とある魔術と木原数多 > 14


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

8月19日午前9時20分、第5学区のとある研究所
 
 
その男は、木原一族の中でもとりわけ警戒心が強かった。
 
昨日。
 
自身が抱き込んだ天井亜雄と連絡が取れなくなった1時間後には、念のために契約していた傭兵10名を呼びつけている。
 
すでに彼らは研究所内を巡回中であり、敵が来ればすぐにでも対応する事が可能だ。
 
しかしそれでも、男は怯えて地下の特別室へ引きこもっている。
 
外からはロックを解除出来ないその部屋にいるのは、男と、特別に信用した傭兵2名だけという徹底ぶりだ。
 
(天井のボケが! しくじりやがって!)
 
(あの数多のことだし、間違いなくオレの事はバレたはず……)
 
(すぐにでも何らかの手を打ってくるだろう)
 
 
男は、部屋をうろうろと歩きまわりながら打開策を考える。
 
 
(隠蔽や偽装は、数多相手じゃ分が悪い)
 
(誤魔化しのきく相手じゃないからな)
 
(にしても、あのクズは研究成果の1つも満足に持ってこれないのかよっ)
 
(……落ち着け。んな事より、重要なのは……)
 
 
男の思考は、そこで止まった。
 
突如として、ズゥーン!という重低音が研究所に木霊したからだ。
 
男は10秒ほど呆然としていたが、やがて気を取り直してこう叫ぶ。
 
 
「も、もう来たか!? くそぉ、全員で侵入者を殺せ!!」
 
 
だがその指示よりも早く、辺り一帯に銃声が響き渡った。
 
パチンコ玉を使って扉を破壊したマイクが、流れるように部下に指示を出す。
 
 
「出口は封鎖してあるな? まずはこのフロアを制圧する。――作戦開始」
 
「了解」
 
 
重武装の猟犬部隊が、指示に従って索敵範囲を広げる。
 
彼らの持つショットガンから放射される明かりが、壁一帯を舐めまわす。
 
 
「!? な……」
 
 
運悪く1階を警戒していた傭兵が、愕然として攻撃しようとするが。
 
 
「邪魔だ」
 
 
逆にショットガンの直撃を受けて、体中を穴だらけにした。
 
その死体の装備をチェックしたマイクが、舌打ちと共に周りへ連絡する。
 
 
「……外部の傭兵が護衛にいる。すでに俺達の攻撃を予測していたらしい。全員警戒を怠るな」
 
『!』
 
 
すでに周りに散らばった猟犬部隊が、無線越しに驚いたのが無線機から伝わってきた。
 
その様子を感じて、マイクの後ろにいたステイルが溜息と一緒にこう漏らす。
 
 
「やれやれ。標的は1人のはずじゃなかったのかい?」
 
「黙れ。全員殺せば問題ない」
 
「皆殺しか。……結局僕のやる事は、どこだろうと変わらないらしい」
 
 
そんなステイルの自嘲を、マイクは完璧に無視した。
 
 
「貴様の準備は終わったのか?」
 
「今やっているだろう。なに、この調子ならすぐに終わるさ」
 
 
突入からわずか1分ほど。
 
すでにこのあたりの壁一面には、ルーンの刻印が刻まれている。
 
木原の用意した新しい武器を使いこなしながら、ステイルは魔力が充満するのを感じた。
 
 
「……よし、問題ない。これで随分“警戒”がやりやすくなる」
 
 
そして武器を構えながら、マイクとステイルはさらに奥へと進む。
 
 
砂皿緻密(すなざらちみつ)は、プロのスナイパーだ。
 
本来彼は護衛の仕事などしないが、今回は通常の3倍の報酬を用意された。
 
悩んだ末、敵対者を“殺す”任務と言う事でこの仕事を請け負っている。
 
それも始めは、研究所外部で見張りをしたいと主張したのだが、依頼主が頑として認めなかった。
 
偵察衛星を味方にしている木原には、外での待ち伏せは意味が無いというのがその理由だ。
 
 
(……そろそろ、か?)
 
 
代わりに彼が潜んでいるのは、研究所内の地下へ向かう階段。
 
その階段の最下部の陰に隠れて、標的が来るのを待ち受けていた。
 
すでにエレベーターは使えなくしてあるので、敵が護衛対象を殺すにはここを通るしかない。
 
研究所という狭いエリアの中では、数少ない待機場所と言える。
 
そこで待ち構えていた砂皿が、大量の発砲音に混じった微かな足音を感じ取った。
 
 
(来たな)
 
 
現れたのは、年若い赤毛の男。
 
だがその姿を見て、砂皿は疑問を感じた。
 
(装甲服は着ているのに、何故武器を持っていない?)
 
(……懐中電灯1つで、何をする気だ?)
 
 
赤毛の男――ステイルが持っていたのは、銃ではなく懐中電灯。
 
その光を壁中に走らせている。
 
 
(……妙な事をされる前に、片を付けるか)
 
 
ステイルが下まで降りてきて、その無防備な背中を晒す。
 
こちらに気づいていない。そう思った砂皿は、ステイルの後頭部に銃弾を叩き込んだ。
 
 
「――なんだ、後ろにいたのかい?」
 
 
その光景は、冷静沈着な砂皿をして動揺させた。
 
確実に当たったはずの弾丸が、まるで冗談のようにステイルの体をすり抜けたのだ。
 
それだけではない。
 
銃弾が飛んで行った先、研究所の壁が様相を変えていた。
 
 
(っ、何の“模様”だコレは――!?)
 
 
ステイルが懐中電灯の光を当てた壁には、砂皿が見たことも無い謎の模様が『焼印』のように焦げ付いている。
 
予想外の事態に困惑する砂皿に、蜃気楼のように揺れるステイルは苦笑した。
 
ステイルが持っていたモノは、懐中電灯ではない。
 
懐中電灯に偽装した、学園都市製の超高出力レーザーだ。
 
すなわち、ルーン文字をレーザーで焼きつけるための道具である。
 
秒間20回の連続点灯を可能にしたこの装置は、振りまわすだけで辺りの壁にルーンを刻む。
 
しかもダイヤルを切り替える事で、ステイルの扱う30のルーン全てに対応できる。
 
 
(全く、あの男は悪趣味な物を作ったものだね)
 
(これなら、カードを飛ばして張る為の魔力もいらない)
 
(カードと違って、直接ルーンを焼きつけてあるから簡単には剥がされない)
 
(……そして)
 
(この道具は、木原の許可が無ければ動かない。僕にとって、ルーンを封じられたようなものじゃないか)
 
(つくづくあの男にとって都合のいい事だ)
 
 
それだけではない。
 
猟犬部隊のショットガンにも、小型ではあるが同じ装置が組み込まれた。
 
それにより、さらに高速かつ組織的にルーンの設置が行われるようになる。
 
つまり。
 
すでに1階は、制圧と同時にルーンも整えられていたのだ。
 
そしてこの地下も、近くの壁はルーンが刻まれた後。
 
そんな事を知る由も無い砂皿に、ステイルは笑顔で宣告する。
 
 
「ああ、君は知らないはずさ。そして知る必要もない――コレが何なのか、なんてね」
 
「そうだろう? だってここで死ぬんだから」
 
「!」
 
 
その時、砂皿が咄嗟に反応出来たのは、ステイルの声が自分の真横から聞こえたからだ。
 
 
「灰は灰に――――――塵は塵に――――――吸血殺しの紅十字!!」
 
 
ステイルの両手から噴出した炎剣を、際どいながらも下に転がって交わす。
 
再度炎剣を構えるステイルを前にして、砂皿はジリジリと後退するしかない。
 
 
(まさか、能力者なのか?)
 
(……どうする)
 
 
先も述べたとおり、砂皿はスナイパーだ。
 
このような近距離での戦いに向いていない。
 
 
(いや、この男の動きをみる限り、勝つ見込みはある……)
 
(ただしそれなりに時間は掛かる)
 
(その間に他の敵に囲まれては厄介だ)
 
(ここは引いて、武装を整えるべきか)
 
 
守るべき依頼主は、奥の部屋に閉じこもっている。
 
あそこの扉は頑強で、そう簡単には突破できないはずだ。
 
 
(それに、相手が能力者とは聞いていない)
 
(こちらは傭兵。あの無理難題を押し付ける依頼人に、命を掛ける義理も無いしな)
 
 
そう判断すると、砂皿はステイルにナイフを投げつける。
 
 
「く……無駄だ!」
 
 
飛んできたナイフをステイルが炎剣で薙ぎ払う。
 
しかしその間に、砂皿は階段を駆け上がった。
 
 
(……重火器が必………)
 
 
そしてそれが、砂皿の感じた最後の感覚になる。
 
 
蜃気楼を使ってステイルが先行するのを見届けたマイクは、地下階段の上で待機していた。
 
部下が順調に傭兵を駆逐していくのを無線で聞きながら、右手で握った“ある物”を弄る。
 
 
(あの魔術師が、さっさとケリをつけてくれればいいんだが……)
 
(そうならねえ場合、俺が始末する必要がある)
 
(……油断はしない。もう二度とな)
 
 
かつてマイクは、郵便局を狙って強盗をした事がある。
 
その時、一瞬の油断により小学生に取り押さえられた。
 
後は地獄(ここ)まで一直線。
 
だから彼は、決して油断すまいと決意した。
 
そして皮肉にも、その事が彼を優秀な猟犬部隊へと成長させたのだ。
 
 
「……!」
 
 
敵の傭兵が階段を駆け上がる気配を感じたマイクは、躊躇なく右手の物を放り投げた。
 
そしてそれは階段上部に、異様な遅さで広がっていく。
 
かつて、『絶対等速』を戦闘に活用するにあたり。
 
殺傷力強化の為より大きなものを動かそうと考えていたマイクに対し、学園都市で最高の能力開発者である木原はこう言った。
 
 
――「分かってねーな。テメェの能力は、むしろ小さいものを使うことに最適なんだ」
 
――「ちっとばかし『自分だけの現実』を鍛えりゃ、イイ線いくかもしれねーぞ?」
 
 
そう。マイクが投げたのは、木原の用意した『鉄粉』だ。
 
等速直線運動を続ける粉末に、柔らかな人体が突っ込んできたらどうなるか。
 
答えは、砂皿がその身をもって示した。
 
 
「お、あああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 
 
粉末に飛び込んだ砂皿が、一瞬で真っ赤に染まる。
 
そのまま顔を抑えて崩れ落ち、のたうちまわった。
 
その皮膚は切り刻まれ、眼球は抉られ、肉と言う肉は寸断されている。
 
砂皿はしばらく痙攣していたが、やがて完全に息絶えた。
 
 
「……悪いな、傭兵」
 
「きっとアンタは、俺より遥かに優秀な殺しの腕を持っているんだろう」
 
「――だが、超能力の前では何の意味も無い」
 
「だから俺は、ここにいる」
 
 
それから10分後。
 
研究所を完全に制圧した猟犬部隊によって、木原一族の1人が粛清された。
 
 
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。