている様子だが、それは上条も同じだ。

「なんだコレ… 気持ちよすぎる……ッ!」

(ナカが… すげぇ温けぇ… チンポの先が融けたみたいだ…)

麦野の膣壁は、例えるならば肉のヤスリだ。

上条のペニスをあらゆる方向から削り、刺激し、絞り上げている。入れた瞬間に射精しなかったのが奇跡だ。

だから、こういうことをされたら耐えられなくなる。

「動くよ… 遠慮なく腟内でイッていいから…」

麦野が腰を前後に動かす。

男にとって、騎乗位ではコレをやられるのが一番効く。

肉ヤスリがペニス全体を擦りあげて、しかも軽いピストン運動も入るのだ。

当然、上条は我慢できなかった。

「うっ、駄目だ! 我慢できねぇ!!」

最後の理性で麦野から逃れようともがくが、逆に麦野にがっちり抱きつかれて小刻みに腰を動かされてしまう。

「……出るッ」

麦野の最奥で、上条は盛大に射精した。
それは、上条がこれまで体験したことの無いような、長く、激しい射精だった。
ペニスの先端が爆発したような感触だ。

麦野も、吐き出された精液の量がわかったのか、驚いたように目を丸くする。

「うわー、すっごい出てる… なぁにぃ、溜まってたの…?」
「まさか… 麦野さんだから…」

本心から上条が言う。
こんな気持ちのいい膣壁なら、出ないほうがおかしい。

「ありがと、これで一応、恋人同士ね」
「一応、すか…」
「ま、会って12時間しか経ってないしねぇ…」

そういうと、麦野は精液がベッドにこぼれないように、ハンカチで秘所を押さえて立ち上がった。ついでに、
上条を縛っていた縄を能力で焼き切る。

「シャワー浴びてくるから、上条クンは隣の部屋の冷蔵庫から何かてきとーに料理作って。簡単なもので良いから」

そう言われて、夕食がまだだったことを思い出す。

「…ヨロシクね」
色々な意味を込めて、麦野が言った。




夕食の後は第2ラウンドだった。

「あっ、あっ、あっ、そこッ!! 突いてッ、もっとッ!!」

四つん這いになった麦野をバックからがんがん突く。

パンッ、パンッ、パンッ!!

上条の下腹部が、麦野の形の良いお尻にぶつかり、小気味の良い音を立てる。
そのたびに、かなり大きな麦野の豊乳がぶるんぶるんと揺れた。

「はぁ、はぁ、はぁ… くっ、締まる…ッ!!」

手形が付くほど麦野の腰を両手で強く掴んで、激しく腰を打ち付ける。

麦野の膣の締まりは相当で、ペニスを引き摺り出すにも軽い苦労が必要となる。

「良いよ、上条クン、気持ち良い… ホントに2回目?」

夕食の席で確認したが、上条は童貞ではなかった。

しかし、それも単に「1回目は、なんかノリで…」経験しただけで、テクニックや耐性はゼロに近い。

「ホントに麦野さんが2回目ですッ! こっちは、必死です…ッ!!」

パン、パン、パンッ…!

リズムカルな音が段々とペースを上げる。

上条の限界を感じた麦野は、顔を後ろに向けると、「いいよッ、腟内でッ!」と短く言った。

「だ、出しますッ!!」

これが最後と、思いっきり腰を前に突き出して、上条はまたしても麦野の最奥に射精した。

「すっげぇ気持ち良い… 腟内射精って、すっげぇ気持ち良い……」

だらしない表情で上条が呟く。よくよく見れば、口の端によだれも見える。

「あ、今抜かないでね…」

こちらも肩で息をしていた麦野が、繋がったまま器用に身体を半回転させる。
後背位から正常位に移行すると、麦野は微笑んで両手を上条に向けた。

「だっこ」
「…あぁ」

意味を理解した上条が、抜けないように注意しながら麦野の背中に両手を差し込み、ゆっくりと麦野の状態を起こす。

「あん… 深いぃ……ッ」

体勢的にさらに最奥を突かれるカタチになって、麦野が桃色の吐息を漏らす。

2発目を出したばかりだが、上条の分身はまだまだ元気だった。

「何回出すつもり、ねぇ?」
「んなこと言ったって、麦野さんのナカ、すっげぇ気持ちいいし…」

2発出した事で少しは余裕が出来たのか、上条が口を尖らせて言う。

「…ね、キスしてよ」

麦野がねだると、上条はややぎこちなく麦野と口唇を合わせた。

「ン…… ギュっとして…」

言われるがままに、背中に回した手に力を込める。勃起した乳首が胸板にあたり、コリコリとして気持ち良い。

「力強くて良いわ… もっと……」

上条がさらに力を込めると、麦野はその長い両脚を上条の腰に絡め、腹筋を小刻みに収縮させた。

「うっそ…! マジでッ!?」

上条が「信じられない」といった表情で言う。

麦野の身体は全く動いていないが、腟内だけは別の生き物のように、うねうね、と締緩を繰り返し始めたのだ。

「どうじゃー、気持ちいいだろー」

してやったりな表情で麦野が言う。上条は白旗を揚げるように天を仰いだ。

「…世の中には、こんな気持ち良いコトがあるんだなぁ… と上条さんはしみじみと感じていますです…」
「おっさんくさ… 若いんだから、もっとがっつきなさいよ」

麦野が不満げに言うと、上条は「それなら…!」と麦野を押し倒す。

内心、「コレ、許してくれるかなー」と思いつつも、麦野の身体を180度折り曲げ、いわゆるまんぐり返しの体勢を取らせる。

「ふーん…」

それでも余裕綽々な態度の麦野に、上条の男のプライドが疼く。

さっきのバックも麦野にリードされっぱなしだったのだ。そろそろリードを奪いたい。

「思いっきり行きますッ!!」
「どうぞ」

上条が、すぅーーっ、と大きく息を吸う。
ボクサーだけあって、その肺活量は相当なものだ。

ずずっ、とゆっくりペニスをカリまで引き抜くと、確認するように麦野と視線を合わせ…

ズンッ!

思いっきり麦野を貫いた。

「はぁぁぁぁぁッッ!!」

凄まじい衝撃に、たまらず麦野のおとがいが反る。

軽く達したようで、膣壁が、ぎゅぅ、と締まった。

それを敏感に感じ取った上条は、イカせた喜びに染まり、さらに乱暴に腰を打ち付けた。

バンッ!! バンッ!! バンッ!!

「あッ!! あッ!! あッ!! あぁんッ!!」

麦野の身体がベッドの上で激しくバウンドする。
本能的な恐怖を感じたのか、両手がひき千切るようにシーツを掴んだ。

「…………ッ!!」

動く上条も必死だ。
無酸素運動のラッシュは練習でも本番でもやったことがあるが、これはそれ以上にキツイ。

下半身の快感など感じる暇は無い。
ただ、衝撃と悦楽にゆがむ麦野の表情と艶声を糧に、激しく腰を動かす。

「やっ、すごっ、はげしぃッ!! すごいよ、上条クン!! すごいッ!!」

麦野にしても、上条がここまでやるのは嬉しい誤算だ。

テクニックなど欠片も無いが、勢いと、なによりスタミナが素晴らしい。
こんなに力強く、激しく、長く動いてくれる男はなかなか居ない。

「イク、イク… イクよ… イッちゃう!!」
「お、俺も… もう、出ますッ!!」

お互いに絶頂を確認し合うと、上条は最後の力を振り絞って麦野の最奥にペニスを打ちつけた。

その瞬間、本日3回目、抜かずの2発目が麦野の子宮を直撃した。

「――――ッ、あああぁぁぁぁッ!!」

まるで呼吸の仕方を忘れたかのように、麦野がぎこちなく肺腑の中身を吐き出す。

それでも、両脚はいつの間にか上条の腰に絡められていた。

「うわ… チンポの先が、ビクビク震えて…!」

(イッた後のマンコって、こんなに気持ちいいんだ…)

ただでさえ敏感な射精直後の亀頭が、絶頂の痙攣で揺れる膣に優しく翻弄される。

この快感は一生忘れない。上条は根拠も無くそう確信した。

「ん…」

麦野が軽く目を閉じると、既に意を得た上条は、すぐに口唇を寄せて麦野のキスの雨を降らせた。

「ん~~♪」

その行為に満足したのか、麦野がにっこりと笑った。

それは、今日初めて見る事の出来た、麦野の素の笑顔であった。

「はぁ~~~……」

流石に限界、という風に麦野がバタリと大の字に寝そべる。
弾みで、ずるり、と上条のペニスが引き抜かれ、麦野のヴァギナから、都合2回の精液がごぽごぽと溢れだした。

「いっぱい出したわね… 妊娠するかも……」

ボソッと呟くと、同じく肩で息をしていた上条が真顔で言う。

「責任、取る覚悟は出来てるよ」
「ぶっ!」

その台詞に、麦野が「ぎゃはははっ!」とはしたなく笑う。

よっぽどおかしかったのか腹を抱えて悶絶し、痙攣するたびに秘裂からゴポゴポと新しい精液が溢れた。

「なんスか、そんなにおかしいですか?」

上条が拗ねて口を尖らせる。
その様子に、麦野はさらに爆笑したが、上条が本気でいじけそうになっているのを見て、「馬鹿ね…」と上条の額にデコピンを打った。

「いてっ」
「オンナがナカで良い、って言ったんだ。きちんと計算してるに決まってるでしょ。ま、逆の計算もあるかもだけど、信じなさい」

そう言うと、麦野は自分の横をぽんぽん叩いて、「うで枕」と言った。
上条が仰向けになり左腕を横に伸ばすと、麦野が嬉しそうに腕の上に頭を置いた。

「えっと… もしかして今日はこのまま…?」
「いえーす、今からシャワー浴びるのもタルイでしょ? とりあえず、今日はおやすみなさい…」

そう言うと、麦野はすやすやと寝息を立てて眠ってしまった。

動こうにも動けなくなった上条は、翌朝には痺れて使いものにならないだろう左腕を見つめて呟いた。

「嬉しいけど、不幸だ……」

夜が、ようやく更けようとしていた……




翌朝、上条は腕の痺れと大きな物音で目を覚ました。

隣で寝ていたはずの麦野は、既に起きたのか居なかった。

「う… うぁー、やっぱ痺れてら… う~ん、目覚めがやけに爽快… って、あんないい思いをしたんだから当然か…」

昨日のセックスは、思い出すだけで勃起しそうになるほど強烈だった。

しかも、昨日の麦野の言葉通りなら、自分が頑張れば、あの身体をいくらでも味わうことが出来るのだ。

上条は顔が自然とにやけるのを感じた。

「暗部だろーが何だろーが、上条さんはやってやりますよ! っと、しかし、そろそろ服が欲しいな…」

今の上条は丸裸だ。とりあえず、脱ぎ捨ててあったボクサーパンツを履くと、隣室のドアが開いた。

「あ、麦野さん…?」

「超残念ですが、違います。ていうか、超どいてください。タンスを入れますので」

その声と共に入ってきたのは、妙に見覚えのあるタンスだった。そう、あのタンスは…

「……俺の部屋のタンスじゃねーかッ!!」
「はい? 何、超当たり前のことを言ってるですか? こちとら、麦野にアサイチで叩き起こされて気が立ってるんです。手伝う気が無いのなら、部屋の隅でぶるぶる震えていたください」

タンスが完全に部屋に入ると、それを両手で支えている絹旗が見えた。

大人の身の丈はあるタンスを、ローティーンの少女が一人で抱える姿は、ひどくシュールだ。

「よっこいしょ」

全く息を乱すことなく、絹旗はタンスを部屋の隅に置いた。

「タンスの場所は超ココでいいですか?」
「は…? いや、何で上条さんに聞くのでせう?」
「何でって… あぁ、なるほど… それじゃ、勝手にレイアウトを決めますね」

そう言うと、絹旗はどんどん家具を部屋に持ち込んだ。

参考書や漫画が入った本棚。
布団に包まれた大量の衣類。
ラジカセ・テレビ・他こまごました小物が入ったままのメタルラック…

それらがどんどん運び込まれ、殺風景だった部屋が一気に男子学生の部屋になった。

「お、おい! なんで俺の部屋の荷物がココに運ばれてるんだよッ!」

流石にたまりかねて上条が詰問すると、絹旗は心底、哀れな者を見る目つきで言った。

「麦野は… 見た目どおり気難しいオンナなんで、超努力してご機嫌をとってください。1に麦野、2に麦野、2,4がなくて超麦野。それぐらいの扱いで超お願いします」
「いや、答えになってねーし…」
「あぁ、終わったわね」

上条が唖然としてると、麦野が姿を現した。

昨日の乱れた姿はどこへやら。既にばっちりメイクも決めて、見事なまでの美人さんである。

「食器とか、ここと重複する物は処分したわ。冷蔵庫は迷ったけど、2ドアだったから要らないわよね。あと、ベッドはそれ使ってね」

テキパキと指示を出す。

「整髪料とか、そこらへんの消耗品は今日買いに行きましょ… なによ、なんで変な顔してるの?」

麦野が訝しげに2人の表情を伺う。

上条と絹旗はお互いに目配せをし合うが、絹旗が黙って首を切るジェスチャーをしたので、上条は恐る恐る尋ねた。

「あのぅ… もしかして、上条さんはココに住むんでせうか?」
「はぁ? なに寝ぼけた事言ってんの?」

麦野の台詞に一縷の希望を見出す上条、しかし…

「そんなの当たり前でしょ? アンタは私の盾なんだから、四六時中一緒に付いてもらわなきゃ困るじゃない」
「ま、マジで…ッ!?」

上条の顔面が蒼白になる。いくらなんでも行動が突飛で、しかも早すぎる。

「ま、とりあえず、タンスから服を出して、シャワー浴びてきなさい」

右手の親指を、クイ、とドアの外に向けて麦野が言う。

片目を瞑ってにやけている所を見ると、上条の反応は期待通りのものだったようだ。

「ま、これから超よろしくお願いします。 …それと、超ご愁傷様です」

 絹旗がポンと上条の肩を叩くと、それを合図に上条は崩れ落ちて呟いた。

「不幸だ……」








                                                   第一話 -プロローグ- 了
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