『Vanish!Ⅱ~independent Girl~』(7)


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高橋からの短いメール「サユは××におる!」
道重の携帯にも届いたそのメールはすぐに消去された

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

道重の声が聴こえた―それは4日ぶりのこと
(サユが呼んでる)
一刻も早く道重のもとへと行かなくては、そんな思いが高橋の脚をもつれさせた
      • 勢いよく階段で転んだのだ
「愛ちゃん、大丈夫?れいな先行くけん」
転んだ高橋の上を跳んで一階へと華麗に着地を決めた

一階に降りたったれいなの前に影。それはすでにコートを羽織って待ち構えていた雅であった
「さあ行きましょう!高橋さん、大丈夫ですか?時間無いですよ」
雅は私も行くことがさも当然といった表情で力強く言う
「ミヤ、何してると?行く気かいな?遊びじゃないとよ」
「わかってますよ!でも私にも行く権利はあると思います。だってあの子がいるかもしれないから」
光井の手を頼りにして立ちあがった高橋が階段の上から雅の曇りない瞳をみて確信込めて言った
「れいな止めても無駄だと思う。連れていこう
ただこれだけは言っておくから、雅ちゃん、安全は保証しない。自分の身は自分で守るんだよ」
雅はコクンと頷き唾を呑み込んだ

「そんじゃみんな裏の駐車場に行って」
「ま、まさか、愛ちゃんリゾナントカー使う」
「ちょうど五人だからいいじゃん」
高橋はキッチンにおかれた鍵を手に取ったのを見て、三人は慌てて後ろに乗りこんだ
否応なしに雅は助手席に乗り込むことになる。何も言わずに後ろの三人はしっかりシートベルトを装着
「行くよ!」
ドォルゥゥゥゥゥ・・・ドヒュン
「た、高橋さん、速すぎますよ」
「アヒャヒャヒャ、この風、この景色最高!アヒャヒャヒャ!」

               ★   ★   ★   ★   ★   ★

「そんじゃ行くぞ。マルシェもたまには付いてこいよ。あんな暗いとこばかりいると体が錆びるぞ」
ダークネス本部におかれた物質転送装置(専ら移動に使われている)が置かれた部屋へと向かいながら吉澤が声をかける
「部署が部署だがな、体動かさないといざというときに動けないぞ。走っているのか?元ランナーのマルシェ?」
「・・・それなりにはしていますよ。それにいざというときの方法も考えていますから」
「ってまた例の『エネルギー産生』か?俺には難しくてわかんねえ能力だよな、お前の『原子合成』ってのは」
吉澤はあいまいに笑う

吉澤が警備している下級構成員にふざけて敬礼をして、入室パスワードを入力する
マルシェは吉澤に敬礼をされて慌てて敬礼を返す構成員の姿を見てクスッと笑っている
「何笑ってるんだよ。コミュニケーションだよ」なんて言いながら二人は部屋に入っていった
「それでは吉澤さん、いってらっしゃいませ」
「あ?お前も行くんだよ。気分転換だ。」
そう言って吉澤はマルシェの白衣の袖を掴み無理やり装置の中へと引っ張る
「ちょっと引っ張らないでくださ」
マルシェが言い終わる前に二人は異空間へと移動していた

「ちょっと危ないですよ、吉澤さん」
マルシェが珍しく本気で怒っている
「私まだしっかりと領域の中に入っていなかったんですから!知っているでしょ、この機械が危険だって!」
「いや、てっきりもういいだろと思っちまったからさ。悪い悪い、いいじゃねえか五体満足なんだからよ」
マルシェの言う危険―それは転送装置の狭間では空間が『切断』されてしまうこと
かつて転送装置にしっかり入らないことで右半身だけが転送されてしまうという事故が起きたことがあった
「あくまでもクールに冷静に、それがオマエらしいんじゃねえのかよ?」

吉澤にそう言われてマルシェは少し冷静さを取り戻した
「ふぅ・・・書類溜まっているんですよ・・・ボスに怒られる・・・それで、どこいくんですか?」
「あれ?言っていなかったか?あいつのところだよ、ほら出口だ、いくぞ」
二人の目の前にスリットができ、吉澤はその中へと飛び込んだ
「ちょっ、まだ答え聞いていませんよ。待ってくださいよ」
マルシェもスリットの中に飛び込んだ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「さあ、みんな着いたよ。降りた、降りた」
比較的乗り物酔いに強い光井、そして強がっているれいながゆっくりと車から降りた
それに対して雅は差し出してもらったビニール袋とお友達になっている

「ここ?」と本当なら酔いやすい亀はその城を見上げている
近くの駅まで新垣を迎えに行った高橋を除いた亀井達が着いたのは森の中の古城
蔦が生い茂り、石垣が積まれた城壁、さながら中世にでも来てしまったように錯覚してしまう
「ここっちゃろ、れーな、サユがいるのをビンビン感じると」
無意識ながられいなが拳を血管が浮き出るほど握りしめる
「しかし、雅ちゃん、本当に弱いんや。大丈夫?」
光井が心配そうに声をかけている横で亀井は「サユ~サユ~」と大切な親友の名前を呟いている
「キツいです。なんかいつもよりずっとキツい・・・ウッ・・・」
「…もしかして亀井さん?雅ちゃんに移したりしてへんですよね?」
「サュ…(ピタッと一瞬止まり)サユ~サユ~」
「…あれは黒っちゃね」

そこに近くの駅まで新垣達を迎えに行ったリゾナントカーが到着
「ガキさん送迎代はピンチャンポー宛でええよね?」
「ちょっと勝手に人のお店の名前宛で領収書切らない!そもそもタクシーじゃないんだから」
「…ガキさん、元気っちゃね。あれに乗ってきたのに」
ぐったりしているリンリン、久住、ジュンジュンの姿をみながられいなが力無く言う

「よし、みんな、揃ったね。サユの声、もちろん聴こえたよね?」
7人は頷き返し、なんとなく雅も頷く
「・・・え~と、ここから先は何が起こるか分からん。だから・・・9人固まって行動する
お互い背後には十分注意し、何が起こっても決して慌てないこと!」
こうして9人は高橋とれいなを先頭として建物へと突入した

中は外見ほど荒れておらず、かつては富豪の財産だったのかシャンデリアや彫刻が置かれている
名前は知らないがどこかで見たことのあるような名画のレプリカも壁に掛けられている
壁のスイッチを押すと電気が点いたことから建物自体は大して古くないようだ
高橋とれいなが先頭、新垣がしんがりを務めながら一つ一つのドアを開けて、慎重に進んでいく
高そうな家具が放置された部屋、豪華な浴槽場、大きな広間・・・しかしそのどれにも人の気配はない

そうやって幾つもの扉を開けては中を捜索するという単調ながら気の抜けない作業を続けていった。
そしてついに、「!! ちょっと待ってください!」光井が次のドアを開けようとした高橋を制したのだ
「…開けたら何か黒い大きいものが飛びかかってきます・・・鋭い爪と大きな口・・・隆々とした腕・・・獣?」
高橋はリンリンに指示を出した
「リンリン、ドアを燃やして」
「了解了」
ポケットから飴を取り出し、リンリンは扉目掛けて投げつけた
緑色の炎に包まれ焼け落ちたドアの向こうには広がっていたのは、見た感じは普通の部屋
テーブルの上には皿がいくつか、その皿の上にはサラダが残っていて、カップも2つ置かれている
テーブルの傍には椅子が置かれ、その後ろのベッドの上には・・・黒髪を垂らして寝ている女の姿

「!! サユゥ!」
その姿を見た亀井が思わず飛び出した-光井の忠告を無視して
「あかん、亀井さん、行ってはあきません!!」

それを待ってたのだろう、部屋に飛び込んだ亀井に何かが飛びかかってきた
そいつは光井の視た通りの姿をしていた…
丸太ほどの太さの腕を持ち、全身は黒い毛皮に覆われ、口からは何でも噛み砕くであろう牙が生えていた
身長は決して小さくはない亀井よりも一回りも二回りも大きい熊だった

その大きな腕で亀井の頭を抑えつけ熊は地を震わすような叫びを放つ
「な、なにや、この熊、冬眠から覚めるにはまだ早いと!」
れいなはその熊の大きさと威圧感に圧倒され思わず後退りしてしまう

熊は8人を威嚇するようにもう一度吠え、その鋭い爪を持った右腕を亀井に振り下ろした
「エリ!」「カメ!」「亀井サン!」
誰より先に動いたのは白と黒の獣だった
ジュンジュンは自身より大きな熊目がけて体当たりをかました
突然だったのだろう、熊はパンダの体当たりをまともにくらい倒れ込んだ
その隙に高橋は亀井のもとに近寄り助け起こした

「早く起きてカメ、まだあの熊は起き上がってくるんだから!」
新垣が言う通り熊はゆっくりと起き上がった
ぶるぶると頭を揺らしている熊に対してジュンジュンが熊から仲間を守ろうと向き合い低い声で威嚇している
「なんや?あの熊?なんでここにおるんや?」
パンダと熊のまるでアニメのようなにらみ合いが光井の目の前で繰り広げられている

睨みあいから先に動いたのは熊の方であった。低い大声をあげて四本足で向かってくる
さすがの迫力にジュンジュン以外の8人は距離を取る。一方のジュンジュンは組み合おうと構えている
しかし熊は待ち構えるジュンジュンではなく逃げ惑うメンバーの方へと向かって行った
そんな熊の進路の先にいたのは―光井と雅だった。
熊は光井と雅を突き飛ばし、倒れ込んだ雅のコートを口にくわえ-そのまま逃げだした
「ミヤ!!」「逃がすカ」「リンリンも行きます」
れいな、ジュンジュン、リンリンが熊を追うため飛び出した
「こら、勝手な行動はしないっ…愛ちゃん、サユをよろしく。私も行くからあの三人じゃ不安なのよ」
そう言い新垣も後を追って駆けだした

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

器用に雅を背中に乗せ熊は四足歩行で古城内を走り回る
熊は壁をものともせず突き破っていくので追いつくのがいっぱいいっぱいだ
「リンリン、あの熊に向かって炎撃つと!」
「無理デス!リンリンの炎、ここでは危険デス!それにスピード速くて当たらナイ」
階段を昇りながら新垣は走りながら仕込みロープの安全装置を外しながら考える
―ピアノ線は向かってくる相手には非常に有効だけど、こういった場面じゃ捕まえられない
 だからってれいなやジュンジュンのスピードじゃ追いつけないし、リンリンは危険だ
―それなら
「みんな二手に分かれて!私とリンリンで追い込むから田中っちとジュンジュンは先に回って挟み打ちよ
 この階の東の角部屋に追い込むからそこで張っていて!」
「わかった」「ガキさん、わかりました!」

リンリンの炎で進路を巧みに誘導された熊はれいなとジュンジュンが待ち構えている部屋へと追い込まれた
「はあはあ、さあ、大人しく、しな、さい」
走り疲れた新垣が肩で息をしながら熊へと近づいていく
その返事はNoだということは明白だった
なぜならば、新垣に向かって熊が飛びかかってきたのだから
「ウオッ」
本人自身は叫び声をあげながらも、ピアノ線が熊を捕捉した
ピアノ線が絡まった熊はタイル敷きの床に強く叩きつけられるようにして落ちた
「ガキさん、ナイスっちゃ!・・・あれ?ミヤはどこ行ったと?」
「本当デスネ、夏焼サンがいないデス」
キョロキョロとしながら飴を口に含もうとしたリンリンの目の前では熊はピアノ線を破頭ともがいている
「うっ、なんてバカ力なの!ヤバい、ピアノ線の限界!」
新垣の言う通りピアノ線は見事に引き裂かれた

そこに間髪いれずジュンジュンがっぷりよつに組み合った
「コイツ、強イ。なんてバカ力ダ」
しかし力では負けていられないとばかりに、ジュンジュンは熊を投げ飛ばす

壁に強く叩きつけられた熊だったが、それでもまだ立ち上がろうとする
「本当にタフっちゃね…野生の動物ってこんなに生命力強いとね…」
ゆっくりと立ち上がった熊は4人に向かって再び吠え、器用に後ろ脚だけで立ちあがった
「うわあ、大きい」
元々動物好きな新垣はその大きさに感動してしまった
「新垣サン、危ないデス!ファイヤー」
リンリンが飴を投げつけ熊を一瞬ひるませた
「ガキさん、今のうちに縛ってクダサイ!」
「あ、サンキュ、リンリン!」
新垣の袖からロープが熊へと向かって行く

熊は自分の身が危ないことを察知したのか逃げようと違う方向へと顔を向け、駆けだした

と、そこに

「おいおい、逃げんなよ、熊ちゃん」

新垣達の後ろから聴きおぼえのある低い声が聴こえ…次の瞬間、熊の胴体に光弾が直撃した

「このエネルギー弾って、確か」
「この光、見覚えあると!!吉澤ぁ」
れいな達が振り返ると吉澤が手を挙げて「よう、久しぶりだな」と声をかけてきた

「いったい何しに来たと!あれもお前らのもんか?マルシェの実験体の一つとか」
れいながもろに光弾をくらい倒れ込んだままの熊を指差しながら声を荒げた
れいなの後ろではリンリン、ジュンジュンがいつでも戦えるように戦闘配置についている
「まあ、あせんなって。今日はお前らと戦いに来たわけじゃねえんだから」
「そんな言葉信じラレルカ!」

「疑う気持ちはわかるんだけど、本当だよ」
吉澤の後ろから白衣姿のマルシェが出てきた
「マルシェ!」
「やあ、マメ、久しぶりだね。相変わらずリアクション大きいね」
新垣にマルシェは何となく微笑みを浮かべた
「それから、後ろの二人、そうやって緊張しなくてもいいよ、今日は本当にただ観察に来ただけ」
よく見ればマルシェの履いているのはただのサンダルだった

「でも、吉澤さん。やりすぎですよ」
「は?そうか?俺的には結構手加減したんだぜ、殺すわけにはいかねえんだろ?」
「当たり前です!!」
リゾナンター達を前にして吉澤、マルシェの二人は言い争いを始めた
「せっかくのレアものなんですから、もっと大切にしてくださいよ!」
「悪かったっていってるだろ」
「その言い方、反省していないのばれてますからね!」

「あ、あの~」
新垣が言い争いが止みそうにないので無理やり割って入った
「私達に興味ないのでしたら何しに来たんでしょうか?」
相手が実力者ということもあり新垣は腰を低くして尋ねた
「ガキさん、そんな聴き方することないっちゃ!お前ら何しに来たと!」

「うるせえ、れいな!」
吉澤がれいな向けて光弾を放った
「な、何すると!さては、油断させておいて」
「いや、今のは田中ッチが悪いと思う」
「なんでっちゃ!」と思わずれいなは新垣を睨みつけたが、新垣は意図的に聴こえないふりをした
「・・・れいな、何回も言うけどさ、人の話を聞く耳持とうね」
マルシェがれいなに優しく諭した

「それで、いったい何の目的ダ!」
リンリンが吉澤に勇敢にも問いかけた
「ああ、あいつだよ、あいつ」
吉澤が指差したその先には倒れている熊の姿
「あれはオマエラの仲間なのか?」
「いや、違うよ。でも、興味あるから見に来たの」
マルシェが喜びを抑えきれないと言った表情で答える

「あの熊に?おまえら、一体何考えていると!」
「熊じゃない・・・」
「え?誰?」
新垣が突然飛び込んできた第三者の声に反応する
「わ、私です、雅です、あれは熊なんかじゃない・・・私の友達です」
声の主は隣の部屋からボロボロになったコートを羽織ってゆっくりと姿を現した雅であった

そう言っているうちに熊の体に変化が現れた
何でも砕くであろう太い腕は華奢な腕へと変化し、鋭い牙はチャーミングな犬歯へと姿を変えた
体を覆っていた黒い体毛は白い地肌によって取って代わられていく
鋭く輝いている目は相変わらずそのままだが、口や鼻はその『人物』のものへと戻っていく

「そう、『熊』じゃないよ、あれは」
マルシェはますます嬉しそうな表情で熊を眺めている
「あれは能力者だ、能力は『獣化』・・・だよな?マルシェ?」
「そうですよ~私の大好きな『獣化』能力者なんですよ~」
嬉しすぎてマルシェの表情は筆舌できないほど崩れている

そして完全に人の姿に戻った彼女に雅はいつものように慣れ親しんだ呼び名で彼女の名前を呼んだ

「熊井ちゃん!」と。  (続く)