とある魔術と木原数多 > 27


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8月20日午後5時50分、アビニョン『教皇庁宮殿』 

 
 
 
『対魔術師用キャパシティダウン』の効果で、アックアが強大な力を失う。 
 
勝負がついたと判断したマイクが、彼に背を向けて『C文書』へ手を伸ばした。 
 
 
(後はこのまま、撤退すれば……) 
 
 
だが、マイク達は重要なことを知らない。 
 
後方のアックアは優れた魔術師だ。 
 
だがそれ以前に――彼は激戦を潜り抜けた傭兵でもある。 
 
他の魔術師とは経験が違う。 
 
彼はアックアの名を持つ前から、血にまみれた兵隊なのだ。 
 
片膝をついていた彼の目に、光がともる。 
 
 
――ドン!! 
 
 
窮地に陥ったアックアがしたことは、ひどく単純明快。 
 
原因の排除だ。 
 
魔術を使わず、単純に肉体の力だけでメイスを床に振り下ろした。 
 
土木作業的な爆音が、宮殿一帯を振るわせる。 
 
超近距離で響いた巨大な音に、アックアが歯を食いしばる。 
 
ただしその顔は、今までのように苦しげなものではない。 
 
彼の狙いに気づいたマイクが、戦慄してつばを飲み込んだ。 
 
 
(しまっ……!) 
 
 
アイディアとしては子供の悪戯レベル。 
 
耳元で叫ばれた直後は、他の音が全く聞こえなくなるという経験は誰にでもある。 
 
つまり。 
 
 
(この瞬間、ヤツは音の影響を受けていねえって事か!) 
 
 
理解した時にはもう遅い。 
 
魔術的な束縛から解放されたアックアが、外の『対魔術師用キャパシティダウン』を水の魔術で粉砕した。 
 
テレスティーナが作り上げたこの兵器は、音を使った武器だが一般的な音響兵器ではない。 
 
指向性の音波を投射する点に限れば同一と言えなくもないが、両者には決定的な違いがある。 
 
すなわち単純に大音量で聴覚破壊をもたらす事と、一旦音を聞いて脳が意味を理解しなければならない事の差だ。 
 
単純に音を聞かなければ、それだけで効果を無くしてしまうという欠点がこの兵器には存在していた。 
 
 
「なるほど」 
 
 
再び力を取り戻したアックアが、纏わりついていたクローンを弾き飛ばして立ち上がる。 
 
 
「確かに貴様らの用意したあの音は恐ろしい」 
 
「だが、所詮はただの鉄クズの塊。破壊してしまえばそれで終わりである」 
 
 
逆転したはずの形勢が、本来の力関係に戻った。 
 
しかし、アックアにはそれを誇る様子は見られない。 
 
むしろ当然の展開として受け入れている。 
 
 
「ここまでか」 
 
 
そしてこれから始まるのは一方的な破壊。 
 
 
「貴様らは、自ら進んで戦場へやってきた」 
 
「当然、兵士としての覚悟は出来ていて当然である」 
 
「……クソッ」 
 
 
マイクの舌打ちは、直後に襲ってきた衝撃で掻き消えた。 
 
 
8月20日午後6時15分、アビニョン『教皇庁宮殿』近くの庭園 
 
 
同僚であるテッラの亡骸を見つけたアックアが、感嘆の声を上げる。 
 
 
「驚いたのである。テッラを破るとはな」 
 
「な……」 
 
 
エツァリの口から、絶望がこぼれ出た。 
 
たった今、死力を尽くしてテッラを葬ったばかりなのだ。 
 
だというのに、このメイスを持っている男からはそのテッラをも上回るチカラが感じられる。 
 
 
「後方のアックア。そこの左方のテッラと同じく、神の右席の一員だ」 
 
「突入部隊は……?」 
 
 
小さな声の問いかけに、アックアは無言で返答した。 
 
懐から『C文書』を取り出して、また仕舞う。 
 
もう、エツァリには言葉もない。 
 
 
(奪取に失敗しましたか。これでもう作戦は失敗ですね) 
 
(右腕を無くした自分が、あの化け物に勝てる可能性はゼロです) 
 
(それに……万が一倒したとしても、『原典』に飲み込まれて死ぬでしょう) 
 
 
起き上がることすら不可能なエツァリ。 
 
だが、そんな彼とアックアの間にショチトルが立ちはだかった。 
 
落ちていた『マクアフティル』を拾い、両手で握りしめる。 
 
震える体を叱咤して、ショチトルは切っ先をアックアへ向けた。 
 
 
「させない」 
 
「勝てると思うのであるか?」 
 
 
ショチトルとて魔術師だ。 
 
自分に勝ち目がないことぐらい嫌というほど認識している。 
 
だが、逃げるわけにはいかないのだ。 
 
 
「絶対に、させはしない」 
 
「ふむ……」 
 
「こんな私を、すでに死んでいるはずだった私を」 
 
「命がけで何度も守ってくれたエツァリお兄ちゃんに……手を出すことは許さない」 
 
 
後ろには、今まで自分のために傷ついた大切な人がいるのだから。 
 
 
「ショチトル! 何をしているんですか!?」 
 
「大丈夫、エツァリお兄ちゃん。今度は私が守る番」 
 
 
そう話しながら、彼女はわずかに振り返る。 
 
覚悟を決めた人間特有の、儚い笑顔がそこにあった。 
 
 
8月20日午前10時00分、第3学区のとある高級ホテル 
 
 
第7学区のとある病院が、統括理事会の指示で襲撃されている頃。 
 
その首謀者が、これからの計画をいかに完遂するか思案していた。 
 
公式にはここはホテルとなっているが、実はこの建物を利用するのは彼しかいない。 
 
ホテルに見せかけた要塞。 
 
統括理事会の1人でもある彼の王国だ。 
 
 
(木原一族の異端児も、これで終わりじゃな) 
 
(少しばかり甘い顔をしたぐらいで図に乗りおって) 
 
(幻生も、異端児も、MARの女も) 
 
(これで速やかに排除されるだろうよ) 
 
 
彼の狙いは、木原一族の衰退。 
 
究極的にはその根絶こそが目的だった。 
 
何故なら、彼は――。 
 
 
流れてくる各種情報に目を通している彼に、背後から声が掛けられた。 
 
 
「……面倒はキライ……そう言ったハズ……」 
 
「な!?」 
 
 
彼の王国には、誰も入れない。 
 
人を信じていない彼は、この要塞の全てを機械に任せている。 
 
建物が建築されて以来、彼以外の人間は1人とて足を踏み入れていないのだ。 
 
その完璧な防御が今覆された。 
 
 
「どうやってここに!?」 
 
「……貴方に質問する権利はない……」 
 
 
冷たく言い放ったのは、同じ統括理事会のメンバー。 
 
彼が70近くの老人であるのに対し、彼女の方は10代前半の女の子に見える。 
 
どこまでも対照的な2人は、敵意を剥き出しにして睨み合った。 
 
だが、すでにこの場を支配しているのがどちらかは確定している。 
 
それほどの圧倒的な差が両者には存在していた。 
 
 
「……どうして勝手なことを。合議の成立していない戦力投入は許されない……」 
 
「貴様らは、何も分かっておらん!」 
 
 
恐怖を振り払うかのように、彼が絶叫する。 
 
 
「あの異端児は、学園都市の事なぞ考慮しておらんのだ!」 
 
「……学園都市……」 
 
「このまま放っておけば、いずれ取り返しのつかんことになると言っておる!」 
 
「……その前に手を打ったと言いたいの?……」 
 
「そうじゃ、すべてはこの――」 
 
「嘘」 
 
 
今までと違う、はっきりとした口調。 
 
彼女の断罪を受けて、彼は黙らざるを得ない。 
 
 
「貴方の望みが、木原一族の消滅であることぐらい分かっているの」 
 
 
殊更に冷え冷えとした言葉を聞いて、彼の顔色が絶望に染まる。 
 
瞬時に警備ロボを出動させようと信号を送るが、応答はない。 
 
尤も、仮に来たところで彼女の相手にはならないのだが。 
 
 
「ま、待て!」 
 
「古いのだ! 木原一族のやり方は長くはもたん!」 
 
「……いずれにしても、貴方の策は見破られている……」 
 
「馬鹿な!?」 
 
「……貴方が送り込んだ兵士は、多分返り討ちにあうわ……」 
 
 
彼の体から、衝撃のあまり力が抜けていく。 
 
 
「……これはペナルティ……」 
 
 
後ずさる彼に、初めて彼女が笑いかけた。 
 
人を信じない彼は、誰にも助けてもらえない。 
 
彼女は、そんな哀れな彼に罰を与えるためやってきたのだ。 
 
 
 
「……大丈夫。貴方が死んでも代わりはいるもの……」 
 
 
 
息絶えた老人の骸を蹴飛ばして、彼女がシステムを操作する。 
 
そこに表示されるのは、最先端の科学を誇る学園都市の中でもさらに一段進んだ技術。 
 
統括理事会の一員である彼は、元々優れた科学者だった。 
 
古くから学園都市の科学技術は木原一族が牽引してきたが、時代は変わる。 
 
今度は自分が中心となるのだと彼は心の底から信じていた。 
 
 
(……だから彼は、『猟犬部隊』の装甲服を着せた兵士を使って『冥土帰し』を誘拐しようとした……) 
 
(……『冥土帰し』の技術を手中に収めつつ、その責を木原一族へ押し付けるつもり……) 
 
(……この非常時に、どうしてこうも愚かなことを考えるの……) 
 
 
ただし、彼の誇る技術は紛れもなく本物だ。 
 
 
(……これまでよりもはるかに強力な兵器群……) 
 
(……『ファイブオーバー』のプロトタイプが、すでにロールアウト目前……) 
 
 
必要な情報を入手した彼女は、速やかにホテルを後にした。 
 
 
 
「……統括理事会の意思は、1つに纏められているべき……」 
 
「……面倒はキライ……」 
 

 
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