『VanishⅡ~independent Girl~(8)』 - 5


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(5)
高橋の澄んだ声が部屋中に響き渡る
「さえみさん、これが私からのあなたへの思いよ」
その声に全員が思わず高橋の方を向いてしまう

高橋の傍に真っ白な光の球が浮かんでいる
「愛ちゃん、それって」
高橋はニヤッと笑って見せた
「私の中の秘めた力、光の力!さえみさん!」
光はさえみに向けて放たれた

高橋の光は真っすぐさえみに向かって行く
その放たれた光は驚くほど輝き、仄暗い部屋を明るく照らし出す
全てを消しさるはずの光の力なのに、なぜかその光に新垣達は見惚れてしまう
「これが愛ちゃんの光…」

さえみは近づいてくる光にも動ずることもなくゆっくりと掌を向けた
(これが噂の光の力なのですね)
さえみはそう心に思いながら、迫ってくる光をその暗く大きな瞳でみつめていた

さえみから放たれた『崩壊』の光と高橋から放たれた『純粋』な光
どちらも相手を消す力を持つ能力
しかし同じ光だとしてもそれを見つめる者たちには全く違う輝きを纏っていた
とはいえ、目的は同じ人物を守るため、一人の仲間のためにぶつかりあう光と光

「さすが、高橋愛の光。ものすごいパワーを感じますわ」
さえみの頬に額から汗がつたわって流れた

「さえみさんの崩壊の光…さゆを救うためにも負けるわけにはいかない」
高橋も不慣れながら精いっぱい思いを込めて光を放ち続ける

二つの光は激しくぶつかり合った
ぶつかりあうことで生じる衝撃波と眩しい光が辺りを包む

光に包まれた新垣達は思った
(あれ?光に包まれたってことは私達消えちゃうの?これで終わり?)

そんなこたあないw

「新垣さん、大丈夫ですか?ほら、ミヤの手握ってください」
れいなの忠告を無視して、二階から飛び降りてきた雅の手を伝って新垣は立ち上がる
目をあけると部屋は先程以上に荒れているが、欠けている人影は見当たらない
もちろん光を放った高橋もさえみもそのままの姿勢で立っている
二人とも一見したところ傷を負っている様子はない。
高橋が右手首より上を失っている以外には消えた部位はないようで、血が流れている様子もない

時間にしてほんの一瞬のことながら、高橋は額に大きな脂汗をかいていた
「さすがに慣れていないことはしちゃだ・め・だね・・・」
高橋は背中から半ば崩れおちるようにして倒れた
「愛ちゃん!」
近くにいたれいなが急いで高橋の元に駆け寄り、助け起こした
「アハハ、少しやりすぎたがし…動けんや、もう一歩も」
れいなは高橋を壁に背をもたらせて座らせた
「さえみさん、やっぱ強いよ、光でもかなわなかった。傷一つつけられなかった」

一方のさえみは先程から黙ったままだ
「・・・もしかしてさえみさん、立ったまま亡くなったんとちゃいます?弁慶の仁王立ちみたいな」
光井が黙ったままのさえみを見て隣の久住に声をかけた
「弁慶って何?膝怪我していないよ、さえみさん、ほら見てよ」
さえみの膝を指差す久住

「…やめてよ…」
さえみの口からそんな声がこぼれた

「さえみさん何か今言いませんでしたか?」
「そうか?俺には何も聴こえなかったぜ。おい、そんなことより今、チャンスじゃねえか?」
吉澤はポケットから携帯用のトンファーを取り出した
「今、あいつ無防備だろ、今のうちに攻めとかねえと」
両手にトンファーを手にして吉澤はさえみ目がけて飛び出した

そんな吉澤に気付く様子はなくさえみはやはり小さく口を動かしている
「…あなたの…」
「もう…よ」
「…誰より…守って…」
「…一人で…」

「何を一人でごちゃごちゃ言ってやがるんだ!!」
吉澤はトンファーをさえみの頭目がけて振り落とした

「さえみさん、危ない!!」
今は敵のさえみだが、思わず新垣は危険だと声を上げてしまった
新垣の声ではっとした様子で吉澤に気がついたさえみは吉澤の姿を見て、全身から光を放った
「な、なんだと?」
突然の攻撃によける暇もなく吉澤は全身を光に包まれた
「吉澤さ~ん!!」
マルシェの悲痛な叫びが響いた

吉澤が消されたことでショックを受けたのはマルシェだけではなかった
「あの吉澤があっという間に消された?ありえないと…」
「さえみサン、強すぎマス、勝てる気がしないデス」
何度も何度も戦ったからこそ、あの吉澤が簡単に消されたことは衝撃だった

その吉澤を消したさえみの様子は明らかにおかしくなっていた
また先程と同じように小さい声で呟き続けているのだ
「さ…み…寝ていて…」「…もう…てよ」
時折聴こえる声から新垣はある推測をたてた

「もしかしてさっきの愛ちゃんの光でさえみさんの心の中でさゆみんが起きたのかも」
「それは十分にありえる考えですね」
マルシェが新垣の横で並んでさえみを観察し始めた
「しかし、あの状態だとしても近づくのは危険です。先程の吉澤さんの二の舞になる恐れが非常に高いです
 ねえ、マメ、今ならあの心を見れるんじゃない?」
「出来ないわけではないけど、危険すぎて、したくないっていうのが本音だね
 ただ・・・今しかないよね、さえみさんの心を変えるために
 ジュンジュン、もしさえみさんが動き出したら私を抱えて逃げてね、頼むわ」
「わかったダ」
そうして新垣はすぅっと呼吸を整え、さえみに意識を集中させた

「新垣さん、気を付けてくださいね。さあ、小春達は今度は新垣さんを守らないといけないですね」
小春が掌から雷をバチバチいわせながら指を曲げ伸ばししている
光井は何かを考えているようで黙ったままだ
「どうしたの、みっつぃ?新垣さんがなにかを持ってきてくれること期待しようよ」
「う~ん、そうなんですけど…何か嫌な予感するんですわ。予知ではないんですけど」

すると突然、さえみが獣のような叫びをあげた
「マメ、何が起きたの?」
マルシェはジュンジュンに背負われている新垣に問いかけた
「…中には二人の心があった。さゆみとさえみ、それが戦っている」
いつでも逃げられるようにと新垣はジュンジュンの背中に乗せられている
「道重さゆみの体に宿った二つの精神、今はさえみさんが前に出ているけど
 元々の主人格はさゆみんだけど、何かのきっかけでさえみさんが強くなっている」

「おそらくはあの誘拐事件がきっかけだと思うけど、そのときさえみさんの強い自我が出た、と思うんだ
 『私が守らなきゃいけない』その思いだけでさえみさんは動いていた
 だからさゆみという精神はきっとあの体の中で眠っていたと思うの」
「本で読んだことがあります、一つの人間の中に多くの人格があるっていう報告を
 そういう人は一つの人格が表に出ている時はその人格を後ろから見ている感覚があるって」
マルシェがおそらくわかっていないであろうジュンジュンに教えるように知識を披露した

「それが私達と戦うことで変化が起きた」
「どういうコトですカ?新垣サン」
リンリンが大声で尋ねてきた
「田中っちや吉澤、それから愛ちゃんの光の攻撃で肉体のダメージはなかった
 でも、あたしたちの必死な姿を見ているうちにさゆみんが目覚めた
 さえみさんは必死にさゆみんを引き離そうとしたけど、さゆみんの気持ちは違う
 あたしたちを敵対視しているさえみさんはさゆみん自身に『戻りたい』と言われて動揺していた
 全てをさゆみんのために動いていたのにそれを全て否定される
 それはさえみさんにとっては存在を否定されるにほぼ同じこと…なのだと思う」
未だに新垣達の耳にはさえみの雄叫びが届いている

「ここからは私の想像になるけどさゆみんは何かさえみさんを傷つけることを言ってしまったんだと思う
それは『お姉ちゃんなんて大嫌い』それくらいの言葉だけなのかもしれない
でも、自身の優しさを拒否されてしまったさえみさんはどうしていいのかわからなくなってしまっていた」
「そこに吉澤さんの不意打ちが入ったってわけね」

マルシェが腕の転送装置のスイッチを押しながら話に加わる
「混乱していた時に、自分を倒そうとする吉澤さんの存在
咄嗟の判断で力を解放したが、そのことがさゆとの距離を生んだのでしょう
それが決定打になってさえみさんの心が崩壊して、力が暴走しつつある、ってところですかね
 …ああ、もう、転送装置動かないです」
先程から稼働スイッチを押しているが機械はうんともすんとも反応しない

「ねえ、マルシェ、その機械って何人まで移動できるの?」
「100人くらいは楽勝なんだけど、壊れちゃってさ、使えないよ」
「新垣さん、道重さん置いて逃げるんですか?」
いざというときはジュンジュンの背中に飛び乗るつもりで久住と光井も近づいてきていた
「新垣さん、見損ないましたよ!」
甲高い声で新垣を非難する久住
「でも、しょうがないじゃない!!今の私達では何もできないし、何より危険なの!
 そりゃ私だってさゆみんを置いて行くのはいやだけど、本当の敵はさえみさんじゃないのよ
 今はなぜか一緒に逃げているけど本当の敵はダークネスなの
 もしこの戦いで全員が死んだら、誰がダークネスを止められるっていうの?」
「・・・」
光井は新垣の言っていることが正しいとは思いつつ納得できるはずがなかった
そういう新垣も自身の判断が正しいとは思っていない様子だった

「そういえば愛ちゃんは?」
「大丈夫、れいながしっかり見ているっちゃ!!」
れいなのそばには大きなクマの背に乗せられた高橋の姿
「正確には熊井ちゃんが助けてくれてるやけどね」
「危ないと思った時に熊井ちゃんが起きていてくれて助かりました、ね?田中さん」
「さすがミヤの友達っちゃね、助かったと、れいなじゃ愛ちゃんを背負って走れんけん」
熊井はそれほどとでもいうようにガオっと小さく吠えた

「ガキさん、ここは一旦撤退するべきやと思う」
「愛ちゃん、私もそうしたいんだけど、ジュンジュン、どれだけこのまま逃げられる?」
「…あと十分も走れないかもしれんな。ジュンジュンですらそうなんだから熊井ちゃんはもっとキツイやろ」
そうしている間にも道重さえみのモノと思われる淡い光が周囲に突き刺さる
光に照らされたものはすべて消され、見事にまっさらになっていく

崩壊の光はもうさえみの意思に関係なく関係なく放たれはじめたようにみえた
壁という壁には穴が開き、外からの冷たい空気が流れ込んでいる
息も少しばかり白くなり、さえみの長い髪は風に揺れている

「さゆみを守る・・・それが私の生きる意味、さゆみを守る・・・」

「やばいって愛ちゃん、さえみさん、可哀そうすぎて見ていられないのだ!」
「というか愛ちゃん、早く逃げんとれーな達の身も危ないとよ!!」
新垣とれいなの意見に高橋もほぼ同じく考えていた
―確かにこのままではみんな消されるかもしれない・・・だけど

―もしこのままさえみさんを放っておいたら何をするかわからない
 むしろダークネス以上の脅威になることすらある

それを考えると高橋は『撤退』ということを決められずにいた

そんな迷いを知ってか知らずかさえみが高橋達を睨んだ―ような気がした
「やばい、高橋さん、さえみさん、小春達に気付きましたよ!!」
小春の高い声が一段と高くなって、そのまま悲鳴を上げた

さえみの崩壊の光が高橋達の元へと放たれた

そして、そのまま光が彼女達を包んだ
光が過ぎ去った跡には高橋達の姿はなかった