とある魔術と木原数多 > 19


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8月20日午後5時00分、アビニョン『教皇庁宮殿』近くの博物館 
 
 
フランスは経度が高く、夏とはいえ日照時間は短い。 
 
すでに日が落ちて辺りは真っ暗。 
 
辺りで起きていた暴動も、ひとまず小康状態を保っている。 
 
そんな時間帯での事。 
 
U.E.G.Fの指示により運搬された『救援物資』が、辺りの病院が大量の負傷者で身動きが取れないという理由でこの博物館に届けられた。 
 
勿論事実は違う。 
 
が……それを知る者も、知ろうとする者も、この場にはいない。 
 
ガチャン!と無骨な音を響かせて、コンテナが次々に解放される。 
 
油断なく辺りを見回して、リーダーであるマイクがその姿を現した。 
 
 
「よし、作戦を開始する。あの人の言う事が正しければ、目標のブツは『教皇庁宮殿』にあるはずだ」 
 
「分かってるわよ。……にしても、あの“お人形さん”は役に立つんでしょうね?」 
 
 
そう疑問を呈するナンシーは、見慣れない迷彩服に身を包んでいる。 
 
彼女だけではない。 
 
マイクやエツァリ達全員が、第6軽機甲旅団隷下のフランス陸軍『第1外人工兵連隊』の格好をしていた。 
 
要するに、アビニョンに駐屯しているフランス外人部隊に成り済ましているのだ。 
 
 
「05号の疑問。お人形さんとは、我々クローンの事でしょうか?」 
 
「06号より報告。全ての準備が整いました」 
 
 
連れてきたクローン20人が、マイクの前に整列した。 
 
彼女達は同一である顔を隠す為、すでにマスクを装着している。 
 
 
「ナンシー、7人ほど連れて先行しろ。残った本隊は俺と一緒に宮殿を封鎖する」 
 
「了解」 
 
 
短く返事をすると、ナンシーは速やかに先遣隊を引き連れて出発した。 
 
本体に残っているエツァリが、静かに話しかけたのはそれから少し後だ。 
 
 
「……ローマ正教の誇る『C文書』を、これだけの手勢でどうにかしようとするなんて……正気とは思えません」 
 
「ふん。あの人は性質の悪い事に、正気でこう言う事を平然とやってのける人間だ」 
 
「堪りませんね」 
 
「ああ。けどな、それでも『猟犬部隊』を率いていられるのは――あの人が『絶対』だからだ。覚えておけ」 
 
「努々忘れないように心がけましょう」 
 
 
諦観したような微笑みを浮かべ、エツァリが肩をすくめる。 
 
彼の手には、黒曜石のナイフが握られていた。 
 
 
「すでに自分は大罪人です。最早、魔術の世界に居場所は存在しない」 
 
「ならばこそ、足掻く甲斐がある。……行きますよ、ショチトル」 
 
 
アステカの魔術師が、アビニョンの地を駆ける。 
 
全てを失い、それでも残った希望に縋りつくかのように。 
 
 
8月20日午前9時00分、とあるデパートの清掃室 
 
 
侵入者の居場所は依然として掴めない。 
 
そんな中、“景品”である木原はとある人物の元を尋ねていた。 
 
相手は『人材派遣(マネジメント)』と呼ばれる、裏稼業の紹介屋だ。 
 
普段なら客に対し親しげな態度を取っているはずの彼は、現在ひどく怯えている。 
 
 
「聞いてくれ。あ、アンタに盾突く気は欠片も無かったんだ!」 
 
「おいおい、何言っちゃってんの。あのウスノロに傭兵共を紹介したのはテメェだろーがよー?」 
 
「金の為だ! まさか、よりにも寄ってアンタとやり合っていたなんて想像も……」 
 
「嘘はイケナイぜ? 情報に通じているテメェが、肝心の敵を知らなかったハズはねーよなぁ?」 
 
 
天井を抱き込んだ、木原一族の人間。 
 
あの時彼が揃えた傭兵は、全てこの『人材派遣』が提供していた。 
 
 
「……どうか……頼む……!」 
 
 
それを追及された彼の顔色は、すでに青を通り越して真っ白だ。 
 
無様に震えるその姿を見て、木原はやれやれと首を振る。 
 
 
「よし、じゃあタダ働きしてもらおうか。しっかり結果を出せば今回だけは見逃してやる」 
 
「分かった、何でもする。何をすれば良い?」 
 
 
その言葉を聞いて、木原はニヤリと口元を歪めた。 
 
 
同時刻、第7学区の地下街 
 
 
大勢の通行人でごった返す地下街を、建宮と諫早が歩いている。 
 
完璧に周りに溶け込んだ彼らは、通信術式を使って仲間と打ち合わせをしていた。 
 
 
『教皇代理、やはり第7学区で大規模な戦闘があったのは間違いなさそうです』 
 
「ほう……何か掴めたのか?」 
 
『ごく僅かですが、魔術の痕跡を確認しました。多分これは、カバラの術式かと思います』 
 
 
そう報告したのは、第7学区の駅前を調べていた五和と呼ばれる少女だ。 
 
彼女は天草式の探知術で、シェリーとの戦闘場所を見つけ出したのである。 
 
建宮は店を眺めるふりをして自然に立ち止まると、やはりそうか……と小さく漏らした。 
 
 
『こっちの広場にも反応が。これはルーン魔術なんすかね』 
 
『結構な力の持ち主だったみたいよ、このルーンの主は』 
 
 
さらに広場から通信をしてきたのは、香焼という少年と対馬と呼ばれる女性。 
 
やはり同じように探知術を使って、ステイルの繰り広げた戦いの場を発見したのだ。 
 
 
「そうすると、やはりこの第7学区が一番怪しいのよな」 
 
「うむ。対魔術戦闘が起きたこの学区を、重点的に調べればよかろう」 
 
 
建宮の言葉に、隣の諫早が同意した。 
 
そして、決定的な言葉がもたらされる。 
 
 
『教皇代理。……女教皇の……術式です』 
 
「!!」 
 
『駅前近くの小道で、発見しました……』 
 
 
涙声でそう告げる少女、浦上の報告によって建宮の策は固まった。 
 
 
「よし、対象区域を第7学区に絞れ。ヤツはここにいるとみて間違いないのよ。探査結界を張り巡らすぞ」 
 
『応!!』 
 
 
対象とした人物の動きを把握する術式が、散らばった天草式のメンバーによって組まれていく。 
 
完全発動にはしばらく時間が掛かるが、この術式が完成すれば木原の居所は全て掌握可能だ。 
 
 
(逃がしはしないのよな、木原数多!) 
 
 
そして結論から言えば。 
 
彼らはこの術式により、木原の居場所を突き止める事に成功する。 
 
だが、ここは学園都市だった。 
 
 
8月20日午前9時30分、『猟犬部隊』32番待機所の入り口 
 
 
それは偶然である。 
 
ただし――極めて悪質な、最悪と言っていい偶然だ。 
 
その時五和は、携帯ストラップとペットボトルを使って探査術式を組み上げつつ付近を捜索していた。 
 
優れた魔術師でもある彼女が不意に感じたのは、極めて微細な違和感。 
 
通常ならまず気付かないであろうその感覚に、彼女は足を止めた。 
 
 
(これは……霊装のような……?) 
 
 
五和が反応したのは、研究所で造られている『歩く教会』の魔力だ。 
 
地下深くに存在している未完成の霊装。 
 
そのごく僅かな力の漏れを、偶然にも彼女は察知してしまった。 
 
 
(気のせい?……でも、一応確認ぐらいはしておこうかな) 
 
 
ボロボロのペナントビルに偽装された『猟犬部隊』のアジトの扉を、そっと開ける。 
 
無人のビルをしばらく探索した五和は、巧妙に隠された地下階段を発見した。 
 
 
(これって……) 
 
 
『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を取り出して、五和は中へ進む。 
 
残念ながらこの時、彼女は通信術式で仲間を呼ぶことを失念していた。 
 
突然姿を見せた謎の隠し部屋に、注意が奪われてしまっていたのだ。 
 
 
「……嘘みたいです」 
 
 
ボロボロの外側とは対照的に、内部は極めて新しい設備が整っている。 
 
そのあまりの変化に言葉を失う五和。 
 
 
「あら、可愛いネズミちゃんがいるじゃない」 
 
「!」 
 
 
背後から聞こえた声に、慌てて五和は飛びのいた。 
 
相手の姿を確認するよりも早く、彼女は槍を構える。 
 
 
「あらあら、驚かせちゃった? ごめんなさいね」 
 
「……」 
 
 
五和に話しかけた女性は、とても友好的な笑顔を向けた。 
 
しかし五和は、さらに緊張感を高めるしかない。 
 
何しろその女性――テレスティーナは、紫色のスマートな駆動鎧を身に付けているのだから。 
 
 
 
 
 
「お詫びに、今ここで貴女をグチャグチャにしてあげる」 
 

 
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