佐天「…アイテム?」23


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あらすじ

木原数多率いる猟犬部隊は砂皿緻密がいると思われるホテルに強襲をかける。
しかし、強襲は失敗し、逆に隊員達の内の何人かが死傷してしまう。


その状況をホテルの外で見ていた数多の車の前をハーレーが横切っていく。
そのハーレーを追撃していくと、正体は何と女(ステファニー)だった。
彼女の正体を確かめるために猟犬部隊は一度帰還し、体勢を整える。

ちょうどその頃、佐天の家には砂皿がいて…。






――同日柵川中学の学生寮

猟犬部隊とステファニーの追撃戦が始まる少し前。
早めにホテルを出た砂皿はアイテムの連絡係りである佐天と接触していた。
時刻は少しさかのぼって、午前中。


「…私の、護衛役を放棄し、地下に潜伏する?」


「あぁ。そういうことになるな」


佐天は砂皿の言った事を反芻する。
砂皿は自分達が何者かによる盗聴を受けたことを佐天に伝える。そしてその事実を踏まえた上で地下に潜伏することを伝えた。


「このままどこかにいれば学園都市の何らかの勢力から攻撃を受ける可能性がある。なので暫く地下に潜伏しようと思う」


「ち、地下ってどこに?」


「地下と言っても実際に地下にもぐるわけではない。要は潜伏だ」


「潜伏…」


砂皿は目の前にいる中学生の不安そうな表情を見つつ話を進める。


「柵川中学の学生寮付近にあるあの雑居ビルだ」


砂皿はそう言うと立ちあがってカーテンをあける。
彼が指を指した先には小さく雑居ビルが見えた。


確か私達、あのビルから監視されてるはずじゃ?と疑問に思う彼女だったが、しかし、そんな事を気にすることなく砂皿は窓も開けて夏の熱気を堪能する。



(平気なの?私監視されてるんじゃなかったけ?)


カーテンが開ききってから今更ながら自分の身を案じる佐天。
しかも、砂皿はあの雑居ビルに潜伏するという。それでは監視している組織の人間達に発見されるのではないか?
彼女は素人ながらそう考えると砂皿さん平気なんですか?と訪ねる。


「平気?あぁ。あのビルに張っていた男か。あのビルの脅威は排除した」


「…は、排除?」


聞き覚えのある言葉だった。
2週間ほど前にアイテムが仕事をこなして佐天に報告してきたときに使った言葉。
確かあのときは“処理”だったかな?と思い出す。あの頃はその言葉が持つ意味を考え、相手の事を色々と考えていた。


しかし、今、砂皿が言った“排除”という言葉を聞いて彼女の胸に去来したもの。
それは死んだ相手の事を考える事ではなく、自分の命を狙っているかも知れなかった一人の人間がこの世から去ったことによる安心感だった。


「ありがとうございます」


「いや、礼には及ばないさ」


佐天は砂皿の言葉を聞いてほっと肩をなで下ろす。
自分の命が狙われているという実感はなかった。
しかし、自分を監視していて、殺害の機会をうかがおうとしていた人物が死んだとなればそれは、彼女にとってはそれは喜ばしいことだった。



「私が住んでいる学生寮の近くに居つつ、護衛任務を放棄するってのはどういうことなんですか?」



「私と行動を共にしている女は学園都市から追われている。しかも、君の護衛を行うよりも、優先的にやるべき事があるんでな…」


「…それで、最後に私を監視している人間にとどめを刺して護衛の任務を全うしたって訳ですか」


「まぁ…半ば当てつけのような形になったがな…。しかし、ここで君の護衛が居なくなるわけではない」


佐天は砂皿の話しを聞いて、「じゃあ、誰か護衛に来るんですか?」と聞いた。
すると彼女にとって驚愕の事実を砂皿は喋った。


「フレンダを護衛につけて貰えないか?そうすればここからそう遠くない所で潜伏するステファニーと会えるかも知れない。また、救出行になった時に行動しやすい」


「そうですか…確かに一理あるかもしれませんね…フレンダにはその事を聞いておきますね」



フレンダを自分の護衛につければ確かに相当な実力者が現れない限り、佐天の身に危険が及ぶ事はないだろう。
彼の提案に佐天は納得する。


「フレンダを護衛につかればどうか?という提案には納得出来ます。けど、…砂皿さんは学園都市に反抗したって事になっちゃいませんか?」


「そうだな。というか、学園都市の特殊部隊の隊員を殺害した時点で既に俺は狙われる身になったわけだ」


「潜伏する理由は分かりましたが、それではフレンダを救出するっていう姉はどうするんですか?まさか別行動?」


「いや、彼女も潜伏する。同じ雑居ビルに拠点を構えるつもりだ」


「その…変な話し、風呂とか清潔面の心配はどうなんですか?」



「その点に関しては問題ない。排泄物を科学分解出来る応急キットと食品がそれぞれ一ヶ月分。それに仮に私の拠点が学園都市側に露見したとしても安易に攻めてくることは出来ないだろう」


「何でそう言いきれるんですか?」


砂皿はそういうと、持ち込んでいたアタッシュケースをぱかりとあける。
ヘッケラー&コッホのクルツ短機関銃とその弾倉が差し込んであるのを含めて六本。


その光景を見て佐天は息をのんだ。砂皿はクルツ短機関銃を収納してある容器を更に半分ほどあける。
するとそこには数珠つなぎになっているいくつかの弾が綺麗に収納されていた。


砂皿は丁寧にそれを見せると「強力な毒ガスだ」と言い放つ。
佐天は学校の授業で教わったことを思いだした。確か国際法上ガスの使用はいかなる場合禁止されているはずじゃ?


「これは拳銃や機関銃の銃筒に接続して射出したり、時限爆弾のように遅効性で破裂させる事も出来る。局所的な範囲でしか使用出来ないが、相当な破壊力を持つ兵器だ」


彼はそう言うと「これを使えば多数の死者が出ることになるのでなるべく使いたくないが…」と付け加えた。
佐天に毒ガスを見せると、砂皿はアタッシュケースをかちゃっと閉じる。


「で、アイテムのメンバーには話しをしたのか?フレンダの学園都市脱出行に関して」


「すいません、こっちでは把握してないです」


「分かった。ではその件も分かり次第連絡をよこしてくれ」


佐天はわかりました、とただ目の前にいる戦いのプロフェッショナルの言うことに頷く。
幾多の戦場を駆け抜けてきた傭兵の言葉は一中学生の佐天に取って千鈞の重みを放っていた。



ここで佐天は思った。
自分と砂皿が連絡を取れるならば、フレンダの姉とか言う人とフレンダも連絡を取れるのでは?と。


「すいません、今思ったんですけど、私と砂皿さんが連絡出来るなら、フレンダとステファニーさんの間で連絡を取る事も出来るんでは?」


「ふむ…。それも考えた。しかし、ここで連絡を取り合えば、フレンダとステファニーが何らかの陰謀を企てている事を証明する事になりかねない。なのでそれは避けたい」


砂皿は「私と君の護衛する側とされる側だからこそ連絡を取ることに不自然は生じないのだ」と付け加えた。



「そうですか…でしたら、以前にも砂皿さんが言っていた様に、救出に向かっている事だけを伝えときますね」


「あぁ。そうして欲しい。…ところでここ数日で何か学園都市で何か大きな動きはないか?」


「大きな動き、ですか…、これと言って特にありませんね…」


佐天は不意に美琴がSプロセッサ社に侵入した事を思い出したがそのことは関係がないと思い、いわないことにしておく。
その代わりに思いついたことがあった。それは取り立てて大きな動きでもないのだが、ここ最近彼女が気になっていることだった。



「学園都市の暗部の組織でも縄張り争いみたいなものが激化してるとは聞きましたね…」


「ほう…僭越ながらその組織の名前は?」


「確か…スクールとか言いましたね」


「スクール?」



佐天は「はい」と頷く。
彼女の持ちうる権限ではバンクで閲覧することが出来なかったアイテムと同様の暗部組織だった。


しかし、砂皿は華僑から入手した冊子を先ほどのアタッシュケースを再び開けて、そこから中国語の簡体字で書かれた"学校”という文字を見る。
その中には四人の構成員達の写真が掲載されていた。


「スクール…華僑の奴らが持っていたファイルなので日本語と対応している。ヘッドギアをはめている男と俺と同業の軍人が一人」



砂皿は冊子をぺらとめくって先にその二人を佐天に見せてやる。
四人のうち、二人はさして脅威ではないことを告げる。


しかし、と砂皿は佐天に告げる。


「この二人は別格だ」


ぺらっと見開きの冊子を広げ、二人の顔写真を見せる。
説明は簡体字で記載されているので読めることは出来ない。


(垣根帝督…それと心理定規…レベルは…)



佐天は冊子に記載されているLv:5とLv:4という記載に注目する。



(垣根って人がレベル5で心理定規って言う人はレベル4…)



この人たちがスクール…テレスティーナさんが言っていた縄張り争いに執心している組織の構成員って事よね?)


佐天はここ最近学園都市で起きている縄張り争いの中心点にいる人達を初めて見た。
自分たちと同年代、或いは少しだけ年上。
砂皿は佐天にスクールの構成員が乗っているファイルを手渡す。


「…この組織以外でも良い、何か学園都市で騒動を起こそうとしている奴らはいないのか?」


「……」


佐天は困惑した。
今砂皿に言ったスクールという組織も縄張り争いをしているだけであって、それ以外のことは何も言えなかった。
彼女は少し考えてから「すいません…ちょっと分からないです」とぽつりとつぶやいた。


「わかった。では、今後の学園都市の祝祭日関しての聞きたいのだが、九月後半に大覇星祭と学園都市の独立が十月の初旬」


佐天は何も見ないで学園都市の定めている祝祭日の日程を大まかに把握している事に驚いた。
彼女に取ってみれば「あぁ、そんな日あったな」程度の認識だった。


学園都市の人間でもないのに、祝祭日の日程を把握している砂皿に彼女は感心しつつ、柵川中学校の生徒手帳を学習机の中から取り出して確認する。


「…えっと…そうですね……砂皿さんの言っているとおりです…」


「わかった。どちらにしろ一ヶ月とちょっとは潜伏しなければならないな…」


佐天は思い出したようにつぶやく砂皿を見て疑問に思った。
潜伏するのは義務なのだろうか?フレンダ救出作戦が決行されれば行動を起こすのは速いほうが良いのではないか?
戦術や軍事に全く造詣がない彼女は砂皿に質問する。



「直ぐに行動を起こした方が良いんじゃないですか?まだアイテムのメンバーの意志決定とか色々問題があると思いますが……」


「ダメだ。どんなに早くても学園都市の大多数の生徒達が参加する大覇星祭か学園都市の日本国からの独立記念日…その二つのうちどちらかまで待機せねばなるまい」



「…その間は?砂皿さんとフレンダのお姉ちゃんはどうするんですか?ずっと潜伏するんですか?」


「そうだ」


こともなく、きっぱりと自分が一ヶ月潜伏することに関して言い放つ砂皿に佐天は驚く。
フレンダを学園都市から逃が為には毒ガスを使うこともいとわず、また潜伏生活もいとわない気概に佐天は砂皿に畏怖の念を見いだした。



「…では潜伏する間…くれぐれも…気を付けて」


「あぁ…君もな。ずっと潜伏するわけではない。監視の目をぬって出てくる事もある。君も…フレンダやアイテムの他のメンバーと話し合っておくことだ」


砂皿は自分で言っておきながら俺は身勝手な奴だな、と思った。
勝手に学園都市に来て、フレンダを救出すると彼女の所属している組織の連絡係に伝え、後は救出するだけ。


フレンダが身を置いていた環境は?そうした事を一切考慮しないで行われるであろうこの作戦。
大覇星祭にしろ、学園都市の独立記念日にしろ、後一ヶ月ほどある。
それが短いか、長いかはわからない。
しかし、この一ヶ月は彼女達に否が応でも今後どうするか決めなければならないのであった。




「フレンダには今すぐに話をしてほしい」




砂皿はそういって帰っていった。
一体なんなんだろう?そう思った佐天はしかし、「は、はい」と返事をして、砂皿の言うとおり直ぐにメールを送った。


――アイテムの共同アジト

アイテムのファミレスでの集まりは終了した。
今日集まった理由…それはフレンダが学園都市の暗部から抜け出そうとしている、情報に基づいて麦野が行った尋問だった。


がちゃり…フレンダはキルグマーのストラップがついているカギを鍵穴に差し込みドアをあける。
その直後に滝壺も共同アジトに上がっていく。


カーテンをぴしゃりと締め切っているのでアジトの中は比較的涼しかった。
家を出てから四時間ほどなので冷房が排出した冷気がまだ少しだけ残っているのを二人は知覚する。


ファミレスからここまで帰ってくるまで二人は一言も話さなかった。
その発端としては恐らくフレンダが醸し出す気まずさと滝壺の寡黙な正確が生み出していると言える。


部屋に上がってフレンダがipodを取り出してBOSEのスピーカーマシンにかちゃりと接続する。
しんと静まりかえり、ひんやりとしたアジトにしっとりとした音楽が流れる。


確か…これはMicroとL-VokalのApple pieとかいう曲だったがどうでもいい。と思いフレンダはソファに身を沈める。
滝壺は洗面所に行って手と顔を洗って、部屋着に着替えてからフレンダのいるソファにやってきた。



「ねぇ?滝壺?」


ファミレスから帰ってきてやっとフレンダが口を開いた。
滝壺は「なに?」といつも通りの優しい表情でフレンダをのぞき込む。


「私…みんなに嘘ついちゃったね」


「……うん」



「“私がアイテムから抜けるぅ?結局、意味不明って訳よ!”とか、もうね…よくあんな事言えたわ…」


フレンダはそう言うと「ははは…」と笑いながら言うが、その表情は全く笑っていない。
むしろ滝壺からしてみたらフレンダの表情はやや苦悶しているようにも見える。


「もし、私が学園都市を抜けるときに麦野に見つかったら…私、殺されちゃうかも知れないわね…」


「……フレンダ」


滝壺はただ弱々しくフレンダの名前を呼ぶことしかできなかった。
彼女はフレンダの隣にすとんと座るときゅっと手を握ってあげた。


「こんな嘘つきの汚い白豚の手を取ったら…滝壺も汚くなっちゃうよ?」


「平気だよ。どんなフレンダでも私はフレンダを応援するって決めたから」


「そっか……ありがとね……」


「…うん」


滝壺はちょっとだけ嬉しそうな表情を浮かべる。
フレンダも滝壺のその表情を見てちょっとだけ頬をほころばせる。


「でも、私が嘘ついたことには変わりないって訳ね。結局は麦野にも滝壺にも、みんなに迷惑をかけるかも知れない」


「そうだね。絹旗や浜面にも…迷惑かけちゃうかも知れないね」



「…はぁ。やっぱり、テレスティーナの指摘したことは事実って事を認めれば良かったのかな?」


「ダメだよ。あれは事実じゃない。学園都市から脱出するていうのは…まぁ…事実だけど…目的があるもん。フレンダ」


結局は言葉遊びなのだが、そこも重要だった。
フレンダはアイテムを裏切るわけでない。形式的にはそうなるかも知れなかったが。


「そうだね…」


フレンダは思う。
テレスティーナの採った行動は何もおかしくない。
学園都市を守る者として、僅かながら感じた不穏な臭いは払拭しなければならない。なので念には念をと言うことでフレンダを試したのだろう。


♪I believe Miracles can happen

考え事をしているとフレンダの携帯電話が不意に鳴った。
とっさにポケットから携帯を取り出すとメールが一件来ていた。



(なになに?今から遊ぼう?はぁ?ま、暇だから良いけど…)


フレンダは佐天から送られてきたメールを返信する。
取り立てて予定も無いので良いかな、と思い佐天に返信する。




To:涙子

Sub:OK

いいわよ。涙子の寮に行けばいい?





(よし…これでいいわね、送信っと)




フレンダがメールを送ると直ぐに返事が返ってきた。
恐らく涙子も暇してるんだろうな、とテキトーに推測する。




From:涙子

Sub:ありがとね!

じゃ、待ってます!!!!



(ったくメールでも元気全開だな、涙子)


フレンダは佐天から送られてきたメールに返信をすると滝壺に送られてきたメールの内容を一応言っておく。
滝壺も一緒に行く?と言うが、つかれちゃったから寝たい、と言いアジトで待機する事に。



フレンダはいつもの格好から着替えるとまだ日差しが照りつけている道を歩いて佐天のいる学生寮に向かっていった。



――柵川中学の学生寮

「結局、こんな所に呼び出して、どうしたの?」


「あぁ、遊ぼうって言ったのは嘘。ちょっと重要な話があって」


「嘘かい!ま、いいわ、結局、暗部の女として私にいうことがあるって事?」


「仕事の依頼って言ったら依頼だけど…」


佐天はそういうとなにやら言いよどんでいる。


「…結局どうしたの?」



「私の護衛を頼めないかなって…ははは」


「私一人じゃ、涙子を守るのは無理」


「キー!こいつときたら!私の命がどうなってもいいんかい!」


「ちょ…なによ…だって元々の護衛役は砂皿さんじゃないの?」


「砂皿さんはさっき私の所に来て、潜伏するって言ってたわ…で、その潜伏するのに…」


「……?」


「フレンダ。フレンダの姉も一緒に潜伏するのよ…もう学園都市に来ているのよ。それで、あなたのことを探している」


「…お姉ちゃんが学園都市にいる…!」



フレンダは姉が自分を探しに学園都市に来ていることが何より嬉しかった。
彼女は佐天に質問する。


「探してるってのは…あの前に行ったテレスティーナとか言う女がつけてくれた涙子の護衛の男の人と一緒って訳?」


「えぇ。その人もさっきまでここにいたんだけど、『フレンダと接触するのはまずい』って言って帰っちゃった」


「…そっか…そしたら…いつまで待てばいいのよ?会えるなら、私はお姉ちゃんにすぐ会いたいな……」


佐天はそういう姉との再会を切望するフレンダに近くの雑居ビルに潜伏することを伝えた。
柵川中学校の学生寮から程近い雑居ビルにいることを伝えると直ぐに向かおうとしたがそれを佐天は食い止める。


「ちょっと!待って!フレンダ!気持ちはわかるけど、今行ったら砂皿さん達とフレンダが何らかの関係があることを学園都市に教える事になるからまずいよ」


「うっさいなぁ…結局すぐそこにいるのに何で…!」


フレンダはそういうとぎりと歯軋りをする。
確かに目の前に探している人がいるにもかかわらず、会いに行くなと言われれば誰でも苛立ちを覚えるだろう。
つい先ほどまで姉が探していると聞いて喜んだフレンダだったが、今は二人は気まずい雰囲気になっていた。


「涙子、知ってる?テレスティーナが麦野にメール送ったんだよ?」


「…?どんな内容のメールなの?」


「私が暗部から抜けようとしてるって話よ!!私たちがMARに行って砂皿さんを護衛に抜擢してもらった所まではよかったんだけどね」


フレンダは佐天が何か言おうとしたがそれを封じて先に話す。



「それが裏目に出ちゃったて訳よ。テレスティーナは間違いなく私たち、いや、私のことを警戒している」


「……ご、ごめん。私がMARに行こうって言ったばかりに…」


佐天は謝罪するも、フレンダは「もうすぎた事だし、仕方ないよ」と言ってくれたが、かなりイライラしているように見えた。
しかし、佐天はもう一つ重要な事を言わなければならなかった。


「…ここにフレンダの探しているお姉ちゃんの連絡先があるの。一応渡しておこうと思って」


「え?」


佐天は「だからここに…」と言うとポケットから砂皿から渡されたメモ用紙を渡す。
そこにはステファニーの連絡先が記載されていた。


「これが…」


フレンダは佐天から貰った小さいメモ用紙の切れ端を片手で掴むと大切そうにポケットに入れた。


「今、連絡してみてもいい?」


「いや…ちょっとそれは…」


フレンダは言いよどんだ佐天をキッと睨みつける。
さっきを孕んだ視線で射竦められた佐天は黙ってしまったものの、直、抗弁の姿勢は見せていた。


「結局、涙子が何で私と姉が連絡を取るのを許可しないの?あなたにそんな権限があるの?」



「…私はないわよ…私だってむしろ……フレンダがお姉ちゃんと会えれば嬉しいって思うけどさ」


「なら、対面できないまでもメールくらいさせてくれたってよくない?」


「ダメだよ…そしたらフレンダと姉が接触してるって事を裏付ける事になっちゃうんだよ?」


「……姉と砂皿さんも私が学園都市から脱出する事に協力してくれてるの?」


「そうみたいね…直ぐそこの雑居ビルに潜伏するって言ってたから、相当の覚悟で臨んでるみたいよ?」


佐天は自分が思った事を素直に吐露した。
フレンダはどこか焦点が定まらない視線を泳がせ、「潜伏って…」と姉達の強固な意志を垣間見た気がした。


「そっか…お姉ちゃん達、すごいな…私もがんばらなきゃ」



「…そうだね。で、砂皿さん達が動き出すのは人の流れが流動化するときって言ってたわ」


「つまり…大覇星祭か、学園都市の独立記念日って事ね」


「そういうことになるわね」



フレンダは佐天と話し合いを終えると窓越しから外を見る。


「夏も、もう直ぐ終りね」


「えぇ」


「涙子は…どうするの?」


唐突に放たれた質問に佐天は答えに窮してしまった。
砂皿にも聞かれたその質問の答えはまだ見出していなかった。


「…私は…」


「うん。滝壺も答えに困ってるって感じだった、ただ…私がいなくなったらみんなどうするのかなって思って」


アイテムが任務をこなすたびに入る報酬の幾らかを親に送金していた。
それらはを人を傷つけるたびに自分自身の免罪符として。



「フレンダを学園都市から逃がすって事は…殺人者を学園都市の外に放り出すって事?」


佐天のトゲのある発言にフレンダの眉がぴくりとうごめく。


「……まぁ…否定はしないわ」


フレンダは思った。
確かに究極的に見れば私は殺人者だと。そんな人が学園都市の暗部から下野すればそれはそのまま殺人者が牢から出るに等しい行為だ。


佐天の発言で暗鬱な考えに浸ろうとしているフレンダに対して「けど」と言葉が発せられて、フレンダの思考が一旦中断される。


「でも…フレンダだって姉に会いたいから学園都市から脱出しようとしてるんでしょ?」


「…そうね」


「フレンダの逃がすって事は学園都市であなたに殺される人がいなくなるって事よね?」


「ん。ま、まぁ」


「なら、私がやろうとしてる事は人助けになるのかもしれない」


佐天は自分の思った事を口に出して免罪符を得ようとして、それを取得した。
自分の納得できる理論を自分で構築する。
そして、後は他者にそれを認めてもらえればいい。フレンダの回答を待つ。


「…そうね。結局はそういう事になるわね」


「そういってもらえると助かるわ」



佐天はまるで幻想御手の時から変わってないな、と自分で思う。
幻想御手の時は自分の意思で善悪を超え、自分の興味で使い、昏倒した。
今回も自分が免罪符を得たいからという理由でフレンダを学園都市から脱出させる事に協力しようとしている。


誰かに自分の事を認めてもらいたい。役に立ちたい。目立ちたい。
そうした様々な心理状態が絡み合って、今の彼女、佐天涙子を形成していた。



「涙子は…私に協力してくれるの?」


「えぇ」


「あなたはアイテムの連絡係よ?上からの命令で私を捕縛しろとか、もっと過酷な命令が下るかもしれないわ」


「そのときはそのときよ!」


佐天はそういうと自分の胸をどんと叩いてみせる。


「結局、私のやりたい事をやらせてもらう。それだけ」


「涙子…あんた根性あるわね」


「そうかしら?今までさんざっぱら色んな人に迷惑掛け捲ってきたダメ人間よ?」



「いやいや、結局自分のやろうとしてる事だけを貫き通すってのはむずかしいって訳よ」



「そうね。でも自分の成し遂げたい事だとか、やってみたい事をやらないってのは損よ」


「ふふ…涙子は強いね、自分に興味のある事は真っ先に手を伸ばすのは素直にすごいと思うわ」



感心するフレンダを佐天はちらと見ると「この仕事も自分の意思ではじめたしね…」と小さい声でつぶやく。
先ほどの暗い雰囲気は多少は和らいできた感じだった。


とそのときだった。


ドルルルルル……


外に大きなバイクの音が聞こえる。


「うるさいわね?暴走族?スキルアウトかしら?」


佐天は忌々しそうにつぶやきながら冷蔵庫にあるパック麦茶を浸しているボトルを取り出す。
夏休みの最終日を前にしてスキルアウトたちが暴走行為をしているのだろうか?
佐天たちのいる学生寮の前にバイクの音がひびく。


フレンダは「だー!うっさい!」と言いながら窓越しに下を見る。
佐天は「誰よ?」と窓越しに立っているフレンダに話しかけるがその背中からは返事が返ってこない。
おかしいと思った佐天は恐る恐るフレンダの隣に並び立ってみる。



「…お姉ちゃん…」


「え?」


フレンダが発した一言で佐天はぎょっとした表情で窓越しに道路の真ん中に止めてあるバイクを見る。
距離は離れているがどうやらこちらを見ているようだ。



――柵川中学学生寮前

正直笑うのも億劫だった。
しかし、砂皿さんからの連絡でこの時間帯だったら君の妹がいるかもしれないといわれれば、無理やりにでも笑顔を作る。


(確か二階にいるのよね?フレンダの連絡係は)


ステファニーは数多の増援に追いつかれる前に潜伏先の雑居ビルの近くにやってきたのだった。
まさに僥倖とも思えるこのタイミングでフレンダとステファニーは一瞬の邂逅を果たすことになった。


フレンダはアイテムの連絡係に呼ばれた可能性が高い。
会うならこの時機しかない。


ステファニーは左肩の銃創貫通と右足に擦過していった銃弾の擦り傷が痛む中、ハーレーソフテイルを勢いよくドルルン!とふかした。


(本当に居るんですかね?フレンダは)


一度停車するとどっと汗が出てくる。
真っ黒のレザーで上下会わせているステファニーにとってはかなりきつかったが妹に会えるのであらば、ちょっとやそっとの事は気にしなかった。


(フレンダぁ…居るなら出て!)


祈るような気持ちでステファニーは柵川中学校の学生寮の前を見る。
バイクを走らせれば直ぐそこに砂皿が潜伏している雑居ビルがある。時間的余裕はあるのだが、銃創からは血がしたたり落ちている。


(まだ居ないのか?来てないのかな?)


半ば諦めかけていた時だった。
学生寮のカーテンが元々開いてる部屋からのっそりとこちらを見ている金髪の少女が居た。


(…フレンダ!)


よく分からなかったがフレンダは「お姉ちゃん」と言ったはずだった。いや、言った。
妹の口の動きをつぶさに感じ取ったステファニーは数年ぶりの再会に思いを馳せた。


ステファニーは目頭が熱くなるのを感じたが、涙がこぼれるのは必死にこらえる。
ぐっと左腕を高く掲げ、窓の外にいるフレンダに親指をぐっと突き上げる。


フレンダは窓越しにその素振りを真似る。
ステファニーからは心なしかフレンダも目が潤んでいる様に見えた。


「待っててね!フレンダ」


大声でステファニーは叫ぶともう一度ハーレーをドルルン!と勢いよく吹かす。
フレンダは窓越しにうん!と精一杯の笑顔を浮かべて手を振っている。



(にしし!今日はフレンダと会えました!今度会うのはいつになるんですかねぇ?)



ステファニーは後方に遠ざかっていく学生寮を見つめながら潜伏先の雑居ビルに向かっていった。
ツールボックス

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