『■ ヒデュオスレギオン -譜久村聖X市井紗耶香- ■ 』


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■ ヒデュオスレギオン -譜久村聖X市井紗耶香- ■  

今が夜であったことは、幸いであったのかもしれない。

キチキチ…キチキチキチ…

地面すれすれをさざ波のように音が這い進んでいく。
不気味なさざ波の音をかき消すようにクラクションの音が絶叫し続けている。
ひしゃげたバンパー、傾いたフェンス…。
そしてアスファルトを埋め尽くす…

 ―蟲だ。

ゴキブリ、ムカデ、アリ…、その他名状しがたい大小さまざまな蟲たちが、その黒いセダンを覆い尽くさんと這いまわる。

【蟲使い(バグテイマー;bug tamer)】。
蟲を呼び寄せ自在に操る…、それが市井紗耶香の能力だった。

ブチッ ブチッ ブチッ

地を覆い尽くす黒い絨毯を踏みつぶしながら、市井はセダンへと歩を進めていく。

ブブ…、ブブブブブ…

すでに羽虫やゴキブリによって窓という窓は覆い尽くされ、中の様子は伺えない。

車の機密性などたかが知れている。
今頃車内にも蟲が侵入し始めている頃だろう。
すぐにパニックになって飛び出してくるはずだ。

「簡単な仕事だったわね」


そうひとりごちる。

ガチャ…
後部座席のドアが少しだけ開く。
開いたドアの隙間から蟲たちが侵入する。
市井は体中を蟲に這いまわられ、悲鳴を上げて飛び出してくる少女を想像し、サディスティックな笑みを浮かべた。

が…。

ズバウン!

「!?」

ゴォッ!

「な?なにコレ…。聞いてねえぞ矢口…」

輝く翠玉…いや…これは炎だ。エメラルドグリーンに輝く、緑の焔。

すらりとした…それでいて肉感的な脚が地面に降り立つ。
瞬間、地を這う蟲は炎に巻かれ、タンパク質の燃える嫌な臭いを撒き散らす。

すらりとした…それでいて肉感的な手がドアに触れる。
ドアを這いのぼる蟲が、飛び回る羽虫が、根こそぎ焼き尽くされる。

「とうとう…見つかってしまったんですね…私…」

物憂げな瞳、抜けるように白い肌、艶やかな黒髪。そして…、

…匂い立つ色気…。


大量の蟲が焼け焦げる異臭の中にあって尚、彼女の周囲だけには蜜のような甘い香りが満ちているかのようだった。

―譜久村聖―

―少女と呼ぶにはあまりに早熟な肢体の―少女がそこにいた。








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