とある魔術と木原数多 > 36


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8月22日午後2時10分、第1学区の合同庁舎ビル15階 
 
 
予想だにしない展開に、闇咲は沈黙した。 
 
今回の捜査は、2年前の“文科省職員焼死事件”に関するものだとあらかじめ伝えてある。 
 
その会合に焼死した当の本人が出てくるなどと、予想できるはずがない。 
 
 
(何のつもりだ……?) 
 
(捜査零課の名を出した以上、間違いなく木原数多が手を出してくると思っていたのだが) 
 
(……いや、むしろコレが木原数多の意図だとすれば) 
 
 
闇咲が1つの可能性に思い至ると同時。 
 
彼以上に唖然としていたヴェーラが、焦燥も露わに立ち上がる。 
 
否、立ち上がろうとしてステイルに阻まれた。 
 
ヴェーラは咄嗟に振り払おうとするが、ステイルがそれを一喝する。 
 
 
「落ち着け。君がここにいるのも“あの男”の人選なんだろう?」 
 
「けど……私の事がバレてるなんて……!」 
 
「だから落ち着けと言っている。大人しく座ってればいい」 
 
 
それだけ言い捨てると、ステイルは闇咲へ向き直って不敵な笑みを浮かべた。 
 
 
「さて、とりあえず事情を説明してほしいな。何せ僕達は、上司からこの会合の目的すら聞かされていないからね」 
 
 
非常識極まりない要請を、彼は堂々と口にする。 
 
だがそもそもこうなったのは、リーダーである木原が情報を伏せていた所為であって不可抗力だ。 
 
その開き直った態度に一瞬面食らった闇咲だが、彼はやがて、ふむ、と頭を掻いて説明を始めた。 
 
 
「私が学園都市に来たのは、2年前のとある事件の再捜査の為で――」 
 
 
こうして、ステイル達はヴェーラが過去に巻き込まれた事件を知ることになる。 
 
大方の概要を説明した闇咲に、ステイルはフンと鼻を鳴らした。 
 
この話を聞いて、彼は木原の目的を理解したからだ。 
 
 
「話は分かった。そこの彼女が焼死したとされる事件について、調べに来たわけだ」 
 
「ああ」 
 
「だったら、話はこれでオシマイだね。見ての通り、彼女はそこで生きている。以上」 
 
「……ふざけているのかね?」 
 
「いいや、大真面目さ」 
 
 
並の人間なら耐えられそうもない闇咲の威圧感を、ステイルは気にも留めない。 
 
むしろそれを楽しむかのように一呼吸おいて、彼はゆっくり会話を続ける。 
 
 
 
 
 
「真面目に、本題に入れと言っているんだよ」 
 
 
 
 
 
 
それを聞いて、隣にいたヴェーラもようやく理解した。 
 
自分がここにいる意味と、ステイルが選ばれた訳を。 
 
 
「あの男が彼女をここに寄越したのは、下らない“建前”をさっさと終わらせるためだ」 
 
「ほう」 
 
「捜査零課が、たかが1人の行方不明者の為に動くはずがない」 
 
「そうだろう? 神道系魔術師を統括し、この国における魔術関連事件を一手に引き受けている君達はそこまで暇じゃないからね」 
 
「ふ、詳しいな」 
 
 
闇咲の純粋な賞賛が、ステイルに贈られる。 
 
 
「どうも。で、学園都市に目を付けた本当の目的は?」 
 
 
彼はそれを軽くあしらいつつ、さらに鋭く切り込んだ。 
 
 
「……」 
 
「……」 
 
 
両者の沈黙を破ったのは、言葉ではない。 
 
キリキリ……という何かを引き絞るような音。 
 
 
「!」 
 
 
闇咲の右腕に装着された、梓弓の絡繰りが動いた音だった。 
 
 
同時刻、『猟犬部隊』32番待機所の地下研究所 
 
 
ロシア成教や捜査零課といった新たなファクターを迎え、目まぐるしく変化する周囲の状況。 
 
そんな中、テレスティーナは1人研究に没頭していた。 
 
何しろ“敵”は幾らでもいる。兵器開発の手を休ませるわけにはいかない。 
 
 
「あら、ここでエラー?」 
 
 
とはいえ、そんな理由は後付けだと言える。 
 
ただ単純に彼女は研究や実験が大好きなのだ。 
 
ましてや、とびっきりのモルモットが手に入ったとなれば尚の事。 
 
 
「じゃあこれでどうかしら?」 
 
 
キーボードの上に這っている手が、高速でコマンドを修正して打ち直す。 
 
その度に真横で痙攣する物体など、テレスティーナは見向きもしない。 
 
その物体こそ、眼球・声帯・四肢を切り取られた五和である。 
 
しかし、彼女を知る人物は誰も彼女を五和だと認識出来ないだろう。 
 
頭髪は抜けきり、顔面は歪に変形してしまっている。 
 
止まらない涙と涎、そして汗で皮膚はかぶれてボロボロ。 
 
さらに苦痛のあまり力みすぎて、各部の毛細血管が破裂して全身が真っ赤に染まっていた。 
 
だがそれより重症なのは、彼女の内面だった。 
 
五和を認識出来ないのは知り合いだけではない。 
 
“本人”ですら、もはや自分が誰だか分かっていないのだ。 
 
何日も絶え間なく続く実験。 
 
それはテレスティーナによって脳を弄られていた事を意味する。 
 
 
「……っ」 
 
「……!」 
 
 
肉体的には死なないように調整された上、その叫びはモニターに表示される数値のみ。 
 
学園都市製の悪趣味な機械装置を大量に取り付けられた今の彼女は、呼吸するだけの肉塊と成り果てていた。 
 
 
――エラー:変換エネルギー、目標数値に届かず。4,574,164/69,882,735 
 
――エラー:想定された物理現象を計測せず。 
 
――エラー:原因の分析。失敗。入力した理論式を確認してください。 
 
 
「おかしいわね。魔力変換コードに異常はないはず」 
 
「これが能力者なら、脳内回路を精査するだけでいいんだけど……」 
 
 
現在テレスティーナが行っているのは、外部からの刺激による魔術の発動実験だ。 
 
もしもこれが成功すれば、クローン部隊を使って魔術を扱うことが出来る。 
 
いずれは、禁書目録の知識を利用した大規模魔術だって展開可能になるかもしれない。 
 
だが、その分析は難しく困難を極めた。 
 
 
「やっぱり、比較サンプルが必要よね」 
 
 
モルモットが1匹だけでは、自ずと研究にも限界がやってくる。 
 
彼女は残念そうに嘆いて、『歩く教会』の開発ブースへ出かけて行った。 
 
 
同時刻(日本時間)、ランベス宮のとある一室 
 
 
選ばれた3名の女性魔術師が、部屋の清掃や魔術の構築を行っている。 
 
構築された魔術は、いずれも精神系の回復術式だ。 
 
その対象となるのは、部屋の中央、馬車を象った大理石の上で倒れ伏す1人の女性。 
 
3週間前に、学園都市で木原とテレスティーナに敗北したゴーレム使い。 
 
暗号解読のスペシャリスト、シェリー・クロムウェルである。 
 
 
「これで本日は終了ですね」 
 
「はい」 
 
「では退室しましょう」 
 
 
いつも通りの日課をこなした魔術師達は、速やかに部屋を出ていく。 
 
彼女らが退室した直後。 
 
 
「…………」 
 
 
静寂が支配するこの部屋で、ゆっくりと人影が起き上がった。 
 
 
「…………」 
 
 
暗闇の中、血走った眼を爛々と光らせながら。 
 
 
同時刻、天草式十字凄教のとある拠点 
 
 
学園都市から逃げた建宮達25名は、これからの策を話し合っていた。 
 
だが、相手の圧倒的な索敵能力に対抗する方法は存在しない。 
 
 
「一番確実なのは、木原数多を学園都市の外へ誘き出す事よな」 
 
「確かに。だが向こうも、そう易々と出てきたりはしないだろう」 
 
 
建宮の言葉を、諫早が首を振って否定する。 
 
先の戦いで仲間の半分を失ったのだから、消極的になるのも当然だ。 
 
 
「ん?」 
 
 
その時、建宮の携帯から場にそぐわぬ明るいメロディが流れた。 
 
警戒しつつ彼が応答すると、電話相手は感情が全く読めない声色でこう述べる。 
 
 
 
 
 
『天草式の方々ですね。木原数多を抹殺する方法、お教えしましょうか?』 
 
 
 
 

 
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