『狂犬は亀を背負う』(後) - 1


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 --亀井絵里さん。 あなたの履歴書拝見しました。職歴の欄が空白なんだけど、どういうことか説明してもらえるかな。

 --こいつは驚いたな。 経験も無い、専門学校にも行っていないあなたが、よくうちみたいな専門店に応募してきたね。

 --率直に言わしていただければ迷惑です。
 --きっとあなたはケーキ作りが好きなんでしょう。 とても素敵なケーキを作ることが出来るんでしょう。
 --しかしその程度で、うちで働きたいと思われてもね。

 --うちの店はパテシェやショコラティエ、支店の販売員も併せれば三十名を越す人間が働いていて、全員が大事な役割を担っている。
 --あなたみたいに遊び半分の気持ちの方が入ったって何にも任せられない。

 --申し訳ありませんがご縁が無かったということで、今日のところはお引き取り下さい。

思い出したくはない。 しかし忘れてはいけない。

自分には夢があると思っていた。
でも夢を現実の形にするには、絶え間ない努力が必要だとわかった。
現実に裏打ちされた足場がない限り、希望に満ちた夢は夢のようなことで終わってしまう。
そのためには決して逃げたりしないと決めた。
だから、絶対…。

「オイ、こらテメー何ぼけーっとしてるんだ。 やる気がないなら帰れ!」

ダークネスカフェのスタッフルームに急遽設えられた面接会場に狂犬の叫びが響く。

「あっ、すいません」

「いや何もそんなに喧嘩腰にならなくたって・・ヒィィィッ」

闘犬に噛みつかれたような悲鳴を上げたのは、闇の王ダークネスだ。
黒衣をまとった右腕をねじ曲げられ、漆黒の頭巾で隠した顔を細長いテーブルに押しつけられている。

「オマエ、何馴れ馴れしくアタシの横に座ろうとしてくれてるんだ」

えっ、という当惑が伝わってくる。

「面接審査をする者として、同じ側に着席するのが当ぜぇぇぇ、イテテテテ」

どんな力が加えられたのか、闇の王が悲痛な叫び声をあげた。

「それはそうだ。面接の質疑応答なんてものは、試験される者と試験する側が向かい合うもんだと相場が決まってる」

だったら自分たちが席を並べてもおかしくはあるまい。闇の王の見解は正当且つ穏当なものだった。
しかしどんな力強い正論もぶつける相手によっては、その力が失われる。 そういう意味で藤本美貴は最悪の相手だった。

「くそ、この貧乳魔女が。闇の王を何と思ってるんだ」

「金蔓だ!!」

「ヒィィィッ」

「心情を口に出すな、この…」

藤本美貴は片腕でダークネスの動きを制し、空いた方の腕を鉄槌として振り下ろそうとしたが、やめた。

別に慈悲の心に目覚めたわけではない。 鉄槌と一緒に浴びせる罵声のタネが尽きてしまったのだ。

アタシが殴ってオッサンがヒィッとか、ワンパターンが続き過ぎるのも考えものだしね。
物語のマンネリ化にも気を配る氷の魔女は、闇の王に命じた。

「立ってろ」

不承不承という態度をせめてもの反抗に、本来は部下である女の指示に従う。

「あっ、言っておくが指示じゃなく命令な」

闇の王に自分の立場を判らせると、新たな命令を下す。

「アレを出せや、アレ」

美貴の命令をどう解釈したのか、戸惑いを隠せない闇の王。
いや、とかそんにゃとか小声を漏らす。

「どうした、さっさと出さねえか。減るもんじゃあるまいし、さっさと出せ」

苛立ちながら催促する美貴の拳が固く握りしめられていく。

「こ、こんなところでアレを出せとか、恥じらいというものをなくしてしまったのか」

何だと? 訝しげな貌を見せた美貴に対して、闇の王が反駁する。

「ワシとお主の2人しかいないのなら、出しもしよう。 ワシの一番大事なものを開陳もしよう。 しかし亀井さんgぐわっ」

美貴の黄金の右が闇の王の腹にめり込んでいた。 苦悶のあまりダークネスの身体は二つ折りになっている。

「何くだらねえ勘違いしてんだ」

前屈みになり無防備に晒されたダークネスの後頭部へ、高々と振り上げられた踵が炸裂する。

「それに何、アタシと2人っきりなら出しもしようって、おぞましい。 何勝手に親近感抱いてくれてるんだ」

跪いた闇の王の脇腹を豪快に蹴り上げる。  もしもサッカーのフリーキックならゴールネットを豪快に揺らすこと間違いない。

「お前にとっては大事かもしれないけど、他の人間にとっては何の価値もないぞ。 お前の粗末なモノなんてなっ!!」

「自らの格好もわきまえず、暴れ放題。 そしてワシのモノが粗末・・・。 嘆かわしい、女として最低限持ち合わせるべき恥じらいを失いおって。
流石にリーダー就任早々男と堂々岩盤浴デートを楽しむ女は違うっ・・ぅぅぅうううう!!」

闇の王が苦悶の声を上げたのは、美貴が踏みにじったからだ。

「だっかっらぁぁぁ、心で思ってることをそのまま声に出すのはやめろや」

ぐりぐりとダークネスの下腹部を踏みにじり、威圧する美貴だったが、当のダークネスが踏みつけられることに、何処か満ち足りたような様子を覗かせるので、バカ負けしてしまった。

「面接にあたってこいつの、亀井絵里のデータを確認しときたいから、情報端末を出せと言ってるんだよ」

「…た、端末はお前にも支給したはずだろうが」

「家に忘れてきた」

懲りもせぬお前呼ばわりに一瞬反応しかけた美貴だったが、理性で抑え込んだ。
もう流石にヤバいだろう。 っていうか早くしねえと終わらないだろうが、この話。

物語の完結を気にかける魔女の心配りで制裁を免れた闇の王が、懐からタブレット型の情報端末を取り出した。

「うわっ、スゴい。 iPadじゃないですか」  絵里の目が輝く。 

美貴が不慣れな様子で起動させると起動音が鳴った。

シィーーーッ。

「いや、メイドインチャイナのcPadっていうんだけどよう」

さすが中国製、立ち上がるまで時間がかかってしょうがないとぼやく。

「ウィンドウズ、マック、アンドロイド。 三種のosを使い分けられる優れモノじゃ」

「中国姉ちゃんのつまんねえセールストークに引っかかって、十台も買わされやがったんだ、このバカ」

osを切り替える度に固まる、固まると憎々しげな美貴の言葉を浴びせられるダークネス。
絵里は彼の気持ちを慮ってか、その気持ちを引き立てようとした。

「でも、そのcPadって物凄く丈夫に出来てるんじゃないですか。 だって藤本さんがあんなに乱暴にしたのに、壊れてないんですから」

「それはワシが雛を守る親鳥のように懐深く守ったからかもなぁ」

21世紀を生きる悪の組織にとって情報は生命線。 情報ツールは剣や銃に匹敵する武器だという自説を披露する闇の王。
お門違いのご高説を賜った絵里は愛想笑いを浮かべている。
そんな2人をよそに、美貴はロッカーの上に置いてあったテッシュペーパーを二、三枚手にとってのcPadの画面を拭い出す。

「おいっ、何をしておる。 まるでワシの身体が汚れておるみたいではないか、おいっ」

闇の王の抗議を半笑いで受け流しながら、清拭作業を続けていく。

「ねぇっ、もう十分でしょ。 そんなに念入りにやらなくても、ねえっ」

闇の王の悲痛な叫びが空しく宙に吸い込まれていった。

         ☆

ティッシュを半ケース分消費して、ようやく納得したのかcPadを操作しようとした美貴は、リゾナンターの個人情報の入ったフォルダーの在処を闇の王に尋ねていた。

「リゾナンターの情報は全os共通のショートカットで開けるようにしてる。 検索キーとRだ」

講習でちゃんと教えたはずなのにと、部下の不勉強を嘆いている。

「私たちの個人情報なんて集めてたんですね?」

「主としてお前んとこのサブリーダーが報告してくれたんだけどな」

美貴の言葉を聞くと、ああそういえばそうだったとばつが悪そうな表情になる。

「オイッ、開かねえぞ」

「お前がめったやたらと拭いまくって、タッチパネルが反応したんだろうが、まったく」

暫く待っておれと言った闇の王だったが、適当にタッチパネルを触りだした美貴を見ているうちに顔がみるみる青ざめていく。

「お、おい。 そんなにやたらに触るもんじゃない、特にRの周辺eとかdとかfとかgとかは間違っても触るんじゃないぞ、さもないと…」

「さもないと何だ、言ってみろ」

「機密保持のために爆発する」

闇の王から飛び出した意外な言葉を耳にして、美貴は爆笑失笑する。

「キャハハハ、何そのミッションインポッシブルみたいな設定。 ウケるんですけど」

お前にそんな物騒なものを抱え込む度胸なんてありはしないと決めつけた美貴だったが、何か思いついたのか目を輝かせる。

「エロか?」

「な、何を言う」

「恥ずかしがることはないじゃねえか。 お前も男なんだから自分のパソコンにお宝のエロ画像の100枚や200枚ぐらい保存してたっておかしくねえだろうが」

「闇の王を愚弄すれば、ただでおかんぞ」  声が真剣さを帯びてきた。

「わざわざRの周辺って念を押したってことは、この辺のキーにお宝の隠し場所の鍵が潜んでるに違いねえ」

タッチパネルに表示されたキーボードを眺めながら、ダークネスの言葉を思い出し思案する。

Rの周辺でオッサンが敢えて挙げなかったtのキーが怪しいな。
闇の王の思考を分析した美貴は上機嫌で言った。

「さあお待たせしました。 ただいまから悪の組織ダークネスの首領が、インターネットで集めた秘蔵のエロ画像の発表会を行います。 
世界征服の野望を抱く男はどんな性的嗜好を持つのか、それが今明らかになります」

「キャッ」

亀井絵里が悲鳴を上げ、掌で目を覆ったが、指の隙間からしっかり美貴が手にするcPadの画面を凝視している。

「♪何が出るかな? 何が出るかな」

鼻歌交じりに検索キーとtのキーを同時押しする。 画面が替わり、ソフトが起動していく。

「さあっ、闇の王のお好みは、ロリか熟女か巨乳か金髪かっ。 まさかのボーイズラブ!」

情報端末を奪還しようと躍起になる闇の王をいなしながら、液晶画面を見つめる。

「おいっ、こいつは…」

「愛ちゃん」

液晶画面の中に描画された小窓の中に、高橋愛が顔を覗かせていた。

「何だ、これはっ」

敵対勢力の情報というにはあまりにスタイリッシュな雰囲気を醸し出している高橋愛。
まるで写真館で撮影されたスナップショットのような画像の正体を問い糺す美貴だったが、闇の王は言を左右にして答えをはぐらかすばかりだった。

「えりりんの情報が要るのだろう。 ワシが操作してやるから早く返せ」

変だぞ、オッサン。 逆アップをかまして強く出て来たじゃねえか。
ってことはやっぱこの小窓に映ってる高橋愛には、触れられたくねえってことか。

今cPadで走っているソフトの正体を解明したって、何の実益も生むことはないだろう。
そんなことはわかってる。
なのに未練たらしく、液晶画面を指先でなぞっているのは、闇の王ダークネスがそうすることを嫌がっている、いや恐れているからに他ならない。
現に今も美貴の指が画面に触れるたびに、闇の王はびくっと震えている。

まったくわかりやすい男だぜ。 画面下部をよく見ると声BANKという文字が躍っている。
その部分にタッチすると、メニュー画面に切り替わった。

何々。入力読み上げだぁ。

「つまりお前はアレだ。 アタシたちが戦ってる敵のリーダーに愛してるとか、お仕事頑張ってとか言ってもらうために、こんなソフトをインストールしてるってことでok?」

「藤本さん、ソフトじゃなくたアプリって言うんですよ」

亀井絵里が説明するところによれば、そのアプリの名前は声バンク高橋愛ドロイドという携帯用のアプリだという。

「私たちの間でも話題になってるんですよね、それ。 ほら、リゾナンターはiPhone派が多いじゃないですか」

「何、そのアタシに同意を求める馴れ馴れしさ。 そんなコミュニケーションイラネエから」

またまたと言いながら、絵里が続けたところによれば、愛ドロイドという名前が示すようにそのアプリはアンドロイド携帯用であるという。
iPhone派である道重さゆみなどはこのアプリのためだけに真剣にアンドロイド携帯の購入を検討しているらしい。

「愛ちゃんの声で、さゆ愛してるとか言われたいんだそうですよ」

「お前ら、平和でいいな」

美貴は呆れてしまった。

「いや、アタシたちの頑張りが足りないから、お前らもそんなに平和なんだろうけど」

「うへへ、おかげさまで平和な日々を満喫させてもらってます」

「イヤイヤ、頑張らなきゃ。 アタシたちもっと頑張らなきゃいけないわけだけど、そのトップがこれだからなぁ」

ため息まじりに、愛ドロイドが起動した状態のcPadをひらひらさせる。

「やめんか。 愛キュンが目を回すではないか」

愛キュンって。 
脱力した美貴はcPad を本来の持ち主に返そうとした。

「藤本さん。 そのアプリ携帯用のだから、予測変換が有効だと思いますよ」

「オマエ、何て言った」

「愛ドロイドは本来携帯用のアプリですから、予測変換の履歴が残ってるかもしれないって言ったんです」

「っていうことはつまり?」 魔女が底意地の悪い笑みを浮かべた。

「つまり、ダークネス様が、愛ドロイドに何て言わせたのかわかるかもしれないってことですよ」 風使いが魔性の表情を見せた。

魔女と風使いの会話を聞いたダークネスが慌て始める。
返せ、プライバシーの侵害だと言いながら手を伸ばす。
それを適当にあしらいながら美貴は絵里に言葉をかける。

「亀井屋、お主も悪よのう」

「いえいえ、藤本様にはとてもとても敵いませぬ」

闇の王が決死の反転攻勢を試みる。  美貴の手からcPadを奪還しようとしたのだ。

「カメちゃん、こいつを抑えてろ。 いや、それはアタシがやる。 お前は予測変換を辿って愛ドロイドに話させるんだ」

「へい、合点だ」

美貴の手からcPadが飛んだ。
放物線を描いて飛んだcPadを掴もうと、手を差し伸べたダークネスのがら空きのボディへ美貴の渾身の前蹴りが炸裂する。
膝から崩れ落ちたダークネスの背後を取った美貴は、己の右手で闇の王の左手を、己の左手で闇の王の右手を掴むと顔面で交差させた。
尚も暴れようとするダークネスの背骨に自分の膝を押し当てて、波乗りのように固定すると絵里に指示を飛ばした。

「まずはダークネスの「ダ」を打ち込んで、予測変換を辿っていくんだ」

「は~い、かしこまり~」

嬉々として画面上のキーボードを打っていく絵里。
え、これは、という呟きが聞こえる。やがて愛ドロイドの抑揚の無い声が、ダークネスカフェのスタッフルームに空しく響いた。

『だ、だめ~。 こんなにおおきなの私初めてやよ~』

抵抗を続けていたダークネスの体から力が抜けた。


オ、オッサン。 機械に何てことを言わせてたんだ。
一瞬だけだが、闇の王のことを哀れに思ってしまう。
確かに人が嫌がることをするのは楽しい。 ことにそれが形の上でだけとはいえ、自分より格上の存在に嫌がらせするのはたまらない。

とはいえ、美貴は強者である。
氷雪系の魔法を使う魔女でありながら、自らの肉体を駆使して雌雄を決する狂戦士でもある。
さらに言うなら女のパンツを食い込ませることにかけては、ダークネス最強の戦士でもある。
あまりにも一方的な痛ぶりを行った後には、心に隙間風が吹いてしまうのも事実である。

アタシは精々『ダークネス様好きよ』ぐらいを言わせて満足してると思ってたんだ。
それを再現して冷やかして、恥ずかしがってるコイツの姿を見て笑ってやってそれで幕引きにしてやろうと思ってたのによ。
バツが悪いったらありゃしねえ。 

着地点を見つけなきゃ。 美貴は思った。
この事態を収拾させて、店をさっさと閉めて、家に帰って寝てやるんだ。
やっぱり一日に9時間は眠らないと、肌の美容に悪い。

「次は「あ」からの予測変換を試してみるんだ」

絵里は美貴からの指示にためらいを見せた。

「藤本さん。 私たちは開けてはいけない禁断の扉を開けてしまったんではないでしょうか。これ以上踏み込めばもう帰ってこれないかもしれませんよ」

「バカヤロー、ビビッてんじゃねえよ。 行き着くとことまで行き着かない限り終わらねえんだよ。 覚悟を見せろや」

美貴の叱咤が心に響いたのか、絵里は再度cPatの画面上のキーボードに指を走らせた。
ひっ、これは、いくら何でもという声が伝わってくる。

「いいですか、藤本さん。 今度のはさっきに輪をかけてひどいですよ」

確定キーに指を置いた絵里が念を押した。

「さっさとしろ。 早く終わらせるんだ」

静まり返った室内にcPad のスピーカーから発せられた抑揚に乏しい声が轟く。

『愛のくさいあそこの匂い、嗅いでください』

美貴が魔法を喚起したわけでもないのに、部屋の温度が下がった。

サイテーという絵里の声が闇の王を撃つ。

う、うう、ううう

世界制服を企む男から咽び泣きが洩れた。

…暫くして。
ダークネスカフェの従業員の面接試験会場は法廷へと様変わりしていた。
裁かれるのは、組織の情報端末にインストールしていたアプリ、愛ドロイドによからぬ言葉を喋らせていた罪を問われた闇の王、ダークネスその人。
その罪を糾弾するのは、氷の魔女ミティこと藤本美貴とダークネスカフェに採用希望の亀井絵里である。

「ちょっと待て」

着席している二人の検察官兼判事に対して、起立させられているダークネスは不服を訴えている。

「こんな裁判、デタラメだ。 ワシには弁護士との接見を要求する権利があ…」

「無えっ」

「あは。無いですよね。 あはあはは」

闇の王は、自分を待つ悲惨な運命が心に思い浮かんだのか、少しずつ壊れていく。

ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい、世界制服なんか企んでごめんなさいと繰り返し呟く闇の王の醜態を苦々しい目で見ながら美貴は絵里に同意を求めた。

「本来ならその場で処刑するところを、こうして申し開きさせてやろうっていうんだ。 感謝してもらわないとな」

「ねぇっ」

男としてごめんなさい、人としてごめんなさい。
過ちに満ちた罪深き人生を懺悔していた闇の王があることに気付いた。

「そこの二人、さっきまであんなに歪みあってたのに席を並べて随分と仲良くなったんじゃないのか」

「ええ! 私は最初から友好的ですよ。 どっちかというと藤本さんが一方的に噛みついてきたんですけど」

いや、正義の味方として悪の組織のメンバーに友好的はまずいだろ、流石に。と思う美貴だったが、もうそんな当たり前のことを言葉にしても無意味だということは判っていた。

「オマエという女性共通の敵に対して、一時的に共同戦線を張ったんだよ!」

「ちょっ何その言い草。 ワシはダークネス、闇の王と呼ばれた男。 オマエごとき魔女なんか…」

どうしようっていうんだ、美貴が少し眉を吊り上げると闇の王の言葉は尻すぼみになってしまう。

しかし、この男の言ってる通り、さっきまでよりも亀井絵里との距離が縮まったのは事実だ。
実際、こうして席を並べて話すなんて、三十分前までは考えられなかった事態だ。
それもこれもこの男の存在があったからこそ…ハッ、まさか。
オッサン、お前こうなることを予測してたのか。
自分のことを捨石にして、アタシと亀井絵里の仲を取り持とうととしたのか。
自分が変態呼ばわりされることを承知の上で。 そこまでして…。
くっ、負けたよ。 オッサン、アンタの男気にアタシは負けたよ。
認めようじゃないか。 ここはアンタの大きさに免じて亀井絵里の採用を認めようじゃ…

「オイッ!」 

ダークネス、アンタ輝いてるよ。 闇の王にこんなことを言うのは御法度かもしれないが、アンタ神々しいよ。

「このオッサンは何、他人の心情を勝手にアテレコしてるかなぁ。 それも自分補正までして」

自分だけの世界に閉じこもっていた闇の王は背筋に冷たいものを感じた。
気がつく亀井絵里が自分に蔑みの視線を注いでいた。

「そんな目でおじさんを見ないでぇぇ」

自分よりはるかに年下の絵里に懇願しながら、闇の王は不審に思っていた。

「今のオイッて声はあの貧乳魔女の声。 あいつはいったい何処から」

「だぁかぁらぁぁぁ、自分の心情をストレートに声に出すなって何度言ったら判るんだ。 いい加減学習しろ」

自分を背後から見下ろしていた美貴が腕を振り下ろした。

「ヒィィィッ!」

cPadの液晶画面が闇の王の頭で砕けた。