球磨川『学園都市?』 > 後日談・幻想殺しの場合 > 02


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待ち合わせ場所はあの研究所から歩いて数分の所で営業しているコンビニで、結果として俺が一番遅く到着した。 
 
予定していた集合時間より五分早く到着したというのに、何故か俺が遅刻をしたような雰囲気が流れるが、誰一人言葉を発しない。 
 
一方通行、御坂、御坂妹、そして俺こと上条当麻を含めた四名。これが今回あの研究所へ向かうメンバー。 
 
研究所、いや実際には研究所跡と呼称した方が正しいだろう。事件後に何度か足を運んでいるが崩壊したまま放置されているのだ。 
 
「……行くぞォ」 
 
一方通行がそう呟くと、返答も待たずさっさと歩きだした。 
 
カツカツカツと杖独特のリズムを奏でながら。 
 
一方通行の後ろに俺たちは何も言わずついていく。 
 
今回の企画は一方通行から持ちかけられたもので「自分の目で最後の確認をし、それでも何もなかったらこの件は完全に完結」という趣旨らしい。 
 
突然の一方通行からの連絡にも驚いたし、提案内容にも驚いたし、なによりそのメンバーの中に御坂が含まれていたのが驚きだった。 
 
当然というか、やはりというか御坂への連絡は俺からとった。(道端でエンカウントした時) 
 
絶対に拒否されるだろうと思っていたのだが、「いいわよ」とまさかの返事を貰いずいぶん困惑した覚えがある。 
 
あの御坂が、あの一方通行との同行を許容する。 
 
俺が困惑するには十分な理由だった。 
 
さらに言えば御坂妹(正式名称はミサカ10032号だが、俺はそう呼んでいる)も9982号の代理という形だがこの場にいる事も驚きだ。 
 
きっとあの事件で思うところもあるのだろうし、また違った理由でここに居るのかもしれない。 
 
仲良きことは素晴らしきかな。とまではいかないが、どうやら争いは起こっていないらしい。 
 
それでもこの雰囲気は耐え難いものなのだが。 
 
結局、俺達は目的地に到着するまで一言も喋らなかった。喋れなかった。
 
「なっ……」 
 
「なンだァ?」 
 
「なによ……これ……」 
 
「これはいったい……」 
 
研究所跡、いや研究所を見て四者四様の声を上げる。 
 
共通点は全員が全員目の前の光景に驚愕しているということだった。 
 
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。なんせ崩壊したはずの研究所が元通りに戻っているのだ。 
 
当然、再び建設された訳ではない。仮に建設される予定があったとしてもこの規模の建造物はこうも早く建つはずがない。 
 
以前からあったように、まるで崩壊などなかったように。 
 
悪夢の象徴はそこにあったのである。 
 
「ふっざけンなァァアア!」 
 
一方通行が叫びと共に研究所へ向けて走り出す。杖をついていないということは、能力を使用しているのだろう。 
 
それはつまり戦闘体制に入った事を示していた。 
 
「待ちなさい!」 
 
「お姉様も静止してください!とミサカは走る二人を追いかけます!」 
 
一方通行を追って御坂、御坂妹の二人も研究所へ向かって行った。 
 
「お、おい!待て……」 
 
俺も三人を追おうと走り出そうとした瞬間、背後から感じた気配に足を止めてしまった。
 
おぞましき気配を肌で感じる。 
 
おぞましき過負荷(マイナス)を背後に感じる。 
 
この押しつぶされる様な嫌悪感。 
 
この押しのけられるような怠惰感。 
 
振り向かなくても分かる。あの男が俺のすぐ後ろに居る。 
 
きっと相変わらず屈託のない無邪気な邪気を含んだ笑みを浮かべているだろう。 
 
研究所を元に戻す。いや、文字通り崩壊をなかったことにしたであろう張本人。 
 
冷や汗が、頬を伝う。 
 
身を震わすほどの恐怖を振りまきながら。 
 
身を凍らすほどの悪意を滲み出しながら。 
 
アイツはそこに立っている。 
 
ドクン、と胸の奥が、脳の最下層が脈を打つ。 
 
何かが、俺の中で、何かを言っている。 
 
そして、アイツは声を発した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『やぁ、上条ちゃん』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
振り向くことは、できない。 
 
振り返れば奴が、大嘘憑きが、最悪が立っているから。 
 
――球磨川禊が立っているから。 
 
『おーい。聞こえてるんだろう?無視は流石に傷つくなぁ』 
 
『あ、でも振り向かないでね。『君たちの前に姿を現さない』っていう約束破っちゃうから、さ』 
 
『一方ちゃん達が戻ってくるまでお喋りしようよ。上条ちゃん』 
 
どこか楽しそうな声が背後から聞こえる。間違いない。球磨川の声だ。 
 
「な、なんで生きてるんだよ……」 
 
搾り出すように発した声は今にも消えてしまいそうだと自分でも分かるほどで、明らかに混乱している。 
 
いや、混乱などという言葉では俺の心情は表しきれない。これは、混沌だ。 
 
『えー、逆になんで僕が死んだと思ったんだい?』 
 
「それは、あの時第四位が……」 
 
――あぁ?なにめでたいこと言ってんだよ?アイツなら死んだよ。私が殺した 
 
確かに、そう言っていた。そうでなくともあの崩壊した研究所からは死体は発見されなかった筈だ。 
 
つまり、球磨川が生きていてはおかしい。
 
『ふぅん。麦野ちゃんがそう言ったんだー。まぁ間違いではないからね』 
 
『ただ訂正しなきゃいけないよ。“球磨川禊は死んだけど生き返った”ってさ』 
 
「生き返った……?」 
 
とても理解できる言葉ではなかった。 
 
『これは僕も知らなかったんだけど、どうやら死後にも大嘘憑きは発動できるみたいでね』 
 
『ただ副作用というか、副産物というか、誤作動というかなんというか、ある女の子と会わなきゃいけないんだよ』 
 
球磨川が、何を言っているのか、分からない。 
 
わからない。 
 
『っま、そんなことはどうでもいいんだ!今日こうやって上条ちゃんに会いに来たのは理由があるんだ』 
 
『これはもう一つの約束を守ったよって報告。いやー思ったより時間がかかっちゃって……ごめんね』 
 
俺は答えない。 
 
『ほら、上条ちゃん言ったじゃないか「元に戻せ」って』 
 
『だから殺しちゃったスキルアウトの子達や壊れた物をなかったことにするのが大変で大変で……』 
 
『この苦労分かってくれるよね!』 
 
他人を理解することはできないと言っておきながら、苦労を分かってくれるかと言い出す球磨川。 
 
俺はまだその言葉の意味を理解しきっていなかった。 
 
球磨川が関わった事を元に戻すという意味を。
 
「なにが、言いたい……」 
 
辛うじて言葉を吐くことができた。拳も握ることができた。 
 
球磨川がまた何か企んでいるというなら、再び止める覚悟もできた。 
 
『スキルアウトの子は六人でしょー、研究所は大きいし疲れちゃったな』 
 
『まぁそれだけなら良いんだけど、なんせ一万人以上の存在をなくさなきゃいけなかったしね』 
 
……おい。今なんて言った? 
 
一万人以上の存在をなくす? 
 
一万人以上の存在を無くす? 
 
一万人以上の存在を失くす? 
 
一万人以上の存在を亡くす? 
 
「お……お前……」 
 
もう、ちゃんと声が出ているかすら怪しい。 
 
喉は渇ききって、対照的に全身を濡らすほどの汗が滲む。 
 
球磨川は、何を言っている? 
 
『どうしたの上条ちゃん?僕はリクエスト通り動いただけだよ』 
 
球磨川は変わらない口調で言葉を続ける。
 
『  カ    』 
 
なにを 
 
『ミ        な  し   』 
 
なにをいっているんだ 
 
『  大 嘘  』 
 
わからない 
 
『 約                  上  ん   ?』 
 
なにもいえない 
 
『    だ     』 
 
なにもかんがえられない 
 
『よ              !』 
 
たのむから 
 
『  え    だ        さ 』 
 
たのむから 
 
『       なかったことに』 
 
たのむから 
 
『ミサカちゃん達        』 
 
嘘だといってくれ、大嘘憑き
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『生き返らせたミサカちゃん達の存在をなかったことにしたのさ』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 
 
気がつけば叫んでいた。 
 
気がつけば振り向いていた。 
 
気がつけば拳を振り上げていた。 
 
気がつけば球磨川へ飛び掛っていた。 
 
そして、気がつけば、倒されていた。 
 
『おいおい、せっかく約束を守っていたのに上条ちゃんが破ったらいけないじゃないか』 
 
『全部台無しだぜ?』 
 
学ランのポケットへ手を突っ込んだまま済ました表情で俺を見下す球磨川。 
 
その表情が、声が、仕草が、挙動が、すべてが腹立たしい。 
 
「お前が……それを言うなぁぁあああ!!」 
 
立ち上がり、再び殴りかかる。 
 
もう説得をするなどという選択肢は、俺には、なかった。
 
『相変わらず上条ちゃんは元気が良いね。なにか“悪いこと”でもあったのかい?』 
 
『とりあえず、落ち着いて僕の話を聞きなよ!』
 
「っが!」 
 
軽く足を払われただけで俺の体が宙を舞い、無様に地面へと叩きつけられる。 
 
『よいしょ』 
 
そしてうつ伏せ状態の俺の背に球磨川は腰を下ろすことによって身動きを拘束する。 
 
必死に抵抗するが、動くことができない。 
 
「お前、ここに来て……学園都市に来て何がしたかったんだよ!!」 
 
俺にはコイツの真意が全く分からない。 
 
『学園都市?』 
 
『ああ、別に学園都市には用事なんてないよ。用があったのは上条ちゃん、君にだよ』 
 
「俺……に……?」 
 
言葉の意味が分からない。 
 
俺が居るというだけで、ここまでの事を起こしたというのか? 
 
『おかしいとは思わなかったのかい?僕の行動が、君に起こった偶然が』 
 
球磨川は、語る。
 
『なんでミサカちゃん達を蘇らしたのか』 
 
『なんで涙子ちゃんに過負荷を与えたのか』 
 
『なんで風紀委員ちゃんと戦ったのか、まぁこれは偶然だけど』 
 
『なんで上条ちゃんと接触したのか』 
 
『なんで青髪ちゃんと上条ちゃんの居る高校へ転校したのか』 
 
『なんで僕の行動が分からないようにログをなかった事にしなかったのか』 
 
『なんでわざわざ君達の到着をのんびり研究所内で待っていたのか』 
 
 
 
球磨川は語り続ける。 
 
大嘘憑きは止まらない。 
 
『偶然、一方ちゃんや美琴ちゃんが研究所に居たと思った?』 
 
『偶然、あの日天井ちゃんが打ち止めちゃんの居場所を芳川さんに教えたと思った?』 
 
『偶然、気を失ったのがC棟の調整室だと思った?』 
 
『偶然、花飾りちゃんが調整室に向かったと思った?』 
 
『偶然、僕が調整用のプログラムを花飾りちゃんへ渡したと思った?』 
 
『偶然、涙子ちゃんと風紀委員ちゃんとミサカちゃんだけに攻撃したと思った?』 
 
球磨川は一呼吸置き、こう言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『甘ぇよ』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『ねぇ上条ちゃん。君は本来ここに居てはいけない存在なんだよ』 
 
『不幸体質、とか言ってるけどそれは自分だけで納まらなず、こうして僕みたいなのを呼んじゃってさ』 
 
『言い換えれば僕がこんな事をしたのもぜーんぶ上条ちゃんのせいだからね』 
 
『そうだ、人吉先生から話を聞いたんだろ?』 
 
『どうせ「貴方は今、過負荷なんかじゃない」とか言われて安心したんじゃない?』 
 
『安心したって事は裏を返せば、自分が過負荷だって自覚があると同義だよ』 
 
『それに人吉先生は本当に上条ちゃんの過去を全部教えてくれたかい?』 
 
球磨川の言葉に、再び俺の中で何かが脈を打つ。 
 
『疫病神と呼ばれた過去』 
 
『平気で他人を不幸に巻き込んでいた過去』 
 
『他人の幻想を面白がって殺していた過去』 
 
『投薬によって無理やり記憶を強制された過去』 
 
『そして……』 
 
ゆっくりと、俺の真実が明かされていく。 
 
不思議とそれを聞くたびに鼓動が収まっていく。 
 
『僕と親友だった過去をね』
 
「お前と親友だった……?」 
 
記憶を失っている俺には確かめる術はないが、球磨川が嘘を言っているようには思えなかった。 
 
散々嘘をつかれているというのに、なぜだかそう思ってしまった。 
 
『僕は一度しかあの病院へ行かなかったけど、上条ちゃんとは意気投合してね。いつか一緒に遊びたいなって思ってたんだ』 
 
『それが風の噂で更正したって聞いてね、とても信じれなかったよ』 
 
『だからこうやって学園都市に来て確認したんだ。すると本当に善行を行っている君の姿をみちゃってね』 
 
『そのとき僕は思ったんだ。間違った友達を導いてあげるのが親友としての僕の役目だって!』 
 
『その為にこんな茶番を仕組んだって訳』 
 
「…………」 
 
黙って話を聞くしかなかった。 
 
そしてこの後、問われるであろう質問に対し考えを張り巡らせる。 
 
『おっと、一方ちゃん達が戻ってきたみたいだ。名残惜しいけど僕はこれで帰るね』 
 
俺はなんて答えればいいのだろう。 
 
『学園都市ともこれでお別れかぁ。寂しくなるな』 
 
俺はどうやって受け入れればいいのだろう。 
 
『さて、最後にあの時の答えを聞かせてね。垣根ちゃんのせいで聞き取れなかったんだ』 
 
それは、研究所での一コマ。 
 
俺はあの時なんて答えたんだっけ。 
 
『上条ちゃん』 
 
俺は。 
 
『できれば僕とまた友達になってくれると嬉しいな』 
 
俺は、俺は――
 
 
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