『Vanish!Ⅱ~independent Girl~』(5)



<day3>
大丈夫、わたしがついてる

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「『【被害者無事保護される】
  昨日深夜二時頃東京都○○区の倉庫にて数日前に誘拐・監禁されていたと思われる男女数名が無事に発見された。
  発見されたのはいずれも都内在住の○○、××、●●、△△の4名で健康状態に異常はないとのことである。
  警察によると発見された現場の倉庫は現在所有する会社などはなく、放置されていた状況にあったとのことである
  なお現在も行方不明となっている■■については「引き続き全力を挙げて捜査に当たる」とのコメントを発表した』
 やって。全然れーな達のこと書かれていないとね。当たり前っちゃけど」
「だって警察も言えないでしょ、『民間人のおかげで見つかりました』なんて」
新垣がリゾナントのカウンターに座りミルクティーを飲んでいる
「警察のメンツもあるし、そもそも私達は知られちゃいけない存在なんだから」
「そうやよ、れいな。あっしらみたいな能力者がいるってことを世間が知ったらえらいことになるでしょ」
「わかっているとよ」
れいなの前に焼き立てのトーストとハムエッグが置かれた

「でも少しくらいは書かれてもいい!って思ったことは」
「「「ない」」」
綺麗に高橋、新垣、れいなの声が揃った
「というかなんでミヤはここにいると?今日も学校じゃなかと?」
当たり前のようにカウンターでコーヒーを飲んでいる雅の姿を見ながられいなが言った
「高校生は学校行くのが仕事っちゃろ。れーなもこれから仕事やけんミヤも学校行くっちゃ!」
「・・・誰かさんのおかげでほっぺた腫れていて痛いので登校拒否しま~す、イタタ」
これみよがしにわざとらしく頬を押さえる姿にれいなはいらいらを強く感じた

「田中っち、顔に気持ち出てるから、笑おうね」
「ガキさんはいいかいな?仕事っちゃろ?」
「今日は遅刻するって連絡入れてあるから大丈夫よ。菅井店長意外と融通きくのよ♪」

久住、光井、ジュンジュン、リンリンは用事があるということで呼び出しをかけなかった
しかし亀井は呼び出したにも関わらず未だに来る気配がない
「多分、今頃あの4人はニュースとかでどうやって報道されたか調べとるやろうね」
「愛佳とか学校のパソコン使って全ての新聞読んでたりしてそうだね」
新垣が読み終えた新聞を丁寧に折りたたんでカウンターテーブルの上に置いた

「あっし達があれから調べたことはやっぱり公表されていないんだね、ガキさん」
誰よりも早く起きて新聞に目を通した高橋が二人に確認の意味を込めて問いかけた
「犯人もあの男しか見つかっていないようだし警察ではまだ『捜査中』だしね」

人質となっていた人々を見つけた後、リゾナンターの8人と雅は更に建物内部を捜索した
しかし他に監禁されている人は見つからず、雅の探している子、そして道重は遂に見つからなかった

そのかわり建物の裏口寄りに大きな穴が壁に開いていたり、やはりその周囲にひっかき傷があるのを見つけた
周囲には壁を崩した時に出るであろう壁の破片は全く落ちておらず、掃除でもされたように綺麗になっていた
壁に刻まれたひっかき傷は他の部屋で見つかったものと同じようだった

「けっこう探したけど、結局、サユおらんかったと・・・」
昨日までは一緒に笑っていた仲間の鮮明な記憶を思い出しながられいなが悲しそうに呟く
建物を十分に探しまわってから警察に「人質を見つけた」と連絡したのはほんの数時間前のこと
唯一みつけたあの男が『犯人の一味』だとメモを残して彼女達は警察が現れる前に建物から脱出した

「警察はあのメモを残したのが誰かってことでひと騒動になってるんじゃないんですか?」
コーヒーにミルクをいれながら雅が尋ねてきた
「ん~まあ、そうかもね。でも、筆跡分からないだろうし、まさか一喫茶店のマスターがそんなことしたって思わないよ」
高橋はそんな些細なことを気にも留めていないようで鼻歌を歌いながら新垣のカップにもう一杯ミルクティーを注いだ

「愛ちゃんは相変わらず能天気だよね~ご都合主義っていうかぁ」
「ガキさん、能天気ってなにいってるがし!あっしは結構考えているんだよ」
「はいはい、そうですか」

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れいなの言う通り、光井は図書室のパソコンや新聞で事件がどれだけ報道されているかを調べていた
(・・・よかった愛佳達のことは何も書いてあらへん)

一応、新垣が記憶操作をして人質及び犯人の男の記憶からリゾナンターのことを忘れさせていた
さらに雅にも記憶を『消失』させたが、何かミスをしていないかが不安だった
(杞憂やったわ)
何も書かれていないことに胸をなでおろした

「愛佳、何してるの?」
声をかけられたので振り返ると同じクラスの子であった
「あ、まあ・・・ちょっと調べ物を」と答えた
「あ、これってウチらの学校の子も被害者の事件だよね!その子だけまだ見つかっていないってテレビで言ってた」
「ああ、うん、そやな」
パソコンの画面を覗き込まれてしまったので心の中で光井は小さく舌打ちをした

「なんであの子だけみつかっていないんだろうね?」
「んなこというたって愛佳もわからんし」
「別に愛佳に答え求めてるわけじゃないよw単なる独り言だとゆいたい」

(でも確かに何でやろ?連れ去ることになんの意味があるんやろうか?
 これがダークネスの仕業やとしたら道重さんを連れ去ったんは納得がいくわ。愛佳達は邪魔もんやし
 でもそれ以外に何人も監禁しとったわけやし・・・あの人らにはなんの共通点なんてあらへんし・・・
 それに誰も傷つけされてへんかった。あんな監禁状況にもかかわらずにや
 一体誰が何のために?)

時計を目にすると次の授業時間が迫っていた
「あ、授業始まるよ、愛佳、急がないと遅刻するよ」「あ、まって」
ドタドタと音を立てて二人は急いで教室へと駆け戻った

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亀井は自身の部屋のベッドの上にじっとしていた
カーテンも開けず、部屋の電気も付けずにただ顔を膝にうずめている
何も言わないでただ暗闇を見つめてばかりで、時計の秒針のカチカチという音が響く

「エリ~いるんでしょ~お母さん、ちょっと買い物に行ってくるから!お昼は適当に作って食べてね」
階下から聴こえてくる母親の声にも反応せず亀井は無言のままだ
「・・・」

亀井の部屋は正直綺麗ではない、むしろ散らかっている
でも今日は特にひどい。パジャマは脱ぎっぱなし、お菓子の空き箱は床におちている

同じ姿勢を保つのを疲れたのだろう組んでいた手をほどき、背中のほうに移動させた
そして、枕元に置いていた自分の携帯を手に取った
携帯を開こうとしたが、思いとどまり再び携帯をベッドの上に置いた
「・・・」
携帯を開ければそこには親友と一緒に取ったプリクラ画像が出て来るのを知っていたからだ

変顔で撮った写真にはへたくそな文字で「二人は親友」「ずっと一緒だよ❤」と書かれている
メール不精な亀井のもとには道重からの未返信メールが溜まっている
携帯につけられたストラップは二人で一緒に買い物に行った時におそろいで揃えたもの

眼を閉じてもいつも一緒にいたその人の顔が浮かんでくる
「・・・」
浮かんでくる顔は馬鹿見たく笑っていて悲しい自分の気持ちをより一層暗くさせる
「バカァ・・・」

グスンと鼻をすする音が静かに響いた

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「マルシェ、昨日は悪かったね、無関係なのにあたってしまって」
後ろから声をかけられたマルシェが振り返ると保田が手に何かをもってこちらに向かって歩いてきていた
「いえ、保田さんがあんな時間にいるなんて私も驚いたんですよ。何をなさっていたんですか?」
「ん~まあ、仕事で問題が起きてな。イライラしてた。まあ、なんとかなったが・・・
 それより、これ、マルシェにプレゼントというかお詫びの品かな?」
保田は紙袋ごとマルシェに渡した

「なんですか~あ、こ、これはっ!!」
眼を欄欄と輝かせてマルシェは袋の中のぶつを取り出した
「マルシェが好きだろうと思って買ってきたよ。それ食って組織のために頑張ってくれよ」
「ハイ!」
視線は手に持った大好物のおやつに向いたまま保田に元気良く返事した

「あれ、保田さん、まだいたんですか?」
そこに偶然吉澤が通りかかった
「あれ、いちゃいけないのかしら?おじゃまかしら?」
「いえいえ、決してそういうわけではないので(汗)」
慌てる吉澤に保田は優しい笑みを浮かべた
「フフフ、分かっているわよ。よし子もマルシェからお菓子もらっていいわよ」
それを聴いて今度はマルシェが固まった
「え・・・」
「そうですか~それじゃあいただきますね~マルシェ、一つ頂戴」
吉澤は袋の中から特に大きい一個を手に取った

「それじゃ、私は外に出るから3日くらい帰ってこないからボスに伝えておいてね
 帰ってきたら一緒に日本酒でも飲もうね、吉澤」
「いいっすね~2,3本くらい空けちゃいましょう!マルシェも連れていきますよ」
「え、わたくしは・・・」
吉澤はそういいマルシェの大好物のお菓子をまた一つ奪い取り、困り顔のマルシェはどうしようもなかった

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「ねえ愛ちゃん、これからサユをどうやって探すと?手掛かりとかないっちゃろ?」
帰り支度を始めた新垣を見ながられいながぽつりと呟いた
「・・・今は何もできないかもしれんね」
意外なほどあっさりと答えた高橋にれいなは驚きの表情を浮かべた
「あ、愛ちゃん?ガキさんならなんか考えもってるっちゃろ?」
新垣も高橋同様、静かに答えた
「・・・私も今は待つしかないと思う。愛ちゃんの精神感応が働かない以上今は仕方ないよ」
「そんな!二人ともサユが心配じゃなかと?こうやってれーな達がなんもできんくている時も助けを求めてるかもしれんやん!」

「・・・れいな、サユは大丈夫やよ、まだ無事やから」
先ほどとは違い確信を込めた声で高橋が口を開いた
「れいなだってわかってるはずだよ、サユが生きているってことは。『なんとなく』だろうけど
 そりゃわたしにも根拠があるわけではないけど、心でつながっているがし。
ガキさんがいなくなったときも、あっしがAと戦って重傷を負った時も心を強く揺さぶられたやろ?」
「そう、それが共鳴ってことだから、田中っち大丈夫なのだ!」
新垣がれいなの肩を軽くポンと叩いて励ました

「ただ愛ちゃん、私が裏切っていたってことは言わない約束にしたよね」
「あひゃひゃひゃ・・・ガキさん、すまんの~」
笑ってごまかそうとする高橋を冷たい目で新垣が睨んだ

「それにさゆみんには『さえみさん』っていう大きな存在がいるのだ!
 さゆみんにヘタなことしたらさえみさんがただじゃおかないから、すぐに私達も気付くはずだよ」
れいなはつい2日前に現れた『さえみ』の行い(VanishⅡ 一話参照)を思い出し身震いした
「さえみさんが暴れたら、すぐにわかるけど今のところそんなことはないから無事だと思っていいんじゃないかな?
 田中っち、今は祈ろう、何か手掛かりが見つかるようにってさ」

れいなは猫のエプロンの紐を強く結び直して気合を入れた
「・・・仕方ないっちゃね、サユもそこまで弱くないやろうし
 れーなが弱虫になっとったらサユに笑われるかもしれないと!強気でいかんといかんね!」
そんなれいなの姿を見て高橋がニヤッと笑みを浮かべた
「少しれいならしくなったね!ほら、れいな、仕込みするから手伝って」
「・・・それはサボりたいんやけど」
「「ダメ」」
年上の二人の声が見事にリゾナント

「いいなあ、仲間って」
そんな3人の姿をみた雅が羨ましそうな表情を浮かべた
「ああ、私にもああやって心配してくれる人がいればいいのに・・・それにしてもあの子はどこなんだろう」
雅はいまだ行方不明の仲間を思い浮かべ、暗い表情を浮かべた

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

それから三日後、事態は急速に動き始めた・・・「ヤメテ!」という心の声とともに
















最終更新:2011年03月03日 22:37