佐天「…アイテム?」26


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あらすじ

フレンダはスクールに捕縛されてしまった。
そして彼女は自分の保釈の条件としてアイテムのアジトをスクールに……?


※フレンダとステファニーが姉妹という設定です。
フレメアさんは出てきません。
また、セイヴェルンという名前ではなく、フレンダ=ゴージャスパレスという事になります。

ま、パラレルワールドみたいな感じです。





「ありがとさん、フレンダだっけか?」


「……」


フレンダはぼんやりと足元を見ていた。
数十秒前、彼女はアイテムのアジトの居場所を全て吐いた。自分の命と引き替えに。


スクールのリーダー垣根はフレンダに礼を告げると、彼女に車から降りるように指示した。
なんでも、これからアイテムを含めて他にも敵対する組織を叩き潰すのだとか。


「ってかヘッドギアのヤローと連絡が取れねぇ…どーしたアイツ。死んじまったのか?」


「みたいね、さっき下部組織の奴らが遺体を確認して保護したわ」


構成員の一人が死んだ所で垣根は眉一つ動かさずに心理定規に次の指示を下す。


「おいおい、狙撃手の野郎はどうした?」


「しっかり退避したわ。所定の場所に退避したって連絡が来たわよ?」


彼女の報告を聞くと垣根は上出来だ、と一言言い、フレンダが車内に要るにも関わらず、心理定規に唇を寄せた。
彼女も彼女でそれを全く拒むことなく受け入れている。


フレンダは赤面して、彼らの動作に目を背けた。
すると垣根がフレンダの方をみてい言った。


「…じゃ、フレンダ、お前にゃわりぃけど、ここで降りろ」



「…もしかして、用無しになったからやっぱり殺すとか?」


「戦意がない奴を殺す気にはならねぇよ」


垣根はそう言うと外に待機している下部組織の隊員達にフレンダを外に出すように指示。
静かな音でメルセデスの後部座席のドアが開く。


フレンダは無言でメルセデスから出る。
すると下部組織の構成員達が彼女の得物を渡す。どうやら他の車に置いあったようだ。


「…律儀に取っといてくれてたんだ…ありがとね」


フレンダはメルセデスに乗っている垣根と心理定規に礼を言う。
垣根は鷹揚に手を振って答えると彼らを乗せたメルセデスはそのまま走り去っていった。



去っていく車輌を見つめていき、見えなくなるとすとんとフレンダの腰が抜ける。


殺されずにすんだ事への安堵の気持ち。
しかし、自分の命と引き替えに彼女は仕事仲間の命を売った。


アイテムを裏切る。一度目は麦野に対して暗部を抜けない、といった事。
二度目は、アイテムの集合アジトを教えた事。


「…私…最ッ低だ…!」


口に出して彼女は思う。
自分に対する恨みや憎悪の気持ちをもしはき出せるのならば、ここでぺっと吐き出してしまいたい衝動に駆られる。しかし、そんな事は出来ない。



最低。
そう言いつつもフレンダは自分が生きている実感を噛みしめる。
こうしてはいられない。彼女は砂皿に連絡する。



フレンダは佐天からもらった紙で砂皿のアドレスを見つつ、罪悪感で胸が指されるような思いを味わいながらもメールを作成する。


(…"どこにむかえばいいですか?")


送信すると携帯を閉じて周囲を見渡す。
つい先程まで戦場と化していた場所は再び静かになった。


フレンダはスクールの下部組織の構成員達が置いていった狙撃銃を抱える。


何か考えなければ。
彼女はそう思った。そうしなければ、自分がアイテムを裏切った罪悪感に押し潰されそうだったから。


(結局…私は…何やってるんだ…仲間裏切って…)


仲間を売った罪悪感。初めて味わう気持ち。反対に沸々と沸き上がる生への執着。
それらの感情の波に押しやられ、彼女は泣いた。



「……くっ、け、じゃあ!結局さっきのはどうすれば良かったのよ……!」



フレンダは狙撃銃の銃底を地面にガァン!とたたき付ける。



なんでこんなにも心が痛む?
アイテムの奴らは仕事仲間以上でも以下でも無い。
数カ月だけ一緒に仕事をしただけの間柄だったが、アイテムとして働いた期間の短さと背反して胸の疼きはズキズキとフレンダの内面をえぐり取る。



(自分だけ助かろうって魂胆が今更許せないって?仲間を売った事が気になっちゃう訳?)


でも、とフレンダは思う。
仲間を裏切った。けど、やっぱり、私は姉に会いたい、と。


スクールにアイテムの情報を売ったのは自分が生きて為すべき事があるからだ。
身勝手は今に始まった事ではない。滝壺に、佐天に散々迷惑をかけた。


(滝壺には姉紛いのおままごとに付き合ってもらったわねー)


(涙子にはテレスティーナのところまで案内してもらった。もしかしたら私を紹介した事で学園都市から嫌疑を掛けられるかもしれない)


(結局、駄目女ねー……私)


迷惑を掛けたと思いつつも彼女達の元には行こうとは思わない。
佐天は朝ファミレスで別れ、滝壺はこの一ヶ月間一緒に過ごした。
零れ落ちる涙を拭い、フレンダは携帯をみるとちょうどメールを受信していた。


(誰?)


テラテラと光る携帯のランプ。
メールフォルダを見ると二件来ていた。


一件は砂皿から。もう一件は滝壺から。
涙を拭いて、フレンダは携帯をパカリとあけるとメールを読む。



――ファミレスジョセフ

フレンダと佐天がファミレス前でちょうど別れた直後、美琴と佐天は遭遇してしまったのだ。
そして今、二人は店内に入り、話していた。その雰囲気はお世辞にも良いとは言えない。


「佐天さん、あなた、なんであいつらと?」


「いやーあはは……」


美琴は笑ってないでしゃべって、と言わんばかりに無表情な瞳を向ける。


「私たちと一緒に遊びながら、あいつらともつるんでたの?」


「……つるんでたっていうか…」


二人はファミレスの窓側座席に対面している。


「っていうか……?何よ」


「……」


「まさか、まさかとは思うけど…あの狂った計画に加担してたの?佐天さん」


「け、計画?」
(な、何よそれ?)


美琴の言う計画。それは一方通行の行っていた絶対能力進化計画だろう。
佐天は当然ながらその計画をしらない。彼女の反応を見て美琴はほっとした。


(良かった…佐天さんが知ってる訳ないよ、でも、なんで、あの白人と面識があるのよっ!?)


美琴は再び佐天にアイテムとのつながりを聞き出そうと口を開こうとするが、対面している佐天が先に口をひらく。


「計画ですかー…知らないなぁー…私が知らない事ってたくさんあるんだなぁー」


痴呆でほうけた人の様に佐天はぼやく。
美琴はそんな彼女に怪しいものを見る視線を注いだ。


「私、無能力者じゃないですか。だから、御坂さん達に憧れてたんですよ。最初は」


最初は、と佐天は語尾を強調する。


「何が言いたいのかしら?」


「言葉通りですよ?御坂さん」


「?」


「私は幻想御手に手を出した前科がありますよね?能力者に憧れてたのはそこまで」


御坂は前科って…と言い澱んでいるが構わず佐天は弁を続ける。


「幻想御手の事件後にすぐ勧誘がきたんですよ、学園都市の治安を守らないかって」


「最初は迷いましたよ?でも、連絡するだけで法外なお金が入りますし、けど身の丈に合ってないって思ったのでめっちゃ迷いましたが」



「けど、私に任された役目は簡単でしたよ?ただ学園都市の命令を彼女達に伝えるだけ」


プツン、
佐天の一言で美琴の頭の中の何かが吹っ切れた。



『ただ、学園都市の命令を彼女達に伝えるだけ』


美琴が最も嫌いなもの、それは自分で考えず、誰かの言うことをそのまま鵜呑みにする奴ら。
一方通行の能力進化計画を知ってから美琴はそういう人達を嫌悪する様になった。


そうした考えを持っている美琴にとっては今、目の前にいる自分の友人、佐天涙子は彼女が最も嫌う人種として映った。
美琴は気づけば佐天に質問をしていた。




「今佐天さん何て言った?」


「だから、ただ学園都市の命令を彼女達に伝達するだけ……」


「そこに自分の意志はなかったの?ただ唯々諾々と学園都市の命令を彼女達に伝えていただけ?何も罪悪感とか、そーゆーのを感じなかったの?」


「私は唯々諾々と彼女達に命令を流していました。それが私の意志です。そして私は自分の命令で他人を傷付きてしまった事も理解しています」


「私は……佐天さんが、そんな事をする人だとは思わなかったわ…!もっと強くて豪快で…こんな事とは無縁で…」



「私も人を傷付けるような事はしたくありませんでしたよ!けど、何かしたかったんです!御坂さんの様に!風紀委員とかカッコイイじゃないですか。
御坂さんも誰だかわからないけど無能力者だけど凄腕の男の話いつもしますし、さっきの計画って何ですか?学園都市のバンクに多少アクセス出来る私でも知りませんよッ!?」


「あの計画はもう凍結したから、今更話したところで意味ないわ。………」


美琴はそう言うと黙りこくってしまう。
対面している佐天は何かあったのかと思い、美琴をのぞき込む。


「ねぇ…佐天さん…?あなた、あの計画の関係者だったんじゃない」


美琴は何かこう絶望したような雰囲気だった。
彼女の作り出す表情は無表情とも哀れみとも言えない複雑なものだった。


「…私は御坂さんが言っている計画の話しなんて知りませんよ!」


「いや、知ってるわよ!だって……あなたが彼女達に指示を出していたのはいつよっ!?」


半ば怒声とかしている美琴の声。
朝の客が少ない時間帯だが、客はまばらに座席に座っている。その客の視線が美琴の怒声によって窓際座席に座っている当事者二人に注がれる。


「…さっきも言ったとおり、幻想御手の事件が終わってから直ぐです…」


「だったら佐天さんもあの計画の関係者よ…直接的に関わって内こそすれ、あなたはあの計画に加担していたって事になるのよっ…!」


美琴は机をバン!と強く叩き両手で頭をもたげる。
彼女は何で、こうなっちゃうのよ!?とうわごとのようにつぶやいている。


「……やっぱり、あのSプロセッサ社の研究所の侵入者は御坂さんだったんですか……」



「そうよ…」


佐天は以前麦野に聞いたメールを思い出す。
研究所に侵入した人物は御坂美琴…そして今佐天は目の前にいる美琴本人に研究所侵入が本当だったことを聞いた。


「佐天さん、もしかして…マネーカードを回収していたのも…」


「あぁ…あれも、そうですね…上からの指令が送られてきてやったって感じですね、はい」


「佐天さん…じゃあ、あなたが“金目の物に鼻が利く”って言ってたのは…」


まさか嘘だったのか。
確かにあの時は何言ってるんだ?佐天さん。位にしか思わなかったが、あれは出来レースだったのか?


「えぇ。嘘です…すいません…だけど、マネーカードが一体どうかしたんですか?」


「…あなたは間接的に計画に関わっていたのね…」


「マネーカードを回収する行為が御坂さんの言う“計画”に加わっていた事になるんですか?」


「……」


美琴は黙る。
それは佐天にとって、美琴が質問に対して肯定したと映った。





「御坂さん、私、能力者に対して憧れてたんですけど、だんだんそれが変わって、気づいたら御坂さんや初春達みたいに人には言えない何かそうしたものを扱いたかったのかも知れません」


佐天はそう言うと「はは、意味分からないですね」と嗤う。
その嗤いは自分の事を嗤っているのかも知れないし、美琴の事を嗤っているのかも知れない。



「…佐天さん…、私はどんな理由があれ…あの計画に関わった人を許すことは…出来ない…!」


美琴は本当に苦しそうに目をつぶりながら、思い出したくもない記憶を思い返す。
操車場で一方通行と9982号が繰り広げた戦い。
あの戦いを思い返すたびに胸が詰まりそうになって、激しい吐き気に見舞われる。


あの学園都市第一位は…!私の…妹の、いや、私の生き写しの娘(こ)の足からしたたる血を飲んだ!
そしてその計画を妨害しようとしていた布束のマネーカードを拾っていたのは今目の前にいる彼女、佐天だ。



「御坂さん、何だか私はいっぱい迷惑かけちゃったみたいだね」


「……」


佐天はそう言うとすっくと立ちあがる。
どこに行くのよ?と美琴はまだ話は終わってない、という視線で立ちあがった佐天を見つめた。


「今日一日だけは待って下さい…御坂さん」


「?」


「悪いことをしていたっていう自覚…うーん…あるのかなぁ…でも、やっぱり免罪符が欲しいって思ったって事は…やっぱそうなのかなぁ」


「……」


美琴は黙って佐天のつぶやきに怪訝な面持ちで聞く。


「御坂さん、私行きます…今日は見届けないといけない人が居るんです。その人からの報告が来るまで待たせて下さい…報告が来たら…御坂さんの気の済むようにして下さい…」


「あ!ちょっと!」


佐天は美琴の制止を聞かずファミレスを出るとそのまま出て行き、寮に向かっていった。



――素粒子工学研究所前



From:砂皿緻密

Sub:無題

私達は第七学区のオフィス群のビルに居る。
今から第三学区の個人サロンに向かうが、これるか?



From:滝壺

Sub:がんばってね

今日は何も言えなくてごめんね、フレンダ。

色々葛藤あったと思うけど、それはフレンダが悩み抜いた末に出した結果だから。
私はそんな悩み抜いたフレンダを応援してる。





二件のメールをフレンダは読んでいく。
チェロの収納ケースより少し小さい位のケースにフレンダは狙撃銃をばらして収納する。
ククリ刀もその中に鞘(さや)ごと入れる。



(よっし!じゃ、いきますか!)


滝壺から来たメールがフレンダの心をえぐった。自分はスクールにアイテムのアジトを密告したのに…。
ここではただ生きていてくれ、と祈ることしかできない。


自分が組織を売ったのにもかかわらず自分を応援してくれる滝壺の優しさに目頭が熱くなる。





フレンダは近くのバイパスでバスに乗り込むと一気に第三学区の方面に向かって行った。


――第七学区立川駅前のオフィス群


砂皿は敵がいつ侵入してきても良い様に雑居ビルで待機していた。
途中で顔面刺青の男の指揮しているであろう部隊の車列を何台か撒いてきたが、ここのアジトが特定されるのも時間の問題だろう。



キュッ…キュッ…とグリスをたっぷりと染みこませたタオルで砂皿はSR(ストナー・ライフル)25狙撃銃の手入れを行っていく。
フレンダの持っている遠距離狙撃銃と比べると多少性能的には見劣りするものの、セミオートとオートで使い分けが出来る点で砂皿はこの銃を気に入っていた。


(よし…!これで…いつ敵が襲撃してきても良い…にしても敵はあの特殊部隊だけか?)


フレンダを学園都市から脱出させるのにどれだけの軍備が彼らを待ち受けているのだろうか?
砂皿の予測は多くても数百人程度。あるいは上級の能力者による奇襲で速攻をかけてくるか。


とにかく、フレンダに連絡を送ったからには後は近づき次第接触して彼女を確保するだけ。
どんな戦場に居てもやるべき事はあまり変わらない。任務を果たして生還するだけ。


「にゃははーん…敵さん来ませんねぇ…にしても人が少ないってかいませんね…戒厳令でも敷いてるんでしょうか?」


「戒厳令とまではいかないまでも…うむ、道路を封鎖して我々以外に誰もいない様にしているのかも知れない」



砂皿はステファニーの質問に答えるとバームクーヘンをぱくりと口にする。
彼はバームクーヘンが大好きだった。
オーストリアのコブラ特殊部隊時代から食べ続けている砂皿の好物だ。



「私にも一個下さい、バームクーヘン☆」


ステファニーは袋に入っている幾つかのバームクーヘンの中から一個取り出すとぱくりと口にくわえる。
彼女はウインクをし、がらんと人通りが途絶えた街道を見る。



「私達だけの為にここまでしますかね?」


「…分からない…ただ…私がフレンダにメールを送った時点で完全に彼女と我々が繋がっている事が明らかになっただろうな」


「ですね。だとしたら、途中で捕まってなければ良いんだが…」


ここまで来たら信用するしかない、と砂皿はステファニーを見つめ、告げる。
そう。今はフレンダがこちらに来るまで待たねばならないのだ。


「待ちに入るこの時間が、私一番嫌いなんですよね…」


「……」


「結局は私のエゴのせいで妹を学園都市の闇に堕とさせて、そんな私と妹で今後やっていけるんですかね?」


「今後どうするか…それはお前達のさじ加減だろう?ステファニー」


「そうですね…私がしっかりしないといけないんですよねー……」


「お前だけじゃない、お前達、二人でだ」


「…二人で、ですか…」


砂皿はステファニーの方を見ずにいつもは賑わっている筈の繁華街を見つめる。
人はまばらに歩いているがやはり断然人は少ない。もしかしたらまばらに歩いてる人々も他の組織の工作員なのかも知れない。


そんな状況をぼんやりと視界に入れつつ砂皿はステファニーのぼやきに「あぁ」と答え、袋に手を伸ばしてバームクーヘンを頬張ろうとする。
しかし、その手がステファニーの不意の発言で停まった。


「…二人…、いや、三人がいいなぁ」


「どういうことだ?まさか、フレンダ以外にも親族が居るのか?」


「違いますよ」


ステファニーはそう言うと市街地を見つめている砂皿の視界の前にぴょんとジャンプしてやってきた。
怪訝な表情でそんな彼女を見つめる砂皿は内心に自分の思い違いか?と浮かび上がってくる感情を処理しようとする。


「私は砂皿さんとも一緒にいたいって思ってるんですよ……?」


「……今は来るべき戦いに集中しろ」


ステファニーはそうですね☆と気まずそうに、ちょっとだけ微笑む。
そして床に置いてあるヘッケラー&コッホが改修したカービンライフルHMK416を構える。


レーザーもバッチシ。ダットサイトに嵌められたスコープとライトもいつも通りメンテが行き届いている。
下部レールに装着したグレネードランチャーも今日は特製弾丸を装填している。
マガジンもありったけ持ってきた。準備は完了。いつでも来い。



その時だった。遠くでバァァアアアン!と大規模な爆発音が聞こえる。


「始まったようですね…」


「あぁ。今日は他の組織も動き出すって話しだからな」



そう。今日は学園都市の暗部組織の戦いが起きるであろう祝日だ。
遠くから反響して木霊してくるこの音はどこかの組織が戦っている音である事は間違いなかった。


その大音響の炸裂音がまだ消えないうちにステファニーが街道を指さす。


「あ!あれ!敵ですかね?」


彼女が指を指した先には猛スピードで飛ばすメルセデスだ。
この街道をずっと突き抜けていけば、学園都市で最も物価の高い第三学区の吉祥寺方面や国際空港がある調布方面にも接続している街道に接続する。


砂皿は猛然と走るメルセデスをSR25のリューポルド社製のスコープに入れる。



(ドライバー一人のみ…こちらに気づいている様子は全くないな…我々とは全く関係ない者だろう…)



砂皿はスコープから目を離す。
するとメルセデスが彼らの籠もっている雑居ビルを通過していく。
一般道でも関わらず速度は優に百キロを超してるだろう。



通り過ぎていくメルセデスを見つめながら安堵する二人はしかし、直後に数台の車がこちらに向かってくるのを確認した。


「……あれだ…恐らくな」


「黒塗りの商用ハイエースが四台、二十から三十人くらいですかね?」


「あぁ…ざっとそんなもんだろう…」


二人はこちらに向かってくる車列を見つめる。
その中で行動に出たのはステファニーだった。
彼女は走って二階のベランダに上るとグレネードを構える。



無線インカムを耳に装着すると下で待機している砂皿に告げる。


「派手にやっちゃいますね☆」


「許可する」


数十メートル先にいる車列に向かってステファニーが劣化ウランが混入しているグレネードを撃つ。
コーティングされた弾丸は敵にぶつかって始めてその汚染物質をまき散らす。


戦闘を走っていたハイエースの付近でグレネードが派手に弾ける。
確認するまでもなく、次弾装填。全ては機敏に。速度が戦機を決する!


ステファニーは黒革手袋を嵌めた手で次の弾丸を込める。
次は局所殲滅用のVXガスを装填したグレネードをぶっ放す!


キュポン!間の抜けた音とは対照的に人を悶絶させる恐怖の毒ガスを充填した弾丸が猟犬部隊のハイエースに向かって行く。
狙われた二台目のハイエースが勢いよくはじけ飛んだ。


(ふっふーん☆これじゃ楽ちんですよ?)


道路の真ん中で立ち往生した猟犬部隊の車列を見つめながらステファニーは通常弾頭のグレネードをぶっ放す。
猟犬部隊は車からとっさに飛び降り、散開するとビルの側面に隠れたり、車輌の残骸から散発的に反撃を始めた。


「ったく…だらしねぇなぁ…てめぇら…。ま、いーや、隊長は最後に格好良く登場だろぉ?普通?」


顔の半分ほどにトライバル調の刺青がある金髪の男が煙の中から出てきた。
彼の部下である猟犬部隊の隊員達が散発的に射撃をする中で、この男だけがてくてくと硝煙くすぶる道路を歩いてくる。


ステファニーがその男を照準に捉えた瞬間、煙幕が彼の当たりを包み込み、道路の周辺は鈍色の空間になってしまった。


(チッ!敵は煙幕を張った?…こいつらの戦力をある程度そぎ落とさなきゃ厄介ですね…!)


ここである程度学園都市の治安維持部隊の戦力を減殺(げんさい)してフレンダと合流する。
取り敢えずはフレンダがくるまでの間に絶対に倒しておかなければならないのが煙幕の先に居るであろう部隊だ。


ステファニーは雑居ビルの二階からグレネードランチャーで射撃を行っていたが、煙幕が張っているので射撃をやめ、一階にいる砂皿に合流する為に一階に戻る。


「派手にやったな。敵も動揺していたぞ」
(しかし、あの白衣を着た男は一体なんだったんだ……?)



「えへへ。ありがとうございます」



初めて自分の戦い方がほめられた瞬間だった。
ほめられた彼女はそれが嬉しくて、小躍りしたい気分になるが、煙幕が徐々に張り詰め、雑居ビルにも立ちこめてきたのを確認し、撤退する。



「ステファニー、ここから退こう、煙幕の中に入ると誤射する可能性も有り得る、ひとまず退却だ」



砂皿はそう言うと大きなノースフェイスのバックをぐっと持ち上げて退却する。
ステファニーが立ちあがり、彼女も自分の武器が収納されたケースを持つ。


砂皿は彼女の退却準備が出来たことを確認すると先に走らせる。
そう遠くへは行けない。重い荷物を背負っての移動寄りかは煙幕が届くぎりぎりの範囲に張り、漸次敵の戦力を削げばいい。



「あのビルに入れ!ステファニー!」


「はい!」


ステファニーは中腰で屈みつつ、ビルの入り口に入る。
警戒警報でも発令されたのだろうか?ビルは大きなホテルだった。


「地下駐車場へ行こう。そこで足を確保する」


「了解です☆」


ホテルの従業員はがたがたと震えながら机の下に籠もったり、手をあげ、反撃の意志がないことを砂皿達に見せる。
砂皿はその光景を視野に入れつつ、地下駐車場に向かっていく。



「エレベーター、エスカレーターは使うな、電気を止められたら元も子もない。階段で行こう」


「え?そんなぁ、へとへとになっちゃいますよぉ」


早くも愚痴を吐いたステファニー。冗談半分のつもりで言ったのだったが、砂皿は自分の手で持っていたSR25を背にぐるっと回し、ステファニーの手を取る。
軽い気持ちで言った彼女の顔が紅潮する。


「ま、待って下さい!嘘です!平気ですよ!平気です!」


あわわわ…!と少女の様に動揺するステファニーの表情は確認することなく砂皿は階段を下っていく。
階段をするすると下っていくと地下駐車場の出口に出た。
いくつかの車が静謐を保ちつつ置かれていた。


「どれに乗る?」


「車の事はわかりませんので…任せます…はぁ…はぁ…」
(めっちゃ緊張しました…!初めて砂皿さんと手つないじゃいました…!)


「わかった。じゃぁ、これで良いだろう」


ステファニーは砂皿と手をつないだことでどきどきする鼓動を抑える事に集中する。
その間に砂皿はガン!と勢いよく運手席のガラスをたたき割る。


盗難防止用の警報が鳴り響くが、車内にある警報装置を破壊すると忌々しい警報も鳴り止んだ。
砂皿が用意した車はトヨタのランドクルーザー。


ステファニーは自分の重たい荷物を積み込むと駐車場の出口の方からギャガガガガガ!と勢いよく車が入ってくる音が聞こえる。
運転席に座った砂皿の表情が曇っていく。


「ステファニー…今の音…」


「えぇ」


勢いよく音を立てた車はしかし、砂皿達の前に現れることはなかった。代わりに車から降りた声が聞こえてくる。
会話の内容から推測する限りだと、どうやら猟犬部隊の隊員の様だった。


ステファニーは車の合間を張っていく猟犬部隊の隊員達を目視する。
彼女の手元には一つのスーツケースが。そして取っ手を掴み、かちとスイッチを押す。


アタッシュケースに収納されているクルツ短機関銃が火を噴いた。
防弾チョッキを着ている隊員達の胸に弾丸が当たると、当たった人達は失神した。



「へぇ…お前強えなぁ…猟犬部隊の奴らの全員ぶっけても勝てねぇよ」


ステファニーが射撃に集中している間にガン!と後頭部を殴られる。
この痛みは…グリップアタック?銃の底でたたかれたの?と思いつつ、ステファニーはうつろな目を砂皿に向け、失神してしまった。



「ステファニー!」



砂皿はとっさに運転席から飛び降り、地下駐車場に倒れ込んでいるステファニーに話しかける。


「…貴様がこの部隊の隊長か?」


「あぁ。そうだ。ここで死ね、すn」


数多が喋っている最中、砂皿は背中に手を回す。すると良く研がれた日本刀がぬらっと出てきた。
直後、ボッ!と白木の鞘の一閃が振り落とされる。



「ふん!」


「!」


バックステップで砂皿の斬撃を交わす。


「ほう…流石特殊部隊出身だけある…その瞬発力は賞賛しよう」


「…はっ!上から目線でどーも、どーも……砂皿…てめぇのは薩摩の示現流…?」



「ご名答。二の太刀いらずの示現流だ」


剣技こそが武士のステイタスとされていたはるか昔の日本は鎮西(九州一帯)で編み出された殺人剣、それが示現流。
相手を一撃で殺害する事を目論んだ九州の剛剣だ。


「へぇ…じゃ、俺も全力でお前に答えなきゃならねぇなぁ…!」


砂皿は数多の発言に目を細める。
猟犬部隊の隊員のいかめしい装備の格好とは違い、研究者然とした博士の様な格好の男。


しかし、砂皿は彼の醸し出す雰囲気にただならぬものを感じた。
彼は日本刀を構えている砂皿が一足飛びで跳んでくるかどうかのぎりぎりの距離で手袋を嵌める。



「…それで日本刀の斬撃を防ごうと?」



「あぁ、これはだな、炭素繊維を編み上げた特殊な手袋でな、結構良いんだわ、コレ」


数多はそう言うと真っ黒の一見ただの革手袋に見えるそれが嵌っている両の手を思いっきり合わせる。


ガッツツツキィィィン!


まるで鉄が弾けるような轟音が駐車場に響き渡っていく。



「ほう…かなりの強度だな…」



「テニスラケットが千五百回か?これは…そうだなぁ一万回以上編み上げているからな」


数多はそう言うと恐るべき敏捷さで砂皿の懐に入り込む。
先ほどとは逆に砂皿がバックステップで避けようと思うよりも早く、数多のボディブローが炸裂する。


「…ごッ…ブ…!」


強力な一撃を頂いた砂皿はその場によろめくが倒れる事はしなかった。


「やるじゃねぇか、炭素繊維の手袋の一撃を食らって倒れねぇなんて」


「…はぁ…!クッ…!」


一撃で大打撃だった。
砂皿は痛みで焼ける様な痛みを放っている腹部をさすってやる。



防弾チョッキの上からでこの痛み。生身で喰らっていたら恐らくその場で吐瀉物をまき散らして這い回っていた事だろう。
最悪、死も充分考えられる。


(ふむ…注意せねばなるまい…油断禁物…)


砂皿はちらと日本刀を見る。
すると先ほどの炭素繊維の手袋に触れた部分が刃こぼれを起こしていた。


カラァン!


砂皿は刃こぼれを起こしている日本刀を地下駐車場の冷たい床に投擲する。



「良いのか?得物を捨てちまって…」


「なに、一つじゃないさ…これは……良く研いだアーミーナイフだ…」


砂皿はそう言うとマリーン用の迷彩パンツを軽くめくると長い包丁ほどの大きさのアーミーナイフが出てきた。


「自衛隊の特殊作戦群に所属していたときからずっと使っているナイフだ…切れ味は抜群」


「口上垂れてねぇで掛かってこい」


砂皿は言われなくとも、と一言言うとベイツのブーツの前方にぐっと力を込める。
そして一気に踏み込む。


刺突(しとつ)!


高速で繰り出されるナイフ捌きを数多は冷静に見切っていく。
ひゅん、ヒュン!と風の鳴る音が聞こえる。


他の猟犬隊員はその動きを見守ることしかできなかった。



砂皿が左手にナイフを持ち替える。
直後高速の突き。それは躱(か)される。


次弾は右手による掌底!
しかし、これも回避される。


砂皿はナイフを一瞬だけ構える。
その動作に数多は機敏に反応し、さっと身構えた。


するとそこにはぶっとい血管が浮かび上がっていた。


「ふぅ…ナイフだけじゃねぇだろぉが…取り敢えず武器破壊っと…」


「ふむ…とてつもない力だな、貴様」


砂皿は柄からぽっきりと折れているナイフだったモノをぽいと捨てる。



(…いったいですねぇ…ちょっと気ぃ飛んでましたね…)


ステファニーは殴られて出血している後頭部をさする。
既に血は固まりはじめていた。ブロンドの美しい髪は後頭部の部分がどす黒い血の色に染まっていた。


そんな彼女がうっすらと瞳を開けていくと目の前で鬼の様な形相で取っ組み合っている二人がいた。
うつぶせになっているステファニーから少し離れたところで砂皿と数多は肉弾戦を繰り広げていた。


(敵の他の奴らは…居ないですね…応援を呼びに行ったんでしょうか?)


先ほどまでいた猟犬部隊はステファニーが気絶から目覚めるといなくなっていた。
彼女は砂皿達が戦っている間にトヨタのランドクルーザーの運転席に移動しようとする。



(体が鉛の様に重いですね…にゃはは…)



彼女はよろけた足の地下あを振り絞って車高の高いランクルに乗るとエンジンを入れるためにキーを思い切り回す。
するとぶぉん!と心地よいエンジン音が聞こえてくる。



(これで…砂皿さんを拾ってフレンダを迎えにいかなきゃ…!)


どうやって砂皿をランクルに乗せる?
顔面にトライバルの刺青が入っているあの男を振り切れるのか?
寧ろ、あの男の部下はもしかして地下駐車場で虎視眈々と私達の事を迎え撃とうとして言うかもしれない?


いくつもの疑問が浮かび上がってそれらは決して氷解する事はなく、頭にうずたかくたまっていく。



(チックショ…こうなりゃ、やけですよ!)


ズキズキと痛む後頭部を気にかけながらも砂皿と数多が戦っている所へ向かって行くランクル。



「乗って下さい!砂皿さん」


ステファニーは運転席の窓を思いっきり開けて声を張り上げる。
砂皿の耳にも彼女の声は届いているに違いないだろう。


「俺は構わん!いけ!妹と会うんだ!」


「…させるかよ!コラ!」


数多は先ほど砂皿が捨てた仕込み杖の日本刀を拾い上げると一気にそれを投擲する。
ランクルの後部のミラーに鈍い音を響かせ、刀は落ちていく。


数多は日本刀がミラーを貫通せず、ランクルを逃した事に舌打ちする。


「よそ見するな」


瞬間、砂皿の渾身の一撃が数多の腹部で炸裂する。
喰らった数多は「う…が…!」とうめきつつダウンした。


ここでとどめを刺しておきたいところだったが、ステファニーを追撃しなければならない。
後腐れはなし、といきたいところだったが、猟犬部隊他所に散らばっている隊員達を集めて攻撃してこないとも限られない。


砂皿は痛みに悶えている数多はその場に放置していち早く手近にあったインフィニティのスカイラインのドアをたたき割る。
彼はきーの差し込み口に細工をしてエンジンを起動させると、自分の携帯でステファニーの携帯から発信されているGPS電波を追従する。


(フレンダとの合流までだいぶ時間が掛かったな…先についているか?)


フレンダとの待ち合わせは学園都市第三学区の個室サロンだ。
休憩するにしても宿泊するにしてもかなりの金額が取られてしまうがそれでも学生達から利用されるのは、このサロンが学生達が他者から完全に目が触れることがない隔離空間だからだろう。

そこだったら一時的にフレンダをかくまうことが出来るし、仮に追撃者がいれば彼女の存在を―これも一時的だが―秘匿出来る。



(ここから第三学区…クッソ少し遠い…)


第七学区から第三学区までは三十分ほど時間が掛かる。
その間に追撃してくるものが居なければ良いのだが、と思案しつつ砂皿はインフィニティ使用のスカイラインのアクセルをべたっと踏み、一気にスカイラインを加速させた。
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