とある魔術と木原数多 > 23


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8月20日午前9時20分、とあるデパート近くの大通り 
 
 
『人材派遣』との取引を終えた木原が車中に戻ると、タイミング良くステイルから連絡が来た。 
 
 
「よお、待ちくたびれたぜ。相手の情報は?」 
 
『……侵入してきたのは、神裂の仲間である天草式十字凄教の人間だ』 
 
「天草式? 聞き覚えがあんな。確かあれは……」 
 
 
木原の思考を遮って、ステイルが話を続ける。 
 
 
『どうせあの子から詳しく話を聞くんだろうから、僕からは1つだけ言っておこう』 
 
「何だ?」 
 
『彼ら天草式は、隠密行動に長けた戦闘集団だ。悠長に構えている場合じゃない』 
 
 
対魔術師機関としてその名を知られる『必要悪の教会』。 
 
そこの元メンバーであるステイルのセリフは、言葉に表せない重みがあった。 
 
しかし木原は、それを平然と受け止める。 
 
 
「ご忠告どーも。んで、そこに居た天草式の奴らは処理したのか?」 
 
『ああ。……たった2人しかいなかったが、どちらも焼き殺した。これで満足かい?』 
 
「十分だ。死体の処理は下っ端に任せていいから、テメェはそこで待機してな」 
 
『何故?』 
 
「仲間をやられたと知った連中が馬鹿みたいにそこに来るだろーから、友釣りの要領で全員殺しとけ」 
 
『っ……』 
 
 
無線越しに言葉を失うステイル。 
 
彼がいる路地裏はルーンが設置してあるので、ここで戦うならまず後れを取る事は無い。 
 
つまり、彼自身が凶悪な罠となっているのだ。 
 
 
「安心しろって、念のためにヴェーラを行かせる。MARからも4,5人寄こすしな」 
 
 
まるで見当違いな慰めを最後に、無線は終了した。 
 
尤も、木原はそれを承知の上で言うのだから始末に負えない。 
 
彼は続けざまに部下へ連絡を取り、ステイルの応援に向かわせた。 
 
そして無線機を放り投げた彼は、それまでの楽しげな表情を一変させて厳しいものへと変える。 
 
 
(問題は、今もコソコソ隠れている半分の方か) 
 
(陽動組と強襲組にチーム分けしたのか、あるいは……) 
 
(まずは情報の確認が先だな) 
 
 
放り投げた無線機とは別の、さらに高性能な通信機のスイッチを入れる。 
 
相手の返事を待たないで、木原は鋭く問いかけた。 
 
 
「インデックス、聞きたい事がある」 
 
『え?』 
 
 
その後10分ほど費やして、木原は天草式の事をインデックスから教わった。 
 
彼女の知識から、天草式の基本的な構造や成り立ち、得意とする戦闘形態などは分かったものの……。 
 
 
(肝心なのは、奴らの考え方だ。どんな行動基盤を持っているのかが不透明なのは困る) 
 
 
木原が直接戦うには、まだ情報が不足している状態だった。 
 
神裂の仲間ならば、彼女と似ているタイプの魔術師なのだろうとは予測がつく。 
 
しかしそれだけでは決定打に欠けるのだ。 
 
 
(……俺が動くとしても、『人材派遣』の結果を見てからで十分だろう) 
 
 
木原が打って出る時間まで、幾ばくかの余裕が出来た。 
 
その時間を利用して、彼はとある工作を行う。 
 
 
(とりあえず、奴らが得意なのは集団戦闘らしいし……) 
 
(その連携をバラバラにしてやろーか) 
 
 
時刻は、午前9時30分。 
 
猟犬部隊の待機所へ五和が入り込んだ時間。 
 
彼女以外の天草式のメンバーは、香焼と対馬に連絡がつかなくなった事に気付いて動揺する。 
 
教皇代理である建宮は、これを緊急事態と判断。 
 
即座に近くにいる仲間を急行させた。 
 
 
天草式十字凄教は、固い絆で結ばれた優秀な集団だ。 
 
何よりも仲間を大事にするその姿は、誇り高いと言って間違いない。 
 
――そう。 
 
木原と言う悪意と戦うには、あまりにも絆が強すぎた。 
 
 
8月20日午前9時50分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
五和が、テレスティーナを目指して駆ける。 
 
 
「これで……!」 
 
 
そのまま槍を振るおうとして――ガクリ、と彼女は倒れ込んだ。 
 
理由は手刀。 
 
走る五和よりも尚早く、背後に居たクローンが首筋に一撃をお見舞いしたのである。 
 
聖人並みの身体能力を持つクローンが相手では、反応することすら叶わない。 
 
五和1人で仲間の補助が無い現状では、仕方のない事だった。 
 
テレスティーナが気絶した彼女を足で蹴り、ペッと唾を吐く。 
 
 
「敵の中枢だっつーのに、1人しか警備がいないと本気で思ってたのか。この馬鹿」 
 
 
彼女の言う通り、この待機所にはクローンが数人配備されている。 
 
学園都市に50人もの侵入者がいると分かった時点で、これぐらいの備えをしておくのは当然だった。 
 
 
「04号の疑問。彼女をどうしますか?」 
 
「あん? 使い道はイロイロあんだろ。とりあえず研究所へ運んでおけ」 
 
 
面白えモルモットが手に入った、と喜ぶテレスティーナ。 
 
そのまま五和は、地下の奥にある魔術関連の研究所へ連れて行かれた。 
 
 
(幸い、あの裏切り者(寮監)は『管理個体』と一緒に常盤台へ外出中だし) 
 
(気付かれる前に弄り倒しましょうか) 
 
 
気絶した五和を、クローンが手術台の上にテキパキと乗せる。 
 
そして無表情のまま、五和の頭部に『学習装置』を装着した。 
 
 
「じゃ、あんたは引っ込んで見張りを続けなさい」 
 
「04号は了解。施設内の警備に復帰します」 
 
 
1人になったテレスティーナが、目を輝かせて機材をセット。 
 
彼女が漏らした独り言は、誰の耳にも届かない。 
 
 
 
 
「さて、あなたの限界は“どこ”かしらね?」 
 
 
 
 
8月20日午前9時35分、胤河製薬学園都市支店 
 
 
木原幻生は、木山の言葉を聞いて世にも嬉しそうに顔を綻ばせた。 
 
 
「“なんだってする”ね。木山君もようやく科学者らしくなったじゃないか」 
 
「な……」 
 
「知識を追い求める科学者とは、そうでなくては」 
 
 
幻生の不気味な迫力に、飲み込まれそうになる木山。 
 
震えそうになる手を必死で押さえて、銃口だけは外さないように歯を食いしばる。 
 
 
「頭をちゃんと狙いなさい。有言実行は大切なことだからね」 
 
「う……く……」 
 
「私の脳をここに撒き散らし、眼球を踏みつぶし、その綺麗な手を血に染めて、優しい先生としてあの子達を迎えに行ってあげなさい」 
 
「あ、あ、あ……」 
 
「どうかしたのかね? 何事も経験だよ木山君――」 
 
 
かつて木山が尊敬していた教授時代と、全く同じ態度で殺人をほのめかす幻生。 
 
 
「殺しづらいというのなら、場を和ますために少しお話をしようじゃないか」 
 
「……」 
 
「せめて死ぬ前に、君に1つだけ聞いておきたい事があったんだ」 
 
「……?」 
 
「聞けば、君の作った『幻想御手(レベルアッパー)』は脳波のネットワークを利用した演算機器ということだけど……」 
 
「一体どこから、こんなアイディアが出てきたんだい?」 
 
「それは……」 
 
 
口ごもる木山に、幻生がネットリとした視線を向ける。 
 
 
「木原一族ですら考案しなかった、脳波のネットワークを構築するという大胆な着想」 
 
「これは教え子時代の君からは、考えられないものだよ」 
 
 
 
 
 
 
「――そのアイディアを教えたのは、一体誰かね?」 
 
 
 
 

 
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