佐天「…アイテム?」8


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あらすじ
アイテムは仕事をしている間、急遽一件の仕事を受注する。
その仕事の内容は製薬会社から寄せられたものだった。

内容は目下起きているサイバーテロの鎮圧と予想されるであろう侵入者の邀撃。
高位エレクトロマスターの犯行と疑われており、佐天は自分の友人である美琴を疑う。

アイテムはそれぞれの持ち場につき、戦闘配置に移行しつつあった。






ういーん…ういーん…

佐天の携帯電話がバイブレーションし、メールの着信を知らせる。



From:麦野沈利

Sub:無題

施設の電気セキュリティが破られた。
多分そろそろ来るわ。

あ、ちなみに絹旗とフレンダ、別々の施設に待機させたから。
何か、一方面だけっていうのが怪しいのよね。


じゃ、私と滝壺は待機してるから、また情報が入ったらそっちも連絡お願いね。




麦野が送ったメールはニ方面作戦を行う事を知らせるメールだった。
佐天は戦術に関しては何も知らないので麦野に任せることにした。



To:麦野

Sub:わかった

じゃ、しっかり頑張ってね


(後は…戦いが終わるまで待つだけね…)



佐天はメールを作成して編集する。
彼女にとっては永遠と感じられる数時間が到来する。




――絹旗が待機している施設


(超…待機しても敵が来ませんね…セキュリティは破られたようですが…)


窒素装甲の大能力者である絹旗は麦野の指示でSプロセッサ社の施設の一角で待機していた。
ここから少し離れた所にいるフレンダのところに当該目標であるエレクトロマスターは向かっていったのだろうか。



(フレンダが引き受けてるんでしょうか?)


(こっちはなにやら撤収作業が始まってますが…)


絹旗は通路の端っこでプロセッサ社の従業員達の撤収作業をパーカーを外し、少し見上げる。
一人の白衣を着た若い女性従業員とすれ違う。


「どうも」


「撤収作業の調子はどうですか?」


「あぁ、私は今ついたばかりなので」


「そうですか…」
(やけに目つきがキツイ人ですね)


「では…ここらで」

二人の白衣を着た研究員と女は一緒に角を曲がると見えなくなった。


先ほどまで静まり返っていた研究施設から、まるでありの巣をつついたように多数の従業員達が出てきた。
絹旗はその中で驚くほど場違いな格好で鎮座していた。


絹旗はノーブランドのパーカーに半そで、リーバイスのショートパンツ、スニーカーはバンズのハイカットスニーカー。
動きやすい格好だ。パーカーのフードを目深に被り、ポケットに両手を突っ込む。


(この状況でこられたら…超マズイですね…作業している人も巻き込む可能性があります…)


でも…と絹旗は思う。


(でも…私にとっては超どうでもいいですけどね…敵と戦ってさっさとぶっ潰しちゃえば)


目の前で作業している烏合の人々の群れを絹旗はぼんやりと見つめながら再びパーカーを目深に被った。




――フレンダが待機している排気ダクト


敵が来るかどうかも定かではないこの状況。
フレンダは愛銃であるアキュレシー・インターナショナルASWのサイレンサーの手入れをしていた。
施設には即席だが各種の爆弾をふんだんに配置した。導火テープも思いつく要所に設置した。



(後は…来るのを待つだけ…って言ってもこないわねぇ…)


(実は…待機って結構しんどいのよねぇ…)


しんどい、といいつも彼女は緊張していた。
これから数分後には自分と相手の命をかけた戦いを繰り広げる事になるのだから。
この心情は戦いに身を置くものしにかわからない独特なものがある。

そして、その緊張を隠すようにフレンダは「はぁ」とため息をつく。


「…結局、来るかどうかも解らない相手を待つのって退屈なのよねぇ…」


フレンダは独りごちる。
電話の女が仕事をこなしている最中に新しくよこしてきた謎の指令。
それに備えてフレンダは急ごしらえながらも最善の装備ではせ参じた。



眼鏡を吹くようなきめ細かい布でアキュレシーを丁寧に、いたわる様に磨いていく。
要所要所にたっぷりとグリスを塗ってやった。


最近行われた横田基地の基地祭の際に米軍から横流ししてもらった爆薬もたまたま持ち合わせていたのが幸いした。
C4、セムテックス等のプラスチック爆弾、陶器爆弾、モーションセンサー、スプリング形式の爆薬を横流ししてもらった。

相手を一回爆殺してもなお、お釣が返ってくる量の爆弾をSプロセッサ社の隅々に配置したフレンダ。
邀撃準備が済んだ今、彼女は人が寝そべってもなお余裕のある排気ダクトに身をひそめて、敵を待っていた。


(…お姉ちゃんだったら…こーゆー時どうするんだろう)


フレンダの思考に突如浮かび上がってくる姉の存在。
姉は確か私以上に派手にぱーっとぶっ放すタイプだった。
姉とカナダで同居していた時の記憶をおぼろげながら彼女は思い出す。


(オクトーゲン使って丸ごとふっ飛ばしたりしちゃって…!)


確かに派手好きだった姉だったらあり得るな、とフレンダは一人思いついた妄想をし、自分で「うんうん」と納得する。
実際、TNT爆薬の爆速の優に数十倍のスピードで拡散するオクトーゲンは大規模な施設を吹き飛ばすにはもってこいだ。


(…って最近お姉ちゃんの事よく考えてるなぁ…私)


(結局…いつまでも暗部なんてやってられるかって訳よ…)


姉がかつて居たとされる学園都市。
彼女はカナダでの安穏とした生活を捨て、学園都市にやってきた。
しかし、彼女が学園都市についた時にはすでに姉は居なかった。


情報収集をするために裏の世界に身を投じて既に数年。
気付けばいっぱしの殺人者になっていた。
その事に関しては取りたてて思うことはなかった。


むしろ、自分に殺される人の今わの際を見る時の愉悦。
あぁ、こいつは私に殺されるために生まれてきたんだ、そう考えると脚ががくがくするほどの快感すら感じる。
そんな特殊な性格を持つ彼女はわれながらイかれていると思った。


しかし、そんなきちがいじみた性癖(?)、性格(?)のフレンダにも親族がいる。
大好きな姉だ。その姉に会うまでは死ねない。例え、今まで殺してきた者たちの怨念に呪い殺されそうになっても。


(私だって…殺したくて殺した訳じゃないって訳よ…)


彼女も電話の女の様に自分の殺人を他者の落ち度に仮託しているあたりが狡猾である。


(…私は必ずお姉ちゃんを見つけてこの学園都市から出る…って訳よ…ってお姉ちゃんは学園都市にいないかもしれないか…ってあれれ?)


どちらにしろ、暗部を抜ける事は絶対だと言い聞かせるフレンダ。しかし、途端、彼女の思考が打ち切られる。
彼女が耳につけている高感度集音機に靴の音が聞こえたから。


ギッ…ギッ…ギッ…


床を踏むわずかな音が集音マイクに入る。
どうやら敵はフレンダの待ち構えているゾーンに侵入してきたようだった。



(日ごろの行いかな…?結局、お金を貰うのは私って訳よ!ドンマイ絹旗!)



足音はフレンダにどんどん近づいてくる。
彼女が今いる排気ダクトの近辺にもう侵入者がいる事は明らかだ。

フレンダはお気に入りのパンプスに布を巻きつけると、足音が出ないように大型ダクトを移動する。
そして排気口のわずかな隙間から見る。


(へぇ…私と同じ位の女の子かぁ…いけないなー…暗部に首突っ込んだら)


フレンダは気付かれないようにダクトを移動し、当該目標であるインベーダーの後ろに移動する。
セキュリティはとっくのとうに遮断されているが予備電力でまかなっているのだろう。
施設はまだ薄明るい状態だ。


フレンダはカチャリと暗視ゴーグルを装着する。
インベーダーが電燈が切れているゾーンに入ったからだ。


(いちお、米軍からもらっといてよかったって訳よ…結構値が張ったけどね…とほほ…)


そんな悠長な事を考えながらも、彼女の顔は笑っていない。
持ち込んだツールボックスから導火テープを発火させる小さいボールペンの様なものをポケットから出す。


(導火テープに着火…っと)



ジジジ…と火がつき、しばらくすると施設の構造物がゴゴゴゴ…と巨大なもの音を立てて崩れ落ちる。

フレンダは構造物が崩れ落ちる前に音を立てずに静かに着地する。
着地先はインベーダーの前方150メートル。
即殺し、蹴りをつけるために地上に彼女は舞い降りた。


背中には世界最高級の狙撃銃、アキュレシーインターナショナル。
フレンダはそれをスーッと構える。


(よし…着地成功…って訳よ!)


物影からカチャリとアキュレシーインターナショナルを構える。


(出てきたら…即射殺してやるって訳よ)


ガラガラと音を立てて崩れた構造物からインベーダーが出てくる。
傷一つ負ってない。


(へぇ…やるじゃない…ケド…)

フレンダは一瞬、ニヤと笑う。
直後、アキュレシー・インターナショナルのトリガーにフレンダのかかったか細い綺麗な人指し指がかかる。



(Time to die, good bye Invader…)



姉の事を考え悩んでいる乙女の様な彼女はもうそこには居ない。
いや、むしろ戦姫と言った方が適切だろう。


フレンダはヘンソルト十倍率のスコープを通してインベーダーの動きを捉える。
こちらに向かってくる。


亜発射されるであろう弾丸は音速でインベーダーをただの肉塊にするであろう。


フレンダはアキュレシー・インターナショナルのトリガーに指をかける。
瓦礫から出てきた傷一つ負っていないインベーダーは一瞬、フレンダの方をむく。


その瞬間をフレンダ=ゴージャスパレスは見逃さなかった。
照準に写り込んだキャップを目深にかぶったインベーダーの眉間に照準を合わせ、ためらいもなくトリガーを引く。


ピシュ!ピシュ!


驚くほど乾燥した小さい発射音だけが響く。
インベーダーの女の顔を破壊しようともくろむ狂気の弾丸が亜音速でインベーダーに殺到する!

フレンダは弾丸がターゲットに着弾するか否かというタイミングで後退する。


(後で取りに来るからね…!)


インベーダーに7.62mm弾が効かない事がわかると、フレンダは大切もの惜しそうにアキュレシーインターナショナルを床に置く。
そしてはポケットから先ほど使った導火ツールを再び用意する。


その導火ツールをテープに近づけると「ヒュボッ!」と音が出て一気にテープが燃焼する!その先には人形の中に仕掛けられた高性能爆薬が詰まっている。



グァアアアアアン!!



大きな爆発音が施設にこだまする。


「やった?」


フレンダは念の為に腰にあるシグザウエルP230を抜いて構える。
灰色と黒で塗られたP230は消音機つきだ。


「これくらいじゃ死なないって…」


黒のキャップに同じく黒の半そで、短パン、スニーカーといういでたちでインベーダーが喋りながらフレンダの前に現れた。
目を凝らして見てみるとインベーダーの女はどこで買ったのかわからないが弾帯を肩からぶら下げている。
それには缶コーヒー小のサイズの大きさのビンが三本はめられている。


(あの弾帯は…?)


手りゅう弾でもない、迫撃砲弾でもない。

フレンダは弾帯にはまっている見たことの無い武器(!?)の様なものをマジマジと見る。


「あぁ…これ?気になる?これはね……」


フレンダはインベーダーがセリフを言い終わる前に無言でP.230の引き金を引く。


パシュ!パシュ!


再び施設に乾いた音がこだまする。
しかしその弾丸も先ほどの7.62mm同様にインベーダーの目の前で静止し、ポトリ、と落ちる。


「効かないって。ってか人の話は聞きなさいよ…」


「……」
(鉄がはいっている物は効果が無いって事…?)


冷静に戦況を分析するフレンダ。
精一杯のいやみな顔を彼女は浮かべ、タオルをパンプスから剥ぎ取ると一気に走り出す。
目指すは階段だ。


階段にはたっぷりと導火テープが配置されている。
滑落させてインベーダーを殺害しようとする。


タンタンタン…!
フレンダは勢いよく階段を駆け上る。
インベーダーはその後を走って追撃する。


途中彼女のブービートラップがインベーダーめがけて破裂する。
陶器爆弾だ。
しかし、これも全く効かない。


(陶器爆弾も一蹴かぁ…やっぱエレクトロマスターっていう情報は確かだったのね…)


爆弾の破裂片を電気で停止させるか、目の前で意図的に破裂させる所みるとかなりの能力者のようだ。


(ま…階段に来れば…お陀仏確定でしょ)


フレンダは階段を上る際に導火テープを着火させる。
彼女が上り終わる頃にはテープは焼け落ち、階段が崩れていく。



ガァン!ドドドド…!


床が抜けてしまうのではないだろうか、と思わせるほどの大音響が響き渡る。


「にししし…これでさすがに死んだでしょー!」


「だーかーら…効かないって」


フレンダがちらと階段のあった場所を覗き込むと階段の鉄骨を器用に利用した足跡の階段が出来上がっていた。
恐らくインベーダーが即席で作り上げたものなのだろう。


「私を殺したかったら…鉄分を抜いた階段でも作る事ね」


冷淡な調子でインベーダの女は言い放つ。

「チッ…」


フレンダは奥歯をぎりと噛み、舌打ちをする。


(クッソ…コイツ…レベル5クラスの怪物ね…)


崩落させた鉄出てきた階段を繋ぎとめると言った芸当をこなしてみせたインベーダの女。
フレンダは相手がかなりの高位能力者であると判断する。


「チッ…インベーダーめ…」


「何よ、その侵入者って。私には御坂美琴って名前があるんだけど」


「そんなの聞いてないって訳よ!」


フレンダは捨てセリフの様に言い放つとそこから一目散に走り出す。
彼女は近くの大きい部屋に向かっていった。


インベーダーもとい、美琴もフレンダの後を追いかけていく。
フレンダが走ったところは行き止まりになっていた。



キャップを目深にかぶった美琴はあたりをキョロキョロ見回す。
トラップがないかどうか確かめているのだろう。


「袋小路ね…」


美琴が小さくぼそりとつぶやく。



「結局…ここまで追い込まれるとは思っても見なかったわけよ」

観念の言葉をつぶやくフレンダ。
現有の最新兵器で戦った彼女はしかし、学園都市第三位の美琴に追いつめられていた。


「…暗くてよく見えないけど…あんた外人?」


「…まぁね…。ジャップとは訳が違うスタイルのよさでしょ?」


わざとらしく相手を挑発するようにフレンダは言う。
しかし、そんな安易な挑発に美琴は乗らず、淡々とフレンダに質問する。


「あんたを雇ったのは誰なの?」


「さぁ?」


「ま、誰だろうとこの計画を主導しているヤツを叩き潰すまで止まるつもりはないけど」


「あら、そうなんだ、こわーい」


「あーそうそう。このイカレた計画にあんたも協力しようって言うんなら…」


「結局、説教?そーゆーのどーでもいいから」

「雇い主の目的とかさぁ…理非善悪とか…どうでもいいのよねぇ…」


フレンダはそういうと本当に、本当にだるそうに「はぁ…」とため息をつく。
そして彼女は言い放つ。


「結局どーでもいいんだわ。そーゆーの」


「あ、そう…ならここで死ぬ?外人さん?」


美琴はそういうと弾帯にはまっている三つの缶コーヒー小の大きさのビンを空中に向かって投げる。
最初に投げた一つのビンが床に着いて割れる寸前、美琴は電撃をビンに当てる。



カチャン!カチャン!カチャン!


三つのビンが矢継ぎ早に空中で壊れる。
しかし、その中に入っていた黒い粉は床に散らばることが無く、美琴の細く綺麗な腕の周りに集まっていく。


その黒粉をフレンダは注視する。すると気付けば美琴の手に真っ黒の日本刀の様なものが握られているではないか。


「刀?」


フレンダは怪訝そうに言う。

突如として彼女の目の前に現れた真っ黒の日本刀。
砂鉄を集めて作ったものか、と勝手にフレンダは推理をめぐらす。



「えぇ…刀…幻想虎鉄…イマジンソード…なんてね…ふふ」


そういうと美琴は右手に握られた刀をれろぉ…と妖しく舐める。
その素振りはどこか妖艶さを感じさせる。


「…へぇ…切れ味の方はどうなのかしら…?」


「まだ試し切りはしてないわ…」


カチャリ…柄に相当する部分を美琴は掴むとダッ!とフレンダに駆けていく。
駆けてくる美琴を細めた目から見据えたフレンダは腰に指してある黒い鞘から大きめのナイフを抜刀する。


「へぇ…面白い形のナイフねぇ…」


「グルカから伝わった湾刀よ…英連邦の盟邦、グルカに伝わる名はククリ刀、とくとごらんあれ!」


そういうとフレンダは美琴に合わせて駆け、距離を詰める。
間合いの関係上、フレンダが不利だが、戦闘の経験回数では圧倒的に彼女が有利だろう。


勇猛・敏捷のグルカ兵が持つククリ刀を持ったフレンダと真っ黒の日本刀のを持った美琴の真剣勝負が始まる。


キィン!


ククリ刀と幻想虎鉄が重なりあい、綺麗な火花が散る。
その様子を見ながら美琴はほれぼれしているのだろうか、魅惑的な表情で幻想虎鉄を見つめながら言う。


「へぇ…いつも電撃しかしてなかったけど…こういう戦い方も結構ありねぇ…」


美琴はそういうと目の下にあるクマと相まってかいつもと違った表情で妖しくわらう。
幻想虎鉄が一度フレンダのククリ刀から離れる。


「一度…」


「何?白人」


美琴がむき出しの敵意を向けてフレンダに話しかける。


「一度…抜刀したククリは血を吸わせなければ納刀してはならない…!」


フレンダは口元だけ不敵に歪め、「ふふ」と笑い、美琴を嗤う。
この発言に美琴は首をかしげる。


「どーゆーこと?」


「あなたの血を吸うまで辞められないってわ・け☆」


「ふーん…上等じゃコラァ!」


再び剣戟を交える二人。
二人の真剣な表情はともすれば戦いを楽しんでいる様にも見えた。


何度も交わされる剣戟。
まるで舞台で踊る二人の舞踏家の様に、しかし、激烈で予断を許さない命のやりとり。
床に飛び散る二人の汗。飛び交う怒号。



「…ッ…!」


不意にフレンダが体勢を崩し、床に倒れそうになるがなんとか持ち直す。



「くたばれ白人!」



美琴の言葉とほぼ同時にボッ!と振り下ろされる幻想虎鉄。
まっすぐにフレンダに向かっていく砂鉄を凝縮させた刀。



キィン!



フレンダの頬のぎりぎりにまで近付く幻想虎鉄。
ククリ刀では些か間合いに関して部が悪い。

「もうあきらめたら…?」


「…あきらめる?」


美琴は幻想虎鉄を押しつけつつ、フレンダに降伏を勧告する。
しかし、フレンダの目の色は戦いを諦めた敗残将のそれではない。

まるで死ぬまで戦う軍鶏(しゃも)の様に、ぎらりとした目を輝かせる。
それは美琴を不快にさせたが、それは表情に出さず、あくまで淡々と告げる。


「えぇ…よく戦ったわ…白人さん?」


火事場の馬鹿力というものが存在するならばこういう時の事を言うのだろう。
フレンダは頭に血管を浮かび上がらせながら徐々にゆっくりと幻想虎鉄を押し上げていく。


「う、…グググ…ウェアああああ!」


「…なっ…?」
(こっちは全力で押してたのに…!)


今度は美琴がバランスを崩して床に倒れそうになるがフレンダと同様に持ち直す。
その間にフレンダは立ち上がり、美琴を見、にやりと笑う。美琴もにやりと笑い返す。


「こい、御坂美琴」
(コイツの妖刀の様な雰囲気…これがレベル5の実力って訳…?)



「言われなくとも行くわっ!」
(これが無能力者なの?あの馬鹿よりと同じくらい手ごわいわね…!)



死の舞踏を踊ろう。
祭りだ。

妖刀とククリ刀を持った二人の戦姫達はアドレナリンをスパイスに狂気に彩られた輪舞曲を踊る。



――麦野と滝壺が待機しているとある部屋

麦野と滝壺はフレンダと絹旗の張っている中間地点で待機していた。


『はい、わかりました。ではそちらに向かわず私は待機と言うことで』


「うん、じゃ、だるいと思うけどもうちょっと待機で」


麦野はそういうと携帯電話を切る。
ちなみに今の通話はアイテムの構成員、絹旗としていたものだ。


「むぎの。フレンダの援護に行くの?」


「そうね、絹旗の方に向かってないってことはフレンダが相手してるだろうしね」


「わかった」


滝壺と麦野は歩いてフレンダが戦っているであろう地点に向かっていく。
同じチームであるフレンダがもしかしたらピンチなのにもかかわらず麦野と滝壺はゆっくり施設内の通路を歩いていく。


「ねぇ、むぎの?」


「どうした?滝壺」


「はまづらの事好き?」


麦野は「いきなりなによ、滝壺」と不機嫌そうに言う。
彼女は眉に皺をよせながら後ろを歩いている滝壺の方を振り返る。

「なんか最近よく…お弁当かわせてるって聞いたから…」


「あぁ…それだけだよ、滝壺は浜面の事好きなの?」


「私ははまづらの事すき」


「へぇ…いいじゃない」


そういうと麦野は再び前を向きなおす。
滝壺の無垢な表情の前で無表情を繕うのが難しかったから。
麦野と浜面の関係はシャケ弁当を買わせているだけ、なんて真っ赤なウソ。


当初は麦野が浜面を誘って成立した歪な関係。
ここ最近では浜面はよく「好きだ」とか「愛してる」とかつぶやくけど、果たしてどうだか。
麦野はそうした高位に応じるものの、そうした愛の言葉を言わなかった。


最初は麦野が浜面に首輪をかけたつもりになっていたが、気付けば麦野自身が浜面抜きの生活に耐えきれないからだになっていた。



本当は朝からお昼ごろまでずっと一緒にいる。
いや、むしろここ最近ではシャケ弁当を買わないで麦野が料理を作ることもある。



そしてその後に体を重ねる事もままある。だが、ここ最近は仕事が多いのでキスだけ。
欲を言えば毎日浜面と一緒にいて抱き合って体を重ねていたいと考えていたが、ここ最近、仕事が多くなってきているのでそれもかなわない。
そんなどうでもいいことをぼんやりと考えながら麦野は目の前にいる黒髪美人の女、滝壺が浜面をめぐるライバルであると認識した。


「滝壺は浜面と付き合いたいって思うの?」


「うん」


「なんでいきなりそんな事聞くの、滝壺」


「え?だってむぎのとはまづら付き合ってそうだから」


質問の答えになっていない。
ってかここで「付き合ってます」とか答えたら滝壺はおとなしく浜面をあきらめたのだろうか。
それはわからない。


麦野は滝壺の質問の真意を考えつつ、自分に問いかける。


(私と浜面は付き合ってるのかな?)



不意に麦野は今の浜面と自分の関係を振り返る。
キスをして抱き合い、名前を言いあい、セックスをする。
それは果たして付き合ってるからするのだろうか、それともただの肉欲なのだろうか。


(こーゆーのがめんでぇんだよ、恋愛は)



滝壺が浜面の事を好きだと臆面もなく告げた。
その事に対する彼女に与えた動揺は計り知れないものがある。
むしろ、滝壺が浜面に告白すれば、あの男の事だ、ころりと滝壺になびくかもしれない…。


アイテムの女王とアイテムの女王補佐はその後無言で戦場へと向かっていった。

フレンダがいるであろうゾーンまで壁をぶちぬいて歩くしかない。
こういうときは迂回する面倒くささを解消する為にも原子崩しはもってこいだ。


「いくよ、滝壺」
(よし…仕事だ…!)


「うん、久しぶりだね、むぎの」
(しんきいってん)


「あぁ、よろしくね、滝壺」
(さて、戦いのドラムをならしますか)


ふぃーん……


高音が響き渡る。
その直後に麦野の手から原子崩しが顕現する。


ドバァアアアア…


光の光芒が一筋になって隔壁をぶち破っていく。
フレンダの戦っているであろう部屋まで後少しだ。

――フレンダと美琴が戦っているラボ(麦野が現れる少し前)


刀とは本来、刃を重ねてはいけないものだ。


しかし、二人は刃こぼれを気にせずまるで子供のように刃をぶつけ、火花を散らしている。
砂鉄を集約させ、、刃こぼれを起こすと即座に演算をしなおし幻想虎鉄を修復する美琴と良く研いでいるククリ刀ではそれでも、後者の方が部が悪かった。


「はぁ…はぁ…どう、白人さん…降参する気になってくれたかしら?」


「全然ッ!あきらめないって訳よ!」


不撓不屈の信念でフレンダは美琴に立ち向かう。
しかし同時に勢いよく突撃をしてきた美琴に力負けし、フレンダは体勢を崩し、床に手をつきそうになる。


「しまった…!」


「今だっ!」


ボッと振り下ろされる幻想虎鉄。しかし、その斬劇がフレンダを捉える事はなかった。


「…なぁんてね」


「え?」


バン!


フレンダの袖口の下から閃光弾が滑り落ち、炸裂する。

ベレー帽で光をさえぎる事に成功したフレンダは咄嗟にスカートの下から持ち出した簡易ロケット砲をぶち込む。

シャークマウスのノーズアートがペイントされているロケット弾が矢継ぎ早に美琴が居るであろう地点に着弾する。


ドドドン!


手りゅう弾サイズの爆発が巻き起こる。
フレンダは美琴の死体があるであろう目の前の地点を見遣る。


(…死体が無い?)


フレンダの発射したロケット弾の着弾点にはただ焦げた床があるだけ。それ以外に何も残っていなかった。


(死体が残らないほどの炸薬量は使用していない…まだ…生きている?)


フレンダは後ろを恐る恐る振り返る。
するとそこには一度構成した幻想虎鉄を解体し、一枚のゲームセンターのコインを持った美琴が立っていた。


「あんただけじゃないでしょ?この施設を守備している人たち」


「言う訳ないでしょ…!」


フレンダは美琴の質問には答えずに苦虫をかみつぶしたような表情で舌打ちをする。


美琴がゆっくりとフレンダに近づいてくる。
彼女はククリ刀を止むなく鞘に納め、じりじりと壁際に下がっていく。


と、その時だった。
フレンダが一瞬の隙を見てビンを投擲する。
反射的に美琴はそのビンを電撃で破壊する。


(って…空のビン?)


美琴は一瞬おかしいと思いつつも電撃を放ち、それはそのままビンに直撃する。
直後大きな爆発がビンの周りで起こった。


香水瓶程の大きさのビンがこれほど派手に爆発する事など常識的に考えてあり得ない。
しかし、ビンは爆発した。


その爆発に美琴が動揺している間にフレンダは一気に壁際に接続されているバルブを緩める。
すると排気ダクトや近くの床から染み出るように白煙が巻き起こる。
空間は一気に白色の戦場と化し、フレンダはぼそりと言う。


「さっき投げたビンは学園都市の気体爆薬イグニス…」


シュー…


フレンダが喋っている間にも続々と白煙がダクトから流入してくる。


「香水瓶程度でさっきのあの威力電気なんか出したら…どうなるか…ふふ」

全く笑える状況ではないのだが、フレンダはほくそ笑む。
そして先ほどしまっていたククリ刀を再び抜刀すると一気に美琴に襲いかかる。


「もう…幻想虎鉄を出そうなんて思わない方がいいわよ…?剣戟で電気が出たら誘爆して死んじゃうわよ?」




「…チッ!…めんどくさいことを!」
(私が電気をだしたらここらが吹き飛ぶ事に…!?)


美琴が喋っている間に一気に詰め寄るフレンダ。



「うあぁああああ!」



フレンダは叫ぶと一気に美琴に蹴りかかる。
気体爆薬の誘爆等全く恐れていない。次々にフレンダは手足から攻撃を繰り出す。


美琴は反撃する際に能力を使わないように意識するだけでまともな抵抗が出来ない状態になっていた。



「さっきより格段に運動量が落ちてるわね?」
(結局こっちも疲れてるっつーの!)


思いはすれど、フレンダは自分の疲れを表面には絶対に出さない。

あくまで余裕の表情を浮かべるように努める。
自分と相手の絶対的な体力の差を見せつける。そうすることで相手にさらなる絶望を提供する。
死へいざなうスパイスなのだ。

「あんた…恐くないの?吹き飛ぶのよっ!?」


美琴はフレンダの攻撃をかわしつつ怒鳴る。
フレンダはその問いを一蹴するかの様に「ふふ」と鼻で笑い、美琴に言い放つ。



「こっちは暗部に入ってまで人探してんのよ…!死ぬのが恐くてやってられるかっての…!」



そう。フレンダ=ゴージャスパレスは絶対に死ねないのだ。
姉を見つけるためにわざわざ暗部に身をやつした。
姉を見つける前に死んでしまえば、それこそ本末転倒の事態だ。


絶対に死ねない。彼女の瞳に強い意志が宿る。




「たかがあんたごときに負けてたまるかって訳よ…!」



乾坤一擲のフレンダの蹴足が美琴の下腹部に直撃する。


「か…は…!」


美琴は倒れこそしなかったものの、その場で腹を抱えて悶えている。
フレンダは無様に腹部を抑えているレベル5の姿を見て、見下すような視線で見つめながら言う。


「私はこーゆー時にねぇ…言い知れぬ感覚を味わえるの…」


気付けばフレンダは恍惚とした様な表情になっている。
まるで快楽にひたる淫美な美女の様。
フレンダは自分の口を開くと真っ赤な口腔を覗かせ、そこからぬらぁ…と舌を出し、自分の中指の先をぺろと舐める。
よだれのついた指の腹をゆっくりと唇の端から顎まで這わせる。



「人の命を摘む…この瞬間、私は相手の運命を支配した気になれるの…」


「はぁ…はぁ…!」


美琴は息も絶え絶えの状態でフレンダの言う事に耳を傾けていた。
しかし、次のフレンダの発言が彼女の最後の力を振りしぼらせる!



「結局コイツは私に殺される為に生まれてきたんだ…ってね♡」





「……じゃ…ないわよ…!」


「最後にいい感じの悲鳴を聞かせて頂戴☆」


「ふざけんじゃないわよっ!」


一度目は小さくてフレンダは聞こえなかったが、二回目の怒声はフレンダにしっかり聞こえた。
そして美琴の怒声と同時にフレンダの回し蹴りはガードされ、蹴りをした方の靴が遠くに飛んいってしまった。


美琴は激昂していた。
それはフレンダのセリフが彼女をそうさせた。


『結局コイツは私に殺される為に生まれてきたんだ…ってね♡』


妹達(シスターズ)に何の落ち度があろうか?
あの車両につぶされた9982号は何も…何も罪に問われることはしていなかった。
むしろ…缶バッチを付けて喜んでいたではないか!


そんな彼女は最後に何をされた?
一方通行に足をもがれ…ちぎられ…あまつさえ…体液を飲まれた…。
犯される事と同義の屈辱を味わった末に救いの神は9982号にはさしのばされなかった。



まるでプチプチつぶされるアリの様に、虫けらのように蹂躙されて死んでいった。


「あの子が死ぬ理由は全くない…!」


「私に生み出した責任があるなら…あの計画を主導した人達を裁断する事が私の役目…!」


「あの子もあの白い悪魔に殺されるために生まれてきた?はぁ!?納得できるわけがないっ!」


フレンダは蹴足をはじかれ一歩後退しつつ美琴の怒声を神妙な表情で聞いているが全く理解できない。
おそらく美琴もフレンダにわかってもらえるよう、言ってる訳がない。


美琴は怒鳴り散らすと再び演算を行い、即座に幻想虎鉄を顕現させた。



「…あの狂気の実験に参加した人の皮をかぶった悪魔は決して許すことは出来ない」


パンプスが脱げ、不安定なバランスを保つことに必死になっているフレンダに幻想虎鉄が降りかかる。




――柵川中学の学生寮

佐天はアイテムからの任務遂行の連絡を待っていた。


(御坂さんだったら…どうしよう…)


アイテムに製薬会社からの依頼を伝えた後、彼女はどうしようか、どうしようか、と反芻していた。


(御坂さんだったら…アイテムに勝てるの?)


(いや…四人対一人だったら絶対アイテムが勝つに決まってる…)


(もしそれでアイテムが勝って御坂さんが…その…死んだら…?)


佐天はぎゅっと自分のこぶしを握り締める。
血の通っているこぶしがみるみる内に白くなっていく。


(死ぬわけがない…!御坂さんは常盤台中学の超電磁砲なんだ!)


(でも麦野さんも原子崩しの異名を誇る第四位…!)



(もし…二人が戦ったら…どうなるんだろう?)

佐天は最悪の結末を考える。それは――最近慣れ始めていたもの。
そう。「死」だ。


(二人とも…死んだら……わ、わからないよ…)


佐天は麦野にはあったことが無い。電話をしただけ。声は聞いたことがある。
しかし、美琴は実際に遊んだ事もある友人だ。

「…ちょ…マジ…?」

(こんな事になるんだったら…仕事なんて引き受けなければ…!仕事なんて辞…)


一瞬佐天の脳裏に浮かびかけた“辞めようかな”という言葉。
しかし、佐天は思い出す。完全に無能力時代で能力者や学園都市の治安や武勇伝を聞いている時の一歩冷めた感覚の自分を。



(何もない…自分なんて…やっぱり…いやだよ…!)


自分に被害がこないなら、と思い始めた電話の女という仕事。
物的被害は確かにないが、何だ、この尖ったカッターにえぐられるような気持ちは。血を吐いてしまいそうな衝動になられる。


佐天は友人を傷つける可能性があることと自分が無能力で何もないという劣等感を天秤にかけた。
その結果は…………後者に軍配があがった。


(ははは…だって…御坂さん…レベル5だよ?麦野さんもレベル5でしょ?死なないよ…!)


佐天は寮のベッドの壁に背中をぺたっとくっつけ、勝手な推論をめぐらす。
どうなるかなんてわからない。


(次にあった時は御坂さんの前で…普通に笑えるかな…?でも…)


人材派遣の男がかつて佐天に言っていた“学園都市の最奥”。
今ではそれは理非善悪等の価値観が全て一緒くたになったカオスをほうふつさせる。


仕事の終了報告が入ってくるまでまだ少しの時間があった。
彼女は同じ押し問答を繰り返し、美琴とわかった訳じゃないと、一人納得させ、また質問…の悪循環を繰り返すことになるのであった。
その循環に彼女が仕事を辞めるという選択肢はついに浮かんでこなかった。
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