球磨川『学園都市?』 > 09


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日が沈み、迎えた完全下校時間から数時間が経つ学園都市を、杖をつきながら歩く一人の少年。
 
白髪に白く透き通るような肌。
 
眉間にしわを寄せて、何かを睨み付けるその眼は血の様な紅。
 
その少年、一方通行の足は、とある研究所に向かっている。
 
バスや電車が終電を向かえたこの時間では徒歩以外の移動手段が彼にはない。
 
目的地まではそうそう遠くはないのだが、いかんせん自力での歩行が困難な彼の足では、
 
通常の所要時間よりも多くかかってしまう。
 
彼の所有する能力を使用すれば、まさに一瞬で目的地には辿り着けるのだが、
 
敵陣へ乗り込む前に無駄なバッテリーの消化は抑えておきたかった為、多少時間が掛かってでもこうやって自らの足で歩いているのである。
 
敵陣。
 
そう表したのは、彼が向かう研究所内に攫われた打ち止めと攫った張本人がいるからだ。
 
あの死んだはずの少女に受けた襲撃から、
 
直ぐに打ち止めの安否を確かめるべく同居人の黄泉川へ連絡をとったところ、
 
「まだ帰ってきていない」と言った残酷な返答が返ってきた。
 
それから今日まで一方通行は何の手がかりもないまま、打ち止めを捜索していたが、
 
突如、黄泉川の友人であり、絶対能力進化実験にも携わっていた芳川から連絡が入り、打ち止めの居場所が判明したのである。
 
同じく実験に関与していた人物が打ち止めを利用した計画を実行するために、芳川へ提案を持ちかけた。
 
当然芳川は断ったが、その時に打ち止めの現在地が判明したのである。
 
「天井ィ……ぶっ潰してやる……」
 
杖をつきながら芳川に打ち止めの居場所を知らせた人物へ怒りの言葉を吐く。
 
天井亜雄、芳川と同じく絶対能力進化実験の関係者で、過去にも打ち止めを攫い、
 
ミサカネットワークを悪用しようと働いた人物である。
 
その企みは一方通行によって阻止されたが、それにより彼は脳へダメージを負い、能力の使用に制限が設けられた。
 
冥土帰しによって、ミサカネットワークに外部演算を託すことで完全に能力を失うことはなかったが、
 
現在杖を使用しているように、日常生活にも影響がでている。
 
しかし、そんなことは苦ではない。
 
一方通行はそんな今の生活をそれなりに気に入っているのだ。
 
口うるさい同居人に、馴れ馴れしく飛びついてくる少女。
 
一人ではない食卓に、プライベートも無い共同生活。
 
初めてとも言える“普通”の生活は、彼にとって面倒でも、嫌ではなかった。
 
「ッハ……そンな生活なンざ、俺が過ごす権利は無いんだがなァ」
 
自嘲気味に言い捨てる一方通行の頭に浮かぶ同じ顔をした少女達。
 
一万三十一人。
 
一方通行が実験の為に殺害した、超電磁砲、御坂美琴のクローン体【妹達】の人数である。
 
間接を全て逆に向け殺した、四肢を全てもぎ取り殺した、脳を破壊して殺した。
 
血液を逆流させて殺した、鉄骨を降り注がせ殺した、銃弾を反射して殺した。
 
圧殺、刺殺、撲殺、絞殺、斬殺、轢殺、射殺、落殺。
 
幾千の手段で惨殺した。
 
幾千の手法で虐殺した。
 
そんな少女が毎日、一方通行へ語りかける。
 
なぜ殺した、なぜ残りを生かした、なぜ生きている、なぜ死ななければならなかったか。
 
なぜ、生まれてきたのか。
 
「わかってンだよ、俺も許されるつもりはねェし、オマエらも許すつもりはねェンだろ?」
 
一方通行は誰もいない夜道で、彼女達に語る。
 
いくら打ち止めを救ったとしても、生き残った妹達を助けたとしても、その代償に能力に制限がかかろうとも、
 
自身が犯した罪が無くならない事ぐらい、一方通行は理解していた。
 
「だから、初めは糞野郎の言ったとおり大人しく殺されるつもりだった」
 
蘇った妹達を再び殺すか、それとも殺されるか。
 
それはあの大嘘憑きからの提案だった。
 
「でもよォ、俺ァ殺されるわけにはいかねェンだよ」
 
自分が死ねばきっと同居人や打ち止めは悲しむだろう。
 
大罪を犯した自分がそう思うのは月並みな意見ではあるが、それは間違いない。
 
だから、死ねはしない。殺しもしない。
 
「そう言う面では糞野郎には感謝しなきゃいけねェなァ……」
 
電話越しで出された提案は二つだけ。
 
しかし、今の一方通行はもう一つの答えを出していた。
 
「打ち止めを連れ戻して、テメェをブチのめせば一件落着、大団円ってワケだ」
 
今ならば。
 
全ての妹達が蘇ったという今ならば。
 
悪夢を希望に変える事ができる。
 
上条当麻では無く、御坂美琴でもない。
 
今度は一方通行が妹達を救う。
 
そして、一方通行は元凶であり救世主がいるであろう研究所へ到達した。
 
多数のモニタとそれを操作するであろう操作盤が設置された研究所内のとある一室。
 
そこには天井と、中央にそびえる液体の詰まった巨大なビーカーの中に浮かぶ打ち止めが居た。
 
天井はそのビーカーに両手を沿え、なにかブツブツとつぶやき続けているが、当然打ち止めからの返事は無い。
 
打ち止めを眺める天井の両目は虚ろで、呪詛を吐き出し続けるその口元からは涎が垂れて床へと落ちる。
 
そして、何かを呟きながらもそのままおぼつかない足取りでモニタの前に移動し、震える指で操作を始める。
 
「これで、終わりだ……何もかも」
 
一心不乱に打鍵をする天井は、その時部屋に入ってきた侵入者にすら気がつかなかった。
 
「天ァァァァァ井ィィィィィィくゥゥゥウン」
 
ぐちゃりと顔面を歪め、愉快そうに天井を呼ぶ侵入者は白い死神、一方通行だった。
 
「一方、通行……」
 
名前を呼ばれようやく顔を一方通行に向けるが、また直ぐに作業へと戻る天井。
 
その姿を見た一方通行は静かにチョーカーのスイッチを入れた。
 
「なァァァにテメェ如きが俺を無視しちゃってくれてるんですかァァァァ!!」
 
そのままついていた杖を振り上げ、天井に向かって投げ飛ばす。
 
ベクトルを操作した杖は投げ槍競技の槍どころの速度ではなく、まるで銃弾のような速度で天井へと襲い掛る。
 
しかし。
 
天井の足へ刺さるようにベクトルを操った杖は、術者の思惑通りに目標を貫くことができなかった。
 
杖が目標をそれて床に刺さる。
 
たったそれだけの事ではあるが、一方通行が操作をしたものである以上、それはありえてはいけない減少だった。
 
「おいおい天井くンよォ。なンか特別な機械でもこしらえたのかァ?」
 
杖にかかっているベクトルに違和感を感じた一歩通行。
 
いや、杖にかかるベクトルというよりは、それを操るための演算に対しての違和感といったほうが正しいのかもしれない。
 
しかし、一方通行に焦りは無い。
 
天井は一方通行の問いに再び顔を向け、次に自身の傍らに刺さる杖を見て、首を傾げながらも打鍵は止めない。
 
そしてゆっくりと口を開いた。
 
「実験体ごときが研究者に攻撃を仕掛けるなど……」
 
先ほどまでとは打って変わって冷静な口調に戻る天井だったが、
 
その見開いた両目と、口元から垂れている涎。
 
そして傾けた顔面だけをこちらに向け中腰でタイピングを続ける姿は異様だった。
 
「ッハ!やァっとお喋りする気になったかよ!だがそれも直ぐに終わりだけどなァ!!」
 
一方通行はダンっと一度地面を踏みつける。
 
その瞬間に地面はひび割れ、無数の破片が宙へ浮かびそれらを右手で掴みとる。
 
「ピッチャー振りかぶってェ……投・げ・ま・し・たァ!!」
 
もはや避け切ることが不可能な速度と密度で、破片が放たれる。
 
「分身魔球ってなァ!!っま威力はショットガンと同じ……ッ!?」
 
両手を横に広げ、口元を大きく歪めた一方通行だったが、目の前の光景に言葉を奪われた。
 
“破片が”
 
“破片の銃弾が全てでたらめな方向へ飛んでいった”
 
その内の一つは天井の脹脛辺りを貫いたが、当の本人は痛みを感じるそぶりさえ見せず、平然と作業を続けている。
 
そして、急にタイプしている指が止まると、ゆらりとこちらに体を向けて天井は歩み寄ってきた。
 
「失敗してしまったな、一方通行。俺と同じように」
 
足からの出血は多く、まともに歩行できるはずはないが、天井はその足を引きずりながらもゆっくりと一方通行に近寄る。
 
「あぁ、この足のことは気にしなくていい。ちょっと薬で痛覚をなくしているだけだからな」
 
天井はそんな事を言うが、一方通行が聞きたいことはそんな事ではない。
 
「なンで、ベクトル操作が“狂う”ンだよ!?」
 
先ほど感じていた違和感が、今このタイミングで確信へと変わった。
 
“ベクトルの操作が狂う”
 
一方通行のベクトル操作だけではなく能力とは演算を用いて使用するものである。
 
それは白井黒子のテレポートや、御坂美琴の電撃も同じ事で、その処理能力の高さが能力の優劣を決めるのだ。
 
もちろん演算だけでなく【自分だけの現実】等も関わってくるのだが、
 
能力操作に関しては演算が全ての割合を占めているといっても過言ではない。
 
天井へと放った破片の雨は、一方通行により操られていたが、被弾の直前にコントロールができなくなり、
 
結果、でたらめな軌道を描いたのである。
 
「何故だろうなぁ……私の周りではいつも失敗ばかりだ」
 
そんなことは答えになっていないが、天井は語るのを止めない。
 
「学生の頃からそうだったよ。俺の周りでは何かと失敗続きで思い通りに事が運ばない」
 
「不本意ながら疫病神とも呼ばれた。しかしそれでも俺は努力を止めなかった」
 
「そして、手に入れた量産能力者計画や絶対進化能力計画への参加権。そして最終信号を使用した復讐」
 
「だが、それもご存知のとおり中止……失敗に終わったよ」
 
「その後、残ったのは膨大な借金と絶望だけ……自殺も考えた」
 
「しかし、“あの少年”に教わってね。どうやら失敗続きなのは自身の能力によるものだった、とね」
 
その言葉に一方通行が反応する。
 
「能力だァ?学生でもないテメェに能力なンざ……」
 
「“負能力”と言ってね。君みたいな能力とは少し違うのさ」
 
能力開発を受けていない天井に能力など持ち合わせているはずも無いと思った一方通行の言葉は天井に遮られる。
 
「何も役に立たない負の遺産だよ。ただ自覚したことによってある程度コントロールができる様になったがね」
 
「さて、君達能力者は戦いの前に格好良く能力名とレベルを宣言するみたいだ」
 
「ここはそれに則って、私も高らかに名乗らせていただくかな……そんな歳ではないんだが……」
 
そう言って羽織っていた白衣の懐から、拳銃を取り出し一方通行へと向ける。
 
「天井亜雄。-レベル3の負能力者。能力名は【破綻理論(サイコロジカル)】だ」
 
 
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