『VanishⅡ~independent Girl~(8)』 - 2


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(2)
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―熊に連れ去られた雅を救いに4人が熊を追い掛けるまで時間は戻る

「高橋さん、愛佳も一緒に行った方がよかったんでしょうか?愛佳ならどこに逃げるか視えたでしょうし…」
「そうかもしれないね、でも、まあガキさんもおるし、れいなもいるし大丈夫やろ」
「そんなことよりもまずは道重さんですよ!あ、亀井さん!」
気付けばゆっくりと亀井がベッドの上で寝かされている道重に近づいていた
亀井は嬉しそうな表情で目にはうっすらと涙を浮かべていた
「さゆぅ、良かった・・・無事だったんだね」

「エリ、待って!まだ安全ってわけじゃないんだから!!」
高橋は先程の熊がいるようにまだ何かが起こるのではないかと気が気でなかった
部屋の中には特に変わったものは置いていない
道重の寝かされたベッドの横には食事の残りなのだろうか?トマトが残っている
良く見ればトマトにはなぜか桃のキャラのシールが貼られており一瞬疑問が浮かんで消えた
天井を見上げたところで何もトラップがあることもなく、床も落とし穴…なんてあるはずもない

「久住さん、あの熊が道重さんをさらった犯人と関係あるんでしょうか?
あの『黒い女が襲ってきた』『闇』というワード…やはりダークネスの!?」
「どうだろうね…道重さんが起きてくれれば何かわかるんだろうけど簡単に起きないよね?」
しかしそんな久住の予想とはうらはらに亀井に何度か肩をゆすられただけで道重は目を覚ましそうであった

「ん~ふわぁ・・・もう少しだけ・・・」
道重の二度寝を欲するような甘い声を聴いただけで亀井は唇を噛みしめて泣くのをこらえようと必死になる
「さゆ、起きてよ!帰るよ!みんなで!」
より強く肩をゆすったので道重は両目をこすりベッドからゆっくりと起き上がった
「ふわぁ~」と小さくあくびをして道重は周りの状況をぼんやりと眺める

「サユ!」「さゆぅ!」「亀井さん」
亀井が思わず道重に熱い抱擁を交わす
その嬉しそうな亀井の表情を見て思わず久住の目にも涙が浮かんでくる

ただ―光井は小さい違和感を感じていた
「どうした愛佳?嬉しくないんか?」
「…愛佳の視た未来の像と違うんです。何かが微妙に」
光井の言う視た姿は道重が連れ去られたあの日にリゾナントで視た『抱擁する道重、亀井の姿』である
しかし実際に目の前の抱き合っている二人の姿は何かが『違って』感じられた

暫くして何も言わずにゆっくりと道重が優しく亀井を離して高橋を見た
道重から離れた亀井は何も言わずにゆっくりと高橋の傍へと戻る

「サユ、無事でよかったやよ!!帰ろう、リゾナントへ」
高橋はそう言って道重に手を差し出した

その手を見て道重は手を握ろうともせず首を振った
ゆっくりとベッドに腰掛け直して艶のあるその黒髪を上から下までさっと手串をかけた

道重は亀井、久住、光井の位置を確認して最後にその大きな瞳で高橋を捉え、にやりと笑った

「帰りませんよ。それに、申し訳ありませんけど、私、


 さゆみではありませんから」


「え?さ、さえみさん?」
「そうですよ、高橋さん、私、さえみですよ」

道重『さえみ』はそう言ってベッドから立ち上がり、小さく背伸びをした
「う~ん、少し寝すぎましたかね?あちらこちら少し痛いですね」
「そ、そんなことよりさえみさん『帰らない』ってどういうことなんですか!?」
高橋の後ろから久住が甲高い声で尋ねた

「あら、小春ちゃん、何言っているの?そのままの意味よ」
丁寧な言葉使いがますますさえみを不気味に感じさせる
「もう、私はさゆみをあなた達と一緒の場所に帰す気はありませんので」

「それはあかんと思いますよ!愛佳達が良くても道重さゆみさんの家族とかは」
「私はさゆみの姉ですから、大丈夫です、それに私がいればさゆみは寂しくないんですよ
 ね、そうよね、さゆみ」
さえみは微笑んだ

「・・・さえみさん、落ちついて話を聴いてくれます?なんでですか?」
高橋が少しずつさえみに近づきながら問いかける
「そうですね、以前、私が皆さんに頼んだこと覚えていますか?」
「それは『私のさゆみを危険な目にあわせないようにしっかりと見ていてください』のことかな?」
高橋がまた一歩さえみに近づいた
「その通りです。さえみはそこにいる子達ほどではないかもしれませんがか弱いんです
 運動も苦手ですし、体力もあるほうではありません
 にもかかわらずあなた方ときたら・・・」
さえみの肩が少し震えている
「新垣さんを救いに孤島へ行き、ダークネスと何度も戦って、戦って…何度も私を呼びだして
 今回だって高橋さん、あなたに頼んだ翌日にさゆみは拉致された!!」
さえみの口調が少しずつ荒荒しくなってきた

「私はね・・・皆さんとさゆみが出会うまではずっと長い間眠っていた存在です
 それが出てきたということは、どういうことを意味するか?
 さゆみが危ない目に会うことが増えた、実際に命の危険にさらされた、そういうことです。
 ああ、可愛そうなさゆみ、お姉ちゃんしかあなたを守れないのね、結局は」

「それは」と久住が口を挟もうとしたが、さえみに睨まれ委縮し光井の手をおもわず握り締めた
「あなたのこともいつもさゆみの影からみていたわ、小春ちゃん
 あなたは御存じないでしょうけど、夜な夜なさゆみは泣いていたんですからね
 それを私がどれだけなぐさめていたことか、あなたにも知って欲しいものですよ
 おっと、高橋さん、それ以上近づかないでくださいますか?」
何気なくさえみへと近づいて行った高橋に近づかないように手を突き出した

「あなたの戦法、何十回、何百回とさゆみの目を通してみているのであなたの十八番は効きませんよ」
そういうさえみには隙が見当たらず、思わず高橋も息をのんでしまう
「あっしらの能力も動きの癖も熟知しとるってわけやね・・・これほど戦いにくい相手はいないね」
高橋が苦笑いを浮かべて、すぐに口を真一文字に結び直した

「・・・なあ、さえみさん、やっぱり、あっしらと帰ってくれんかのう?」
高橋が、亀井が、久住が、光井がさえみの次に発する言葉を待った
「無理ね、どうしてもというなら、私を力でねじ伏せるくらいのことをみせてくれますかね?
 ただし、高橋さん、そこから一歩でも前に出ればあなた方を『敵』とみなします
 怪我をしたくなければ、すぐにここからお帰り下さ」
さえみが最期を言いきる前に高橋が足を大きく踏み出した
「悪いけど、さえみさん、帰るなんて選択肢はない
あなたがサユを大事に思っているように、サユもかけがえのない仲間なんよ
別に力があるとか、か弱いとかそんなん関係なくて、あっし達はサユと友達なんよ
 多少手荒な子とするかもしれんけど、サユと帰らせてもらう」

さえみはふぅと小さく息をつき、小さく背伸びをしてから高橋に手を向けた
「よけてくださいね」
静かに言ったさえみの掌から淡いピンク色の光が高橋に向かって飛んでいく
高橋は落ち着いて瞬間移動、いや『跳んだ』
一方でさえみが放った光はちょうど高橋がいた位置の後ろの壁に大きな穴を開けた
「まあ、始まりですし、これくらいなんてことないですわよね
 でも、これでおわかりかしら?私も本気だということを」

「高橋さん、さえみさんが相手ってヤバイっすよ」
久住が声をかけても高橋は答えず、どうするべきか悩んでいるように見えた
「みっつぃ、どうしよう?小春、道重さんと戦いたくないよ」
「そら愛佳もや…本当は戦いたくないけど、こうしなきゃあかん雰囲気やろ…」
戸惑いを隠せない後輩二人はさえみと対峙している高橋の背中に視線を注いだ

「道重さんを小春が困らせていたなんて気付かなかったけど、笑ってくれたあの笑顔忘れられないんだよ
 迷惑そうにしていたけど、それも含めて芸能人『月島きらり』じゃない小春を観てくれた数少ない人
 それを失いたくないよ」
「愛佳も亀井さんとか新垣さんとかリンリンと笑っていた道重さんをもう一度、いやずっと観ていたい」

「・・・じゃあ、戦うしかないんじゃない」
そう言ったのは意外な人物であった

「「亀井さん?」」
亀井は覚悟を決めた表情で高橋の横に並び、久住と光井へと顔を向けずに声をかけた
「二人とも、さゆとまた話したいんだよね?ばかみたいに笑いたいんだよね?
 だったら、選択肢は一つしかないよ、さえみさん!!」
亀井は人差し指をさえみに向けた
「あなたからさゆを取り返す、いや奪ってみせます」
亀井の宣言に対してさえみは意外に笑って見せた
「えりちゃん、本当に強くなったわね。あなたのことを私は多分、さゆみの次くらい知っているわ
 本当ならあなたを傷つけることはしたくはないの。さゆみが一番笑っていられたのはあなたの横だったから
 でも、それとこれとは別、いや、むしろあなたがいたから私は自分の居場所を失った
 えりちゃん、私も宣言させていただくわ。さゆみの一番大切な存在、その場所頂きます」