「Vanish!(5) 『未完成のキズナ』」


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なんで、昨日、あいつは現れなかったんだ?ここには、毎日現れるはずなのに・・・
クッ、計画を変えなくては・・・間に合うのか??

(5日目)  ●月◎日(土) AM 10:00

「宅配便です、ハンコください」「は~い」
リゾナントに宅配便が届いた。高橋がハンコを押し、店舗奥のテーブルの上に置いた。
モーニングセットをテーブルに配膳しおえたれいなが興味津津で荷物を開けている高橋の側によってきた

「愛ちゃん、なにが来とうと?食べ物、食べ物?」
高橋は差出人を見ながら返答した。
「うん・・・れいなの大好物よ。私はひとつでええから、あと全部はあげるから」
「やったあ!!何かいな?お肉がいいなぁ…愛ちゃん!!ちょっと!!」
れいなが笑顔でビリビリと包装紙を破った先に出てきた物は大量の本と1つの手紙だった

『高橋さん、田中さん、これは先日発売された小春の新しい写真集です☆
 今日、発売記念サイン会をするんですけど、みなさんには小春からのプレゼントとして贈ります!!
 サインもしておきましたからプレミアですよ!!8人分あるので、みなさんに渡してくださいね!!』

「愛ちゃん、これ食えんっちゃろ!!っていうか、小春、贈るなら食べ物送ってほしいと!!」
そんなブーブー言いながらも田中は写真集の中身を確認しはじめ、小さく『勝った』と呟いた


●月◎日(土) PM 1:00

「注文入りマシタ、海老炒飯、天津飯、油淋鶏定食、烏龍茶を1つズツ」
「ハイよ、ジュンちゃん、今おいでになられたお客様にお冷を」
昼食時にジュンジュンの働いている中華料理はさすがに休日ということもあり非常に忙しい。
テーブルは埋まり、美味しいと評判のお店は行列ができ、現在も5家族が待たされている状況である
お盆の上にお冷を置き、席に座ったお客様に届け、すぐさま空いたテーブルの食器片付けにとりかかる
ジュンジュンの額にはうっすら汗がにじんでいたが、笑顔はずっとキープされている

「すいませ~ん。会計お願いします~」
カウンター席で一人で食べていたお客がレジへと向かった。
「ありがとうゴザイマス、ワンタン麺一つ、800円です」
お客はカバンから財布を取り出し、「800円、800円」と呟き、結局ちょうどなかったらしく千円札を出した。

「1000円からイタダキマス。お釣り、200円デス」
そのお客が手を出してきたので、ジュンジュンは直接その手にお金をわたした。

「おいしいね、このお店。また来ます」「ありがとうございマス」
去り際にコートを羽織り、茶髪をなびかせながら女性客はジュンジュンに声をかけて店を出て行った。


●月◎日(土) PM 2:00

マルシェの実験室に連れて行かれた矢口はいくつかの心理テストを受けさせられた。
もちろん本人には「矢口さん用の新装備品の調整」と嘘をついておこなったが・・・
その結果をマルシェは一人、薄暗いライトの下でじっくりと照らし合わせていた。

「やっぱり、私と別れた直後から数時間だけ矢口さんは記憶が抜けているみたいですね…
 なんとかして記憶を戻そうと催眠かけてみましたけど、戻りませんでしたね」
椅子の背もたれを倒し、楽な体勢にして腕を組んで考え始めた。

「でも消えているのはその“ほんの数時間”のことだけで、その前後は覚えているんですよね
 最も考えられ可能性は、あの『夏焼雅』っていう子に接触したときに何かがおきたということ…
 そして、事前の情報通り、あの子は「能力者」だったと考えるのが妥当ですね
 …矢口さんの阻害を超えて、記憶を消すことが出来たのならば非常に興味があります」
マルシェは椅子の位置を元に戻し、幹部用の連絡装置を取りだした。

「あ、マルシェです。ちょっと、2,3日ほどですね、外に出る許可をいただきたいのです
 あ、いえ、私個人の問題ですので、ボスに連絡する必要はないですよ。はい、OKですね」

●月◎日(土) PM 7:00

新垣の勤めるブティック「ピンチャンポー」は都内の一等地とまでは言わないがかなり良い立地条件に恵まれている。
しかしながら店はそれほど大きいわけではなく、少数精鋭の店員で接客をしている
そして、この時勢に珍しく非常に情に熱い店主が経営していて、店員を家族同然のように扱ってくれている。
それゆえに、店主は店員のほんの些細な体調の変化にも敏感に気付くことができるようになっていた。

「新垣さん大丈夫かしら?なんか顔色がちょっと悪いようだけど…」
ちょっと体がだるいのを自覚していた新垣は笑顔で店主に言葉を返した
「いえ、菅井店長、ちょっと疲れているだけですから、お気になさらないでください」
新垣の前髪をあげて店長はおでこに触れた。
「本当かしら…あら、いやだ、あなた、熱があるじゃないの!どうして黙っていたの!!」

新垣も朝から少しばかり熱っぽくだるさを感じていたが社会人として仕事は休むわけにはいかなかった。
解熱剤を飲み、昼食には風邪薬を飲んでここまで気付かれずに接客することができたのだが、敏感な店長には感づかれた。

「いえ、つい3日前にですね、少し早く帰らせていただいたので、1週間に2回も休むのはしのびなかったので…」
「あのね、あなたね、接客業なんだから、もしインフルエンザだったらお客様に移す可能性もあるのよ。
 プロならば体調管理も大事だけど、崩してからもどうすればいいのかを考えなさいっていつも言っているでしょ」
独特の口調でまくし立てるように店長に叱られ新垣はただ謝るしかない。

「まあ、いいわ。今日は早く帰って寝なさい。明日も熱があるようだったら休んでいいから。
 その分給料は減らしておくわよ。新垣も大事なスタッフの一人なんだから、早く回復しなさいね」
「店長、申し訳ありません。なるべく早く帰って寝て、明日には来れるようにします」
新垣は胸の「新垣」の名札をはずしながら、奥の私物置き場へと入って行った

(こういう時にさゆみんが風邪も治せるんだったら本当に便利なんだけどなあ)
新垣は治癒能力を持つ仲間のことを思い浮かべつつ、従業員専用口から外に出た。

駅まで歩いている途中にメールが届いた。
つい昨日携帯アドレスを変えたばかりの田中からのものだった。

FROM 田中っち
  ガキさん、れーなからちょっとお願いがありますd(ゝ∀・*)
  明日、友達と会うことになっとって、リゾナントをお休みするとヽ(´∀`)ノ .:。+゜。
  それでサユに昨日、手伝いを頼んだんやけど、未だに返信が来ないっちゃ(。´Д⊂)
  ガキさんからもメールしてほしいと(*>▽<*)ゞ

「これ、わざわざ私に送ってくるかなあ?全く、頼られているんだか、違うんだか…
しかし、さゆみんがすぐにメール返さないって珍しいね…」
ぶつぶつ言いながらも道重へ連絡メールを送った

TO さゆみん
  田中っちから昨日メール届いたと思うんだけど、明日愛ちゃんの手伝いをしてあげてくれない?
  本当はこういうことを私が言うのも変だけど、れいなも色々あるから大目に見てあげてね。
  さゆみん、今度一緒にご飯行こうね~

「送信っと、これでよし」
まだ少しボーっとする頭でメールを打ち終えた新垣は夕食を買うためにリンリン御用達のオリジンに立ち寄った。
リンリンのお勧めしていた弁当を注文し、会計をしているとすぐにメールが帰ってきた

FROM さゆみん
  はい、ガキさんのおごりで一緒にご飯行きましょうね!!なんちゃって♪
  ところで、れいなって誰ですか?さゆみにはそんな知り合いなんていないんですけど
  でも、明日、愛ちゃんのお手伝いは引き受けましたよ!さゆみの可愛さでお客様をメロメロにしちゃいまーす

「お客様、お弁当お忘れですよ!」
メールを読みおえた新垣は真っ青になり、支払いを終えた弁当も持たずに外に飛び出した。
店員の声にも振り向かず大急ぎでタクシーの多く止まっている駅まで走りだした。

(愛ちゃんに伝えないと、一刻も早く…さゆみんがおかしいって…)

新垣は焦っていた…メールや電話で済むと言うことを忘れるほどに…
自分がかつてリゾナンターのスパイであったあの頃、何度も記憶を失わせようと試みた。
しかしその全てはリゾナンターの絆によって打ち破られ、その度に強固たるモノとなっていった。
自分自身が出来なかったことを、しかも田中と道重という相性がかなり良い二人の間で生じた記憶の喪失
加えて、道重はリゾナンターという存在、高橋愛・新垣里沙という両名をしっかり覚えているという不可思議な点

記憶を消去することの難しさ新垣自身が一番、誰よりもわかっているとの自覚があった。

記憶を読み取ることは簡単なことだ。ただ、心の中に入れば直接みることができるからだ
それに対して記憶を消すためには目的の記憶に巻きついた記憶の糸をほどき、探しださなくてはならない
それは木の根っこのように複雑に絡み合って、そう簡単にはいかないようになっている
一つの記憶を構成する幾つものピースを探し出し、関連する全てのピースを消去することで初めて記憶は消える
そして、そんなことをできるのはダークネスでも限られた一部の幹部級にしかできない

(もしかして、ダークネスが私達の知らないうちに動き出したのかもしれない
 あの頃は私があっち側にいたから動きがわかっていたけど、今では…クッ、裏切ったために…)

しかしこういう時に限って運悪くタクシーにはなかなか出会わないものである。
新垣が急いで交通量の多い道へ向かっているものの全く空車のタクシーに出会えなかった。

(仕方ない、駅前に急いでいき、そこでつかまえるか)
そんなことを思っている時に新垣は後ろから監視されているような視線を感じた。
獲物をとらえた豹が首元に爪を立ているような冷たさを、鋭く凍りつくような視線を

新垣は立ち止り、後ろを振り返って大声を上げた
「誰なの?私に何か用なんでしょ。そこにいるのはわかっているんだから出てきなさい!!」

姿を現したのは新垣が会ったことのない女だった。
年齢はほとんど同じくらいのようで、黒いコートの下に黄色いラインが入った青いインナーを合わせている
暗さを増してきたこの時間では腰に巻いたオレンジ色のベルトが目立ち、何やら手に茶色の封筒を持っている
黄色が目立つニーハイとミニスカートをはいたその女は尾行していたのがばれたというのに笑みを浮かべている

「さすが『ガキさん』、私に気付くなんて。まあ、このくらいのことは想定内のことだし」
「あなた、何者なの?私のことを知っているって…」
新垣が腕にいつも仕込んであるピアノ線で相手を拘束する機会を狙っていると、女は場所の移動を提案してきた
「ここは場所が悪いですね、ガキさん。ここではあなたの能力は目立ってしまいますよ
メンドクサイですよね?この周辺の住民すべての記憶を修正するのは」
新垣は周囲を見渡した。確かに住宅が多く、交通量はそこそこあり目立つ可能性が高かった
「ついてきてください。話なり戦いはそこでしましょう」
青色の光を放つ街灯で照らされた女は新垣以上に冷静で、新垣は背筋に冷たさを感じた

女に先導されて着いた先はつい先日まで使われていたビルであった。どうやら電気はつながっているようだ
「ここならあなたも私も思いっきり動けるでしょ?
さて、どうします?戦いますか?それとも先にお話ししましょうか?」
女は髪の毛をくるくると手で巻きながら新垣を見ている
「・・・あなた、意外と融通がきくのね。まずはお話しさせてもらってもよろしいかしら?」
「どうぞ」

「まずあなたの名前を教えて貰ってもいいかしら?」
新垣がゆっくりと女性に近づきながら問いかける
「名前?そうねえ、私の名前は…あ、それ以上近づかないでくれる?」
女に近づいてきた新垣はその場で立ち止まる
「ちょっと私、耳が悪くて近づかないと聴こえないものでね。いけなかったかしら?」
「・・・それ以上近づかないなら構わないけど。私の名前は『みやび』」

やはり新垣には聞いたことがない名前であった。
ダークネス時代にも、新垣の能力者としての友人関係の中にも聞いたことのない名前であった。
もちろん、それが偽名である可能性は否めなかったが、いずれにせよ、こんなに華やかな顔なら忘れるはずがない

「私と依然、会ったことがあるかしら?」
新垣は自分と相手の距離を目視しながら問いかける。心臓の鼓動が少しずつ早くなっている
「いいえ、ガキさん、あなたとは会ったことはないですね」
手に持った封筒を地面に置き、「みやび」と名乗った女はポケットに手を突っ込んだ

「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。こういう時に大切なのは力を抜くことなんですから」
ポケットから出てきた物は普通のリップクリームで、それをみた新垣はゆっくりと改めて呼吸を整えた
リップクリームを唇に塗りながら女は言う
「不意打ちなんてしませんよ、そんな卑怯なこと
 他に質問はないんですか?無いならこちらからさせていただきますよ」
「いや、もうひとつ答えて貰いたいことがある。みやび、おまえは『ダークネス』なのか?」

初めてみやびに笑み以外の表情が現れた
「また、それですか。リゾナンター、本当に、正義のヒーロー気取りですか?ククク・・・」
口元に手をおさえ嘲笑するかのような態度に新垣は多少の嫌悪感を感じた
「存在は知ってはいますけど、ダークネスなんて、ふざけた名前の組織に入ってなんていませんよ。
 でも、あなたがたリゾナンターの敵といっても過言ではないかもしれませんね」

―この女はダークネスではない、しかし、私達の敵であると宣言した
―そのような事態は新垣にとって初めてのものであった
―リゾナンターを支持する組織はなくともダークネスに抵抗するという共通の目的があればそれは味方であると同義
―しかし、この女は、私達、リゾナンターの敵。ダークネス以外で初めて現れた存在

「目的は何なの?なぜれいなに関する記憶を消しているの」
新垣が女を睨みつけ、核心に触れる質問を口調を強めて問いかける
「それは言えませんね。というか知る必要がないことです、ガキさんにとっては」

「・・・さっきからガキさん、ガキさんと言っているけど私の名前を知らないのかしら?」
「知りませんよ。私にとってあなたの名前なんてどうでもいいことですから
 それではたくさん答えてさしあげたので、今度は私から質問させていただきますね
 あなたはこの数日間、リゾナントを訪れましたか?Yes or No」

みやびの質問は新垣にとって、もちろんすぐに答えられるような簡単なものであった
しかし、なぜこの場でこんな質問をしたのか、それが気にかかった

「No・・・行っていない。お前がさっきから正直に言っているから私も正直に答えた」
「ありがとうございます。
 世の中フェアでなくてはいけませんからね。そう『あの人』に教えられた」
みやびはそのことを誇っているようにも、嘆いているようにも思える口調で呟く

「なぜ、そんなことが気になる?」
新垣は左右の袖に隠してある武器の安全ロックを気付かれないように解除しながら問いかける
「・・・そこに目的があるからです。それ以上でもそれ以下でもなく、それだけです」
そういいながらみやびは床に先ほど置いた何かを拾い、新垣の方に投げてよこした。
「さて、これはあなたがたへのプレゼントです。爆弾ではないですから安心してください」

茶色の包装紙で包まれた何か、それは書物を買った時にかぶせられる紙製のカバーであった。
カバーをはずすとそこに現れたのは、何度も何度も見たことのある仲間の姿だった

「お前、これは・・・」
「今日の昼に会った、ソイツに。しかし、便利なものだな。
 たった数時間粘るだけで接触することが出来るなんて、握手会とは素晴らしい!」
袋から出てきた物は小春の写真集であった。
みやびは大げさに芝居風に手を広げ、祈りをささげるような姿勢で天を仰ぎながらはっきりと言った。
「これで残りは2人です」

「ふ、二人?もう、さゆみん以外の人間ともすでに接触したのか?」
みやびはプルプルと微妙に手を震わせながらその本を持つ新垣を一瞥した
「ええ、すでにほとんどの方から田中さんの記憶は消させていただきました」
みやびは簡単なこととでもいうように相変わらず髪の毛をさわりながらめんどくさげに言った

新垣は信じられなかった。わずか数日の間に田中れいなのことを完全に忘れさせることができたことを
新垣ですら高橋愛、たった一人の記憶を消すだけでも準備に数カ月を要したものをわずか数日で…

「あなた、いったい何者なの?」
新垣が小春の写真集を大事そうに抱えながら目線を上げる。その先には相変わらず澄ました表情のみやび
「…それを知ることができるのがガキさん、あなたの力だと聞いてますよ
 さて、そろそろ、話しあいは終わらせてもらってもいいかしら?」
みやびは最後にさっと髪をかいて、指を何回か曲げる動作を繰り返した…表情が変わった

「ガキさん、行きますよ」
まるで遊ぼうとでもいうかのように笑い、地面をけった。
ビルの床につもっていた埃がふわりと舞い、一閃の風がそのフロアを駆け抜けた

(思った以上に速い!)
床の上を滑ってでもいるかのように向かってくる女の影を目で捉えながら新垣は冷静に考えていた
(記憶を消すのがこの女の能力だとしたら、私の心に触れる必要があるはず
 こうやって近づいてくるということは接触することが鍵なのか?何にせよ近づけてはいけない)

一直線に向かってくる女に向けて新垣は強く意識を集中させた
両手の裾から仕込んでおいた金属製のチェーンが意思を持ったかのように女に向かって伸びて行く。
「な、なに?」
女はこの新垣の新技を知らなかったようだ。明らかに目に動揺の色が浮かんでいた。

ピアノ線と違いチェーンならば相手を殺すことなく拘束できる。ピアノ線以外にも数種類の武器を新垣は仕込ませていた
その伸びて行ったチェーンが足に絡まり、女はバランスを崩し、顔から倒れ込む。
ついで腕に、上半身に、首に絡まって行き、あっけなく女は身動きできない状態になった。
「こ、これは鎖?聞いてないぞ、こんなのがあるって…」
女は床でもぞもぞとしながら悪態をついている

新垣は倒れ込んだ女に対して更に激しくチェーンを張り詰め、完全に身体の自由を奪う
「まだ殺しはしない。あなたの目的がわからないから…
 さて、そこでしばらくそうやって転がっていてもらうわ」

新垣は精神を集中し女のこころに『ダイブ』した・・・そこには予想外の展開が待っていると知らずに