『XOXO -Hug and Kiss&-(3-a)』


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『あなたが守ろうとしているものは誰にも守れない、守ってはいけないの』
 * * * * * * * * * *
行き場を無くした能力者の生き場がダークネスだ。
目的も無くただ暴挙に走っていた者、必死に力を抑え込んで廃人と化す寸前の者、
一瞬一瞬を生きるために昼行灯に徹していた者。そんな奴らに存在理由を示し、手を差し伸べたのがなつみだ。

『私たちは深海魚。異質で数が少ない、ただそれだけの理由で表層から追い出された深海魚。
もう劣った愚民どもの表層を仰ぎ見る生活なんてまっぴら。優劣に従い、今こそ表層と深海をひっくり返す時よ』

自分だって瀕死の状態で棄てられていたのを拾われた身だ。
なつみのために、そう活動するうちに組織は躍進し、知らぬ間に幹部の椅子を手に入れた。

ただ、その少女だけは始めからダークネスが生き場だった。


『安倍さん、そのガキどこから連れてきたんですか』
『かわいいでしょう。圭織と外に出た時に見つけたのよ』
『捨て子、ですか』
『そう、私たちと同じ。これは美人になるわよ』
『ついにダークネスに赤ちゃんか。名前、どうするんですか』
『圭織がこの子見た瞬間に“里沙よ、新垣里沙”って』

新雪の白さと暖かさを纏ったなつみに抱かれた、無垢な笑みを浮かべた赤ん坊。
組織初の乳飲み子の登場は歓喜をもって迎え入れられた。
幼き頃から悲痛な記憶を持つ構成員は赤子の面倒を見たがり、能力の存在が認められてからは厳しく熱意を持って少女を鍛えた。

何よりなつみはまるで本当の親のように、片時もそばを離れること無く少女の成長を見守っていた。
その愛情と期待に応えるように里沙は疾風迅雷の勢いで能力を増し、幹部補にまでのぼりつめた。

諜報員の任を里沙に託す際も、全会一致で決まったことだった。
あの新垣里沙が組織に二心を抱こうなど誰の思考にあっただろうか。
里沙しかいない、組織の総意だった。


『里沙が組織を抜けたわ』

突然の宣告だった。なつみはいつもと変わらぬ佇まいでそう告げた。

『けれど私たちがやることは変わらないわ。いつもと同じように、ただそれだけよ』

言いたいことは山程あった。何故そんなに冷静なのか、一番の愛弟子ではなかったのか、
つまりは反逆者ではないのか。なぜ、なんで、あの里沙が。

しかし、どの言葉も疑問もなつみの前では無意味であることは分かっていた。
なつみが里沙を一番信頼していたことは誰の目にも明らかで、
反逆者となった事実に最も衝撃を受けているのはなつみ以外に考えられないから。

そのなつみが“いつもと同じように”、そう指示したのならば自分はそれに従うほかない。

いつもと同じように。それは、反逆者は始末せよ、ということだ。

モニターに映る久方ぶりに目にしたかつての家族に、以前可愛がっていた少女の面影は一切残っていなかった。


「新垣、聞こえるか」

「…お久しぶりです、吉澤さん」
「まさかお前からやってくるとは思ってなかったよ。もしかして見逃してくれるとでも思ってた?」
「逆に私がそう思って帰還したとでも?」
「おうおう、言うことが大人になって父さんは嬉しいよ」
「敬愛なる父上に成長を示すことが出来てなによりですが、父上にはさらなる成長を是非とも身体で実感して頂きたいのです…
お目通りをお願いしてもよろしいでしょうか?それともこのままお姿を隠されるつもりで?」

「…考えはあまちゃんのままみたいだな。まさか俺に勝てるとでも思ってんの?」
「それは出会ってからのお楽しみではいけませんか?」
「…お前らが今いるエントランスの右の通路の奥にドアがある。入って左側の」
「左側のドアの裏にあるスイッチを押して右側のドアの先、管内システム管理室にいらっしゃるんですね」
「さっすが元ダークネス。けど残念、管理室で戦闘なんかできっかよ。左のドア開けてそんまままっすぐ進んでこい」
「了解しました、すぐに闘技場に向かわせて頂きます」

カメラに向かって一礼をした元家族は、眼光鋭いままの元実験体を連れ、モニターから姿を消した。

「おい新垣、、、」

本当にお前は俺たちを、なつみを裏切ったのか。言葉にならなかった想いは心の中で押しつぶした。