とある世界の残酷歌劇 > 終幕 > 02


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空間を稲妻が疾駆する。

水平方向への落雷というありえない現象。
音をも遥か後方に置き去りにして白雷は暗闇を割り、刹那で垣根へと飛来した。

空間そのものが炸裂するような大衝撃を受け大気が鳴動する。

莫大な音波と膨張した空気の衝撃によって周囲のビルの窓ガラスが残らず砕け屋内へと降り注いだ。
幸いにして――というべきだろうか。辺りに立ち並ぶビルに人の気配はない。

だが音そのものが暴力となるほどの一撃が、余波を全く顧みられずに打たれれば騒ぎとなる事は間違いない。

ただでさえ夕方には往来のど真ん中で超能力者が戦闘を行い、マンション一つが崩壊し、最新鋭機のヘリが電波ジャックによって強奪されている。
その上すぐ傍、廃墟となった研究所ではつい先ほど白井と砂皿による死闘が繰り広げられていたばかりだ。

警備員らはまだ現場に残っているだろう。だというのに周囲に轟く大音声を躊躇なく振り撒く。
御坂美琴は既に秘密裏に事を進めようなどとは微塵も思っていない。

しかし狂気に罹りながらも御坂は間違いなく正気だった。

我を忘れてなどいない。冷静な思考のまま、その思いを烈火の如く燃やしている。
凍り付いた炎という矛盾。それこそが彼女ら超能力者だけが至る事のできる境地。
その世界は自己の激情などで瓦解するほど柔なものではない。

理路整然と、完璧に計算されつくされた超常。
もはや一個世界を内包しているともいえるそれらは自身の感情すらも統制下に置き機械的なまでの完全さで世界を汚染する。

御坂は警備員など眼中にない訳ではない。
正しくリスクリターンを計算した上で――道に転がる小石ほどの障害にもならないと断じただけだ。



人の反射速度の限界値すら振り切って放たれた一撃を、垣根は雷光よりもなお早く展開した翼で迎え撃つ。
この世ならざる物質に打ち払われた雷電は四散しながらもその熱量を無差別に放射し路面や周囲の壁面を穿つ。

彼もまた超能力者の一角だ。
御坂と合い見えた瞬間から、この場で戦闘に入るリスクを計算していた。

不確定要素はあったものの御坂の様子と、そして『心理定規』の少女が殺害されたという事実。
それらを機械的に判断して警備員など歯牙にも掛けないだろう可能性も考慮していた。

だが垣根は驚愕せずにはいられない。

(コイツ――白井を迷わず撃ちやがった――!)

腕に抱えた少女は保険だった。
人質、とも言えるだろう。もちろん彼女が白井の死さえも厭わない事すら考えた。

だが彼女は、何の躊躇も、それこそ眼中にすら入れず、一顧だにしない。
友人、後輩、仲間、そういう気楽な連中が好む連帯意識は欠片もない。便利な手駒とすら思っていない。

御坂の目的は垣根だ。それが果たされた今、白井は必要ない。

『未元物質』垣根帝督を、白井がいなくとも打倒できると判断しただけだ。

(だが、この思考回路は――)

自分たちのような暗部に属する者独特のものだ。
これに情の絡む余地などない。全ては打算で行われる。
そんな冷え凝った理を安穏と微温湯に浸ってきた彼女が解せるはずがないのだ。
つい先日まで表舞台にいた御坂にとって一朝一夕で理解できるようなものではない。

つまり、そうしなければならなかったのだろう。
何が何でも慣れなければ、そういう思考に至らなければならないような状態になってしまい――結果、こうなった。



「ちっ……!」
       、 、
舌打ちして荷物を放り捨てる。

いくら能力の行使そのものに手足が必要ないとはいえ触れているだけで思考の枷となる。
幼い、それも大怪我を負い気絶した少女を投げ捨てるという行為に罪悪感を感じない訳でない。
だが同時に一切躊躇せずに行動にする。ある程度地点や速度、体勢などを考慮してやるくらいの余裕はあった。

身を軽くしたのは動きを行うためだ。
背から展開した六枚の翼を翻し、けれど風を打つ訳でもなく垣根は後方へと飛び上がる。

文字通りの雷速である御坂の能力に対し距離を取る事など意味はない。

反応速度は言うに及ばず、射程はそれこそ天上へと達するだろう。

だが能力を行使するのはあくまで御坂自身。
彼女は垣根や、そして一方通行のように空を翔る事など出来はせず――。

夜天へと舞い上がった垣根を、しかし御坂は追う。

まずは電灯、そしてビルの鉄骨へと磁力の腕を手繰り寄せ、コンクリートの壁面を蹴り夜空へと駆け上がる。



そして開けた視界にあるのは月光と電光に照らされた石の地平だ。

学園都市を形作る無数の建造物が檜舞台を作り上げている。
建物ごとに凹凸のある石原は所々に道や川の亀裂を走らせながらもどこまでも続いている。

見渡す限りに広がる月下の舞台。
そこに、今やこの二人こそが学園都市の頂点なのだという両の超能力者の影が躍った。



「来いよ超電磁砲、テメェはもうどうなってもお終いだろうが。俺が地獄に叩き落してやるよ――!」

片や、月光に六枚の白翼を煌かせビルの森を見下ろす『未元物質』垣根帝督。



「そうよ、お仕舞いにするの。アンタの下らない戯言も妄言も全部、私が終わらせてやるわ――!」

片や、自ら雷光を身に纏い黒衣を翻し月天を見上げる『超電磁砲』御坂美琴。



二度目の頂上決戦はこうして幕を開いた。



開幕の合図となったのは垣根の一撃だ。

音叉のように翼を振動させ大気を衝撃波として放つ。
撃たれた一撃は莫大な破壊力を伴いつつも確かな指向性を持ち一直線に御坂に飛来する。
カマイタチなどという生易しいものではない。それは全てを破壊する不可視の威力の塊だ。

人体など容易く破裂させる一撃を、しかし御坂は迎撃する。
垣根の攻撃の正体は空気振動だ。音の速さを持つそれは避けるなどという行為が通用するものではない。
だが御坂の能力は雷電。認識は光速であり、雷撃はそれに劣るとも音速など軽く凌駕する。

放たれた雷撃は音波を穿ち、有していた破壊力ごと炸裂する。
両者の間に爆風が生まれるが、指向は失われ無秩序な威力は拡散されている。

「この程度じゃ挨拶にもならねぇかよ!」

超電磁砲、第三位である彼女と自分の間にあった溝が埋められている事に垣根は驚愕しながらも好戦的な笑みを浮かべた。

圧倒的であったはずの彼我はどういう訳か失われ、御坂は垣根に伍している。

能力の出力が上がったとか、そういう簡単な話ではない。
彼女は不可視である音の波を知覚し、それを正しく迎撃したのだ。

明らかに一つ上の位階に昇っている。
単なる電撃使いとしての域を超越しているのだ。



「アンタ、人の事舐めすぎ」

返礼とばかりに光の一撃が空間を切り裂く。

先程の雷撃の道を導体としてローレンツ力により放たれたコインが暴力の塊と化し穿たれる。
初動の大気摩擦はない。稲妻の道により割られた刹那の真空を弾丸は元の形状を維持したまま疾走する。

そして炸裂点から広がる大気の壁を突き破り、同時に燃え上がった合金は液状を瞬時に通り越す。
一瞬の閃光を放ちその様を気体へと変貌させたコインは激熱を振り撒きながら垣根へと喰らい付いた。

「ハッ――!」

呵々と共に払われた翼が気炎を砕く。
局地的な暴風と化した周囲の大気に巻かれた気体金属はその身を四散させながらも更なる熱膨張を生み夜空に爆炎の華を咲かせた。

「これが本家の超電磁砲かよ! 言うだけの事はあるじゃねぇか!」

宙を舞う垣根は荒れ狂う空を邪魔だとばかりに背後へ打ち、夜空を駆けた。

後に残されたのは無数の白い欠片だ。
その一つ一つが絵に描いたような羽毛の形を取ってはいるものの、大気の波に翻弄される様子もなく確かな速度と共に御坂へと降り注ぐ。

その様は正に絨毯爆撃と言うに相応しかった。
ビルの屋上一面に突き刺さった白は破壊の雨となり建物を三階分、周囲を含めて微塵にする。

だがそれら全てが御坂を捉えていない。
ビルの森の頂を波間に踊る魚のように身を躍らせる。

爆音を背後に御坂は翔ける垣根を追い、隣のビルへと意識を伸ばす。
電磁波による解析は即座に完了し、目標となる鉄骨を見えない腕で掴み強引に引き寄せる。

引かれたのは御坂自身の身体だ。少女一人とビル一つ。質量差は言うまでもない。

抵抗せず引力に任せ、黒衣を翻し超高速で跳躍する。
そして即座に解除し次のビルへと。連続で引き寄せ多段式に加速してゆく。
吹き付ける風は身に纏った雷光が払い除ける。僅かに掛かる風が髪を靡かせた。

風雷を伴い黒天を切り裂く白の翼を追い疾走する。



ざあああああ――――と大気が戦慄く。

御坂の後を追う影があった。
黒い波だ。闇夜に更なる影を落とし、雲霞の如く押し寄せる津波が彼女に縋る波濤がある。

それは砂鉄だ。

空き缶だ。折れ釘だ。螺子だ。硬貨だ。
鋏だ。時計だ。ナイフだ。ゴミ箱だ。パイプだ。
車止めだ。マンホールの蓋だ。ガードレールだ。鉄柵だ。
鉄板だ。自販機だ。自動車だ。鉄骨だ。

所有者が誰とも分からぬ道具が、公共の設備から引き抜かれた建材が。
およそ金属と名の付く物が、擦れぶつかり砕け合う轟音を立てながら空へと舞い上がる。

電磁の女王に従い大気を押し割り進撃する鉄機兵団。
そこに意思などなく、その身が微塵となろうともなお突撃する無敵の軍団が竜巻となる。

「は――冗談だろ、おい」

その技は昼間見た妹達の用いたものと同じだ。
だが規模が違う。圧倒的なまでに質量が違う。偽体の技はその千分の一にも満たない。

単純明快――物量攻撃。
戦場で最も有効とされる蹂躙制圧の具現がそこにあった。

「冗談? いいえ、これが現実よ。アンタの安っぽい幻想なんて私の現実には通用しない」

つい、と挙げられた手指が宙を舞う垣根を指した。

「――本家ってのはこういうのを言うの」

声と同時、全ての黒が光を纏い射出された。



光の逆瀑布が空に生まれる。

垣根の白雨を遥かに上回る量の光の投射。
光は電磁誘導により無制限に加速し、全方位から垣根を狙い喰らいつく。

端から見れば空を覆った影が突如白に膨れ上がり、そして一瞬で点に収縮したように見えただろう。

爆発ではない。爆縮だった。
全ての光が垣根に向かって集束する。

炸裂した。

収束の後にあるのは同等の発散だ。
何重もの光輪が闇夜に咲き広がり極小の太陽を描く。

人の域を明らかに超えた暴力がそこにあった。

大規模破壊兵器とは比較にならないにしても、個人武力としては世界中のどんな兵器でも追いつかない。
一個軍隊の総火力を用いたに等しい一撃が一点に直撃するのだ。
これを防げる個人など――それこそ最強と最弱の二人しかこの世の何処にも存在しない。

だが――、

「ハッ」

垣根帝督、『未元物質』。

その力はこの世のものではない。



「確かに本家は違うな。規模がダンチだ。悪りぃ、確かにあの程度じゃ比較対象には劣悪すぎる。
 ……で、それだけで終わりなのか、超電磁砲ってのは。結局、お前の常識ってのは俺に通じない程度の軟なものか」

無傷――としか言い様がない。
白い翼を広げる垣根は掠り傷一つ負ってなどいないのだ。

質量、速度、熱量、エネルギー法則。
この世の根幹を成す熱力学法則。
                    E=mc^2
単純明快ゆえに絶対であるはずの常識が通用しない。

「いいえ。でも最初の挨拶にしては上出来でしょ? 派手だもん」

御坂とてこの程度のものが通用するとは思っていない。

物理法則を超越する二大超能力者の双璧、その片方が相手なのだ。

この世の法則全てを捻じ伏せる『一方通行』。
この世の法則全てを払い除ける『未元物質』。

電磁能力というごくありふれた物理法則を操る『超電磁砲』には、端的に言って勝ち目がない。



――だというのに御坂の笑顔は崩れない。

「ほら、覚えてる? 大覇星祭の日。ついこの前よ。
 ああいう時って朝イチに花火上げるじゃない。そういうやつよ。分かりやすくていいでしょ」

「なるほどな」

垣根は頷く。

「つまりこれは――」

垣根の声に応えるように、新たな影が宙に踊る。
持ち上げられたのは巨大なコンテナだ。列車輸送用の、車輪を持つ貨物列車を兼任する鉄箱だった。
濃い青に塗られたそれらは闇の中に溶けるような不確かさで音もなく現れた。

その数二十八。
互いが機械的な連結を持っていないにも拘らず大蛇が泳ぐような動きで持ち上がり宙にとぐろを巻いた。

そしてその最前。それが蛇であれば頭に当たる部分。
ただ一点だけ違う色があった。

「テメェへの合図って訳だ」

その言葉に鈴を転がしたような声が返す。

「待たせた? ごめんね。でも待ち合わせに遅れて怒るような小さい男はモテないわよ」

「んだよ、二人掛かりか、容赦ねぇなオイ!
 いいぜ、何人でもオーケーだ。テメェらまとめて相手してやるよ!」

最前部に腰掛け、吹き付ける夜風に身を竦めた矮躯の少女。
その片手で押さえられた帽子をから零れる金色だ。


                        メンタルアウト
「さあ皆お待ちかね、超能力者第五位、『心理掌握』ちゃんの登場よ。拍手っ!」



「はいはい」

とっ、と手近なビルの屋上に降り立った御坂は数度、お座成りに手を打ち合わせる。

「そもそも時間通りだし」

「まあねー。でも結局、何にでも演出って大事だと思う訳よ」

寒さに身を縮めながらも嬉々と嘯く心理掌握に御坂は肩を竦める。

「んで、一人で勝手に盛り上がってるところ悪いんだけどさぁ」

「べっつにさぁ、私はアンタとやり合おうなんて思ってないから。
 勘違いしないでよね。結局、別に皆が皆アンタにご執心って訳じゃないんだから。ジイシキカジョー」

ぐるりと円弧を描きながら御坂の元へとやってきたコンテナから飛び降り、金髪の少女はそう嘯いた。

「おいおい。これだけ盛り上げといてそれはねぇだろ」

微笑みを絶やさぬ『超電磁砲』と、ころころと表情を変えながらせせら笑う『心理掌握』。
ごくありふれた能力系統の頂点である二人の超能力者の少女を前に『未元物質』もまた笑みを崩さない。

「何しに出たよ、フレンダ=セイヴェルン。まさかただの賑やかしって訳じゃねえよな」



「ううん。結局、私はただ観戦するだけよ」

即座に垣根の言葉を否定する。
自らの能力を肯定するように中学制服を纏う彼女は両手をブレザーのポケットに突っ込んだまま宙の垣根を見上げる。

「やるのはこっち。結局私は傍観。
 まさかこんな無力な乙女を、自称最強の能力者さんは潰そうっての?」

「ぬかせよクソババァ。鏡見てから物言ったらどうだ」

「よーし。アイツぶっ殺しちゃえ」

視線は垣根に向けたまま、心理掌握は御坂の肩を抱く。
両肩に掛かる小さな重みに、は、と短く溜め息を吐いて御坂は左の手を黒衣に入れたまま頭を掻いた。

「まあ、元からそのつもりだけどさ」

「それじゃ結局、後はお願いね。『お姉ちゃん』」

「……あ?」

言葉の中に含まれた僅かな違和感に垣根が眉を顰めるよりも早く。

「――『最終調整終了』」

声に合わせ、御坂の体が小さく震えた。

「『暫定上位個体より新規上位個体へ権限委譲。発行。全個体より承認を受諾』」



――――ID発行確認



「つまり結局、私はアシスト専門って訳よ」








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