とある魔術と木原数多 > 37


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8月22日午後2時10分、『猟犬部隊』32番待機所 

 
 
ワシリーサが学園都市への亡命を要請したその時。 
 
木山とインデックス、そして管理個体は別の部屋で暇を潰していた。 
 
 
「うわわ……今の見たベーシック? カナミンの新技が出たんだよ!」 
 
「見ました。かなみんかっこいいですねー」 
 
「でしょでしょ!」 
 
「……君達、少し静かにしてくれないか?」 
 
 
アニメを見て盛り上がる子供2人に、木山が無駄と知りつつ注意する。 
 
そして予想通り、その注意は彼女らの耳に入ることなく素通りした。 
 
 
賑やかな歓声に顔をしかめながら、木山は誰にも気づかれぬようホッと息をつく。 
 
 
(インデックス……彼女の顔色が、一昨日辺りからあまり良くなかったのだが……今日は普段通り元気そうだ) 
 
(……バカバカしい。こんな私が心配したところで、無意味だというのに) 
 
 
偽善と分かりつつインデックスを心配する。 
 
そんな情けない自分を、木山は諦めと侮蔑、そして僅かな怒りの心を以て自虐した。 
 
 
「ほら、もう少し画面から離れて。目を悪くするといけない」 
 
「えー、でも」 
 
「べーしっくは良い子ですから、言われた通りにします」 
 
「う、分かったんだよ……」 
 
 
年下の管理個体に倣って、インデックスが渋々テレビから遠ざかる。 
 
もしもこの時、木山がインデックスの異変をちゃんと調べていたら。 
 
恐らくこの話は――そこで幕を下ろしていただろう。 
 
他ならぬ木山春生の死によって。 
 
 
8月22日午後2時30分(日本時間)、バチカン 
 
 
「ロシア成教が動いたか。さて……」 
 
 
聖堂の『奥』に佇むフィアンマが、簡素な椅子から立ち上がる。 
 
木原からの連絡で、『殲滅白書』の修道女が学園都市入りしたことを彼は知った。 
 
相手がワシリーサと呼ばれる凄腕の魔術師であることも。 
 
 
「ま、アイツでは俺様の“計画”の障害にはならんだろうが――獲物を横取りされるのは好きじゃない」 
 
 
彼はそう嘯くと、本の形をした霊装を用いて通信術式を発動させた。 
 
相手は。 
 
 
「さてニコライ。子飼いの修道女に逃げられた感想を聞かせてもらえるか?」 
 
『フィアンマ……何故貴様がその事を知っている!』 
 
 
ロシア成教所属、ニコライ・トルストイ司教。 
 
ワシリーサやサーシャ達の直属の上司だ。 
 
 
同時刻、『猟犬部隊』32番待機所のVIPルーム 
 
 
必要な所へ必要な連絡をした木原が部屋から出てくると、廊下でワシリーサが待ち構えていた。 
 
ちなみにサーシャは、頭痛と心痛の為与えられた部屋で寝込んでいる。 
 
木原の指示で、その部屋はマイクが警護していた。 
 
 
「何か用か?」 
 
「デートのお誘いでーす」 
 
「なるほど。だが俺を口説くなら、もっと“刺激的”な誘い文句を用意しろよ」 
 
「うふふ。お子様には見せられない、大人の時間を楽しまない?」 
 
「おお、悪くねぇな」 
 
 
互いに“確認作業”を終えると、木原は隣にある自分の寝室へワシリーサを案内した。 
 
 
 
 
 
そして部屋に入った瞬間、彼女をベッドへ押し倒す。 
 
 
 
 
 
組み伏せられても、ワシリーサに動揺や恐怖はない。 
 
それどころかむしろ楽しそうに木原に笑顔を向けた。 
 
 
「ちょっとガッツキ過ぎじゃなーい?」 
 
「……」 
 
「それともこういうプレイが好きなの? けど私を苛めていいのはサーシャちゃんだけなんだからね!」 
 
「……」 
 
 
頬に手を当て、イヤンイヤンと首を振るワシリーサ。 
 
だが、彼女の軽口もそこまでだった。 
 
 
「はれ?」 
 
 
突如ベッドから何本もの槍が突き出てきたからだ。 
 
 
ドッ、ガシュ、ズブ!! 
 
 
その位置を把握していた木原はあらかじめ当たらない位置に陣取っていたが、抑え込まれたワシリーサはそうもいかない。 
 
大して反応できぬまま、体の至る所を貫かれた。 
 
 
「ッ……あ、あ……」 
 
 
口から血を吐き、必死で伸ばした手はだらりと力なく落ちる。 
 
やがて動かなくなったワシリーサに、木原はこう吐き捨てた。 
 
 
「下手な芝居してんじゃねーよ。テメェがそれくらいじゃ死なないのは分かってる」 
 
「やーん、ショックー」 
 
 
明らかに致命傷を負ったはずのワシリーサが、何事もなかったかのように再び喋りだす。 
 
 
「それにしても、どういうつもりなのかしら?」 
 
 
木原は答えない。彼女を無視して、起きた現象を賞賛していた。 
 
 
「『命の水』による再生能力だっけか。いやあ化物ってーのはいるもんだなぁ」 
 
「ちょっとちょっと、亡命した人間を殺そうとするなんて、学園都市の外交としてはオッケーな訳?」 
 
「あ? どうでもいいだろ、そんな事は」 
 
 
本気でそう話す木原の顔を見て、初めてワシリーサは相手のイカレ具合を理解した。 
 
心の中で驚くワシリーサを無視して、木原は話し続ける。 
 
 
「俺の部隊に入った以上、俺の流儀に従ってもらうまでだ」 
 
「世界大戦も、統括理事会も、十字教もどうでもいい」 
 
「常に目的はシンプルに。俺は、俺の知らない魔術を研究する」 
 
「他の下らねぇ雑事はおまけに過ぎない。だろ?」 
 
 
未だベッドに串刺しされているワシリーサが、それを聞いて挑発的に口元を歪めた。 
 
 
「例えその結果、自分が死ぬことになったとしても?」 
 
「死ぬ気はねぇよ。それとも俺を殺してみるか?」 
 
「……」 
 
「だろうな。この場で俺を殺せば、化物のテメェはともかくあのガキは確実に死ぬ」 
 
 
そのためのマイクによる警護だ。 
 
いざと言うとき、サーシャを抹殺する準備は既に完了している。 
 
 
「そもそも、俺らとやり合うつもりならガキを連れてくる必要がねぇ」 
 
「実力的にも不十分だし、第一あれが戦力なら亡命の事を知らせて戦闘準備ぐらいはさせているはずだ」 
 
「最初に会った時の反応を見る限り、今回の亡命はテメェの独断とみて間違いない」 
 
「それにあのガキを付き合わせているってことは、だ」 
 
 
確信をもって木原が言い放つ。 
 
 
「テメェが学園都市に来た理由は、あのガキにある。――そうだな?」 
 
 
一拍おいて。 
 
 
「やれやれ。こうも早くサーシャちゃんの事を見抜かれるとは思わなかったわ」 
 
 
ワシリーサが白旗を上げ、木原の言の正しさを認めた。 
 
そしてベッドから起き上がろうとして一言。 
 
 
「……全部説明するから、一先ずこの槍抜いてくれないかにゃ?」 
 
 
同時刻、とあるビルの屋上 
 
 
「ふふ」 
 
 
何時かと同じように、白衣を着た女性が笑う。 
 
その笑いは、この世界の誰かに対して向けられたものではない。 
 
 
「愚かで愛しい統括理事長、アレイスター」 
 
「……もう1人の私よ、いつになったら気が付く?」 
 
「そちらの世界では、すでにプランは破綻しているという事に」 
 
 
周りには誰もいない以上、これは独り言だ。 
 
だが、それはある意味正しく、別の意味では間違っている。 
 
 
「『樹形図の設計者』を失い、『猟犬部隊』は壊滅した」 
 
「綻びは誰の目にも明らかとなっている」 
 
「そして何より――」 
 
「『幻想殺し』など不要という事実に気が付かないままでは、敗北は必定だ」 
 
「だからこそ私は、アレイスターと言う名前さえ捨てた」 
 
 
一瞬だけ、彼女の声が木山から『人間』アレイスターのモノに変化する。 
 
 
「アレイスター。『異界反転』は、まだ終わっていないぞ」 
 
 

 
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