『VanishⅡ~independent Girl~(8)』 - 1


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(1)
「熊井ちゃんっ!熊井ちゃんっ!」
吉澤の光弾を正面から受けた熊井は必死に揺さぶられても倒れ込んだまま全く動かない
「熊井ちゃんっ、熊井ちゃんっ」
「大丈夫やミヤ、息しとると。少し気を失っているだけっちゃ、落ち着くとよ」
れいなが冷静に熊井の口元に手をかざして呼吸を確かめる

「そりゃそうだろ、こちらの方に『生け捕りにしろ』って言われたんだから」
吉澤が親指をマルシェに向けながらあっけらかんとした表情で言い放つ
「…もうすこし丁寧に扱って欲しかったです」なんてマルシェの小さい不平は聴こえていないようだ

そうやって冷静なマルシェと吉澤から目を固定したまま新垣は記憶を辿った
「愛佳から聴いたことがある…同じ学校にスタイル抜群の後輩がいるって…熊井友理奈」
リンリンが隣の部屋から持ってきた毛布を生まれたままの姿になった熊井に被せる
「雅ちゃんからその名前が出た時は驚いたけど、まさか能力者だったなんて・・・
 というか、雅ちゃん、どこにいたのよ?さっきまで熊の背中にいたのに」
熊井の肩を軽く叩きながら雅は顔だけを新垣に向けて答えた
「隣の部屋のふわふわしたベッドの上に投げ飛ばされたんですよ!
ちょうど田中さんとジュンジュンは見ていましたけど新垣さんは向こうから来ていたので」
「そ、そうなの。怪我は?」
「私はほら、ちょっとコートを破られたくらいで、そうこのコートを、コート…」
コートを破られたことがそうとう悲しいのだろうか雅は繰り返し「コート」と言い続ける
どうやら怪我はしていないようなので新垣は安堵のため息をついた

しかしここで新垣の脳裏に当然のごとく疑問が浮かんだ
(なんで熊井ちゃんは雅ちゃんを連れていったの?それにさゆみんも熊井ちゃんが?)

その疑問が顔に現れたのだろうマルシェが新垣に声をかけてきた
「うん、マメ、私も熊井ちゃんが全ての犯人だと思うよ。あの現場の壁に残されていた爪痕は彼女の爪のようだしね」
新垣は現場の壁に残された荒々しい傷跡を思い出した


「それにどうして彼女が犯人達を襲ったのかも簡単に説明できるし」
「どういうことや!」
れいなが立ちあがりマルシェを睨みつける
「簡単だよ、自分を連れ去った相手だよ。それで自分が熊になって人間の理性を失ったとしよう
 まず第一に考えるのは、そこから逃げること。そのためには邪魔なものは排除する必要がある
 そして目の前には自分を連れ去った男達、恨んで当然。遠慮なんていらない、倒していけばいいじゃない
 もちろんいきなり獣化なんて力に目覚めたわけだから手加減なんてできるわけないしね」
人間としての理性を保つ訓練をする前のジュンジュンの姿を知っていた者はその説明をすんなり受け入れることが出来た

「シカシ、それならどうしてあの現場にはほとんどの人がいなかったんデスカ?
熊井ちゃんの力はただの獣化なんデスヨ!」
リンリンの質問にマルシェはにやりと笑みを浮かべながら答える
「それはね、ジュンジュンならわかるんじゃない?いつも獣化しているからね」
ジュンジュンはマルシェに指名されたが何も言おうとしない
「どうしたと?ジュン、何か思い当たる節あれば言ってみるとよ」
「・・・ジュンジュン、いつも持ち歩いているものアリマス」
「バナナやろ?それがどうかしたと?」
「・・・獣化した時、ものすごくエネルギー使いマス。長ければ長いほどエネルギー使ウ
 ・・・だからジュンジュンいつもバナナ食べてエネルギー消費を防いでマス」
ここまでいって新垣と吉澤は言おうとしていることがなんとなくわかったようだ
しかしれいなは「それがどうしたと?」と鈍いようだ

「ジュンジュンが言いにくいなら私がいってあげるよ、れいな
獣化っていうのはね、ちょっと特殊な能力でね、自分自身の形を変えるんだよ。
 大きな燃料というかエネルギーが必要になる能力なの。それでジュンジュンはバナナで栄養補給をしている」
「だからなに言うとると?」
「はぁ、れいなはまだ頭の回転が少し遅いのかな?だからあの子もエネルギーを取ったんでしょ」
「そんな栄養になるもん、あの部屋になかったと!食事でもしてたと!?」

「食事ねえ・・・まあ、半分正解かな?しっかりその子もエネルギーを取ったんだよ

『人間を喰う』ことでね」

マルシェの答えに一瞬場の空気は凍りつく
「た、食べたと?人を?人間が?」
「まあ、獣化しているんだから内なる獣が出てきて人くらい食べるでしょ
ニュースでもあるじゃない、熊が人を襲ったって。それに現場に落ちてたでしょ、人の手首が」
マルシェの指摘通り新垣達は現場で人の手首が落ちているのを確認していた
「人を食って辺りが血まみれ。喰われた人は腹の中へと消える。
これで犯人消失の方法が判明したってわけだな」
吉澤がマルシェの説明に飽きながらあくびを噛み殺してまとめる

「じゃあ、なんでサユはここにいると?れいな達みたとよ、まだ無事なところを」
その答えにもマルシェはすでに答えを用意していた
「それはあとで食べるため。常に獣化しているわけだから食事は動物の『肉』だけになる
 正直、まだサユが生きていてラッキーって思った方がいいよ、よかったね、マメ」
マルシェの推理には不合理な点がないため悔しいながらも受け止めざるを得ない

「違う、熊井ちゃんじゃない!」
必死に否定する雅に対してもマルシェは冷静に「状況証拠は十分なんです」といって聴く耳を持たない
「ん?ちょっと待つと、ミヤは熊井ちゃんが能力者ってことを知らんちゃろ?
それなのに熊がその子やと気付いたと?」
れいなの鋭い指摘にリンリンもその通りだと言った表情で雅に顔を向けた
友達が人間を喰ったかもしれないということを伝えられ若干顔色は悪いが答えた
「ああ、それはですね・・・私が放り出されたところに熊井ちゃんの置手紙があったんですよ
 メッセージの下には下に『友理奈』って名前も書いてあったん」
そこまで雅が言った時に建物全体がぐらりと大きく揺れた

「な、なに?地震?」
新垣達に問われる前に吉澤が「俺ら、何もしてねえからな」と釘を刺しておいた
「新垣サン、脚元ガ!」
リンリンが新垣に声をかけた瞬間、床が崩れおち、雅と友里奈を除いた6人が一階へと落下した
思わずれいなはキャーキャー声をあげてしまい、思いっきり背中をうってしまった
「イタタ・・・もう、なにが起きたと?」
「吉澤さん、何が起きたんでしょうね?地震ではないですよ、だって緊急地震速報がなかっ」
「おい、マルシェ、地味に現実的なことを言うなよ。しかし、何だ?」
吉澤は他の5人が背中から落ちたのに対してしっかりと両足で華麗に着地を決めた
「若干時事ネタ絡めても時が経ったらわからなくなるぞ」

「しかしどうしたンデスカネ?電気もつかないようデスネ」
リンリンがそこら辺に落ちていた瓦礫を拾い上げた。
手にした椅子の脚に緑炎がともされ周囲は少し明るくなった
マルシェも白衣の内ポケットから懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた

「な、なんよ!これは!!」
れいなが驚きの声をあげたので二階から雅が「何があったんですか?」と問いかけてきた
「ミヤ、こっちに来るんじゃなかと!」
れいなが声を荒げて一階に下りてこないように警告したので雅は驚く
「なにか、おかしいと!一階がさっきと違ってぼろぼろになっていると!」

そう「ぼろぼろ」という表現は少々滑稽かもしれないが、ある意味適切だった
壁という壁には穴が開き、部屋と部屋という境界線は失われていた
新垣達がいたあの部屋のようにあちらこちらの天井が抜けおち、あちらこちらには瓦礫が積まれている
さきほどあれほど綺麗であった建物内と同じ建物だとは思えないくらいに荒れているのだ

「なにかまだいるね。れいな、リンリン、ジュンジュン、離れないで。愛ちゃん達と合流しよう」
三人が頷くのを見て、吉澤は「仲良しだね~」と呑気に感想を述べた
「ま、こういうときはなるべく大勢で居るのがいいからな」
「・・・オマエラはドウスルダ」
ジュンジュンが威嚇の目つきで睨みつけると「おっかねえ~」と吉澤はおちゃらける

「ま、とりあえず、熊井ちゃんをいただいて帰るとするかな」
「!! そんなことさせん!」
れいなが吉澤に向かって飛び出した

そこにれいな達のよく知っている声が飛び込んできた
「田中さん!伏せて!!」
(愛佳!?)
咄嗟に言われたがそれは光井の忠告、れいなは飛びかかるのを止め、その場に伏せた
光井の声が聴こえない吉澤は「おいおい、れいな転ぶなよ」と呆れかえる

その数秒後、伏せたれいなの上を何かが通り抜け・・・吉澤の寄り掛かっている壁に大きな穴が空いた
「な、なんだ?何が起きた?」
さすがの吉澤も突然のことに戸惑いを隠せず辺りを見渡す
れいなと同じく光井の声が新垣達にも聴こえたので光井の姿を見つけようと辺りを見渡す
「光井サン?どこですカ?」
「こ、こっちや…リンリンη×▽◎!!」
声のする方向を見れば脇腹を押さえて光井がこちらに向かって駆けてきた
「あ~光井サン~無事でヨカッタデス~」
笑いかけながら光井を迎えるリンリンに光井は強い口調で言い放つ
「アホ!!リンリン、炎早く消すんや!!狙われるやろ!!」
慌ててリンリンは炎を消した

「落ち着くと、愛佳、一体何があったと?」
れいなが光井に問いかけ、光井はゆっくりと語り始めた