『モーニング戦隊リゾナンターR 第??話 「Wingspan の世界:闇の翼(1)」』


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世界の破壊者 高橋愛 その旅の行き着く先は?

【前回のストーリー】
保田の開発したC3細胞に肉体を浸食された里沙を守るため、ダークネスを離脱し逃亡を続けてきたマルシェ。
そんな二人に迫る黒い影があった。
「ボク」と名乗る合成獣の肉体を持つテレパス。
「ボク」から「オバサン」と呼ばれている傀儡使いの女。
彼らに追いつめられたマルシェたちを救ったのは光の中から現れた愛だった。
「オバサン」の操る人形を一瞬で崩壊させた愛だったが、仲間の危機を救うために能力を酷使して駆けつけた代償は大きく、動きが止まってしまう。
Mの系譜に連なる能力者に敵愾心を燃やし、愛の目の前で里沙やマルシェを惨殺しようとする「ボク」。

生体ロケット弾をマルシェに向けて発射しようとした「ボク」だったが、激痛に襲われ意識を失ってしまう。
ガン細胞から抽出されたC3細胞の浸食を遅らせるために、精神と肉体の活動レベルを最低ラインに抑えていた里沙が、マルシェの危機を救うために、精神のロックを解除したのだ。
里沙が2年間戦い続けてきたC3細胞の生育に伴う激痛を疑似体験させられて、脳がシャットアウトしてしまう「ボク」。

薄れゆく意識の中で「ボク」は最後の思念を「オバサン」に送った。 …ボクたちはやっぱり地を這う虫だった

窮地を里沙に救われたマルシェが呟いた。 「里沙ちゃんが私のことを守っていてくれたんだ…」


第??話 「Wingspan の世界:闇の翼」


マルシェは倒れ伏した「ボク」から少し離れた場所で里沙の火傷の手当をしていた。
逃亡の旅に携えていた医療品を広げている。
危機を脱したというのにその顔に笑いはなかった。
2メートルを越える「ボク」の体は時折ビクッと震え、口からは泡を噴いている。

―あれは私のやったこと。
自分の研究が転用されたC3細胞の猛威に心を痛めるマルシェ。
そんな彼女も腕に深手の傷を負っていた。

愛は医療品の中から三角巾を取り出してマルシェの腕を手当しようとしたが、変な結び方をして捻れてしまう。

ああっ、もうと苛立つ愛を見てようやくマルシェの顔に笑みが浮かぶ。
少しずつ埋まっていく空白の時間。

  ★

愛の一撃で気を失っていた「オバサン」は目覚めていた。
自分の操る傀儡たちを一瞬で破壊した愛の早業に恐れをなし、身動き出来ないでいる。

虫だ。 あたしは泥の中を蠢く虫だ。
大切な相棒。 異世界で巡り会ったパートナーを倒した相手がすぐ近くに居るのに体がすくんで動くことが出来ない。
息をするのさえ脅えてる哀れな虫だ。
頑強な人形たちを一瞬で破壊するだけの力を持つ高橋愛が、あたしの命を取らずにいたことに安堵してる。
やつらがこのままあたしのことを見逃してくれることを願ってる。
もしもやつらがそうしろと言うなら、靴の裏でさえ喜んで舐める。命乞いをして生き延びようと思っている。
プライドなんか1グラムも持ち合わせていない惨めな虫。
翼を求めた相棒はいま大地に倒れ伏し、死んだように動かない。

「オバサン」は「ボク」の本名を知らないし、自分の本名も教えていない。
「ボク」は自分のことを「ボク」と言い、「オバサン」のことをオバサンと呼ぶ。
「オバサン」は自分のことをあたしと言い、「ボク」のことをあんたと呼ぶ。

「オバサン」も「ボク」も元々は別々の世界で生きてきた。
何者かに導かれたマルシェや里沙が生きるこの世界で二人は出会った。
「オバサン」と初めて出会ったとき、「ボク」はカワイイ女の子の姿をしていた。

「オバサン」は元居た世界では汚い仕事を請け負って得た報酬で生きてきた。
ある日「オバサン」は若い女、喫茶店に住み込みで働いている二十歳前後の女の身柄を抑えるという依頼を請け負った。

「オバサン」は、女がよく一人で夜歩きをするという通りで網を張ることにした。
依頼主から渡されたデータによれば女は「五十人殺し」の異名を持つ喧嘩家だという。

そんな女を取り逃がさないようにするために、「オバサン」は能力の上限である三十体の傀儡人形を用意した。
万全の布陣を敷いた「オバサン」は、哀れな犠牲者がやってくるのを待ちながら夜空を見上げた。
薄汚れた血痕のように醜い貌を晒す月の妖しさに心を奪われた「オバサン」が我を取り戻した時、そこは知らない世界だった。

通りの繋がりや大まかな地形は、「オバサン」が若い女を待ち伏せしていた場所と殆ど変わらない。
だが詳細な部分、建物の大きさや形、閉まっているシャッターに描かれた落書きに見覚えのないものが混じっている。
自分が異常な事態の真っ只中にいることを悟った「オバサン」は、仕事を放棄して自分の雇い主の元に駆けつけることにした。

雇い主である寺田という胡散臭い中年男のことが心配になったわけではない。
日本ESP協会というふざけた看板を隠れ蓑に裏の仕事を斡旋している寺田なら、何か情報を持っているかもしれないと思ったからだ。

人形の部隊を散開させて目的の場所まで移動しながら「オバサン」は辟易していた。
空気が肌をチクチクと刺してくるのだ。
冷気とは様相が異なる、まるで世界が自分に対する拒絶反応を起こしているように思えてならなかった。

日本ESP協会の入居している薄汚い雑居ビルのあった場所にやってきた「オバサン」は眉を顰めた。
そこには見覚えのない近代的なビルが建っていた。
地震が来たらたちまち倒れそうだったオンボロビルとは明らかに違う堅固な造りのビル。
その出入り口に鮮やかに両断された警備員の死骸が転がっているのを見て「オバサン」は決めた。
何が起こっているのかを確かめてやると。

「あんた一体何者だい。 死んでいる警備員達はみんなあんたがやったことなのかい」

普通のビルとは思えないぐらい多くの隔壁で区分された通路を経てたどり着いた一室に「ボク」はいた。
一瞬男と見紛うたぐらい色気のない服装をしていたが、カワイイ顔立ちや、機器を操作してる華奢な指先が、女だということを物語っていた。

「警備員? オバサンは頭が悪いのかな。 」

「な、誰がオバサンだい。 あたしはまだね…」

「ボクからしたらオバサンだけどね。 それよりあいつらは警備員なんかじゃないよ。 装備を見なかったの」

生意気な若い女の言うとおり、ビルの中に転がっていた警備員たちの死骸が身につけていた装備は、プロテクターといい金属製のリングを先端に装着した警棒といい、ビルの警備員にしては物々しすぎた。 そしてその数も。

「外見は普通のビルを装ってるけど、中は要塞なみに頑丈な造り。五十じゃきかない数の物騒な装備をした警備員の死体。 
このビルの中の連中が一体何をしていたのかも気にかかるところだけど、わたしが今気になるのはあんたのことさ」

数十人の人間が無惨な死に様を晒している同じビルの中で平然としている女の素性を問いただそうとするオバサンに対して女は…。

「そんなことを知ってどうするつもり? 知ったところでオバサンも外の警備員みたくなるのに」

「そいつはどうかね」

ビル内の人間を惨殺したのは間違いなく目の前にいる女だ。 そして今度は自分を狙ってくる。
確信を持った「オバサン」は室外に待機させていた人形の中の精鋭2体を女に差し向けようとする。

「いい年こいてお人形遊びなんてみっともないよ、オ・バ・サ・ン」

こっちの意図が読まれてる。
だけど普通の人間じゃないってことは織り込み済み。
後は傀儡たちで力押しするのみ。

「マスター・オブ・パペット!! この女を抹殺しろ」

「オバサン」の命令に従って戦闘態勢に入る人形たち。

仮初めの命を得た傀儡人形が一糸乱れず、自分に襲いかかろうとしている状況になっても、若い女は落ち着いていた。

「お人形さんってことはやっつけてもやっつけてもきりがないってことだよね。 だったらオバサンを消すしかないか」

耳の辺りに手をやると少し大きなピアスに触れた。 ピアスは輝きを発し、小さな起動音を発する。
起動音は女の身体全体に呼応する。

羽ばたこうとする鳥のように腕を上げると、女の身体が変わりだした。
筋肉が隆起し、骨格は音を立てて変形し、皮膚が膨張していく。

「お、お前は…」

思わず言葉を失ったオバサンの心に、若い女の声が直接響く。

「どうかな、この機能的な身体。 美しいと思わない」

ゴリラ、熊、バイソン。
異なる獣の肉体が普通ならあり得ない形で融合した合成獣の姿がそこにあった。

こんな獣が相手なら、ビルを守っていた男たちだってひとたまりもない。
それにしても、この怪物、何て醜悪で、何て凶悪で、何て…。

「素敵」

『ちょっ、オバサン。 人の身体勝手に触んなっつー』

「いいじゃないか、減るものじゃなし」

元々人形の造形美に傾倒していた「オバサン」は、異なる肉体のフォルムが織りなす造形美に目の色を変えた。

「それにしても惚れ惚れするぐらいにイカした身体じゃないか。 ゴリラと熊の身体の継ぎ目に頬ずりしてもいいかい」

『言う前からしてるし、ってここは怖がるところじゃね、普通。 異形の怪物に恐れおののき、逃げまどう女っていうのが定番だろうがねって、おい! 写メ撮るな!!』

「オバサン」の毒気に当てられて調子が狂った女はうんざりしたように言った。

『あんた、ほんど変わってるよ』

暫時後、若い女と「オバサン」は殺し合いを止め、話し合っていた。
女は獣の身体から人間の身体へと戻っていた。
話してみれば自分のことを「ボク」という若い女も「オバサン」と同じように裏の仕事に手を染めて生きてきた人間だった。

「ボクは動物保護の団体と契約してたんだけどね。 生まれながらの獣人を保護するのが目的だとなんだとか。まあ保護っていっても指定された獣人を捕まえるのが仕事だったんだけどね、生死を問わず」

「ボク」も「オバサン」と同じように仕事の為に出た先で赤い月の異変に出会い、現在いるこの世界に迷い込んでいたという。

「弱ったよ。 標的の中国人の女の子は見失っちゃうし。 仕方ないから近くにいた人間を捕まえて色々聞いてみても、要領を得ないし」

契約していた組織なら情報を握っているのではないかと駆けつけてみたら、組織の入ってたビルが姿を消していて、違うビルが建っていたと言う。

「だから、とりあえず中に入って確かめてやれと思ったら、ごらんの通りのイカついオジさんたちが襲ってきたから、仕方なく・・」

キメイラ化して降りかかる火の粉を振り払い、コンピュータの使える部屋までたどり着いたという。

「火の粉を振り払うねえ」

要塞のようなビルの中で息絶えていた者達の亡骸を見れば、「ボク」はまるで花火に打ち興じるように人間の命を奪ってきたことがわかる。
「ボク」が生業としてきた動物保護の仕事だって生死を問わないというならば、確実に対象の命を奪ってきただろう。
ただそれは「オバサン」も同じだった。

「ボク」の話の中で「オバサン」が気になったのは、ボクの目的地だったビルが姿を消して、今二人が話しているビルに姿を変えているということだった。
もしやと思って「ボク」の言ってるビルと自分の捜していたビルの名前や概要を照らし合わせても、同じ建物だとは思えないほどの差違が存在するらしい。
元号、歴代の首相、流行歌、歴史上の大事件についても思いつく限り挙げて比べてみる。
二人とも全てをそらんじれるほどの頭脳を持っているわけではないが、微妙な違いのあることは判った。
その意味するところは。

「どうやらあたしたちは元々違う世界にいたのが、何らかの力によって今存在する世界に召喚されたってことなのかねえ」

「オバサン」が慎重に言葉を選ぶ。

「召喚って何かポケモンみたいじゃん」

「ボク」の屈託無げな様子は変わらない。

「でまあこのビルの中で一体何が行われてたのかについてなんだけどさ」

先刻からいじっていたコンピュータから何か情報を得たらしい「ボク」が思わせぶりに話し始める。
「ボク」によれば、このビルの中にいたのは能力者を尖兵とするある種の反社会的な組織らしい。

「笑っちゃうよね。 ダークネスなんてセンスのない名前」

二人が欲しかった情報―二人が異界に迷い込んだ原因、元いた世界に戻ることの可否―は得られなかった。
しかし要塞ビルを根拠にしていたダークネスという集団についての情報は手に入れたらしい。


始まりは一人の能力者だった。
天使と呼ばれた少女。
彼女の近くにいた少女の予知能力者としての覚醒。
最初の頃は文部省の役人がお座なりの実験と調査を実施してお茶を濁していた。
しかし上がってくるデータの尋常でないことに気付いた一人の人間が、各省庁から横断的に人材を集め天使と呼ばれた能力者を徹底的に調べ尽くした。
やがて警察庁から派遣され少女たちの護衛に当たっていた女性にまで能力の萌芽が見受けられた時、一つの機関が設けられた。
Mというコードネームが付けられた機関の当初の目的は純然たる研究だった。
しかし天使の覚醒と呼応するように急増した能力者による兇悪犯罪に対応する為に舵が切られた。
能力者で編制された特殊部隊Mの編成。
Mの中核となったのは、“天使”安倍なつみ、“女神”飯田圭織だった。
能力者としては高レベルであっても、只の少女に過ぎない彼女たちをリードしたのが、警察庁から志願してMに出向していたキャリア官僚中澤裕子だった。
能力の実用、能力者の実戦投入は眠っていた悪龍を目覚めさせた。
旧軍時代から暗部で進められてきた伊号計画。
能力者の軍事利用。
人為的な能力者の創造。
国民を人間として認識せず、消耗資材として捉えていた悪しき時代の遺物。
脈々と続けられてきた悪魔の研究は、膨大な被害を最後に停止した。
後に残った責任の回避に汲々としていた人間にとって、Mの創設は福音だった。
プロジェクト“i”として甦った伊号計画と結びついた時、光を帯びていたMに闇が射し始めた。
Mの主導権争い。 派生する権益の確保。
世界を救うという大義が見失われかけた時点で中澤が策動を始めた。
情報網の分断、枢軸に立つ者の暗殺、脅迫、精神掌握。
この世界の不幸や不平等、不条理の存在を知りながら、何も為そうとしない大多数の人間を覚醒させる為に世界を闇で覆う。
Mがダークネスに変質した時、その足元には屍が累々と横たわっていた。


自分の能力を自分以外の何かの為に使ったこともなければ使う意思もない「オバサン」にとっては、世界を救うというMの大義などどうでもよかった。
世界を変えるという正義を抱くダークネスの存在もどうでもいいことだった。
しかし「ボク」は暗い感情を抱いたようだった。

「コイツら、気に喰わない」

「でもまあこのビルの中にいたダークネスの連中はあんたが皆殺しにしたんだろ」

我ながらオバサンっぽいと思いながら、「ボク」をなだめるように話す「オバサン」だったが、「ボク」の舌鋒は衰えることを知らなかった。

「あいつらは能力者でも何でもない只の人間さ。 只の人間のくせして世界を闇で覆うとかそんな思想に取り憑かれちゃったバカな奴らさ」

「じゃあ天使とか女神とか呼ばれてる能力者たちは一体何処に」

行ったんだという「オバサン」の質問に「ボク」は首を捻った。

「わからない。 ただ一つだけ言えるのはどうやらこの世界に迷い込んだのはボクたちだけじゃないみたいだね」

「ボク」が操作した端末の画面に禍々しい姿が映し出された。
自動制御された戦闘ロボット部隊、耐性が異常に強い障壁を帯びたモンスター。

「そして、ボクたち。 ダークネスの皆さんはそんな異界からの侵入者から世界を守る為に何処かで戦ってるんじゃないかな。 それとももう死んじゃったのかも」

いつの間にか「ボク」の顔に何とも言えない笑みが浮かんでいる。

「ねえ、オバサン」

「だからわたしはオバサンじゃないって」

「オバサン」の苦情を黙殺した「ボク」はある申し入れをした。

「オバサンこの世界にいたってどうせやることがないんだろう。だったらボクと組んでこいつらを狩らないかい」

「狩るって? 一体何のことなんだい」

「Mの流れを汲む能力者たち。 世界を救うとか世界を変えるとかご大層なことを抜かすダークネスやリゾナンターの奴らを捜し出して、息の根を止めてやろうって言ってるのさ」



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